Hermite–Minkowskiの定理

同義語:Hermite-Minkowskiの定理Hermite–Minkowski theorem

概要

Hermite–Minkowskiの定理(Hermite–Minkowski theorem)とは、代数体 $K$ と $\mathcal{O}_K$ の素イデアルの有限集合 $S$、整数 $n$ を決めると、$S$ の外で不分岐な $K$ の $n$ 次拡大は($\mathbb{C}$ の中で)有限個しかないという定理である。判別式の絶対値が有界な代数体は有限個しかないという Hermite の定理に、差積の指数が次数だけで抑えられることを合わせて導かれる。Hermite の定理は、1 つの埋め込みの方向にだけ長い箱に Minkowski の凸体定理を使い、共役が小さい原始元を作って示される。$\mathbb{Q}$ と異なる代数体の判別式の絶対値が $1$ より大きいことから、$\mathbb{Q}$ の自明でない拡大では必ずどこかの素数が分岐する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 判別式(代数体), Minkowskiの凸体定理, 差積と分岐, 代数体における素イデアルの分解

$\mathbb{Q}$ の自明でない有限次拡大では、必ずどこかの素数が分岐する。また、判別式の絶対値が与えられた数以下の代数体は有限個しかない。前者は Minkowski、後者は Hermite による。後者に分岐の深さ(差積)の評価を合わせると、代数体 $K$ と有限個の素イデアルの集合 $S$、次数 $n$ を決めたとき、$S$ の外で分岐しない $K$ の $n$ 次拡大は有限個しかないことが分かる。この有限性を Hermite–Minkowski の定理(Hermite–Minkowski theorem)という。
この有限性は、分岐の情報だけから拡大の候補を有限個に絞る道具として使われる。たとえば楕円曲線 $E/K$ の弱 Mordell–Weil の定理では、$E(K)$ の点の $m$ 等分点を添加した拡大が、$m$ を割る素点と $E$ の悪い還元の素点の外で分岐しないことを示し、そこから有限性を引き出す(Sil09 Remark VIII.1.7、p. 214。Tate–Shafarevich群 の Selmer 群の有限性も同じ筋である)。この記事では、Hermite の定理を Minkowski の凸体定理から完全に証明し、差積の評価を使って Hermite–Minkowski の定理を導く。
文献によっては、$\mathbb{Q}$ と異なる代数体の判別式の絶対値が $1$ より大きいこと(判別式(代数体) の定理「Minkowskiの判別式定理」)や、判別式が有界な代数体の有限性のほうを Hermite–Minkowski の定理と呼ぶ。この記事では、後者を thm-hm-hermite として証明し、前者から従う $\mathbb{Q}$ の不分岐拡大の非存在を cor-hm-no-unramified とする。

主張

以下、代数体はすべて $\mathbb{C}$ の部分体とする。代数体 $K$ の次数を $n_K:=[K:\mathbb{Q}]$、判別式を $d_K$ と書く(判別式(代数体) の定義「代数体の判別式」)。代数体の有限次拡大 $L/K$ について、$\mathcal{O}_K$ の $0$ でない素イデアル $\mathfrak{p}$ が $L$ で 不分岐 であるとは、$\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ の素イデアル分解に現れる素イデアルの分岐指数がすべて $1$ であることをいう(差積と分岐 の定義「分岐」)。

有限集合の外で不分岐

$K$ を代数体、$S$ を $\mathcal{O}_K$ の $0$ でない素イデアルの有限集合とする。$K$ の有限次拡大 $L$ が $S$ の外で不分岐 であるとは、$S$ に属さない $\mathcal{O}_K$ の $0$ でない素イデアルがすべて $L$ で不分岐であることをいう。

無限素点($K$ の実埋め込みが $L$ の複素埋め込みに延びること)は、ここでは条件に入れない。

Hermiteの定理

$X>0$ とする。$\lvert d_K\rvert\le X$ を満たす代数体 $K\subset\mathbb{C}$ は有限個しかない。

Hermite–Minkowskiの定理

$K$ を代数体、$S$ を $\mathcal{O}_K$ の $0$ でない素イデアルの有限集合、$n\ge1$ を整数とする。$K\subset L\subset\mathbb{C}$、$[L:K]=n$ で、$S$ の外で不分岐な代数体 $L$ は有限個しかない。

有理数体の不分岐拡大

$L$ を $\mathbb{Q}$ の有限次拡大で、すべての素数が $L$ で不分岐であるものとすると、$L=\mathbb{Q}$ である。

thm-hm-main の $n$ は「次数がちょうど $n$」でも「$n$ 以下」でも同じである(各次数について有限なので)。3 つの主張の証明は、後の節の prf-hm-hermite・prf-hm-main・prf-hm-no-unramified で与える。

直感

判別式(代数体) の定理「整数環の格子としての体積」により、Minkowski 埋め込みで整数環 $\mathcal{O}_K$ は基本領域の体積 $2^{-r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}$ の格子になる。判別式が小さいとこの格子は密で、凸体定理により、決めた大きさの箱の中に $0$ でない格子点 $\alpha$ がある。箱を「1 つの埋め込みの方向にだけ長く、ほかの方向には短い」形にとると、$\alpha$ のその埋め込みでの値だけがほかの共役と離れ、$\alpha$ が $K$ を生成する。共役がすべて有界なので $\alpha$ の最小多項式の係数も有界で、そのような整数係数の多項式は有限個しかない。これが thm-hm-hermite の証明である。
thm-hm-main は、分岐する素イデアルが $S$ に限られることと、分岐の深さ(差積の指数)が次数だけで抑えられることから、$\lvert d_L\rvert$ が上から抑えられることに帰着する。

Hermite の定理の証明

共役が小さい原始元

共役が小さい原始元

$K$ を次数 $n$ の代数体、$D:=\lvert d_K\rvert$ とする。$\alpha\in\mathcal{O}_K$ で、$K=\mathbb{Q}(\alpha)$ であり、$K$ のすべての複素埋め込み $\tau$ について $\lvert\tau(\alpha)\rvert\le2^n\sqrt D$ となるものがある。

$(r_1,r_2)$ を $K$ の符号数とし、判別式(代数体) の記事の Minkowski 埋め込み $j\colon K\to\mathbb{R}^n$ を使う。$j(\mathcal{O}_K)$ は基本領域の体積 $2^{-r_2}\sqrt D$ の格子である(同記事の定理「整数環の格子としての体積」)。以下で、体積が $2^n\cdot2^{-r_2}\sqrt D$ の原点対称で有界な閉凸集合 $T\subset\mathbb{R}^n$ を作り、イデアル類群 の補題「格子に対する凸体定理」により $0$ でない $\alpha\in\mathcal{O}_K$ で $j(\alpha)\in T$ となるものをとる。
$r_1\ge1$ の場合. $\sigma_1$ を実埋め込みとし、$A:=2^{n-1}(2/\pi)^{r_2}\sqrt D$ として
$$ T:=\Bigl\{\lvert x_{\sigma_1}\rvert\le A,\ \ \lvert x_{\sigma_i}\rvert\le\tfrac12\ (2\le i\le r_1),\ \ \lvert z_{\tau_l}\rvert\le\tfrac12\ (1\le l\le r_2)\Bigr\} $$
とおく($x_{\sigma_i}$ は実の座標、$z_{\tau_l}=\operatorname{Re}+i\operatorname{Im}$ は複素の座標の組)。体積は $2A\cdot1^{r_1-1}\cdot(\pi/4)^{r_2}=2^n2^{-r_2}\sqrt D$ である。$\alpha$ の共役は $\lvert\sigma_1(\alpha)\rvert\le A$、ほかの埋め込み $\tau$ では $\lvert\tau(\alpha)\rvert\le\frac12$ を満たす(複素埋め込みの共役も絶対値が同じ)。$\alpha\ne0$ は代数的整数なので $\lvert N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)\rvert=\prod_\tau\lvert\tau(\alpha)\rvert$ は $1$ 以上の整数であり(代数体 の定理「ノルムとトレースは共役の積と和」)、$\lvert\sigma_1(\alpha)\rvert\ge2^{n-1}\ge1>\frac12$ である。よって $\sigma_1(\alpha)$ はほかのどの $\tau(\alpha)$ とも異なる。
$r_1=0$ の場合. $\tau_1$ を複素埋め込みとし、$B:=2^{n-1-r_2}(4/\pi)^{r_2-1}\sqrt D$ として
$$ T:=\Bigl\{\lvert\operatorname{Re}z_{\tau_1}\rvert\le\tfrac12,\ \lvert\operatorname{Im}z_{\tau_1}\rvert\le B,\ \ \lvert z_{\tau_l}\rvert\le\tfrac12\ (2\le l\le r_2)\Bigr\} $$
とおく。体積は $2B\cdot(\pi/4)^{r_2-1}=2^{n-r_2}\sqrt D$ である。ノルムは $\lvert\tau_1(\alpha)\rvert^2\prod_{l\ge2}\lvert\tau_l(\alpha)\rvert^2\ge1$ なので $\lvert\tau_1(\alpha)\rvert^2\ge4^{r_2-1}\ge1$ である。よって $\tau_1(\alpha)$ は絶対値が $\frac12$ 以下のほかの共役と異なり、$\lvert\operatorname{Re}\tau_1(\alpha)\rvert\le\frac12<1\le\lvert\tau_1(\alpha)\rvert$ から $\operatorname{Im}\tau_1(\alpha)\ne0$、すなわち $\tau_1(\alpha)\ne\overline{\tau_1(\alpha)}$ である。
原始元であること. どちらの場合も、ある埋め込み $\tau_0$ について $\tau_0(\alpha)$ はほかの $n-1$ 個の $\tau(\alpha)$ のどれとも異なる。$d$ を $\alpha$ の最小多項式 $f_\alpha$ の次数とすると、代数体 の定理「ノルムとトレースは共役の積と和」により $\prod_\tau(x-\tau(\alpha))=f_\alpha(x)^{n/d}$ なので、$f_\alpha$ の各根は重複度 $n/d$ で $\tau(\alpha)$ たちの中に現れる。$\tau_0(\alpha)$ は 1 回しか現れないので $n/d=1$、すなわち $[\mathbb{Q}(\alpha):\mathbb{Q}]=n$ で $K=\mathbb{Q}(\alpha)$ である。
共役の評価. $A\le2^{n-1}\sqrt D$ であり、$4/\pi<2$ から $B\le2^{n-2}\sqrt D$ なので $\lvert\tau_1(\alpha)\rvert\le\frac12+B$ である。$D\ge1$ なので、どの共役も絶対値が $2^n\sqrt D$ 以下である。$\square$

$\tau_0$ の方向にだけ長い箱を使うことがこの証明の要点である。Neu99 Chapter III, Theorem (2.13)(pp. 203–204)は、$\sqrt{-1}$ を添加して複素埋め込みだけの体に帰着させたうえで同じ形の箱を使っている。上の証明は実埋め込みがある場合を直接扱った。

定理の証明

判別式で次数を抑え、原始元の多項式を数える

次数の上界. $K$ を次数 $n\ge2$ の代数体とする。判別式(代数体) の定理「Minkowskiの判別式定理」と $(\pi/4)^{2r_2}\ge(\pi/4)^n$ から
$$ \lvert d_K\rvert\ge a_n^2,\qquad a_n:=\Bigl(\frac\pi4\Bigr)^{n/2}\frac{n^n}{n!} $$
である。同じ定理の証明にあるとおり $a_2=\pi/2$、$a_{n+1}/a_n\ge\sqrt\pi$ なので $a_n\ge(\pi/2)\pi^{(n-2)/2}\to\infty$ である。よって $\lvert d_K\rvert\le X$ なら $n$ はある $n_0(X)$ 以下である。
各次数での有限性. $n\le n_0(X)$ を固定し、$K\subset\mathbb{C}$ を次数 $n$、$\lvert d_K\rvert\le X$ の代数体とする。lem-hm-primitive の $\alpha$ をとり、$M:=2^n\sqrt X$ とおく。$\alpha$ の最小多項式は $f_\alpha(x)=\prod_\tau(x-\tau(\alpha))$ で整数係数であり(代数的整数 の命題「最小多項式による判定」)、$x^{n-k}$ の係数は $k$ 個の共役の積の和なので絶対値が $\binom nkM^k$ 以下である。このような整数係数の $n$ 次多項式は有限個しかなく、その複素数の根も有限個である。$K$ は $\mathbb{C}$ の部分体なので $\alpha\in K\subset\mathbb{C}$ はそのどれかの根であり、$K=\mathbb{Q}(\alpha)$ は $\alpha$ で決まる。よって $K$ は有限個である。$n=1$ では $K=\mathbb{Q}$ だけである。$\square$

Neu99 Chapter III, Theorem (2.16)(Hermite の定理、p. 206)は、Proposition (2.14)(pp. 204–206)の判別式の下界で次数を抑えて、(2.13) の証明から同じ結論を得ている。

Hermite–Minkowski の定理の証明

使う事実

相対拡大 $L/K$ の差積 $\mathfrak{D}_{L/K}$(差積と分岐 の定義「余差積と差積」)と、$\mathcal{O}_K$ のイデアルである相対判別式 $\mathfrak{d}_{L/K}$ について、次の 3 つを使う。どれもこの記事では証明しない。

  1. 差積の指数の上界. $\mathcal{O}_L$ の素イデアル $\mathfrak{P}$ が $\mathfrak{p}=\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K$ の上にあり、分岐指数が $e=e(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})$ なら、$\mathfrak{P}$ が $\mathfrak{D}_{L/K}$ を割る重複度 $s$ は $s\le e-1+v_{\mathfrak{P}}(e)$ を満たし、$\mathfrak{P}\mid\mathfrak{D}_{L/K}$ は $\mathfrak{P}$ の分岐と同値である(Neu99 Chapter III, Theorem (2.6)、p. 199。分岐との同値と下界 $s\ge e-1$ は 差積と分岐 の定理「Dedekindの判定法」「局所体の差積の指数」にもある)。
  2. 判別式は差積のノルム. $\mathfrak{d}_{L/K}=N_{L/K}(\mathfrak{D}_{L/K})$ である(Neu99 Chapter III, Theorem (2.9)、p. 201。$K=\mathbb{Q}$ の場合は 差積と分岐 の定理「差積と判別式」)。ここで $\mathcal{O}_L$ の素イデアル $\mathfrak{P}$ のノルムは $\mathfrak{p}^{f(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})}$ である。
  3. 判別式の推移律. $\mathbb{Q}\subset K\subset L$ について $d_L\mathbb{Z}=d_K^{[L:K]}\,N_{K/\mathbb{Q}}(\mathfrak{d}_{L/K})$ であり、とくに $\lvert d_L\rvert=\lvert d_K\rvert^{[L:K]}\,\mathrm{N}(\mathfrak{d}_{L/K})$ である(Neu99 Chapter III, Corollary (2.10)、p. 202。$\mathrm{N}(\mathfrak a):=\lvert\mathcal{O}_K/\mathfrak a\rvert$)。

証明

判別式の上界に帰着させる

$L$ を $K\subset L\subset\mathbb{C}$、$[L:K]=n$ で $S$ の外で不分岐な代数体とする。$\lvert d_L\rvert$ が $K,S,n$ だけで決まる数 $X$ 以下であることを示せば、thm-hm-hermite により $L$ は有限個である。
$\mathfrak{p}\notin S$ なら、$\mathfrak{p}$ の上の素イデアルはどれも分岐しないので、事実 1 によりどれも $\mathfrak{D}_{L/K}$ を割らず、事実 2 により $\mathfrak{p}$ は $\mathfrak{d}_{L/K}$ を割らない。
$\mathfrak{p}\in S$ とし、$\ell$ を $\mathfrak{p}$ の下の素数、$c:=n\bigl(1+n_K\log_2n\bigr)$ とおく。$\mathfrak{p}$ の上の素イデアル $\mathfrak{P}$ について $e_\mathfrak{P}:=e(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})$、$f_\mathfrak{P}:=f(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})$ と書く。$v_\mathfrak{P}$ を $\mathfrak{P}$ の付値とすると、整数 $e_\mathfrak{P}\le n$ について
$$ v_\mathfrak{P}(e_\mathfrak{P})=e(\mathfrak{P}\mid\ell)\,v_\ell(e_\mathfrak{P})\le e_\mathfrak{P}\,e(\mathfrak{p}\mid\ell)\log_2n\le e_\mathfrak{P}\,n_K\log_2n $$
である(分岐指数の乗法性。代数体における素イデアルの分解 の命題「分岐指数と剰余次数の乗法性」)。事実 1・2 と基本等式 $\sum_{\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p}}e_\mathfrak{P}f_\mathfrak{P}=n$(同記事の定理「基本等式」)から
$$ v_\mathfrak{p}(\mathfrak{d}_{L/K})=\sum_{\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p}}f_\mathfrak{P}\,v_\mathfrak{P}(\mathfrak{D}_{L/K})\le\sum_{\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p}}f_\mathfrak{P}\bigl(e_\mathfrak{P}-1+e_\mathfrak{P}n_K\log_2n\bigr)\le c $$
である。よって $\mathrm{N}(\mathfrak{d}_{L/K})\le\prod_{\mathfrak{p}\in S}\mathrm{N}(\mathfrak{p})^{c}$ で、事実 3 により
$$ \lvert d_L\rvert\le X:=\lvert d_K\rvert^n\prod_{\mathfrak{p}\in S}\mathrm{N}(\mathfrak{p})^{c} $$
である。$\square$

この筋道は Neu99 Chapter III, Theorem (2.13)(pp. 203–204)と同じで、同書は判別式が与えられた拡大の有限性に帰着させている。

判別式を割る素数がない

差積と分岐 の系「Dedekindの判別式定理」により、$d_L$ を割る素数は $L$ で分岐する。仮定からそのような素数はないので $\lvert d_L\rvert=1$ であり、判別式(代数体) の定理「Minkowskiの判別式定理」により $[L:\mathbb{Q}]=1$、すなわち $L=\mathbb{Q}$ である。$\square$

$K=\mathbb{Q}$ のとき、証明は具体的な評価 $\lvert d_L\rvert\le\prod_{\ell\in S}\ell^{\,n(1+\log_2n)}$ を与える。

例

$\{2,3\}$ の外で不分岐な 2 次体

$K=\mathbb{Q}$、$S=\{2,3\}$、$n=2$ とする。平方因子をもたない整数 $d\ne0,1$ について、2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ の判別式は $d\equiv1\pmod4$ なら $d$、そうでなければ $4d$ である(2次体 の定義「判別式」)。分岐する素数は判別式を割る素数なので(差積と分岐 の系「Dedekindの判別式定理」)、$\mathbb{Q}(\sqrt d)$ が $\{2,3\}$ の外で不分岐であることは、$d$ の素因数が $2,3$ だけであることと同値である。したがって条件を満たす 2 次体は
$$ \mathbb{Q}(\sqrt{-1}),\ \mathbb{Q}(\sqrt{\pm2}),\ \mathbb{Q}(\sqrt{\pm3}),\ \mathbb{Q}(\sqrt{\pm6}) $$
の 7 個である。判別式はそれぞれ $-4,\pm8,12,-3,\pm24$ で、上の評価 $\lvert d_L\rvert\le(2\cdot3)^{2(1+1)}=1296$ に収まる。

判別式が次数を抑える

thm-hm-hermite の証明の下界 $\lvert d_K\rvert\ge(\pi/4)^{2r_2}(n^n/n!)^2$ を、$r_2$ を最大にした(最も弱い)形で小数第 1 位まで並べる。

次数 $n$2345678
下界2.512.543.3258.0985.66266.925067.9

たとえば $\lvert d_K\rvert\le100$ なら $n\le4$、$\lvert d_K\rvert\le1000$ なら $n\le6$ である。$n=2$ の下界 $2.5$ から、2 次体の判別式の絶対値は $3$ 以上であり、$\mathbb{Q}(\sqrt{-3})$ で $3$ が実現する。$n=3$ では下界 $12.5$ に対して、$d_K=-23$ の 3 次体がある(判別式(代数体) の例「$d_K=-23$ の 3 次体」)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
次数 $n$ を固定する(thm-hm-main)$K=\mathbb{Q}$、$S=\{2\}$ で、$L_k=\mathbb{Q}(\zeta_{2^k})$($k=2,3,\dots$)有限性(無限個の $L_k$ がどれも $2$ の外で不分岐)
$S$ が有限(thm-hm-main)$K=\mathbb{Q}$、$n=2$、$S$ をすべての素数の集合として $\mathbb{Q}(\sqrt\ell)$($\ell$ は素数)有限性
基礎体が $\mathbb{Q}$(cor-hm-no-unramified)$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$、$L=K(i)$$L\ne K$ なのに $K$ のすべての素イデアルが $L$ で不分岐
反例の確認
各行の確認を開く
  1. 円分体 の定理「円分体における素数の分解」の 3 により、$\mathbb{Q}(\zeta_{2^k})$ で分岐する素数は $2$ だけである。次数 $\varphi(2^k)=2^{k-1}$ がすべて異なるので、体も互いに異なる。
  2. 相異なる素数 $\ell$ について $\mathbb{Q}(\sqrt\ell)$ は互いに異なる(代数体 の定理「2 次体の分類」で $d=\ell$ が体から決まる)。
  3. $\sqrt{-5}\cdot i=-\sqrt5$ なので $L=\mathbb{Q}(\sqrt{-5},i)$ は $\mathbb{Q}(i)$ と $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ を含む。$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ は $i$ を含まない(判別式 $-20$ と $-4$ が異なる)ので $[L:K]=2$ である。$L\subset\mathbb{Q}(\zeta_{20})$ なので、$L$ で分岐する素数は $2$ と $5$ だけである。$\mathfrak{P}$ を $L$ の素イデアル、$\mathfrak{p}:=\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K$ とする。$\mathfrak{P}$ が $5$ の上にあれば、$5$ は $\mathbb{Q}(i)$(判別式 $-4$)で不分岐で $[L:\mathbb{Q}(i)]=2$ なので $e(\mathfrak{P}\mid5)\le2$ であり、$5\mid d_K=-20$ より $e(\mathfrak{p}\mid5)=2$ だから、乗法性により $e(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})=1$ である。$\mathfrak{P}$ が $2$ の上にあれば、$\mathbb{Q}(\sqrt5)$(判別式 $5$)を使って同じ議論ができる。

3 行目の $L$ は $K$ の Hilbert 類体である(Hilbert類体 の例「$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の Hilbert 類体」)。一般の代数体は自明でない不分岐拡大をもちうるので、cor-hm-no-unramified は $\mathbb{Q}$ の特別な性質である。

補足

高次元の類似

thm-hm-main の「不分岐」を曲線の「良い還元」に置き換えると、「$S$ の外で良い還元をもつ種数 $g\ge2$ の曲線は同型を除いて有限個」という Shafarevich の予想になり、Faltings が証明して Faltingsの定理(Mordell 予想)の証明の基礎にした(Neu99 Chapter III, p. 207 の解説)。この記事では証明しない。

関連項目

参考文献

[1]
Jürgen Neukirch (translated by Norbert Schappacher), Algebraic Number Theory, Springer, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, 1999, Chapter III, §2:Theorem (2.6)(差積の指数と分岐、p. 199)、Theorem (2.9)(判別式は差積のノルム、p. 201)、Corollary (2.10)(判別式の推移律、p. 202)、Corollary (2.12)(判別式と分岐、p. 202)、Theorem (2.13)(分岐が制限された拡大の有限性、pp. 203–204)、Proposition (2.14)(判別式の下界、pp. 204–206)、Theorem (2.16)(Hermite の定理、p. 206)、Theorem (2.17)・(2.18)(Minkowski の定理と $\mathbb{Q}$ の不分岐拡大、p. 207)とその後の解説(p. 207)
[2]
Joseph H. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, Springer, 2009, 第 VIII 章 §1、Remark 1.7(弱 Mordell–Weil の定理の証明で、分岐が制限された拡大の有限性を使えること、p. 214)

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