Fagnanoの問題(Fagnano's problem)とは、三角形 $ABC$ の 3 辺の上に 1 つずつ頂点をもつ内接三角形のうち、周の長さが最小のものを求める問題である。鋭角三角形では、答えは 3 本の垂線の足を結ぶ垂足三角形ただ 1 つで、最小値は $a\cos A+b\cos B+c\cos C=\frac{2S}{R}$($S$ は面積、$R$ は外接円の半径)である。辺 $BC$ の上の点 $D$ を辺 $AB$、$AC$ で折り返した 2 点を結ぶ線分の長さ $2AD\sin A$ が周の下限になり、それが最小になるのは $D$ が垂線の足のときである。垂心は垂足三角形の内心で、垂足三角形は内側で 3 回反射して元にもどる光の道筋になる。$A\ge90^\circ$ の三角形では、つぶれていない内接三角形の周は $2h_a$ より大きく、最小のものはない。
前提知識: 対称点と折れ線の最短, 三角形の垂心, 三角形の相似条件, 正弦定理(高校数学), 加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く
三角形 $ABC$ の辺 $BC$、$CA$、$AB$ の上に 1 つずつ点 $D$、$E$、$F$ をとり、三角形 $DEF$ を作る。このような三角形を三角形 $ABC$ に 内接する三角形 という。3 点の選び方で、周の長さ $DE+EF+FD$ は変わる。周がいちばん短くなるのは、どんな三角形だろうか。
これを Fagnano の問題 という(18 世紀に Fagnano が考えた)。まず正三角形で数を比べる。
$A(1,\sqrt3)$、$B(0,0)$、$C(2,0)$ は 1 辺 $2$ の正三角形である。
(1) 3 辺の中点 $D(1,0)$、$E\left(\dfrac32,\dfrac{\sqrt3}2\right)$、$F\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ をとる。中点連結定理から各辺は $1$ で、周は $3$ である。
(2) $E$、$F$ は中点のまま、$D$ を $\left(\dfrac12,0\right)$ にずらす。
$$
DE=\sqrt{1^2+\left(\frac{\sqrt3}2\right)^2}=\frac{\sqrt7}2,\qquad EF=1,\qquad FD=\frac{\sqrt3}2
$$
で、周は $1+\dfrac{\sqrt3+\sqrt7}2\approx3.189$ である。
(3) $D(1,0)$ とし、$E$、$F$ をどちらも頂点 $A$ まで動かすと、「三角形」はつぶれて線分 $DA$ を往復する形になり、周は $2DA=2\sqrt3\approx3.464$ である。
どれも、(1) の中点三角形の $3$ より長い。正三角形では、中点三角形の頂点は各頂点から対辺に下ろした垂線の足でもある。
13, 14, 15 の三角形で、赤の三角形は 3 本の垂線の足を結ぶ垂足三角形、青の三角形はほかの内接三角形である。赤の周は 1344/65≈20.68、青の周はそれより長い
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 対称点を使う折れ線の最短 | $D$ を 2 辺で折り返す | 鏡映 |
| 垂線の足、$AE=c\cos A$ | 垂足三角形、$EF=a\cos A$ | 相似比 $\cos A$ |
| 入射角=反射角 | 垂線が垂足三角形の角を 2 等分する | ビリヤードの周期軌道 |
| 周の最小値 | $\dfrac{2S}R$ | 変分問題の最小 |
鋭角三角形 $ABC$ の頂点 $A$、$B$、$C$ から、それぞれ対辺 $BC$、$CA$、$AB$ に下ろした垂線の足を $D_0$、$E_0$、$F_0$ とする。三角形 $D_0E_0F_0$ を三角形 $ABC$ の 垂足三角形 という。3 本の垂線は 1 点 $H$(垂心)で交わる(三角形の垂心)。
鋭角三角形では、垂線の足は辺の端点以外の点にある。たとえば $D_0$ について、$BD_0=c\cos B$、$CD_0=b\cos C$ で、$B$、$C$ が鋭角なのでどちらも正であり、$c\cos B+b\cos C=a$(三角形の射影定理)なので、$D_0$ は辺 $BC$ を $c\cos B:b\cos C$ に内分する点である。よって垂足三角形は内接三角形の 1 つである。
鋭角三角形 $ABC$ の垂足三角形 $D_0E_0F_0$ について、
$$
E_0F_0=a\cos A,\qquad F_0D_0=b\cos B,\qquad D_0E_0=c\cos C
$$
である。さらに、三角形 $AE_0F_0$ は三角形 $ABC$ と相似($E_0$ と $B$、$F_0$ と $C$ が対応)で、$\angle AF_0E_0=C$、$\angle AE_0F_0=B$ である。
段 1($A$ から足までの長さ)。三角形 $ABE_0$ は $E_0$ の角が直角の直角三角形で、$E_0$ は辺 $CA$ の上にあるので $\angle BAE_0=A$ である。よって $AE_0=AB\cos A=c\cos A$ である。同じく三角形 $ACF_0$ から $AF_0=b\cos A$ である。
段 2(相似)。三角形 $AE_0F_0$ と三角形 $ABC$ で、
$$
\frac{AE_0}{AB}=\frac{c\cos A}c=\cos A,\qquad \frac{AF_0}{AC}=\frac{b\cos A}b=\cos A
$$
で、間の角 $\angle E_0AF_0=\angle BAC$ は共通である。2 辺の比とその間の角が等しいので、三角形 $AE_0F_0$ と三角形 $ABC$ は相似で、相似比は $\cos A$ である(三角形の相似条件)。対応する辺から $E_0F_0=BC\cos A=a\cos A$、対応する角から $\angle AF_0E_0=\angle ACB=C$、$\angle AE_0F_0=\angle ABC=B$ である。
段 3(残りの 2 辺)。頂点 $B$、$C$ で段 1・段 2 と同じことをすると、三角形 $BF_0D_0$ は三角形 $BCA$ と相似比 $\cos B$ で相似で $F_0D_0=b\cos B$、三角形 $CD_0E_0$ は三角形 $CAB$ と相似比 $\cos C$ で相似で $D_0E_0=c\cos C$ である。$\square$
$B(0,0)$、$C(14,0)$、$A(5,12)$ とする。$a=14$、$b=15$、$c=13$ で、余弦定理から $\cos A=\dfrac{33}{65}$、$\cos B=\dfrac5{13}$、$\cos C=\dfrac35$ はすべて正なので、鋭角三角形である。面積は $S=\dfrac12\cdot14\cdot12=84$、外接円の半径は $R=\dfrac{abc}{4S}=\dfrac{65}8$ である。
垂線の足は $D_0(5,0)$、$E_0\left(\dfrac{224}{25},\dfrac{168}{25}\right)$、$F_0\left(\dfrac{350}{169},\dfrac{840}{169}\right)$ である。lem-fag-sides から
$$
E_0F_0=14\cdot\frac{33}{65}=\frac{462}{65},\qquad F_0D_0=15\cdot\frac5{13}=\frac{75}{13},\qquad D_0E_0=13\cdot\frac35=\frac{39}5
$$
である。座標でも、$D_0E_0=\sqrt{\left(\dfrac{99}{25}\right)^2+\left(\dfrac{168}{25}\right)^2}=\dfrac{\sqrt{38025}}{25}=\dfrac{195}{25}=\dfrac{39}5$、$F_0D_0=\sqrt{\left(\dfrac{495}{169}\right)^2+\left(\dfrac{840}{169}\right)^2}=\dfrac{\sqrt{950625}}{169}=\dfrac{975}{169}=\dfrac{75}{13}$ と一致する。周は
$$
\frac{462}{65}+\frac{375}{65}+\frac{507}{65}=\frac{1344}{65}\approx20.677
$$
である。
$D_0$ は $A(5,12)$ から $x$ 軸に下ろした足なので $(5,0)$ である。$E_0$ は $B$ から直線 $CA$ に下ろした足で、$\overrightarrow{CA}=(-9,12)$ の向きの直線 $C+t(-9,12)$ の上の点のうち、$\overrightarrow{BE_0}\cdot(-9,12)=0$ となるものである。$(14-9t)(-9)+12t\cdot12=0$ から $t=\dfrac{126}{225}=\dfrac{14}{25}$ で、$E_0=\left(14-\dfrac{126}{25},\dfrac{168}{25}\right)=\left(\dfrac{224}{25},\dfrac{168}{25}\right)$ である。$F_0$ は $C$ から直線 $AB$ に下ろした足で、$F_0=s(5,12)$ とおくと $(5s-14)\cdot5+12s\cdot12=0$ から $s=\dfrac{70}{169}$、$F_0=\left(\dfrac{350}{169},\dfrac{840}{169}\right)$ である。
証明は 2 段階で進む(Fejér の方法)。まず辺 $BC$ の上の点 $D$ を 1 つ固定し、$E$、$F$ を動かしたときの最小を、対称点と折れ線の最短 と同じ折り返しで求める。次に $D$ を動かす。
三角形 $ABC$ で $A<90^\circ$ とし、辺 $BC$ の上の点 $D$ を 1 つ固定する。$D$ を直線 $AB$、$AC$ に関して折り返した点を $D_1$、$D_2$ とする。辺 $AB$ の上のどの点 $F$、辺 $CA$ の上のどの点 $E$ についても
$$
DE+EF+FD\ge D_1D_2=2\,AD\sin A
$$
である。
方針:$FD$ と $ED$ を折り返した点までの長さに置きかえて 1 本の折れ線にし、両端の距離 $D_1D_2$ を二等辺三角形で計算する。
段 1(折れ線にする)。$F$ は直線 $AB$ の上にあるので、直線上の点から対称点までの距離は変わらず $FD=FD_1$ である(対称点と折れ線の最短 の補題)。同じく $E$ は直線 $AC$ の上にあるので $ED=ED_2$ である。よって
$$
DE+EF+FD=D_2E+EF+FD_1
$$
で、右辺は折れ線 $D_2\to E\to F\to D_1$ の長さである。3 点の三角不等式 $XY+YZ\ge XZ$ を 2 回使うと $D_2E+EF+FD_1\ge D_2F+FD_1\ge D_2D_1$ である。
段 2($A$ からの距離と角)。$A$ は直線 $AB$ の上にあるので $AD_1=AD$、直線 $AC$ の上にあるので $AD_2=AD$ である。$B$ も直線 $AB$ の上にあるので $BD_1=BD$ で、三角形 $ABD_1$ と三角形 $ABD$ は 3 辺が等しく合同である($D=B$ のときは $D_1=B$ で、以下の角は $0^\circ$ とする)。よって $\angle D_1AB=\angle BAD$ である。同じく $\angle CAD_2=\angle DAC$ である。$D_1$ は直線 $AB$ について $D$ と反対側に、$D_2$ は直線 $AC$ について $D$ と反対側にあるので、$A$ のまわりに半直線 $AD_1$、$AB$、$AD$、$AC$、$AD_2$ がこの順に並び、
$$
\angle D_1AD_2=\angle D_1AB+\angle BAD+\angle DAC+\angle CAD_2=2(\angle BAD+\angle DAC)=2A
$$
である。$A<90^\circ$ なので $2A<180^\circ$ で、これは三角形 $AD_1D_2$ の頂角である。
段 3(底辺の長さ)。三角形 $AD_1D_2$ は $AD_1=AD_2=AD$ の二等辺三角形で、頂角は $2A$ である。底辺 $D_1D_2$ の中点を $M$ とすると、$AM$ は底辺に垂直で頂角を 2 等分するので、直角三角形 $AMD_1$ で $\angle D_1AM=A$、$D_1M=AD_1\sin A=AD\sin A$ である。よって $D_1D_2=2D_1M=2\,AD\sin A$ である。$\square$
D を辺 AB、AC で折り返した点 D1、D2 をとると、周 DE+EF+FD は折れ線 D2→E→F→D1 の長さになり、線分 D1D2 以上になる
鋭角三角形 $ABC$ の辺 $BC$、$CA$、$AB$ の上に点 $D$、$E$、$F$ をとる(頂点をとってもよい)。このとき
$$
DE+EF+FD\ge a\cos A+b\cos B+c\cos C=\frac{2S}R
$$
である。等号が成り立つのは、$D$、$E$、$F$ が垂線の足 $D_0$、$E_0$、$F_0$ のときに限る。つまり、周が最も短い内接三角形は垂足三角形ただ 1 つである。
方針:lem-fag-fix の下限 $2AD\sin A$ を、$D$ を動かして最小にすると $2h_a\sin A=\dfrac{2S}R$ になる。垂足三角形の周がちょうどこの値になることを示し、等号の条件から一意性を出す。
段 1(どの内接三角形も $2h_a\sin A$ 以上)。$A$ から直線 $BC$ に下ろした垂線の足は $D_0$ で、$AD_0=h_a$ である。辺 $BC$ の上のどの点 $D$ についても、三平方の定理から $AD^2=h_a^2+D_0D^2\ge h_a^2$ で、$AD\ge h_a$、等号は $D=D_0$ のときに限る。lem-fag-fix と合わせて
$$
DE+EF+FD\ge2\,AD\sin A\ge2h_a\sin A
$$
である。
段 2($2h_a\sin A=\dfrac{2S}R$)。$S=\dfrac12ah_a$ から $h_a=\dfrac{2S}a$ で、正弦定理 $\dfrac a{\sin A}=2R$(正弦定理(高校数学))から $\dfrac{\sin A}a=\dfrac1{2R}$ である。よって
$$
2h_a\sin A=2\cdot\frac{2S}a\cdot\sin A=4S\cdot\frac{\sin A}a=\frac{2S}R
$$
である。この値は頂点の名前によらない。頂点 $B$、$C$ で同じ計算をしても $2h_b\sin B=2h_c\sin C=\dfrac{2S}R$ である。
段 3(垂足三角形の周)。lem-fag-sides から垂足三角形の周は $a\cos A+b\cos B+c\cos C$ である。正弦定理で $a=2R\sin A$ などと書き、2 倍角の公式 $2\sin A\cos A=\sin2A$ を使うと
$$
a\cos A+b\cos B+c\cos C=R(\sin2A+\sin2B+\sin2C)
$$
である。和積の公式と $A+B=180^\circ-C$ から
$$
\sin2A+\sin2B=2\sin(A+B)\cos(A-B)=2\sin C\cos(A-B)
$$
であり、$\cos C=-\cos(A+B)$ から $\sin2C=2\sin C\cos C=-2\sin C\cos(A+B)$ である(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)。足すと、加法定理 $\cos(A-B)-\cos(A+B)=2\sin A\sin B$ により
$$
\sin2A+\sin2B+\sin2C=2\sin C\bigl(\cos(A-B)-\cos(A+B)\bigr)=4\sin A\sin B\sin C
$$
である。一方、$S=\dfrac12ab\sin C=\dfrac12(2R\sin A)(2R\sin B)\sin C=2R^2\sin A\sin B\sin C$ なので $\dfrac{2S}R=4R\sin A\sin B\sin C$ である。よって
$$
a\cos A+b\cos B+c\cos C=4R\sin A\sin B\sin C=\frac{2S}R
$$
である。
段 4(最小値)。段 1〜段 3 から、どの内接三角形の周も $\dfrac{2S}R$ 以上で、垂足三角形の周はちょうど $\dfrac{2S}R$ である。これで不等式と、垂足三角形で等号が成り立つことが示せた。
段 5(等号はほかにない)。$DE+EF+FD=\dfrac{2S}R$ とする。段 1 の不等式がすべて等号なので $AD=h_a$、つまり $D=D_0$ である。頂点の名前を $A\to B\to C\to A$ と回して段 1 を頂点 $B$ に使う(辺 $CA$ の上の点 $E$ を固定し、直線 $BC$、$BA$ に関して折り返す)と、$DE+EF+FD\ge2\,BE\sin B\ge2h_b\sin B=\dfrac{2S}R$ で、等号から $BE=h_b$、つまり $E=E_0$ である。頂点 $C$ でも同じく $F=F_0$ である。$\square$
直線 $AB$ は $12x-5y=0$ で、対称点と折れ線の最短 の対称点の公式で $k=\dfrac{12\cdot8}{169}=\dfrac{96}{169}$ から $D_1=\left(8-\dfrac{2\cdot12\cdot96}{169},\ \dfrac{2\cdot5\cdot96}{169}\right)=\left(-\dfrac{952}{169},\dfrac{960}{169}\right)$ である。直線 $AC$ は $4x+3y-56=0$ で、$k=\dfrac{32-56}{25}=-\dfrac{24}{25}$ から $D_2=\left(8+\dfrac{2\cdot4\cdot24}{25},\ \dfrac{2\cdot3\cdot24}{25}\right)=\left(\dfrac{392}{25},\dfrac{144}{25}\right)$ である。線分 $D_1D_2$ は辺 $AB$ と $F\left(\dfrac{7640}{3211},\dfrac{18336}{3211}\right)$、辺 $AC$ と $E\left(\dfrac{10424}{1075},\dfrac{6168}{1075}\right)$ で交わる(sympy で計算)。
13, 14, 15 の三角形で D を (8,0) に固定したとき、D1D2 と 2 辺の交点をとった三角形(青)の周は 21.31 で、垂足三角形(赤)の 20.68 より長い
D を辺 BC の上で動かしたときの下限 2·AD·sinA のグラフ。最小は D が垂線の足 D0(5,0) のときで、値は 1344/65 である
図 4 のグラフは、$D=(t,0)$ に対する下限 $2\sin A\cdot\sqrt{(t-5)^2+144}$ で、$t=5$、つまり $D=D_0$ のときに最小になる。これが thm-fag-main の段 1 である。
三角形 $ABC$ を辺 $AC$ で折り返し、できた三角形をその辺 $BC$ にあたる辺で折り返し、さらに $AB$ にあたる辺で、…と、辺 $AC$、$BC$、$AB$、$AC$、$BC$ の順に合わせて 5 回折り返して、もとの三角形と合わせて 6 つの三角形を並べる。垂足三角形は、各辺で入射角と反射角が等しい(cor-fag-light)ので、並べた三角形を突き抜ける 1 本の線分に広がり、その長さは垂足三角形の周の 2 倍になる。一方、5 回の折り返しを合成すると、最後の三角形の辺 $AB$ にあたる辺は、もとの辺 $AB$ を平行移動したものになる。ほかの内接三角形も、並べた三角形の上では、辺 $AB$ の上の点 $F$ と、それを同じ平行移動で移した点 $F'$ を結ぶ折れ線に広がり、長さは周の 2 倍である。折れ線の長さは $FF'$ 以上で、$FF'$ は平行移動の距離なので、垂足三角形が広がった線分の長さに等しい。よって周は垂足三角形の周以上である。合成が平行移動になることなど、細部はこの記事では証明しない。
thm-fag-main の答えの垂足三角形では、各辺で「入射角=反射角」が成り立っている。対称点と折れ線の最短 の主定理で見たとおり、最短の道では反射の法則が成り立つからである。直接確かめておく。
鋭角三角形 $ABC$ の垂足三角形 $D_0E_0F_0$ と垂心 $H$ について、次が成り立つ。
(1) $\angle BD_0F_0=\angle CD_0E_0=A$ である。同じく $\angle CE_0D_0=\angle AE_0F_0=B$、$\angle AF_0E_0=\angle BF_0D_0=C$ である。つまり、垂足三角形の 2 辺は、各頂点で三角形 $ABC$ の辺と等しい角をなす。
(2) 垂線 $AD_0$ は $\angle F_0D_0E_0$ を 2 等分する。$BE_0$、$CF_0$ も同じで、垂心 $H$ は垂足三角形の内心である。
段 1((1))。lem-fag-sides の証明の段 3 で、三角形 $BF_0D_0$ は三角形 $BCA$ と相似で、$F_0$ と $C$、$D_0$ と $A$ が対応する。よって $\angle BD_0F_0=\angle BAC=A$、$\angle BF_0D_0=\angle BCA=C$ である。三角形 $CD_0E_0$ は三角形 $CAB$ と相似で $D_0$ と $A$ が対応するので、$\angle CD_0E_0=A$ である。$\angle AF_0E_0=C$、$\angle AE_0F_0=B$ は lem-fag-sides の主張そのもの、$\angle CE_0D_0=B$ は三角形 $CD_0E_0$ と三角形 $CAB$ の相似で $E_0$ と $B$ が対応することから出る。
段 2((2))。$AD_0\perp BC$ なので、$\angle F_0D_0A=90^\circ-\angle BD_0F_0=90^\circ-A$、$\angle AD_0E_0=90^\circ-\angle CD_0E_0=90^\circ-A$ で、2 つは等しい。$F_0$、$E_0$ は直線 $AD_0$ の反対側にあるので、$AD_0$ は $\angle F_0D_0E_0$ を 2 等分する。$E_0$、$F_0$ でも同じである。垂足三角形の 3 つの角の 2 等分線は、三角形 $ABC$ の 3 本の垂線で、それらは垂心 $H$ で交わる。角の 2 等分線の交点は内心なので、$H$ は垂足三角形の内心である。$\square$
ex-fag-orthic の三角形で、$\overrightarrow{D_0B}=(-5,0)$、$\overrightarrow{D_0F_0}=\left(-\dfrac{495}{169},\dfrac{840}{169}\right)$ から
$$
\cos\angle BD_0F_0=\frac{5\cdot\frac{495}{169}}{5\cdot\frac{975}{169}}=\frac{495}{975}=\frac{33}{65}=\cos A
$$
である。垂心は $H\left(5,\dfrac{15}4\right)$ である。垂足三角形の辺の長さ $x=E_0F_0$、$y=F_0D_0$、$z=D_0E_0$ を重みにした点 $\dfrac{xD_0+yE_0+zF_0}{x+y+z}$(内心の座標の式、三角形の内心と傍心)を計算すると $\left(5,\dfrac{15}4\right)$ になり、$H$ と一致する。
光が鋭角三角形の内側で 3 つの辺に反射して元にもどる道筋が垂足三角形である。各頂点で、垂線(点線)が入射と反射の 2 本の道のなす角を 2 等分する
垂足三角形の 3 つの頂点と 3 辺の中点、垂心と各頂点を結ぶ線分の中点は、同じ円(九点円)の上にある(九点円)。垂足三角形の外接円は九点円である。
thm-fag-main は鋭角三角形についての定理である。角の条件で答えがどう変わるかを表にする。
| 三角形 | 周が最小の内接三角形 | 周の下限 |
|---|---|---|
| 鋭角三角形 | 垂足三角形ただ 1 つ | $\dfrac{2S}R=a\cos A+b\cos B+c\cos C$ |
| $A=90^\circ$ | つぶれた三角形 $D_0AA$ だけ(本当の三角形にはない) | $2h_a\left(=\dfrac{2S}R\right)$ |
| $A>90^\circ$ | つぶれた三角形 $D_0AA$ だけ(本当の三角形にはない) | $2h_a\left(>\dfrac{2S}R\right)$ |
三角形 $ABC$ で $A\ge90^\circ$ とし、$A$ から辺 $BC$ に下ろした垂線の足を $D_0$ とする。辺 $BC$、$CA$、$AB$ の上のどの点 $D$、$E$、$F$ についても
$$
DE+EF+FD\ge2h_a
$$
である。等号が成り立つのは $D=D_0$、$E=F=A$ のときに限る。とくに、3 点が異なる本当の三角形 $DEF$ では周は $2h_a$ より大きく、周が最小の内接三角形はない。
要点:lem-fag-fix と同じく $D$ を 2 辺で折り返すが、$2A\ge180^\circ$ なので線分 $D_1D_2$ は $A$ の反対側を通り、下限にならない。代わりに、$D_1$、$D_2$ から $A$ へ向かう向きの成分で $FD_1$、$ED_2$ を下から押さえ、$\cos A\le0$ を使って $DE+EF+FD\ge AD_1+AD_2=2AD\ge2h_a$ を示す。
段 1(記号)。$A$ を始点とするベクトルで点を表す。$D$ を直線 $AB$、$AC$ で折り返した点を $D_1$、$D_2$ とすると、lem-fag-fix の段 1 と同じく $DE+EF+FD=D_1F+FE+ED_2$ で、$AD_1=AD_2=AD$ である。$\alpha_1=\angle BAD$、$\alpha_2=\angle DAC$ とおくと $\alpha_1+\alpha_2=A$ で、lem-fag-fix の段 2 と同じく、$AD_1$ と $AB$ のなす角は $\alpha_1$、$AD_2$ と $AC$ のなす角は $\alpha_2$ である。$\overrightarrow{AD_1}$、$\overrightarrow{AD_2}$ の向きの長さ $1$ のベクトルを $\vec u_1$、$\vec u_2$ とし、$F$、$E$ を $AF=f$、$AE=e$ とする。
段 2(成分で押さえる)。どのベクトル $\vec w$ についても $\vec u\cdot\vec w\le\lvert\vec w\rvert$($\lvert\vec u\rvert=1$)なので、$D_1F=\lvert\overrightarrow{FD_1}\rvert\ge\vec u_1\cdot(\overrightarrow{AD_1}-\overrightarrow{AF})=AD-f\cos\alpha_1$、同じく $ED_2\ge AD-e\cos\alpha_2$ である。よって $DE+EF+FD\ge2AD+\bigl(FE-f\cos\alpha_1-e\cos\alpha_2\bigr)$ である。
段 3($FE\ge f\cos\alpha_1+e\cos\alpha_2$)。余弦定理から $FE^2=f^2+e^2-2fe\cos A$ である。$s_i=\sin\alpha_i$、$c_i=\cos\alpha_i$ とおき、$\cos A=c_1c_2-s_1s_2$ を使って整理すると$$FE^2-(fc_1+ec_2)^2=f^2s_1^2+e^2s_2^2-2fe(2c_1c_2-s_1s_2)=(fs_1+es_2)^2-4fec_1c_2$$である。相加平均と相乗平均の関係から $(fs_1+es_2)^2\ge4fes_1s_2$ なので、右辺は $4fe(s_1s_2-c_1c_2)=-4fe\cos A\ge0$ 以上である。よって $FE\ge\lvert fc_1+ec_2\rvert\ge fc_1+ec_2$ である。
段 4(結論)。段 2・段 3 から $DE+EF+FD\ge2AD\ge2h_a$ である($AD\ge h_a$ は thm-fag-main の段 1)。
段 5(等号)。等号なら $AD=h_a$ で $D=D_0$ である。また段 2 の等号から $\overrightarrow{FD_1}$ は $\vec0$ か $\vec u_1$ と同じ向きで、$F$ は直線 $AD_1$ の上にある。$F$ は直線 $AB$ の上にもあり、$D=D_0$ は $B$ と異なるので直線 $AD_1$ と $AB$ は異なり、$F=A$ である。同じく $E=A$ である。逆に $D=D_0$、$E=F=A$ なら周は $2AD_0=2h_a$ である。
段 6(最小はない)。$D=D_0$ とし、$E$、$F$ を $A$ と異なる辺 $CA$、$AB$ の上の点とする。3 点の三角不等式から $D_0E\le D_0A+AE$、$EF\le AE+AF$、$FD_0\le AF+AD_0$ なので、周は $2h_a+2(AE+AF)$ 以下である。本当の三角形 $DEF$ の周を $p$ とすると $p>2h_a$ なので、$AE+AF<\dfrac{p-2h_a}2$ となるように $E$、$F$ をとれば、本当の三角形 $D_0EF$ の周は $p$ より小さい。よって周が最小の本当の三角形はない。$\square$
thm-fag-main の仮定を外したときに崩れることを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 鋭角三角形($A>90^\circ$) | $A(1,1)$、$B(0,0)$、$C(4,0)$ | 周が最小の(本当の)内接三角形がある |
| 鋭角三角形($A=90^\circ$) | $A(1,\sqrt3)$、$B(0,0)$、$C(4,0)$ | 垂足三角形が本当の三角形である |
| 足が辺の上にある(鈍角三角形で延長上の足を使う) | $A(1,1)$、$B(0,0)$、$C(4,0)$ の垂足三角形 | 垂足三角形の周が最小である |
$A(1,1)$、$B(0,0)$、$C(4,0)$ とする。$\overrightarrow{AB}=(-1,-1)$、$\overrightarrow{AC}=(3,-1)$ から $\cos A=\dfrac{-3+1}{\sqrt2\sqrt{10}}=-\dfrac1{\sqrt5}$ で、$A\approx116.6^\circ$ の鈍角である。$h_a=1$、$D_0=(1,0)$ である。
$D=D_0$ とし、$E$、$F$ を $A$ から辺に沿って少しだけ進んだ点 $E=A+\varepsilon\overrightarrow{AC}$、$F=A+\varepsilon\overrightarrow{AB}$ にとる。周は $\varepsilon=\dfrac1{10}$ で約 $2.254$、$\varepsilon=\dfrac1{100}$ で約 $2.021$、$\varepsilon=\dfrac1{1000}$ で約 $2.002$ と、$2h_a=2$ に近づく。prop-fag-nonacute により、本当の三角形の周はどれも $2$ より大きいので、最小はない。
鋭角三角形の最小値の式 $\dfrac{2S}R$ は、$S=2$、$R=\dfrac a{2\sin A}=\dfrac4{2\cdot\frac2{\sqrt5}}=\sqrt5$ から $\dfrac4{\sqrt5}\approx1.789$ で、$2$ より小さい。この値の周をもつ内接三角形はない。外した条件:鋭角三角形であること。成り立たなくなること:周が最小の内接三角形があること、最小値が $\dfrac{2S}R$ であること。
$A(1,\sqrt3)$、$B(0,0)$、$C(4,0)$ とする。$\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AC}=(-1)\cdot3+(-\sqrt3)(-\sqrt3)=0$ で、$A=90^\circ$ である。$B$ から直線 $CA$ に下ろした垂線の足も、$C$ から直線 $AB$ に下ろした垂線の足も $A$ そのものなので、「垂足三角形」は $D_0(1,0)$、$A$、$A$ の 3 点で、線分 $D_0A$ を往復するつぶれた図形になる。その周は $2h_a=2\sqrt3$ で、$\dfrac{2S}R=\dfrac{2\cdot2\sqrt3}2=2\sqrt3$ とも一致する。prop-fag-nonacute により、本当の三角形では周は $2\sqrt3$ より大きい。外した条件:鋭角三角形であること。成り立たなくなること:最小を与えるのが本当の三角形であること。
ex-fag-cx-obtuse の鈍角三角形で、3 本の垂線の足を直線まで延ばしてとると、$D_0(1,0)$、$B$ から直線 $CA$ への足 $E_0\left(\dfrac25,\dfrac65\right)$、$C$ から直線 $AB$ への足 $F_0(2,2)$ である。$E_0$、$F_0$ は辺の延長の上にある($E_0$ は $A$ の外側、$F_0$ も $A$ の外側)。この三角形の周は
$$
E_0F_0+F_0D_0+D_0E_0=\frac{4}{\sqrt5}+\sqrt5+\frac3{\sqrt5}=\frac{12}{\sqrt5}\approx5.367
$$
で、ex-fag-cx-obtuse の $2$ に近い周よりずっと長い。外した条件:垂線の足が辺の上にあること。成り立たなくなること:垂足三角形の周が最小であること。
鈍角三角形では、E、F を頂点 A に近づけると内接三角形の周は 2h_a=2 に近づくが、本当の三角形では 2 に届かない
鈍角三角形の垂線の足 E0、F0 は辺の延長の上にあり、それらを結ぶ三角形(橙)の周は 12/√5≈5.37 と長い
三角形の形をしたビリヤード台で、球が辺で「入射角=反射角」の法則にしたがって跳ね返るとする。cor-fag-light により、鋭角三角形の垂足三角形は、3 回跳ね返って元の点に元の向きでもどる道筋である。このように有限回で元にもどる道筋を 周期軌道 といい、垂足三角形の道筋は Fagnano 軌道 と呼ばれる。周期軌道の研究は、力学系(時間とともに状態が動く仕組み)の分野の 1 つである。
対称点と折れ線の最短 で見たように、壁で跳ね返る代わりに台を壁で折り返すと、球の道筋はまっすぐになる。Schwarz の別証明(thm-fag-main の後に畳んだもの)は、この見方で 6 つの三角形を並べ、Fagnano 軌道が 1 本の線分に広がることを使っている。三角形を辺で折り返す変換を組み合わせてできる変換の集まりは群をなし、とくに 2 本の直線に関する折り返しの合成は、平行移動か回転になる(Hit18 Theorem 3.1.17)。
内接三角形は、3 点 $D$、$E$、$F$ の位置を表す 3 つの数で決まる。周はこの 3 つの数の関数であり、Fagnano の問題はその関数の最小を求める問題(変分問題の最も簡単な形)である。$E$、$F$ を固定して $D$ だけを辺 $BC$ の上で動かすと、$DE+DF$ は 対称点と折れ線の最短 の主定理の状況で、最小になる点では $DE$ と $DF$ が辺 $BC$ と等しい角をなす。したがって、周が最小の内接三角形(3 点が辺の端点以外にあるもの)では、3 つの頂点のどれでも反射の法則が成り立つ。これは最小であるための必要条件で、cor-fag-light はその答えが垂足三角形で実際に満たされていることを示している。
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