絶対収束(absolute convergence)とは、実数または複素数の級数 $\sum a_n$ について、項の絶対値の級数 $\sum|a_n|$ が収束することである。絶対収束する級数は収束し、どのように項を並べ替えても同じ和をもち、2 つの絶対収束級数の積は項ごとの積をどんな順で足しても(Cauchy 積でも)元の和の積になる。収束するが絶対収束しない級数を条件収束するといい、交代調和級数 $1-\frac12+\frac13-\cdots=\log2$ がその例である。条件収束する実数の級数は、並べ替えによって任意の実数を和にできる(Riemann の再配列定理)。$|a_{n+1}/a_n|$ の極限や $\sqrt[n]{|a_n|}$ の上極限が $1$ より小さければ絶対収束する(比判定法・根判定法)。
交代調和級数
$$
1-\frac12+\frac13-\frac14+\frac15-\frac16+\cdots=\log2=0.6931\ldots
$$
は収束する(調和級数 の記事の系「交代調和級数の和」)。同じ項を、正の項 1 つのあとに負の項 2 つ、という順に並べ替えて
$$
1-\frac12-\frac14+\frac13-\frac16-\frac18+\frac15-\frac1{10}-\frac1{12}+\cdots
$$
とすると、どの項も 1 回ずつ現れるのに、和は $\frac12\log2=0.3465\ldots$ になる(ex-abs-half-log2)。有限個の数の和は足す順序によらないが、無限個の和では順序を変えると値が変わりうる。
この現象が起きるのは、項の絶対値の和 $1+\frac12+\frac13+\cdots$ が発散する(調和級数)からである。正の項だけの和も負の項だけの和も無限大であり、「正の項をどれだけ先に使うか」で途中の和をどちらにも寄せられる。これに対し、$1-\frac14+\frac19-\frac1{16}+\cdots$ のように絶対値の和 $\sum1/n^2$ が有限な級数では、どう並べ替えても和は変わらない(thm-abs-rearrangement)。絶対値の和が収束するという条件が、有限和と同じ感覚で級数を扱ってよいことの目印になる。
$\sum|a_n|$ は項が $0$ 以上の級数なので、絶対収束することは部分和 $\sum_{n=1}^N|a_n|$ が上に有界であることと同値である(級数 の記事の命題「正項級数の収束と部分和の有界性」)。項がすべて $0$ 以上の級数では、収束と絶対収束は同じことである。絶対収束する級数が収束することは定理として示す(thm-abs-implies-convergence)。
級数の和は、部分和の列の極限、すなわち「与えられた順序で足していった結果」として定義されている(級数)。絶対収束は、この順序への依存が消える条件である。項の絶対値の和が有限なら、十分先の項をすべて集めても合計の大きさは小さい。したがって、どの順序で足しても、有限個の「大きな項」を足し終えた時点で和はほぼ決まり、残りはどう並べても小さい誤差にしかならない。
条件収束する級数では、正の項の和と負の項の和がどちらも無限大で、その打ち消し合いのバランスで和が決まっている(prop-abs-positive-negative-parts)。並べ替えはこのバランスを自由に変えられるので、和は任意の値にできる(thm-abs-riemann)。
交代調和級数 $\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n+1}}n$ は Leibniz の判定法(級数 の記事の定理「Leibnizの判定法」)により収束するが、絶対値の級数 $\sum\frac1n$ は発散するので絶対収束しない。すなわち条件収束する。同様に、$0< p\leq1$ のとき $\sum\frac{(-1)^{n+1}}{n^p}$ は条件収束する($1/n^p$ は単調減少で $0$ に近づき、$\sum1/n^p$ は発散する。調和級数 の記事の命題「冪の逆数の級数」)。この級数は「収束する」を満たすが「絶対収束する」を満たさないので、「収束 $\Rightarrow$ 絶対収束」という含意は成り立たない。
絶対収束する級数 $\sum a_n$(項は実数または複素数)は収束し、
$$
\left|\sum_{n=1}^{\infty}a_n\right|\leq\sum_{n=1}^{\infty}|a_n|
$$
が成り立つ。
まず項が実数の場合を示す。$\sum|a_n|$ は収束するので、Cauchy列 の記事の系「級数の Cauchy判定法」により、任意の $\varepsilon>0$ に対してある $N$ があり、$m>n\geq N$ なら $|a_{n+1}|+\cdots+|a_m|<\varepsilon$ である。三角不等式により
$$
|a_{n+1}+a_{n+2}+\cdots+a_m|\leq|a_{n+1}|+|a_{n+2}|+\cdots+|a_m|<\varepsilon
$$
なので、同じ判定法により $\sum a_n$ は収束する。
項が複素数 $a_n=x_n+iy_n$ の場合、$|x_n|\leq|a_n|$、$|y_n|\leq|a_n|$ なので、級数 の記事の定理「比較判定法」により $\sum|x_n|$ と $\sum|y_n|$ は収束する。実数の場合により $\sum x_n$ と $\sum y_n$ は収束し、したがって $\sum a_n$ は収束する(級数 の記事の定義のあとの注意:実部と虚部の級数がともに収束することと同値)。
不等式は、部分和について三角不等式から $\left|\sum_{n=1}^Na_n\right|\leq\sum_{n=1}^N|a_n|\leq\sum_{n=1}^\infty|a_n|$ が成り立つので、$N\to\infty$ とすれば得られる(絶対値は極限と交換でき、$\leq$ は極限で保たれる。数列の極限 の記事の命題「絶対値と極限」「極限は大小関係を保つ」)。
この定理は、実数の完備性(Cauchy列が収束すること。実数の連続性)を本質的に使っている。有理数の範囲では、$\sum|a_n|$ が有理数に収束しても $\sum a_n$ が有理数に収束するとは限らない。同じ議論は、実数・複素数の絶対値をノルムに替えた完備なノルム空間(Banach空間)でも通用し、そこでも $\sum\|v_n\|$ が収束すれば $\sum v_n$ は収束する(三角不等式 の記事に証明の要点がある)。
実数 $a$ について $a^+:=\max\{a,0\}$、$a^-:=\max\{-a,0\}$ とおくと、$a^+,a^-\geq0$ であり
$$
a=a^+-a^-,\qquad|a|=a^++a^-
$$
である。$a^+$ は $a$ が正のとき $a$ 自身、そうでなければ $0$ であり、級数 $\sum a_n^+$ は「$\sum a_n$ の正の項だけを足したもの」、$\sum a_n^-$ は「負の項の絶対値だけを足したもの」である。
実数の級数 $\sum a_n$ について次が成り立つ。
交代調和級数では、$\sum a_n^+=1+\frac13+\frac15+\cdots$ と $\sum a_n^-=\frac12+\frac14+\frac16+\cdots$ がどちらも発散する。後者は調和級数の半分であり、前者は項ごとに後者以上である。
絶対収束は項が $0$ 以上の級数 $\sum|a_n|$ の収束なので、級数 の記事の正項級数の判定法がそのまま使える。特に比判定と根判定は、項の符号や複素数であることを気にせずに使える形になる。
実数または複素数 $a_n$ がすべて $0$ でなく、$\left|\dfrac{a_{n+1}}{a_n}\right|$ が $L$ に収束する($L=+\infty$ も許す)とする。
実数または複素数の級数 $\sum a_n$ について、$L:=\limsup_{n\to\infty}\sqrt[n]{|a_n|}$($+\infty$ も許す。上極限と下極限)とおく。
$s_n:=\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{|a_k|}$ とおくと $(s_n)$ は単調減少で、$L=\lim s_n=\inf_ns_n$ である(上極限と下極限 の記事の定義)。
比判定法が使えない級数に根判定法が使えることがある。たとえば $a_n=2^{-n}$($n$ 偶数)、$a_n=3^{-n}$($n$ 奇数)とおくと、比 $a_{n+1}/a_n$ は $n$ が偶数のとき $\frac13(\frac23)^n\to0$、奇数のとき $\frac12(\frac32)^n\to+\infty$ となって収束しないが、$\sqrt[n]{a_n}$ は $\frac12$ と $\frac13$ を交互にとるので $\limsup\sqrt[n]{a_n}=\frac12<1$ であり、根判定法により絶対収束する。$L=1$ のときはどちらの判定法も結論を出さない($\sum1/n$ と $\sum1/n^2$。級数 の記事の例「反例:比が1に近づく場合は判定できない」)。根判定法を冪級数 $\sum c_nz^n$ に適用すると、収束半径 の記事の定理「Cauchy–Hadamardの公式」が得られる。
並べ替えとは、全単射 $\sigma\colon\{1,2,3,\dots\}\to\{1,2,3,\dots\}$ によって級数 $\sum_na_n$ から新しい級数 $\sum_ka_{\sigma(k)}$ を作ることである。$\sigma$ が全単射なので、もとの級数のどの項も、新しい級数にちょうど 1 回ずつ現れる。
$\sum_{n=1}^{\infty}a_n$ が絶対収束し、和が $S$ であるとする。任意の全単射 $\sigma\colon\{1,2,\dots\}\to\{1,2,\dots\}$ について、$\sum_{k=1}^{\infty}a_{\sigma(k)}$ も絶対収束し、和は $S$ である。
$\varepsilon>0$ をとる。$\sum|a_n|$ が収束するので、尾部が $0$ に近づくこと(級数 の記事の命題「有限個の項と尾部」)により、ある $M$ で
$$
\left|\sum_{n=1}^{M}a_n-S\right|<\frac\varepsilon2,\qquad\sum_{n=M+1}^{\infty}|a_n|<\frac\varepsilon2
$$
となる。$\sigma$ は全射なので、$1,\dots,M$ のそれぞれは $\sigma(k)$ の形に書け、そのような $k$ の最大値を $K$ とすると $\{1,\dots,M\}\subset\{\sigma(1),\dots,\sigma(K)\}$ である。$N\geq K$ について、$\sigma$ は単射なので $\sigma(1),\dots,\sigma(N)$ は相異なり、そのうち $M$ 以下のものはちょうど $1,\dots,M$ である。したがって
$$
\sum_{k=1}^{N}a_{\sigma(k)}-\sum_{n=1}^{M}a_n=\sum_{\substack{k\leq N\\ \sigma(k)>M}}a_{\sigma(k)}
$$
であり、右辺は $M$ より大きい相異なる添字の項の有限和なので、絶対値は $\sum_{n=M+1}^\infty|a_n|<\varepsilon/2$ 以下である。よって $N\geq K$ で
$$
\left|\sum_{k=1}^{N}a_{\sigma(k)}-S\right|\leq\left|\sum_{k=1}^{N}a_{\sigma(k)}-\sum_{n=1}^{M}a_n\right|+\left|\sum_{n=1}^{M}a_n-S\right|<\varepsilon
$$
となり、$\sum a_{\sigma(k)}=S$ である。絶対収束については、$\sum_{k=1}^N|a_{\sigma(k)}|$ は相異なる添字の $|a_n|$ の有限和なので $\sum_{n=1}^\infty|a_n|$ 以下であり、正項級数の部分和が上に有界なので収束する。
冒頭の並べ替え
$$
1-\frac12-\frac14+\frac13-\frac16-\frac18+\cdots+\frac1{2j-1}-\frac1{4j-2}-\frac1{4j}+\cdots
$$
の和が $\frac12\log2$ であることを示す。奇数 $2j-1$ はちょうど 1 回、偶数は $4j-2$ か $4j$ の形でちょうど 1 回現れるので、これは交代調和級数 $\sum(-1)^{n+1}/n$ の並べ替えである。第 $N$ 部分和を $T_N$、交代調和級数の第 $N$ 部分和を $S_N$ とする。3 項ずつまとめると
$$
\frac1{2j-1}-\frac1{4j-2}-\frac1{4j}=\frac1{4j-2}-\frac1{4j}=\frac12\Bigl(\frac1{2j-1}-\frac1{2j}\Bigr)
$$
なので $T_{3k}=\frac12S_{2k}$ である。$S_{2k}\to\log2$(調和級数 の記事の系「交代調和級数の和」)なので $T_{3k}\to\frac12\log2$ であり、$T_{3k+1}=T_{3k}+\frac1{2k+1}$、$T_{3k+2}=T_{3k+1}-\frac1{4k+2}$ も同じ極限に収束する。よって和は $\frac12\log2=0.3465\ldots$ である。たとえば $T_6=1-\frac12-\frac14+\frac13-\frac16-\frac18=\frac7{24}=0.2916\ldots=\frac12S_4$ である。交代調和級数は絶対収束しないので、thm-abs-rearrangement の結論が破れている。
実数の級数 $\sum a_n$ が条件収束するならば、任意の実数 $L$ に対して、和が $L$ となる並べ替え $\sum a_{\sigma(k)}$ が存在する。
$a_n\geq0$ となる添字を小さい順に $p_1< p_2<\cdots$、$a_n<0$ となる添字を小さい順に $q_1< q_2<\cdots$ とする。prop-abs-positive-negative-parts により $\sum_na_n^+=+\infty$、$\sum_na_n^-=+\infty$ なので、どちらの添字も無限個あり、どの番号から先の $a_{p_i}$ の和も $+\infty$、$a_{q_i}$ の和も $-\infty$ に発散する(有限個の項を除いても発散は変わらない)。また $\sum a_n$ は収束するので $a_n\to0$ である(級数 の記事の命題「収束する級数の項は0に近づく」)。
$T_0:=0$ とし、$k=1,2,\dots$ について順に、$T_{k-1}\leq L$ ならば $p_1,p_2,\dots$ のうちまだ使っていない最小のものを $\sigma(k)$ とし、$T_{k-1}>L$ ならば $q_1,q_2,\dots$ のうちまだ使っていない最小のものを $\sigma(k)$ として、$T_k:=T_{k-1}+a_{\sigma(k)}$ とおく。
ある番号から先で $p$ の側だけが選ばれ続けると、その先ずっと $T_{k-1}\leq L$ だが、$T_k$ には $a_{p_i}$ の残りがすべて足されて $+\infty$ に発散するので矛盾する。$q$ の側だけが選ばれ続ける場合も同様である。したがって両方の側が無限回選ばれ、各側の添字は小さい順にすべて使われるので、$\sigma$ は全単射である。
$T_{k-1}\leq L< T_k$ または $T_{k-1}>L\geq T_k$ となる $k$ を「またぐ番号」と呼ぶ。側が切り替わるのは目標 $L$ をまたいだ直後だけで、切り替わりは無限回起こるので、またぐ番号は無限個ある。またぐ番号 $k$ では $|T_k-L|\leq|a_{\sigma(k)}|$ である。$k$ で上にまたいだ($T_k>L$)とすると、次にまたぐまでは負の項が足されて $T$ は減り続け、$L$ より大きいままなので $L< T_m\leq T_k$ である。下にまたいだ場合も同様に $T_k\leq T_m\leq L$ である。したがって、最初にまたぐ番号より後の各 $m$ について、$m$ 以前の最後のまたぐ番号を $c(m)$ とすると
$$
|T_m-L|\leq|a_{\sigma(c(m))}|
$$
である。$m\to\infty$ で $c(m)$ は無限に大きくなり、$\sigma$ は単射なので $\sigma(c(m))$ も無限に大きくなる(与えられた $M$ に対して $\sigma(c)\leq M$ となる $c$ は有限個)。$a_n\to0$ なので右辺は $0$ に収束し、$T_m\to L$ である。
同じ構成で、$L$ の代わりに「$T$ が $1,2,3,\ldots$ を順に超えるまで正の項を足し、そのたびに負の項を 1 つ足す」とすれば和が $+\infty$ になる並べ替えも作れる。thm-abs-riemann の構成は、Leb Example 2.6.4 が交代調和級数について示している(目標 $1.2$ の場合の並べ方も載せている)。一般の条件収束級数については Exercise 2.6.3 としている。
実数または複素数の級数 $\sum a_n$ について、次の 2 条件は同値である。
1 ⇒ 2 は thm-abs-rearrangement である。2 を仮定する。$\sigma$ を恒等写像にとれば $\sum a_n$ 自身が収束し、和を $S$ とする。項が実数の場合、$\sum a_n$ が絶対収束しなければ条件収束し、thm-abs-riemann により和が $S+1$ の並べ替えがあって 2 に反する。項が複素数 $a_n=x_n+iy_n$ の場合、$|a_n|\leq|x_n|+|y_n|$ なので、$\sum a_n$ が絶対収束しなければ $\sum x_n$ か $\sum y_n$ の一方、たとえば $\sum x_n$ が絶対収束しない。$\sum x_n=\operatorname{Re}S$ は収束するので条件収束し、thm-abs-riemann により $\sum_kx_{\sigma(k)}=\operatorname{Re}S+1$ となる $\sigma$ がある。仮定より $\sum a_{\sigma(k)}=S$ なので、実部をとると $\sum x_{\sigma(k)}=\operatorname{Re}S$ となって矛盾する。
並べ替えによらずに収束することを無条件収束という。この系は、実数・複素数の級数では無条件収束と絶対収束が一致することを示している。無条件収束の概念は、有限部分集合にわたる部分和のネットの収束(総和可能性)という形で一般の位相線形空間に拡張され、Banach 空間では並べ替えによる無条件収束と一致する。
以下、添字を $0$ から始めるが、前節までの結果は添字をずらして同じように使える。2 つの級数 $\sum_{i\geq0}a_i$ と $\sum_{j\geq0}b_j$ の積を展開すると、すべての組 $(i,j)$ についての $a_ib_j$ の「和」が現れる。この和を 1 列に並べる方法は無数にあり、絶対収束していれば並べ方によらず積に等しい。
$\sum_{i=0}^{\infty}a_i=A$、$\sum_{j=0}^{\infty}b_j=B$ がともに絶対収束するとする(項は実数または複素数)。$\mathbb{N}\times\mathbb{N}$ の元を 1 列に並べる任意の全単射 $\varphi\colon\mathbb{N}\to\mathbb{N}\times\mathbb{N}$ について、$\varphi(k)=(i_k,j_k)$ とおくと、級数 $\sum_{k=0}^{\infty}a_{i_k}b_{j_k}$ は絶対収束し、その和は $AB$ である。
$\alpha:=\sum|a_i|$、$\beta:=\sum|b_j|$ とおく。$K$ を固定し、$I:=\max_{k\leq K}i_k$、$J:=\max_{k\leq K}j_k$ とすると、$(i_0,j_0),\dots,(i_K,j_K)$ は相異なるので
$$
\sum_{k=0}^{K}|a_{i_k}b_{j_k}|\leq\sum_{i=0}^{I}\sum_{j=0}^{J}|a_i||b_j|=\Bigl(\sum_{i=0}^{I}|a_i|\Bigr)\Bigl(\sum_{j=0}^{J}|b_j|\Bigr)\leq\alpha\beta
$$
である。正項級数の部分和が上に有界なので、$\sum_k|a_{i_k}b_{j_k}|$ は収束する。
2 つの全単射 $\varphi,\psi$ から得られる級数は、互いに $\varphi^{-1}\circ\psi$ による並べ替えになっているので、thm-abs-rearrangement により和は等しい。そこで、$\psi$ として $\max\{i,j\}=0,1,2,\dots$ の組を順に(同じ $\max$ の組どうしは任意の順で)並べるものをとる。$\max\{i,j\}\leq n$ となる組 $(n+1)^2$ 個を並べ終えた時点の部分和は
$$
\sum_{i=0}^{n}\sum_{j=0}^{n}a_ib_j=\Bigl(\sum_{i=0}^{n}a_i\Bigr)\Bigl(\sum_{j=0}^{n}b_j\Bigr)
$$
であり、$n\to\infty$ で $AB$ に収束する(数列の極限 の記事の命題「極限の四則演算」)。収束する級数の部分和の列の部分列なので、級数の和は $AB$ である。
$\sum_{i\geq0}a_i=A$、$\sum_{j\geq0}b_j=B$ がともに絶対収束するならば、
$$
c_n:=\sum_{i=0}^{n}a_ib_{n-i}=a_0b_n+a_1b_{n-1}+\cdots+a_nb_0
$$
で定まる級数 $\sum_{n=0}^{\infty}c_n$(Cauchy 積)は絶対収束し、和は $AB$ である。
組 $(i,j)$ を $i+j=0,1,2,\dots$ の順に、同じ $i+j$ の中では $i$ の小さい順に並べる全単射をとると、thm-abs-product によりその級数は絶対収束して和は $AB$ である。$i+j=n$ の $n+1$ 項を括弧でまとめたものが $c_n$ なので、収束する級数を括弧でまとめても和は変わらないこと(級数 の記事の命題「項をまとめても和は変わらない」)により $\sum c_n=AB$ である。また $|c_n|\leq\sum_{i+j=n}|a_i||b_j|$ であり、右辺の級数は同じ理由で $\alpha\beta$ に収束するので、比較判定法により $\sum c_n$ は絶対収束する。
一方の級数だけが絶対収束し、他方は収束するだけでも、Cauchy 積は $AB$ に収束する(Mertens の定理。Leb Theorem 2.6.5、pp. 104–106 に証明がある)。両方が絶対収束する場合の thm-abs-product は、Möbiusの反転公式 の記事で $\sum\mu(d)/d^2$ と $\sum1/m^2$ の積を計算するときなど、数論の級数の計算でも使われる。
複素数 $z$ について $E(z):=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{z^n}{n!}$ とおく(ex-abs-examples の 3 により絶対収束する)。$E(z)$ と $E(w)$ の Cauchy 積の第 $n$ 項は、二項定理により
$$
c_n=\sum_{i=0}^{n}\frac{z^i}{i!}\cdot\frac{w^{n-i}}{(n-i)!}=\frac1{n!}\sum_{i=0}^{n}\binom niz^iw^{n-i}=\frac{(z+w)^n}{n!}
$$
なので、cor-abs-cauchy-product により $E(z)E(w)=E(z+w)$ である。これが指数関数の指数法則 $e^ze^w=e^{z+w}$ の級数による証明である。
$a_n=b_n=\frac{(-1)^n}{\sqrt{n+1}}$($n\geq0$)とする。$\sum a_n$ は Leibniz の判定法により収束するが、$\sum\frac1{\sqrt{n+1}}$ は発散するので条件収束する。Cauchy 積の項は
$$
c_n=\sum_{i=0}^{n}\frac{(-1)^i}{\sqrt{i+1}}\cdot\frac{(-1)^{n-i}}{\sqrt{n-i+1}}=(-1)^n\sum_{i=0}^{n}\frac1{\sqrt{(i+1)(n-i+1)}}
$$
であり、$0\leq i\leq n$ で $(i+1)(n-i+1)\leq(n+1)^2$ なので、和の $n+1$ 個の項はどれも $\frac1{n+1}$ 以上で、$|c_n|\geq1$ である。項が $0$ に近づかないので $\sum c_n$ は発散する。したがって cor-abs-cauchy-product の「絶対収束」の仮定を「収束」に弱めると結論は破れる(Leb Example 2.6.6、p. 106)。数値では $|c_0|=1$、$|c_1|=1.414\ldots$、$|c_2|=1.654\ldots$、$|c_{10}|=2.293\ldots$ と、むしろ増えていく。
絶対収束の考え方は広義積分にもある。$\int_1^\infty\frac{\sin x}x\,dx$ は収束するが $\int_1^\infty\left|\frac{\sin x}x\right|dx$ は発散し、条件収束する級数と同じ性格をもつ(Leb Example 5.5.12、pp. 220–222 は、$\frac{\sin x}x$ の広義積分を交代調和級数の、その絶対値の積分を調和級数の類似として説明している)。Lebesgue積分では、絶対値が可積分であることを可積分性の定義にするので、条件収束に当たるものは積分とみなさない。
絶対収束と条件収束の定義は Leb Definition 2.5.14(p. 92)、絶対収束する級数の収束は Proposition 2.5.15(p. 92)、比判定は Proposition 2.5.19(p. 96)、根判定は Proposition 2.6.1(p. 100)、並べ替えは Proposition 2.6.3(pp. 102–103)、交代調和級数の並べ替えは Example 2.6.4(pp. 103–104)、Cauchy 積は Theorem 2.6.5(p. 104)と Exercise 2.6.2(p. 110、両方が絶対収束すれば Cauchy 積も絶対収束する)、一般の条件収束級数の再配列は Exercise 2.6.3(p. 110)にある。Ham は絶対収束判定を §13.8 の演習 4(p. 268)として挙げている。
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