単連結多様体の閉超曲面の分離(separation by closed hypersurfaces)とは、連結な多様体 $N$ で $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$(たとえば単連結)のとき、境界をもたない空でない閉部分多様体 $M$ で余次元 $1$ のものは必ず $N$ を分けるという定理である。補集合には、$M$ を横切るたびに値が入れ替わる $\mathbb{Z}/2$ 値の関数がある。$M$ が連結なら補集合はちょうど 2 成分で、$M$ の法束は自明、$M$ は向き付け可能である。系として、向き付け不可能なコンパクトで境界をもたない多様体は単連結な多様体に余次元 $1$ では埋め込めない。
単連結多様体の閉超曲面の分離(separation by closed hypersurfaces)とは、単連結な多様体 $N$ の中の、境界をもたない空でない閉部分多様体 $M$ で余次元 $1$ のもの(閉超曲面)は、必ず $N$ を 2 つ以上の部分に分けるという定理である。より正確には、$N$ が連結で $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ でありさえすれば、$N\setminus M$ の点に $0$ と $1$ を割り振り、$M$ を横切るたびに値が入れ替わるようにできる。$M$ が連結なら、補集合はちょうど 2 つの成分に分かれ、$M$ は両方の境界になり、$M$ の法束は自明で、$M$ は向き付け可能である。
この定理から、向き付け不可能な閉多様体は単連結な多様体に余次元 $1$ では埋め込めないことが従う。たとえば実射影平面 $\mathbb{RP}^2$ や Klein の壺は $\mathbb{R}^3$ に埋め込めない。また $\mathbb{R}^{n+1}$($n\ge1$)のコンパクトな超曲面は、ただ 1 つのコンパクトな領域を囲む。
Jordan曲線定理 の記事の Jordan–Brouwer の分離定理は球面の中の「球面と同相な集合」を扱うが、この記事の定理は、超曲面に滑らかさを課すかわりに、超曲面の形を問わず、外側の空間も $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ を満たす多様体であればよい。証明では、超曲面を横切ると値が入れ替わる関数の局所的な選び方を 2 重被覆にまとめ、$H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ からその被覆が自明であることを導く。
この記事では、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な境界のない $C^\infty$ 級多様体(可微分多様体)とし、「滑らか」は $C^\infty$ 級を指す。$N$ を $n+1$ 次元の多様体とする($n\ge0$)。$\mathbb{R}^{n+1}$ の座標を $y=(y^1,\dots,y^{n+1})$ と書き、$D_r:=\{y\in\mathbb{R}^{n+1}\mid\lvert y\rvert< r\}$ とおく。$\mathbb{Z}/2=\{0,1\}$ には離散位相を入れる。
$N$ の部分集合 $M$ が $N$ の閉超曲面であるとは、$M$ が $N$ の $n$ 次元の部分多様体(余次元 $1$、部分多様体 の定義「部分多様体」の意味)であり、かつ $N$ の閉集合であることをいう。$N\setminus M$ が連結でないとき、$M$ は $N$ を分ける(separate)という。
部分多様体は境界をもたない多様体なので、閉超曲面は「境界をもたない閉部分多様体」である。$M$ は連結でなくてもよく、コンパクトでなくてもよい。たとえば $\mathbb{R}^{n+1}$ の超平面、球面 $S^n\subset\mathbb{R}^{n+1}$、半径の違う 2 つの同心球面の和はどれも閉超曲面である。
$M\subset N$ を閉超曲面、$m\in M$ とする。$N$ の開集合 $B\ni m$ と微分同相写像 $\varphi\colon B\to D_r$($r>0$)の組で、
$$
\varphi(m)=0,\qquad \varphi(B\cap M)=D_r\cap\{y^{n+1}=0\}
$$
を満たすものを、$m$ における $M$ に沿う座標球という。このとき
$$
B^+:=\varphi^{-1}\bigl(D_r\cap\{y^{n+1}>0\}\bigr),\qquad B^-:=\varphi^{-1}\bigl(D_r\cap\{y^{n+1}<0\}\bigr)
$$
を $B$ の 2 つの半分という。
$M$ の各点には $M$ に沿う座標球がある。$m$ のまわりのスライス座標(部分多様体 の定義「部分多様体」)を、最後の成分が $M$ の定義になるように番号を付け替え、$\varphi(m)$ が原点に来るように平行移動して(超平面 $\{y^{n+1}=0\}$ は保たれる)、原点を中心とする小さな球に制限すればよい。同じ理由で、座標球 $(B,\varphi)$ と点 $m'\in B\cap M$ について、$\varphi(m')$ を中心とする十分小さな球の逆像は、平行移動した $\varphi$ により $m'$ における $M$ に沿う座標球になり、その半分は $B^+$、$B^-$ に含まれる。このように作った座標球を $B$ の中の小さな座標球と呼ぶ。
$B\setminus M=B^+\sqcup B^-$ であり、$B^\pm$ は凸集合の像なので連結な開集合である。$n=0$ のとき $D_r$ は開区間で、$B^\pm$ は $m$ の左右の区間である。
$(B,\varphi)$ を $m\in M$ における $M$ に沿う座標球、$(B',\varphi')$ を $m'\in M$ における $M$ に沿う座標球とし、$B'\subset B$ とする。このとき $B'^+$、$B'^-$ はそれぞれ $B^+$ か $B^-$ の一方に含まれ、しかも含まれる先は異なる。
要点:$B'$ は $m'$ の両側の点を含むので、$B'\setminus M$ は $B^+$ とも $B^-$ とも交わる。
$B'^\pm$ は $B\setminus M=B^+\sqcup B^-$ の連結な部分集合で、$B^+$、$B^-$ は交わらない開集合なので、それぞれ一方に含まれる。$m'\in B\cap M$ なので $\varphi(m')=(u,0)$ と書ける。$B'$ は $m'$ の開近傍なので、十分小さい $s>0$ について $\varphi^{-1}(u,s)$ と $\varphi^{-1}(u,-s)$ はともに $B'$ に入り、$M$ には入らない。前者は $B^+$、後者は $B^-$ の点である。よって $B'\setminus M=B'^+\cup B'^-$ は $B^+$ とも $B^-$ とも交わり、$B'^+$ と $B'^-$ が同じ半分に含まれることはない。$\square$
$M\subset N$ を閉超曲面、$U\subset N$ を開集合とする。局所定数な関数 $f\colon U\setminus M\to\mathbb{Z}/2$ が $U$ 上の跳び関数であるとは、各点 $m\in M\cap U$ に、$m$ における $M$ に沿う座標球 $B\subset U$ で $f(B^+)\neq f(B^-)$ となるものがあることをいう($f$ は連結な $B^\pm$ の上で定数なので、$f(B^\pm)$ は 1 つの値である)。$U$ 上の跳び関数の全体を $\mathcal{J}(U)$ と書く。
跳び関数は「$M$ を横切るたびに値が $0$ と $1$ の間で入れ替わる関数」である。$U\cap M=\emptyset$ なら、跳び関数は $U$ 上の局所定数な関数そのものである。$f$ が跳び関数なら $f+1$ も跳び関数である。
$M\subset N$ を閉超曲面とする。
要点:どの性質も、2 つの座標球の共通部分に小さな座標球をとって lem-sep-halves を 2 回使えば確かめられる。
1:$B'$ を $m'\in M\cap U$ における座標球とし、定義の座標球 $B\subset U$($m'$ における、$f(B^+)\ne f(B^-)$)をとる。$B$ の中の小さな座標球 $B''$ を $B''\subset B'$ となるようにとる($B'$ は $m'$ の開近傍である)。lem-sep-halves を $B''\subset B$ に使うと $B''^\pm$ は $B$ の異なる半分に入るので、$f(B''^+)\neq f(B''^-)$ である。同じ補題を $B''\subset B'$ に使うと $B''^\pm$ は $B'$ の異なる半分に入るので、$f(B'^+)$ と $f(B'^-)$ は $f(B''^+)$ と $f(B''^-)$ を順序を除いて並べたものであり、異なる。後半は、$m\in M\cap V$ における座標球 $B\subset U$ の中の小さな座標球を $V$ に入るようにとれば、前半により値が異なる。
2:定義の条件は各点 $m$ の近くだけで決まる($m\in U_\lambda$ なら $U_\lambda$ に含まれる座標球が条件を満たす)。局所定数性も局所的な条件である。
3:$f\in\mathcal{J}(B)$ は $B\setminus M=B^+\sqcup B^-$ の上で局所定数なので各半分で定数であり、1 により $f(B^+)\neq f(B^-)$ である。逆に $f_B$ は局所定数で、$m'\in B\cap M$ では $B$ の中の小さな座標球の半分が $B^+$ と $B^-$ に入るので条件を満たす。$W$ については、$W\cap M=\emptyset$ なので跳び関数は連結な $W$ 上の局所定数関数、すなわち定数である。
4:$h:=f+g$ とおく。$m\in M\cap U$ と $U$ に含まれる座標球 $B$ について、1 により $f$ と $g$ はどちらも $B^+$ と $B^-$ で値が入れ替わるので、$h(B^+)=h(B^-)$ である。この共通の値を $h(m)$ と定めると、$m$ における 2 つの座標球は共通の小さな座標球を含むので、$h(m)$ は座標球によらない。$B\cap M$ の各点 $m'$ では、$B$ の中の小さな座標球の半分が $B^\pm$ に入るので $h(m')$ は同じ値である。よって延長した $h$ は各座標球の上で定数であり、$U$ 上で局所定数である。$\square$
跳び関数の局所的な選び方は、各点でちょうど 2 通りある(lem-sep-jump-local の 3)。この 2 通りを点ごとに集めると $N$ の 2 重被覆ができ、その連続な切断が $N$ 全体の跳び関数になる。
$M\subset N$ を閉超曲面とする。2 重被覆 $p\colon\widetilde N\to N$ で、その連続な切断 $s\colon N\to\widetilde N$($p\circ s=\mathrm{id}_N$)の全体が $\mathcal{J}(N)$ と 1 対 1 に対応するものが存在する。
要点:$M$ に沿う座標球と $N\setminus M$ の連結な開集合を基本の開集合とすると、基本の開集合の上の跳び関数はちょうど 2 つで、制限は全単射である。そこで各点での跳び関数の芽を集めた空間を作ればよい。
$M$ に沿う座標球と、$N\setminus M$ に含まれる連結な開集合を基本の開集合と呼ぶ。基本の開集合は $N$ の位相の基をなし、点 $x$ を含む 2 つの基本の開集合の共通部分は $x$ を含む基本の開集合を含む($x\in M$ なら小さな座標球、$x\notin M$ なら $N\setminus M$ の中の座標近傍の小さな球)。lem-sep-jump-local の 3 により、基本の開集合 $U$ について $\mathcal{J}(U)$ はちょうど 2 元で、2 元は空でないどの開集合の上でも値が異なる。したがって基本の開集合 $U'\subset U$ について制限 $\mathcal{J}(U)\to\mathcal{J}(U')$(lem-sep-jump-local の 1)は単射、よって全単射である。
点 $x$ について、$x$ を含む基本の開集合 $U$ と $f\in\mathcal{J}(U)$ の組を、$x$ を含むある基本の開集合の上で一致するとき同値とし、同値類を $f$ の $x$ での芽 $[f]_x$、芽の全体を $\mathcal{J}_x$ とする。上のことから、$x$ を含むどの基本の開集合 $U$ についても $\mathcal{J}(U)\to\mathcal{J}_x$ は全単射で、$\mathcal{J}_x$ は 2 元である。$\widetilde N:=\bigsqcup_{x\in N}\mathcal{J}_x$、$p([f]_x):=x$ とし、基本の開集合 $U$ と $f\in\mathcal{J}(U)$ について $\langle U,f\rangle:=\{[f]_x\mid x\in U\}$ とおく。$[f]_x=[g]_x$ が $\langle U,f\rangle\cap\langle U',g\rangle$ の点なら、$x$ を含む基本の開集合 $U''\subset U\cap U'$ の上で $f=g$ であり、$\langle U'',f|_{U''}\rangle$ はその点を含み共通部分に含まれる。よって $\langle U,f\rangle$ の全体は $\widetilde N$ の位相の基をなす。
基本の開集合 $U$ について、$p^{-1}(U)=\langle U,f_U\rangle\sqcup\langle U,f_U+1\rangle$($\mathcal{J}(U)=\{f_U,f_U+1\}$)であり、$p$ は各 $\langle U,f\rangle$ から $U$ への全単射である。この全単射は、基の開集合 $\langle U'',f|_{U''}\rangle$ を開集合 $U''$ に写し、$U$ の基本の開集合 $U''$ の逆像は $\langle U'',f|_{U''}\rangle$ なので、同相写像である。よって $p$ は 2 重被覆である。
$f\in\mathcal{J}(N)$ に対し $s_f(x):=[f|_U]_x$($U$ は $x$ を含む基本の開集合)は連続な切断である($s_f^{-1}\langle U,g\rangle$ は $f|_U=g$ となる部分であり開集合)。逆に連続な切断 $s$ があれば、$x\notin M$ について $s(x)$ は $x$ の近くの局所定数関数の芽なので、その $x$ での値 $f(x)$ が決まる。各点 $x$ で $s(x)\in\langle U,g\rangle$ となる基本の開集合 $U$ と $g$ をとり、$x$ を含む基本の開集合 $U''\subset U\cap s^{-1}\langle U,g\rangle$ をとると、$U''\setminus M$ の上で $f=g$ である。よって $f$ の各 $U''$ への制限は跳び関数で、lem-sep-jump-local の 2 により $f\in\mathcal{J}(N)$ である。2 つの対応は互いに逆である。$\square$
$N$ を連結な多様体とし、$H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ とする。
要点:普遍係数定理と Hurewicz の定理により $H^1(N;\mathbb{Z}/2)\cong\operatorname{Hom}(\pi_1(N),\mathbb{Z}/2)$ であり、連結な 2 重被覆は指数 $2$ の部分群を与えるので、2 重被覆は連結でない。連結でない 2 重被覆からは、一方の開集合とファイバーの交わりを選べば切断が得られる。
1:$N$ は連結な多様体なので弧状連結である。普遍係数定理 の定理「コホモロジーの普遍係数定理」を特異鎖複体に $n=1$ で使うと、$H_0(N;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ は自由なので $\operatorname{Ext}(H_0(N),\mathbb{Z}/2)=0$ であり(同記事の命題「Ext の計算」)、$H^1(N;\mathbb{Z}/2)\cong\operatorname{Hom}(H_1(N;\mathbb{Z}),\mathbb{Z}/2)$ である。Hurewiczの定理 の定理「1 次元の Hurewicz の定理」により $H_1(N;\mathbb{Z})$ は $\pi_1(N)$ の可換化なので、これは $\operatorname{Hom}(\pi_1(N),\mathbb{Z}/2)$ に等しい。$\pi_1(N)$ に指数 $2$ の部分群 $H$ があれば、$H$ は正規部分群で、商写像 $\pi_1(N)\to\pi_1(N)/H\cong\mathbb{Z}/2$ は $0$ でない準同型になる。よって $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ なら指数 $2$ の部分群はない。
2:$E$ は $N$ と局所的に同相なので局所弧状連結であり、連結なら弧状連結である。$E$ が連結なら、被覆空間 の定理「基本群との関係」の 2 により $p_*\pi_1(E)$ は $\pi_1(N)$ の指数 $2$ の部分群になり、1 に反する。よって $E$ は交わらない空でない開集合 $A$、$A'$ の和である。$x\in N$ に $k(x):=\lvert p^{-1}(x)\cap A\rvert\in\{0,1,2\}$ を対応させる。$x$ の連結な均一被覆近傍 $V$ の上では、2 枚のシートはそれぞれ $V$ と同相で連結なので $A$ か $A'$ の一方に含まれ、$k$ は $V$ 上で定数である。$N$ は連結なので $k$ は定数で、$A$、$A'$ が空でないから $k\equiv1$ である。$s(x):=(p^{-1}(x)\cap A\text{ の唯一の点})$ は、各 $V$ の上で $A$ に含まれるシートへの $p$ の逆写像に一致するので、連続な切断である。$\square$
$N$ が単連結なら、$H_1(N;\mathbb{Z})=0$ なので上の計算により $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ である。$\pi_1(N)$ が奇数位数の有限群の場合も同じである。
$N$ を連結な $n+1$ 次元の多様体で $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ となるもの(たとえば単連結な多様体)とし、$M\subset N$ を空でない閉超曲面とする($M$ は連結でなくてもよい)。
lem-sep-cover の 2 重被覆に lem-sep-section の 2 を使うと連続な切断が得られ、それに対応する跳び関数 $f\in\mathcal{J}(N)$ がある。$g\in\mathcal{J}(N)$ を別の跳び関数とすると、lem-sep-jump-local の 4 により $f+g$ は $N$ 上の局所定数な関数に延長され、$N$ は連結なのでそれは定数である。よって $g=f$ か $g=f+1$ である。
$f$ は $N\setminus M$ の上で局所定数なので、$N_0$、$N_1$ は $N\setminus M$ の交わらない開集合で、和は $N\setminus M$ である。$M$ に沿う座標球 $B$ について $f(B^+)\neq f(B^-)$(lem-sep-jump-local の 1)なので、一方の半分は $N_0$ に、他方は $N_1$ に含まれる。$M$ は空でないので座標球が少なくとも 1 つあり、$N_0$、$N_1$ はともに空でない。よって $N\setminus M$ は連結でない。$\square$
$N_0$ と $N_1$ はそれぞれ連結とは限らない。$M$ が 2 つ以上の連結成分をもつと、補集合の成分は $2$ 個より多くなりうる(ex-sep-spheres)。定理が述べるのは、補集合の成分に $0$ と $1$ の「色」を、$M$ を挟んで隣り合う成分が違う色になるように塗れること、そしてその塗り方が色の入れ替えを除いて一通りであることである。
$M$ が連結で $N$ が単連結な場合は Hir76 Ch. 4 Theorem 4.6(p. 107)にあり、そこでは端点を固定した道を $M$ に横断的にとり、交点の個数の偶奇がホモトピーで変わらないことから証明している。この記事の証明は横断性や近似を使わず、$\pi_1(N)$ の条件も指数 $2$ の部分群がないことまで弱めている。
$M$ が連結なら、$M$ が $N$ を分けるかどうかだけで、補集合の形と法束が決まる。この節の定理は $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ を仮定しない。
$N$ を連結な $n+1$ 次元の多様体、$M\subset N$ を空でない連結な閉超曲面とし、$M$ は $N$ を分けるとする。
1. $N\setminus M$ は多様体の開集合なので局所連結であり、連結成分は $N$ の開集合である。成分 $A$ について $P(A):=\overline A\cap M$ とおく。$P(A)$ は $M$ の閉集合である。$m\in P(A)$ と $m$ における座標球 $B$ をとると、$B$ は $A$ と交わるので、$A$ は $B^+$ か $B^-$ と交わり、連結な半分は成分 $A$ に含まれる。半分の閉包は $B\cap M$ を含むので($\varphi^{-1}(u,\pm s)\to\varphi^{-1}(u,0)$)、$B\cap M\subset P(A)$ であり、$P(A)$ は $M$ の開集合でもある。$P(A)=\emptyset$ なら、$A$ は $N\setminus M$ の閉集合でもあるので $\overline A\cap(N\setminus M)=A$ から $\overline A=A$ となり、$A$ は $N$ の空でない開かつ閉な集合で $A=N$ となって $M\neq\emptyset$ に反する。$M$ は連結なので $P(A)=M$ である。
$m\in M$ と座標球 $B$ を 1 つ固定すると、各成分 $A$ は $m\in\overline A$ なので $B$ と交わり、$B^+$ か $B^-$ を含む。異なる成分は交わらないので、成分は高々 2 つである。$M$ は $N$ を分けるので、成分はちょうど 2 つ $A_1$、$A_2$ であり、どの座標球でも両方が半分を 1 つずつ含む。
2. 1 の議論から $M\subset\overline{A_1}$ であり、$A_2$ は $A_1$ と交わらない開集合なので $\overline{A_1}\cap A_2=\emptyset$ である。よって $\overline{A_1}=A_1\cup M$ で、$A_1$ は開集合なので境界は $\overline{A_1}\setminus A_1=M$ である。$m\in M$ における座標球 $(B,\varphi)$ を、必要なら $y^{n+1}$ の符号を変えて $B^+\subset A_1$ となるようにとると、
$$
\varphi\bigl(\overline{A_1}\cap B\bigr)=\varphi\bigl(B^+\cup(B\cap M)\bigr)=D_r\cap\{y^{n+1}\ge0\}
$$
は半空間 $\mathbb{H}^{n+1}$ の開集合で、$\varphi(m)\in\partial\mathbb{H}^{n+1}$ である。$A_1$ の点では、$A_1$ に含まれる $N$ の座標近傍をとる。座標変換は $N$ の座標変換の制限なので滑らかであり、$\overline{A_1}$ は Hausdorff かつ第 2 可算な $N$ の部分空間である。よって $\overline{A_1}$ は滑らかな境界付き多様体で、$M$ の点は境界の点、$A_1$ の点は内部の点である。境界付き多様体 の定理「内部の点と境界の点は交わらない」により $\partial\overline{A_1}=M$ である。$A_2$ も同じである。
3. $B^+\subset A_1$ となる座標球の座標ベクトル場 $\partial/\partial y^{n+1}$ を、$M$ の上の 1 の分割で貼り合わせる。鍵は、$T_mM$ に入らないベクトル $v$ について、$dy^{n+1}(v)$ の符号が $B^+\subset A_1$ となる座標球の選び方によらないこと($v$ が $A_1$ の側を指すかどうか)である。
$m\in M$ と $v\in T_mN\setminus T_mM$ をとる。$(B,\varphi)$、$(B',\varphi')$ を $m$ における座標球で $B^+\subset A_1$、$B'^+\subset A_1$ となるものとすると、$dy^{n+1}(v)$ と $dy'^{n+1}(v)$ は同じ符号である($y=\varphi$、$y'=\varphi'$ の成分)。実際、$T_mM=\ker dy^{n+1}_m=\ker dy'^{n+1}_m$(部分多様体 の定理「部分多様体の局所的な特徴づけ」の最後の主張を、定義関数 $y^{n+1}$、$y'^{n+1}$ に使う)なので両方とも $0$ でない。$dy^{n+1}(v)>0$ で $dy'^{n+1}(v)<0$ だったとすると、曲線 $c(s):=\varphi^{-1}(s\,d\varphi_m(v))$ は小さい $s>0$ で $B^+\subset A_1$ に入るが、$y'^{n+1}(c(s))$ は $s=0$ で $0$、微分が負なので、小さい $s>0$ で $c(s)\in B'^-\subset A_2$ となり矛盾する。
$M$ を座標球 $(B_k,\varphi_k)$($B_k^+\subset A_1$)で覆い、$M$ の開被覆 $(B_k\cap M)$ に従属する滑らかな 1 の分割 $(\rho_k)$ をとる(1の分割 の定理「滑らかな 1 の分割の存在」)。$\partial_k:=\partial/\partial y_k^{n+1}$ を $\varphi_k$ の座標ベクトル場とし、$X:=\sum_k\rho_k\,\partial_k|_M$ とおく。台が局所有限なので $X$ は滑らかである。$m\in M$ と $B^+\subset A_1$ となる座標球 $B$ をとると、$\rho_k(m)>0$ となる各 $k$ で、前段を $B$ と、$B_k$ の中の $m$ における小さな座標球(最後の座標は $y_k^{n+1}$ のままで、正の側の半分は $B_k^+\subset A_1$ に含まれる)に使えば、$dy^{n+1}(\partial_k(m))$ は $dy_k^{n+1}(\partial_k(m))=1$ と同じ符号、すなわち正なので、$dy^{n+1}(X(m))>0$ であり $X(m)\notin T_mM$ である。$X(m)$ の類 $[X(m)]\in\nu_m=T_mN/T_mM$ は $0$ にならない滑らかな切断で(滑らかさは 法束 の命題「法束はベクトル束」の局所自明化で確かめられる)、$M\times\mathbb{R}\to\nu_{M/N}$、$(m,c)\mapsto c[X(m)]$ は階数 $1$ のベクトル束の同型である。
$N$ を連結な多様体で $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ となるもの(たとえば単連結な多様体)、$M\subset N$ を空でない連結な閉超曲面とする。$N\setminus M$ はちょうど 2 つの連結成分をもち、それぞれの閉包は境界が $M$ の境界付き多様体である。$M$ の法束は自明で、$M$ は向き付け可能である。
thm-sep-main により $M$ は $N$ を分けるので、thm-sep-two-sides の 1–3 が成り立つ。lem-sep-section の 1 により $\pi_1(N)$ は指数 $2$ の部分群をもたないので、向き付け可能多様体 の定理「向きの 2 重被覆による判定」の 2 と命題「滑らかな向きと位相的な向きの一致」により $N$ は向き付け可能である。thm-sep-two-sides の 4 により $M$ は向き付け可能である。$\square$
$n\ge1$ とし、$P$ を向き付け不可能なコンパクトな $n$ 次元の多様体(境界をもたない)、$N$ を連結な $n+1$ 次元の多様体で $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ となるものとする。$P$ から $N$ への滑らかな埋め込みは存在しない。
埋め込み $e\colon P\to N$ があったとすると、像 $e(P)$ は $P$ と微分同相な $n$ 次元の部分多様体で(埋め込み(可微分多様体))、コンパクトなので Hausdorff な $N$ の閉集合である。$P$ の連結成分がすべて向き付け可能なら、成分ごとに向きを選べば $P$ は向き付け可能になるので、向き付け不可能な成分 $P_0$ がある。$P_0$ は $P$ の開かつ閉な部分集合なのでコンパクトであり、$e(P_0)$ は空でない連結な閉超曲面である。cor-sep-simply-connected により $e(P_0)$ は向き付け可能で、微分同相な $P_0$ も向き付け可能となり、矛盾する。$\square$
$j\ge1$ について、偶数次元の実射影空間 $\mathbb{RP}^{2j}$ は向き付け不可能である(向き付け可能多様体 の例「商として得られる多様体」の 2:対蹠写像が $S^{2j}$ の向きを反転する)。$\mathbb{R}^{2j+1}$ と $S^{2j+1}$ は単連結なので、cor-sep-nonembedding により $\mathbb{RP}^{2j}$ は $\mathbb{R}^{2j+1}$ にも $S^{2j+1}$ にも埋め込めない。とくに $\mathbb{RP}^2$ と Kleinの壺(向き付け不可能な閉曲面、同じ例の 5)は $\mathbb{R}^3$ に埋め込めない。
cor-sep-nonembedding はコンパクト性を使っている。開いた Möbius の帯は $\mathbb{R}^3$ に埋め込めるが、その像は $\mathbb{R}^3$ の閉集合ではない。
$M\subset N$ を閉超曲面とする。$N$ の閉集合 $W$ が $M$ を境界とする領域であるとは、$W\setminus M$ が $N$ の開集合で、各 $m\in M$ に、$m$ における $M$ に沿う座標球 $B$ で $W\cap B=B^+\cup(B\cap M)$ または $W\cap B=B^-\cup(B\cap M)$ となるものがあることをいう。
このような $W$ は、thm-sep-two-sides の 2 の証明と同じ座標近傍により、境界が $M$ の境界付き多様体になる。
$n\ge1$ とし、$M\subset\mathbb{R}^{n+1}$ を空でないコンパクトな閉超曲面とする(連結でなくてもよい)。$M$ を境界とするコンパクトな領域 $W\subset\mathbb{R}^{n+1}$ がただ 1 つ存在する。
要点:跳び関数 $f$ を、$M$ を含む大きな球の外($n+1\ge2$ なので連結)で $0$ になるように選び、$W:=M\cup f^{-1}(1)$ とする。別の領域の「内側で $1$」の関数も跳び関数なので、一意性により $f$ に一致する。
存在. thm-sep-main の跳び関数 $f$ をとる。$M$ を含む閉球 $D$ をとると、$\mathbb{R}^{n+1}\setminus D$ は $n+1\ge2$ なので連結で、$\mathbb{R}^{n+1}\setminus M$ に含まれるから $f$ はそこで定数である。必要なら $f$ を $f+1$ に取り替えて、$D$ の外で $f=0$ とする。$W:=M\cup f^{-1}(1)$ とおく。補集合 $f^{-1}(0)$ は $\mathbb{R}^{n+1}\setminus M$ の開集合で、$\mathbb{R}^{n+1}\setminus M$ は開集合なので、$W$ は閉集合である。$W\subset D$ なので $W$ はコンパクトである。$W\setminus M=f^{-1}(1)$ は開集合で、座標球 $B$ では $f$ の値が $B^+$ と $B^-$ で異なるので、$W\cap B$ は一方の半分と $B\cap M$ の和である。
一意性. $W'$ を $M$ を境界とするコンパクトな領域とし、$g\colon\mathbb{R}^{n+1}\setminus M\to\mathbb{Z}/2$ を $W'\setminus M$ の上で $1$、外で $0$ とする。$W'\setminus M$ と $\mathbb{R}^{n+1}\setminus W'$ は開集合なので $g$ は局所定数で、定義の座標球では $g$ の値が 2 つの半分で異なるから、$g$ は跳び関数である。thm-sep-main の 1 により $g=f$ か $g=f+1$ である。$D\cup W'$ を含む閉球の外では $f=g=0$ なので $g=f$、すなわち $W'\setminus M=W\setminus M$ であり、$W'=W$ である。$\square$
$M=S^n\subset\mathbb{R}^{n+1}$ なら $W$ は閉球 $\{\lvert y\rvert\le1\}$ である。$M=\{\lvert y\rvert=1\}\cup\{\lvert y\rvert=2\}$ なら、跳び関数は $\lvert y\rvert< 1$ で $0$、$1<\lvert y\rvert< 2$ で $1$、$\lvert y\rvert>2$ で $0$ と交互に変わり、$W=\{1\le\lvert y\rvert\le2\}$ である。補集合の成分は 3 つで、$N_0$ は連結でない 2 つの成分の和である。
$M=\{a_1< a_2<\cdots< a_k\}\subset\mathbb{R}$($k\ge1$)とする。$M$ を境界とするコンパクトな領域が存在するのは $k$ が偶数のときに限り、そのとき領域は $[a_1,a_2]\cup[a_3,a_4]\cup\cdots\cup[a_{k-1},a_k]$ ただ 1 つである。
要点:左端の区間で $0$ の跳び関数は、右端の区間で $k$ の偶奇に等しい。
$\mathbb{R}\setminus M$ の成分は $k+1$ 個の開区間で、跳び関数は $a_i$ を越えるたびに値が入れ替わる。$(-\infty,a_1)$ で $0$ となる跳び関数を $f$ とすると、$f$ は $(a_k,\infty)$ で $k$ を $2$ で割った余りに等しい。$W$ を $M$ を境界とするコンパクトな領域とし、prop-sep-euclidean の一意性の証明と同じ $g$ を作ると、$g$ は跳び関数で、$W$ は有界なので 2 つの非有界な区間で $0$ である。左端で一致するので $g=f$ であり、右端で $f=0$ から $k$ は偶数である。$k$ が偶数なら、上の閉区間の和は $f^{-1}(1)\cup M$ に等しく、条件を満たす。一意性は $g=f$ から従う。$\square$
$n=0$ では、$\mathbb{R}$ から閉区間を除いた集合が 2 つの成分をもつので、prop-sep-euclidean の証明で $f$ を両側で同時に $0$ にできるとは限らない。$k$ が奇数のときの $M$(たとえば $M=\{0\}$)は、コンパクトで境界をもたない $0$ 次元の閉超曲面だが、コンパクトな領域を囲まない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$($N$ が向き付け可能なだけ) | $\mathbb{RP}^{2j}\subset\mathbb{RP}^{2j+1}$($j\ge1$) | $M$ が $N$ を分けること、cor-sep-nonembedding の結論 |
| $H^1(N;\mathbb{Z}/2)=0$ | トーラス $T^2$ の子午線 | $M$ が $N$ を分けること |
| $M$ が閉集合 | $\mathbb{R}^2$ の中の、円周から 1 点を除いた曲線 | $M$ が $N$ を分けること |
| $M$ が境界をもたない | $\mathbb{R}^{n+1}$($n\ge1$)の閉じた半超平面 $\{y^{n+1}=0,\ y^1\ge0\}$ | $M$ が $N$ を分けること |
| $M$ が連結(thm-sep-two-sides) | $\mathbb{R}^2$ の中の平行な 2 直線 | 補集合の成分がちょうど 2 つ |
| $n\ge1$(prop-sep-euclidean) | $\mathbb{R}$ の中の奇数個の点 | コンパクトな領域の存在 |
| 余次元が $1$ | $S^3$ の中の円周 | 補集合が連結でないこと |
1 行目がいちばん重要である。$\mathbb{RP}^{2j}=\{[x_0:\cdots:x_{2j+1}]\mid x_{2j+1}=0\}$ は $\mathbb{RP}^{2j+1}$ の連結な閉超曲面である($x_i\neq0$、$i\le 2j$ の標準の座標近傍では座標超平面になる)。$\mathbb{RP}^{2j+1}$ は向き付け可能で $\mathbb{RP}^{2j}$ は向き付け不可能なので(向き付け可能多様体 の例「商として得られる多様体」の 2)、もし $\mathbb{RP}^{2j}$ が $\mathbb{RP}^{2j+1}$ を分けたなら thm-sep-two-sides の 4 に反する。よって分けない。満たす条件は「$N$ が連結で向き付け可能、$M$ が空でない連結な閉超曲面」、破る仮定は $H^1(\mathbb{RP}^{2j+1};\mathbb{Z}/2)=0$ である($\pi_1(\mathbb{RP}^{2j+1})\cong\mathbb{Z}/2$ で、lem-sep-section の 1 の計算により $H^1\cong\mathbb{Z}/2$)。cor-sep-nonembedding で $N$ を「向き付け可能」に弱めた主張も、この埋め込みにより成り立たない。
2 行目:子午線 $\{1\}\times S^1$ の補集合 $(S^1\setminus\{1\})\times S^1$ は弧状連結である(Jordan曲線定理 の例「反例:トーラスの子午線」)。$\pi_1(T^2)\cong\mathbb{Z}^2$ は指数 $2$ の部分群をもつので、lem-sep-section の 1 の計算により $H^1(T^2;\mathbb{Z}/2)\neq0$ である。
3 行目:単位円周 $S^1$ から点 $q$ を除いた $M$ は $S^1$ の開集合なので $\mathbb{R}^2$ の 1 次元の部分多様体だが、$q$ は $M$ の閉包に入るので閉集合でない。$\mathbb{R}^2\setminus M$ は開円板、円板の外側、点 $q$ の和で、線分 $\{tq\mid 0\le t\le 2\}$ は $M$ と交わらずに内側と外側を結ぶ。内側と外側はそれぞれ弧状連結なので、補集合は連結である。
4 行目:$M$ は境界 $\{y^{n+1}=y^1=0\}$ をもつ閉集合である。補集合の点 $p$ と $q:=(-1,0,\dots,0)$ を結ぶ線分上の点 $(1-t)p+tq$ は、$p^{n+1}\neq0$ なら $t< 1$ で第 $n+1$ 成分が $0$ でなく $t=1$ では $q\notin M$、$p^{n+1}=0$ なら $p^1< 0$ なので第 1 成分 $(1-t)p^1-t$ が負である。よって補集合は $q$ に関して星形で、連結である。
5 行目:$\{y^2=0\}\cup\{y^2=1\}$ の補集合は 3 つの帯 $\{y^2< 0\}$、$\{0< y^2< 1\}$、$\{y^2>1\}$ に分かれる。$H^1(\mathbb{R}^2;\mathbb{Z}/2)=0$ なので thm-sep-main は成り立ち、跳び関数は $0,1,0$ と変わる。
6 行目:ex-sep-points による。
7 行目:$S^3$ の中の円周の補集合は弧状連結である(Jordan曲線定理 の例「3 次元球面の中の円周」)。余次元が $2$ 以上なら、スライス座標の球から部分多様体を除いた集合は連結であり、横切ると値が入れ替わるという跳び関数の考え方がそもそも働かない。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する