Lipschitz連続(Lipschitz continuity)とは、距離空間の間の写像 $f$ について、ある定数 $L\ge0$ があってすべての $x,x'$ で $d(f(x),f(x'))\le L\,d(x,x')$ が成り立つ性質である。出力の変化が入力の変化の $L$ 倍を超えないことを意味し、Lipschitz 連続な写像は一様連続である。区間上の微分可能な実関数では、$L$ で抑えられることと導関数の絶対値が $L$ 以下であることが同値である。$|x|$ は Lipschitz 連続だが $0$ で微分できず、$[0,\infty)$ 上の $\sqrt x$ は一様連続だが Lipschitz 連続でない。$L<1$ の場合が縮小写像であり、右辺が連続で未知関数について局所 Lipschitz 連続な常微分方程式の初期値問題は、局所的に解をただ一つもつ。
前提知識: 距離空間, 実数, 一様連続, 平均値の定理
Lipschitz 連続は、写像の出力の変化が入力の変化の定数倍で抑えられるという性質である。実数の関数で考えると分かりやすい。$f(x)=3x+1$ では $|f(x)-f(y)|=3|x-y|$ なので、入力が $0.1$ 動けば出力はちょうど $0.3$ 動き、どこでも「$3$ 倍」を超えない。$f(x)=|x|$ では $\bigl||x|-|y|\bigr|\le|x-y|$ で、倍率は $1$ 以下である。区間 $[0,1]$ 上の $x^2$ では $|x^2-y^2|=|x+y|\,|x-y|\le2|x-y|$ なので倍率は $2$ 以下である。これに対し $[0,1]$ 上の $\sqrt x$ では、$y=0$ と比べた比 $\sqrt x/x=1/\sqrt x$ が $x\to0$ でいくらでも大きくなり、どんな倍率でも抑えられない。グラフで言えば、Lipschitz 連続とは「グラフ上の 2 点を結ぶ線分の傾きの絶対値が一定の数 $L$ を超えない」ことであり、グラフの各点から傾き $\pm L$ の 2 本の直線を引くと、グラフ全体がその間(左右に開いたくさび形)に収まる。
以下、記法は 一様連続 の記事に合わせ、距離空間 $(X,d_X)$、$(Y,d_Y)$ の間の写像を考える。実数の部分集合には通常の距離 $|x-y|$ を、$\mathbb{R}^n$ には通常の距離(Euclid空間の距離)$|x-y|$ を入れる。
$(X,d_X)$、$(Y,d_Y)$ を距離空間、$L\ge0$ を実数とする。写像 $f\colon X\to Y$ がすべての $x,x'\in X$ について
$$
d_Y(f(x),f(x'))\le L\,d_X(x,x')
$$
を満たすとき、$f$ は定数 $L$ の Lipschitz 連続(Lipschitz continuous)な写像、または $L$-Lipschitz 写像であるという。このような $L$ が存在するとき $f$ は Lipschitz 連続であるといい、$L$ を $f$ の Lipschitz 定数という。部分集合 $A\subset X$ について「$f$ は $A$ 上で Lipschitz 連続である」とは、制限 $f|_A$ が $(A,d_X)$ からの写像として Lipschitz 連続であることをいう。
これは 一様連続 の記事の定義「Lipschitz条件とHölder条件」と同じ定義である。$L$-Lipschitz 写像は $L'\ge L$ について $L'$-Lipschitz でもあるので、Lipschitz 定数は一つに決まらない。最良の定数は
$$
\operatorname{Lip}(f):=\sup\Bigl\{\frac{d_Y(f(x),f(x'))}{d_X(x,x')}\Bigm| x,x'\in X,\ x\ne x'\Bigr\}
$$
である($X$ の点が $1$ 個以下なら $\operatorname{Lip}(f):=0$)。$f$ が Lipschitz 連続であることは $\operatorname{Lip}(f)<\infty$ と同値で、そのとき $f$ は定数 $\operatorname{Lip}(f)$ の Lipschitz 写像であり、それより小さい定数では Lipschitz 写像にならない。上限の定義から、各 $x\ne x'$ で比が $\operatorname{Lip}(f)$ 以下だからである。
写像 $f\colon X\to Y$ が局所 Lipschitz 連続(locally Lipschitz continuous)であるとは、各点 $x\in X$ にある開球 $B(x,r)$($r>0$)が存在して、$f$ が $B(x,r)$ 上で Lipschitz 連続であることをいう。Lipschitz 定数は点ごとに違ってよい。
Lipschitz 連続な写像は局所 Lipschitz 連続である(同じ定数がどの開球でも使える)。逆は成り立たない(ex-lipschitz-continuity-square)。
一様連続性は「入力の差を $\delta$ 未満にすれば出力の差は $\varepsilon$ 未満」という、$\varepsilon$ と $\delta$ の対応の存在だけを求める。Lipschitz 連続はこの対応を $\delta=\varepsilon/L$ という一次式で与えるもので、出力の変化が入力の変化に比例する程度以上には大きくならないことを量として保証する。区間上で微分できる実関数なら、これは導関数が有界であることと同じである(prop-lipschitz-continuity-derivative)。一方、導関数の存在は要らないので、$|x|$ のように角のある関数も Lipschitz 連続になりうる。定量的な評価が得られるため、常微分方程式の解の一意性、反復による不動点の構成、数値計算の誤差評価などで仮定として現れる。
$f(x)=|x|$ は $\mathbb{R}$ 上で $1$-Lipschitz であり(ex-lipschitz-continuity-basic-examples の 3 で $V=\mathbb{R}$ とした場合)、$\operatorname{Lip}(f)=1$ である。しかし $f$ は $0$ で微分可能でない。右側の差分商 $f(h)/h$ は $h>0$ で $1$、左側は $h<0$ で $-1$ だからである。
満たす性質:Lipschitz 連続。満たさない性質:全点での微分可能性。破る含意:「Lipschitz 連続な関数は至るところ微分可能である」。ただし $\mathbb{R}^n$ の開集合上の Lipschitz 関数は、ほとんどいたるところ微分可能である(thm-lipschitz-continuity-rademacher)。
$f(x)=\sqrt x$ は $[0,\infty)$ 上で一様連続だが Lipschitz 連続でない。一様連続であることは 一様連続 の記事の例「平方根」にある。$L$-Lipschitz だとすると、$x>0$ で $\sqrt x=|f(x)-f(0)|\le Lx$、すなわち $1/\sqrt x\le L$ となるが、$x=1/(4(L+1)^2)$ とすると $1/\sqrt x=2(L+1)>L$ となり矛盾する。$f$ は $[1,\infty)$ 上では $1/2$-Lipschitz である($[1,\infty)$ 上で $f'(x)=1/(2\sqrt x)\le1/2$ と prop-lipschitz-continuity-derivative による)。
満たす性質:一様連続。満たさない性質:Lipschitz 連続($0$ の近くでも局所 Lipschitz 連続でない)。破る含意:「一様連続な写像は Lipschitz 連続である」。
$f(x)=x^2$ は $\mathbb{R}$ 上で局所 Lipschitz 連続だが Lipschitz 連続でない。$R>0$ について $[-R,R]$ 上では $|x^2-y^2|=|x+y|\,|x-y|\le2R|x-y|$ なので、各開球 $B(x,1)$ は $[-(|x|+1),|x|+1]$ に含まれ、そこで $2(|x|+1)$-Lipschitz である。一方 $x\ne y$ について比 $|x^2-y^2|/|x-y|=|x+y|$ は $x=n$、$y=n+1$ で $2n+1$ となり有界でないので、$\operatorname{Lip}(f)=\infty$ である。
満たす性質:局所 Lipschitz 連続。満たさない性質:Lipschitz 連続(一様連続でもない。一様連続 の記事の例「反例:実数全体上の2乗」)。破る含意:「局所 Lipschitz 連続な写像は Lipschitz 連続である」。この例の定義域 $\mathbb{R}$ はコンパクトでない。定義域がコンパクトなら二つの条件は一致する(prop-lipschitz-continuity-compact)。
$f(x)=x^2\sin(1/x^2)$($x\ne0$)、$f(0)=0$ とおく。$|f(h)/h|\le|h|$ なので $f'(0)=0$ であり、$x\ne0$ では
$$
f'(x)=2x\sin\frac1{x^2}-\frac2x\cos\frac1{x^2}
$$
である。よって $f$ は $\mathbb{R}$ 上で微分可能である。しかし $x_n:=1/\sqrt{2\pi n}$($n\ge1$)では $\sin(1/x_n^2)=0$、$\cos(1/x_n^2)=1$ なので $f'(x_n)=-2\sqrt{2\pi n}$ であり、$0$ のどんな近傍でも $f'$ は有界でない。prop-lipschitz-continuity-derivative により、$f$ は $0$ を含むどの開区間上でも Lipschitz 連続でない。
満たす性質:$\mathbb{R}$ 上で微分可能。満たさない性質:局所 Lipschitz 連続($0$ で破れる)。破る含意:「微分可能な関数は局所 Lipschitz 連続である」。導関数が連続なら結論は正しい(prop-lipschitz-continuity-c1)。この例の $f'$ は $0$ で連続でない。
$I\subset\mathbb{R}$ を 2 点以上を含む区間、$f\colon I\to\mathbb{R}$ を $I$ の各点で微分可能な関数とする($I$ が端点を含むときは、端点では片側微分係数を考える)。$L\ge0$ について、次は同値である。
1 ⇒ 2:$x\in I$ を固定する。$y\in I$、$y\ne x$ について差分商は $\bigl|\frac{f(y)-f(x)}{y-x}\bigr|\le L$ を満たす。$y\to x$ とすると差分商は $f'(x)$ に収束するので、$|f'(x)|\le L$ である。
2 ⇒ 1:$x< y$ を $I$ の点とする。$f$ は $[x,y]$ 上で連続(微分可能なので)、$(x,y)$ 上で微分可能なので、平均値の定理によりある $c\in(x,y)$ で $f(y)-f(x)=f'(c)(y-x)$ となる。よって $|f(y)-f(x)|\le L|y-x|$ である。
最後の等式:1 ⇒ 2 を $L=\operatorname{Lip}(f)$(有限のとき)に適用すると $\sup|f'|\le\operatorname{Lip}(f)$、2 ⇒ 1 を $L=\sup|f'|$(有限のとき)に適用すると $\operatorname{Lip}(f)\le\sup|f'|$ を得る。一方が $\infty$ なら、いま述べた不等式から他方も $\infty$ である。$\square$
たとえば $\sin$ と $\cos$ は $|\sin'|,|\cos'|\le1$ なので $\mathbb{R}$ 上で $1$-Lipschitz であり、$e^x$ は $(-\infty,b]$ 上で $e^b$-Lipschitz だが $\mathbb{R}$ 上では Lipschitz 連続でない。2 ⇒ 1 だけなら、$f$ が $I$ 上連続で $I$ の内部で微分可能という仮定で足りる。
$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}^m$ を $C^1$ 級(すべての偏導関数が存在して連続)の写像とし、$Df(z)$ を $z$ でのJacobi行列とする。閉球 $D(x,r)=\{z\mid|z-x|\le r\}$ が $U$ に含まれるならば、
$$
M:=\max_{z\in D(x,r)}\|Df(z)\|_F
$$
($\|\cdot\|_F$ は ex-lipschitz-continuity-basic-examples の 4 の量)は有限であり、$f$ は $D(x,r)$ 上で $M$-Lipschitz である。したがって $f$ は局所 Lipschitz 連続である。
$Df(z)$ の成分は $z$ の連続関数なので $\|Df(z)\|_F$ も連続であり、$D(x,r)$ は $\mathbb{R}^n$ の有界な閉集合なのでコンパクトである。よって最大値 $M$ が存在する。
$a,b\in D(x,r)$ とする。$0\le t\le1$ について $|a+t(b-a)-x|\le(1-t)|a-x|+t|b-x|\le r$ なので、線分 $a+t(b-a)$ は $D(x,r)$ に含まれる。$f(a)=f(b)$ なら示すことはないので、$f(a)\ne f(b)$ とし、単位ベクトル $v:=(f(b)-f(a))/|f(b)-f(a)|$ をとる。$[0,1]$ 上の実数値関数
$$
g(t):=\langle f(a+t(b-a)),v\rangle
$$
($\langle\cdot,\cdot\rangle$ は内積)は、$C^1$ 級写像が微分可能であることと合成関数の微分により微分可能で、$g'(t)=\langle Df(a+t(b-a))(b-a),v\rangle$ である。平均値の定理により、ある $c\in(0,1)$ で
$$
|f(b)-f(a)|=\langle f(b)-f(a),v\rangle=g(1)-g(0)=g'(c)
$$
となる。Cauchy–Schwarz の不等式と ex-lipschitz-continuity-basic-examples の 4 の評価から
$$
g'(c)\le|Df(a+c(b-a))(b-a)|\le\|Df(a+c(b-a))\|_F\,|b-a|\le M|b-a|
$$
である。よって $|f(b)-f(a)|\le M|b-a|$ である。
局所 Lipschitz 性:$x\in U$ について、$U$ は開集合なので $B(x,2r)\subset U$ となる $r>0$ があり、$D(x,r)\subset B(x,2r)\subset U$ である。前半により $f$ は $D(x,r)$ 上、したがって開球 $B(x,r)$ 上で Lipschitz 連続である。$\square$
$X,Y,Z$ を距離空間とする。
1:$\varepsilon>0$ に対し $\delta:=\varepsilon/(L+1)$ とおくと、$d_X(x,x')<\delta$ ならば $d_Y(f(x),f(x'))\le L\delta<\varepsilon$ である(一様連続 の記事の例「Lipschitz写像と距離関数」と同じ議論)。
2:$d_Z(g(f(x)),g(f(x')))\le M\,d_Y(f(x),f(x'))\le LM\,d_X(x,x')$。
3:和とスカラー倍は $|(f+g)(x)-(f+g)(x')|\le|f(x)-f(x')|+|g(x)-g(x')|$ と $|af(x)-af(x')|=|a|\,|f(x)-f(x')|$ から従う。積は
$$
|f(x)g(x)-f(x')g(x')|\le|f(x)|\,|g(x)-g(x')|+|g(x')|\,|f(x)-f(x')|\le(K_1M+K_2L)\,d_X(x,x')
$$
による。
4:$x,x'\in X$ と $\lambda\in\Lambda$ について $f_\lambda(x)\le f_\lambda(x')+L\,d_X(x,x')\le F(x')+L\,d_X(x,x')$ である。$\lambda$ について上限をとると $F(x)\le F(x')+L\,d_X(x,x')$ であり、$x,x'$ を入れ替えて $|F(x)-F(x')|\le L\,d_X(x,x')$ を得る。$\inf$ については $-f_\lambda$ に適用する。$\square$
3 の積で有界性の仮定は落とせない。$f(x)=g(x)=x$ は $\mathbb{R}$ 上で $1$-Lipschitz だが、積 $x^2$ は Lipschitz 連続でない(ex-lipschitz-continuity-square)。1 の逆は成り立たない(ex-lipschitz-continuity-sqrt)。
$X$ をコンパクトな距離空間、$Y$ を距離空間とする。局所 Lipschitz 連続な写像 $f\colon X\to Y$ は Lipschitz 連続である。
Lipschitz 連続でないと仮定する。各 $n\ge1$ について、$x_n\ne y_n$ かつ $d_Y(f(x_n),f(y_n))>n\,d_X(x_n,y_n)$ となる $x_n,y_n\in X$ がとれる。$f$ は各点の近傍で Lipschitz 連続なので連続であり、コンパクト集合 $f(X)$ は有界である。すなわち、ある $C$ ですべての $x,x'$ について $d_Y(f(x),f(x'))\le C$ となる。よって $d_X(x_n,y_n)< C/n\to0$ である。コンパクトな距離空間は点列コンパクトなので、ある部分列 $(x_{n_k})$ はある点 $x$ に収束し、$d_X(y_{n_k},x)\le d_X(y_{n_k},x_{n_k})+d_X(x_{n_k},x)\to0$ より $(y_{n_k})$ も $x$ に収束する。$f$ が $L$-Lipschitz となる開球 $B(x,r)$ をとると、十分大きい $k$ で $x_{n_k},y_{n_k}\in B(x,r)$ かつ $n_k>L$ となり、
$$
n_k\,d_X(x_{n_k},y_{n_k})< d_Y(f(x_{n_k}),f(y_{n_k}))\le L\,d_X(x_{n_k},y_{n_k})
$$
となるが、$d_X(x_{n_k},y_{n_k})>0$ なので $n_k< L$ となり矛盾する。$\square$
コンパクト性の仮定は外せない(ex-lipschitz-continuity-square)。また局所 Lipschitz 性を連続性に弱めることもできない。$[0,1]$ はコンパクトだが、その上の $\sqrt x$ は連続で Lipschitz 連続でない(ex-lipschitz-continuity-sqrt)。
$X$ を距離空間、$A\subset X$ を空でない部分集合、$f\colon A\to\mathbb{R}$ を $L$-Lipschitz 関数とする。
$$
F(x):=\inf_{a\in A}\bigl(f(a)+L\,d_X(x,a)\bigr)\qquad(x\in X)
$$
とおくと、$F\colon X\to\mathbb{R}$ は $L$-Lipschitz であり、$A$ 上で $f$ に一致する。
各 $a\in A$ について $x\mapsto f(a)+L\,d_X(x,a)$ は $L$-Lipschitz である(ex-lipschitz-continuity-basic-examples の 2 で $A=\{a\}$ としたものの $L$ 倍に定数を足したもの)。$a_0\in A$ を一つ固定すると、各 $a\in A$ について
$$
f(a)+L\,d_X(x,a)\ge f(a_0)-L\,d_X(a,a_0)+L\,d_X(x,a)\ge f(a_0)-L\,d_X(x,a_0)
$$
である(1 つ目の不等号は $f$ の Lipschitz 性、2 つ目は三角不等式 $d_X(a,a_0)\le d_X(a,x)+d_X(x,a_0)$)。よって $F(x)$ は有限であり、prop-lipschitz-continuity-basic の 4($\inf$ の場合)により $F$ は $L$-Lipschitz である。
$a_0\in A$ では、$a=a_0$ の項から $F(a_0)\le f(a_0)$、上の不等式で $x=a_0$ とすると $F(a_0)\ge f(a_0)$ なので、$F(a_0)=f(a_0)$ である。$\square$
値域が $\mathbb{R}$ であることは重要である。$\mathbb{R}^m$ 値なら成分ごとに延長して $\sqrt mL$-Lipschitz の延長が得られる。一方、値域を一般の距離空間にすると延長は存在しないことがある。$X=[0,1]$、$A=\{0,1\}$、$Y=\{0,1\}$($\mathbb{R}$ の部分空間)とし、$f\colon A\to Y$ を恒等写像とすると $f$ は $1$-Lipschitz だが、$[0,1]$ から $Y$ への連続写像は中間値の定理により定数なので、$f$ を延長する連続写像すらない。この例で $f$ は Lipschitz 連続だが、延長をもつという性質を満たさず、「部分集合上の Lipschitz 写像は、値域がどんな距離空間でも全体の Lipschitz 写像に延長できる」という含意を破る。破れている仮定は、値域が $\mathbb{R}$ であることである。
定数 $L<1$ の Lipschitz 写像 $T\colon X\to X$ を縮小写像という。空でない完備距離空間上の縮小写像はただ一つの不動点をもち、任意の点からの反復列がそれに収束する(完備距離空間 の記事の定理「縮小写像の不動点定理」)。定数 $L=1$ では結論は成り立たない。$\mathbb{R}$ 上の平行移動 $x\mapsto x+1$ は $1$-Lipschitz だが不動点をもたない。
この不動点定理を、連続関数の空間上の積分作用素に適用すると、次の定理が得られる。
$J\subset\mathbb{R}$ を開区間、$W\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon J\times W\to\mathbb{R}^n$ を連続写像とし、$f$ は $x$ について局所 Lipschitz 連続であるとする。すなわち各 $(t_0,x_0)\in J\times W$ に対し、ある $\eta>0$、$r>0$、$L\ge0$ があって $[t_0-\eta,t_0+\eta]\times D(x_0,r)\subset J\times W$ であり、その上で $|f(t,x)-f(t,y)|\le L|x-y|$ が成り立つとする。このとき各 $(\tau,\xi)\in J\times W$ に対し、ある $\varepsilon>0$ と、$(\tau-\varepsilon,\tau+\varepsilon)$ 上の微分可能な写像 $x(t)$ で
$$
x'(t)=f(t,x(t)),\qquad x(\tau)=\xi
$$
を満たすものが存在する。さらに、この初期値問題の二つの解は、$\tau$ を含む共通の定義区間の上で一致する。
$f(x):=3x^{2/3}$($x^{2/3}:=(x^{1/3})^2$、$x^{1/3}$ は実数の立方根)とし、初期値問題 $x'=f(x)$、$x(0)=0$ を考える。$x(t)\equiv0$ は解である。また $x(t)=t^3$ も $x'(t)=3t^2=3(t^3)^{2/3}$、$x(0)=0$ を満たす解である。したがって解は一意でない。
$f$ は $\mathbb{R}$ 上連続だが、$0$ のどの近傍でも Lipschitz 連続でない。$x>0$ で $|f(x)-f(0)|/|x-0|=3x^{-1/3}$ が $x\to+0$ で有界でないからである。
満たす性質:$f$ は連続。満たさない性質:$0$ での局所 Lipschitz 連続性。破る含意:「右辺が連続なら初期値問題の解は一意である」。thm-lipschitz-continuity-picard-lindelof の Lipschitz の仮定は、解の一意性のために置かれている。
$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}^m$ を局所 Lipschitz 連続な写像とする。このとき $f$ は $U$ のほとんどいたるところ(Lebesgue測度に関して)微分可能である。
証明は EG15 §3.1 にある。ex-lipschitz-continuity-absolute-value のように、微分できない点は存在しうるが、その全体は測度 $0$ の集合に限られる。逆は成り立たない。ex-lipschitz-continuity-differentiable の関数は $\mathbb{R}$ のすべての点で微分可能だが、局所 Lipschitz 連続でない。
全単射 $f\colon X\to Y$ について、$f$ と逆写像 $f^{-1}$ がともに Lipschitz 連続であることは、ある定数 $0< c\le C$ ですべての $x,x'$ について
$$
c\,d_X(x,x')\le d_Y(f(x),f(x'))\le C\,d_X(x,x')
$$
となることと同値である($f^{-1}$ が $L$-Lipschitz なら $c=1/L$ ととれ、逆も同様)。このような $f$ を双 Lipschitz 写像という。同じ集合上の二つの距離 $d$、$d'$ について恒等写像 $(X,d)\to(X,d')$ が双 Lipschitz のとき、二つの距離は Lipschitz 同値であるという。たとえば $\mathbb{R}^2$ 上の距離 $d_1$、$d_2$、$d_\infty$(開球 の記事の例「平面上の三つの距離」)は $d_\infty\le d_2\le d_1\le2d_\infty$ を満たすので互いに Lipschitz 同値である。Lipschitz 同値な距離は同じ開集合、同じ Cauchy列、同じ有界集合を定め、一方で完備なら他方でも完備である。
同じ位相を定めても Lipschitz 同値とは限らない。$\mathbb{R}$ 上の $\rho(x,y)=|\arctan x-\arctan y|$ と通常の距離について、恒等写像 $(\mathbb{R},\rho)\to(\mathbb{R},|\cdot|)$ は一様連続ですらない(一様連続 の記事の例「反例:距離を取り替えると一様連続性が変わる」)ので、Lipschitz 連続でない。
本記事の導関数による特徴づけは Rud76 Chapter 5 の平均値の定理にもとづく標準的な議論に、延長定理は McS34 に、Picard–Lindelöf の定理は HSD12 Chapter 17 に、Rademacher の定理は EG15 §3.1 に従う。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する