Gaussの驚異の定理(Theorema Egregium)とは、$\mathbb{R}^3$ の $C^3$ 級の曲面について、Gauss 曲率 $K$(2 つの主曲率の積)が、曲面の上で測る長さを表す第 1 基本形式の係数 $E,F,G$ とその 2 階までの偏導関数だけで決まるという定理である。主曲率の一つ一つは曲面が空間の中でどう曲がるかに依存するが、その積は曲面を伸び縮みさせずに曲げても変わらない。証明は、位置ベクトルの 2 階偏導関数を接成分と法成分に分け、3 階偏導関数の順序を入れ替えて比べることで得られる。帰結として、球面の地図は長さを保てず、Gauss 曲率は曲面の上の小さな円の周の長さから求められる。
紙を丸めれば円柱になるが、紙を伸び縮みさせずに球面に貼ることはできない。この違いを測るのが Gauss曲率 $K=\kappa_1\kappa_2$ である。$K$ は、曲面が $\mathbb R^3$ の中でどう曲がっているか(単位法ベクトルの向きの変わり方)を使って定義される。それにもかかわらず、$K$ は曲面の上で測った曲線の長さだけで決まる。これが Gauss の 驚異の定理(Theorema Egregium)である。Gauss は 1827 年にこの事実を見いだし、その驚きから theorema egregium(ラテン語で「卓越した定理」)と名づけた(Lee18 p. 5)。
主曲率 $\kappa_1,\kappa_2$ の一つ一つは長さだけでは決まらない。平面と円柱は紙を丸めるだけで移り合うが、主曲率は平面で $0,0$、半径 $1$ の円柱で(内向きの法ベクトルについて)$1,0$ である。決まるのは積だけである。曲面の上に住んで外が見えない生き物でも、自分の住む曲面の Gauss 曲率を測れる。
この記事では次のことを示す。
$U\subset\mathbb R^2$ を開集合、$k\ge2$ とする。$C^k$ 級の写像 $x\colon U\to\mathbb R^3$、$(u,v)\mapsto x(u,v)$ がすべての点で $x_u\times x_v\neq0$ を満たすとき、$x$ を $C^k$ 級の 正則曲面片 という($x_u=\partial x/\partial u$ などと書き、$\times$ は外積)。
$$
E=\langle x_u,x_u\rangle,\quad F=\langle x_u,x_v\rangle,\quad G=\langle x_v,x_v\rangle
$$
を 第 1 基本形式 の係数という。$W=\sqrt{EG-F^2}$、$\nu=(x_u\times x_v)/W$(単位法ベクトル)とおき、
$$
L=\langle x_{uu},\nu\rangle,\quad M=\langle x_{uv},\nu\rangle,\quad N=\langle x_{vv},\nu\rangle
$$
を 第 2 基本形式 の係数という。点 $x(u,v)$ での Gauss 曲率 を
$$
K=\frac{LN-M^2}{EG-F^2}
$$
とする。
$x_u,x_v$ は 1 次独立なので $EG-F^2=|x_u\times x_v|^2>0$ である。Gauss曲率 では $K$ を形作用素($x_u\mapsto-\nu_u$、$x_v\mapsto-\nu_v$ で定まる接平面の線形写像)の行列式、すなわち主曲率の積として定め、上の式をその定理「第 1・第 2 基本形式による表示」として示している。形作用素は径数のとり方によらず、法ベクトルを $-\nu$ に替えると $-1$ 倍になるだけなので、$K$ は曲面の点だけで決まり、径数を取り替えても変わらない。
曲面の上の曲線 $c(t)=x\bigl(u(t),v(t)\bigr)$($a\le t\le b$)の長さは
$$
\int_a^b\sqrt{E\,u'^2+2F\,u'v'+G\,v'^2}\;dt
$$
であり、$E,F,G$ だけで決まる。$E,F,G$ とその偏導関数だけで決まる量を、曲面の 内在的な 量という。
同じ開集合 $U$ 上の $C^2$ 級の正則曲面片 $x,y\colon U\to\mathbb R^3$ について、$U$ の中の区分的に $C^1$ 級の任意の曲線 $\bigl(u(t),v(t)\bigr)$ に対し、$x\bigl(u(t),v(t)\bigr)$ と $y\bigl(u(t),v(t)\bigr)$ の長さが等しいとき、対応 $x(u,v)\mapsto y(u,v)$ は 長さを保つ という。
曲面を伸び縮みさせずに曲げる(紙を丸めるなど)と、曲面の点の対応は長さを保つ。
def-te-isometric の $x,y$ について、対応 $x(u,v)\mapsto y(u,v)$ が長さを保つことと、$U$ の各点で $x$ と $y$ の $E,F,G$ がそれぞれ等しいことは同値である。
$E,F,G$ が等しければ、長さの積分の被積分関数が等しいので長さは等しい。逆に長さを保つとし、$(u_0,v_0)\in U$ と $(a,b)\in\mathbb R^2$ を固定して、小さい $s>0$ について線分 $t\mapsto(u_0+ta,\ v_0+tb)$($0\le t\le s$)を考える。その $x$ による像の長さを $\ell_x(s)$ とすると、微分積分学の基本定理から
$$
\ell_x'(0)=\sqrt{E a^2+2F ab+G b^2}\,\Big|_{(u_0,v_0)}
$$
であり、$y$ についても同じ形の式が成り立つ。$\ell_x=\ell_y$ なので、2 つの正定値 2 次形式 $Ea^2+2Fab+Gb^2$ は $x$ と $y$ ですべての $(a,b)$ について等しい。$(a,b)=(1,0),(0,1),(1,1)$ を代入すると $E,G$ と $E+2F+G$ が等しく、したがって $F$ も等しい。$\square$
添字 $1$ を $u$、$2$ を $v$ に対応させる。$E,F,G$ から次の連立 1 次方程式で 6 つの関数 $\Gamma^k_{ij}=\Gamma^k_{ji}$($i,j,k\in\{1,2\}$)を定め、Christoffel 記号 という。
$$
\begin{pmatrix}E&F\\ F&G\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\Gamma^1_{11}\\ \Gamma^2_{11}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\frac12E_u\\ F_u-\frac12E_v\end{pmatrix},\quad
\begin{pmatrix}E&F\\ F&G\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\Gamma^1_{12}\\ \Gamma^2_{12}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\frac12E_v\\ \frac12G_u\end{pmatrix},\quad
\begin{pmatrix}E&F\\ F&G\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\Gamma^1_{22}\\ \Gamma^2_{22}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}F_v-\frac12G_u\\ \frac12G_v\end{pmatrix}
$$
係数行列の行列式は $EG-F^2>0$ なので解はただ 1 つで、Cramer の公式から、$\Gamma^k_{ij}$ は $E,F,G$ とその 1 階の偏導関数の有理式である。
$x\colon U\to\mathbb R^3$ を $C^3$ 級の正則曲面片とする。$U$ の各点で
$$
E\,K=\bigl(\Gamma^2_{11}\bigr)_v-\bigl(\Gamma^2_{12}\bigr)_u+\Gamma^1_{11}\Gamma^2_{12}+\Gamma^2_{11}\Gamma^2_{22}-\Gamma^1_{12}\Gamma^2_{11}-\bigl(\Gamma^2_{12}\bigr)^2
$$
が成り立つ。とくに $E>0$ で割ることにより、各点の Gauss 曲率 $K$ は、その点での $E,F,G$ とその 2 階までの偏導関数だけで決まる。
証明の考え方:$x_{uu},x_{uv},x_{vv}$ を基底 $x_u,x_v,\nu$ で展開すると、接成分の係数は $E,F,G$ で決まり、法成分の係数は $L,M,N$ になる。$\nu_u,\nu_v$ は接平面に入り、その係数は $E,F,G$ と $L,M,N$ で書ける。$(x_{uu})_v=(x_{uv})_u$ の $x_v$ の係数を比べると、$L,M,N$ はちょうど $LN-M^2$ の形でしか現れない。
段 1(Gauss の公式と Weingarten の公式). 各点で $x_u,x_v,\nu$ は $\mathbb R^3$ の基底で、
$$
x_{uu}=\Gamma^1_{11}x_u+\Gamma^2_{11}x_v+L\nu,\quad x_{uv}=\Gamma^1_{12}x_u+\Gamma^2_{12}x_v+M\nu,\quad x_{vv}=\Gamma^1_{22}x_u+\Gamma^2_{22}x_v+N\nu
$$
$$
\nu_u=p\,x_u+q\,x_v,\quad \nu_v=s\,x_u+t\,x_v,\qquad q=-\frac{EM-FL}{EG-F^2},\quad t=-\frac{EN-FM}{EG-F^2}
$$
が成り立つ($p,s$ は以下で使わない)。
$x_{uu}=\alpha x_u+\beta x_v+\gamma\nu$ と書くと、$\nu$ は $x_u,x_v$ と直交する単位ベクトルなので $\gamma=\langle x_{uu},\nu\rangle=L$ で、$x_u,x_v$ との内積から $\langle x_{uu},x_u\rangle=\alpha E+\beta F$、$\langle x_{uu},x_v\rangle=\alpha F+\beta G$ である。一方 $E=\langle x_u,x_u\rangle$ などを微分すると $\langle x_{uu},x_u\rangle=\frac12E_u$、$\langle x_{uv},x_u\rangle=\frac12E_v$、$\langle x_{uv},x_v\rangle=\frac12G_u$、$\langle x_{vv},x_v\rangle=\frac12G_v$ であり、$F_u=\langle x_{uu},x_v\rangle+\langle x_u,x_{uv}\rangle$ から $\langle x_{uu},x_v\rangle=F_u-\frac12E_v$、同様に $\langle x_{vv},x_u\rangle=F_v-\frac12G_u$ である。よって $(\alpha,\beta)$ は $\Gamma^k_{11}$ を定める方程式を満たし、解の一意性から $(\alpha,\beta)=(\Gamma^1_{11},\Gamma^2_{11})$ である。$x_{uv}$、$x_{vv}$ も同じである。
$\langle\nu,\nu\rangle=1$ を微分すると $\langle\nu_u,\nu\rangle=\langle\nu_v,\nu\rangle=0$ なので $\nu_u,\nu_v$ は $x_u,x_v$ の 1 次結合である。$\langle\nu,x_u\rangle=\langle\nu,x_v\rangle=0$ を微分すると $\langle\nu_u,x_u\rangle=-L$、$\langle\nu_u,x_v\rangle=-M$、$\langle\nu_v,x_u\rangle=-M$、$\langle\nu_v,x_v\rangle=-N$ で、これは $pE+qF=-L$、$pF+qG=-M$、$sE+tF=-M$、$sF+tG=-N$ のことである。Cramer の公式で解けば $q,t$ の式を得る。
$(x_{uu})_v=(x_{uv})_u$ の $\nu$ の係数を比べると $L_v-M_u=\Gamma^1_{12}L+(\Gamma^2_{12}-\Gamma^1_{11})M-\Gamma^2_{11}N$ が出る。これと $(x_{uv})_v=(x_{vv})_u$ から出る同様の式が Codazzi の方程式であり、thm-te-main の式(Gauss の方程式)とあわせて Gauss–Codazzi方程式 で一般の次元で扱われる。
$K$ を $E,F,G$ とその偏導関数で書く式として、行列式を使う次の Brioschi の公式もある。その証明は Christoffel 記号を経由しない。
$x$ を $C^3$ 級の正則曲面片とすると
$$
K\,(EG-F^2)^2=\det\begin{pmatrix}-\frac12E_{vv}+F_{uv}-\frac12G_{uu}&\frac12E_u&F_u-\frac12E_v\\ F_v-\frac12G_u&E&F\\ \frac12G_v&F&G\end{pmatrix}-\det\begin{pmatrix}0&\frac12E_v&\frac12G_u\\ \frac12E_v&E&F\\ \frac12G_u&F&G\end{pmatrix}
$$
である。
要点:$WL,WM,WN$ をベクトルを並べた行列式で書き、$\det P\det Q=\det(P^{\mathsf T}Q)$ で内積の行列式に直す。内積は thm-te-main の証明の段 1 の式で $E,F,G$ の偏導関数に替わり、残る $\langle x_{uu},x_{vv}\rangle-|x_{uv}|^2$ も替わる。
段 1。$W\nu=x_u\times x_v$ と $\langle a,b\times c\rangle=\det(a,b,c)$(列ベクトルを並べた行列式)から $WL=\det(x_{uu},x_u,x_v)$、$WM=\det(x_{uv},x_u,x_v)$、$WN=\det(x_{vv},x_u,x_v)$ である。
段 2。$P=(x_{uu},x_u,x_v)$、$Q=(x_{vv},x_u,x_v)$、$R=(x_{uv},x_u,x_v)$ とすると $W^2(LN-M^2)=\det(P^{\mathsf T}Q)-\det(R^{\mathsf T}R)$ で、$P^{\mathsf T}Q$ の $(i,j)$ 成分は $P$ の第 $i$ 列と $Q$ の第 $j$ 列の内積である。$(1,1)$ 成分以外は thm-te-main の証明の段 1 の 6 つの内積の式で $E,F,G$ と 1 階の偏導関数に替わる。
段 3。$E_v=2\langle x_{uv},x_u\rangle$ を $v$ で、$G_u=2\langle x_{uv},x_v\rangle$ を $u$ で、$F_u=\langle x_{uu},x_v\rangle+\langle x_u,x_{uv}\rangle$ を $v$ で微分すると($C^3$ 級なので偏微分の順序を入れ替えてよい)、$E_{vv}=2\langle x_{uvv},x_u\rangle+2|x_{uv}|^2$、$G_{uu}=2\langle x_{uuv},x_v\rangle+2|x_{uv}|^2$、$F_{uv}=\langle x_{uuv},x_v\rangle+\langle x_{uu},x_{vv}\rangle+|x_{uv}|^2+\langle x_u,x_{uvv}\rangle$ なので、$\langle x_{uu},x_{vv}\rangle-|x_{uv}|^2=-\frac12E_{vv}+F_{uv}-\frac12G_{uu}$ である。
段 4。2 つの行列式は $(1,1)$ 成分についてどちらも「$(1,1)$ 成分 $\times(EG-F^2)$ +($(1,1)$ 成分によらない項)」の形なので、2 つ目の $(1,1)$ 成分 $|x_{uv}|^2$ を 1 つ目の $(1,1)$ 成分から引き、2 つ目の $(1,1)$ 成分を $0$ にしても差は変わらない。段 3 によりこれが右辺である。左辺は $W^2(LN-M^2)=K(EG-F^2)^2$ である。$\square$
Riemann 幾何学の言葉で。 $E\,du^2+2F\,du\,dv+G\,dv^2$ を $U$ の上の Riemann 計量とみると、上の $\Gamma^k_{ij}$ はその Christoffel 記号(リーマン接続)の公式と同じものである。Gauss 曲率はこの計量の断面曲率に等しく(Gauss–Codazzi方程式 の定理「断面曲率と Gauss 曲率の一致」、Lee18 Theorem 8.27(p. 249))、これによって $\mathbb R^3$ に入っていない 2 次元 Riemann 多様体にも Gauss 曲率が定まる(断面曲率)。
$x,y\colon U\to\mathbb R^3$ を $C^3$ 級の正則曲面片とし、対応 $x(u,v)\mapsto y(u,v)$ が長さを保つとする。このとき各点 $(u,v)$ で $x$ と $y$ の Gauss 曲率は等しい。
lem-te-isometric により $x$ と $y$ の $E,F,G$ は $U$ 上で等しく、したがって偏導関数も等しい。thm-te-main の右辺と $E$ は $x$ と $y$ で同じなので、$K$ も等しい。$\square$
Gauss 曲率は、曲面を伸び縮みさせずに曲げても変わらない。これに対し主曲率や平均曲率は変わりうる(ex-te-counterexamples)。
座標曲線が直交する($F=0$)と、Christoffel 記号は
$$
\Gamma^1_{11}=\frac{E_u}{2E},\quad \Gamma^2_{11}=-\frac{E_v}{2G},\quad \Gamma^1_{12}=\frac{E_v}{2E},\quad \Gamma^2_{12}=\frac{G_u}{2G},\quad \Gamma^1_{22}=-\frac{G_u}{2E},\quad \Gamma^2_{22}=\frac{G_v}{2G}
$$
となり(方程式の係数行列が対角行列になる)、thm-te-main の式は扱いやすくなる。
$x$ を $C^3$ 級の正則曲面片とする。
要点:$F=0$ の Christoffel 記号を thm-te-main に代入する。
1.$E=1$、$F=0$ なら $\Gamma^1_{11}=\Gamma^2_{11}=\Gamma^1_{12}=0$、$\Gamma^2_{12}=G_u/(2G)=f_u/f$ なので
$$K=-\Bigl(\frac{f_u}{f}\Bigr)_u-\Bigl(\frac{f_u}{f}\Bigr)^2=-\frac{f_{uu}f-f_u^2}{f^2}-\frac{f_u^2}{f^2}=-\frac{f_{uu}}{f}$$
である。
2.$\alpha=\log\lambda$ とおくと $E_u/(2E)=G_u/(2G)=\alpha_u$、$E_v/(2E)=G_v/(2G)=\alpha_v$ なので、$\Gamma^1_{11}=\Gamma^2_{12}=\alpha_u$、$\Gamma^2_{11}=-\alpha_v$、$\Gamma^1_{12}=\Gamma^2_{22}=\alpha_v$ で
$$\lambda^2K=-\alpha_{vv}-\alpha_{uu}+\alpha_u^2-\alpha_v^2+\alpha_v^2-\alpha_u^2=-\Delta\alpha$$
である。$\square$
1 の座標では、$u$ 方向の座標曲線は弧長で径数付けられ($E=1$)、$x_{uu}=L\nu$ が法線方向だけをもつので測地線であり、$v$ 方向の座標曲線と直交する。このような座標を測地平行座標という。測地極座標(lem-te-polar)もこの形である。2 の式は、上半平面に計量 $(du^2+dv^2)/v^2$ を入れた 双曲幾何学 の平面の曲率が $-1$ であることを示す($\lambda=1/v$、$\Delta\log\lambda=1/v^2$)。
平面の曲線 $\bigl(f(u),g(u)\bigr)$($f>0$、$f'^2+g'^2=1$)を $z$ 軸のまわりに回した回転面 $x(u,v)=\bigl(f(u)\cos v,\ f(u)\sin v,\ g(u)\bigr)$ では $E=f'^2+g'^2=1$、$F=0$、$G=f^2$ なので、cor-te-special の 1 から $K=-f''/f$ である。
(1) $f=a\sin(u/a)$($0< u< \pi a$)、$g=-a\cos(u/a)$ は半径 $a$ の球面で、$K=1/a^2$ である。
(2) $0< b<1$ として $f=b\sin u$($0< u< \pi$)、$g(u)=\displaystyle\int_0^u\sqrt{1-b^2\cos^2w}\,dw$ とすると、$K=1$ である。両端 $u\to0,\pi$ で $z$ 軸に近づく紡錘の形の曲面で、Gauss 曲率は単位球面と同じ $1$ だが、単位球面の一部ではない。実際、$u=\pi/2$ の平行円(半径 $b$)の方向の法曲率は $\pm1/b$ であり(その点では $\nu=\mp(\cos v,\sin v,0)$ が平行円の主法線と平行)、単位球面ではどの方向の法曲率も $\pm1$ である(Gauss曲率 の命題「法曲率と Euler の公式」)。
(3) $u<0$ で $f=e^u$、$g(u)=\displaystyle\int_0^u\sqrt{1-e^{2w}}\,dw$ とすると $K=-1$ である(擬球とよばれる)。
懸垂面 $x(u,v)=(\cosh u\cos v,\ \cosh u\sin v,\ u)$ と螺旋面 $y(u,v)=(\sinh u\cos v,\ \sinh u\sin v,\ v)$ は、どちらも $E=G=\cosh^2u$、$F=0$ である($x_u=(\sinh u\cos v,\sinh u\sin v,1)$、$x_v=(-\cosh u\sin v,\cosh u\cos v,0)$、$y_u=(\cosh u\cos v,\cosh u\sin v,0)$、$y_v=(-\sinh u\sin v,\sinh u\cos v,1)$ から計算する)。lem-te-isometric により対応 $x(u,v)\mapsto y(u,v)$ は長さを保つ。cor-te-special の 2 で $\lambda=\cosh u$、$(\log\cosh u)''=1/\cosh^2u$ から、どちらも
$$
K=-\frac1{\cosh^4u}
$$
である。$\mathbb R^3$ の中では懸垂面は回転面、螺旋面はねじれた面で、形はまったく違う。
地図は、球面の一部の点 $x(u,v)$ に平面の点 $y(u,v)$ を対応させるものである。各点で、接ベクトル $a\,x_u+b\,x_v$ に $a\,y_u+b\,y_v$ を対応させる線形写像を 対応の微分 とよぶ。対応の微分が単射で、どの 2 つの接ベクトルのなす角も保つとき、対応は 角を保つ という。$U$ の中の任意の有界閉領域 $D$ について $\iint_D|x_u\times x_v|\,du\,dv=\iint_D|y_u\times y_v|\,du\,dv$ のとき、対応は 面積を保つ という。
$x\colon U\to\mathbb R^3$ を、像が半径 $a$ の球面に含まれる $C^3$ 級の正則曲面片とし、$y\colon U\to\mathbb R^2$ を $C^3$ 級の写像とする。対応 $x(u,v)\mapsto y(u,v)$ が角と面積をともに保つことはない。とくに、長さを保つことはない。
要点:角を保つ線形写像は長さを保つ写像の正の定数倍なので、面積も保てば各点で長さを保つ。すると cor-te-isometry により球面の $K=1/a^2$ と平面の $K=0$ が等しくなり、矛盾する。
段 1(線形代数)。2 次元の内積空間の間の単射な線形写像 $A$ が角を保つとする。正規直交基底 $e_1,e_2$ について、$e_1\perp e_2$ から $Ae_1\perp Ae_2$、$(e_1+e_2)\perp(e_1-e_2)$ から $A(e_1+e_2)\perp A(e_1-e_2)$、すなわち $|Ae_1|=|Ae_2|$ である。$\lambda=|Ae_1|>0$ とおくと $A/\lambda$ は正規直交基底を正規直交基底に写すので長さを保ち、$A$ は面積を $\lambda^2$ 倍する。
段 2(面積から $\lambda=1$)。対応が角を保つとし、各点の対応の微分に段 1 を当てた $\lambda$ を $\lambda(u,v)$ とする。$\lambda^2=|y_u\times y_v|/|x_u\times x_v|$ は連続である。ある点で $\lambda^2>1$ なら、その点を中心とする小さい閉円板 $D$ の上で $\lambda^2>1$ となり、$\iint_D|y_u\times y_v|>\iint_D|x_u\times x_v|$ で面積を保たない。$\lambda^2< 1$ でも同じである。よって角と面積をともに保つなら $\lambda\equiv1$ で、対応の微分は各点で内積を保つ。
段 3(Gauss 曲率の比較)。平面を $\mathbb R^3$ の $z=0$ とみると、段 2 から $y$ は正則曲面片で、$E,F,G$ は $x$ と等しい。thm-te-main により $x$ と $y$ の Gauss 曲率は等しい。ところが球面の Gauss 曲率は $1/a^2$(Gauss曲率 の例「平面・球面・円柱・グラフ」。$K$ は径数のとり方によらない)、平面の Gauss 曲率は $0$($\nu$ が一定で $L=M=N=0$)であり、矛盾する。長さを保つ対応は角と面積を保つので、後半も従う。$\square$
地図の図法には、角を保つもの(Mercator 図法など)や面積を保つもの(Archimedesの帽子箱定理 の節「応用 3:正積円筒図法」)はあるが、両方を同時に満たす図法はない。地球儀を平面の地図に写すと必ずどこかがゆがむのは、球面の Gauss 曲率が $0$ でないからである。
驚異の定理は、Gauss 曲率が曲面の上の測量だけで分かることを意味する。実際に、点のまわりの小さな円の周の長さを測れば Gauss 曲率が求まる。ここでは $x$ を $C^\infty$ 級の正則曲面片とし、$g=E\,du^2+2F\,du\,dv+G\,dv^2$ を $U$ の上の Riemann 計量とみて、正規座標 を使う。
$q_0\in U$ とし、$\phi\colon U'\to\mathbb R^2$ を $g$ についての $q_0$ を中心とする正規座標で、像が円板 $\{|w|< \varepsilon\}$ を含むものとする(正規座標 の定義「正規近傍と正規座標」)。$0< r< \varepsilon$、$\theta\in\mathbb R$ について
$$
y(r,\theta)=x\bigl(\phi^{-1}(r\cos\theta,\ r\sin\theta)\bigr)
$$
とおくと、$y$ は $C^\infty$ 級の正則曲面片で、その第 1 基本形式の係数は
$$
E_y=1,\qquad F_y=0,\qquad G_y=f^2,\qquad f(r,\theta)=r\,h(r,\theta)
$$
である。ここで $h$ は $(-\varepsilon,\varepsilon)\times\mathbb R$ の上の正の $C^\infty$ 級関数で、$h(0,\theta)=1$ を満たす。
要点:$y$ の第 1 基本形式は、計量 $g$ を正規座標の極座標 $(r,\theta)$ で書いたものである。正規座標 の定理「Gauss の補題」により、動径方向は長さ $1$ で、角度方向と直交する。
正規座標で $g=g_{ij}(w)\,dw^idw^j$ と書き、$e=(\cos\theta,\sin\theta)$、$e^\perp=(-\sin\theta,\cos\theta)$ とおく。$\langle y_r,y_\theta\rangle$ などは $x$ の接ベクトルの内積なので $g$ で測られ、$w=re$ での座標ベクトルは $\partial_r=e^i\partial_i$、$\partial_\theta=r\,(e^\perp)^i\partial_i$ である。Gauss の補題 $g_{ij}(w)w^iz^j=\langle w,z\rangle$ を $w=re$ と $z=re$、$z=re^\perp$ に当てると $E_y=g_{ij}e^ie^j=\frac1{r^2}\langle re,re\rangle=1$、$F_y=g_{ij}e^i\,r(e^\perp)^j=\frac1r\langle re,re^\perp\rangle=0$ である。
$G_y=r^2g_{ij}(re)(e^\perp)^i(e^\perp)^j$ なので、$h(r,\theta)=\sqrt{g_{ij}(r\cos\theta,r\sin\theta)(e^\perp)^i(e^\perp)^j}$ とおけばよい。$g_{ij}$ は正定値で $C^\infty$ 級なので $h$ は $|r|< \varepsilon$ で正の $C^\infty$ 級関数であり、$g_{ij}(0)=\delta_{ij}$(正規座標 の命題「正規座標の性質」)から $h(0,\theta)=1$ である。$r>0$ では $(r,\theta)\mapsto(r\cos\theta,r\sin\theta)$ は局所微分同相で、$|y_r\times y_\theta|=\sqrt{E_yG_y-F_y^2}=f>0$ である。$\square$
正規座標 の系「測地球と距離の球」により、$\theta\mapsto y(\rho,\theta)$ が描く閉曲線は、曲面の上で $x(q_0)$ から距離 $\rho$($U'$ の中の曲線の長さの下限)にある点の全体で、測地円 とよばれる。その長さは $\displaystyle\int_0^{2\pi}f(\rho,\theta)\,d\theta$ である。
lem-te-polar の設定で、$K_0$ を点 $x(q_0)$ での Gauss 曲率、$\ell(\rho)$ を半径 $\rho$ の測地円の長さ、$A(\rho)$ をそれが囲む測地円板の面積とする。$\rho\to0$ のとき
$$
\ell(\rho)=2\pi\rho-\frac\pi3K_0\,\rho^3+O(\rho^4),\qquad A(\rho)=\pi\rho^2-\frac\pi{12}K_0\,\rho^4+O(\rho^5)
$$
である。とくに $K_0=\displaystyle\lim_{\rho\to0}\frac{3\,\bigl(2\pi\rho-\ell(\rho)\bigr)}{\pi\rho^3}$ である。
要点:cor-te-special の 1 から $f_{rr}=-kf$($k$ はその点の Gauss 曲率)であり、$f=rh$ と $h(0,\theta)=1$ から $r=0$ での $f$ の 3 階までの導関数が決まる。それを $\theta$ について積分する。
段 1(微分方程式)。$k(r,\theta)$ を点 $x\bigl(\phi^{-1}(r\cos\theta,r\sin\theta)\bigr)$ での Gauss 曲率とすると、$k$ は $(-\varepsilon,\varepsilon)\times\mathbb R$ の上の $C^\infty$ 級関数で、$k(0,\theta)=K_0$ である。$r>0$ では、Gauss 曲率は径数のとり方によらないので、lem-te-polar と cor-te-special の 1 から $f_{rr}=-k\,f$ である。$f=rh$ も $k$ も $|r|< \varepsilon$ で $C^\infty$ 級なので、$f_{rr}+kf$ とその $r$ による偏導関数は $r>0$ で $0$ であり、連続性から $r=0$ でも $0$ である。
段 2($r=0$ での値)。$f=rh$ から $f(0,\theta)=0$、$f_r=h+rh_r$ なので $f_r(0,\theta)=1$ である。段 1 から $f_{rr}(0,\theta)=-k(0,\theta)f(0,\theta)=0$、$f_{rrr}=-(k_rf+kf_r)$ から $f_{rrr}(0,\theta)=-K_0$ である。
段 3(展開と積分)。$0< \rho_0< \varepsilon$ を固定し、$C$ を $[0,\rho_0]\times[0,2\pi]$ での $|\partial_r^4f|$ の最大値とする。Taylor の定理から、$0< \rho\le\rho_0$ で
$$\Bigl|f(\rho,\theta)-\rho+\frac{K_0}6\rho^3\Bigr|\le\frac{C}{24}\rho^4$$
である。$\theta$ について $0$ から $2\pi$ まで積分すると $\ell(\rho)$ の式を得る。測地円板の面積は、正規座標の円板 $\{|w|< \rho\}$ の上で $\sqrt{\det(g_{ij})}$ を積分したもので、極座標に直すと($\{r=0\}$ は面積 $0$)$\int_0^\rho\int_0^{2\pi}f\,d\theta\,dr=\int_0^\rho\ell(r)\,dr$ である。$\ell$ の式を積分して $A(\rho)$ の式を得る。$\square$
半径 $a$ の球面で北極を中心とする半径 $\rho$($0< \rho< \pi a$)の測地円は、北極から大円に沿って弧長 $\rho$ だけ離れた点の全体で、$z$ 軸からの距離が $a\sin(\rho/a)$ の緯線である。よって
$$
\ell(\rho)=2\pi a\sin\frac\rho a=2\pi\rho-\frac{\pi}{3a^2}\rho^3+O(\rho^5)
$$
であり、prop-te-circle と $K_0=1/a^2$ に一致する。球面に住む生き物は、半径 $\rho$ の円の周が $2\pi\rho$ より短いことから、自分の住む面が曲がっていると分かる。
cor-te-isometry は「対応が長さを保つ $\Rightarrow$ 各点の Gauss 曲率が等しい」という主張である。量や次元を取りかえたり、向きを逆にしたりすると成り立たない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 量が Gauss 曲率である(平均曲率に替える) | 平面 $(u,v,0)$ と円柱 $(\cos v,\ \sin v,\ u)$ | 長さを保つ対応で値が変わらない |
| 対象が曲面である(平面曲線に替え、曲率を比べる) | 直線 $t\mapsto(t,0)$ と単位円 $t\mapsto(\cos t,\sin t)$ | 長さを保つ対応で曲率が変わらない |
| 含意の向き(逆の「Gauss 曲率が等しい $\Rightarrow$ 長さを保つ」にする) | 螺旋面 $(u\cos v,\ u\sin v,\ v)$ と回転面 $(u\cos v,\ u\sin v,\ \log u)$($u>0$) | 対応 $(u,v)\mapsto(u,v)$ が長さを保つ |
1 行目:平面と円柱 $x(u,v)=(\cos v,\sin v,u)$ はどちらも $E=G=1$、$F=0$ なので、対応 $(u,v,0)\mapsto(\cos v,\sin v,u)$ は長さを保ち、Gauss 曲率はどちらも $0$ である。円柱では $x_u=(0,0,1)$、$x_v=(-\sin v,\cos v,0)$、$\nu=(-\cos v,-\sin v,0)$、$x_{vv}=(-\cos v,-\sin v,0)$ から $L=M=0$、$N=1$ で、平均曲率 $H=\dfrac{EN-2FM+GL}{2(EG-F^2)}$ は $\dfrac12$ である($\nu$ を逆にとれば $-\dfrac12$)。平面では $H=0$ である(Lee18 Exercise 8.26(p. 249))。主曲率の和は内在的な量ではない。
2 行目:どちらも弧長で径数付けられているので、対応 $(t,0)\mapsto(\cos t,\sin t)$ は曲線の部分の長さを保つ。曲率(曲率(曲線))は直線で $0$、単位円で $1$ である。曲線の曲がり方は、曲線の上の長さだけでは決まらない。
3 行目:螺旋面は $E=1$、$F=0$、$G=1+u^2$ で、cor-te-special の 1 から $K=-1/(1+u^2)^2$ である。回転面も、子午線の弧長を径数にとって cor-te-special の 1 を使うと $K=-1/(1+u^2)^2$ である(下の計算)。同じ $(u,v)$ の点で Gauss 曲率は等しいが、$E$ が異なるので対応は長さを保たない(lem-te-isometric)。たとえば $v=0$、$1\le u\le2$ の曲線の長さは、螺旋面で $1$、回転面で $\displaystyle\int_1^2\sqrt{1+u^{-2}}\,du>1$ である。この 2 つの曲面のあいだには、どの点の近くでも長さを保つ対応がない(Mindingの定理 の反例の表の 1 行目)。
螺旋面:$f=\sqrt{1+u^2}$ とすると $f_{uu}=(1+u^2)^{-3/2}$ なので $K=-f_{uu}/f=-(1+u^2)^{-2}$ である。
回転面:$x(u,v)=(u\cos v,u\sin v,\log u)$ について $x_u=(\cos v,\sin v,1/u)$、$x_v=(-u\sin v,u\cos v,0)$ なので $E=1+u^{-2}$、$F=0$、$G=u^2$ である。$s=\int\sqrt{1+u^{-2}}\,du$ を径数にとると $|x_s|=1$ で、$G$ は $u(s)^2$ のままである。$u_s=1/\sqrt{1+u^{-2}}=u/\sqrt{1+u^2}$ を $s$ で微分すると $u_{ss}=\dfrac{d}{du}\Bigl(\dfrac u{\sqrt{1+u^2}}\Bigr)u_s=\dfrac1{(1+u^2)^{3/2}}\cdot\dfrac u{\sqrt{1+u^2}}=\dfrac u{(1+u^2)^2}$ なので、$K=-u_{ss}/u=-(1+u^2)^{-2}$ である。
逆向きが成り立つ場合。 Gauss 曲率が等しいだけでは長さを保つ対応は得られない(上の表の 3 行目)が、Gauss 曲率が同じ定数のときは、どの 2 点の近くも長さを保って対応させられる(Mindingの定理)。ex-te-revolution の紡錘の形の回転面は、単位球面の一部ではないが、単位球面と局所的に長さを保って対応する。
全曲率と位相。 閉曲面の Gauss 曲率を面積で積分した値は、曲面の形によらず $2\pi\chi$($\chi$ は Euler 標数)になる(Gauss–Bonnetの定理)。驚異の定理と同じく、曲面を曲げても変わらない量である。
一般の次元へ。 曲面の上の長さだけから Gauss 曲率が定まることが、Riemann 多様体の Riemann曲率テンソル と 断面曲率 の出発点である。Gauss 曲率がいつも $1$、$0$、$-1$ の 2 次元の幾何が、それぞれ球面の幾何、平面の幾何、双曲幾何学 である。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する