距離の2乗の重み付き和(weighted sum of squared distances)とは、点 $A_1,\dots,A_k$ と実数の重み $w_1,\dots,w_k$ に対する点 $P$ の関数 $F(P)=\sum_i w_i\,PA_i^{\,2}$ である。重みの和 $W$ が $0$ でなければ、$\vec g=\frac1W\sum_iw_i\vec a_i$ の点 $G$ について $F(P)=W\cdot PG^2+F(G)$、$F(G)=\frac1W\sum_{i< j}w_iw_jA_iA_j^{\,2}$ で、$F(P)=c$ の点の集まりは $G$ を中心とする円・1 点・空集合のどれかになる。$W=0$ なら $F$ は 1 次式で、点の集まりは $\sum_iw_i\vec a_i$ に垂直な直線か、全体か空集合である。
前提知識: イギリス国旗の定理, ベクトルの内積(高校数学), 位置ベクトルと内分点, Apolloniusの円
イギリス国旗の定理 では、長方形の 4 頂点までの距離の 2 乗を $+,-,+,-$ の符号で足すと、点 $P$ によらず $0$ になった。符号(重み)を変えると、距離の 2 乗の和はどんな図形を描くだろうか。
$A(0,0)$、$B(4,0)$ とし、$PA^2+PB^2=10$ を満たす点 $P(x,y)$ を求める。
$$
x^2+y^2+(x-4)^2+y^2=10\iff 2x^2-8x+2y^2+6=0\iff (x-2)^2+y^2=1
$$
で、$AB$ の中点 $(2,0)$ を中心とする半径 $1$ の円になる。右辺を $8$ にすると $(x-2)^2+y^2=0$ で中点の 1 点だけ、$6$ にすると $(x-2)^2+y^2=-1$ で、そのような点はない。
同じ $A,B$ で $PA^2-PB^2=8$ を満たす点は、$x^2+y^2-(x-4)^2-y^2=8\iff 8x-16=8\iff x=3$ で、$AB$ に垂直な直線になる。2 乗の項が打ち消し合って、1 次式が残った。
2 つの例では、重みの和($1+1=2$ と $1-1=0$)が $0$ でないか $0$ かで、図形が円と直線に分かれた。この記事の問いは次の 2 つである。
| 重みの和 $W$ | $\vec v=\sum w_i\vec a_i$ | $F(P)=c$ の点の集まり |
|---|---|---|
| $W\ne0$ | (何でもよい) | 円・1 点・なし(空間では球面・1 点・なし) |
| $W=0$ | $\vec v\ne\vec0$ | $\vec v$ に垂直な直線(空間では平面) |
| $W=0$ | $\vec v=\vec0$ | 平面全体か、なし($F$ が定数) |
平面(または空間)の点 $A_1,\dots,A_k$ と、実数 $w_1,\dots,w_k$(重み。負でもよい)に対し、点 $P$ の関数
$$
F(P)=w_1\,PA_1^{\,2}+w_2\,PA_2^{\,2}+\cdots+w_k\,PA_k^{\,2}
$$
を、距離の 2 乗の重み付き和 という。$W=w_1+\cdots+w_k$ を重みの和という。点 $X$ の位置ベクトルを $\vec x$ と書く。
計算の出発点は、内積による展開
$$
PA_i^{\,2}=\lvert\vec p-\vec a_i\rvert^2=\lvert\vec p\rvert^2-2\,\vec p\cdot\vec a_i+\lvert\vec a_i\rvert^2
$$
である(ベクトルの内積(高校数学))。これに $w_i$ を掛けて足すと
$$
F(P)=\underbrace{W\lvert\vec p\rvert^2}_{2\text{ 次の項}}-\underbrace{2\,\vec p\cdot\vec v}_{1\text{ 次の項}}+\underbrace{\sum_i w_i\lvert\vec a_i\rvert^2}_{\text{定数}},\qquad \vec v=\sum_iw_i\vec a_i
$$
となる。2 次の項の係数が重みの和 $W$ であることが、すべての出発点になる。
$W\ne0$ とし、$\vec g=\dfrac1W\displaystyle\sum_iw_i\vec a_i$ の点を $G$ とする。
(R1) どの点 $P$ でも $F(P)=W\cdot PG^2+F(G)$ である。
(R1) $F(G)=\dfrac1W\displaystyle\sum_{i< j}w_iw_j\,A_iA_j^{\,2}$ である。
(R1) $F(P)=c$ を満たす点の集まりは、$\dfrac{c-F(G)}W$ が正なら $G$ を中心とする半径 $\sqrt{\dfrac{c-F(G)}W}$ の円(空間では球面)、$0$ なら $G$ の 1 点、負なら空集合である。
方針:上の展開で $\vec v=W\vec g$ を使って平方完成する。
段 1((i))。$\vec v=W\vec g$ なので
$$
F(P)=W\lvert\vec p\rvert^2-2W\,\vec p\cdot\vec g+\sum_iw_i\lvert\vec a_i\rvert^2
=W\lvert\vec p-\vec g\rvert^2-W\lvert\vec g\rvert^2+\sum_iw_i\lvert\vec a_i\rvert^2
$$
である。$P=G$ を入れると $F(G)=-W\lvert\vec g\rvert^2+\sum_iw_i\lvert\vec a_i\rvert^2$ なので、$F(P)=W\cdot PG^2+F(G)$ である。重みの和が $1$ のときのこの等式は、Stewartの定理 の命題「重み付きの距離の 2 乗の和の分解」と同じものである。
段 2((ii))。段 1 から $W\cdot F(G)=W\sum_iw_i\lvert\vec a_i\rvert^2-\left\lvert\sum_iw_i\vec a_i\right\rvert^2$ である。一方、$i,j$ を $1$ から $k$ まで両方動かした和を考えると
$$
\sum_{i,j}w_iw_j\lvert\vec a_i-\vec a_j\rvert^2=\sum_{i,j}w_iw_j\left(\lvert\vec a_i\rvert^2+\lvert\vec a_j\rvert^2-2\,\vec a_i\cdot\vec a_j\right)
=2W\sum_iw_i\lvert\vec a_i\rvert^2-2\left\lvert\sum_iw_i\vec a_i\right\rvert^2
$$
である($\sum_{i,j}w_iw_j\lvert\vec a_i\rvert^2=\sum_jw_j\cdot\sum_iw_i\lvert\vec a_i\rvert^2$、$\sum_{i,j}w_iw_j\,\vec a_i\cdot\vec a_j=\left\lvert\sum_iw_i\vec a_i\right\rvert^2$)。左辺は $i=j$ の項が $0$ で、$(i,j)$ と $(j,i)$ が同じ値なので、$2\sum_{i< j}w_iw_j\,A_iA_j^{\,2}$ に等しい。2 で割って比べると $W\cdot F(G)=\sum_{i< j}w_iw_j\,A_iA_j^{\,2}$ である。
段 3((iii))。(i) から $F(P)=c\iff PG^2=\dfrac{c-F(G)}W$ である。右辺が正なら $PG$ が一定の正の数で円(空間では球面)、$0$ なら $P=G$、負なら $PG^2\ge0$ に反して解がない。$\square$
$W>0$ なら $F(P)\ge F(G)$ で、$F$ は $G$ で最小値 $F(G)$ をとる。$W< 0$ なら $G$ で最大値をとる。重みがすべて $1$ の 3 点なら $G$ は重心で、最小値は $\frac13(AB^2+BC^2+CA^2)$ になる(三角形の重心(高校数学) の系「重心は距離の 2 乗の和を最小にする」)。
$A_1(0,0)$、$A_2(4,0)$、$A_3(1,3)$ に重み $2,1,1$ を付ける。$W=4$、$\vec g=\frac14\{2(0,0)+(4,0)+(1,3)\}=\left(\frac54,\frac34\right)$ である。(ii) の式で $F(G)$ を求めると、$A_1A_2^{\,2}=16$、$A_1A_3^{\,2}=10$、$A_2A_3^{\,2}=9+9=18$ なので
$$
F(G)=\frac14\left(2\cdot1\cdot16+2\cdot1\cdot10+1\cdot1\cdot18\right)=\frac{32+20+18}4=\frac{35}2
$$
である。直接計算でも、$GA_1^{\,2}=\frac{25}{16}+\frac9{16}=\frac{34}{16}$、$GA_2^{\,2}=\frac{121}{16}+\frac9{16}=\frac{130}{16}$、$GA_3^{\,2}=\frac1{16}+\frac{81}{16}=\frac{82}{16}$ から $F(G)=\frac{2\cdot34+130+82}{16}=\frac{280}{16}=\frac{35}2$ で一致する。(iii) から、たとえば $F(P)=\frac{107}2$ の点の集まりは、$G$ を中心とする半径 $\sqrt{\frac{107/2-35/2}{4}}=\sqrt9=3$ の円である(図 1 の左)。
左は重み 2, 1, 1 の場合の F の等高線で、G を中心とする同心円になる。右は重み 1, 1, −2(和 0)の場合で、ベクトル v に垂直な平行線になる
負の重みを許すと、$G$ は点の集まりの外に出ることがある。
$A(0,0)$、$B(3,0)$ とし、$PA=2PB$ を満たす点を考える。これは $PA^2-4PB^2=0$ と同じで、重み $1,-4$($W=-3$)の $F(P)=0$ である。$\vec g=\frac1{-3}\{(0,0)-4(3,0)\}=(4,0)$ で、$G$ は線分 $AB$ の外にある。$F(G)=\frac1{-3}\cdot1\cdot(-4)\cdot AB^2=\frac{4\cdot9}3=12$ なので、(iii) から $PG^2=\frac{0-12}{-3}=4$ で、$F(P)=0$ は中心 $(4,0)$、半径 $2$ の円である。これは Apolloniusの円 で、2 点からの距離の比が $2:1$ の点の集まりである。一般に、比 $k$($k\ne1$)の Apollonius の円は、重み $1,-k^2$ の重み付き和の等高線である。
$W=0$ とし、$\vec v=\sum_iw_i\vec a_i$ とする。
(R1) どの点 $P$ でも $F(P)=-2\,\vec p\cdot\vec v+\displaystyle\sum_iw_i\lvert\vec a_i\rvert^2$ である。
(R1) $\vec v\ne\vec0$ なら、$F(P)=c$ を満たす点の集まりは、$\vec v$ に垂直な直線(空間では平面)である。
(R1) $\vec v=\vec0$ なら、$F$ は定数で、$F(P)=c$ の点の集まりは全体か空集合である。
段 1((i))。展開の式で $W=0$ とすると 2 次の項が消え、(i) の式になる。
段 2((ii))。$K=\sum_iw_i\lvert\vec a_i\rvert^2$ とおくと、$F(P)=c\iff\vec v\cdot\vec p=\dfrac{K-c}2$ である。$\vec v\ne\vec0$ なので、これは $\vec v$ を法線ベクトルとする直線(空間では平面)の方程式である(空間の平面と法線ベクトル)。
段 3((iii))。$\vec v=\vec0$ なら $F(P)=K$ で $P$ によらない。$c=K$ なら全体、$c\ne K$ なら空集合である。$\square$
ex-wsd-211 の 3 点に重み $1,1,-2$ を付ける。$W=0$、$\vec v=(0,0)+(4,0)-2(1,3)=(2,-6)$、$\sum w_i\lvert\vec a_i\rvert^2=0+16-2\cdot10=-4$ なので
$$
F(P)=-2(2x-6y)-4=-4x+12y-4
$$
である。$F(P)=0$ は直線 $x-3y+1=0$ で、法線ベクトル $(1,-3)$ は $\vec v$ と平行である。$c$ を変えると、この直線に平行な直線が並ぶ(図 1 の右)。
イギリス国旗の定理 は、長方形の 4 頂点に重み $1,-1,1,-1$ を付けた場合で、$W=0$、$\vec v=\vec a-\vec b+\vec c-\vec d=\vec0$(対角線の中点が一致する)、さらに定数 $\lvert\vec a\rvert^2-\lvert\vec b\rvert^2+\lvert\vec c\rvert^2-\lvert\vec d\rvert^2=0$(対角線が等しい)なので、$F$ がいつも $0$ になる。2 点 $A,B$ に重み $1,-1$ を付けた $PA^2-PB^2=c$ は、ex-wsd-diff のとおり $AB$ に垂直な直線である。2 つの円の方べきが等しい点の集まり(根軸)も、この形の直線になる(根軸と根心)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 重みの和が $0$ でない(主定理 1) | 重み $1,1,-2$ | 中心 $G$ が決まらず、等高線は円でなく平行線になる |
| 距離を 2 乗する | 距離そのものの和 $PA+PB$ | 等高線は円でなく楕円になる |
| 距離が内積から決まる | 碁盤の目の距離 $\lvert x\rvert+\lvert y\rvert$ で測る | 1 点からの距離の 2 乗が一定の点の集まりが正方形になる |
$A(0,0)$、$B(4,0)$ で $PA+PB=6$ を満たす点は、2 点を焦点とする楕円 $\dfrac{(x-2)^2}9+\dfrac{y^2}5=1$ である(2次曲線の焦点と準線)。中心 $(2,0)$ からの距離は、$(5,0)$ では $3$、$(2,\sqrt5)$ では $\sqrt5$ で一定でなく、円ではない。主定理 1 の証明は、2 乗した距離を内積で展開できることを使っていた。
2 点の距離を $\lvert x_1-x_2\rvert+\lvert y_1-y_2\rvert$ で測ると、原点からの距離の 2 乗が $1$ の点の集まりは $\lvert x\rvert+\lvert y\rvert=1$ で、4 点 $(\pm1,0)$、$(0,\pm1)$ を頂点とする正方形である。重み $1$ の 1 点の場合でさえ円にならない。この距離では、2 乗が内積で展開できない(中線定理(高校数学) の例「反例:$\lvert x\rvert+\lvert y\rvert$ で測ると平行四辺形の法則が崩れる」)。
$F(P)$ は座標の 2 次関数で、2 次の部分はいつも $W(x^2+y^2)$ の形をしている。そのため等高線は円($W\ne0$)か直線($W=0$)にしかならない。主定理 1 の (i) の分解 $F(P)=W\cdot PG^2+F(G)$ は、データの分散を「平均からのずれ」と「平均の位置」に分ける式(平均値と二乗誤差)や、力学の平行軸の定理と同じ形をしている(Stewartの定理 の「さらに先へ」でも触れている)。$G$ は重み付きの平均で、重みが正で和が $1$ のときは点の凸結合にあたる(点の存在範囲と凸結合)。
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