Freedmanの定理

同義語:Freedman's theorem単連結4次元多様体の分類Freedmanの分類定理4次元の位相的Poincaré予想Chern多様体

概要

Freedmanの定理(Freedman's theorem)とは、単連結な閉 4 次元位相多様体を同相を除いて分類する定理である。向き付けられた単連結閉 4 次元多様体の、向きを保つ同相による類は、交叉形式の同型類と Kirby–Siebenmann 不変量 $\kappa$ の組で決まり、どのユニモジュラな対称形式も交叉形式として現れる。形式が偶なら $\kappa$ は符号数 $\sigma$ について $\sigma/8$ の偶奇で決まって多様体は 1 つ、奇なら $\kappa=0$ と $\kappa=1$ の 2 つがある。系として、$S^4$ とホモトピー同値な閉 4 次元多様体は $S^4$ と同相である(4 次元の位相的な Poincaré 予想)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相多様体, Poincaré双対, Rokhlinの定理, Kirby–Siebenmann不変量, E8多様体

Freedman の定理(Freedman's theorem)は、単連結な閉 $4$ 次元位相多様体を同相を除いて分類する定理である。向き付けられた単連結な閉 $4$ 次元多様体 $M$ は、交叉形式 $Q_M$ と Kirby–Siebenmann不変量 $\kappa(M)\in\mathbb{Z}/2$ の 2 つで同相類が決まる。逆に、どのユニモジュラな対称形式も交叉形式として現れる。ただし形式が偶のときは $\kappa$ は $\sigma/8\bmod2$ に決まり、奇のときは $\kappa$ が $0$ と $1$ の 2 通りとも現れる。Freedman が 1982 年に示し、Quinn の仕事で閉多様体全般に広がった。
この定理によって、単連結な閉 $4$ 次元位相多様体の分類は、整数上のユニモジュラな対称形式の分類という代数の問題にほぼ帰着する。とくに、$S^4$ とホモトピー同値な閉 $4$ 次元位相多様体は $S^4$ と同相である($4$ 次元の位相的な Poincaré 予想)。一方、滑らかな多様体ではこの対応は大きく崩れる。$E_8$ 形式は Rokhlinの定理 により、$E_8\oplus E_8$ は Donaldsonの定理 により、滑らかな閉多様体の交叉形式にならない。
この記事では、主定理とホモトピー型の分類は所在を示して引用する。そのうえで、$4$ 次元の位相的な Poincaré 予想を主定理から導くことと、階数 $2$ 以下のユニモジュラ形式の分類とそれによる $b_2\le2$ の多様体の数え上げを完全に証明する。

定義と規約

多様体は Hausdorff かつ第 2 可算とし、閉多様体はコンパクトで境界のない多様体をいう。「多様体」は位相多様体を指し、滑らかな構造は仮定しない。ホモロジー・コホモロジーは $\mathbb{Z}$ 係数の特異(コ)ホモロジーとする。

形式

有限階数の自由アーベル群 $L$ と対称な双線形写像 $Q\colon L\times L\to\mathbb{Z}$ の組を形式という。ユニモジュラ・偶・奇・符号数・定値・不定値は Rokhlinの定理 の定義「ユニモジュラ・偶・符号数」の意味とする。形式の同型(等長同型)は、$Q'(\varphi x,\varphi y)=Q(x,y)$ をみたす群の同型 $\varphi\colon L\to L'$ である。$\langle a\rangle$ は階数 $1$ で生成元 $e$ が $Q(e,e)=a$ の形式、$nQ$ は $Q$ の $n$ 個の直交直和、$H$ は Gram 行列 $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ の形式、$E_8$ は E8多様体 の定義「$E_8$ 形式」の正定値な形式である。$-Q$ は $Q$ の値の符号を反転した形式で、$-H\cong H$ である(基底の片方の符号を変える)。

交叉形式と向き

$M$ を向き付けられた閉 $4$ 次元多様体とし、$[M]\in H_4(M)$ を基本類とする。$FH^2(M):=H^2(M)/(\text{ねじれ})$ の上の
$$ Q_M(a,b):=\langle a\smile b,[M]\rangle $$
を交叉形式、その符号数を $\sigma(M)$ と書く。Poincaré 双対によりユニモジュラである(FNOP25 Definition 8.1、p. 60)。$M$ が単連結なら $H_1(M)=0$ で、普遍係数定理により $H^2(M)\cong\operatorname{Hom}(H_2(M),\mathbb{Z})$ はねじれをもたず、Poincaré 双対で $H_2(M)$ と同一視できる。
向きについて次の約束をする。

  • 向きを反転した多様体を $-M$ と書く。$Q_{-M}=-Q_M$、$\sigma(-M)=-\sigma(M)$ である。
  • $\mathbb{C}P^2$ には複素構造から定まる向きを入れる。このとき $Q_{\mathbb{C}P^2}\cong\langle1\rangle$ で、$\overline{\mathbb{C}P^2}:=-\mathbb{C}P^2$ の交叉形式は $\langle-1\rangle$ である。$S^2\times S^2$ の交叉形式は $H$ である(FNOP25 Example 8.2 (2)(3)、p. 61)。
  • K3曲面 には複素構造から定まる向きを入れる。このとき交叉形式は $-E_8\oplus-E_8\oplus3H$ で、$\sigma=-16$ である(K3曲面 の節「複素数体上の K3 曲面」)。FNOP25 Example 8.2 (4)(p. 61)は向きを反転した $E_8\oplus E_8\oplus3H$ の形で述べている。
  • 連結和 $M\#N$ は向きを保つように作る(境界に沿った貼り合わせと連結和)。このとき包含から来る同型 $H_2(M)\oplus H_2(N)\to H_2(M\#N)$ は $Q_M\oplus Q_N$ を $Q_{M\#N}$ に移す(FNOP25 Proposition 8.3、p. 61)。

Kirby–Siebenmann 不変量

閉 $4$ 次元多様体 $M$ の Kirby–Siebenmann 不変量 $\kappa(M)\in\mathbb{Z}/2$ は Kirby–Siebenmann不変量 の記事の意味とする(文献によっては $\mathrm{ks}(M)$ と書く)。次を使う。

  • $\kappa(M)\in H^4(M;\mathbb{Z}/2)$ は向きを使わずに定まるので、$\kappa(-M)=\kappa(M)$ である。
  • $M$ が滑らかな構造をもてば $\kappa(M)=0$ である(FNOP25 Theorem 9.2 (1)、p. 68)。
  • $\kappa(M\#N)=\kappa(M)+\kappa(N)$ である(Kirby–Siebenmann不変量 の命題「連結和についての加法性」)。
  • $M$ が spin なら $\kappa(M)\equiv\sigma(M)/8\pmod2$ である(Kirby–Siebenmann不変量 の定理「符号数との関係」)。単連結で $Q_M$ が偶なら $M$ は spin である(FNOP25 Remark 8.9、pp. 64–65)。

主定理

Freedman の定理
  1. 存在:$L$ を有限階数の自由アーベル群、$Q$ を $L$ の上のユニモジュラな対称形式、$k\in\mathbb{Z}/2$ とする。$Q$ が偶のときは $k\equiv\sigma(Q)/8\pmod2$ と仮定する。このとき、向き付けられた単連結な閉 $4$ 次元多様体 $M$ で、$H_2(M)\cong L$、$Q_M\cong Q$、$\kappa(M)=k$ となるものが存在する。
  2. 一意性:$M$、$M'$ を向き付けられた単連結な閉 $4$ 次元多様体とし、$\varphi\colon H_2(M)\to H_2(M')$ を交叉形式の同型とする。$\kappa(M)=\kappa(M')$ なら、$\varphi$ を引き起こす向きを保つ同相写像 $M\to M'$ が存在する。
定理の読み方

1 は、与えた交叉形式をもつ多様体が存在することを、2 は、交叉形式と $\kappa$ が同相類を決めることを述べている。$Q$ が偶のときは $\kappa$ が $\sigma(Q)/8$ で決まるので、実質的に交叉形式だけで分類される。$Q$ が奇のときは $\kappa=0,1$ の 2 つの同相類があり、$\kappa$ は同相不変量として区別に使われる。

これは Freedman(1982)の定理で、FNOP25 Theorem 12.2(pp. 93–94。Freedman–Quinn の本の Theorem 10.1 の形で、閉多様体全般への拡張は Quinn による、と注記されている)、Kir89 Ch. III Theorem 2.1(p. 31)、Kos93 Ch. VIII §7(p. 164)による。この記事では証明しない。
主定理を不変量の言葉で言い直す。向き付けられた単連結な閉 $4$ 次元多様体の、向きを保つ同相による類は、組 $(Q_M\text{ の同型類},\ \kappa(M))$ と 1 対 1 に対応する。現れる組は、$Q$ が偶なら $(Q,\sigma(Q)/8)$ の 1 つ、$Q$ が奇なら $(Q,0)$ と $(Q,1)$ の 2 つである。実際、向きを保つ同相写像は交叉形式の同型を引き起こし、$\kappa$ は同相不変量なので、組は同相類の不変量である。そして主定理の 1 が全射性を、2 が単射性を与える。
同相より粗い、ホモトピー同値による分類は古典的である。

ホモトピー型の分類

向き付けられた単連結な閉 $4$ 次元多様体 $M$、$N$ の交叉形式が同型なら、$M$ と $N$ はホモトピー同値である。

同相との違い

ホモトピー同値類は交叉形式だけで決まり、Kirby–Siebenmann 不変量 $\kappa$ は見えない。Freedman の定理は、$\kappa$ を加えると同相類まで決まることを述べるので、この定理と合わせると、同じ交叉形式をもつ多様体のホモトピー同値類は 1 つで、同相類は偶形式なら 1 つ、奇形式なら 2 つとなる。

これは Milnor(Whitehead の仕事による)の定理で、FNOP25 Theorem 12.1(p. 93。滑らかな場合は Milnor、一般の場合は Milnor–Husemoller の本 Ch. V Theorem 1.5)による。この記事では証明しない。したがって、形式が奇のときの 2 つの多様体($\kappa=0$ と $\kappa=1$)はホモトピー同値だが同相でない(FNOP25 p. 94)。

証明の道具について

主定理の証明の中心は、Casson ハンドルが位相的には標準的な $2$ ハンドル $D^2\times\mathbb{R}^2$ と同相であるという Freedman の定理である。これにより、$4$ 次元では滑らかには実行できない Whitney の技法が位相的には実行でき、単連結な $5$ 次元の h 同境が位相的には積になる(位相的な h 同境定理)。証明の流れは Kir89 Ch. XII–XIII(pp. 72–94)が述べ、そこでは Casson ハンドルを分解空間の理論で標準的なハンドルと比べる。$5$ 次元以上の多様体のあいだの h同境定理 と違い、$4$ 次元多様体のあいだの($5$ 次元の)滑らかな h 同境定理は成り立たない(Kos93 Ch. VIII §7、pp. 164–165)。

4 次元の位相的な Poincaré 予想

4 次元の位相的な Poincaré 予想

閉 $4$ 次元多様体 $N$ が $S^4$ とホモトピー同値なら、$N$ は $S^4$ と同相である。

4 次元の位相的な Poincaré 予想

ホモトピー同値は基本群とホモロジーの同型を引き起こす(ホモトピー同値 の命題「基本群・ホモロジーへの帰結」)ので、$N$ は連結で単連結、$H_2(N)=0$、$H_4(N)\cong\mathbb{Z}$ である。単連結な多様体は向き付け可能である(Hat02 Proposition 3.25、p. 234)ので、$N$ に向きを入れる。
$H_2(N)=0$ なので $Q_N$ は階数 $0$ の形式で、$S^4$ の交叉形式も階数 $0$ である。零写像 $\varphi\colon H_2(N)=0\to H_2(S^4)=0$ は交叉形式の同型である。
$\kappa$ を比べる。階数 $0$ の形式は偶である(条件が空)。$N$ は単連結で $Q_N$ は偶なので spin であり、$\kappa(N)\equiv\sigma(N)/8=0$ である。$S^4$ は滑らかなので $\kappa(S^4)=0$ である。
thm-freedman-main の 2 により、$\varphi$ を引き起こす向きを保つ同相写像 $N\to S^4$ がある。$\square$

これは FNOP25 Corollary 12.3(p. 94)の議論である。$S^4$ とホモトピー同値な滑らかな閉多様体が $S^4$ と微分同相かどうか(滑らかな $4$ 次元 Poincaré 予想)は、この定理からは分からない。$5$ 次元以上の対応する主張は 一般化されたPoincaré予想 で扱う。

階数 2 以下の形式と多様体

主定理により、$b_2(M):=\operatorname{rank}H_2(M)$ が小さい多様体は、形式の分類から数え上げられる。まず形式を分類する。

階数 2 以下のユニモジュラ形式
  1. 階数 $1$ のユニモジュラ形式は $\langle1\rangle$ と $\langle-1\rangle$ で、この 2 つは同型でない。
  2. 階数 $2$ のユニモジュラ形式は、$2\langle1\rangle$、$2\langle-1\rangle$、$\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle$、$H$ のどれか 1 つだけと同型である。
階数 2 以下の形式の分類

1. 生成元 $e$ について Gram 行列は $(Q(e,e))$ で、行列式 $Q(e,e)$ が $\pm1$ なので、形式は $\langle1\rangle$ か $\langle-1\rangle$ である。符号数が $1$ と $-1$ で違うので同型でない。
2. $(L,Q)$ を階数 $2$ のユニモジュラ形式とし、符号数で場合を分ける。
正定値の場合。 $Q(x,x)$($x\ne0$)の最小値 $a>0$ をとる $x$ を選ぶ。$x=mx'$($m\ge2$、$x'\in L$)なら $Q(x',x')=a/m^2< a$ となるので、$x$ は原始的($L/\mathbb{Z}x$ がねじれをもたない)であり、$x,y$ が $L$ の基底となる $y$ がある。$y$ を $y+kx$($k\in\mathbb{Z}$)に取り替えると $Q(x,y)$ は $Q(x,y)+ka$ に変わるので、$b:=Q(x,y)$ は $\lvert 2b\rvert\le a$ にできる。$c:=Q(y,y)$ とおくと、$y\ne0$ なので最小性から $c\ge a$ である。行列式は $ac-b^2=1$ なので
$$ 1=ac-b^2\ge a^2-\frac{a^2}{4}=\frac{3a^2}{4} $$
となり、$a=1$ である。すると $\lvert2b\rvert\le1$ から $b=0$、$ac-b^2=1$ から $c=1$ で、$Q\cong2\langle1\rangle$ である。
負定値の場合。 $-Q$ に正定値の場合を当てはめて $Q\cong2\langle-1\rangle$ である。
不定値の場合。 固有値は正と負が 1 つずつなので、行列式は負で $-1$ である。基底 $e_1,e_2$ について $Q(e_1,e_1)=p$、$Q(e_1,e_2)=q$、$Q(e_2,e_2)=r$ とおくと $q^2-pr=1$ である。$Q(x,x)=0$ となる原始的な $x$ があることを示す。$p=0$ なら $x=e_1$ でよい。$p\ne0$ なら、$x=ue_1+ve_2$ について $Q(x,x)=pu^2+2quv+rv^2$ で、$u=-q+1$、$v=p$ とおくと
$$ p(1-q)^2+2qp(1-q)+rp^2=p\bigl((1-q)^2+2q(1-q)+pr\bigr)=p\bigl(1-q^2+pr\bigr)=0 $$
である。$(u,v)\ne(0,0)$($v=p\ne0$)なので、公約数で割って原始的な $x$ が得られる。
$x$ を含む基底 $x,y$ をとると、Gram 行列は $\begin{pmatrix}0&m\\m&c\end{pmatrix}$($m=Q(x,y)$、$c=Q(y,y)$)で、行列式 $-m^2=-1$ から $m=\pm1$ である。$y$ を $-y$ に替えて $m=1$ としてよい。$y$ を $y+kx$ に替えると $c$ は $c+2k$ に変わる。

  • $c$ が偶数なら、$c=0$ にできて $Q\cong H$ である。
  • $c$ が奇数なら、$c=1$ にできる。このとき $f_1:=y$、$f_2:=y-x$ とおくと、$Q(f_1,f_1)=1$、$Q(f_2,f_2)=1-2=-1$、$Q(f_1,f_2)=1-1=0$ で、$f_1,f_2$ は基底なので $Q\cong\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle$ である。

同型でないこと。 4 つの形式の符号数は順に $2$、$-2$、$0$、$0$ である。$\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle$ は奇($Q(f_1,f_1)=1$)で、$H$ は偶($Q(ux+vy,ux+vy)=2uv$)なので、この 2 つも同型でない。$\square$

正定値の場合の議論は、2 変数 2 次形式の Gauss の簡約と同じものである。不定値のユニモジュラ形式一般の分類(奇なら $p\langle1\rangle\oplus q\langle-1\rangle$、偶なら $nE_8\oplus mH$ の形)は Rokhlinの定理 の定理「奇で不定値の形式の分類」と FNOP25 p. 65(Milnor–Husemoller の本の Theorem II.5.3 を引く)による。定値の形式は分類が難しく、偶で正定値のものに限っても、階数 $8$、$16$、$24$ で $1$、$2$、$24$ 個、階数 $32$ で $10^7$ 個以上ある(FNOP25 p. 65 の表)。
次の系を述べるために、Chern 多様体 $*\mathbb{C}P^2$ を、$\mathbb{C}P^2$ とホモトピー同値で $\kappa=1$ の閉 $4$ 次元多様体とする。これは存在して同相を除いて一意であり、$\mathbb{C}P^2$ と同相でない(FNOP25 Lemma 9.6・Definition 9.7、pp. 74–75。構成は $+1$ の枠で三葉結び目に沿って $D^4$ に $2$ ハンドルをつけ、境界のホモロジー球面を Freedman の可縮多様体でふさぐ)。$*\mathbb{C}P^2$ は単連結で、交叉形式は $\langle1\rangle$ である(thm-freedman-main の 1 で $Q=\langle1\rangle$、$k=1$ としたものと同相)。

$b_2\le2$ の単連結な閉 4 次元多様体

向き付けられた単連結な閉 $4$ 次元多様体 $M$ で $b_2(M)\le2$ のものは、向きを保つ同相を除いて次の $12$ 個で、互いに向きを保つ同相でない。

$b_2$$Q_M$$\kappa=0$$\kappa=1$
$0$$0$$S^4$(なし)
$1$$\langle1\rangle$$\mathbb{C}P^2$$*\mathbb{C}P^2$
$1$$\langle-1\rangle$$\overline{\mathbb{C}P^2}$$-*\mathbb{C}P^2$
$2$$2\langle1\rangle$$\mathbb{C}P^2\#\mathbb{C}P^2$$*\mathbb{C}P^2\#\mathbb{C}P^2$
$2$$2\langle-1\rangle$$\overline{\mathbb{C}P^2}\#\overline{\mathbb{C}P^2}$$(-*\mathbb{C}P^2)\#\overline{\mathbb{C}P^2}$
$2$$\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle$$\mathbb{C}P^2\#\overline{\mathbb{C}P^2}$$*\mathbb{C}P^2\#\overline{\mathbb{C}P^2}$
$2$$H$$S^2\times S^2$(なし)

向きを考えずに同相で分類すると、$b_2=0,1,2$ でそれぞれ $1$、$2$、$5$ 個である。

$b_2\le2$ の多様体の数え上げ

表の各多様体の不変量。 $S^4$、$\mathbb{C}P^2$、$\overline{\mathbb{C}P^2}$、$S^2\times S^2$ とそれらの連結和は滑らかなので $\kappa=0$ である。$\kappa(*\mathbb{C}P^2)=1$ で、$\kappa(-*\mathbb{C}P^2)=\kappa(*\mathbb{C}P^2)=1$ である。連結和の $\kappa$ は和なので、$\kappa=1$ の列の連結和はどれも $\kappa=1+0=1$ である。交叉形式は、各成分の形式($\langle1\rangle$、$\langle-1\rangle$、$H$、$Q_{-M}=-Q_M$)と連結和の公式から表のとおりである。連結和は単連結な多様体の連結和なので単連結である(Van Kampenの定理)。
これで全部であること。 $M$ を $b_2(M)\le2$ の向き付けられた単連結な閉 $4$ 次元多様体とする。$H_2(M)$ は階数 $b_2$ の自由アーベル群で、$Q_M$ はユニモジュラなので、prop-freedman-rank2 により $Q_M$ は表の $Q_M$ の列のどれか 1 つと同型である($b_2=0$ なら階数 $0$ の形式)。$Q_M$ が偶($0$ または $H$)なら $\kappa(M)=\sigma(M)/8=0$ に決まる。$Q_M$ が奇なら $\kappa(M)$ は $0$ か $1$ である。いずれの場合も、表の中に $Q$ と $\kappa$ が $M$ と同じ多様体 $N$ がちょうど 1 つあり、thm-freedman-main の 2 により $M$ は $N$ と向きを保つ同相である。
互いに同相でないこと。 表の 2 つの多様体は、交叉形式の同型類か $\kappa$ が違う。prop-freedman-rank2 により表の形式は互いに同型でないので、向きを保つ同相写像はない。
向きを考えない場合。 連結な多様体の同相写像は、向きを保つか逆にするかのどちらかなので、$M$ と $N$ が同相であることは、$N$ が $M$ か $-M$ と向きを保つ同相であることと同じである。$-M$ は形式が $-Q_M$ で $\kappa$ が同じなので、表の中で $M$ と $-M$ は、$\langle1\rangle$ と $\langle-1\rangle$ の行どうし、$2\langle1\rangle$ と $2\langle-1\rangle$ の行どうし($\kappa$ の列を保って)入れ替わり、$\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle$ と $H$ の行ではそれぞれ自分自身に移る($-(\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle)\cong\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle$、$-H\cong H$)。よって同相類の個数は $b_2=0$ で $1$、$b_2=1$ で $4/2=2$、$b_2=2$ で $4/2+2+1=5$ である。$\square$

$\mathbb{C}P^2\#\mathbb{C}P^2$ と $\mathbb{C}P^2\#\overline{\mathbb{C}P^2}$ は符号数が $2$ と $0$ で違い、向きを反転しても一致しない。$S^2\times S^2$ と $\mathbb{C}P^2\#\overline{\mathbb{C}P^2}$ はどちらも符号数 $0$ で $b_2=2$ だが、形式の偶奇が違うので同相でない(ホモトピー同値でもない)。

例

主定理から分かる多様体
  1. $E_8$ 多様体:$Q=E_8$ は偶で $\sigma=8$ なので、交叉形式 $E_8$ の単連結な閉多様体はただ 1 つあり、$\kappa=8/8=1$ である(E8多様体)。
  2. $E_8\oplus E_8$ の多様体:$Q=E_8\oplus E_8$ は偶で $\sigma=16$ なので、ただ 1 つあり、$\kappa=16/8\equiv0$ である。$\kappa$ は $0$ だが滑らかな構造をもたない(Donaldsonの定理)。$E_8$ 多様体 $V$ の連結和 $V\#V$ は交叉形式が $E_8\oplus E_8$ なので、この多様体は $V\#V$ と同相である。
  3. K3 曲面の位相型:K3 曲面 $X$(複素構造の向き)の交叉形式は $-E_8\oplus-E_8\oplus3H$ で偶、$X$ は滑らかなので $\kappa(X)=0$ である。$(-V)\#(-V)\#3(S^2\times S^2)$ の交叉形式も $-E_8\oplus-E_8\oplus3H$ で偶なので、$X$ はこれと向きを保つ同相である。$X$ は滑らかだが、この連結和の成分 $-V$ は滑らかな構造をもたない。
  4. 奇な形式の 2 つの実現:$Q=\langle1\rangle\oplus9\langle-1\rangle$ は奇なので、$\kappa=0$ の $\mathbb{C}P^2\#9\overline{\mathbb{C}P^2}$ と、$\kappa=1$ の $*\mathbb{C}P^2\#9\overline{\mathbb{C}P^2}$ の 2 つがある。前者と同相で微分同相でない滑らかな多様体(Dolgachev 曲面)もある(Kir89 Ch. III §3、p. 32)。

3 の議論は、偶で不定値の形式 $nE_8\oplus mH$($m\ge1$)について一般に通る:$\kappa$ が $\sigma/8$ に決まるので、交叉形式が $nE_8\oplus mH$ の単連結な閉多様体は $E_8$ 多様体($n< 0$ なら $-V$)の $\lvert n\rvert$ 個と $S^2\times S^2$ の $m$ 個の連結和と同相である(連結和の $\kappa$ は $\lvert n\rvert\equiv n=\sigma/8\pmod2$)。奇で不定値の形式 $p\langle1\rangle\oplus q\langle-1\rangle$($p,q\ge1$)なら、$p\,\mathbb{C}P^2\#q\,\overline{\mathbb{C}P^2}$ か、そのうち 1 つの $\mathbb{C}P^2$ を $*\mathbb{C}P^2$ に替えたものと同相である。ただし、定値な偶の形式は $E_8$ の直和とは限らない(階数 $16$ の偶で正定値な形式は $2$ 個ある)ので、定値な場合は連結和に分解できるとは限らない。

滑らかな多様体との比較

主定理はどのユニモジュラ形式も位相多様体の交叉形式として実現するが、滑らかな閉多様体で実現されるものは限られる。

  • Rokhlin の定理:滑らかで単連結な閉多様体の交叉形式が偶なら、符号数は $16$ の倍数である(Rokhlinの定理 の系「偶な交叉形式をもつ滑らかな閉多様体」)。$E_8$、$E_8\oplus H$ などは除かれる。主定理と合わせると、これらの形式の多様体は $\kappa=1$ である。
  • Donaldson の定理:滑らかな閉多様体の交叉形式が定値なら、$n\langle1\rangle$ か $n\langle-1\rangle$ と同型である(Donaldsonの定理)。$E_8\oplus E_8$ のように $\kappa=0$ の定値な形式も除かれる。
  • 偶で不定値の形式:$2pE_8\oplus mH$ は $m\ge3\lvert p\rvert$ なら K3 曲面と $S^2\times S^2$ の連結和で滑らかに実現される。滑らかに実現されるには $m\ge2\lvert p\rvert+1$ が必要である(Furuta の 10/8 定理。FNOP25 Theorem 8.13、p. 66)。その間の $m$ が実現されるかは $11/8$ 予想として未解決である(FNOP25 Conjecture 8.14、p. 66)。
    滑らかな構造については、同相だが微分同相でない閉多様体の組(ex-freedman-examples の 4)や、$\mathbb{R}^4$ と同相だが微分同相でない滑らかな多様体(エキゾチックR⁴)があり、主定理のような分類は滑らかな場合には知られていない(Kos93 Ch. VIII §7、p. 164)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
単連結$S^1\times S^3$ と $S^4$交叉形式と $\kappa$ が同じなら同相
境界がないこと$D^4$ と Freedman の可縮多様体 $C$交叉形式と $\kappa$ が同じなら同相
$\kappa$ が同じこと$\mathbb{C}P^2$ と $*\mathbb{C}P^2$交叉形式が同型なら同相
同相を微分同相に強める$\mathbb{C}P^2\#9\overline{\mathbb{C}P^2}$ と Dolgachev 曲面交叉形式と $\kappa$ が同じなら微分同相
位相多様体(滑らかにする)$E_8$、$E_8\oplus E_8$どのユニモジュラ形式も交叉形式として現れる
反例の確認

1 行目:$S^1\times S^3$ は向き付けられた閉 $4$ 次元多様体で、Künneth の公式から $H_2(S^1\times S^3)=0$ なので、交叉形式は $S^4$ と同じ階数 $0$ の形式である。どちらも滑らかなので $\kappa=0$ である。しかし $\pi_1(S^1\times S^3)\cong\mathbb{Z}$ なので同相でない。破れる条件は単連結性である。
2 行目:$C$ は境界が Poincaré ホモロジー球面 $P$ のコンパクトな可縮 $4$ 次元多様体である(E8多様体 の定理「Freedman の可縮多様体」)。$D^4$ と $C$ はどちらも可縮なので $H_2=0$ で交叉形式は階数 $0$ である。しかし境界が $S^3$ と $P$ で、$\pi_1(P)$ は位数 $120$ なので(ホモロジー球面 の定理「Poincaré ホモロジー球面の基本性質」)境界どうしは同相でなく、同相写像は境界を境界に移すので $D^4$ と $C$ は同相でない。主定理は閉多様体についての主張である。
3 行目:どちらも交叉形式は $\langle1\rangle$ で、$\kappa$ は $0$ と $1$ である。thm-freedman-homotopy によりホモトピー同値だが、同相でない。奇な形式では $\kappa$ を加えないと同相類が決まらない。
4 行目:2 つは滑らかな単連結閉多様体で、交叉形式はともに $\langle1\rangle\oplus9\langle-1\rangle$、$\kappa=0$ なので主定理により同相であるが、微分同相でない(Kir89 Ch. III §3、p. 32)。主定理は同相についての主張で、微分同相までは決めない。
5 行目:主定理の 1 は $E_8$ と $E_8\oplus E_8$ も実現するが、これらを交叉形式にもつ滑らかな閉多様体はない(Rokhlinの定理、Donaldsonの定理)。存在の主張は位相多様体でしか成り立たない。

補足

  • 単連結でない場合:基本群が「よい群」(有限群・$\mathbb{Z}$ を含み、部分群・商・拡大・増大列の和で閉じた族)なら、主定理の証明の技法が使え、基本群 $\mathbb{Z}$ の場合などに同様の分類がある(FNOP25 §12.3、p. 94〜、Kir89 Ch. III §2、p. 32)。任意の有限表示群は閉 $4$ 次元多様体の基本群になるので、基本群を固定しない分類は期待できない(FNOP25 p. 93)。
  • 自己同相写像:主定理の 2 を $M'=M$ に当てはめると、交叉形式のどの自己同型も $M$ の向きを保つ自己同相写像で実現される(FNOP25 p. 94)。
  • 安定な平滑化:$\kappa(M)=0$ であることは $M\times\mathbb{R}$ が滑らかな構造をもつことと同値である(コンパクトで連結な場合。FNOP25 Theorem 9.2 (1)(p. 68)・Theorem 9.3(p. 73)・Example 9.4(p. 74)、Kos93 Ch. VIII §7、p. 164)。$E_8\oplus E_8$ の多様体 $N$ は、$N$ 自身は滑らかでないが $N\times\mathbb{R}$ は滑らかな構造をもつ。

関連項目

参考文献

[1]
Stefan Friedl, Matthias Nagel, Patrick Orson, Mark Powell, The foundations of four-manifold theory in the topological category, New York Journal of Mathematics Monographs, New York Journal of Mathematics Monographs 6(2025)。arXiv:1910.07372 の刊行版。頁は刊行版の頁:Definition 8.1(p. 60);Example 8.2・Proposition 8.3(p. 61);Remark 8.9(pp. 64–65);p. 65 の形式の表と不定値形式の分類の注意;Theorem 8.13・Conjecture 8.14(p. 66);Theorem 9.2 (1)(p. 68);Theorem 9.3(p. 73);Example 9.4・Lemma 9.6(p. 74);Definition 9.7(p. 75);Theorem 12.1・12.2(pp. 93–94);Corollary 12.3・§12.3(p. 94)
[2]
Robion C. Kirby, The Topology of 4-Manifolds, Lecture Notes in Mathematics 1374, Springer-Verlag, 1989, Ch. III Theorem 2.1(Freedman、p. 31)、§2–§3(基本群がよい群の場合、Donaldson の仕事と Dolgachev 曲面、p. 32);Ch. XII–XIII(Casson ハンドルと Freedman の仕事、pp. 72–94)
[3]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. VIII §7(Freedman–Quinn の存在と一意性の定理、4 次元多様体のあいだの(5 次元の)滑らかな h 同境定理が成り立たないこと、pp. 164–165)

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