Noetherスキーム(Noetherian scheme)とは、Noether 環のスペクトル有限個で覆えるスキーム、すなわち局所 Noether(各点が Noether 環 $A$ の $\operatorname{Spec}A$ に同型な開近傍をもつ)かつ準コンパクトなスキームである。局所 Noether スキームではすべてのアフィン開集合の環が Noether 環になり、この性質は開被覆の選び方によらない。Noetherスキームの底空間は閉集合の降鎖が止まる Noether 位相空間なので、既約成分は有限個で、Noether 帰納法が使える。$\mathbb{A}^n_k$ や $\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}$ は Noetherスキームである。底空間が Noether 位相空間でもスキームが Noether とは限らない。
Noether環 は「イデアルの昇鎖が必ず止まる」環であり、準素分解や Noether 局所環のKrull次元の有限性など、可換環論の多くの有限性の議論がこの条件の上に立っている。Noetherスキームは、この有限性をスキームへ持ち込んだものである。スキームはアフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ を貼り合わせて作るので、貼り合わせる環 $A$ がすべて Noether 環で、しかも有限個で済むことを要請する。体や $\mathbb{Z}$ の上の多項式環は Noether 環(Hilbert の基底定理)なので、代数幾何学で普通に現れる射影空間やアフィン空間、それらの中で有限個の多項式で定まる図形は、すべて Noetherスキームである。
この条件から、閉集合の降鎖が止まること(底空間が Noether 位相空間になること)、したがって既約成分が有限個しかないこと、「Noether 帰納法」で性質を示せることが従う。Noether 性は、はじめに選んだアフィン開被覆によらない性質であることも大事で、これは局所化と貼り合わせについての可換環論の補題から示される。
位相空間 $X$ が Noether 位相空間(Noetherian topological space)であるとは、閉集合の降鎖 $Z_1\supset Z_2\supset\cdots$ が必ず止まる、すなわちある $r$ があって $Z_r=Z_{r+1}=\cdots$ となることをいう。
位相空間 $X$ の部分集合 $W$ が既約(irreducible)であるとは、$W$ が空でなく、$W$ の閉集合 $F_1,F_2$(部分空間の位相で閉)について $W=F_1\cup F_2$ ならば $W=F_1$ または $W=F_2$ となることをいう。$X$ の既約な部分集合のうち、包含について極大なものを $X$ の既約成分(irreducible component)という。
既約な部分集合の閉包は既約であるから($\overline{W}=F_1\cup F_2$ なら $W=(W\cap F_1)\cup(W\cap F_2)$ で、たとえば $W\subset F_1$、よって $\overline{W}\subset F_1$)、既約成分は閉集合である。Noether 位相空間の定義は Vak25 3.6.14 にある。Noether 位相空間の条件は、次の「極小条件」と同値である:閉集合からなる空でない族 $\mathcal{S}$ は、包含について極小な元をもつ。実際、極小元がなければ $Z_1\in\mathcal{S}$ から始めて $Z_1\supsetneq Z_2\supsetneq\cdots$ と $\mathcal{S}$ の中で真に小さい元を選び続けられて降鎖が止まらない。逆に止まらない降鎖があれば、その項全体の族は極小元をもたない。
スキーム $X$ が局所 Noether(locally Noetherian)であるとは、$X$ の各点 $x$ が、Noether環 $A$ のスペクトル $\operatorname{Spec}A$ に同型な開近傍をもつことをいう。言い換えると、$X$ は Noether 環のスペクトルからなるアフィン開被覆 $X=\bigcup_i\operatorname{Spec}A_i$ をもつ。
$X$ が Noetherスキーム(Noetherian scheme)であるとは、$X$ が局所 Noether で、かつ位相空間として準コンパクト(任意の開被覆が有限部分被覆をもつ)であることをいう。これは、Noether 環 $A_1,\dots,A_n$ のスペクトル有限個で $X=\bigcup_{i=1}^n\operatorname{Spec}A_i$ と覆えることと同値である。
$X$ が局所 Noether かつ準コンパクトなら、各点の Noether 環のスペクトルの近傍からなる開被覆から有限個を選べる。逆に Noether 環のスペクトル有限個で覆えるなら、各 $\operatorname{Spec}A_i$ は準コンパクトなので(アフィンスキームの命題「素スペクトルの準コンパクト性」)、その有限個の和 $X$ も準コンパクトである。
この定義は スキーム の定義「スキームの基本的な形容詞」の「局所 Noether・Noether」と同じものであり、Vak25 5.3.4、Stacks Tag 01OV の定義とも一致する。
定義は「ある」アフィン開被覆の環が Noether であることを要求しているだけである。しかし実際には、局所 Noether スキームのすべてのアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ で $A$ が Noether 環になる(thm-nsch-affine)。したがってアフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ が局所 Noether であることと $A$ が Noether 環であることは同値であり、$\operatorname{Spec}A$ はいつも準コンパクトなので、これは $\operatorname{Spec}A$ が Noetherスキームであることとも同値である。
Noether 環の昇鎖条件は、スペクトルの側では閉集合の降鎖条件になる。$\operatorname{Spec}A$ の閉集合は $A$ の根基イデアルと包含を逆にして 1 対 1 に対応するからである。したがって Noetherスキームでは、閉集合を次々に小さくしていく操作は有限回で止まる。これが「有限個の既約成分に分かれる」「極小の反例をとる議論(Noether 帰納法)が使える」という有限性の源である。
一方、準コンパクト性は「有限個のアフィン開集合で済む」という大域的な有限性である。局所 Noether は各点の近くだけの条件なので、点の近くでは Noether 環の議論ができても、全体では無限個の部品に分かれうる。Noetherスキームは、局所的な有限性(環が Noether)と大域的な有限性(有限個で覆える)の両方をもつスキームである。
$A$ が Noether 環なら、$\operatorname{Spec}A$ は 1 つのアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ で覆われるので Noetherスキームである。たとえば $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$、体 $k$ の $\operatorname{Spec}k$(1 点)、離散付値環 $R$ の $\operatorname{Spec}R$(生成点と閉点の 2 点。$R=\mathbb{Z}_{(p)}$、$k[t]_{(t)}$ など)は Noetherスキームである。$\mathbb{Z}$ と離散付値環は単項イデアル整域で、すべてのイデアルが 1 元で生成されるので Noether 環である。
Hilbert の基底定理(Noether環 の定理「基底定理(Hilbert)」)により、Noether 環 $A$ 上の多項式環 $A[x_1,\dots,x_n]$ は Noether 環であり、その剰余環も Noether 環である。したがって $\mathbb{A}^n_k=\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]$、$\mathbb{A}^n_{\mathbb{Z}}=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x_1,\dots,x_n]$、および $\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_m)$ は Noetherスキームである。
$A$ を Noether 環とする。射影空間 $\mathbb{P}^n_A$ は、$i=0,\dots,n$ について $U_i\cong\operatorname{Spec}A[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]$($x_i/x_i=1$ を除いた $n$ 変数の多項式環)を貼り合わせたスキームである(スキーム の例「射影空間の貼り合わせ」)。各 $U_i$ の環は Noether 環なので、$\mathbb{P}^n_A$ は $n+1$ 個の Noether 環のスペクトルで覆われる Noetherスキームである。とくに $\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}$ と $\mathbb{P}^n_k$ は Noetherスキームである。より一般に、Noetherスキーム上の有限型射の定義域は Noetherスキームである(有限型射 の系「有限型スキームの Noether 性」)。
条件を 1 つ外したときの反例を並べる。各行の確かめは表の下にある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 環が Noether(準コンパクトは満たす) | $\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\dots]$ | Noetherスキームであること、底空間の降鎖条件 |
| 準コンパクト(局所 Noether は満たす) | 可算個の $\operatorname{Spec}k$ の非交和 | Noetherスキームであること、既約成分が有限個であること |
| 環が Noether(底空間は Noether 位相空間) | $\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\dots]/\mathfrak{m}^2$ | 「底空間が Noether ならスキームも Noether」という含意 |
$k$ を体、$A:=k[x_1,x_2,\dots]$(可算無限個の変数の多項式環)、$X:=\operatorname{Spec}A$ とする。$X$ はアフィンなので準コンパクトである。
$A$ は Noether 環でない。イデアルの昇鎖 $(x_1)\subset(x_1,x_2)\subset\cdots$ で $x_{n+1}\notin(x_1,\dots,x_n)$ だからである($x_1,\dots,x_n$ に $0$ を代入する環準同型 $A\to k[x_{n+1},x_{n+2},\dots]$ は $(x_1,\dots,x_n)$ を $0$ に送るが、$x_{n+1}$ を $0$ に送らない)。thm-nsch-affine により、局所 Noether スキームのアフィン開集合の環は Noether 環であるから、$X$ は局所 Noether でなく、したがって Noetherスキームでもない。
底空間も Noether 位相空間でない。$\mathfrak{p}_n:=(x_1,\dots,x_n)$ とおくと、閉集合の降鎖 $V(\mathfrak{p}_1)\supsetneq V(\mathfrak{p}_2)\supsetneq\cdots$ が止まらない。
$\mathfrak{p}_n$ は、剰余環 $A/\mathfrak{p}_n\cong k[x_{n+1},x_{n+2},\dots]$ が整域なので素イデアルである。$\mathfrak{p}_n\in V(\mathfrak{p}_n)$ だが $x_{n+1}\notin\mathfrak{p}_n$ より $\mathfrak{p}_n\notin V(\mathfrak{p}_{n+1})$ なので、包含はすべて真である。
$k$ を体とし、$X:=\coprod_{n\in\mathbb{N}}\operatorname{Spec}k$(1 点のスキームの可算個の非交和。位相空間としては可算個の点からなる離散空間で、各点で構造層は $k$)とする。各点 $\{x_n\}$ は開集合で $\operatorname{Spec}k$ に同型であり、$k$ は Noether 環なので、$X$ は局所 Noether である。
$X$ は準コンパクトでない。開被覆 $\{\{x_n\}\}_{n\in\mathbb{N}}$ から有限個を選んでも、有限個の点しか覆えないからである。よって $X$ は Noetherスキームでない。
$X$ の既約成分は 1 点集合 $\{x_n\}$ の全体で、無限個ある。実際、1 点集合は既約であり、2 点以上を含む部分集合 $W$ は、$x\in W$ について $W=\{x\}\cup(W\setminus\{x\})$ と 2 つの真の閉集合(離散空間なのですべての部分集合が閉)の和になるので既約でない。Noetherスキームなら既約成分は有限個である(cor-nsch-components)から、準コンパクト性を外すとこの結論が崩れる。
$k$ を体、$B:=k[x_1,x_2,\dots]$、$\mathfrak{m}:=(x_1,x_2,\dots)\subset B$、$A:=B/\mathfrak{m}^2$ とし、$\mathfrak{m}$ の像を $\bar{\mathfrak{m}}$ と書く。
$\operatorname{Spec}A$ は 1 点である。$\bar{\mathfrak{m}}^2=0$ なので $\bar{\mathfrak{m}}$ の元はすべて冪零元であり、すべての素イデアルに含まれる。一方 $A/\bar{\mathfrak{m}}\cong k$ は体なので $\bar{\mathfrak{m}}$ は極大イデアルである。よって素イデアルは $\bar{\mathfrak{m}}$ だけで、底空間は 1 点、とくに Noether 位相空間である。
しかし $A$ は Noether 環でない。イデアルの昇鎖 $(x_1)\subsetneq(x_1,x_2)\subsetneq\cdots$ が止まらないからである。thm-nsch-affine により $\operatorname{Spec}A$ は局所 Noether でない。
$\bar{\mathfrak{m}}^2=0$ なので、$a\in A$ を $a=c+m$($c\in k$、$m\in\bar{\mathfrak{m}}$)と書くと $ax_i=cx_i$ であり、イデアル $(x_1,\dots,x_n)$ は $k$ 上のベクトル空間として $x_1,\dots,x_n$ で張られる。$A$ の元は $k$ 上 $1,x_1,x_2,\dots$ の 1 次結合としてただ 1 通りに書ける($B$ の 2 次以上の単項式が $\mathfrak{m}^2$ の $k$ 基底をなすから)ので、$x_{n+1}\notin(x_1,\dots,x_n)$ である。
定義はアフィン開被覆を 1 つ選んで述べたが、Noether 性はその選び方によらない。鍵は、環の Noether 性が「単位イデアルを生成する有限個の元による局所化」で判定できることである。
$A$ を可換環とする。
1 は Noether環 の命題「局所化への遺伝」である。
2 の要点:イデアル $I\subset A$ の各局所化 $I_{f_i}$ の有限個の生成元を $I$ から選び、それらが生成するイデアル $I'$ をとる。$a\in I$ について、ある $N$ で $f_i^Na\in I'$(すべての $i$)となり、$(f_1^N,\dots,f_n^N)=A$ から $1=\sum_ic_if_i^N$ と書けるので $a=\sum_ic_i(f_i^Na)\in I'$ となる。よって $I=I'$ は有限生成である。
Noether 環であることは、すべてのイデアルが有限生成であることと同値である(Noether環 の命題「Noether環の同値条件」)。$I\subset A$ をイデアルとする。$I_{f_i}:=\{a/f_i^m\mid a\in I,\ m\ge0\}$ は $A_{f_i}$ のイデアルなので有限生成であり、生成元の分母は $A_{f_i}$ の単元だから、生成元は $a_{i1}/1,\dots,a_{ir_i}/1$($a_{ij}\in I$)の形にとれる。すべての $a_{ij}$ で生成される $A$ のイデアルを $I'$ とすると、$I'\subset I$ である。
$a\in I$ をとる。各 $i$ で $a/1\in I_{f_i}$ なので、$a/1=\sum_j(c_j/f_i^{m})(a_{ij}/1)$($c_j\in A$、分母を共通の $f_i^m$ にそろえた)と書ける。局所化の定義により、ある $M$ について $f_i^M\bigl(f_i^ma-\sum_jc_ja_{ij}\bigr)=0$ が $A$ で成り立つ。よって $f_i^{M+m}a=\sum_jf_i^Mc_ja_{ij}\in I'$ であり、$N_i:=M+m$ とおく。
$N:=\max_iN_i$ とおくと、すべての $i$ で $f_i^Na\in I'$ である。ここで $(f_1^N,\dots,f_n^N)=A$ である。実際、そうでなければこのイデアルはある極大イデアル $\mathfrak{m}$ に含まれ、$\mathfrak{m}$ は素イデアルなので $f_i^N\in\mathfrak{m}$ から $f_i\in\mathfrak{m}$($i=1,\dots,n$)となり、$(f_1,\dots,f_n)=A$ に反する。そこで $1=\sum_ic_if_i^N$($c_i\in A$)と書くと $$a=\sum_{i=1}^nc_i\,(f_i^Na)\in I'$$ となる。よって $I=I'$ は有限個の元 $a_{ij}$ で生成される。$\square$
次の補題は、2 つのアフィン開集合の共通部分が、両方の側から見て「基本開集合」であるような開集合で覆えることを述べる。点 $\mathfrak{p}\in\operatorname{Spec}A$ が基本開集合 $D(a)=\{\mathfrak{p}\mid a\notin\mathfrak{p}\}$ に属するかは、$a$ の芽が茎 $A_{\mathfrak{p}}$ の極大イデアルに入らないかで決まることを使う。
スキーム $X$ のアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$、$V\cong\operatorname{Spec}B$ と点 $x\in U\cap V$ について、$h\in A$ と $g\in B$ で、$X$ の開集合として
$$
x\in D_A(h)=D_B(g)\subset U\cap V
$$
となるものが存在する。とくに $W:=D_A(h)$ について $\mathcal{O}_X(W)\cong A_h\cong B_g$ である。
図式で書くと次のとおりである(矢印はすべて開埋め込み)。
$$
\xymatrix{
& W \ar@{_{(}->}[dl] \ar@{^{(}->}[dr] & \\
U\cong\operatorname{Spec}A \ar@{^{(}->}[dr] & & V\cong\operatorname{Spec}B \ar@{_{(}->}[dl] \\
& X &
}
$$
$W$ は $U$ の中では $h$ で、$V$ の中では $g$ で切り出される基本開集合であり、$\mathcal{O}_X(W)$ は $A_h$ とも $B_g$ とも同型である。この補題は Vak25 5.3.1 にある。
要点:まず $U$ の基本開集合 $D_A(f)\subset U\cap V$ をとり、その中に $V$ の基本開集合 $D_B(g)$ をとる。$g$ を $D_A(f)$ に制限した元を $a/f^m$ と書けば、$D_B(g)=D_A(fa)$ となる。
$U\cap V$ は $U$ の開集合で、基本開集合は開基をなす(アフィンスキーム の命題「Zariski位相の基本性質」)ので、$x\in D_A(f)\subset U\cap V$ となる $f\in A$ がある。$D_A(f)$ は $V$ の開集合でもあるので、同様に $x\in D_B(g)\subset D_A(f)$ となる $g\in B$ がある。
$g$ を $D_A(f)$ に制限した切断を $g'\in\mathcal{O}_X(D_A(f))\cong A_f$ とする。$D_A(f)$ の点 $y$ について、$y\in D_B(g)$ は「$g$ の $y$ での芽が茎 $\mathcal{O}_{X,y}$ の極大イデアルに入らない」ことと同値であり、$g$ と $g'$ の芽は同じなので、これは $y\in D_{A_f}(g')$ と同値である。$D_B(g)\subset D_A(f)$ なので $D_B(g)=D_{A_f}(g')$ である。
$g'=a/f^m$($a\in A$)と書くと、$f$ は $A_f$ の単元なので $D_{A_f}(g')=D_{A_f}(a/1)$ であり、これを $\operatorname{Spec}A$ の部分集合とみると $D_A(f)\cap D_A(a)=D_A(fa)$ である。$h:=fa$ とおけば $D_A(h)=D_B(g)$ である。最後の同型は、アフィンスキームの基本開集合 $D(h)$ 上の切断が局所化 $A_h$ であること(アフィンスキーム の定理「基本開集合の上の切断」)による。$\square$
$X$ を局所 Noether スキームとする。$X$ の任意のアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$ について、$A$ は Noether 環である。
$\mathfrak{p}\in U$ を任意にとる。局所 Noether の定義により、$\mathfrak{p}$ は Noether 環 $B$ のスペクトルに同型な開近傍 $V$ をもつ。lem-nsch-common-basic-open により、$h\in A$、$g\in B$ で $\mathfrak{p}\in D_A(h)=D_B(g)$ かつ $A_h\cong B_g$ となるものがある。$B$ は Noether 環なので $B_g$ は Noether 環であり(lem-nsch-local-ring の 1)、したがって $A_h$ も Noether 環である。
こうして $U$ の各点 $\mathfrak{p}$ に対し、$\mathfrak{p}\in D_A(h_{\mathfrak{p}})$ かつ $A_{h_{\mathfrak{p}}}$ が Noether 環となる $h_{\mathfrak{p}}\in A$ がとれた。$\operatorname{Spec}A$ は準コンパクトなので、有限個の $h_1,\dots,h_n$ で $\operatorname{Spec}A=D(h_1)\cup\cdots\cup D(h_n)$ となる。これは $h_1,\dots,h_n$ をすべて含む素イデアルがないことを意味するので、$(h_1,\dots,h_n)=A$ である(そうでなければこのイデアルを含む極大イデアルがある)。lem-nsch-local-ring の 2 により、$A$ は Noether 環である。$\square$
この定理と次の系は Vak25 5.3.2–5.3.3(アフィン開集合の間の「通信の補題」、Affine Communication Lemma)と Stacks Tag 01OW にある。証明の骨組みは、ある性質 $P$ について「$\operatorname{Spec}A$ が $P$ なら $\operatorname{Spec}A_f$ も $P$」と「$(f_1,\dots,f_n)=A$ で各 $\operatorname{Spec}A_{f_i}$ が $P$ なら $\operatorname{Spec}A$ も $P$」の 2 つを示せば、$P$ がアフィン開被覆の選び方によらないというものであり、被約性や有限型性にも同じ形で使われる。
スキーム $X$ について、次は同値である。
(R1) $X$ は局所 Noether である。
(R2) $X$ のすべてのアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ で $A$ は Noether 環である。
(R3) $X$ のあるアフィン開被覆 $X=\bigcup_i\operatorname{Spec}A_i$ で、すべての $A_i$ が Noether 環である。
とくに、アフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ が局所 Noether であるための必要十分条件は $A$ が Noether 環であることであり、局所 Noether スキームの開部分スキームは局所 Noether である。
条件 (i) から (ii) は thm-nsch-affine、(ii) から (iii) はスキームがアフィン開被覆をもつこと、(iii) から (i) は定義そのものである。$\operatorname{Spec}A$ 自身はアフィン開集合なので、(ii) からアフィンの場合の主張が従う。開部分スキーム $U\subset X$ については、$U$ に含まれる $X$ のアフィン開集合が $U$ を覆い(スキーム の命題「開部分スキームはスキームである」)、それらの環は (ii) により Noether 環なので、$U$ は条件 (iii) をみたす。$\square$
$X$ を位相空間とする。
要点:1 は $Y$ の閉集合の降鎖をその閉包の降鎖に持ち上げ、2 は各 $Y_i$ への制限が止まる番号の最大をとり、3 は極小条件で「覆い残し」の極小元が空であることを示す。
1.$Y$ の閉集合の降鎖 $F_1\supset F_2\supset\cdots$ をとる。$X$ での閉包 $\overline{F_j}$ は $X$ の閉集合の降鎖なので、ある $r$ 以降一定である。$F_j$ は $Y$ で閉なので $F_j=Y\cap\overline{F_j}$ であり、したがって $F_j$ も $r$ 以降一定である。
2.$X$ の閉集合の降鎖 $Z_1\supset Z_2\supset\cdots$ をとる。各 $i$ で $Z_j\cap Y_i$ は $Y_i$ の閉集合の降鎖なので、ある $r_i$ 以降一定である。$r:=\max_ir_i$ とおくと、$j\ge r$ で $Z_j=\bigcup_i(Z_j\cap Y_i)$ は一定である。
3.1 により、Noether 位相空間 $Y$ 自身が準コンパクトであることを示せばよい。$Y$ の開被覆 $\{U_\alpha\}$ をとり、有限個の $U_{\alpha_1},\dots,U_{\alpha_m}$ について $Y\setminus(U_{\alpha_1}\cup\cdots\cup U_{\alpha_m})$ の形の閉集合の族を考える。極小条件(定義の直後で述べた)により、この族には極小元 $F=Y\setminus(U_{\alpha_1}\cup\cdots\cup U_{\alpha_m})$ がある。$F\neq\emptyset$ なら、$y\in F$ を含む $U_\beta$ をとると $F\setminus U_\beta$ は族の元で $F$ より真に小さく、極小性に反する。よって $F=\emptyset$ であり、$U_{\alpha_1},\dots,U_{\alpha_m}$ が $Y$ を覆う。$\square$
1.$\operatorname{Spec}A$ の閉集合は $V(I)$($I$ はイデアル)の形であり、$V(I)=V(\sqrt{I})$ なので根基イデアル $I=\sqrt{I}$ で表せる。根基イデアル $I,J$ について、$V(I)\supset V(J)$ は $I=\sqrt{I}\subset\sqrt{J}=J$ と同値である(アフィンスキーム の命題「Zariski位相の基本性質」の 4。Zariski位相 の命題「イデアルと閉集合の対応」も参照)。したがって閉集合の降鎖 $V(I_1)\supset V(I_2)\supset\cdots$($I_j$ は根基イデアル)はイデアルの昇鎖 $I_1\subset I_2\subset\cdots$ に対応し、$A$ は Noether 環なので昇鎖はある $r$ 以降一定である。よって $V(I_j)$ も $r$ 以降一定である。
2.$X$ は Noether 環のスペクトル有限個 $\operatorname{Spec}A_1,\dots,\operatorname{Spec}A_n$ で覆われる。各 $\operatorname{Spec}A_i$ は 1 により Noether 位相空間なので、lem-nsch-noetherian-space の 2 により $X$ は Noether 位相空間である。
3.thm-nsch-affine により $X$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の環 $A$ は Noether 環なので、1 により $\operatorname{Spec}A$ は Noether 位相空間である。各点はアフィン開近傍をもつ。$\square$
局所 Noether スキーム全体の底空間は Noether 位相空間とは限らない。ex-nsch-disjoint-union の無限個の点の非交和では、$Z_n:=\{x_n,x_{n+1},\dots\}$ が止まらない閉集合の降鎖である。
Noether 位相空間では、閉集合についての性質を「極小の反例」をとって示すことができる。これを Noether 帰納法(Noetherian induction)という。
$X$ を Noether 位相空間とし、$P$ を $X$ の閉集合についての性質とする。$X$ の任意の閉集合 $Z$ について「$Z$ に真に含まれるすべての閉集合が $P$ をみたすならば $Z$ も $P$ をみたす」が成り立つとする。このとき $X$ のすべての閉集合が $P$ をみたす。
$P$ をみたさない閉集合の族 $\mathcal{S}$ が空でないとすると、極小条件により極小元 $Z\in\mathcal{S}$ がある。$Z$ に真に含まれる閉集合は $\mathcal{S}$ に属さない、すなわち $P$ をみたすので、仮定により $Z$ も $P$ をみたす。これは $Z\in\mathcal{S}$ に反する。$\square$
$X$ を Noether 位相空間(たとえば Noetherスキームの底空間)とし、$Z\subset X$ を空でない閉集合とする。
まず、既約な部分集合 $W$ が閉集合 $F_1,\dots,F_m$ の和に含まれるなら、ある $i$ で $W\subset F_i$ であることに注意する。実際 $W=\bigcup_i(W\cap F_i)$ は $W$ の閉集合の有限和であり、既約の定義(2 つの閉集合の場合)を $m$ についての帰納法で使うと、ある $i$ で $W=W\cap F_i$ となる。
1.性質 $P(Z)$ を「$Z$ は空であるか、有限個の既約閉集合の和である」として、prop-nsch-induction を使う。$Z$ が空か既約なら $P(Z)$ は明らかであり、そうでなければ $Z$ は真に小さい 2 つの閉集合の和なので、それらが $P$ をみたせば $Z$ もみたす。
$Z$ に真に含まれる閉集合がすべて $P$ をみたすとする。$Z$ が空でも既約でもなければ、$Z=F_1\cup F_2$($F_1,F_2$ は $Z$ に真に含まれる閉集合)と書け、$F_1,F_2$ はそれぞれ有限個の既約閉集合の和なので、$Z$ もそうである。よって Noether 帰納法によりすべての閉集合が $P$ をみたす。表示の中でほかの項に含まれる項を取り除けば、1 の形の表示が得られる。
$X$ を局所 Noether スキームとし、$Y$ を $X$ の開部分スキームまたは閉部分スキームとする。このとき $Y$ は局所 Noether である。$X$ が Noetherスキームなら $Y$ も Noetherスキームである。
開部分スキームについての前半は cor-nsch-affine-local で示した。
閉部分スキームを閉埋め込み $i\colon Y\to X$ で表す。$X$ のアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$ をとると、$i^{-1}(U)\to U$ はアフィンスキームへの閉埋め込みであり、あるイデアル $I\subset A$ による $\operatorname{Spec}A/I\to\operatorname{Spec}A$ と同一視できる(Stacks Tag 01IH。スキーム の定義「開部分スキームと閉部分スキーム」でも述べられている)。thm-nsch-affine により $A$ は Noether 環であり、その剰余環 $A/I$ も Noether 環である(Noether環 の命題「剰余環への遺伝」)。$U$ が $X$ のアフィン開被覆を動くとき $i^{-1}(U)\cong\operatorname{Spec}A/I$ は $Y$ を覆うので、$Y$ は局所 Noether である。
$X$ が Noetherスキームのとき、thm-nsch-noetherian-space の 2 により底空間 $X$ は Noether 位相空間であり、lem-nsch-noetherian-space の 3 により $X$ の任意の部分集合は準コンパクトである。開部分スキームの底空間は $X$ の部分集合、閉部分スキームの底空間は $X$ の閉集合に同相なので、どちらも準コンパクトである。前半と合わせて $Y$ は Noetherスキームである。$\square$
同じ理由で、Noetherスキームの任意の開集合は準コンパクトであり、Noetherスキームから任意のスキームへの射は準コンパクト(任意の開集合の逆像が準コンパクト)である。一般のスキームでは開集合は準コンパクトとは限らない。たとえば $\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\dots]$ から点 $(x_1,x_2,\dots)$ を除いた開集合は $D(x_1)\cup D(x_2)\cup\cdots$ に等しいが、そのうちのどの有限個の和も、ある $n$ について $D(x_1)\cup\cdots\cup D(x_n)$ に含まれ、これは開集合に属する点 $(x_1,\dots,x_n)$ を含まないので、この開被覆は有限部分被覆をもたない。
Noether 性に関係する条件を並べる。
| 条件 | $X=\operatorname{Spec}A$ のとき | 一般の $X$ での関係 |
|---|---|---|
| 局所 Noether | $A$ が Noether 環 | 各点の近くの条件。準コンパクトとは限らない(ex-nsch-disjoint-union) |
| Noether | $A$ が Noether 環 | 局所 Noether かつ準コンパクト。底空間は Noether 位相空間(thm-nsch-noetherian-space) |
| 底空間が Noether 位相空間 | $A$ の根基イデアルの昇鎖条件 | Noether を導かない(ex-nsch-one-point) |
| $\Gamma(X,\mathcal{O}_X)$ が Noether 環 | $A$ が Noether 環 | Noetherスキームでも成り立つとは限らない(rem-nsch-global-sections) |
アフィンスキームでは「Noetherスキーム」と「大域切断の環 $\Gamma(X,\mathcal{O}_X)=A$ が Noether 環」は同値だが、一般のスキームではそうではない。体上の代数多様体(したがって Noetherスキーム)で、大域切断の環が Noether 環でない例がある(Vak25 5.3.5 と Exercise 19.11.H。楕円曲線上の 2 つの直線束の和の全空間を使う構成で、この記事では証明しない)。Noether 性は大域切断の環の条件ではなく、アフィン開集合ごとの環の条件である。
代数幾何学の多くの基本定理は、Noetherスキーム(または局所 Noether スキーム)の上で述べられる。
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