Kleinの4次曲線

同義語:Kleinの四次曲線クラインの4次曲線Klein quarticKlein quartic curve

概要

Kleinの4次曲線(Klein quartic)とは、複素射影平面の曲線 $x^3y+y^3z+z^3x=0$ である。滑らかな種数 $3$ の曲線で、自己同型をちょうど $168$ 個もち、Hurwitz の上界 $84(g-1)$ を達成する。自己同型群は 1 の 7 乗根による対角変換、座標の巡回置換、7 次の離散 Fourier 変換にあたる対合で生成され、位数 $168$ の単純群 $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{F}_7)$ と同型である。その作用で、24 個の変曲点、28 本の複接線の 56 個の接点、84 個の点がそれぞれ 1 つの軌道をなす。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 射影平面, 種数公式(平面曲線), Hurwitzの自己同型定理, Sylowの定理

Kleinの4次曲線(Klein quartic)は、複素射影平面の 4 次曲線
$$ X:\ x^3y+y^3z+z^3x=0 $$
である。滑らかな曲線で種数は $3$ であり、自己同型(自分自身への双正則写像)をちょうど $168$ 個もつ。Hurwitzの自己同型定理 により種数 $g\ge2$ のコンパクトなリーマン面の自己同型は $84(g-1)$ 個以下で、$g=3$ では $84\cdot2=168$ なので、$X$ はこの上界を達成する。上界を達成する最小の種数の例であり、Klein(1879)が見いだした。
この記事では、$X$ の自己同型を 3 つ具体的に書き(prop-kq-generators)、それらが生成する群が位数 $168$ の自己同型群全体であることを、Hurwitz の上界と Sylow の定理だけから導く(thm-kq-aut)。応用として、自己同型群の作用で特別な点が $24$・$56$・$84$ 点の軌道に分かれること、$24$ 点が変曲点のすべてで、$56$ 点が $28$ 本の複接線の接点であることを示す(prop-kq-orbits、prop-kq-flex-bitangent)。

定義と滑らかさ

以下、$\zeta:=e^{2\pi i/7}$、$\omega:=e^{2\pi i/3}$ とし、$\Phi(x,y,z):=x^3y+y^3z+z^3x$ とおく。

Kleinの4次曲線

$\mathbb{P}^2(\mathbb{C})$ の曲線 $X:=\{(x:y:z)\mid\Phi(x,y,z)=0\}$ を Kleinの4次曲線という。

滑らかさと種数

$X$ は滑らかな平面 4 次曲線であり、種数は $3$ である。

$\Phi_x=3x^2y+z^3$、$\Phi_y=x^3+3y^2z$、$\Phi_z=y^3+3z^2x$ が $(x,y,z)\ne0$ で同時に $0$ になるとする。$x=0$ なら $\Phi_x=0$ から $z=0$、$\Phi_z=0$ から $y=0$ となって矛盾する。3 つの式は $x\to y\to z\to x$ の巡回で入れ替わるので、同様に $y\ne0$、$z\ne0$ である。$z^3=-3x^2y$、$x^3=-3y^2z$、$y^3=-3z^2x$ を掛け合わせると $(xyz)^3=-27(xyz)^3$、すなわち $28(xyz)^3=0$ で、$xyz\ne0$ に反する。よって偏微分が同時に $0$ になる点はなく、$X$ は滑らかである。滑らかな平面曲線は既約である(2 つの成分に分かれれば、Bézoutの定理 によりそれらは交わり、交点は特異点になる)。滑らかな次数 $4$ の平面曲線の種数は $(4-1)(4-2)/2=3$ である(種数公式(平面曲線) の定理「平面曲線の種数公式」の 2)。$\square$

$X$ の複素点の全体はコンパクトで連結なリーマン面で、その種数は $3$ である(Hurwitzの自己同型定理 の補足)。以下 $\operatorname{Aut}(X)$ はリーマン面としての自己同型群を表す。$\mathbb{P}^2$ の射影変換で $X$ を保つものは $\operatorname{Aut}(X)$ の元を与え、異なる射影変換は異なる元を与える($X$ の各点を固定する射影変換の行列について、$X$ の点はどれも固有ベクトルの定める点なので、$X$ は有限個の固有空間の射影化の和集合に含まれる。$X$ は既約なのでそのどれか 1 つに含まれ、$X$ は直線でないから、その固有空間は全体で、射影変換は恒等写像である)。

3 つの自己同型

座標を $x_1:=x$、$x_2:=y$、$x_4:=z$ と、$\mathbb{F}_7$ の平方元の集合 $A:=\{1,2,4\}$ で番号づける。このとき $\Phi=\sum_{a\in A}x_a^3x_{2a}$(添字は $7$ を法とする)である。$c_k:=\zeta^k-\zeta^{-k}$ とし、次の 3 つの行列を考える。
$$ D:=\begin{pmatrix}\zeta&0&0\\0&\zeta^4&0\\0&0&\zeta^2\end{pmatrix},\qquad H:=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&1\\1&0&0\end{pmatrix},\qquad M:=\begin{pmatrix}c_1&c_2&c_4\\c_2&c_4&c_1\\c_4&c_1&c_2\end{pmatrix}. $$
$H$ は $(x,y,z)\mapsto(y,z,x)$ で、$M$ の $(a,b)$ 成分は $c_{ab}$($a,b\in A$)である。$D,H,M$ の定める射影変換を $\sigma,\tau,s$ と書く。

3 つの自己同型
  1. $\Phi\circ D=\Phi$、$\Phi\circ H=\Phi$、$\Phi\circ M=49\,\Phi$ である。したがって $\sigma,\tau,s\in\operatorname{Aut}(X)$ である。
  2. $\sigma$ の位数は $7$、$\tau$ の位数は $3$、$s$ の位数は $2$ で、$\tau\sigma\tau^{-1}=\sigma^4$ である。$\sigma,\tau$ は位数 $21$ の部分群を生成する。
  3. $MH=H^{-1}M$、$M^2=-7I$ である。

要点:$D,H$ は単項式を単項式に写すので直接確かめられる。$M$ については、$\Phi\circ M$ が $H$ で不変であることを 3 から示し、残る 5 つの係数を $\zeta$ の冪の定数項として数える。

詳しい証明を開く

$D$ と $H$。 $D$ で $x^3y,\ y^3z,\ z^3x$ はそれぞれ $\zeta^{3+4},\ \zeta^{12+2},\ \zeta^{6+1}$ 倍、すなわち $1$ 倍される。$\Phi(y,z,x)=y^3z+z^3x+x^3y=\Phi$ である。$D^7=I$ で $D$ はスカラー行列でないから $\sigma$ の位数は $7$、$H^3=I$ から $\tau$ の位数は $3$ である。$\tau^{-1}(x:y:z)=(z:x:y)$ なので $\tau\sigma\tau^{-1}(x:y:z)=(\zeta^4x:\zeta^2y:\zeta z)=\sigma^4(x:y:z)$ である。よって $\langle\sigma\rangle$ は $\langle\sigma,\tau\rangle$ の正規部分群で、$\langle\sigma,\tau\rangle=\{\sigma^i\tau^j\}$ の位数は $21$ である($\tau\notin\langle\sigma\rangle$。$\tau$ は対角行列でない)。

3。 $(Hv)_a=v_{2a}$ なので $(MHv)_a=\sum_bc_{ab}v_{2b}=\sum_{b}c_{4ab}v_b=(Mv)_{4a}=(H^{-1}Mv)_a$ である($2^{-1}=4$)。$(M^2)_{ac}=\sum_{b\in A}(\zeta^{ab}-\zeta^{-ab})(\zeta^{bc}-\zeta^{-bc})=\sum_{t\in\mathbb{F}_7^\times}(\zeta^{t(a+c)}-\zeta^{t(a-c)})$ である($b$ と $-b$ で $\mathbb{F}_7^\times$ を覆う)。$a+c\not\equiv0$($-1$ は平方元でない)なので第 1 項の和は $-1$、第 2 項の和は $a=c$ なら $6$、そうでなければ $-1$ である。よって $M^2=-7I$ で、$s^2=1$、$s\ne1$($M$ はスカラー行列でない)である。

$\Phi\circ M$ の巡回不変性。 $\Psi:=\Phi\circ M$ とおくと、3 から $\Psi\circ H=\Phi\circ H^{-1}\circ M=\Psi$ である。よって $\Psi$ の $x^iy^jz^k$ の係数は $x^ky^iz^j$ の係数に等しく、$15$ 個の単項式は $x^4,\ x^3y,\ x^3z,\ x^2y^2,\ x^2yz$ を代表とする $5$ つの巡回の組に分かれる。

係数を跡で書く。 $M$ の行を $\ell_1=c_1x+c_2y+c_4z$、$\ell_2=c_2x+c_4y+c_1z$、$\ell_3=c_4x+c_1y+c_2z$ と書くと $\Psi=\ell_1^3\ell_2+\ell_2^3\ell_3+\ell_3^3\ell_1$ である。$\varphi$ を $\mathbb{Q}(\zeta)$ の自己同型 $\zeta\mapsto\zeta^2$ とすると、係数ごとに $\ell_2=\varphi(\ell_1)$、$\ell_3=\varphi(\ell_2)$、$\ell_1=\varphi(\ell_3)$ である。$\ell_1^3\ell_2=\sum_ma_mx^m$ と書けば、$\Psi$ の $x^m$ の係数は $T(a_m):=a_m+\varphi(a_m)+\varphi^2(a_m)$ である。

跡は定数項で決まる。 $a_m$ は $c_k$ の 4 つの積の整数係数の和である。$c_k$ を不定元 $Z$ の $Z^k-Z^{-k}$ とみて展開し、指数を $7$ を法として読むと $a_m=\sum_{e\in\mathbb{F}_7}n_e\zeta^e$ となる。$Z\mapsto Z^{-1}$ で各 $c_k$ は $-1$ 倍、4 つの積は不変なので $n_e=n_{-e}$、$Z=1$ で $c_k=0$ なので $\sum_en_e=0$ である。$T(\zeta^e)$ は $e=0$ で $3$、$e\in A$ で $\alpha:=\zeta+\zeta^2+\zeta^4$、$e\in-A$ で $\bar\alpha$ であり、$\alpha+\bar\alpha=-1$ である。$n_A:=\sum_{e\in A}n_e$ とおくと $n_0+2n_A=0$ なので $T(a_m)=3n_0+n_A(\alpha+\bar\alpha)=3n_0+\frac{n_0}2=\frac72n_0$ である。$c_{k_1}c_{k_2}c_{k_3}c_{k_4}$ の定数項 $N(k_1,k_2,k_3,k_4)$ は、符号 $\epsilon_i=\pm1$ のうち $\sum\epsilon_ik_i\equiv0\pmod7$ となるものについての $\epsilon_1\epsilon_2\epsilon_3\epsilon_4$ の和である。

5 つの係数。 $\ell_1^3\ell_2$ を展開して $a_{x^4}=c_1^3c_2$、$a_{x^3y}=c_1^3c_4+3c_1^2c_2^2$、$a_{x^3z}=c_1^4+3c_1^2c_2c_4$、$a_{x^2y^2}=3c_1^2c_2c_4+3c_1c_2^3$、$a_{x^2yz}=3c_1^3c_2+3c_1^2c_4^2+6c_1c_2^2c_4$ である。符号の和を数えると $N(1,1,1,2)=0$($\pm1\pm1\pm1\pm2$ は奇数で絶対値 $5$ 以下)、$N(1,1,1,4)=2$($\pm(1+1+1+4)$)、$N(1,1,2,2)=4$($1$ どうし・$2$ どうしが逆符号の 4 通り)、$N(1,1,1,1)=6$(2 つが $+$)、$N(1,1,2,4)=-2$($\pm(1+1+2-4)$)、$N(1,2,2,2)=2$($\pm(1+2+2+2)$)、$N(1,1,4,4)=4$($1$ どうし・$4$ どうしが逆符号の 4 通り)、$N(1,2,2,4)=-2$($\pm(-1+2+2+4)$)である。よって $n_0$ は順に $0$、$2+12=14$、$6-6=0$、$-6+6=0$、$0+12-12=0$ で、$\Psi$ の係数は $x^3y$ の組で $\frac72\cdot14=49$、ほかは $0$ である。すなわち $\Psi=49\Phi$ である。$\square$

$M$ を $-1/\sqrt{-7}$ 倍した行列は、3 の $M^2=-7I$ から $2$ 乗が単位行列になる。$M$ は、$\mathbb{F}_7$ の上の奇関数 $f$ を $(f(1),f(2),f(4))$ と同一視したときの離散 Fourier 変換 $f\mapsto\sum_t\zeta^{bt}f(t)$ にあたる(Elk99 §1.1、pp. 54–55)。

自己同型群の位数

自己同型群

$\operatorname{Aut}(X)$ の位数は $168=84(3-1)$ で、$\sigma,\tau,s$ で生成される。とくに $X$ の自己同型はすべて $\mathbb{P}^2$ の射影変換の制限である。

$G_0:=\langle\sigma,\tau,s\rangle\subset\operatorname{Aut}(X)$ とおく。Hurwitzの自己同型定理 の定理「自己同型群の位数の上界」により $\lvert G_0\rvert\le\lvert\operatorname{Aut}(X)\rvert\le84(3-1)=168$ である。prop-kq-generators の 2 から $G_0$ は位数 $7,3,2$ の元をもつので、Lagrange の定理により $42$ は $\lvert G_0\rvert$ を割り、$\lvert G_0\rvert$ は $42,84,126,168$ のどれかである。$168=2^3\cdot3\cdot7$ なので、$\langle\sigma\rangle$ は $G_0$ の Sylow $7$ 部分群である。
$\langle\sigma\rangle$ は $G_0$ の正規部分群でない。正規なら $s\sigma s^{-1}=\sigma^k$ となる $k$ があり、$MDM^{-1}=\mu D^k$($\mu$ はスカラー)である。$D^k$($1\le k\le6$)の固有値 $\zeta^k,\zeta^{4k},\zeta^{2k}$ は相異なるので、その固有直線は座標軸だけであり、$M$ は $D$ の固有直線 $\mathbb{C}e_1,\mathbb{C}e_2,\mathbb{C}e_3$ を $\mu D^k$ の固有直線、すなわち座標軸に写す。すると $M$ の各列は成分が 1 つだけ $0$ でないことになるが、$c_k\ne0$($1\le k\le6$)なので $M$ の成分はすべて $0$ でなく、矛盾する。
Sylow の定理により、$G_0$ の Sylow $7$ 部分群の個数 $n_7$ は $\lvert G_0\rvert/7$ を割り、$7$ を法として $1$ に合同である(Sylowの定理 の定理「Sylowの定理の主張」)。$\lvert G_0\rvert=42,84,126$ なら $\lvert G_0\rvert/7=6,12,18$ で、その約数のうち $7$ を法として $1$ に合同なのは $1$ だけなので $n_7=1$ となり、Sylow $7$ 部分群が正規になって上と矛盾する(Sylowの定理 の系「Sylow部分群が正規である条件」)。よって $\lvert G_0\rvert=168$ で、$G_0=\operatorname{Aut}(X)$ である。$\square$

この群は位数 $168$ の単純群 $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{F}_7)$ と同型であり(Elk99 序文と記号の節、pp. 51–52)、$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{F}_7)\cong\operatorname{GL}_3(\mathbb{F}_2)$ なので Fano平面 の自己同型群とも同型である。上の証明はこの同型を使っていない。さらに、種数 $3$ で $168$ 個の自己同型をもつ曲線は $X$ だけである(Elk99 §2.2、pp. 69–70。この記事では証明しない)。

特別な点の軌道

軌道の分解

$G:=\operatorname{Aut}(X)$ とする。商 $X/G$ は $\mathbb{P}^1$ で、商写像 $X\to X/G$ の分岐値はちょうど 3 つ、その上の点の固定部分群は位数 $2,3,7$ の巡回群である。したがって固定部分群が自明でない点は、$84$ 点・$56$ 点・$24$ 点の 3 つの軌道をなす。$24$ 点の軌道は $(1:0:0)$ を、$56$ 点の軌道は $(1:\omega:\omega^2)$ と $(1:\omega^2:\omega)$ を含む。

$\lvert G\rvert=84(g-1)$ なので、Hurwitzの自己同型定理 の定理「自己同型群の位数の上界」の等号の条件から、$X/G$ は種数 $0$、分岐値は 3 つで、局所分岐指数は $2,3,7$ である。Hurwitzの自己同型定理 の命題「有限群による商」により、固定部分群は巡回群で位数は局所分岐指数に等しく、分岐値 $y_i$ の上の点は $\lvert G\rvert/m_i$ 個である。よって軌道の大きさは $168/2=84$、$168/3=56$、$168/7=24$ である。$(1:0:0)$ は $\sigma$ で固定され、$\Phi(1,0,0)=0$ なので $X$ の点で、固定部分群の位数は $7$ の倍数だから $7$ である。$\Phi(1,\omega,\omega^2)=\omega+\omega^5+\omega^6=\omega+\omega^2+1=0$、$\Phi(1,\omega^2,\omega)=\omega^2+\omega^7+\omega^3=0$ で、どちらも $\tau$ で固定される($(\omega:\omega^2:1)=(1:\omega:\omega^2)$)。固定部分群の位数は $3$ の倍数で、$2,3,7$ のどれかなので $3$ である。$\square$

Riemann–Hurwitz の式で確かめると、$2g-2=4$ に対して
$$ 168\Bigl(-2+\bigl(1-\tfrac12\bigr)+\bigl(1-\tfrac13\bigr)+\bigl(1-\tfrac17\bigr)\Bigr)=168\cdot\frac1{42}=4 $$
であり、分岐の指数 $(2,3,7)$ と軌道の大きさ $84,56,24$ がつじつまの合うことが分かる(Hurwitzの自己同型定理 の補題「商写像の Riemann–Hurwitz」)。

位数 21 の部分群による商

$H_{21}:=\langle\sigma,\tau\rangle$(prop-kq-generators の 2)による商 $X/H_{21}$ は $\mathbb{P}^1$ で、分岐の指数は $(3,3,7)$ である。
$H_{21}$ で固定部分群が自明でない点を調べる。$\langle\sigma\rangle$ は $H_{21}$ のただ 1 つの位数 $7$ の部分群で、$\sigma^k$($1\le k\le6$)の固定点は座標の 3 点だけである。3 点は $\tau$ で巡回するので、固定部分群が位数 $7$ の点は 1 つの軌道(3 点)をなす。位数 $3$ の部分群は $\langle\sigma^i\tau\sigma^{-i}\rangle$($0\le i\le6$)の $7$ 個で、$\tau$ の $\mathbb{P}^2$ での固定点 $(1:1:1)$、$(1:\omega:\omega^2)$、$(1:\omega^2:\omega)$ のうち $X$ の上にあるのは後の 2 点である($\Phi(1,1,1)=3$)。prop-kq-orbits により $X$ のどの点の固定部分群も位数 $1,2,3,7$ の巡回群なので、位数 $3$ の部分群の固定点は互いに異なり、全部で $7\cdot2=14$ 点、2 つの軌道(7 点ずつ)をなす。商の種数を $h$ とすると、Hurwitzの自己同型定理 の補題「商写像の Riemann–Hurwitz」から
$$ 4=21\Bigl(2h-2+\bigl(1-\tfrac17\bigr)+2\bigl(1-\tfrac13\bigr)\Bigr)=21(2h-2)+18+28 $$
で、$2h-2=-2$、すなわち $h=0$ である。$G=\operatorname{Aut}(X)$ による商と比べると、$X\to X/H_{21}\to X/G$ の後半は次数 $8$ の写像 $\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^1$ である。

変曲点と複接線
  1. $X$ の変曲点はちょうど $24$ 個で、prop-kq-orbits の $24$ 点の軌道に一致する。どれも通常の変曲点(接線との交点数 $3$)である。
  2. 直線 $x+y+z=0$ は $X$ と $(1:\omega:\omega^2)$、$(1:\omega^2:\omega)$ の 2 点だけで交わり、どちらの点でも接する(複接線)。$56$ 点の軌道の点での接線は $28$ 本の複接線で、それぞれ軌道のちょうど 2 点で接する。

1.$(1:0:0)$ での接線は、偏微分 $(\Phi_x,\Phi_y,\Phi_z)=(0,1,0)$ から $y=0$ である。$y=0$ を代入すると $\Phi=z^3x$ なので、接線は $(1:0:0)$ で $X$ と交点数 $3$ で交わり、$(1:0:0)$ は変曲点である。thm-kq-aut により $G$ の元は射影変換で、直線との交点数を保つから、軌道の $24$ 点はどれも変曲点で、接線との交点数は $3$ である。一方、滑らかな次数 $d$ の平面曲線の変曲点を接線との交点数から $2$ を引いた重みで数えると $3d(d-2)=24$ 個である(Plückerの公式 の定理「非特異曲線の変曲点の個数」)。軌道の $24$ 点がそれぞれ重み $1$ をもつので、ほかに変曲点はない。
2.$z=-x-y$ を代入すると $\Phi(x,y,-x-y)=-(x^2+xy+y^2)^2=-(x-\omega y)^2(x-\omega^2y)^2$ である。$x=\omega y$ の点は $(\omega:1:\omega^2)=(1:\omega^2:\omega)$、$x=\omega^2y$ の点は $(1:\omega:\omega^2)$ で、直線は $X$ とこの 2 点で交点数 $2$ ずつ交わる。よって 2 点はこの直線を接線にもち、直線は $X$ とほかの点で交わらない。$g\in G$ は射影変換なので、$56$ 点の軌道の点 $gP$($P=(1:\omega:\omega^2)$)での接線は $g$ による直線の像で、やはり軌道の 2 点だけで接する複接線である。各接線がちょうど 2 点の接線になるので、本数は $56/2=28$ である。$\square$

滑らかな平面 4 次曲線の複接線は $28$ 本である(Elk99 §2.1、p. 66)ので、2 の $28$ 本が $X$ の複接線のすべてである。$84$ 点の軌道は位数 $2$ の元の固定点で、それぞれの位数 $2$ の元は固定直線の上に $X$ の 4 点を固定する(同 §2.1 の命題 (iii)、p. 64)。

反例

thm-kq-aut と prop-kq-smooth は複素数体の上の主張で、係数体や方程式を替えると成り立たない。

変える条件反例成り立たなくなること
基礎体の標数 $0$(標数 $7$ にする)$\overline{\mathbb{F}}_7$ の上の $x^3y+y^3z+z^3x=0$滑らかであること
基礎体の標数 $0$(標数 $3$ にする)$\overline{\mathbb{F}}_3$ の上の $x^3y+y^3z+z^3x=0$自己同型が $84(g-1)$ 個以下であること
方程式 $\Phi=0$Fermat の 4 次曲線 $x^4+y^4+z^4=0$自己同型が $168$ 個あること
反例の確かめ

1 行目:prf-kq-smooth の最後の $28(xyz)^3=0$ は、標数 $7$ では矛盾にならない。実際、$\mathbb{F}_7$ で $(x,y,z)=(1,2,4)$ とすると $\Phi=2+32+64=98$、$\Phi_x=6+64=70$、$\Phi_y=1+48=49$、$\Phi_z=8+48=56$ はすべて $7$ の倍数で、$(1:2:4)$ は特異点である。
2 行目:標数 $3$ では、Klein の 4 次曲線は Fermat の 4 次曲線 $x^4+y^4+z^4=0$ と同型になり、$\overline{\mathbb{F}}_3$ の上の自己同型群は位数 $6048$ のユニタリ群 $\mathrm{U}_3(3)$ である(Elk99 §3.3、pp. 79–80)。種数は $3$ のままで、$6048>168=84(g-1)$ である。標数 $3$ では prf-kq-smooth の $3x^2y$ などの項が消えて偏微分は $z^3,x^3,y^3$ となり、同時に $0$ になるのは $x=y=z=0$ だけなので、曲線は滑らかである。Hurwitz の上界は標数 $0$ の定理である(Hurwitzの自己同型定理 の反例の表)。
3 行目:Fermat の 4 次曲線も滑らかな種数 $3$ の曲線で、座標の置換と座標の $4$ 乗根倍で $6\cdot16=96$ 個の自己同型をもつ($1$ の $4$ 乗根による対角行列 $64$ 個をスカラー倍で割った $16$ 個と、置換 $6$ 個)。標数 $0$ での自己同型群はちょうどこの位数 $96$ の群である(Elk99 §3.3、p. 80。複素数の上での証明は Fermat曲線 の定理「自己同型群」にある)。種数 $3$ の曲線がすべて上界に達するわけではない。

補足

  • $X$ は法 $7$ の主合同部分群によるモジュラー曲線 $X(7)$ と同型であり、$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{F}_7)=\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})/\pm\Gamma(7)$ の作用が自己同型群を与える(Elk99 §4.1、pp. 83–87)。モジュラー曲線 の記事も参照。
  • prop-kq-orbits の $24$ 点は $X$ の Weierstrass点 でもある。滑らかな平面 4 次曲線では、Weierstrass 点は変曲点と一致する(Elk99 §2.1、p. 65)。

関連項目

参考文献

[1]
Noam D. Elkies, The Klein Quartic in Number Theory, S. Levy (ed.), The Eightfold Way: The Beauty of Klein's Quartic Curve, MSRI Publications 35, Cambridge University Press, pp. 51–101, 1999, 序文と記号の節(pp. 51–52、自己同型群 $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{F}_7)$)、§1.1(pp. 54–55、対合 (1.3) と離散 Fourier 変換)、§2.1(p. 64 の命題、p. 65 の Weierstrass 点、p. 66 の 28 本の複接線)、§2.2(pp. 69–70、種数 3 の Hurwitz 曲線の一意性)、§3.3(pp. 79–80、標数 3 での Fermat 曲線との同型と位数 6048 の自己同型群、標数 0 の Fermat 4 次曲線の位数 96 の自己同型群)、§4.1(pp. 83–87、モジュラー曲線 $X(7)$ との同一視)

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