カンドル彩色(quandle coloring)とは、向き付けられた結び目の図式の各弧にカンドル $X$ の元を塗り、各交差で上の弧の右側の弧の色に上の弧の色を右から作用させると左側の弧の色になるようにした塗り方である。彩色の全体は結び目カンドルから $X$ への準同型の全体と 1 対 1 に対応し、有限カンドルによる彩色の個数は結び目の不変量になる。二面体カンドルによる彩色は Fox の $n$ 彩色で、3 元の場合は各交差の 3 色がすべて等しいかすべて異なる塗り方である。彩色の個数を数えると、自明な結び目・三葉結び目・8 の字結び目が互いに同値でないことが分かる。
前提知識: カンドル, 結び目カンドル, Wirtinger表示
カンドル彩色(quandle coloring)とは、向き付けられた結び目の図式の各弧にカンドル $X$ の元を塗る塗り方で、各交差で「上の弧の右側の弧の色に上の弧の色を右から作用させると左側の弧の色になる」という条件をみたすものである。Fox の 3 彩色は、3 元の二面体カンドル $R_3$ による彩色にあたる。
彩色の全体は、結び目カンドル から $X$ への準同型の全体と 1 対 1 に対応する。結び目カンドルは図式によらないので、有限カンドル $X$ による彩色の個数は結び目の不変量になる。結び目カンドルそのものを比べるのは難しいが、彩色の個数は有限の連立方程式を解くだけで計算できる。
この記事では、彩色を定義し、準同型との対応と不変性を証明する。続いて Fox の 3 彩色が $R_3$ による彩色であることを示し、二面体カンドルによる彩色の個数を自明な結び目・三葉結び目・8 の字結び目について計算して、この 3 つが互いに同値でないことを導く。
以下、Wirtinger表示 の定義「正則な射影と図式」「弧と交差の符号」と、結び目カンドル の左右の弧の言い方に従う。$D$ は向き付けられた結び目(または絡み目)の図式で、弧を $\alpha_1,\dots,\alpha_N$ とする。
カンドル $X$ について、写像 $C\colon\{\alpha_1,\dots,\alpha_N\}\to X$ が $X$ による彩色 であるとは、各交差で、上の弧を $\alpha_o$、右の弧を $\alpha_R$、左の弧を $\alpha_L$ とするとき
$$
C(\alpha_L)=C(\alpha_R)\ast C(\alpha_o)
$$
が成り立つことをいう。$X$ による彩色の全体を $\operatorname{Col}_X(D)$ と書く。定値写像は冪等性により彩色であり、自明な彩色 という。
結び目カンドル の補題「関係式の左右による言い換え」により、この条件は交差の関係式 $C(\alpha_{k(c)})=C(\alpha_{j(c)})\ast^{\varepsilon_c}C(\alpha_{i(c)})$ と同値である。
$Q(D)$ の生成元を $x_1,\dots,x_N$ とする。準同型 $\varphi\colon Q(D)\to X$ に彩色 $\alpha_i\mapsto\varphi(x_i)$ を対応させる写像
$$
\operatorname{Hom}\bigl(Q(D),X\bigr)\to\operatorname{Col}_X(D)
$$
は全単射である。
準同型 $\varphi$ について、写像 $x_i\mapsto\varphi(x_i)$ は $Q(D)$ の関係式 $x_{k(c)}=x_{j(c)}\ast^{\varepsilon_c}x_{i(c)}$ をみたす(関係式は $Q(D)$ で成り立ち、$\varphi$ は $\ast$ と $\ast^{-1}$ を保つ)。上の注意によりこれは彩色の条件と同じなので、対応は well-defined である。逆に彩色 $C$ があれば、$x_i\mapsto C(\alpha_i)$ は関係式をみたすので、結び目カンドル の定義「項とカンドルの表示」の普遍性により、$\varphi(x_i)=C(\alpha_i)$ となる準同型 $\varphi$ がただ 1 つ存在する。存在は全射性を、一意性は単射性を与える。$\square$
$X$ を有限カンドルとする。向き付けられた折れ線の結び目 $K,K'$ が三角形の移動で向きごと移り合うなら、それぞれの図式 $D,D'$ について $|\operatorname{Col}_X(D)|=|\operatorname{Col}_X(D')|$ である。
結び目カンドル の定理「Reidemeisterの定理」により $D$ と $D'$ は平面イソトピーと Reidemeister 移動の有限列で移り合い、同記事の定理「Reidemeister移動での不変性」により $Q(D)\cong Q(D')$ である。同型 $Q(D)\cong Q(D')$ との合成は $\operatorname{Hom}(Q(D),X)$ と $\operatorname{Hom}(Q(D'),X)$ の全単射を与えるので、thm-qc-hom により彩色の個数は等しい。$\square$
この個数を $\operatorname{col}_X(K)$ と書き、$X$ による 彩色数 という。交差のない図式は弧が 1 本で条件がないので、自明な結び目では $\operatorname{col}_X=|X|$ であり、彩色はすべて自明である。したがって、ある図式が自明でない彩色をもてば、その結び目は自明な結び目と同値でない。
$D$ が結び目(成分が 1 つ)の図式なら、$X$ による任意の彩色の値は $X$ の 1 つの軌道(カンドル の定義「内部自己同型群と連結性」)に含まれる。とくに $X$ の各軌道が部分カンドルとして自明カンドルなら、$X$ による彩色はすべて自明であり、$\operatorname{col}_X(K)=|X|$ である。
交差 $c$ の下の点の前後の弧の色は、$C(\alpha_{k(c)})=C(\alpha_{j(c)})\cdot S_{C(\alpha_{i(c)})}^{\varepsilon_c}$ により同じ軌道にある。$K$ を向きに沿って 1 周するとすべての弧を通るので、すべての色は 1 つの軌道 $O$ に入る。$O$ が自明カンドルなら、上の弧の色も $O$ に入るので、各交差で $C(\alpha_{k(c)})=C(\alpha_{j(c)})$ となり、1 周して色はすべて等しい。各軌道が自明なら彩色はすべて定値で、その個数は $|X|$ である。$\square$
たとえば $R_4$ の軌道は偶数と奇数の 2 つで、どちらも自明カンドル $R_2$ と同型である(カンドル の命題「二面体カンドルの軌道」)。よってどの結び目でも $\operatorname{col}_{R_4}=4$ であり、$R_4$ は結び目を区別しない。
二面体カンドル $R_n$($i\ast j=2j-i\bmod n$)は圭なので $\ast^{-1}=\ast$ であり、彩色の条件は「上の弧の色の $2$ 倍が 2 つの下の弧の色の和に等しい」という、下の弧の左右にも向きにもよらない条件になる。
$n\ge1$ とする。図式 $D$ の弧に $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の元を塗る写像 $C$ で、各交差で上の弧を $\alpha_o$、2 つの下の弧を $\alpha_u,\alpha_{u'}$ とするとき $2C(\alpha_o)\equiv C(\alpha_u)+C(\alpha_{u'})\pmod n$ となるものを Fox の $n$ 彩色 という。
定義から、Fox の $n$ 彩色は $R_n$ による彩色とちょうど一致し、図式の向きを使わずに定まる。
$C\colon\{\alpha_1,\dots,\alpha_N\}\to\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ が $R_3$ による彩色であるための必要十分条件は、各交差に現れる 3 つの弧(上の弧と 2 つの下の弧)の色が、すべて等しいかすべて異なることである。
$\bmod 3$ では $2a\equiv-a$ なので、条件 $2a\equiv b+b'$ は $a+b+b'\equiv0$ と同値である。$a,b,b'\in\{0,1,2\}$ がすべて等しければ和は $3a\equiv0$、すべて異なれば和は $0+1+2\equiv0$ である。逆に和が $0$ で、ちょうど 2 つが等しい場合 $a=b\neq b'$ を考えると $2a+b'\equiv0$ から $b'\equiv-2a\equiv a$ となり矛盾する(どの 2 つが等しい場合も同じ)。$\square$
Fox の彩色の条件は 1 次式なので、彩色の全体は加群になる。
図式 $D$ の Fox の $n$ 彩色の全体は、$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{N}$の部分加群で、定値写像の全体を含む。とくに $p$ が素数なら、Fox の $p$ 彩色の個数は $p^{k}$($k\ge1$)の形であり、自明でない $p$ 彩色をもつことと $\operatorname{col}_{R_p}>p$ は同値である。
条件 $2C(\alpha_o)-C(\alpha_u)-C(\alpha_{u'})\equiv0$ は $C$ の各成分について同次 1 次なので、解の全体は和と $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ 倍で閉じる。定値写像 $C\equiv a$ は $2a-a-a=0$ をみたす。$p$ が素数なら解の全体は $\mathbb{F}_p$ 上の線形空間で、定値写像のなす 1 次元の部分空間を含むので、次元 $k\ge1$ について個数は $p^k$ である。自明な彩色はちょうど $p$ 個なので、自明でない彩色があることは $p^k>p$ と同値である。$\square$
$R_3$ は対称群 $S_3$ の 3 つの互換のなす $\operatorname{Conj}(S_3)$ の部分カンドルと同型である(カンドル の命題「二面体カンドルと正多角形の折り返し」の 3)。したがって $R_3$ による彩色は、thm-qc-hom により準同型 $Q(D)\to\operatorname{Conj}(S_3)$ を与え、カンドル の定理「随伴群の普遍性」と 結び目カンドル の定理「随伴群は結び目群」により、結び目群から $S_3$ への準同型を与える。2 色以上を使う彩色なら像は 2 つの異なる互換を含み、$S_3$ を生成する。これが Wirtinger表示 の系「3 彩色と結び目群」の仕組みである。
$R_n$ の平行移動 $i\mapsto i+a$ は自己同型である($(i+a)\ast(j+a)=2j-i+a$)。彩色に自己同型を合成すると彩色になるので、1 つの弧の色を $0$ に固定した彩色の個数を $N$ とすると、彩色の総数は $nN$ である。
$n\ge1$ とし、$\gcd$ を最大公約数とする。
$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ で方程式 $mx=0$ の解の個数は $\gcd(n,m)$ である。
1.交差のない図式では弧が 1 本で、条件がない。
2.結び目カンドル の例「交差のない図式と三葉結び目」の図式の関係式 $x_0=x_2\ast x_1$、$x_1=x_0\ast x_2$、$x_2=x_1\ast x_0$ は、$R_n$ では $x_0=2x_1-x_2$、$x_1=2x_2-x_0$、$x_2=2x_0-x_1$ である。$x_0=0$ とおくと、第 3 式から $x_2=-x_1$、第 2 式から $x_1=-2x_1$、すなわち $3x_1=0$ を得る。逆に $3x_1=0$、$x_2=-x_1$ なら第 1 式 $0=2x_1+x_1$ も成り立つ。よって $N=\gcd(n,3)$ である。
3.8 の字結び目の 4 交差の図式(Joy79 §4.6 の図 4.6、p. 42)のカンドルの表示は、弧を $x_1,\dots,x_4$ として
$$
x_2=x_1\ast x_3,\quad x_3=x_2\ast^{-1}x_4,\quad x_4=x_3\ast x_1,\quad x_1=x_4\ast^{-1}x_2
$$
である(同 p. 43)。$R_n$ では $\ast^{-1}=\ast$ なので、$x_2=2x_3-x_1$、$x_3=2x_4-x_2$、$x_4=2x_1-x_3$、$x_1=2x_2-x_4$ となる。$x_1=0$ とおくと $x_2=2x_3$、$x_4=-x_3$ で、第 2 式は $x_3=-2x_3-2x_3$、すなわち $5x_3=0$ になる。逆に $5x_3=0$ なら第 4 式 $0=4x_3+x_3$ も成り立つ。よって $N=\gcd(n,5)$ である。$\square$
自明な結び目・三葉結び目・8 の字結び目は、どの 2 つも(向きをどう付けても)三角形の移動で移り合わない。
Fox の $n$ 彩色は向きによらないので、prop-qc-dihedral-counts の個数は向きの付け方によらない。$n=3$ では彩色数は順に $3,9,3$、$n=5$ では $5,5,25$ である。どの 2 つも、$n=3$ か $n=5$ の少なくとも一方で値が異なるので、cor-qc-invariant により同値でない。$\square$
自明でない Fox の $n$ 彩色をもつ結び目を $n$ 彩色可能 という。prop-qc-dihedral-counts により、三葉結び目は $3$ 彩色可能で $5$ 彩色可能でなく、8 の字結び目は $5$ 彩色可能で $3$ 彩色可能でない。8 の字結び目の図式の $5$ 彩色の例は $(x_1,x_2,x_3,x_4)=(0,2,1,4)$ である。実際 $2\cdot1-0=2$、$2\cdot4-2\equiv1$、$2\cdot0-1\equiv4$、$2\cdot2-4=0$ で、4 つの関係式がすべて成り立ち、4 つの弧に異なる色が塗られている。一方、三葉結び目の $3$ 彩色では 3 つの弧に 3 色が 1 つずつ塗られる。
$m\ge1$ を奇数とし、2 本のひもを同じ向きに $m$ 回ねじって両端を閉じた標準の図式($(2,m)$ トーラス結び目。$m=3$ が三葉結び目)を考える。交差を $c_0,\dots,c_{m-1}$ とねじった順に並べると、各ひもは交差ごとに上と下を交互に通る。そこで、$c_i$ で上を通る弧を $a_i$ とすると、$a_i$ は $c_{i-1}$ の下の点から始まって $c_{i+1}$ の下の点で終わる(添字は $\bmod m$)。$c_i$ の下の弧は $a_{i-1}$ と $a_{i+1}$ なので、Fox の $n$ 彩色の条件は
$$
2a_i\equiv a_{i-1}+a_{i+1}\pmod n\qquad(i\in\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})
$$
である。$d:=a_1-a_0$ とおくと、条件から隣どうしの差はすべて $d$ に等しく、$a_i=a_0+id$($0\le i\le m-1$)で、1 周して戻る条件は $md\equiv0$ である。逆に $md\equiv0$ ならすべての条件が成り立つ。よって $\operatorname{col}_{R_n}=n\cdot\gcd(n,m)$ であり、$m=3$ で prop-qc-dihedral-counts の 2 と一致する。$m=5$ では 8 の字結び目と同じ値 $n\cdot\gcd(n,5)$ になり、二面体カンドルの彩色数ではこの 2 つは区別できない。
三葉結び目の $9$ 個の $R_3$ 彩色のうち 3 個は自明な彩色で、残りの 6 個は自明でない(Kam02 p. 108)。この図式では各交差に 3 つの弧がすべて現れるので、prop-qc-fox3 により自明でない彩色は 3 つの弧に 3 色を 1 つずつ塗るもので、その個数は $3!=6$ である。
彩色数は結び目カンドルだけから決まるので、結び目カンドル の命題「鏡像の逆向きは同じカンドルをもつ」により、$K$ と、鏡像の向きを逆にした $-K^*$ を区別しない。三葉結び目とその鏡像も、どの有限カンドルによる彩色数でも区別できない(両者の結び目カンドルは同型である。Kam02 p. 109)。領域にも色を塗る影の彩色と 3 次のコサイクルから作る不変量は、この 2 つを区別する(Kam02 Theorem 6.1、p. 114。この記事では証明しない。カンドルコホモロジー)。Alexander カンドルによる彩色については Alexanderカンドル を参照。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $X$ の冪等性(ラック で塗る) | $X=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$、$x\ast y:=x+1$。自明な結び目の交差のない図式と、I 型移動で 1 交差にした図式 | 彩色の個数が図式によらないこと(cor-qc-invariant)。個数は $2$ と $0$ |
| $X$ の右からの演算の全単射性 | $X=\{0,1\}$、$x\ast y:=y$。自明な結び目の交差のない図式と、II 型移動で 2 交差にした図式 | 彩色の個数が図式によらないこと。個数は $2$ と $4$ |
| 成分が 1 つであること | Hopf 絡み目の 2 交差の図式と自明カンドル $T_2=\{0,1\}$ | 彩色の値が 1 つの軌道に入ること(prop-qc-orbit)。2 つの弧に $0$ と $1$ を塗ると彩色 |
1 行目:右移動は $1$ を足す平行移動で全単射、$(x\ast y)\ast z=x+2=(x\ast z)\ast(y\ast z)$ なので、冪等性だけを欠く。交差のない図式は弧が 1 本で条件がなく、彩色は $2$ 個である。1 交差の図式も弧は 1 本で、条件は $C=C\ast C=C+1$ となり、$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ に解はない。
2 行目:$x\ast x=x$ で、$(x\ast y)\ast z=z=(x\ast z)\ast(y\ast z)$ なので、全単射性だけを欠く($S_y$ は定値写像)。円の一部を別の部分の下に II 型移動でくぐらせ、内部の弧 $\alpha_M$ が上の線の右側にくるようにすると、弧は $\alpha_M$ と残りの弧 $\alpha_B$(上の線と、内部の弧の両側の断片を含む)の 2 本で、2 つの交差の条件はどちらも $C(\alpha_B)=C(\alpha_M)\ast C(\alpha_B)=C(\alpha_B)$ となって制約がない。よって彩色は $4$ 個ある。
3 行目:Hopf 絡み目の弧は各成分に 1 本ずつで、各交差の 2 つの下の弧は同じ弧なので、自明カンドルでは条件 $C(\alpha)=C(\alpha)\ast C(\beta)=C(\alpha)$ は自動的に成り立つ。$T_2$ の軌道は $\{0\}$ と $\{1\}$ なので、値は 2 つの軌道にまたがる。
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