不動点

同義語:固定点fixed point

概要

不動点(fixed point)とは、自己写像 $f$ で $f(x)=x$ となる点 $x$ である。閉区間の連続自己写像は必ず不動点をもち、非空完備距離空間の収縮写像はただ一つの不動点をもって、反復 $x_{n+1}=f(x_n)$ はそこへ収束する。完備でない開区間、不動点はあるが反復が収束しない $f(x)=1-x$、距離を縮めるが共通の収縮率をもたない写像では、これらの結論の一部が成り立たない。単純根は Newton 法の反復写像の不動点で、Brouwer の不動点定理は存在定理を有限次元のコンパクト凸集合へ広げる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 写像, 距離空間, 連続関数, 完備距離空間

写像をかけても動かない点

不動点(fixed point)とは、集合 $X$ からそれ自身への写像 $f\colon X\to X$ について、$f(p)=p$ を満たす元 $p\in X$ である。点が「動かない」という表現は写像の値と元の点が等しいという意味であって、時間変化や力学系を最初から仮定するものではない。例えば恒等写像では全ての点が不動点であり、実数上の平行移動 $f(x)=x+1$ には不動点がない。$f(x)=x^2$ を $\mathbb R$ 上で考えると $0$ と $1$ が不動点である。同じ式でも、定義域を $[0,1)$ に制限すれば $1$ は候補から消える。
不動点を求める問題には、異なる三つの問いがある。存在するか、存在すれば一意か、ある初期値から $x_{n+1}=f(x_n)$ と反復したとき不動点へ収束するかである。一つが分かっても他の二つは自動でない。閉区間の連続自己写像には不動点が存在するが複数の場合があり、ただ一つあっても反復が収束するとは限らない。非空完備距離空間の収縮自己写像には不動点がただ一つ存在し、任意の初期値からの反復がそこへ収束する。条件と結論を分けて使うことが重要である。GD03
既存の反復漸化式の記事は特定の実区間上での計算や数列の収束を詳しく扱う。本記事はまず一般の自己写像の用語を定め、位相的な存在定理と距離による存在・一意性・近似評価の差を示す。Newton法や Henselの補題 は方程式の解を逐次的に求める場面で不動点の考え方に接続するが、それぞれ独自の仮定と証明を持つため、本記事の定理から無条件に導かれるとは述べない。

定義と不動点集合

定義域と終域が同じ集合であることを、自己写像という。$f\colon X\to Y$ で $X\ne Y$ の場合には、$f(x)=x$ という等式の両辺が同じ集合の元として比較できるとは限らない。方程式の解を不動点問題に変換するときは、解を探す集合 $X$ を先に決め、構成した写像が本当に $X$ を $X$ に写すかを確かめる。

不動点と不動点集合

集合 $X$ の自己写像 $f\colon X\to X$ に対し、$f(p)=p$ となる $p\in X$ を $f$ の不動点という。不動点全体を
$$ \operatorname{Fix}(f)=\{p\in X\mid f(p)=p\} $$
と書く。これは空集合、一点集合、または複数の点を含む集合になりうる。

不動点集合の三つの形

$X=\mathbb R$ で $f(x)=x+1$ なら $\operatorname{Fix}(f)=\emptyset$。$f(x)=x^2$ なら $\operatorname{Fix}(f)=\{0,1\}$。恒等写像なら $\operatorname{Fix}(f)=\mathbb R$。写像が連続かどうかだけでは、これらのうちどれになるか決まらない。三つの写像はいずれも連続である。

座標の取り方を変えても不動点の概念は変わらない。$h\colon X\to Y$ が全単射なら、$g=h\circ f\circ h^{-1}\colon Y\to Y$ を $f$ と共役な写像という。$g$ の不動点は $f$ の不動点を $h$ で移したものである。例えば実数上の写像の変数を $u=h(x)$ と置き換えて方程式を簡単にする操作は、この性質を利用している。

共役による不動点の保存

$h\colon X\to Y$ が全単射、$f\colon X\to X$ が自己写像、$g=hfh^{-1}$ とすると、
$$ \operatorname{Fix}(g)=h\bigl(\operatorname{Fix}(f)\bigr) $$
である。

等式を両方向に移す

$x\in\operatorname{Fix}(f)$ なら $g(h(x))=h(f(x))=h(x)$ なので $h(x)\in\operatorname{Fix}(g)$。逆に $y\in\operatorname{Fix}(g)$ とし $x=h^{-1}(y)$ とおくと、$h(f(x))=g(h(x))=g(y)=y=h(x)$。$h$ が単射だから $f(x)=x$ であり、$y=h(x)$ は右辺に属する。よって両集合は一致する。$\square$

反復写像 $f^n$ の不動点は $f$ の不動点と同じとは限らない。$f(p)=p$ なら当然 $f^n(p)=p$ だが、逆向きには周期 $n$ の点が加わる。$[0,1]$ 上の $f(x)=1-x$ では $f$ の不動点は $1/2$ だけなのに、$f^2$ は恒等写像なので全点が $f^2$ の不動点となる。この例は「二回後に戻る」を「一回でも動かない」と取り違えないためにも有用である。

連続な閉区間自己写像

連続性と閉区間という幾何学的条件からは、少なくとも一つの不動点が得られる。ここでは縮小率を仮定せず、中間値の定理だけを使う。この方法は一変数の区間に特有の順序を利用する。定理の結論は存在であり、一意性も反復収束も含まない。GD03 第2章。

閉区間の不動点

$a\le b$ とし、$f\colon[a,b]\to[a,b]$ が連続なら、ある $p\in[a,b]$ に対して $f(p)=p$ となる。

差をとって中間値の定理を使う

$a=b$ なら写像の値は $a$ だけなので $a$ が不動点である。$a< b$ とし、$g(x)=f(x)-x$ とおく。$f(a)\in[a,b]$ より $g(a)=f(a)-a\ge0$、$f(b)\in[a,b]$ より $g(b)=f(b)-b\le0$。端点で $g=0$ ならその端点が不動点である。そうでなければ $g(a)>0>g(b)$ で、$g$ の連続性と中間値の定理により $g(p)=0$ となる $p\in(a,b)$ が存在する。これが $f(p)=p$ である。$\square$

$f(x)=x$ なら不動点は区間の全点であるから、一意性は期待できない。$f(x)=1-x$ を $[0,1]$ 上で考えると不動点は $1/2$ だけだが、$x_0\ne1/2$ から始める反復は $x_0,1-x_0,x_0,\ldots$ と往復し収束しない。従って「連続な閉区間自己写像」という仮定は不動点の存在には十分でも、反復でその点を計算するには不足する。
閉区間の仮定を弱めると結論が壊れる。開区間 $X=(0,1)$ で $f(x)=(x+1)/2$ とすると $f(X)\subset X$ で $f$ は連続だが、方程式 $f(x)=x$ の解は $x=1$ であり $X$ の外にある。区間でないコンパクト集合でも、例えば二点集合 $X=\{0,1\}$ に離散位相を入れ $f(0)=1,f(1)=0$ とすれば、$f$ は連続な自己写像だが不動点はない。必要なのは単に「閉」や「コンパクト」だけではなく、定理に書かれた空間の形である。

完備距離空間の収縮写像

距離空間 $(X,d)$ の自己写像 $f$ が、一つの共通の定数 $q$($0\le q<1$)について
$$ d(f(x),f(y))\le q\,d(x,y)\qquad(x,y\in X) $$
を満たすとき、$f$ を収縮写像という。各点ごとに距離が少し短くなるだけでは足りず、全ての二点に共通の $q<1$ が必要である。収縮写像は Lipschitz 連続だから連続だが、連続写像一般よりはるかに強い仮定を置いている。$X$ が非空で完備なら、縮小が作る反復列の極限が $X$ の中に残る。GD03 第2章。

完備距離空間の収縮写像定理

$(X,d)$ を非空の完備距離空間とし、$f\colon X\to X$ が $0\le q<1$ を共通の収縮率とする収縮写像なら、$f$ はただ一つの不動点 $p$ を持つ。任意の $x_0\in X$ から $x_{n+1}=f(x_n)$ と定めた列は $p$ に収束する。さらに
$$ d(x_n,p)\le\frac{q^n}{1-q}d(x_1,x_0),\qquad d(x_n,p)\le q^n d(x_0,p) $$
が成り立つ。

反復列をCauchy列として収束させる

$x_0\in X$ を任意に取る。収縮の不等式を繰り返すと $d(x_{n+1},x_n)\le q^n d(x_1,x_0)$。$m>n$ なら三角不等式と等比級数により
$$ d(x_m,x_n)\le\sum_{j=n}^{m-1}d(x_{j+1},x_j) \le\frac{q^n}{1-q}d(x_1,x_0). $$
$q^n\to0$ なので $(x_n)$ は Cauchy 列である。完備性から $p\in X$ へ収束する。$f$ は Lipschitz 連続だから $f(p)=\lim f(x_n)=\lim x_{n+1}=p$。もし $p,r$ が二つの不動点なら $d(p,r)=d(f(p),f(r))\le qd(p,r)$ で、$q<1$ より $d(p,r)=0$、従って $p=r$。最初の誤差評価は上の式で $m\to\infty$ とすれば得られる。二番目は $d(f^n(x_0),f^n(p))\le q^n d(x_0,p)$ から得られる。$\square$

この定理では「存在」「一意」「任意の初期値からの収束」を同時に得るが、各結論の理由は分かれている。存在と反復収束には、反復列が極限を持つための完備性と、極限が固定されるための連続性を使う。一意性には $q<1$ の不等式だけを使い、完備性は使わない。非空を明記するのは、空集合も通常は完備距離空間とみなせるが不動点を含まないからである。また $f\colon X\to X$ という全域自己写像を明記するのは、反復を何度でも続けるためである。

完備性を外すと存在しない

$X=(0,1)$ に通常の距離を入れ、$f(x)=x/2$ とおく。$f(X)\subset X$、収縮率は $1/2$ である。しかし唯一の代数的な解 $x=0$ は $X$ にないので不動点はない。任意の反復は $0$ に近づくが、$0$ は空間の外にある。$(0,1)$ が完備でないことが定理の仮定から外れる箇所である。

単に $d(f(x),f(y))< d(x,y)$ が $x\ne y$ ごとに成り立つという条件からも、完備距離空間上での不動点の存在は一般には従わない。実数全体で $f(x)=x+\frac1{1+e^x}$ とおくと $f(x)>x$ なので不動点はない。一方 $f'(x)=1-\frac{e^x}{(1+e^x)^2}$ は全ての $x$ で $0< f'(x)<1$ であるから、平均値の定理により異なる二点の距離は真に縮む。しかし $x\to-\infty$ または $x\to\infty$ で $f'(x)\to1$ なので、全域で使える共通の $q<1$ はない。点ごとの厳密不等式と一様な収縮率を混同してはいけない。

誤差評価と計算の例

収縮写像定理の第1の誤差評価は、未知の不動点 $p$ を右辺に含まない。既知の $x_0,x_1$ と $q$ だけから、$n$ 回後の距離を上から押さえられる。$n\ge1$ ではさらに
$$ d(x_n,p)\le\frac{q}{1-q}d(x_n,x_{n-1}) $$
と書ける。なぜなら $d(x_{n+j+1},x_{n+j})\le q^{j+1}d(x_n,x_{n-1})$ を $j\ge0$ について足せるからである。計算機で反復を止める基準にするときは、求める許容誤差と実際に得た連続する二項の距離を比較できる。

余弦関数の不動点

$X=[0,1]$、$f(x)=\cos x$ とする。$\cos X=[\cos1,1]\subset X$ であり、平均値の定理から
$$ |\cos x-\cos y|\le(\sin1)|x-y|\qquad(x,y\in[0,1]) $$
となる。$0<\sin1<1$ なので収縮写像定理により $\cos p=p$ となる $p\in[0,1]$ は一つで、どの $x_0\in[0,1]$ からの反復も $p$ に収束する。閉区間の定理だけなら存在しか分からないが、収縮率を計算すると一意性と数値近似の保証が加わる。

一方、$f(x)=x$ は閉区間上で全点を不動点にするが、Lipschitz 定数の最小値は $1$ であり収縮率 $q<1$ を持たない。$f(x)=1-x$ は不動点を一つ持つが、反復が一般に収束しない。この二例を並べると、連続性に収縮性を加えたことで何が増えたかが明瞭になる。収縮写像定理の対象は関数に限らず、方程式を解くために設計した作用素や積分作用素でもよい。ただし各応用では、その作用素が選んだ完備距離空間を自分自身に写し、共通の収縮率を持つことを個別に示す必要がある。

反復された写像が収縮する場合

元の写像 $f$ 自身は収縮でなくても、ある正整数 $m$ に対して $f^m$ が収縮なら不動点を得られる。定理を $f^m$ に適用すると、その唯一の不動点 $p$ がまず得られる。$f$ と $f^m$ は可換なので $f(p)$ も $f^m$ の不動点となり、一意性から $f(p)=p$ と分かる。これによって元の写像の不動点もただ一つである。単に $f^m$ が不動点を持つだけでは、前に見た $f(x)=1-x$ の例のように $f$ の不動点と一致しない。一意性が橋渡しに使われている。

ある反復が収縮なら元も不動点を持つ

非空完備距離空間 $X$ の自己写像 $f$ について、ある $m\ge1$ で $f^m$ が収縮写像なら、$f$ は唯一の不動点 $p$ を持つ。$f$ の任意の初期値からの反復も $p$ に収束する。

一意な周期点と剰余類を使う

収縮写像定理により $f^m$ の唯一の不動点 $p$ がある。$f^m(f(p))=f(f^m(p))=f(p)$ なので $f(p)$ も $f^m$ の不動点であり、一意性から $f(p)=p$。$f$ の不動点は $f^m$ の不動点でもあるため、$p$ 以外にない。初期値 $x_0$ と $0\le r< m$ を固定すると、部分列 $f^{mk+r}(x_0)=(f^m)^k(f^r(x_0))$ は収縮写像定理により $p$ に収束する。剰余 $r$ は有限個なので、全列 $f^n(x_0)$ も $p$ に収束する。$\square$

この命題は、有界作用素のある反復だけが強く縮むような場合にも使える。ただし「ある $m$ で $f^m$ が連続」だけでは不足する。収縮率を全域で示し、$f^m$ が自己写像であることを確かめる必要がある。また $f^m$ の唯一の不動点が $f$ の不動点になる証明には、$f$ 自体の連続性は使っていない。この点も仮定を読み分ける助けになる。

高次元の存在定理との違い

有限次元のユークリッド空間で、空でないコンパクト凸集合 $C\subset\mathbb R^n$ と連続自己写像 $f\colon C\to C$ を取ると、Brouwer の不動点定理により $f$ は少なくとも一つの不動点を持つ。閉球や単体はその代表例である。コンパクト性・凸性・有限次元性を省いて「連続な自己写像には不動点がある」と一般化してはいけない。この存在定理も、不動点の一意性や単純な反復 $f^n(x_0)$ の収束を主張しない。$[0,1]$ の $f(x)=1-x$ はその違いを一次元で示す。GD03 第2章。
無限次元では、有界閉凸集合は一般にコンパクトでないため、Brouwer の定理をそのまま適用できない。Schauder 型の不動点定理は、Banach 空間の非空閉凸集合とコンパクト性を伴う写像など、別の条件で存在を保証する。どの版を使うかによって「集合がコンパクト」か「写像がコンパクト」かの仮定が変わる。本記事ではこれらを収縮写像定理の系として扱わず、存在だけを保証する別系列の結果として位置付ける。GD03
連続写像の定理と収縮写像定理の関係は強弱の一列ではない。例えば $\mathbb R$ は完備だがコンパクトでなく、収縮自己写像には不動点がある。閉球はコンパクト凸なので任意の連続自己写像に不動点があるが、その写像が収縮であるとは限らない。前者は距離の縮小と完備性、後者は位相と凸性を利用する。目的が数値近似まで含むなら、存在定理を一つ引用するだけでなく、反復の収束や誤差評価が別途必要になる。

Newton法と局所的な不動点

方程式 $F(x)=0$ を解く Newton 法は、$F'(x)\ne0$ のところで
$$ N(x)=x-\frac{F(x)}{F'(x)} $$
という反復写像を使う。$F(p)=0$ かつ $F'(p)\ne0$ なら $N(p)=p$ であり、単純根は Newton 写像の不動点である。$F$ が $p$ の近くで二回連続微分可能なら
$$ N'(x)=\frac{F(x)F''(x)}{F'(x)^2},\qquad N'(p)=0. $$
従って十分小さい閉区間 $I=[p-r,p+r]$ 上で $F'$ が零にならず、$|N'|\le q<1$ とできる。$N(p)=p$ だから平均値の定理により $|N(x)-p|\le q|x-p|\le qr< r$ で、$N(I)\subset I$。$I$ は完備なので、収縮写像定理から $I$ 内の任意の初期値の反復は $p$ に収束する。これは根 $p$ が既に単純根として存在するときの局所的な議論であり、任意の初期値から Newton 法が必ず収束すると言っていない。詳しい近似速度と停止条件はNewton法で扱う。
$p$ 進数の Newton 型反復にも、不動点を逐次近似する発想が現れる。ただし Henselの補題 は $p$ 進完備性、導関数の単元性や合同式の仮定を用いる。実数の距離と同じ収縮率をそのまま流用するものではない。例えば $p$ 進整数の多項式 $F$ について $F(a)\equiv0\pmod p$ かつ $F'(a)\not\equiv0\pmod p$ なら、適切な $p$ 進条件の下で根を一意に持ち上げられる。根を求める写像の設計と、どの集合を自己写像にするかが肝要である。この横断的な見方は役に立つが、Hensel の補題の一意な持上げを実数の Banach 収縮定理だけから証明したことにはならない。

どの条件を使ったか

不動点の議論では、命題を見た時点で「どの集合の自己写像か」を書き、次に「存在」「一意」「反復収束」のどれを結論としているかを分けると誤用を防げる。閉区間の連続写像には存在があるが、恒等写像には一意性がなく、反転写像には一般の反復収束がない。完備距離空間の収縮自己写像には三つがそろうが、開区間 $(0,1)$ の $x/2$ は極限が空間の外へ出る。高次元の Brouwer 型の存在定理にも、収束の結論は入っていない。
方程式 $F(x)=0$ を $f(x)=x$ に書き換える方法も一意でない。例えば $f(x)=x-\lambda F(x)$ と選ぶと、不動点の集合は $\lambda\ne0$ なら $F$ の零点集合と一致する。しかし $\lambda$ の選び方により $f$ の Lipschitz 定数、自己写像となる領域、反復の挙動が変わる。不動点集合の一致だけから計算方法の収束を主張できない。証明で確かめる対象は方程式の形だけでなく、その写像が置かれた空間と距離、そして反復を支える一様な評価である。

仮定を外したときの反例

閉区間の不動点定理、収縮写像定理、Brouwer の定理の仮定を一つずつ外し、どの結論が成り立たなくなるかを一覧にする。

外す条件反例成り立たなくなること
区間が端点を含む$(0,1)$ 上の $f(x)=(x+1)/2$連続自己写像が不動点を持つ
区間である(連結)離散二点集合 $\{0,1\}$ 上の入れ替え連続自己写像が不動点を持つ
有界(コンパクト)$\mathbb R$ 上の $f(x)=x+1$連続自己写像が不動点を持つ
凸単位円 $S^1\subset\mathbb R^2$ 上の $180$ 度回転コンパクト集合の連続自己写像が不動点を持つ
収縮性(連続性だけ)$[0,1]$ 上の $f(x)=1-x$反復 $x_{n+1}=f(x_n)$ が不動点に収束する
$q<1$($q=1$ を許す)$[0,1]$ 上の恒等写像不動点がただ一つ
共通の収縮率 $q$$\mathbb R$ 上の $f(x)=x+\frac1{1+e^x}$距離を真に縮める写像が不動点を持つ
完備性$(0,1)$ 上の $f(x)=x/2$収縮写像が不動点を持つ
非空空集合上の空写像収縮写像が不動点を持つ

表の多くは本文で確かめた。残る三行を確かめる。

平行移動・円周の回転・空写像

平行移動。 $f(x)=x+1$ は $\mathbb R$ の連続自己写像で、$f(x)=x$ は $1=0$ を意味するので不動点はない。$\mathbb R$ は凸だが有界でなく、コンパクトでない。Brouwer の定理のコンパクト性の仮定が破れている。
円周の回転。 $S^1=\{(x,y):x^2+y^2=1\}$ は有界閉集合でコンパクトだが、$(1,0)$ と $(-1,0)$ の中点 $(0,0)$ を含まないので凸でない。$f(x,y)=(-x,-y)$ は連続で $S^1$ を $S^1$ に写す。$f(x,y)=(x,y)$ なら $x=y=0$ となるが、これは $S^1$ の点でない。従って不動点はない。Brouwer の定理から凸性(より正確には、閉円板のような形であること)は省けない。
空集合。 空集合は完備距離空間であり、空写像はどの二点についても収縮の不等式を満たす(点がないので条件は自明に成り立つ)。しかし不動点は存在しない。収縮写像定理の「非空」はこの場合を除くために置いている。

関連項目

参考文献

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