分数型の漸化式と1次分数変換(fractional linear recurrences)とは、$a_{n+1}=\frac{pa_n+q}{ra_n+s}$($ps-qr\ne0$、$r\ne0$)を解く方法である。分子と分母の組に係数の 2 次行列を掛けると、$a_n$ は成分の比になる。項がすべて定まり、特性方程式 $rt^2+(s-p)t-q=0$ が異なる実数解 $\alpha,\beta$ をもち $a_1\ne\beta$ なら $\frac{a_n-\alpha}{a_n-\beta}$ は等比数列、重解 $\alpha$ をもち $a_1\ne\alpha$ なら $\frac{1}{a_n-\alpha}$ は等差数列になる。その公比の絶対値が $1$ でなければ数列は不動点に近づき、$1$ なら周期的になりうる。合成は行列の積に対応する(Möbius 変換)。
数学 B の漸化式には、$a_{n+1}=\dfrac{a_n}{3a_n+1}$ のように、右辺が分数の形をしたものがある。まず 2 つの例で、項を計算して様子を見る。
$a_1=1$、$a_{n+1}=\dfrac{a_n}{3a_n+1}$ とする。項を順に計算すると
$$
a_2=\frac{1}{3+1}=\frac14,\qquad a_3=\frac{1/4}{3/4+1}=\frac{1/4}{7/4}=\frac17,\qquad a_4=\frac{1/7}{3/7+1}=\frac{1/7}{10/7}=\frac1{10}
$$
となる。分母が $1,4,7,10$ と $3$ ずつ増えている。
これを確かめるため、逆数 $b_n:=\dfrac1{a_n}$ を考える。$a_1>0$ で、$a_n>0$ なら $a_{n+1}=\frac{a_n}{3a_n+1}>0$ なので、帰納法ですべての項が正であり、逆数がとれる。漸化式の両辺の逆数をとると
$$
b_{n+1}=\frac{3a_n+1}{a_n}=3+\frac1{a_n}=b_n+3
$$
である。$\{b_n\}$ は初項 $b_1=1$、公差 $3$ の等差数列なので、$b_n=1+3(n-1)=3n-2$、すなわち
$$
a_n=\frac1{3n-2}
$$
である。
$a_1=1$、$a_{n+1}=\dfrac{a_n+2}{a_n+1}$ とする。項を計算すると
$$
a_2=\frac{1+2}{1+1}=\frac32,\quad a_3=\frac{3/2+2}{3/2+1}=\frac{7/2}{5/2}=\frac75,\quad a_4=\frac{17}{12},\quad a_5=\frac{41}{29},\quad a_6=\frac{99}{70}
$$
となる。小数では $1,\ 1.5,\ 1.4,\ 1.4166\cdots,\ 1.4137\cdots,\ 1.4142\cdots$ で、$\sqrt2=1.41421\cdots$ に近づいているように見える。実際、$\bigl(\frac{17}{12}\bigr)^2=\frac{289}{144}=2.0069\cdots$、$\bigl(\frac{41}{29}\bigr)^2=\frac{1681}{841}=1.9988\cdots$ で、2 乗が $2$ に近い。
分子を $x_n$、分母を $y_n$ とすると、$(x_n,y_n)$ は $(1,1),(3,2),(7,5),(17,12),(41,29),(99,70)$ である。どの隣り合う 2 組にも
$$
x_{n+1}=x_n+2y_n,\qquad y_{n+1}=x_n+y_n
$$
という関係がある(たとえば $7+2\cdot5=17$、$7+5=12$)。$a_n=\frac{x_n}{y_n}$ を漸化式に代入し、分子と分母に $y_n$ を掛けると $\frac{x_n/y_n+2}{x_n/y_n+1}=\frac{x_n+2y_n}{x_n+y_n}$ となるからである。
例 1 では逆数をとると等差数列になった。例 2 では、分数を 1 つの数と見ずに、分子と分母の組 $(x_n,y_n)$ を追うと、足し算と掛け算だけの漸化式になった。この記事では、この 2 つの工夫がどんな分数型の漸化式にも使えることを確かめ、次の問いに答える。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 分子と分母を別々に追う | 2 次正方行列を繰り返し掛ける | thm-flt-matrix |
| $\alpha=\frac{p\alpha+q}{r\alpha+s}$ を解く | 1 次分数関数の不動点(特性方程式の解) | prop-flt-fixed-eq |
| $\frac{a_n-\alpha}{a_n-\beta}$ が等比数列 | 2 つの不動点の差の比 | thm-flt-fixed |
| 逆数をとると等差数列(例 1) | 不動点が 1 つ(重解)のとき | thm-flt-fixed |
| 何回か進むと元に戻る | 行列の冪が単位行列の定数倍 | ex-flt-periodic |
分数型の漸化式の右辺にある関数に名前を付ける。
$r=0$ のときは $f(x)=\frac ps x+\frac qs$($ps\ne0$ なので $s\ne0$)となり、1 次関数である。このときの漸化式 $a_{n+1}=\frac ps a_n+\frac qs$ は 二項間漸化式 で扱った。この記事で新しいのは $r\ne0$ の場合である。
条件 $ps-qr\ne0$ の意味は、次の差の公式を見ると分かる。
$f(x)=\dfrac{px+q}{rx+s}$ とする。$rx+s\ne0$、$ry+s\ne0$ となる $x,y$ について
$$
f(x)-f(y)=\frac{(ps-qr)(x-y)}{(rx+s)(ry+s)}
$$
が成り立つ。特に $ps-qr\ne0$ なら、$x\ne y$ のとき $f(x)\ne f(y)$ である($f$ は単射である)。
方針:2 つの分数を通分し、分子を展開して整理する。
段 1(通分)。
$$
f(x)-f(y)=\frac{px+q}{rx+s}-\frac{py+q}{ry+s}=\frac{(px+q)(ry+s)-(py+q)(rx+s)}{(rx+s)(ry+s)}
$$
である。
段 2(分子の展開)。分子の 2 つの積を展開すると
$$
\begin{aligned}
(px+q)(ry+s)&=prxy+psx+qry+qs,\\
(py+q)(rx+s)&=prxy+psy+qrx+qs
\end{aligned}
$$
である。上から下を引くと、$prxy$ と $qs$ が消えて
$$
psx+qry-psy-qrx=ps(x-y)-qr(x-y)=(ps-qr)(x-y)
$$
が残る。これで公式が示せた。
段 3(単射)。$ps-qr\ne0$ で $x\ne y$ なら、段 2 の分子 $(ps-qr)(x-y)$ は $0$ でない。分母も $0$ でないので $f(x)-f(y)\ne0$ である。$\square$
例 2 で見た「分子と分母の組を追う」方法を一般にする。そのために、行列とベクトルの積を決めておく(行列の計算は 漸化式の行列表示 でも扱う)。
$A=\begin{pmatrix}p&q\\ r&s\end{pmatrix}$ と、2 つの数を縦に並べたもの(ベクトル)$\begin{pmatrix}x\\ y\end{pmatrix}$ の積を
$$
A\begin{pmatrix}x\\ y\end{pmatrix}:=\begin{pmatrix}px+qy\\ rx+sy\end{pmatrix}
$$
と定める。上の成分は「$A$ の 1 行目 $(p,q)$ と $(x,y)$ の対応する数の積の和」、下の成分は「2 行目 $(r,s)$ と $(x,y)$ の対応する数の積の和」である。また、$A$ を $m$ 回続けて掛けたものを $A^m\begin{pmatrix}x\\ y\end{pmatrix}$ と書く($A^0$ は何もしないことと約束する)。
$f(x)=\dfrac{px+q}{rx+s}$、$A=\begin{pmatrix}p&q\\ r&s\end{pmatrix}$ とし、$a_1$ を与えて $a_{n+1}=f(a_n)$ で数列を作る。ベクトルを
$$
\begin{pmatrix}x_1\\ y_1\end{pmatrix}:=\begin{pmatrix}a_1\\ 1\end{pmatrix},\qquad \begin{pmatrix}x_{n+1}\\ y_{n+1}\end{pmatrix}:=A\begin{pmatrix}x_n\\ y_n\end{pmatrix}
$$
で定める(つまり $\begin{pmatrix}x_n\\ y_n\end{pmatrix}=A^{n-1}\begin{pmatrix}a_1\\ 1\end{pmatrix}$)。$N\ge1$ とすると、次が成り立つ。
方針:$n$ についての数学的帰納法で、「$a_1,\dots,a_n$ が定まる」と「$y_1,\dots,y_n$ がすべて $0$ でない」が同値で、そのとき $a_n=\frac{x_n}{y_n}$ であることを示す。鍵は、例 2 と同じく、分子と分母に $y_n$ を掛けることである。
段 1($n=1$)。$a_1$ は与えられていて、$y_1=1\ne0$、$\frac{x_1}{y_1}=a_1$ である。
段 2($y_{k+1}$ と $x_{k+1}$ を $a_k$ で書く)。$n=k$ で主張が成り立つとする。もし「$a_1,\dots,a_k$ が定まる」と「$y_1,\dots,y_k$ がすべて $0$ でない」がどちらも成り立たなければ、$n=k+1$ の 2 つの条件もどちらも成り立たない($k$ 番目までの条件を含むから)ので、同値である。以下、どちらも成り立つとする。仮定から $x_k=a_ky_k$ なので、積の定義(def-flt-matrix-product)から
$$
x_{k+1}=px_k+qy_k=y_k(pa_k+q),\qquad y_{k+1}=rx_k+sy_k=y_k(ra_k+s)
$$
である。
段 3(同値性)。$y_k\ne0$ なので、段 2 の式から「$y_{k+1}\ne0$」と「$ra_k+s\ne0$」は同値である。後者は「$a_{k+1}=f(a_k)$ の分母が $0$ でない」、すなわち「$a_{k+1}$ が定まる」ことである。よって「$a_1,\dots,a_{k+1}$ が定まる」と「$y_1,\dots,y_{k+1}$ がすべて $0$ でない」は同値である。
段 4(値)。$y_{k+1}\ne0$ のとき、段 2 の式から
$$
\frac{x_{k+1}}{y_{k+1}}=\frac{y_k(pa_k+q)}{y_k(ra_k+s)}=\frac{pa_k+q}{ra_k+s}=a_{k+1}
$$
である($y_k\ne0$ で約分した)。
段 1〜段 4 から、すべての $N$ で主張が成り立つ。$\square$
この定理で、分数の漸化式は、分子と分母の組に行列を掛けていく漸化式に置き換わった。行列を掛ける操作は足し算と掛け算だけでできていて、途中で割り算をしない。分母が $0$ になるかどうかも、$y_n=0$ になるかどうかで判定できる。
例 2 の分子と分母には、もう 1 つ規則がある。これを使うと、$a_n$ が $\sqrt2$ に近づくことが、式を解かずに分かる。
例 2 の $(x_n,y_n)$ について、$x_n^2-2y_n^2$ を計算すると
$$
1-2=-1,\quad 9-8=1,\quad 49-50=-1,\quad 289-288=1,\quad 1681-1682=-1
$$
と、$-1$ と $1$ が交互に並ぶ。一般に、$x_{n+1}=x_n+2y_n$、$y_{n+1}=x_n+y_n$ を代入して展開すると
$$
x_{n+1}^2-2y_{n+1}^2=(x_n^2+4x_ny_n+4y_n^2)-2(x_n^2+2x_ny_n+y_n^2)=-(x_n^2-2y_n^2)
$$
となるので、帰納法で $x_n^2-2y_n^2=(-1)^n$ である。両辺を $y_n^2$ で割ると
$$
a_n^2-2=\frac{(-1)^n}{y_n^2}
$$
である。$y_{n+1}=x_n+y_n\ge y_n+1$ なので $y_n\ge n$ であり、$|a_n^2-2|\le\frac1{n^2}\to0$ となる。$a_n>0$ なので $|a_n-\sqrt2|=\frac{|a_n^2-2|}{a_n+\sqrt2}\le\frac{1}{\sqrt2\,n^2}$ となり、数列の極限の意味で $a_n\to\sqrt2$ である。
二項間漸化式 $a_{n+1}=pa_n+q$ では、$\alpha=p\alpha+q$ を満たす数 $\alpha$(不動点)を引くと、$a_n-\alpha$ が等比数列になった。分数型の漸化式でも、不動点が主役になる。
1 次分数関数 $f(x)=\dfrac{px+q}{rx+s}$ について、$f(\alpha)$ が定まり $f(\alpha)=\alpha$ となる数 $\alpha$ を $f$ の不動点という。また、$t$ の方程式
$$
rt^2+(s-p)t-q=0
$$
を漸化式 $a_{n+1}=f(a_n)$ の特性方程式という。
特性方程式は、$t=\frac{pt+q}{rt+s}$ の分母を払って整理した式である。分母を払うときに「分母が $0$ でない」が抜け落ちるので、特性方程式の解が本当に不動点かは確かめる必要がある。$ps-qr\ne0$ なら、その心配はない。
$f(x)=\dfrac{px+q}{rx+s}$ を 1 次分数関数とする($ps-qr\ne0$)。数 $\alpha$ について、「$\alpha$ は $f$ の不動点である」ことと「$\alpha$ は特性方程式 $rt^2+(s-p)t-q=0$ の解である」ことは同値である。さらに、そのとき $r\alpha+s\ne0$ である。
方針:不動点の式の分母を払うと特性方程式になる。逆向きでは、分母 $r\alpha+s$ が $0$ でないことを $ps-qr\ne0$ から示してから割る。
段 1(不動点なら解)。$r\alpha+s\ne0$ で $\frac{p\alpha+q}{r\alpha+s}=\alpha$ とする。両辺に $r\alpha+s$ を掛けると $p\alpha+q=r\alpha^2+s\alpha$、移項して $r\alpha^2+(s-p)\alpha-q=0$ である。
段 2(解なら分母は 0 でない)。$r\alpha^2+(s-p)\alpha-q=0$ とする。これは $\alpha(r\alpha+s)=p\alpha+q$ と書き直せる。もし $r\alpha+s=0$ なら、左辺が $0$ なので $p\alpha+q=0$ でもある。すると $s=-r\alpha$、$q=-p\alpha$ なので
$$
ps-qr=p(-r\alpha)-(-p\alpha)r=-pr\alpha+pr\alpha=0
$$
となり、$ps-qr\ne0$ に反する。よって $r\alpha+s\ne0$ である。
段 3(解なら不動点)。段 2 から $r\alpha+s\ne0$ なので、$\alpha(r\alpha+s)=p\alpha+q$ の両辺を $r\alpha+s$ で割って $\alpha=\frac{p\alpha+q}{r\alpha+s}=f(\alpha)$ である。$\square$
主定理は、不動点が 2 つある場合と 1 つ(重解)の場合に分かれる。
$f(x)=\dfrac{px+q}{rx+s}$ を 1 次分数関数とし($ps-qr\ne0$)、$r\ne0$ とする。$a_{n+1}=f(a_n)$ で定まる数列 $\{a_n\}$ の項が、すべての $n$ で定まるとする。
方針:lem-flt-difference の差の公式で $y$ を不動点にすると、$a_{n+1}-\alpha$ が $a_n-\alpha$ の何倍かが分かる。2 つの不動点について割り算すると余分な因数が消える(1 の場合)。不動点が 1 つなら逆数をとる(2 の場合)。
段 1(不動点に一致しない)。1 の場合を考える(2 の場合は $\beta$ を $\alpha$ に読みかえる)。ある番号で $a_m=\beta$ となったとして、そのような $m$ で最小のものをとる。$a_1\ne\beta$ なので $m\ge2$ である。すると $f(a_{m-1})=a_m=\beta=f(\beta)$ であり($\beta$ は不動点:prop-flt-fixed-eq)、$f$ は単射(lem-flt-difference)なので $a_{m-1}=\beta$ である。これは $m$ の最小性に反する。よってすべての $n$ で $a_n\ne\beta$ である。
段 2(差の公式)。$D:=ps-qr$ とおく。$a_{n+1}$ が定まるので $ra_n+s\ne0$ であり、prop-flt-fixed-eq から $r\alpha+s\ne0$ である。lem-flt-difference で $x=a_n$、$y=\alpha$ とし、$f(a_n)=a_{n+1}$、$f(\alpha)=\alpha$ を使うと
$$
a_{n+1}-\alpha=\frac{D(a_n-\alpha)}{(ra_n+s)(r\alpha+s)}
$$
である。$\beta$ についても同じく $a_{n+1}-\beta=\dfrac{D(a_n-\beta)}{(ra_n+s)(r\beta+s)}$ である。
段 3(1 の場合:割る)。段 1 から $a_{n+1}-\beta\ne0$ なので、段 2 の 2 つの式を割り算できる。$D$ と $ra_n+s$ が約分されて
$$
b_{n+1}=\frac{a_{n+1}-\alpha}{a_{n+1}-\beta}=\frac{r\beta+s}{r\alpha+s}\cdot\frac{a_n-\alpha}{a_n-\beta}=k\,b_n
$$
である。よって $\{b_n\}$ は公比 $k$ の等比数列で、$b_n=b_1k^{n-1}$ である(等差数列と等比数列)。
段 4(1 の場合:$a_n$ に戻す)。$b_n=\frac{a_n-\alpha}{a_n-\beta}$ の分母を払うと $b_n(a_n-\beta)=a_n-\alpha$、移項して $a_n(1-b_n)=\alpha-\beta b_n$ である。もし $b_n=1$ なら $a_n-\alpha=a_n-\beta$ から $\alpha=\beta$ となり、仮定に反する。よって $1-b_n\ne0$ で、両辺を割って $a_n=\frac{\alpha-\beta b_n}{1-b_n}$ を得る。
段 5(2 の場合:逆数をとる)。段 1 を $\beta$ を $\alpha$ に読みかえて使うと、$a_1\ne\alpha$ からすべての $n$ で $a_n\ne\alpha$ である。そこで段 2 の式の逆数をとる($a_n-\alpha\ne0$、$a_{n+1}-\alpha\ne0$)と
$$
\frac1{a_{n+1}-\alpha}=\frac{(ra_n+s)(r\alpha+s)}{D(a_n-\alpha)}
$$
である。$ra_n+s=r(a_n-\alpha)+(r\alpha+s)$ と分けて代入すると
$$
\frac1{a_{n+1}-\alpha}=\frac{r(r\alpha+s)}{D}+\frac{(r\alpha+s)^2}{D}\cdot\frac1{a_n-\alpha}
$$
となる。
段 6(重解のときの係数)。特性方程式が重解をもつので、判別式は $(s-p)^2+4qr=0$ で、重解は $\alpha=\frac{p-s}{2r}$ である。すると
$$
r\alpha+s=\frac{p-s}2+s=\frac{p+s}2
$$
である。また $-qr=\frac{(s-p)^2}4$ なので
$$
D=ps-qr=ps+\frac{(s-p)^2}4=\frac{4ps+s^2-2ps+p^2}4=\frac{(p+s)^2}4
$$
である。$D\ne0$ なので $p+s\ne0$ である。これを段 5 に代入すると、$\frac{(r\alpha+s)^2}{D}=\frac{(p+s)^2/4}{(p+s)^2/4}=1$、$\frac{r(r\alpha+s)}{D}=\frac{r(p+s)/2}{(p+s)^2/4}=\frac{2r}{p+s}$ なので
$$
c_{n+1}=c_n+\frac{2r}{p+s}
$$
である。よって $\{c_n\}$ は公差 $\frac{2r}{p+s}$ の等差数列で、$c_n\ne0$ だから $a_n=\alpha+\frac1{c_n}$ である。$\square$
thm-flt-fixed の式から、数列がどこに近づくかが読み取れる。
thm-flt-fixed の仮定のもとで、次が成り立つ。
方針:thm-flt-fixed の $b_n$ または $c_n$ の極限を求め、$a_n$ の式に代入する。$|k|<1$ のとき $k^n\to0$ となることは 等差数列と等比数列 で示した。
段 1($|k|<1$)。$b_n=b_1k^{n-1}\to0$ である。$a_n=\frac{\alpha-\beta b_n}{1-b_n}$ の分子は $\alpha$ に、分母は $1$ に近づくので、$a_n\to\alpha$ である。
段 2($|k|>1$)。$a_1\ne\alpha$ なので $b_1\ne0$ で、すべての $n$ で $b_n=b_1k^{n-1}\ne0$ である。$a_n$ の式の分子と分母を $b_n$ で割ると
$$
a_n=\frac{\alpha/b_n-\beta}{1/b_n-1}
$$
である。$\frac1{b_n}=\frac1{b_1}\bigl(\frac1k\bigr)^{n-1}$ で $\bigl|\frac1k\bigr|<1$ なので $\frac1{b_n}\to0$ であり、$a_n\to\frac{0-\beta}{0-1}=\beta$ である。
段 3(重解)。$a_1=\alpha$ なら、$\alpha$ は不動点なのですべての項が $\alpha$ で、$a_n\to\alpha$ である。以下 $a_1\ne\alpha$ とし、thm-flt-fixed の 2 の $c_n$ を使う。$r\ne0$ なので公差 $d:=\frac{2r}{p+s}$ は $0$ でなく、$c_n=c_1+(n-1)d$ の絶対値は限りなく大きくなる。よって $\frac1{c_n}\to0$ で、$a_n=\alpha+\frac1{c_n}\to\alpha$ である。$\square$
$y=\frac{x+2}{x+1}$ のグラフと直線 $y=x$ の間を、縦・横に交互にたどると、$a_1,a_2,a_3,\dots$ が順に得られる。$a_1=1$(青)からも $a_1=4$(橙)からも、渦を巻くように不動点 $(\sqrt2,\sqrt2)$ に近づくことを見る図(右は拡大)。
図1の描き方を述べておく。最初だけは $x$ 軸上の点 $(a_1,0)$ から縦に進む(図では点線)。以後は、点 $(a_n,a_n)$ から縦に進んでグラフ $y=f(x)$ に当たる点は $(a_n,a_{n+1})$ である。そこから横に進んで直線 $y=x$ に当たる点は $(a_{n+1},a_{n+1})$ である。これをくり返すと、$x$ 座標に数列の項が順に現れる。渦を巻くのは $k<0$ で、$a_n-\sqrt2$ の符号が交互に変わるからである。このような図による収束の見方と、平均値の定理による収束の証明は 縮小写像と漸化式 で扱う。
不動点が実数でなかったり、$|k|=1$ だったりすると、数列は近づかず、同じ値をくり返すことがある。
$y=\frac{x-1}{x}$ のグラフと直線 $y=x$ の間をたどると、$a_1=2$ から $\frac12$、$-1$ を経て $2$ に戻り、頂点 6 つの同じ六角形の道を回り続けることを見る図。図1と同じく、$x$ 軸上の $a_1=2$ から縦に上がる最初の線は点線である。グラフと $y=x$ は交わらない(実数の不動点がない)。
この記事の定理の仮定を外すと、結論が崩れる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| $ps-qr\ne0$(def-flt-function) | 特性方程式の解は不動点(prop-flt-fixed-eq) | ex-flt-det-zero |
| すべての項が定まる(thm-flt-fixed) | 一般項の式が $n$ によらず使える | ex-flt-pole |
| $a_1\ne\beta$(cor-flt-limit の 1) | $\lvert k\rvert<1$ なら $a_n\to\alpha$ | ex-flt-start-fixed |
| $\lvert k\rvert<1$ または $\lvert k\rvert>1$(cor-flt-limit の 1) | 実数の不動点があれば、どちらかに近づく | ex-flt-periodic の 3 |
| 実数の不動点がある | 極限の候補を $\alpha=f(\alpha)$ で求められる | ex-flt-periodic の 1 |
$f(x)=\frac{2x+4}{x+2}$($ps-qr=0$)を考える。$x\ne-2$ では $f(x)=2$ である。$a_1=5$ なら $5,\ 2,\ 2,\ 2,\dots$ となる。特性方程式は $t^2+(2-2)t-4=t^2-4=0$ で、解は $2$ と $-2$ である。$2$ は不動点だが、$-2$ では $f(-2)$ の分母が $0$ になり、不動点ではない。また $f(5)=f\bigl(-\frac73\bigr)=2$ なので、$f$ は単射でない。
満たす性質:分数の形の漸化式。満たさない性質:$ps-qr\ne0$。破る主張:prop-flt-fixed-eq の「特性方程式の解なら不動点」と、lem-flt-difference の単射性。崩れるのは prop-flt-fixed-eq の証明の段 2 である。
例 2 の漸化式 $a_{n+1}=\frac{a_n+2}{a_n+1}$ で $a_1=-\frac32$ とすると、$a_2=\frac{1/2}{-1/2}=-1$ で、$a_3$ は分母が $0$ になって定まらない。行列で追うと $\begin{pmatrix}-3/2\\ 1\end{pmatrix}\to\begin{pmatrix}1/2\\ -1/2\end{pmatrix}\to\begin{pmatrix}-1/2\\ 0\end{pmatrix}$ で、thm-flt-matrix のとおり $y_3=0$ となる。同じように止まってしまう初項は、$f(x)=-1$ を逆にたどって $-1,\ -\frac32,\ -\frac75,\ -\frac{17}{12},\ -\frac{41}{29},\dots$ と無限にある(例 2 の項に $-1$ を掛けたものが並ぶ)。
満たす性質:$ps-qr\ne0$。満たさない性質:すべての項が定まる。破る主張:thm-flt-fixed の一般項の式がすべての $n$ で意味をもつこと。$a_1=-\frac32$ で $b_n$ の式を形式的に使っても、$n=3$ 以降の $a_n$ は存在しない。
例 2 の漸化式で $a_1=-\sqrt2$ とすると、$f(-\sqrt2)=-\sqrt2$ なので、すべての $n$ で $a_n=-\sqrt2$ である。$|k|<1$ だが、$\sqrt2$ には近づかない。$b_1=\frac{a_1-\sqrt2}{a_1+\sqrt2}$ は分母が $0$ で定まらない。
満たす性質:$ps-qr\ne0$、$|k|<1$、すべての項が定まる。満たさない性質:$a_1\ne\beta$。破る主張:cor-flt-limit の「$|k|<1$ なら $a_n\to\alpha$」。
なぜ行列が現れたのかは、1 次分数関数の合成を計算すると分かる。そのために、2 次正方行列どうしの積を
$$
\begin{pmatrix}p&q\\ r&s\end{pmatrix}\begin{pmatrix}p'&q'\\ r'&s'\end{pmatrix}:=\begin{pmatrix}pp'+qr'&pq'+qs'\\ rp'+sr'&rq'+ss'\end{pmatrix}
$$
と定める(左の行列の各行と右の行列の各列について、def-flt-matrix-product と同じ「対応する数の積の和」をとる)。行列式が $0$ でない行列 $M$ の 1 次分数関数を $f_M$ と書く。
$A,B$ を行列式が $0$ でない 2 次正方行列とする(このとき $AB$ の行列式は $A$ の行列式と $B$ の行列式の積に等しい(成分で展開すると確かめられる)ので $0$ でなく、$f_{AB}$ も 1 次分数関数である)。$f_B(x)$ が定まり、さらに $f_A(f_B(x))$ が定まるとき、$f_{AB}(x)$ も定まり
$$
f_A\bigl(f_B(x)\bigr)=f_{AB}(x)
$$
である。
方針:thm-flt-matrix の段 2 と同じく、1 次分数関数の値を「ベクトルの上の成分 ÷ 下の成分」と見る。次に、ベクトルに $B$、$A$ の順に掛けたものが $AB$ を 1 回掛けたものと等しいことを成分で確かめる。
段 1(値をベクトルで表す)。$A=\begin{pmatrix}p&q\\ r&s\end{pmatrix}$、$B=\begin{pmatrix}p'&q'\\ r'&s'\end{pmatrix}$ とし、$\begin{pmatrix}u\\ v\end{pmatrix}:=B\begin{pmatrix}x\\ 1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}p'x+q'\\ r'x+s'\end{pmatrix}$ とおく。$f_B(x)$ が定まるので $v\ne0$ で、$f_B(x)=\frac uv$ である。$f_A$ に代入して分子と分母に $v$ を掛けると
$$
f_A\Bigl(\frac uv\Bigr)=\frac{p\,u/v+q}{r\,u/v+s}=\frac{pu+qv}{ru+sv}
$$
である。$f_A(f_B(x))$ が定まるので $ru+sv\ne0$ である。右辺は $A\begin{pmatrix}u\\ v\end{pmatrix}$ の上の成分 ÷ 下の成分である。
段 2(2 回掛けると積を 1 回掛けたもの)。$A\begin{pmatrix}u\\ v\end{pmatrix}$ の上の成分に $u=p'x+q'$、$v=r'x+s'$ を代入して展開すると
$$
pu+qv=p(p'x+q')+q(r'x+s')=(pp'+qr')x+(pq'+qs')
$$
である。下の成分も同じく $ru+sv=(rp'+sr')x+(rq'+ss')$ である。これは $AB\begin{pmatrix}x\\ 1\end{pmatrix}$ の 2 つの成分そのものである。
段 3。段 1・段 2 から、$f_{AB}(x)$ の分母は $ru+sv\ne0$ で、$f_{AB}(x)=\frac{pu+qv}{ru+sv}=f_A(f_B(x))$ である。$\square$
1 次分数関数を、複素数まで含めて考えたものを 1 次分数変換または Möbius 変換という(Möbius変換、Hit18 §3.4)。prop-flt-composition により、合成は行列の積に対応する。$A$ を $0$ でない数 $c$ 倍しても $f_{cA}=f_A$ なので、1 次分数変換は「定数倍を同じとみなした可逆な行列」と対応する。大学ではこれを射影一般線形群 $PGL_2$ と呼ぶ(一般線形群)。
分母が $0$ になる点を「無限遠点 $\infty$ に移る」と考え、$\infty$ を 1 点として付け加えると(射影直線。複素数では Riemann 球面、射影空間)、$f$ は途中で止まらない全単射になる。ex-flt-pole の数列は、$\infty$ を通ってそのまま進む。
不動点は行列の固有ベクトルに対応する。$\alpha$ が不動点なら $p\alpha+q=\alpha(r\alpha+s)$ なので
$$
A\begin{pmatrix}\alpha\\ 1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}p\alpha+q\\ r\alpha+s\end{pmatrix}=(r\alpha+s)\begin{pmatrix}\alpha\\ 1\end{pmatrix}
$$
であり、$\begin{pmatrix}\alpha\\ 1\end{pmatrix}$ は固有値 $\lambda:=r\alpha+s$ の固有ベクトルである(固有値)。thm-flt-fixed の公比 $k=\frac{r\beta+s}{r\alpha+s}$ は、2 つの固有値の比 $\frac\mu\lambda$($\mu:=r\beta+s$)である。解と係数の関係 $\alpha+\beta=\frac{p-s}r$、$\alpha\beta=-\frac qr$ から
$$
\lambda+\mu=r(\alpha+\beta)+2s=p+s,\qquad \lambda\mu=r^2\alpha\beta+rs(\alpha+\beta)+s^2=ps-qr
$$
となり、固有値の和と積は行列の対角成分の和(トレース)と行列式である(トレースと固有値)。したがって
$$
k+\frac1k+2=\frac{(\lambda+\mu)^2}{\lambda\mu}=\frac{(p+s)^2}{ps-qr}
$$
で、$m:=\frac{(p+s)^2}{ps-qr}$ だけで様子が分かる。$m>4$ または $m<0$ なら $k$ は $|k|\ne1$ の実数で、初項が不動点でなくすべての項が定まるなら、数列は一方の不動点に近づく(例 2 は $m=\frac{4}{-1}=-4$)。$m=4$ なら重解(ex-flt-fixed-use の 2 は $m=\frac{16}4=4$)。$0\le m<4$ なら $|k|=1$ で、ex-flt-periodic の 3 つは $m=1,\ 2,\ 0$ にあたる。1 の $k$ は $1$ の 3 乗根、2 の $k$ は $1$ の 4 乗根 $\pm i$ で(1の冪根)、周期と一致する。
不動点を $\alpha,\beta$ として $\frac{f(z)-\alpha}{f(z)-\beta}=k\cdot\frac{z-\alpha}{z-\beta}$ と書く形、不動点が 1 つのとき $\frac1{f(z)-\alpha}=\frac1{z-\alpha}+d$ と書く形は、Möbius 変換の標準形と呼ばれる。不動点が 2 つの場合は $k$ の値で、楕円型($|k|=1$)・双曲型($k$ が $1$ でない正の実数)・斜航型(それ以外)に分けられ、不動点が 1 つの場合を放物型という(Hit18 §3.5)。例 2 の $k=2\sqrt2-3$ は負の実数なので、この呼び方では双曲型ではなく斜航型である。図1で点が渦を巻くように近づくのは、この「負の数を掛ける」ことの表れである。thm-flt-fixed は、その実数の場合を数列に使ったものである。重解の場合に等差数列($n$ に比例する項)が現れるのは、固有ベクトルが 1 方向しかない行列の冪に $n$ が掛かる現象と同じである(重解とJordan細胞)。
例 2 の関数は $\frac{x+2}{x+1}=1+\frac1{1+x}$ と書ける。漸化式を何回か展開すると
$$
a_4=1+\cfrac1{2+\cfrac1{2+\cfrac1{1+a_1}}}
$$
のような分数の入れ子になる。例 2 の $1,\frac32,\frac75,\frac{17}{12},\frac{41}{29},\dots$ は、$\sqrt2$ の連分数展開 $1+\cfrac1{2+\cfrac1{2+\cdots}}$ を途中で打ち切った分数(近似分数)と一致する。ex-flt-pell の $x_n^2-2y_n^2=\pm1$ は Pell方程式 $x^2-2y^2=\pm1$ の整数解を、行列 $\begin{pmatrix}1&2\\ 1&1\end{pmatrix}$ を掛けて次々に作っていることにあたる。
数学オリンピックの問題は、この記事の主題(分数型の漸化式の解き方)に直接合うものを選べなかったので入れていない。
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