余可算位相(cocountable topology)とは、集合 $X$ 上で、空集合と、補集合が高々可算であるような部分集合の全体を開集合とする位相のことである。$X$ が高々可算なときは離散位相に一致する。$X$ が非可算なときは、一点集合が閉である一方で空でない二つの開集合が必ず交わるので、$T_1$ ではあるが Hausdorff ではなく、連結で距離化可能でもない。$T_1$ から Hausdorff が従わないことを示す標準的な反例として使われる。
以下、集合 $A$ が高々可算であるとは、$A$ から $\mathbb{N}$ への単射が存在すること、すなわち $A$ が有限集合か可算無限集合であることをいう。高々可算でない集合を非可算という。高々可算な集合の部分集合は高々可算であり(単射を制限すればよい)、高々可算な二つの集合の合併も高々可算である(prf-cocountable-topology-axioms で確かめる)。
集合 $X$ に対し
$$\tau_{\mathrm{coc}}(X):=\{\emptyset\}\cup\{U\subset X\mid X\setminus U\ \text{は高々可算}\}$$
とおく。$\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ は $X$ 上の位相であり(prop-cocountable-topology-axioms)、これを $X$ の余可算位相(cocountable topology)または可算補位相という。位相空間 $\langle X,\tau_{\mathrm{coc}}(X)\rangle$ を、余可算位相を入れた $X$ という。
$X$ 自身は $X\setminus X=\emptyset$ が有限なので開集合である。$X$ が高々可算のときは $\emptyset$ の補集合 $X$ も高々可算なので $\emptyset$ を別に加える必要はないが、$X$ が非可算のときは $\emptyset$ を明示的に加えないと族が位相にならない。閉集合は、$X$ 自身と、高々可算な部分集合の全体である。
「高々可算の分だけ大きさが違う」ことを無視する位相である。非可算集合の上では開集合が「補集合が小さい集合」しかないので、どの二つの空でない開集合も交わってしまい、二点を近傍で引き離すことができない。それでも一点集合は閉なので $T_1$ の条件は満たしており、$T_1$ から Hausdorff が導けないことを示す標準的な例になっている(SS78)。
$X$ が高々可算ならば $\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ は離散位相、すなわち $X$ のすべての部分集合が開集合である。実際、任意の $U\subset X$ について $X\setminus U\subset X$ は高々可算だからである。逆も成り立つ(prop-cocountable-topology-discrete)。とくに有限集合や $\mathbb{Q}$ に余可算位相を入れると離散空間になる。
$X=\mathbb{R}$ とする。空集合と、補集合が有限であるような部分集合の全体は $\mathbb{R}$ 上の位相(余有限位相)をなし、有限集合は高々可算なので余可算位相に含まれる。この包含は真である:$\mathbb{R}\setminus\mathbb{Z}$ は補集合 $\mathbb{Z}$ が可算無限なので余可算位相の開集合だが、$\mathbb{Z}$ は有限でないので余有限位相の開集合ではない。一方、余可算位相と $\mathbb{R}$ の通常の位相は、どちらも他方を含まない。$\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ は補集合 $\mathbb{Q}$ が可算無限なので余可算位相で開集合だが、通常の位相では開集合でない(無理数 $x$ を含むどの開区間も有理数を含むので、$\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ は $x$ の近傍を含まない)。逆に区間 $(0,1)$ は通常の位相で開集合だが、補集合 $(-\infty,0]\cup[1,\infty)$ が非可算なので余可算位相では開集合でない。
$X$ を非可算集合とし、余可算位相を入れる。この空間は性質 $P$「$T_1$ である(相異なる二点 $x\neq y$ に対し、$x$ を含み $y$ を含まない開集合がある)」を満たすが(prop-cocountable-topology-t1)、性質 $Q$「Hausdorff である(相異なる二点が交わらない開近傍で分離される)」を満たさない(cor-cocountable-topology-separation)。したがって含意 $P\Rightarrow Q$ は成り立たない。同じ空間は連結であり、距離化可能でもない(いずれも cor-cocountable-topology-separation)。この空間は可算補位相の名で古典的な反例として扱われている(SS78 Part II §20 を引用する)。
任意の集合 $X$ に対し、$\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ は $X$ 上の位相である。
まず、高々可算な二つの集合 $A,B$ の合併が高々可算であることを見る。単射 $f\colon A\to\mathbb{N}$ と $g\colon B\to\mathbb{N}$ をそれぞれ一つ取り、$h\colon A\cup B\to\mathbb{N}$ を、$x\in A$ のとき $h(x)=2f(x)$、$x\in B\setminus A$ のとき $h(x)=2g(x)+1$ と定める。偶数と奇数は一致せず、$f$ と $g$ は単射なので $h$ は単射である。よって $A\cup B$ は高々可算である。二つの集合について単射を選ぶだけなので、選択公理は使わない。
(1) $\emptyset\in\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ は定義による。$X\setminus X=\emptyset$ は有限なので $X\in\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ である。
(2) 任意合併について。$\{U_i\}_{i\in I}$ を $\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ の元の族とし、$U=\bigcup_{i\in I}U_i$ とおく。すべての $U_i$ が空なら $U=\emptyset\in\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ である。そうでなければ $U_{i_0}\neq\emptyset$ となる $i_0\in I$ を一つ取る(空でない一つの集合から元を一つ取るだけなので選択公理は使わない)。定義より $X\setminus U_{i_0}$ は高々可算である。de Morgan の法則から
$$X\setminus U=\bigcap_{i\in I}(X\setminus U_i)\subset X\setminus U_{i_0}$$
であり、高々可算な集合の部分集合は高々可算なので $X\setminus U$ は高々可算である。よって $U\in\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ である。
(3) 有限交叉について。$U,V\in\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ とする。どちらかが空なら $U\cap V=\emptyset\in\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ である。ともに空でなければ $X\setminus U$ と $X\setminus V$ はいずれも高々可算で、
$$X\setminus(U\cap V)=(X\setminus U)\cup(X\setminus V)$$
は冒頭で示したことから高々可算である。よって $U\cap V\in\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ である。二つの元についての交叉が閉じていれば有限個についても帰納法で従う。$\square$
余可算位相を入れた $X$ において、各点 $x\in X$ に対し $\{x\}$ は閉集合である。とくにこの空間は $T_1$ である。
$X\setminus\{x\}$ の補集合は $\{x\}$ であり、これは有限なので高々可算である。したがって $X\setminus\{x\}$ は開集合であり、$\{x\}$ は閉集合である。相異なる二点 $x\neq y$ に対し、$X\setminus\{y\}$ は $x$ を含み $y$ を含まない開集合なので、$T_1$ の条件が満たされる。$\square$
$X$ を非可算集合とし、余可算位相を入れる。$U,V$ が空でない開集合ならば $U\cap V\neq\emptyset$ である。
$U,V$ が空でない開集合なら、定義より $X\setminus U$ と $X\setminus V$ は高々可算である。$U\cap V=\emptyset$ と仮定すると
$$X=X\setminus(U\cap V)=(X\setminus U)\cup(X\setminus V)$$
となり、prf-cocountable-topology-axioms の冒頭で示したことから $X$ は高々可算になる。これは $X$ が非可算であることに反する。よって $U\cap V\neq\emptyset$ である。$\square$
$X$ を非可算集合とし、余可算位相を入れる。このとき次が成り立つ。
$X$ を非可算集合とし、余可算位相を入れる。$A\subset X$ に対し、$A$ が高々可算ならば $\overline{A}=A$ であり、$A$ が非可算ならば $\overline{A}=X$ である。
$A$ が高々可算のときは $X\setminus A$ が開集合なので $A$ は閉集合であり、$\overline{A}=A$ である。
$A$ が非可算とする。$x\in X$ を任意に取り、$U$ を $x$ を含む開集合とする。$U\neq\emptyset$ なので $X\setminus U$ は高々可算である。$A\subset X\setminus U$ とすると $A$ が高々可算になって仮定に反するので、$A\not\subset X\setminus U$、すなわち $A\cap U\neq\emptyset$ である。$x$ の任意の開近傍が $A$ と交わるので $x\in\overline{A}$ であり、$x$ は任意だったから $\overline{A}=X$ である。$\square$
$\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ が $X$ の離散位相であることと、$X$ が高々可算であることは同値である。
$X$ が高々可算ならば、任意の $U\subset X$ に対し $X\setminus U$ は高々可算なので $U$ は開集合であり、$\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ は離散位相である。
逆を対偶で示す。$X$ が非可算とし、$x\in X$ を取る。$X\setminus\{x\}$ が高々可算だと仮定すると、$X=(X\setminus\{x\})\cup\{x\}$ は高々可算な二つの集合の合併なので高々可算となり、仮定に反する。よって $X\setminus\{x\}$ は非可算である。$\{x\}$ は空でなく補集合が高々可算でないので、$\{x\}$ は開集合でない。したがって $\tau_{\mathrm{coc}}(X)$ は離散位相でない。$\square$
$X$ を非可算集合とし、余可算位相を入れる。$X$ の点列 $(x_n)_{n\ge1}$ が $x\in X$ に収束することと、ある $N\ge1$ が存在してすべての $n\ge N$ で $x_n=x$ となることは同値である。
ある $N$ から先が $x$ に等しいならば、$x$ を含むどの開集合 $U$ についても $n\ge N$ で $x_n=x\in U$ なので、$(x_n)$ は $x$ に収束する(この向きは位相の取り方によらない)。
逆に $(x_n)$ が $x$ に収束するとし、$D=\{x_n\mid n\ge1,\ x_n\neq x\}$ とおく。$D$ は高々可算である。実際、$d\in D$ に対し $\varphi(d)=\min\{n\ge1\mid x_n=d\}$ とおくと($\mathbb{N}$ の空でない部分集合には最小元があるので定義でき、選択公理は使わない)、$\varphi(d)=\varphi(d')$ なら $d=x_{\varphi(d)}=d'$ なので $\varphi\colon D\to\mathbb{N}$ は単射である。よって $U=X\setminus D$ は開集合であり、$x\notin D$ だから $x\in U$ である。収束の定義より、ある $N$ が存在して $n\ge N$ ならば $x_n\in U$、すなわち $x_n\notin D$ である。$x_n\neq x$ であれば $D$ の定義から $x_n\in D$ となるので、$n\ge N$ では $x_n=x$ でなければならない。$\square$
$X$ 上の余有限位相(空集合と、補集合が有限であるような部分集合の全体)は余可算位相に含まれる。二つの位相は「無視する大きさ」を有限に取るか高々可算に取るかだけが違う。$X$ が可算無限部分集合を持つときこの包含は真になり、$X=\mathbb{R}$ での具体例は ex-cocountable-topology-real-line に挙げた。
非可算集合の余可算位相は、擬コンパクト空間 の記事で「擬コンパクトだが可算コンパクトでない空間」の反例として使われている。そこでは、この空間の上の実数値連続関数がすべて定数であること、この空間が可算コンパクトでないこと、正規空間でないことが示されている。本記事はそれらの主張を再掲せず、当該記事に委ねる。
本記事の証明では選択公理を使っていない。使ったのは、高々可算な集合の部分集合と、高々可算な二つの集合の合併が高々可算であること、および $\mathbb{N}$ の空でない部分集合が最小元を持つことだけである。