再帰的定義

同義語:recursive definition帰納的定義再帰定理recursion theorem累積再帰course-of-values recursion

概要

再帰的定義(recursive definition)とは、自然数上の写像 $f$ を、初期値 $f(0)=a$ と前の値から次の値を作る規則 $f(n+1)=g(f(n))$ によって定める方法であり、帰納的定義ともいう。階乗・冪・和、Fibonacci 数、自然数の加法と乗法はこの形で定義される。規則 $g$ が集合全体で定義された写像であれば、条件を満たす $f$ がただ 1 つ存在することが再帰定理であり、その証明は自然数の公理(Peano 構造の 3 条件)を使う。規則が段数やそれまでのすべての値に依存する場合もこれに帰着する。再帰定理を満たす構造は自然数と同型であり、自然数の公理を満たす構造は同型を除いてただ 1 つに定まる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 自然数, 写像, 数学的帰納法, 直積集合

再帰的定義(recursive definition)は、自然数 $n$ を変数とする写像(数列)を、最初の値 $f(0)$ と「前の値から次の値を作る規則」によって定める方法である。$0!=1$、$(n+1)!=(n+1)\cdot n!$ による階乗や、$F_0=0$、$F_1=1$、$F_{n+2}=F_{n+1}+F_n$ による Fibonacci 数がその例で、自然数の足し算や掛け算そのものもこの形で定義される。帰納的定義ともいう。ただし、等式を書き並べただけでは、それを満たす写像が本当に存在してただ 1 つに決まるかは分からない。実際、規則の向きや定義域を少し変えると、解がなかったり無数にあったりする。この記事では、再帰定理(初期値と規則からただ 1 つの写像が決まること)を自然数の公理だけから証明し、規則が段数に依存する場合、それまでのすべての値に依存する場合(Fibonacci 数はこの形)に拡張する。さらに応用として、自然数の公理を満たす構造が同型を除いてただ 1 つであること(Peano 構造の範疇性)と、逆に再帰定理が成り立つ構造は自然数と同型であることを示す。

定義

この記事では $0$ を自然数に含め、自然数全体を $\mathbb{N}=\{0,1,2,\dots\}$ と書く。$\mathbb{N}$ は、$0\in\mathbb{N}$ と後者をとる写像 $s(n)=n+1$ の組として 自然数 の記事の定義「Peano構造」を満たす。すなわち一般に、集合 $N$、元 $0_N\in N$、写像 $s\colon N\to N$ の組 $(N,0_N,s)$ が

  1. $0_N\notin s(N)$、
  2. $s$ は単射、
  3. $0_N\in A\subset N$ かつ $s(A)\subset A$ ならば $A=N$
    を満たすとき Peano 構造という。条件 3 が 数学的帰納法 の原理にあたる。以下の証明はこの 3 条件だけを使うので、一般の Peano 構造について述べる。
再帰的定義

$(N,0_N,s)$ を Peano 構造、$X$ を集合とし、元 $a\in X$ と写像 $g\colon X\to X$ が与えられたとする。写像 $f\colon N\to X$ で
$$ f(0_N)=a,\qquad f(s(n))=g\bigl(f(n)\bigr)\quad(n\in N) $$
を満たすものを、初期値 $a$ と規則 $g$ による 再帰で定まる写像 といい、このように写像を指定することを 再帰的定義(または帰納的定義)という。$N=\mathbb{N}$ なら条件は $f(0)=a$、$f(n+1)=g(f(n))$ であり、$f$ は $a,\ g(a),\ g(g(a)),\dots$ という数列である。

規則が「前の値」だけでなく段数 $n$ にもよる形
$$ f(0)=a,\qquad f(n+1)=h\bigl(n,f(n)\bigr) $$
($h\colon\mathbb{N}\times X\to X$)や、それまでのすべての値 $f(0),\dots,f(n-1)$ によって $f(n)$ を決める形も再帰的定義と呼ぶ。後者を 累積再帰(course-of-values recursion)ということがある。これらもすべて、下の thm-recdef-recursion に帰着する(thm-recdef-primitive、thm-recdef-course-of-values)。
def-recdef-recursive-definition は「そのような $f$ がただ 1 つ存在する」ことを前提にした言い方であり、その前提を保証するのが再帰定理である。数列を「初期条件」と「前の項との関係式(漸化式)」で与えることを再帰的定義と呼ぶ説明は、Lev Definition 4.1.4(p. 314)にある。

直感

再帰的定義は、ドミノを並べる作業にたとえられる。1 枚目の値を置き(初期値)、「今の値から次の値を作る」規則を与えれば、2 枚目、3 枚目、…と値が順に決まっていく。ただし「順に決まっていく」は、有限回の作業を思い浮かべた説明にすぎない。無限個の値を一度にもつ写像 $f$ が集合として存在することは、別に証明しなければならない。数学的帰納法は「すでにある $f$ について、すべての $n$ で性質が成り立つ」ことを示す道具であり、$f$ そのものを作ってはくれない。再帰定理の証明では、「規則に従う組 $(n,x)$ をすべて集めた最小の集合」を作り、それが写像のグラフになることを帰納法で確かめる。帰納法(証明の道具)と再帰(定義の道具)は、この形で結びついている。

例と反例

階乗・冪・和
  1. 階乗は $0!=1$、$(n+1)!=(n+1)\cdot n!$ で定まる。規則が段数 $n$ にもよるので thm-recdef-primitive の形であり、$h(n,x)=(n+1)x$ とすればよい。$1!=1$、$2!=2$、$3!=6$、$4!=24$ である。
  2. 実数 $c$ の冪は $c^0=1$、$c^{n+1}=c\cdot c^n$ で定まる。これは $X=\mathbb{R}$、$a=1$、$g(x)=cx$ とした def-recdef-recursive-definition である。
  3. 数列 $(a_k)$ の和は $\sum_{k=1}^{0}a_k=0$、$\sum_{k=1}^{n+1}a_k=\sum_{k=1}^{n}a_k+a_{n+1}$ で定まる。$h(n,x)=x+a_{n+1}$ である。
  4. 写像 $g\colon X\to X$ の $n$ 回の合成 $g^n$ は、$g^0=\mathrm{id}_X$、$g^{n+1}=g\circ g^n$ で定まる。これは写像の集合 $X^X$ を値の集合とした再帰であり、$a=\mathrm{id}_X$、規則は $\varphi\mapsto g\circ\varphi$ である。
自然数の加法と乗法

$m\in\mathbb{N}$ を固定して、写像 $n\mapsto m+n$ を
$$ m+0=m,\qquad m+(n+1)=(m+n)+1 $$
で定める。これは初期値 $a=m$、規則 $g=s$($1$ を足す写像)の再帰であり、各 $m$ についてただ 1 つに決まる。続けて、加法を使って乗法を $m\cdot0=0$、$m\cdot(n+1)=m\cdot n+m$(初期値 $0$、規則 $x\mapsto x+m$)で定める。自然数 の記事の節「算術演算」はこの定義を述べており、その正当性が thm-recdef-recursion である。

Fibonacci 数

$F_0=0$、$F_1=1$、$F_{n+2}=F_{n+1}+F_n$ で定まる Fibonacci数 は、2 つ前までの値を使う。thm-recdef-course-of-values の形にするには、有限列 $(x_0,\dots,x_{n-1})$ に対し、$n=0$ なら $0$、$n=1$ なら $1$、$n\ge2$ なら $x_{n-1}+x_{n-2}$ を返す規則 $G$ を考え、$F_n=G(F_0,\dots,F_{n-1})$ とすればよい。$0,1,1,2,3,5,8,13,\dots$ となる。別の方法として、組 $(F_n,F_{n+1})$ を 1 つの値とみれば、$X=\mathbb{N}\times\mathbb{N}$、$a=(0,1)$、$g(x,y)=(y,x+y)$ という単純な再帰 def-recdef-recursive-definition に直せる。

反例の表

「等式を満たす写像」がいつでもただ 1 つあるわけではない。次の表の各行は、再帰定理の仮定を 1 つ外すと存在か一意性が崩れることを示す。

外す条件反例成り立たなくなること
規則 $g$ が $X$ 全体で定義されている$X=\mathbb{R}$、$a=2$、$x\neq1$ でだけ定義された $g(x)=\dfrac{1}{x-1}$存在
値が小さい段から大きい段へ決まる$f\colon\mathbb{N}\to\mathbb{N}$、$f(n)=f(n+1)+1$存在
同上$f\colon\mathbb{N}\to\mathbb{N}$、$f(0)=0$、$f(n)=\lfloor f(n+1)/2\rfloor$一意性
初期値を与える$f\colon\mathbb{N}\to\mathbb{R}$、$f(n+1)=2f(n)$ だけ一意性
Peano 構造の条件 1($0_N\notin s(N)$)$N=\{0\}$、$s(0)=0$、$X=\mathbb{N}$、$a=0$、$g(x)=x+1$存在
Peano 構造の条件 2($s$ は単射)$N=\{0,1\}$、$s(0)=s(1)=1$、同じ $X,a,g$存在
Peano 構造の条件 3(帰納法)$N=\mathbb{N}\sqcup\mathbb{Z}$、$\mathbb{Z}$ 側で $s(k)=k+1$、$X=\mathbb{Z}$、$a=0$、$g(x)=x+1$一意性
反例の確かめ

1 行目では $f(1)=g(2)=1$ となり、$f(2)=g(1)$ が定義されない。規則 $g$ は写像 $X\to X$(すべての元で値をもつ)でなければならない(定義域の一部でだけ値をもつものは 部分写像 である)。2・3 行目は「大きい段の値から小さい段の値を決める」向きの規則であり、2 行目では $f(0)=f(k)+k\ge k$ がすべての $k$ で成り立たねばならず解がない。3 行目では初期値 $f(0)=0$ を与えても、$f(n)=0$ と $f(n)=2^n-1$ がともに解になる($\lfloor(2^{n+1}-1)/2\rfloor=2^n-1$)。前向きに書き直すと $f(n+1)\in\{2f(n),2f(n)+1\}$ となり、次の値が 1 つに決まらない。4 行目では $f(n)=c\,2^{n}$ がどの実数 $c$ についても解になる。

Peano 構造の条件を外した 3 行の計算を開く

5 行目:$f(0)=a=0$ と $f(s(0))=g(f(0))$、すなわち $f(0)=f(0)+1$ が両立しない。

6 行目:$f(0)=0$ から $f(1)=f(s(0))=g(0)=1$ である。一方 $1=s(1)$ でもあるので $f(1)=g(f(1))=f(1)+1$ が必要になり、矛盾する。

7 行目:$N=\mathbb{N}\sqcup\mathbb{Z}$($\mathbb{N}$ 側の $0$ を $0_N$ とし、$s$ は両側でそれぞれ $1$ を足す写像)は条件 1・2 を満たすが、$\mathbb{N}$ 側だけで $0_N$ を含み $s$ で閉じているので条件 3 を満たさない。$f$ を $\mathbb{N}$ 側で $f(n)=n$、$\mathbb{Z}$ 側で $f(k)=k+c$ と定めると、どの整数 $c$ についても 2 つの等式を満たす。

表の下の 3 行は、再帰定理の証明(prf-recdef-recursion)で Peano 構造の 3 条件がそれぞれどこで使われるかに対応している。条件 1 と 2 は存在に、条件 3 は存在と一意性の両方に使われる。

性質

再帰定理

再帰定理

$(N,0_N,s)$ を Peano 構造、$X$ を集合、$a\in X$、$g\colon X\to X$ を写像とする。このとき
$$ f(0_N)=a,\qquad f\circ s=g\circ f $$
を満たす写像 $f\colon N\to X$ がただ 1 つ存在する。

条件 $f\circ s=g\circ f$ は、すべての $n\in N$ で $f(s(n))=g(f(n))$ ということであり、次の図式が可換であることと同じである。
$$ \xymatrix{ N \ar[r]^{s} \ar@{.>}[d]_{f} & N \ar@{.>}[d]^{f} \\ X \ar[r]_{g} & X } $$

一意性. $f,f'$ がともに条件を満たすとし、$A:=\{n\in N\mid f(n)=f'(n)\}$ とおく。$f(0_N)=a=f'(0_N)$ なので $0_N\in A$ である。$n\in A$ なら $f(s(n))=g(f(n))=g(f'(n))=f'(s(n))$ なので $s(n)\in A$ である。条件 3 により $A=N$、すなわち $f=f'$ である。
存在. 直積 $N\times X$ の部分集合 $R$ が次の 2 条件を満たすとき、$R$ を 閉じている ということにする。
(a) $(0_N,a)\in R$。
(b) $(n,x)\in R$ ならば $(s(n),g(x))\in R$。
$N\times X$ 自身は閉じている。閉じている部分集合すべての共通部分を $F$ とすると、$F$ も (a)(b) を満たすので閉じており、閉じている部分集合の中で最小である。
$F$ が写像のグラフであること、すなわち各 $n\in N$ に対して $(n,x)\in F$ となる $x\in X$ がちょうど 1 つあることを示す。そのような $n$ の全体を $A$ とし、条件 3 を使う。

  • $0_N\in A$:(a) により $(0_N,a)\in F$ である。$b\neq a$ で $(0_N,b)\in F$ となるものがあったとし、$F':=F\setminus\{(0_N,b)\}$ とおく。$F'$ は $(0_N,a)$ を含む。$(n,x)\in F'$ なら $(s(n),g(x))\in F$ であり、条件 1 より $s(n)\neq0_N$ なので $(s(n),g(x))\neq(0_N,b)$、すなわち $(s(n),g(x))\in F'$ である。よって $F'$ は閉じているが、$F$ より真に小さく、$F$ の最小性に反する。
  • $n\in A$ なら $s(n)\in A$:$(n,x)\in F$ となる唯一の $x$ をとる。(b) により $(s(n),g(x))\in F$ である。$y\neq g(x)$ で $(s(n),y)\in F$ となるものがあったとし、$F':=F\setminus\{(s(n),y)\}$ とおく。条件 1 より $s(n)\neq0_N$ なので $(0_N,a)\in F'$ である。$(m,z)\in F'$ とする。$s(m)\neq s(n)$ なら $(s(m),g(z))\in F'$ である。$s(m)=s(n)$ なら条件 2 より $m=n$ であり、$n\in A$ から $z=x$、よって $g(z)=g(x)\neq y$ なので、やはり $(s(m),g(z))\in F'$ である。したがって $F'$ は閉じていて $F$ より真に小さく、矛盾する。
    条件 3 により $A=N$ である。そこで $f(n)$ を $(n,x)\in F$ となる唯一の $x$ と定めれば、$f\colon N\to X$ は写像であり、(a) から $f(0_N)=a$、(b) を $(n,f(n))\in F$ に使うと $(s(n),g(f(n)))\in F$ なので $f(s(n))=g(f(n))$ である。$\square$

定理の主張は、Lei16 §3.1 の段落「Natural numbers」(p. 71)で $\mathbb{N}$ の基本性質として述べられているものと同じである。順序数全体に広げた超限再帰の定理は、But21 §11.2 Lemma 11.3・Theorem 11.4(pp. 150–151)で、「$\alpha$ までの値を正しく計算する近似写像」を作って貼り合わせる方法で証明されている。上の証明はそれとは別の、「規則で閉じた最小の関係をとる」方法である。

段数と履歴に依存する再帰

以下では $N=\mathbb{N}$ とする。

段数に依存する再帰

集合 $X$、$a\in X$、写像 $h\colon\mathbb{N}\times X\to X$ に対し、
$$ f(0)=a,\qquad f(n+1)=h\bigl(n,f(n)\bigr)\quad(n\in\mathbb{N}) $$
を満たす写像 $f\colon\mathbb{N}\to X$ がただ 1 つ存在する。

段数を値の中に持ち運ぶ。$Y:=\mathbb{N}\times X$、$b:=(0,a)\in Y$、$G\colon Y\to Y$、$G(n,x):=(n+1,h(n,x))$ とおく。thm-recdef-recursion により $F(0)=b$、$F(n+1)=G(F(n))$ を満たす $F\colon\mathbb{N}\to Y$ がある。$F(n)=(p(n),f(n))$ と成分に分ける。$p(0)=0$、$p(n+1)=p(n)+1$ なので、帰納法で $p(n)=n$ がすべての $n$ で成り立つ。したがって $f(0)=a$、$f(n+1)=h(p(n),f(n))=h(n,f(n))$ である。
一意性:$f,f'$ がともに条件を満たせば、$f(0)=f'(0)$ であり、$f(n)=f'(n)$ なら $f(n+1)=h(n,f(n))=h(n,f'(n))=f'(n+1)$ なので、帰納法で $f=f'$ である。$\square$

パラメータ $p\in P$ を含む形 $f(p,0)=a(p)$、$f(p,n+1)=h(p,n,f(p,n))$ も、各 $p$ ごとにこの定理を使えばよい。各 $p$ について解がただ 1 つなので、選択は要らず、それらを並べた $f\colon P\times\mathbb{N}\to X$ がただ 1 つ定まる。ex-recdef-arithmetic の加法($p=m$)はこの形である。
有限列を扱うため、集合 $X$ の元の長さ $n$ の列(写像 $\{0,\dots,n-1\}\to X$)の全体を $X^{n}$、それらすべての $n\in\mathbb{N}$ にわたる和集合を $X^{<\mathbb{N}}$ と書く。長さ $0$ の列は空列 $()$ だけである。写像 $f\colon\mathbb{N}\to X$ に対し、最初の $n$ 個の値の列 $(f(0),\dots,f(n-1))\in X^n$ を $f|_n$ と書く。

累積再帰

集合 $X$ と写像 $G\colon X^{<\mathbb{N}}\to X$ に対し、
$$ f(n)=G\bigl(f|_n\bigr)\quad(n\in\mathbb{N}) $$
を満たす写像 $f\colon\mathbb{N}\to X$ がただ 1 つ存在する。

「それまでの値の列」を 1 つの値として再帰する。列 $u=(u_0,\dots,u_{n-1})$ の末尾に $G(u)$ を付け加えた列 $(u_0,\dots,u_{n-1},G(u))$ を $\Phi(u)$ とおくと、$\Phi\colon X^{<\mathbb{N}}\to X^{<\mathbb{N}}$ は写像である。thm-recdef-recursion により
$$ U(0)=(),\qquad U(n+1)=\Phi\bigl(U(n)\bigr) $$
を満たす $U\colon\mathbb{N}\to X^{<\mathbb{N}}$ がある。帰納法により $U(n)$ の長さは $n$ であり、$U(n+1)$ は $U(n)$ の末尾に $G(U(n))$ を付けた列である。そこで $f(n):=G(U(n))$ と定める。
$U(n)=f|_n$ を帰納法で示す。$n=0$ では両辺とも空列である。$U(n)=f|_n$ なら、$U(n+1)$ は $f|_n$ の末尾に $G(U(n))=f(n)$ を付けた列、すなわち $f|_{n+1}$ である。したがって $f(n)=G(U(n))=G(f|_n)$ がすべての $n$ で成り立つ。
一意性:$f,f'$ がともに条件を満たすとして、数学的帰納法 の記事の定理「強い帰納法」を使う。$k< n$ のすべての $k$ で $f(k)=f'(k)$ なら $f|_n=f'|_n$ なので $f(n)=G(f|_n)=G(f'|_n)=f'(n)$ である。よってすべての $n$ で $f(n)=f'(n)$ である。$\square$

ex-recdef-fibonacci の Fibonacci 数はこの定理で定まる。$f(n)$ が $f$ のそれまでの値の一部しか使わない場合(2 つ前まで、など)も、$G$ が使わない値を無視すると考えれば同じである。

応用:Peano 構造の範疇性

再帰定理の一意性の部分は、「同じ再帰を満たす写像は等しい」という形で、恒等写像を見分けるのに使える。これにより、自然数の公理を満たす構造が本質的に 1 つしかないことが分かる。

Peano 構造の範疇性と再帰による特徴づけ
  1. $(N,0_N,s)$ と $(M,0_M,t)$ を Peano 構造とする。$F(0_N)=0_M$、$F\circ s=t\circ F$ を満たす写像 $F\colon N\to M$ はただ 1 つ存在し、全単射である。
  2. 集合 $N$、元 $0_N\in N$、写像 $s\colon N\to N$ の組が、thm-recdef-recursion の結論(任意の $X,a,g$ に対して $f(0_N)=a$、$f\circ s=g\circ f$ を満たす $f$ がただ 1 つある)を満たすなら、$(N,0_N,s)$ は Peano 構造である。

まず次を確かめる。組 $(N,0_N,s)$ と $(M,0_M,t)$ がどちらも「再帰の性質」(thm-recdef-recursion の結論)をもつなら、$F(0_N)=0_M$、$F\circ s=t\circ F$ を満たす $F$ はただ 1 つあり、全単射である。
$N$ の再帰の性質を $X=M$、$a=0_M$、$g=t$ に使うと、そのような $F\colon N\to M$ がただ 1 つある。同様に $M$ の再帰の性質から、$G(0_M)=0_N$、$G\circ t=s\circ G$ を満たす $G\colon M\to N$ がある。合成 $G\circ F\colon N\to N$ は
$$ (G\circ F)(0_N)=G(0_M)=0_N,\qquad (G\circ F)\circ s=G\circ t\circ F=s\circ(G\circ F) $$
を満たす。恒等写像 $\mathrm{id}_N$ も $\mathrm{id}_N(0_N)=0_N$、$\mathrm{id}_N\circ s=s\circ\mathrm{id}_N$ を満たす。$N$ の再帰の性質を $X=N$、$a=0_N$、$g=s$ に使うと、この 2 つの条件を満たす写像はただ 1 つなので $G\circ F=\mathrm{id}_N$ である。同様に $F\circ G=\mathrm{id}_M$ であり、$F$ は全単射で $G$ がその逆写像である。
1:thm-recdef-recursion により Peano 構造は再帰の性質をもつので、上のことから従う。
2:この記事の冒頭と同じく、通常の自然数 $(\mathbb{N},0,s)$ が Peano 構造であることを前提にする(集合論の中での構成は 自然数 の記事の例「von Neumann自然数」と 帰納的集合 の記事を参照)。$(\mathbb{N},0,s)$ は thm-recdef-recursion により再帰の性質をもつ。仮定から $(N,0_N,s)$ も再帰の性質をもつので、上のことから $F(0)=0_N$、$F(n+1)=s(F(n))$ を満たす全単射 $F\colon\mathbb{N}\to N$ がある。Peano 構造の 3 条件は全単射 $F$ で $\mathbb{N}$ から $N$ に移る。条件 1:$0_N=s(y)$ となる $y$ があれば、$y=F(k)$ として $F(0)=0_N=s(F(k))=F(k+1)$、$F$ の単射性から $0=k+1$ となり矛盾する。条件 2:$s(F(k))=s(F(l))$ なら $F(k+1)=F(l+1)$ より $k=l$、よって $F(k)=F(l)$ である。条件 3:$0_N\in A\subset N$、$s(A)\subset A$ なら、$F^{-1}(A)$ は $0$ を含み、$k\in F^{-1}(A)$ なら $F(k+1)=s(F(k))\in A$ なので $k+1\in F^{-1}(A)$ である。$\mathbb{N}$ の条件 3 から $F^{-1}(A)=\mathbb{N}$、$F$ が全射なので $A=N$ である。$\square$

1 は 自然数 の記事の定理「Peano構造の範疇性」であり、上の証明はその記事が引用で済ませている部分を、再帰定理から直接導いたものである。1 と 2 を合わせると、Peano 構造であることと、再帰の性質をもつことは同値になる。圏論の言葉では、再帰の性質は「$(\mathbb{N},0,s)$ が、集合 $X$ と元 $a\in X$ と写像 $g\colon X\to X$ の組 $(X,a,g)$ を対象とし、$(X,a,g)$ から $(X',a',g')$ への射を $h(a)=a'$、$h\circ g=g'\circ h$ を満たす写像 $h\colon X\to X'$ とする圏の始対象である」と言い換えられる(Lei16 Exercise 3.1.2、p. 73)。自然数を公理から出発せずに、この性質によって特徴づける立場もある。

補足

構造についての再帰

再帰的定義は自然数上の写像に限らない。論理式・項・木のように「基本的なものから、決まった規則で組み立てたものだけ」からなる対象の上でも、基本的なものでの値と、組み立ての規則ごとの値の計算法を与えれば写像が定まる(構造についての再帰)。たとえば一階述語論理の論理式の部分論理式や、構造の中で論理式が成り立つという関係は、論理式の組み立てに沿った再帰で定義される(Zac25 Definition 6.17(p. 101)、Definition 7.11(pp. 119–120))。正当性の証明は、組み立て方がただ 1 通りであること(読み方の一意性)を使って、prf-recdef-recursion と同じく「規則で閉じた最小の関係」を作る方法で行える。この記事ではその一般形を証明しない。

超限再帰

$\mathbb{N}$ の代わりに順序数(整列集合)の上で、それより前のすべての値から次の値を決めるのが超限再帰である。後者の段だけでなく、極限の段(前のすべての段の後に来る段)でも値を決める規則が必要になる。集合の累積階層 $V_\alpha$ はこの方法で定義される(But21 Definition 11.1(p. 149)と §11.2)。thm-recdef-course-of-values は、その $\mathbb{N}$ の場合にあたる。

関連項目

参考文献

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