chronological時空

同義語:chronological spacetime

概要

chronological時空(chronological spacetime)とは、閉時間的曲線をもたない時空、すなわちどの点 $p$ も自分の時間的未来 $I^+(p)$ に属さない時空であり、時間的曲線で結べるという関係 $\ll$ が狭義の半順序になることと同値である。閉時間的曲線の通る点の集合(chronology violating set)は開集合で、互いに交わらない連結な開集合 $I^+(p)\cap I^-(p)$ の和に分かれ、そのそれぞれは Totally Vicious な時空になる。chronological であることは過去体積関数が未来向き時間的曲線に沿って狭義に増加することと同値であり、chronological だが閉じた因果曲線をもつ時空には閉じた光的測地線がある。コンパクトな時空は chronological でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 時空, Totally Vicious時空, 因果階層

時空 の中で、未来向きの時間的曲線が出発点に戻ってくるとき、それを閉時間的曲線という。物理的には、観測者が自分自身の過去に戻ってくる世界線である。閉時間的曲線をもたない時空を chronological 時空(chronological spacetime)という。これは 因果階層 の下から 2 番目の段であり、すべての点を閉時間的曲線が通る最悪の状態(Totally Vicious時空)を除くだけの最下段より強く、閉じた因果曲線を除く「因果的」より弱い。
chronological であることは、関係 $\ll$(時間的曲線で結べること)が狭義の半順序になることと同じである。この記事では、閉時間的曲線の通る点の集合(chronology violating set)が開集合で、互いに交わらない開集合の和に分かれ、そのそれぞれが Totally Vicious な時空になることを証明する。さらに、chronological であることを時間的過去の体積で特徴づけ、chronological だが因果的でない時空には閉じた光的測地線があることを示す。コンパクトな時空はどれも chronological でないので、chronological な時空はすべて非コンパクトである。

定義

以下、時空 $(M,g)$(連結で時間的向き付けを固定した Lorentz 多様体、次元 $n\ge2$)、未来向き時間的曲線・因果曲線(区分的に滑らか)、関係 $p\ll q$、$p\le q$、集合 $I^\pm(p)$、$J^\pm(p)$、閉時間的曲線は 時空 の記事の定義に従う。同記事の定理「時間的未来の基本性質」の 1($I^\pm(p)$ は開集合)と 2(押し上げ:$p\le q\ll r$ または $p\ll q\le r$ なら $p\ll r$)を繰り返し使う。

chronological時空

時空 $(M,g)$ が chronological であるとは、閉時間的曲線をもたないこと、すなわちすべての $p\in M$ について $p\notin I^+(p)$ が成り立つことをいう。

$p$ を通る閉時間的曲線があることと $p\ll p$ は同値である(時空 の記事の定義「因果曲線と時間的未来・因果的未来」)。

chronology violating set

時空 $(M,g)$ の部分集合
$$ \mathcal{V}:=\{p\in M\mid p\ll p\} $$
を chronology violating set という。すなわち $\mathcal{V}$ は、閉時間的曲線が通る点の全体である。$p,q\in\mathcal{V}$ について $p\ll q\ll p$ のとき $p\sim q$ と書く。

chronologicalの言い換え

時空 $(M,g)$ について次は同値である。

  1. chronological である。
  2. $\mathcal{V}=\emptyset$。
  3. すべての $p$ について $I^+(p)\cap I^-(p)=\emptyset$。
  4. 関係 $\ll$ は非反射的である。このとき $\ll$ は $M$ 上の狭義の半順序(非反射的かつ推移的)である。

1・2・4 の同値は定義そのものである。3 $\Rightarrow$ 4:$p\ll p$ なら $p\in I^+(p)\cap I^-(p)$ である。4 $\Rightarrow$ 3:$q\in I^+(p)\cap I^-(p)$ なら $p\ll q\ll p$ であり、$\ll$ の推移性(時空 の記事の命題「因果的順序は前順序である」)から $p\ll p$ となる。推移性はつねに成り立つので、非反射的なら狭義の半順序である。$\square$

chronology violating set の構造

chronology violating setの分解

時空 $(M,g)$ について次が成り立つ。

  1. $\sim$ は $\mathcal{V}$ 上の同値関係であり、$p\in\mathcal{V}$ の同値類は $[p]=I^+(p)\cap I^-(p)$ である。
  2. 各同値類 $[p]$ は空でない連結な開集合である。したがって $\mathcal{V}$ は開集合であり、互いに交わらない連結な開集合 $[p]$ の和である。
  3. 各同値類 $[p]$ に $g$ を制限した時空 $([p],g)$ は Totally Vicious である。

1。 $p\in\mathcal{V}$ なら $p\ll p\ll p$ なので $p\sim p$ である。対称性は定義から明らかで、推移性は $\ll$ の推移性から従う。$q\in I^+(p)\cap I^-(p)$ とすると $p\ll q\ll p$ であり、$q\ll p\ll q$ から $q\ll q$、すなわち $q\in\mathcal{V}$ で $q\sim p$ である。逆に $q\sim p$ なら $q\in I^+(p)\cap I^-(p)$ である。よって $[p]=I^+(p)\cap I^-(p)$ である。
2。 $I^\pm(p)$ は開集合なので $[p]$ は開集合であり、$p\in[p]$ なので空でない。連結性を示す。$q\in[p]$ とし、$p$ から $q$ への未来向き時間的曲線 $\alpha$ をとる。$\alpha$ 上の点 $r\neq p$ について、$\alpha$ の $p$ から $r$ までの部分は時間的なので $p\ll r$ であり、$r$ から $q$ までの部分と $q\ll p$ をつないで $r\ll p$ である($r=q$ なら $q\ll p$ そのもの)。よって $\alpha$ は $[p]$ に含まれ、$[p]$ の各点は $[p]$ の中で $p$ と曲線で結べる。したがって $[p]$ は弧状連結である。$\mathcal{V}$ は同値類の和なので開集合であり、異なる同値類は交わらない。
3。 $([p],g)$ は連結な開部分多様体に $g$ と時間的向き付けを制限したものなので時空である。$q,r\in[p]$ を任意にとる。$q\ll p$ を実現する時間的曲線 $\beta$ と $p\ll r$ を実現する時間的曲線 $\gamma$ をつなぐと $q$ から $r$ への未来向き時間的曲線ができる。$\beta$ 上の点 $z$ は $z\ll p$ かつ $p\ll q\ll z$($z=q$ なら $p\ll q$)を満たすので $z\in[p]$ であり、$\gamma$ 上の点も同様に $[p]$ に属する。したがってこの曲線は $[p]$ に含まれ、$([p],g)$ の中で $q\ll r$ が成り立つ。$q,r$ は任意なので、$([p],g)$ の任意の 2 点は互いに時間的曲線で結べ、Totally Vicious時空 の記事の定義「Totally Vicious時空」の条件を満たす。$\square$

$\mathcal{V}$ が開集合であることから、chronological でない時空では、閉時間的曲線の通る点のまわりの点もすべて閉時間的曲線の上にある。一方、$M\setminus\mathcal{V}$ は閉集合で、空でないことも空であることもある。Totally Vicious であることは $\mathcal{V}=M$ と同値である(Totally Vicious時空 の記事の定理「同値な条件」の (T1) と (T3))。

コンパクトな時空

コンパクトな時空では $\mathcal{V}\neq\emptyset$ である。したがって chronological な時空はコンパクトでない。

Totally Vicious時空 の記事の命題「コンパクト時空はCTCを持つ」による。$\square$

体積関数による特徴づけ

時間関数 の記事の定義「許容測度と体積関数」の許容測度 $\mu$(有限で、空でない開集合に正の値をとる測度)と過去体積関数 $t^-(p)=\mu(I^-(p))$ を使う。$p\le q$ なら $t^-(p)\le t^-(q)$ である(同記事の定理「体積関数の性質」の 1)。

体積関数による特徴づけ

時空 $(M,g)$ と許容測度 $\mu$ について、次は同値である。

  1. $(M,g)$ は chronological である。
  2. $p\ll q$ ならば $t^-(p)< t^-(q)$ である。すなわち $t^-$ はすべての未来向き時間的曲線に沿って狭義に増加する。

2 $\Rightarrow$ 1:$p\ll p$ となる点があれば、2 から $t^-(p)< t^-(p)$ となって矛盾する。
1 $\Rightarrow$ 2:$p\ll q$ かつ $t^-(p)=t^-(q)$ と仮定する。押し上げにより $I^-(p)\subset I^-(q)$ なので、$\mu(I^-(q)\setminus I^-(p))=t^-(q)-t^-(p)=0$ である。$p$ から $q$ への未来向き時間的曲線の途中の点 $r$ は $p\ll r\ll q$ を満たすので、$W:=I^+(p)\cap I^-(q)$ は空でない開集合であり、$\mu(W)>0$ である。$W\subset I^-(q)$ なので $W\cap I^-(p)\neq\emptyset$ であり、その点 $s$ は $p\ll s\ll p$ を満たす。推移性から $p\ll p$ となり、chronological であることに反する。$\square$

$t^-$ は閉じた因果曲線の上では定数なので、「因果的」を同じ形で特徴づけることはできない。過去体積関数が未来向き因果曲線に沿って狭義に増加することは、より強い過去識別性と同値である(時間関数 の記事の定理「体積関数の性質」の 3 と MS08 Theorem 3.51、p. 36)。

chronological だが因果的でない時空

chronological な時空にも閉じた因果曲線はありうる(下の例)。そのような曲線は光的測地線に限られる。証明には次の事実を使う。

光的測地線でない因果曲線

$x\neq y$ を結ぶ未来向き因果曲線が、パラメータの取り替えを除いて光的測地線でないならば、$x\ll y$ である。この記事では証明しない(MS08 Theorem 2.30、p. 15、Min19 Theorem 2.22、p. 35)。

閉じた光的測地線の存在

chronological な時空 $(M,g)$ の閉じた因果曲線は、パラメータを取り替えると閉じた光的測地線になる。とくに chronological な時空が閉じた因果曲線をもつならば、閉じた光的測地線、すなわち光的測地線 $c\colon[a,b]\to M$ で $c(a)=c(b)$ かつ $c'(b)=\lambda c'(a)$($\lambda>0$)となるものがある。

$\gamma\colon[0,1]\to M$ を $\gamma(0)=\gamma(1)$ となる未来向き因果曲線とし、周期 $1$ で延ばした曲線 $\sigma\colon\mathbb{R}\to M$、$\sigma(s):=\gamma(s-\lfloor s\rfloor)$ を考える。$\sigma$ は区分的に滑らかな未来向き因果曲線である(整数点は区分点になりうる)。
$s_0\in\mathbb{R}$ を任意にとる。$\sigma(s_0)$ のまわりの座標 $(x^0,\dots,x^{n-1})$ を、$\sigma(s_0)$ で $g$ が $-(dx^0)^2+\sum_{i\ge1}(dx^i)^2$ となり $\partial_0$ が未来向きになるようにとる。このとき $\sigma(s_0)$ で $0$ でない未来向き因果ベクトル $v$ は $dx^0(v)>0$ を満たし、光円錐の連続性からこれは $\sigma(s_0)$ の近傍でも成り立つ。したがって $\delta\in(0,1/2)$ を十分小さくとると、$x^0\circ\sigma$ は $[s_0-\delta,s_0+\delta]$ で狭義に増加し、$x:=\sigma(s_0-\delta)$ と $y:=\sigma(s_0+\delta)$ は相異なる。$\sigma$ の $[s_0-\delta,s_0+\delta]$ の部分が光的測地線のパラメータを取り替えたものでないとすると、rem-chr-non-geodesic-causal により $x\ll y$ である。一方、$\sigma$ の $[s_0+\delta,s_0-\delta+1]$ の部分は $y$ から $\sigma(s_0-\delta+1)=x$ への未来向き因果曲線なので $y\le x$ である。押し上げにより $x\ll x$ となり、chronological であることに反する。
よって $\sigma$ は各点の近くで光的測地線のパラメータを取り替えたものであり、区分点でも折れていない。すなわち各 $s_0$ について、光的測地線 $c_{s_0}$ と狭義増加の連続関数 $\varphi_{s_0}$ で、$[s_0-\delta,s_0+\delta]$ の上で $\sigma=c_{s_0}\circ\varphi_{s_0}$ となるものがある。このような 2 つの区間が重なるとき、重なりの中の点 $s$ をとると、$c_{s_0}$ と $c_{s_1}$ はどちらも $\sigma(s)$ の近くで $\sigma$ の同じ小区間の像を同じ向きにたどるので、$\sigma(s)$ での両者の速度は一方が他方の正の数倍である。測地線は 1 点での速度で決まるので、$c_{s_1}$ は $c_{s_0}$ のパラメータを $u\mapsto\alpha u+\beta$($\alpha>0$)と取り替えたものと一致し、両者は 1 本の光的測地線にまとまる。$[-1,2]$ を、隣どうしが重なる有限個のこのような区間で覆って順につなげると、光的測地線 $c$ と狭義増加の連続関数 $\varphi$ で $[-1,2]$ の上で $\sigma=c\circ\varphi$ となるものが得られる。$\sigma(1+h)=\sigma(h)$ なので、$c$ は $\varphi(1)$ の近くで $\varphi(0)$ の近くと同じ点を同じ向きにたどる。測地線の速度は $0$ にならず、パラメータの取り替えは向きを保つので、$c'(\varphi(1))$ は $c'(\varphi(0))$ の正の数倍である。$a=\varphi(0)$、$b=\varphi(1)$ とすればよい。$\square$

例と反例

chronologicalな時空
  1. 時間関数をもつ時空は chronological である(時間関数 の記事の命題「時間関数をもつ時空の因果性」)。とくに Minkowski 時空は、座標 $t$ が時間関数なので chronological である。
  2. chronological な時空の連結な開部分集合は、制限した計量で chronological である。閉時間的曲線はもとの時空の閉時間的曲線でもあるからである。
  3. 計量を正の関数倍しても(共形変換)、時間的ベクトルは時間的ベクトルのままなので、chronological かどうかは変わらない。
  4. $\pi\colon\tilde M\to M$ が時間的向き付けを保つ局所等長な被覆写像で $M$ が chronological なら、$\tilde M$ も chronological である。$\tilde M$ の閉時間的曲線を $\pi$ で写すと $M$ の閉時間的曲線になるからである。

例の 4 の逆は成り立たない。$\mathbb{R}^2$ 上の Minkowski 計量 $dx^2-d\theta^2$($\partial_\theta$ を未来向き)は chronological だが、$\theta$ を $2\pi$ で割った閉時間的曲線をもつ Lorentz 円柱(時空 の記事の例「閉時間的曲線をもつLorentz円柱」)を被覆し、そちらは $\mathcal{V}=M$ である。Gödel 時空も $\mathcal{V}=M$ である(Totally Vicious時空 の記事の例「Gödel時空」)。

chronology violating set が全体でない例

Totally Vicious時空 の記事の例「反例:TVでないコンパクト時空」のトーラス $T^2=\mathbb{R}^2/\bigl((t,x)\sim(t+1,x)\sim(t,x+2\pi)\bigr)$、計量 $g=\cos^2x\,(-dt^2+dx^2)+2\sin x\,dt\,dx$、未来向きのベクトル場 $V=\partial_t-\sin x\,\partial_x$ を考える。この時空の chronology violating set は
$$ \mathcal{V}=\{\cos x\neq0\} $$
であり、2 つの同値類 $\{\lvert x\rvert<\pi/2\}$ と $\{\pi/2< x< 3\pi/2\}$($x$ は $2\pi$ を法として考える)からなる。補集合は 2 本の光的な閉曲線 $\{x=\pm\pi/2\}$ である。

$v=(L,\xi)=L\partial_t+\xi\partial_x$ について
$$ g(v,v)=\cos^2x\,(\xi^2-L^2)+2L\xi\sin x,\qquad g(v,V)=-L+\xi\sin^3x $$
である($g(\partial_t,\partial_t)=-\cos^2x$、$g(\partial_t,\partial_x)=\sin x$、$g(\partial_x,\partial_x)=\cos^2x$ から計算する)。
$\mathcal{V}\supset\{\cos x\neq0\}$ で、各帯が 1 つの同値類であること:$x_1,x_2$ が同じ帯 $\{\lvert x\rvert<\pi/2\}$(または $\{\pi/2< x< 3\pi/2\}$)にあるとし、$q_i=(t_i,x_i)$ とおく。$\mathbb{R}^2$ への持ち上げで、曲線 $s\mapsto(t_1+Ls,\ x_1+(x_2-x_1)s)$($0\le s\le1$)を考えると、$x$ はこの帯の閉区間に収まるので、そこで $\cos^2x\ge c>0$ となる定数 $c$ がある。$\xi=x_2-x_1$ を固定して $L\to\infty$ とすると $g(v,v)\le-cL^2+O(L)< 0$、$g(v,V)=-L+O(1)< 0$ なので、十分大きな $L$ で曲線は未来向き時間的である。$t$ は $1$ を法として考えるので、$L\equiv t_2-t_1\pmod 1$ を満たす大きな $L$ をとれば、曲線は $q_1$ から $q_2$ に達する。よって同じ帯の任意の 2 点について $q_1\ll q_2$ であり、とくに $q_1\ll q_1$ である。
$x=\pm\pi/2$ の点は $\mathcal{V}$ に属さないこと:$x=\pi/2$ では $g(v,v)=2L\xi$、$g(v,V)=\xi-L$ なので、未来向き時間的なら $L\xi< 0$ かつ $\xi< L$、したがって $\xi< 0< L$ である。$x=-\pi/2$ では同様に $\xi>0$ である。$p$ を $x=\pi/2$ の点とし、$p$ から出る未来向き時間的曲線 $\gamma(s)=(t(s),x(s))$ を、$x(0)=\pi/2$ となるように $\mathbb{R}^2$ へ持ち上げる。出発点での右側の接ベクトルは $\xi< 0$ を満たすので、小さい $s>0$ で $x(s)\in(-\pi/2,\pi/2)$ である。ある $s_1>0$ で初めて $x(s_1)=\pi/2$ になるなら、そこでの左側の接ベクトルは $\xi\ge0$ を満たして矛盾し、初めて $x(s_1)=-\pi/2$ になるなら $\xi\le0$ を満たして矛盾する。よって $s>0$ では $x(s)\in(-\pi/2,\pi/2)$ であり、$\gamma$ は $x\equiv\pi/2\pmod{2\pi}$ の点に戻らない。とくに $p\notin\mathcal{V}$ である。$x=-\pi/2$ の点から出る未来向き時間的曲線も、出発点で $\xi>0$ なので小さい $s>0$ で $x(s)\in(-\pi/2,\pi/2)$ となり、同じ議論でその後は帯 $(-\pi/2,\pi/2)$ にとどまるので、$\mathcal{V}$ に属さない。
以上より $\mathcal{V}=\{\cos x\neq0\}$ であり、$\mathcal{V}$ は交わらない 2 つの開集合である帯の和である。thm-chr-violating-set の 2 により各同値類は連結なので、どちらか一方の帯に含まれる。一方、上で示したとおり各帯は 1 つの同値類に含まれるので、同値類はちょうど 2 つの帯である。最後に、$\{x=\pm\pi/2\}$ は $g(\partial_t,\partial_t)=-\cos^2x=0$ なので光的な閉曲線である。$\square$

この例は、chronology violating set の補集合にある閉じた光的曲線が thm-chr-violating-set の各同値類の境界をなす様子を示している。$\{x=\pm\pi/2\}$ の点から出る時間的曲線は帯 $\{\lvert x\rvert<\pi/2\}$ に入ったまま出られない。
次の表の各行は、左の条件を満たし、右の含意を破る例である。

満たす条件例成り立たなくなること
chronological因果階層 の記事の例「光的な閉曲線をもつ円柱」chronological $\Rightarrow$ 因果的
non-totally viciousex-chr-torusnon-totally vicious $\Rightarrow$ chronological
被覆空間が chronological閉時間的曲線をもつ Lorentz 円柱被覆空間が chronological なら底空間も chronological

表の 1 行目の円柱では、閉じた因果曲線 $\{x=0\}$ は光的であり、thm-chr-null-loop のとおり光的測地線である。

文献

chronological 時空の定義とコンパクトな時空が chronological でないことは MS08 Definition 3.5・Theorem 3.6(p. 21)、chronological だが因果的でない時空の閉じた光的測地線は同 Theorem 3.8(p. 21)、体積関数による特徴づけは同 Theorem 3.49(p. 35)にある。chronology violating set が開集合で同値類の和になることは Min19 Definition 2.76 の後の段落(pp. 57–58)にある。各同値類が Totally Vicious であることはこの記事で示した。

関連項目

参考文献

[1]
Ettore Minguzzi and Miguel Sánchez, The causal hierarchy of spacetimes, Recent Developments in Pseudo-Riemannian Geometry, ESI Lectures in Mathematics and Physics, European Mathematical Society, 299–358, 2008, arXiv 版(v3):Theorem 2.30(p. 15)、Definition 3.5・Theorem 3.6・Theorem 3.8(p. 21)、Theorem 3.49(p. 35)、Theorem 3.51(p. 36)

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