代数学の基本定理(fundamental theorem of algebra)とは、複素係数の定数でない 1 変数多項式が複素数の根を少なくとも 1 つもつという定理である。言い換えると複素数体 $\mathbb{C}$ は代数閉体であり、$n$ 次の複素係数多項式は $a_n(z-\alpha_1)\cdots(z-\alpha_n)$ と 1 次式の積に分解して重複を込めて $n$ 個の根をもつ。実係数の多項式は 1 次式と判別式が負の 2 次式の積に分解する。証明には実数の完備性が欠かせず、$|p(z)|$ の最小値と d'Alembert の補題による初等的な証明、Galois 理論と Sylow の定理による代数的な証明、Liouville の定理による証明、回転数による位相的な証明がある。$\mathbb{R}$ では $x^2+1$ が根をもたず成り立たない。
前提知識: 複素数, 多項式環, 代数閉体, 連続写像, コンパクト空間
実数の範囲では $x^2+1=0$ が解けないので、$i^2=-1$ となる数 $i$ を付け加えて複素数体 $\mathbb{C}$ をつくる。すると新たな疑問が生じる。$\mathbb{C}$ 係数の方程式、たとえば $x^3=i$ や $x^5-x+i=0$ を解くために、さらに新しい数を付け加える必要はないのだろうか。代数学の基本定理は「その必要はない」と答える。どんな複素係数の方程式も、複素数の中に解をもつ。
この定理は、多項式を 1 次式の積に分解できること、実係数の多項式が 1 次式と 2 次式の積に分解できること、複素正方行列が固有値をもつことなど、代数と解析の多くの議論の土台である。名前に「代数学」とあるが、実数の完備性(連続性)をどこかで必ず使う。本記事では、最小値の議論による初等的な証明と、Galois理論による代数的な証明の 2 つを完全に与え、複素解析と位相幾何による証明を紹介する。
以下、多項式は複素係数の 1 変数多項式 $p(z)=a_nz^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_1z+a_0$($a_j\in\mathbb{C}$)とし、$a_n\neq0$ のとき $n$ を $p$ の次数という。次数が $1$ 以上の多項式を定数でない多項式という。$p(\alpha)=0$ となる $\alpha\in\mathbb{C}$ を $p$ の根という。
複素係数の定数でない多項式は、$\mathbb{C}$ に少なくとも 1 つの根をもつ。すなわち、$n\ge1$、$a_n\neq0$ ならば、$a_nz^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_0=0$ を満たす $z\in\mathbb{C}$ が存在する。
この定理は「$\mathbb{C}$ は代数閉体である」ということにほかならない(代数閉体の定義は、係数体の定数でない多項式がその体に根をもつことである)。代数閉体 の記事の命題「代数閉体の同値条件」により、これは次の各条件と同値である:$n$ 次の複素係数多項式が $\mathbb{C}$ 上で 1 次式の積に分解する(cor-fundamental-theorem-of-algebra-factorization)、$\mathbb{C}[z]$ の既約多項式は 1 次式に限る、$\mathbb{C}$ の有限次拡大は $\mathbb{C}$ 自身に限る。証明は以下の prf-fundamental-theorem-of-algebra-minimum と prf-fundamental-theorem-of-algebra-galois で与える。前者は Rud76 Theorem 8.8、後者は Lan02 Chapter VI §2 と同じ筋である。
証明は 3 段からなる。(1) $|p(z)|$ は $|z|\to\infty$ で無限大に発散する。(2) したがって $|p|$ は $\mathbb{C}$ のどこかで最小値をとる。(3) $p(z_0)\neq0$ の点では、$z_0$ の近くに $|p|$ がもっと小さい点がある(d'Alembert の補題)。(2) と (3) から、最小値をとる点で $p$ は $0$ になる。
$p(z)=a_nz^n+\cdots+a_0$($n\ge1$、$a_n\neq0$)とし、$R_0=\max\{1,\ 2\sum_{j< n}|a_j|/|a_n|\}$ とおく。このとき $|z|\ge R_0$ ならば $|p(z)|\ge\frac12|a_n||z|^n$ である。
$|z|\ge R_0\ge1$ なら $j< n$ について $|z|^j\le|z|^{n-1}$ なので、三角不等式(複素数 の記事の命題「絶対値の積と三角不等式」)により
$$
|p(z)|\ge|a_n||z|^n-\sum_{j< n}|a_j||z|^j\ge|z|^{n-1}\Bigl(|a_n||z|-\sum_{j< n}|a_j|\Bigr)
$$
である。$|z|\ge R_0\ge2\sum_{j< n}|a_j|/|a_n|$ から $\sum_{j< n}|a_j|\le\frac12|a_n||z|$ なので、右辺は $\frac12|a_n||z|^n$ 以上である。$\square$
定数でない多項式 $p$ について、$|p(z_0)|=\min_{z\in\mathbb{C}}|p(z)|$ となる $z_0\in\mathbb{C}$ が存在する。
lem-fundamental-theorem-of-algebra-growth の $R_0$ に対し、$R\ge R_0$ を $\frac12|a_n|R^n>|p(0)|$ となるように大きくとる。すると $|z|>R$ のとき $|p(z)|\ge\frac12|a_n||z|^n>|p(0)|$ である。閉円板 $D=\{z\mid|z|\le R\}$ は $\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ の有界閉集合なのでコンパクトであり(Heine–Borel の定理、Rud76 Theorem 2.41)、$z\mapsto|p(z)|$ は多項式と絶対値の合成として連続写像である。コンパクト集合上の実数値連続関数は最小値をとる(Rud76 Theorem 4.16)ので、$|p(z_0)|=\min_D|p|$ となる $z_0\in D$ がある。$0\in D$ なので $|p(z_0)|\le|p(0)|$ であり、$D$ の外では $|p(z)|>|p(0)|\ge|p(z_0)|$ だから、$z_0$ は $\mathbb{C}$ 全体での最小値を与える。$\square$
$p$ を定数でない多項式、$z_0\in\mathbb{C}$ を $p(z_0)\neq0$ となる点とする。このとき $|p(z_1)|<|p(z_0)|$ となる $z_1\in\mathbb{C}$ が存在する。
$q(w):=p(z_0+w)/p(z_0)$ とおく。$p(z_0+w)$ を $w$ について展開すると、$q$ は $w$ の $n$ 次多項式で(最高次の係数は $a_n/p(z_0)\neq0$)、$q(0)=1$ である。$q$ は定数でないので、$1$ 以外の項のうち次数が最小のものを $b_kw^k$($1\le k\le n$、$b_k\neq0$)として
$$
q(w)=1+b_kw^k+b_{k+1}w^{k+1}+\cdots+b_nw^n
$$
と書ける。$-1/b_k$ の $k$ 乗根 $\zeta$、すなわち $\zeta^k=-1/b_k$ となる複素数をとる。これは $-1/b_k=r(\cos\theta+i\sin\theta)$ と極形式で書き(複素数 の記事の定義「偏角と極形式」)、$\zeta=r^{1/k}(\cos(\theta/k)+i\sin(\theta/k))$ とおけば、同記事の系「De Moivreの公式」により $\zeta^k=-1/b_k$ である。
実数 $0< t\le1$ について $w=t\zeta$ を代入すると、$b_k(t\zeta)^k=-t^k$ なので
$$
q(t\zeta)=1-t^k+t^{k+1}S(t),\qquad S(t)=\sum_{j=k+1}^nb_j\zeta^jt^{j-k-1}
$$
である。$0< t\le1$ なら $|S(t)|\le C:=\sum_{j>k}|b_j||\zeta|^j$ であり、$1-t^k\ge0$ だから
$$
|q(t\zeta)|\le(1-t^k)+Ct^{k+1}=1-t^k(1-Ct).
$$
$t$ を $0< t<1$ かつ $Ct<1$ となるようにとれば($C=0$ なら $0< t<1$ の任意の $t$ でよい)、右辺は $1$ より小さい。$z_1=z_0+t\zeta$ とすれば $|p(z_1)|=|p(z_0)||q(t\zeta)|<|p(z_0)|$ である。$\square$
$p$ を定数でない多項式とする。lem-fundamental-theorem-of-algebra-minimum により $|p|$ が最小値をとる点 $z_0$ がある。$p(z_0)\neq0$ なら、lem-fundamental-theorem-of-algebra-dalembert により $|p(z_1)|<|p(z_0)|$ となる $z_1$ があり、$|p(z_0)|$ が最小値であることに反する。よって $p(z_0)=0$ である。$\square$
この証明で解析が使われるのは、閉円板のコンパクト性と連続関数の最小値の存在(実数の完備性)、および $k$ 乗根の存在(極形式、すなわち三角関数)である。「最小値をとる点では $|p|$ をそれ以上小さくできない」という事実と、「根でない点では必ず小さくできる」という d'Alembert の補題の対立が証明の核である。
この証明が解析から借りるのは、次の 2 つの事実だけである。
1:$f(x)=a_nx^n+\cdots+a_0$($a_j\in\mathbb{R}$、$a_n>0$ としてよい、$n$ は奇数)とする。lem-fundamental-theorem-of-algebra-growth と同じ評価により、十分大きい $R>0$ で $f(R)\ge\frac12a_nR^n>0$、$f(-R)\le-\frac12a_nR^n<0$ である($n$ が奇数なので $(-R)^n=-R^n$。$x\le-R_0$ のとき $f(x)=a_nx^n+g(x)$、$|g(x)|\le\frac12a_n|x|^n$ となる)。$f$ は連続なので、中間値の定理(Rud76 Theorem 4.23)により $f(c)=0$ となる $c\in(-R,R)$ がある。
2:$w=a+bi$($a,b\in\mathbb{R}$)とし、$|w|=\sqrt{a^2+b^2}$ とおく。$|w|\pm a\ge0$ なので
$$
x=\sqrt{\frac{|w|+a}2},\qquad y=\varepsilon\sqrt{\frac{|w|-a}2}\qquad(b\ge0\text{ なら }\varepsilon=1,\ b<0\text{ なら }\varepsilon=-1)
$$
は実数であり、$x^2-y^2=a$、$2xy=\varepsilon\sqrt{|w|^2-a^2}=\varepsilon|b|=b$ である。よって $(x+iy)^2=w$ である。2 次多項式 $Az^2+Bz+C$($A\neq0$)は、$\delta^2=B^2-4AC$ となる $\delta$ をとれば $z=(-B+\delta)/(2A)$ を根にもつ($A(z+\frac B{2A})^2=\frac{B^2-4AC}{4A}$ と平方完成する)。$\square$
群論からは、Sylowの定理と次の事実を使う:位数 $2^s$($s\ge1$)の群は指数 $2$ の部分群をもつ($p$ 群は位数 $p^j$($0\le j\le s$)の部分群をすべてもつ。DF04 §6.1)。
$\mathbb{C}$ の有限次拡大は $\mathbb{C}$ 自身であることを示せばよい。実際、定数でない $p\in\mathbb{C}[z]$ の既約因子 $g$ をとると、$L=\mathbb{C}[z]/(g)$ は $[L:\mathbb{C}]=\deg g$ の拡大体で、$g$ の根を含む(体の拡大 の記事の命題「根をもつ拡大体の構成」)。$L=\mathbb{C}$ なら $\deg g=1$ であり、$g$、したがって $p$ は $\mathbb{C}$ に根をもつ。
$L/\mathbb{C}$ を有限次拡大とする。$[L:\mathbb{R}]=[L:\mathbb{C}][\mathbb{C}:\mathbb{R}]$ は有限なので、$L/\mathbb{R}$ の正規閉包 $N$ をとると $N/\mathbb{R}$ は有限次の正規拡大である(正規拡大 の記事の定理「有限次拡大の正規閉包」)。$\mathbb{R}$ の標数は $0$ なので $N/\mathbb{R}$ は分離拡大であり(分離拡大 の記事の命題「標数が 0 の体と有限体の上の代数拡大」)、$N/\mathbb{R}$ は有限次 Galois拡大 である。$G=\operatorname{Gal}(N/\mathbb{R})$ とおくと $|G|=[N:\mathbb{R}]$ であり(Galois理論 の記事の定理「Galois理論の基本定理」の 2)、これは $[\mathbb{C}:\mathbb{R}]=2$ の倍数である。$|G|=2^sm$($s\ge1$、$m$ は奇数)と書く。
$m=1$ であること。$P$ を $G$ の Sylow $2$ 部分群とし(Sylowの定理 の記事の定理「Sylowの定理の主張」の 1)、その固定体を $F=N^P$ とする。基本定理の 1・2 により $[F:\mathbb{R}]=[G:P]=m$ であり、これは奇数である。$F/\mathbb{R}$ は有限次分離拡大なので、原始元 $\theta$ で $F=\mathbb{R}(\theta)$ となるものがある(Galois理論 の記事の定理「有限次分離拡大は単純拡大である」)。$\theta$ の $\mathbb{R}$ 上の最小多項式 $h$ は次数 $m$ の既約多項式であり、$m$ が奇数なので lem-fundamental-theorem-of-algebra-real-facts の 1 により実数の根 $c$ をもつ。既約多項式 $h$ が 1 次式 $x-c$ で割り切れるので $m=\deg h=1$ である。
$s=1$ であること。$\mathbb{C}\subset L\subset N$ なので、$N/\mathbb{C}$ も Galois 拡大であり(Galois拡大 の記事の命題「中間体からのGalois性」)、$H=\operatorname{Gal}(N/\mathbb{C})$ の位数は $[N:\mathbb{C}]=|G|/2=2^{s-1}$ である。$s\ge2$ と仮定すると、$H$ は指数 $2$ の部分群 $H'$ をもつ。その固定体 $E=N^{H'}$ は、$N/\mathbb{C}$ に基本定理の 1・2 を使って $[E:\mathbb{C}]=[H:H']=2$ を満たす。$\beta\in E\setminus\mathbb{C}$ をとると $1<[\mathbb{C}(\beta):\mathbb{C}]\le2$ なので、$\beta$ の $\mathbb{C}$ 上の最小多項式は 2 次の既約多項式である。しかし lem-fundamental-theorem-of-algebra-real-facts の 2 により、複素係数の 2 次多項式は $\mathbb{C}$ に根をもち、1 次式で割り切れるので既約でない。これは矛盾であり、$s=1$ である。
以上より $[N:\mathbb{C}]=2^{s-1}m=1$、すなわち $N=\mathbb{C}$ であり、$\mathbb{C}\subset L\subset N$ から $L=\mathbb{C}$ である。$\square$
この証明は、$\mathbb{R}$ について 2 つの性質(奇数次の多項式が根をもつこと、正の数が平方根をもつこと)しか使っていない。これらを満たす順序体を実閉体といい、同じ証明により、実閉体 $R$ に $\sqrt{-1}$ を添加した体 $R(\sqrt{-1})$ は代数閉体である(Lan02 Chapter XI)。
複素解析による証明:$p$ が根をもたなければ $1/p$ は $\mathbb{C}$ 全体で正則関数であり、lem-fundamental-theorem-of-algebra-growth により $|z|\ge R_0$ で $|1/p|\le2/|a_n|$ であり、円板 $|z|\le R_0$ 上では連続なので有界である。有界な整関数は定数である(Liouvilleの定理(複素解析))から $p$ は定数となり、矛盾する。詳細は Liouvilleの定理(複素解析) の記事の系「Liouville の定理から導く代数学の基本定理」にある(Ahl79 Chapter 4 §2)。開写像定理(複素解析) の記事にも、定数でない多項式が全射であることからの導き方がある。
位相幾何による証明:$|z|=r$ の円周を $p$ で写した閉曲線を考える。$r$ が十分大きいと、$p(z)$ は最高次の項 $a_nz^n$ に近く、閉曲線は原点のまわりを $n$ 回まわる。$p$ が根をもたなければ、$r$ を $0$ まで連続的に縮めても閉曲線は原点を通らず、回転数は変わらないはずだが、$r=0$ では 1 点に縮んで回転数 $0$ になる。$n\ge1$ なのでこれは矛盾である。回転数を基本群 $\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ で厳密に扱う証明は Hat02 §1.1 Theorem 1.8 にある。
これらを含む多くの証明と歴史は FR97 にまとめられている。
$x^2+1$ は実係数の定数でない多項式だが、実数 $a$ について $a^2+1\ge1>0$ なので実数の根をもたない。したがって定理の $\mathbb{C}$ を $\mathbb{R}$(あるいは $\mathbb{Q}$)に替えると成り立たない。$\mathbb{R}$ は完備な順序体であり、証明で使った完備性をもつが、$\sqrt{-1}$ を含まない。prf-fundamental-theorem-of-algebra-minimum が $\mathbb{R}$ 上で破れる箇所は d'Alembert の補題である。$p(x)=x^2+1$ は $x=0$ で最小値 $1$ をとるが、そこから $|p|$ を小さくする方向 $\zeta$($\zeta^2=-1$)が実数の中にない。
指数関数 $e^z$ は $\mathbb{C}$ 全体で正則な定数でない関数だが、$e^ze^{-z}=1$ なので零点をもたない。したがって「定数でない整関数は零点をもつ」は成り立たず、定理の「多項式」という仮定は省けない。lem-fundamental-theorem-of-algebra-growth がここで破れる。実数 $x\to-\infty$ で $|e^x|\to0$ となり、$|e^z|$ は $|z|\to\infty$ で無限大に発散しない。そのため $|e^z|$ は最小値をとらず、lem-fundamental-theorem-of-algebra-minimum も成り立たない。
Hamilton の四元数環 $\mathbb{H}$($i^2=j^2=k^2=-1$、$ij=-ji=k$、$jk=-kj=i$、$ki=-ik=j$ を満たす実 4 次元の非可換な可除環)で方程式 $x^2+1=0$ を考える。実数 $b,c,d$ が $b^2+c^2+d^2=1$ を満たすとき、$u=bi+cj+dk$ について
$$
u^2=-(b^2+c^2+d^2)+bc(ij+ji)+bd(ik+ki)+cd(jk+kj)=-1
$$
なので、$u$ は根である。このような $u$ は球面 $b^2+c^2+d^2=1$ の点の数だけ、すなわち無限個ある。
一方、cor-fundamental-theorem-of-algebra-factorization は $\mathbb{C}$ 上の 2 次式の根がちょうど 2 個(重複を込めて)であることを述べる。この例は「$n$ 次多項式の根は高々 $n$ 個である」という含意が、係数域の可換性を仮定しないと破れることを示す。可換な体の上での根の個数の評価は、$p(z)=(z-\alpha)q(z)$ に根 $\beta\neq\alpha$ を代入して $0=(\beta-\alpha)q(\beta)$ から $q(\beta)=0$ を導く議論による。この議論は「多項式の積に元を代入した値は、代入した値の積に等しい」ことを使う。$\mathbb{H}$ ではこれが成り立たない。多項式として $(x-u)(x+u)=x^2-u^2=x^2+1$ であるが、別の根 $v$(たとえば $u=i$、$v=j$)を代入すると、$v^2+1=0$ なのに $(v-u)(v+u)=v^2+vu-uv-u^2=vu-uv=-2k\neq0$ となる。
$p(z)=a_nz^n+\cdots+a_0$($n\ge1$、$a_n\neq0$)を複素係数の多項式とする。$\alpha_1,\dots,\alpha_n\in\mathbb{C}$(重複を許す)で
$$
p(z)=a_n(z-\alpha_1)(z-\alpha_2)\cdots(z-\alpha_n)
$$
となるものが存在し、$p$ の根の集合は $\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}$ に等しい。各根 $\alpha$ の重複度(零点の重複度)は $\alpha$ が $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ に現れる回数に等しく、重複度の総和は $n$ である。
thm-fundamental-theorem-of-algebra により $\mathbb{C}$ は代数閉体なので、代数閉体 の記事の命題「代数閉体の同値条件」の (1)⇒(2)(因数定理と次数に関する帰納法)と、系「代数閉体上の多項式の根の個数」がそのまま適用できる。同記事の命題「代数閉体上の正方行列は固有値をもつ」により、複素正方行列は複素数の固有値をもつ。
実係数の定数でない多項式 $f$ は、実係数の 1 次式と、判別式が負の実係数 2 次式との積に分解する。したがって $\mathbb{R}[x]$ の既約多項式は、1 次式と判別式が負の 2 次式に限る。また、奇数次の実係数多項式は実数の根をもつ。
$\deg f$ に関する帰納法で分解を示す。$\deg f=1$ なら明らかである。$\deg f\ge2$ とする。thm-fundamental-theorem-of-algebra により $f$ は根 $\alpha\in\mathbb{C}$ をもつ。$\alpha\in\mathbb{R}$ なら、実係数の除法(多項式環 の記事の定理「除法の原理」)で $f=(x-\alpha)g$、$g\in\mathbb{R}[x]$ と書け(余りは $f(\alpha)=0$)、$g$ に帰納法の仮定を使う。
$\alpha\notin\mathbb{R}$ とする。$f$ の係数は実数なので、複素共役をとると $f(\bar\alpha)=\overline{f(\alpha)}=0$ であり(共役は和と積を保つ。複素数 の記事の命題「共役の基本性質」)、$\bar\alpha\neq\alpha$ も根である。$h(x)=(x-\alpha)(x-\bar\alpha)=x^2-2(\operatorname{Re}\alpha)x+|\alpha|^2$ は実係数で、判別式は $4(\operatorname{Re}\alpha)^2-4|\alpha|^2=-4(\operatorname{Im}\alpha)^2<0$ である。$\mathbb{R}[x]$ で $f=gh+r$($\deg r\le1$)と割ると、$r(\alpha)=r(\bar\alpha)=0$ であり、次数 $1$ 以下の多項式が相異なる 2 点で $0$ になるので $r=0$ である。よって $f=gh$、$g\in\mathbb{R}[x]$ であり、$\deg g<\deg f$ の $g$ に帰納法の仮定を使う($\deg g=0$ なら終わり)。
既約多項式について:1 次式は既約である。判別式が負の 2 次式は実数の根をもたないので 1 次式で割り切れず、既約である。逆に既約多項式は上の分解の 1 つの因子と定数倍で一致するので、このどちらかである。最後の主張:分解の 2 次の因子の次数の和は偶数なので、$\deg f$ が奇数なら 1 次の因子が少なくとも 1 つあり、その根が実数の根である。$\square$
最後の主張は lem-fundamental-theorem-of-algebra-real-facts の 1 の再証明ではなく、基本定理から逆に導いたものである(Galois 理論による証明では 1 を前提として使うので、この系をその証明に使うことはできない)。この系は、実係数の有理関数の部分分数分解と不定積分の計算の基礎である(有理関数体 の記事の定理「部分分数分解」)。
$\mathbb{C}=\mathbb{R}(i)$ は $\mathbb{R}$ 上 2 次の代数拡大であり、基本定理により代数閉体なので、$\mathbb{C}$ は $\mathbb{R}$ の代数閉包である(複素数 の記事の系「実数体の代数閉包としての複素数」)。また $\mathbb{C}$ の中の代数的数全体 $\overline{\mathbb{Q}}$ は、$\mathbb{Q}$ の代数閉包で可算な代数閉体である(代数閉体 の記事の例「代数的数全体のなす体」)。
$n$ 次方程式が $n$ 個の根をもつという主張は 17 世紀から述べられていたが、その根が複素数の範囲にあることの証明は 18 世紀に d'Alembert、Euler、Lagrange らによって試みられ、Gauss が 1799 年の学位論文で証明を与えた。Gauss はその後も別証明を発表している。d'Alembert の補題の名は、prf-fundamental-theorem-of-algebra-minimum の中心となる考え方が d'Alembert の試みに現れることに由来する(FR97)。
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