Langleyの整数角の問題

同義語:Langleyの問題ラングレーの問題Langley's adventitious angles

概要

Langleyの整数角の問題(Langley's adventitious angles)とは、$\angle B=\angle C=80^\circ$ の二等辺三角形 $ABC$ で、辺 $CA$ 上に $\angle CBD=60^\circ$ となる点 $D$、辺 $AB$ 上に $\angle BCE=50^\circ$ となる点 $E$ をとったとき、$\angle BDE$ を求める問題である。答えはちょうど $30^\circ$ で、内角の和だけでは決まらない。$\angle CBG=20^\circ$ となる点 $G$ を辺 $CA$ の上にとる補助線の証明と、正弦定理と恒等式 $\sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ=\frac{\sqrt3}{8}$ による証明がある。角の条件を $1^\circ$ 変えると答えは整数の度数でなくなる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角形の内角の和, 三角形の合同条件, 正弦定理(高校数学)

高校での出発点:角を追いかけても決まらない角

次の問題を考える。

Langleyの整数角の問題

$\angle B=\angle C=80^\circ$ の二等辺三角形 $ABC$ で、辺 $CA$ の上に $\angle CBD=60^\circ$ となる点 $D$ を、辺 $AB$ の上に $\angle BCE=50^\circ$ となる点 $E$ をとる。$\angle BDE$ の大きさを求めよ。

図 1 のように、分かっている角はすべて $10^\circ$ の倍数である。求める角 $\angle BDE$ も「きれいな」角になりそうだが、三角形の内角の和を使って角を順に求める方法(角の追跡)だけでは決まらない。まずそれを確かめる。
頂角 20°、底角 80° の二等辺三角形 ABC。∠CBD=60°、∠BCE=50° となる点 D、E をとり、∠BDE を求める 頂角 20°、底角 80° の二等辺三角形 ABC。∠CBD=60°、∠BCE=50° となる点 D、E をとり、∠BDE を求める

角の追跡だけでは決まらない

$\angle BDE=x$ とおいて、ほかの角を $x$ で表す。
(1) 分かる角。$\angle A=180^\circ-80^\circ-80^\circ=20^\circ$、$\angle ABD=80^\circ-60^\circ=20^\circ$、$\angle ACE=80^\circ-50^\circ=30^\circ$ である。三角形 $BCD$ で $\angle BDC=180^\circ-60^\circ-80^\circ=40^\circ$、三角形 $BCE$ で $\angle BEC=180^\circ-80^\circ-50^\circ=50^\circ$ である。
(2) $x$ で表す角。三角形 $BDE$ で $\angle DBE=20^\circ$ なので $\angle BED=180^\circ-20^\circ-x=160^\circ-x$ である。$A$、$D$、$C$ は一直線上にあるので $\angle ADE=180^\circ-\angle BDC-x=140^\circ-x$、$A$、$E$、$B$ も一直線上にあるので $\angle AED=180^\circ-(160^\circ-x)=20^\circ+x$ である。
(3) 残りの三角形で確かめる。三角形 $ADE$ の内角の和は
$$ 20^\circ+(140^\circ-x)+(20^\circ+x)=180^\circ $$
で、$x$ がどんな値でも成り立つ。四角形 $BCDE$ は三角形 $ABC$ から三角形 $ADE$ を除いた凸四角形なので、対角線 $BD$ は角 $EDC$ の内部を、対角線 $CE$ は角 $BED$ の内部を通る。三角形 $CDE$ では $\angle CDE=40^\circ+x$、$\angle DEC=\angle BED-\angle BEC=110^\circ-x$、$\angle DCE=30^\circ$ で、和はやはり $x$ によらず $180^\circ$ である。
角の和の式はどれも $x$ を消してしまい、$x$ を決める方程式にならない。

一方、図形そのものは $BC$ の長さを決めればただ 1 つに決まるので、$x$ も決まっているはずである。座標で数値を求めると次のようになる。

数値で求める

$BC=1$ とする。三角形 $BCE$ は $\angle BCE=\angle BEC=50^\circ$ の二等辺三角形なので $BE=BC=1$ である。三角形 $BCD$ で正弦定理を使うと
$$ BD=\frac{BC\sin80^\circ}{\sin40^\circ}=\frac{2\sin40^\circ\cos40^\circ}{\sin40^\circ}=2\cos40^\circ\fallingdotseq1.5321 $$
である。三角形 $BDE$ で余弦定理を使うと
$$ DE^2=BD^2+BE^2-2\,BD\cdot BE\cos20^\circ\fallingdotseq2.3473+1-2.8794=0.4679 $$
で、$DE\fallingdotseq0.6840$ である。正弦定理 $\dfrac{BE}{\sin x}=\dfrac{DE}{\sin20^\circ}$ から $\sin x=\dfrac{\sin20^\circ}{DE}\fallingdotseq\dfrac{0.34202}{0.68404}\fallingdotseq0.5000$ となる。$BD\fallingdotseq1.5321$ は三角形 $BDE$ の最大の辺($BE=1$、$DE\fallingdotseq0.684$)なので、その対角 $\angle BED=160^\circ-x$ が最大の角になり、$x$ は鋭角である。よって $x\fallingdotseq30^\circ$ である。

ex-lg-numeric は電卓の小数で計算したので、$x$ が「ちょうど」$30^\circ$ かどうかは分からない。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. $\angle BDE$ はちょうど $30^\circ$ か。補助線だけで示せるか。→ thm-lg-main
  2. 三角関数で示すと、何が鍵になるか。→ prf-lg-trig、prop-lg-quad
  3. 角の条件を変えると、答えはいつも整数の度数になるか。→ ex-lg-variants、ex-lg-cx-shift
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    角の追跡(内角の和)恒等式になり $x$ が決まらない1 次の方程式の階数が足りない
    二等辺三角形・正三角形を見つける補助線による証明 prf-lg-main—
    正弦定理と余弦定理三角関数による証明 prf-lg-trig正弦の積の等式
    $\sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ=\dfrac{\sqrt3}8$鍵になる恒等式 lem-lg-identity1 の冪根の関係式

主定理:補助線による証明

$\angle CBD=60^\circ$ は $\angle ABC=80^\circ$ より小さいので、半直線 $BD$ は角 $ABC$ の内部を通り、$D$ は辺 $CA$ の上に($C$、$A$ と異なる点として)とれる。$E$ も同じである。

Langleyの整数角の問題の答え

def-lg-problem の図形で
$$ \angle BDE=30^\circ $$
である。

証明の方針は、長さの等しい線分を順に見つけることである。角の追跡で決まらないのは、長さの情報を使っていなかったからである。等しい長さは二等辺三角形から得られ、二等辺三角形の底角が等しいことから角が決まる。

二等辺三角形と正三角形をつなぐ

段 0(分かっている角)。ex-lg-chase (1) のとおり $\angle A=20^\circ$、$\angle ABD=20^\circ$、$\angle BDC=40^\circ$、$\angle BEC=50^\circ$ である。
段 1($BE=BC$)。三角形 $BCE$ で $\angle BCE=50^\circ=\angle BEC$ なので、2 つの角が等しい三角形は二等辺三角形であり、$BE=BC$ である。
段 2(点 $G$ と $BG=BC$)。辺 $CA$ の上に $\angle CBG=20^\circ$ となる点 $G$ をとる(図 2)。$20^\circ<60^\circ$ なので半直線 $BG$ は角 $CBD$ の内部を通り、$G$ は線分 $CD$ の上にある。三角形 $BCG$ で $\angle BGC=180^\circ-20^\circ-80^\circ=80^\circ=\angle BCG$ なので、$BG=BC$ である。
段 3(三角形 $BEG$ は正三角形)。段 1・段 2 から $BE=BG$ である。$\angle EBG=\angle ABC-\angle CBG=80^\circ-20^\circ=60^\circ$ なので、三角形 $BEG$ は頂角 $60^\circ$ の二等辺三角形で、底角はどちらも $\dfrac{180^\circ-60^\circ}2=60^\circ$ である。よって三角形 $BEG$ は正三角形で、$EG=BG$、$\angle BGE=60^\circ$ である。
段 4($GD=GB$)。三角形 $BGD$ で、$\angle GBD=\angle CBD-\angle CBG=60^\circ-20^\circ=40^\circ$、$\angle BDG=\angle BDC=40^\circ$($G$ は線分 $CD$ の上)である。2 つの角が等しいので $GD=GB$ である(図 3)。
段 5($\angle EGD=40^\circ$)。$C$、$G$、$D$ はこの順に一直線上にあるので $\angle BGD=180^\circ-\angle BGC=100^\circ$ である。$D$ は半直線 $GA$ の上にあるので、角 $BGD$ は角 $BGA$ と同じである。$E$ は線分 $AB$ の上にあるので、半直線 $GE$ は角 $BGA$ の内部にある。よって
$$ \angle EGD=\angle BGD-\angle BGE=100^\circ-60^\circ=40^\circ $$
である。
段 6($\angle BDE=30^\circ$)。段 3・段 4 から $GE=GB=GD$ なので、三角形 $GED$ は $GE=GD$ の二等辺三角形で、底角は $\angle GDE=\dfrac{180^\circ-40^\circ}2=70^\circ$ である。$D$ から見ると、三角形の周を $A\to B\to C$ とたどるにつれて、半直線は $DA$、$DE$、$DB$、$DC$ の順に回る($E$ は辺 $AB$ の上、$B$ は $AB$ と $BC$ の境)ので、半直線 $DB$ は角 $EDC$ の内部にある。$\angle EDC=\angle GDE=70^\circ$($G$ は半直線 $DC$ の上)なので
$$ \angle BDE=\angle EDC-\angle BDC=70^\circ-40^\circ=30^\circ $$
である。$\square$

辺 CA の上に ∠CBG=20° の点 G をとると、BG=BC=BE となり、三角形 BEG は正三角形になる 辺 CA の上に ∠CBG=20° の点 G をとると、BG=BC=BE となり、三角形 BEG は正三角形になる
GD=GB=GE なので三角形 GED は二等辺三角形で、∠GDE=70° から ∠BDE=70°−40°=30° が出る GD=GB=GE なので三角形 GED は二等辺三角形で、∠GDE=70° から ∠BDE=70°−40°=30° が出る

証明で決定的だったのは段 2 の点 $G$ である。$\angle CBG=20^\circ$ は、頂角 $\angle A=20^\circ$ と同じ大きさで、三角形 $BCG$ をもとの三角形 $ABC$ と相似な(底角 $80^\circ$ の)二等辺三角形にする。このように、問題に出てこない点を 1 つ足すと、ex-lg-chase では使えなかった「長さが等しい」という情報が次々に得られる。「2 つの角が等しい三角形は二等辺三角形」は、三角形の合同条件(1 辺とその両端の角)から導かれる基本の事実である。
同じ図で、$\angle CED$ も求まる。三角形 $CDE$ で $\angle CDE=\angle BDC+\angle BDE=70^\circ$、$\angle DCE=30^\circ$ なので $\angle CED=80^\circ$ である。

三角関数による証明

補助線を思いつかなくても、正弦定理(高校数学) で長さを角の正弦で表すと、$x=\angle BDE$ の方程式が立つ。

正弦定理で $x$ の方程式を立てる

段 1(長さ)。$BC=1$ とする。ex-lg-numeric のとおり $BE=1$、$BD=\dfrac{\sin80^\circ}{\sin40^\circ}=2\cos40^\circ$ である($\sin80^\circ=2\sin40^\circ\cos40^\circ$ は 2 倍角の公式)。
段 2(方程式)。三角形 $BDE$ の角は $\angle DBE=20^\circ$、$\angle BDE=x$、$\angle BED=160^\circ-x$ である。正弦定理 $\dfrac{BE}{\sin x}=\dfrac{BD}{\sin(160^\circ-x)}$ に段 1 を代入すると
$$ \frac{\sin(160^\circ-x)}{\sin x}=2\cos40^\circ $$
である($0^\circ< x<160^\circ$)。
段 3($x=30^\circ$ は解)。$x=30^\circ$ なら左辺は $\dfrac{\sin130^\circ}{\sin30^\circ}=2\sin50^\circ=2\cos40^\circ$ で、右辺に等しい。
段 4(解はほかにない)。加法定理で左辺を書き直すと
$$ \frac{\sin160^\circ\cos x-\cos160^\circ\sin x}{\sin x}=\sin20^\circ\cdot\frac{\cos x}{\sin x}+\cos20^\circ $$
である($\sin160^\circ=\sin20^\circ$、$\cos160^\circ=-\cos20^\circ$)。$\dfrac{\cos x}{\sin x}=\dfrac1{\tan x}$ は $0^\circ< x<180^\circ$ で狭義に減少し、$\sin20^\circ>0$ なので、左辺は $x$ について狭義に減少する。よって方程式の解はただ 1 つで、段 3 より $x=30^\circ$ である。$\square$

補助線の証明と違い、この証明は「解の候補 $30^\circ$ を代入して確かめ、ほかに解がないことを単調性で示す」形である。段 2 の方程式は、候補 $30^\circ$ を知らなければ解きにくい形をしている。prop-lg-quad では、同じ方程式を正弦の積の等式として見直す。

角の組を変える

def-lg-problem の $60^\circ$ と $50^\circ$ を別の角に変えると、答えはどうなるか。$\angle B=\angle C=80^\circ$ のまま、$\angle CBD=\beta$、$\angle BCE=\gamma$ として $\angle BDE$ を数値で求めた($1^\circ$ 刻みのすべての組 $1^\circ\le\beta,\gamma\le79^\circ$ を調べた)。

$\angle CBD$$\angle BCE$$\angle BDE$整数の度数か
$60^\circ$$50^\circ$$30^\circ$整数(この記事の問題)
$70^\circ$$60^\circ$$20^\circ$整数
$50^\circ$$60^\circ$$80^\circ$整数
$65^\circ$$60^\circ$$40^\circ$整数
$40^\circ$$40^\circ$$40^\circ$整数($\beta=\gamma$ なので $DE\parallel BC$)
$61^\circ$$50^\circ$$27.728\ldots^\circ$整数でない
$60^\circ$$51^\circ$$31.961\ldots^\circ$整数でない
$60^\circ$$49^\circ$$28.197\ldots^\circ$整数でない
$59^\circ$$50^\circ$$32.271\ldots^\circ$整数でない

$\beta=\gamma$ のときは、図が $A$ を通る対称軸について対称なので $AD=AE$ となり、$DE\parallel BC$ で $\angle BDE=\angle DBC=\beta$ である。これは当たり前の場合である。$\beta\ne\gamma$ で答えが整数の度数になる組は、$1^\circ$ 刻みの $79\times79$ 組のうち 16 組しかなかった。

もう 1 つの整数角:$70^\circ$ と $60^\circ$

$\angle CBD=70^\circ$、$\angle BCE=60^\circ$ のとき、$\angle BDE=20^\circ$ である。

三角関数による確かめを開く

$BC=1$ とする。三角形 $BCD$ で $\angle BDC=180^\circ-70^\circ-80^\circ=30^\circ$ なので、正弦定理から $BD=\dfrac{\sin80^\circ}{\sin30^\circ}=2\sin80^\circ$ である。三角形 $BCE$ で $\angle BEC=180^\circ-80^\circ-60^\circ=40^\circ$ なので $BE=\dfrac{\sin60^\circ}{\sin40^\circ}$ である。三角形 $BDE$ で $\angle DBE=80^\circ-70^\circ=10^\circ$、$\angle BDE=x$ とおくと $\angle BED=170^\circ-x$ で、正弦定理から

$$\frac{\sin(170^\circ-x)}{\sin x}=\frac{BD}{BE}=\frac{2\sin80^\circ\sin40^\circ}{\sin60^\circ}$$

である。$x=20^\circ$ なら左辺は $\dfrac{\sin150^\circ}{\sin20^\circ}=\dfrac1{2\sin20^\circ}$ で、両辺が等しいことは $4\sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ=\sin60^\circ$、つまり lem-lg-identity と同じである。左辺は prf-lg-trig と同じ理由で $x$ について狭義に減少するので、解は $x=20^\circ$ だけである。

例と反例

thm-lg-main の答えが整数の度数になるのは、角の条件が正確にそろっているからである。条件を少し変えたり、証明の道具を減らしたりすると次のようになる。

外す条件反例成り立たなくなること
$\angle CBD=60^\circ$$\angle CBD=61^\circ$($\angle BCE=50^\circ$ のまま)$\angle BDE$ が整数の度数($27.728\ldots^\circ$ になる)
$\angle BCE=50^\circ$$\angle BCE=51^\circ$($\angle CBD=60^\circ$ のまま)$\angle BDE$ が整数の度数($31.961\ldots^\circ$ になる)
長さの情報(二等辺三角形)を使う内角の和の式だけを使う$\angle BDE$ がただ 1 つに決まる(ex-lg-chase)
反例:角を $1^\circ$ ずらす

$\angle CBD=61^\circ$、$\angle BCE=50^\circ$ とする。prf-lg-trig と同じく $BC=1$、$BE=1$ で、三角形 $BCD$ で $\angle BDC=39^\circ$ なので $BD=\dfrac{\sin80^\circ}{\sin39^\circ}\fallingdotseq1.5649$ である。三角形 $BDE$ で $\angle DBE=19^\circ$ なので、$x=\angle BDE$ は
$$ \frac{\sin(161^\circ-x)}{\sin x}=\frac{\sin80^\circ}{\sin39^\circ} $$
を満たす。左辺は $\sin19^\circ\cdot\dfrac1{\tan x}+\cos19^\circ$ と書けるので、$\dfrac1{\tan x}=\dfrac{1.5649-0.9455}{0.3256}\fallingdotseq1.902$、$x\fallingdotseq27.73^\circ$ である。$x=27^\circ$ でも $28^\circ$ でもない。
手で描いた図を分度器で測ると、$27.7^\circ$ と $30^\circ$ の違いでも読み取りにくく、$30^\circ$ と $30.01^\circ$ はまったく区別できない。thm-lg-main の「ちょうど $30^\circ$」は、測ることでは確かめられず、証明が要る。

大学数学で見る:正弦の積の恒等式

prf-lg-trig では、長さから方程式を立てたあと、答えの候補 $30^\circ$ を代入して確かめた。ここでは、同じ方程式を四角形 $BCDE$ の 8 つの角の正弦の関係から導き、答えが $30^\circ$ であることが正弦の積の恒等式と同じ内容であることを見る。

四角形の対角線と正弦の積

凸四角形 $BCDE$ の対角線 $BD$、$CE$ の交点を $P$ とする。このとき
$$ \sin\angle BCE\cdot\sin\angle CDB\cdot\sin\angle DEC\cdot\sin\angle EBD=\sin\angle CBD\cdot\sin\angle DCE\cdot\sin\angle EDB\cdot\sin\angle BEC $$
である。

4 つの三角形で正弦定理を使う

対角線で分けた 4 つの三角形 $PBC$、$PCD$、$PDE$、$PEB$ で正弦定理を使う。$P$ は線分 $BD$、$CE$ の上にあるので、たとえば $\angle PCB=\angle BCE$、$\angle PBC=\angle CBD$ である。
$$ \frac{PB}{PC}=\frac{\sin\angle BCE}{\sin\angle CBD},\quad \frac{PC}{PD}=\frac{\sin\angle CDB}{\sin\angle DCE},\quad \frac{PD}{PE}=\frac{\sin\angle DEC}{\sin\angle EDB},\quad \frac{PE}{PB}=\frac{\sin\angle EBD}{\sin\angle BEC} $$
である。4 つの左辺を掛けると $\dfrac{PB}{PC}\cdot\dfrac{PC}{PD}\cdot\dfrac{PD}{PE}\cdot\dfrac{PE}{PB}=1$ なので、右辺の積も $1$ である。分母を払うと結論を得る。$\square$

これは 三角関数形のCevaの定理 と同じく、比を掛けて約分する形の等式である。Langley の問題の四角形 $BCDE$ では、ex-lg-chase の角を代入すると $\angle BCE=50^\circ$、$\angle CDB=40^\circ$、$\angle DEC=110^\circ-x$、$\angle EBD=20^\circ$、$\angle CBD=60^\circ$、$\angle DCE=30^\circ$、$\angle EDB=x$、$\angle BEC=50^\circ$ で、両辺の $\sin50^\circ$ を約分すると
$$ \sin40^\circ\sin20^\circ\sin(110^\circ-x)=\sin60^\circ\sin30^\circ\sin x $$
となる。左辺を右辺で割った $\dfrac{\sin(110^\circ-x)}{\sin x}=\sin110^\circ\cdot\dfrac1{\tan x}-\cos110^\circ$ は $0^\circ< x<110^\circ$ で狭義に減少するので、解はただ 1 つである。$x=30^\circ$ を代入すると、この等式は
$$ \sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ=\sin60^\circ\sin30^\circ\sin30^\circ=\frac{\sqrt3}2\cdot\frac14=\frac{\sqrt3}8 $$
になる。つまり、Langley の問題の答えが $30^\circ$ であることは、次の恒等式と同じことである。

正弦の積の恒等式

どんな角 $t$ についても
$$ \sin t\,\sin(60^\circ-t)\,\sin(60^\circ+t)=\frac14\sin3t $$
である。特に $t=20^\circ$ とすると $\sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ=\dfrac14\sin60^\circ=\dfrac{\sqrt3}8$ である。

積を和に直す

段 1(後ろの 2 つ)。積を和に直す公式 $\sin\alpha\sin\beta=\dfrac12\bigl(\cos(\alpha-\beta)-\cos(\alpha+\beta)\bigr)$ を使うと
$$ \sin(60^\circ-t)\sin(60^\circ+t)=\frac12\bigl(\cos2t-\cos120^\circ\bigr)=\frac12\cos2t+\frac14 $$
である。
段 2($\sin t$ を掛ける)。$\sin t\cos2t=\dfrac12\bigl(\sin3t-\sin t\bigr)$(積を和に直す公式 $\sin\alpha\cos\beta=\dfrac12\bigl(\sin(\alpha+\beta)+\sin(\alpha-\beta)\bigr)$ で $\alpha=t$、$\beta=2t$)なので
$$ \sin t\left(\frac12\cos2t+\frac14\right)=\frac14\bigl(\sin3t-\sin t\bigr)+\frac14\sin t=\frac14\sin3t $$
である。$\square$

三角関数の恒等式を数値と式の両方で確かめる方法は 三角関数の公式を確かめる方法 で扱う。ex-lg-variants の $70^\circ$ と $60^\circ$ の組も、同じ恒等式に帰着した。

整数角になる組の分類と正多角形の対角線を開く

四角形の辺と対角線のなす角がすべて $180^\circ$ の有理数倍(度で測ると有理数)になる凸四角形を、Poonen と Rubinstein の論文 PR98 は adventitious quadrilaterals(「思いがけない四角形」とでも訳せる)と呼んでいる。Langley の問題の四角形 $BCDE$ は、8 つの角 $20^\circ$、$60^\circ$、$50^\circ$、$30^\circ$、$40^\circ$、$30^\circ$、$80^\circ$、$50^\circ$ がすべて $10^\circ$ の倍数なので、その例である。

PR98 の主題は、正 $n$ 角形の対角線が内部で作る交点の個数である。その第 2 節では、単位円の周上にこの順に並ぶ異なる 6 点 $A,B,C,D,E,F$ が円周を長さ $u,x,v,y,w,z$ の弧に分けるとき、3 本の弦 $AD$、$BE$、$CF$ が 1 点で交わる条件が

$$\sin\frac u2\sin\frac v2\sin\frac w2=\sin\frac x2\sin\frac y2\sin\frac z2$$

という、prop-lg-quad と同じく正弦の積が等しい形で与えられる。正多角形では弧が円周の有理数倍なので、この方程式の有理数の解をすべて求めることが問題になる。同論文は、$\sin\theta=\dfrac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}$ と書き直して 1 の冪根の和の関係式に帰着させ、解を分類している。そのうえで、3 本の対角線が 1 点で交わる配置の分類が、adventitious quadrilaterals をすべて数え上げる問題も解決すると述べている。この記事ではその対応の詳細には立ち入らない。

さらに先へ

  • Langley の問題の答えは「整数の度数」だが、角の組を少し変えると整数でなくなる(ex-lg-cx-shift)。答えが整数になる組の全体は、正多角形の 3 本の対角線が 1 点で交わる配置の分類と結びつく(PR98)。
  • 三角形の角を 3 等分する線が作る正三角形も、角の追跡だけでは見えない性質である(Morleyの定理)。
  • 頂点から引いた 3 本の線の角の正弦の積を扱う道具は 三角関数形のCevaの定理 である。

関連項目

参考文献

[1]
Bjorn Poonen and Michael Rubinstein, The number of intersection points made by the diagonals of a regular polygon, SIAM Journal on Discrete Mathematics, 1998, 135–156

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