脈体(nerve)とは、小さな圏 $\mathcal{C}$ に対し、合成可能な $n$ 本の射の列(関手 $[n]\to\mathcal{C}$)を $n$ 単体とし、面写像を射の合成と端の射の除去、退化写像を恒等射の挿入で定めた単体的集合 $N(\mathcal{C})$ である。脈体をとる関手は圏の圏から単体的集合の圏への充満忠実な関手で、基本圏をとる関手を左随伴にもつ。単体的集合が圏の脈体と同型になるのは、すべての内側のホーンがただ 1 通りに埋まるときであり、一意性を外すと準圏(∞圏)の定義になる。例えば群 $G$ の脈体 $BG$ は $n$ 単体の集合が $G^n$ である。
小さな圏 $\mathcal C$ の脈体 $N(\mathcal C)$ は、$\mathcal C$ の対象を頂点、射を辺、合成可能な $2$ 本の射とその合成を三角形、合成可能な $n$ 本の射の列を $n$ 単体として並べた単体的集合である。圏の構造(合成と恒等射)は面写像と退化写像の中にそのまま書き込まれ、しかも失われない:脈体をとる操作 $N$ は圏の圏から単体的集合の圏への充満忠実な関手であり、どの単体的集合が脈体になるかは「内側のホーンがただ 1 通りに埋まる」という条件で判定できる。この条件から一意性を外したものが準圏(∞圏)であり、脈体は通常の圏を∞圏の中に置く入口になる。
単体圏 $\Delta$ は、対象を有限全順序集合 $[n]=\{0<1<\cdots< n\}$($n\geq0$)、射を順序を保つ写像とする圏であり、単体的集合は関手 $X\colon\Delta^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ である。$X_n=X([n])$ の元を $n$ 単体という。$i$ を飛ばす単射 $\delta^i\colon[n-1]\to[n]$ と、$i$ と $i+1$ を同じ値へ送る全射 $\sigma^i\colon[n+1]\to[n]$ から、面写像 $d_i=X(\delta^i)$ と退化写像 $s_i=X(\sigma^i)$ が定まる。単体的集合と単体的写像(自然変換)の圏を $\mathbf{sSet}$ と書く。
標準 $n$ 単体 $\Delta^n$ は $[n]$ が表現する単体的集合 $\operatorname{Hom}_{\Delta}(-,[n])$ であり、米田の補題により単体的写像 $\Delta^n\to X$ と $X$ の $n$ 単体が対応する。$0\leq j\leq n$ に対し、$j$ を値にとらない順序写像からなる部分単体的集合を $j$ 番目の面 $F_j\subseteq\Delta^n$ と書く($F_j\cong\Delta^{n-1}$)。$n\geq1$、$0\leq k\leq n$ に対し、$F_k$ 以外の面の和
$$ \Lambda^n_k=\bigcup_{j\neq k}F_j\subseteq\Delta^n $$
を $k$ 番目のホーンといい、$0< k< n$ のとき内側のホーン、$k=0,n$ のとき外側のホーンという。すべての面の和を境界 $\partial\Delta^n$ と書く。単体的写像 $\Lambda^n_k\to X$ が $\Delta^n\to X$ へ延びるとき、そのホーンは埋まる(延長を充填という)という。
$a\leq b$ に対し、$0\mapsto a$、$1\mapsto b$ で定まる順序写像 $[1]\to[n]$ に沿った $n$ 単体 $\sigma$ の引き戻しを $\sigma|_{\{a,b\}}$ と書き、$\sigma$ の辺という。同じように $\sigma|_{\{a,b,c\}}$ は $a\leq b\leq c$ を頂点とする $2$ 単体である。隣り合う頂点を結ぶ辺 $\sigma|_{\{0,1\}},\sigma|_{\{1,2\}},\ldots,\sigma|_{\{n-1,n\}}$ を $\sigma$ の背骨という。
$[n]$ は $i\leq j$ のときだけ $i$ から $j$ への射がちょうど $1$ 本ある圏とみなせる。順序を保つ写像 $\alpha\colon[m]\to[n]$ はこの圏の間の関手である。
関手 $u\colon[n]\to\mathcal C$ は、隣り合う $i-1\leq i$ の間の射 $f_i=u(i-1\to i)$ で決まる。したがって $n$ 単体は合成可能な $n$ 本の射の列
$$ c_0\xrightarrow{f_1}c_1\xrightarrow{f_2}\cdots\xrightarrow{f_n}c_n $$
と同じである($0$ 単体は対象、$1$ 単体は射)。この書き方で、面写像 $d_i$ は $i=0$ なら $f_1$ を、$i=n$ なら $f_n$ を取り除き、$0< i< n$ なら $f_i,f_{i+1}$ を合成 $f_{i+1}\circ f_i$ に置き換える。退化写像 $s_i$ は $c_i$ の位置に恒等射 $\mathrm{id}_{c_i}$ を挿入する。恒等射を含む列は退化単体であり、恒等射を含まない列が非退化単体である。
$2$ 単体 $(f,g)$ の $3$ 本の辺は $d_2=f$、$d_0=g$、$d_1=g\circ f$ である。つまり脈体の $2$ 単体は、次の可換な三角形そのものである。
$$ \xymatrix{ & c_1 \ar[dr]^{g} & \\ c_0 \ar[ur]^{f} \ar[rr]_{g\circ f} & & c_2 } $$
関手 $F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ は後合成 $u\mapsto F\circ u$ で単体的写像 $N(F)\colon N(\mathcal C)\to N(\mathcal D)$ を与え、$N(G\circ F)=N(G)\circ N(F)$、$N(\mathrm{id})=\mathrm{id}$ が成り立つ。
小さな圏と関手の圏を $\mathbf{Cat}$ と書く。$\mathcal C\mapsto N(\mathcal C)$、$F\mapsto N(F)$ で定まる関手 $N\colon\mathbf{Cat}\to\mathbf{sSet}$ を脈体関手という。
「脈体」という語は、位相空間の開被覆から作る単体的複体(被覆の脈体)にも使われる。ここで扱うのは圏の脈体であり、被覆の脈体は別の構成である。
$N([n])\cong\Delta^n$ である。実際 $N([n])_m=\operatorname{Fun}([m],[n])$ は順序を保つ写像 $[m]\to[n]$ の集合 $\operatorname{Hom}_{\Delta}([m],[n])=(\Delta^n)_m$ に等しく、構造写像はどちらも前合成である。特に $N([0])=\Delta^0$ は $1$ 点、$N([1])=\Delta^1$ は $1$ 本の辺である。
順序集合 $P$ を「$p\leq q$ のときだけ $p$ から $q$ への射がちょうど $1$ 本ある圏」とみなすと、$N(P)_n$ は鎖 $p_0\leq p_1\leq\cdots\leq p_n$ の集合であり、非退化単体は狭義の鎖 $p_0< p_1<\cdots< p_n$ である。これは $P$ の順序複体(有限な狭義の鎖を単体とする単体複体)を単体的集合として書いたものである。
例えば $P=[1]\times[1]=\{(0,0),(0,1),(1,0),(1,1)\}$(成分ごとの順序)では、非退化単体は頂点 $4$ 個、辺 $5$ 本(正方形の $4$ 辺と対角線 $(0,0)<(1,1)$)、三角形 $2$ 個($(0,0)<(0,1)<(1,1)$ と $(0,0)<(1,0)<(1,1)$)で、$3$ 次元以上の非退化単体はない。$N([1]\times[1])$ は正方形を対角線で $2$ つの三角形に分けたものであり、後で示す命題「脈体は積を保つ」により $\Delta^1\times\Delta^1$ と同型である。
群 $G$ を、対象が $1$ つで射が $G$ の元、合成が群の積 $g\circ h=gh$ である圏とみなす。その脈体を $BG$ と書く。$BG_n=G^n$ であり、$n$ 単体 $(g_1,\ldots,g_n)$ に対し
$$ d_i(g_1,\ldots,g_n)= \begin{cases} (g_2,\ldots,g_n) & (i=0),\\ (g_1,\ldots,g_{i-1},\,g_{i+1}g_i,\,g_{i+2},\ldots,g_n) & (0< i< n),\\ (g_1,\ldots,g_{n-1}) & (i=n), \end{cases} \qquad s_i(g_1,\ldots,g_n)=(g_1,\ldots,g_i,e,g_{i+1},\ldots,g_n) $$
である($e$ は単位元)。$0$ 単体はただ $1$ つで、各元 $g$ はその頂点から自分自身への辺、つまりループである。$BG$ は群の分類空間(分類空間)の組合せ的な模型であり、すべての射が可逆であることは、外側のホーンまで埋まるという性質に現れる(すべてのホーンが埋まる単体的集合を Kan複体という)。
対象 $x,y$ と、恒等射のほかに $2$ 本の射 $f,g\colon x\to y$ だけをもつ圏 $\mathcal K$ を考える。恒等射でない射の合成可能な列は長さ $1$ のもの($f$ と $g$)しかないので、$N(\mathcal K)$ の非退化単体は頂点 $x,y$ と辺 $f,g$ だけである。単体を貼り合わせて図形を作ると、$2$ 本の辺を両端で貼った円周になる。$\mathcal K$ そのものには「ループ」がないが、脈体は $f$ と $g$ が $2$ 通りの道であることを $1$ 次元の穴として記録する。
$2$ 対象の圏でも、$x\to y$ の射が $1$ 本だけなら脈体は $\Delta^1$ であり、穴はない。逆に $\mathcal K$ に対象 $w$ と射 $a\colon w\to x$ を加え、$f\circ a=g\circ a$($=h$ とおく)とすると、$2$ 単体 $(a,f)$ と $(a,g)$ が辺 $a,h$ を共有して貼り合わさり、$f$ と $g$ がつくる円周をふさぐ円板ができる。脈体の形は射の本数だけでなく合成の関係で決まる。
脈体の単体は関手 $[n]\to\mathcal C$ であり、関手は「頂点ごとの対象」と「$a< b$ ごとの射」で、三角形ごとの合成の関係を満たすものとして決まる。この見方で、ホーンや境界からの写像を調べる。まず、一般の単体的集合について、ホーンからの写像を面の族として書く。
単体的集合 $X$、$n\geq2$、$0\leq k\leq n$ とする。単体的写像 $\Lambda^n_k\to X$ は、$(n-1)$ 単体の族 $(x_j)_{j\neq k}$ で
$$ d_i x_j=d_{j-1}x_i\qquad(i< j,\ i\neq k,\ j\neq k) $$
を満たすものと $1$ 対 $1$ に対応する($x_j$ は面 $F_j$ への制限)。$\partial\Delta^n\to X$ についても、$j$ を $0\leq j\leq n$ 全体に動かした同じ記述が成り立つ。
要点:$\Lambda^n_k$ は面 $F_j$($j\neq k$)の和であり、部分単体的集合の和と共通部分は次数ごとに集合の和と共通部分で計算されるので、写像は各面への写像の族で、共通部分で一致するものと同じである。
面 $F_j$ は $\delta^j\colon\Delta^{n-1}\to\Delta^n$ の像であり、単体的写像 $F_j\to X$ は $(n-1)$ 単体 $x_j$ と対応する。$i< j$ のとき $F_i\cap F_j$ は $i,j$ をともに値にとらない順序写像からなり、それは $\delta^j\circ\delta^i=\delta^i\circ\delta^{j-1}\colon\Delta^{n-2}\to\Delta^n$ の像である。$x_j$ をこの共通部分へ制限したものは $x_j$ を $\delta^i$ で引き戻した $d_ix_j$、$x_i$ を制限したものは $d_{j-1}x_i$ である。$\Lambda^n_k$ の各単体はある $F_j$($j\neq k$)に入るので、写像 $\Lambda^n_k\to X$ は各 $F_j$ への制限で決まり、逆に共通部分で一致する族は次数ごとに貼り合わさって、構造写像と両立する写像を与える。境界 $\partial\Delta^n$ についても同じである。
脈体への写像では、さらに各面の単体が辺で決まる。有限全順序集合 $S$ から圏 $\mathcal C$ への関手は、各 $a\in S$ への対象 $c_a$ と、$a< b$ ごとの射 $e_{ab}\colon c_a\to c_b$ で、$a< b< c$ のとき $e_{bc}\circ e_{ab}=e_{ac}$ を満たすものと同じである(恒等射の行き先は $\mathrm{id}_{c_a}$ に決まる)。
$n\geq2$ とし、$A$ は $\Delta^n$、$\partial\Delta^n$、$\Lambda^n_k$($0\leq k\leq n$)のいずれかとする。$A$ に含まれる辺 $\{a,b\}$($a< b$)と三角形 $\{a,b,c\}$($a< b< c$)を、それぞれある面 $F_j\subseteq A$ の頂点集合 $[n]\setminus\{j\}$ に含まれるもの($A=\Delta^n$ ならすべて)とする。このとき単体的写像 $A\to N(\mathcal C)$ は、対象 $c_0,\ldots,c_n$ と、$A$ に含まれる辺ごとの射 $e_{ab}\colon c_a\to c_b$ で、$A$ に含まれる三角形ごとに $e_{bc}\circ e_{ab}=e_{ac}$ を満たすものと $1$ 対 $1$ に対応する。
要点:lem-nerve-horn-maps により写像 $A\to N(\mathcal C)$ は各面の上の関手の族で共通部分で一致するものであり、各関手は頂点の対象と辺の射で決まるので、族は頂点と辺への一貫した割り当てと同じである。
写像 $A\to N(\mathcal C)$ は、各面 $F_j\subseteq A$ の上の関手 $u_j\colon[n]\setminus\{j\}\to\mathcal C$ の族で、$F_i\cap F_j$ の上で一致するもの、つまり $[n]\setminus\{i,j\}$ への制限が一致するものである。各 $u_j$ は、$[n]\setminus\{j\}$ の頂点の対象と、その中の辺の射で三角形の関係を満たすものである。族が共通部分で一致することは、$2$ つの面に共通する頂点と辺に同じ対象と射が割り当てられることと同じなので、族は $A$ の頂点・辺全体への一貫した割り当てになる。$n\geq2$ のとき、どの頂点もある面 $F_j\subseteq A$ に入る($j\notin\{a,k\}$ となる $j$ がとれる)。逆に一貫した割り当てから、各面の関手が定まり、それらは共通部分で一致する。$A=\Delta^n$ のときは、$n$ 単体が関手 $[n]\to\mathcal C$ であることそのものである。$\square$
$\Lambda^n_k$ に含まれない辺と三角形は、頂点を数えると分かる。辺 $\{a,b\}$ がどの $F_j$($j\neq k$)にも入らないのは、$\{a,b\}$ の外の頂点が $k$ だけのとき、つまり $n=2$ で $\{a,b\}=[2]\setminus\{k\}$ のときに限る。三角形 $\{a,b,c\}$ が入らないのは、$n=2$ のとき、または $n=3$ で $\{a,b,c\}=[3]\setminus\{k\}$ のときに限る。境界 $\partial\Delta^n$ は、$n\geq2$ ならすべての辺を、$n\geq3$ ならすべての三角形を含む。
$\mathcal C$ を小さな圏とする。
lem-nerve-edge-data により、延長とは、与えられた辺と三角形の関係に足りない辺と関係を補って関手 $[n]\to\mathcal C$ にすることである。
$n\geq4$ のホーンと $n\geq3$ の境界は、すべての辺と三角形を含むので、与えられたデータがすでに関手 $[n]\to\mathcal C$ であり、延長はただ 1 つある。これで (ii) と (iii) が示された。
内側のホーンで $n=2$、$k=1$ のとき、与えられるのは $e_{01},e_{12}$ で、足りないのは辺 $e_{02}$ と関係 $e_{12}\circ e_{01}=e_{02}$ である。延長は $e_{02}=e_{12}\circ e_{01}$ とおくものに限られ、これはただ 1 つである。
内側のホーンで $n=3$ のとき、すべての辺はあるので延長は高々 1 つであり、足りない $1$ つの三角形の関係が、他の $3$ つの三角形の関係と合成の結合律から従う。$n\geq4$ の場合は (ii) に含まれる。
射の合成を並べて書く。$k=1$ なら足りないのは $\{0,2,3\}$ の関係で、他の $3$ つの三角形の関係 $e_{02}=e_{12}e_{01}$、$e_{13}=e_{23}e_{12}$、$e_{03}=e_{13}e_{01}$ から $e_{23}e_{02}=e_{23}e_{12}e_{01}=e_{13}e_{01}=e_{03}$ が従う。$k=2$ なら足りないのは $\{0,1,3\}$ の関係で、$e_{13}e_{01}=e_{23}e_{12}e_{01}=e_{23}e_{02}=e_{03}$ である。$\square$
外側のホーンは $n=2,3$ で埋まらないことがある。$n=2$、$k=0$ のホーンは射 $e_{01}\colon c_0\to c_1$ と $e_{02}\colon c_0\to c_2$ で、延長には $e_{12}\circ e_{01}=e_{02}$ となる $e_{12}$ が要る。これは一般には存在しない(下の反例)。すべての射が可逆な圏では $e_{12}=e_{02}\circ e_{01}^{-1}$ で埋まる。
prop-nerve-horn-filling の条件 (i) は、脈体を特徴づける。
単体的集合 $K$ について、次は同値である。
このとき $\mathcal C$ は同型を除いて $K$ から復元される。
(i) $\Rightarrow$ (ii) は prop-nerve-horn-filling である。存在の部分は、脈体が準圏であること(∞圏 の命題「脈体は∞圏である」)にあたる。
(ii) $\Rightarrow$ (i) を示す。$K$ から圏 $\mathcal C$ を次のように作る。対象は $K_0$ の元、$x$ から $y$ への射は $d_1f=x$、$d_0f=y$ となる $f\in K_1$、恒等射は $\mathrm{id}_x=s_0x$ とする。$f\colon x\to y$ と $g\colon y\to z$ は(lem-nerve-horn-maps により)ホーン $\Lambda^2_1\to K$ を定めるので、その延長 $\sigma_{f,g}\in K_2$ がただ 1 つあり、$g\circ f=d_1\sigma_{f,g}$ と定める。つまり $g\circ f$ は、$f,g$ を $2$ 辺にもつただ 1 つの $2$ 単体の残りの辺である。
単位律は退化した $2$ 単体 $s_1f$、$s_0f$ が、結合律は内側のホーン $\Lambda^3_2$ の延長が与え、どちらも延長の一意性から等式になる。こうして $\mathcal C$ は圏になる。
単位律:単体的恒等式から $d_0s_1f=s_0d_0f=\mathrm{id}_y$、$d_1s_1f=f$、$d_2s_1f=f$ であり、$d_0s_0f=f$、$d_1s_0f=f$、$d_2s_0f=s_0d_1f=\mathrm{id}_x$ である($2$ 単体の辺は $\{0,1\}$ が $d_2$、$\{1,2\}$ が $d_0$、$\{0,2\}$ が $d_1$)。よって $s_1f$ は辺 $f,\mathrm{id}_y$ のホーンの延長で $d_1s_1f=f$、$s_0f$ は辺 $\mathrm{id}_x,f$ のホーンの延長で $d_1s_0f=f$ であり、一意性から $\mathrm{id}_y\circ f=f=f\circ\mathrm{id}_x$ となる。
結合律:$f\colon w\to x$、$g\colon x\to y$、$h\colon y\to z$ に対し、$\sigma_{f,g}$、$\sigma_{g,h}$、$\sigma_{g\circ f,h}$ を $3$ 単体の面 $\{0,1,2\}$、$\{1,2,3\}$、$\{0,2,3\}$ に置くと、共通の辺が一致するので内側のホーン $\Lambda^3_2\to K$ ができる。その延長 $\tau$ の残りの面 $\{0,1,3\}$ は、辺 $f$、$h\circ g$、$h\circ(g\circ f)$ をもつ $2$ 単体なので、一意性から $(h\circ g)\circ f=h\circ(g\circ f)$ である。
比較の写像:$n$ 単体 $\sigma$ にその背骨の射の列を対応させる写像 $\varphi\colon K_n\to N(\mathcal C)_n$ を考える。$a\leq b$ に対し、辺 $\sigma|_{\{a,b\}}$ は背骨の $a$ から $b$ までの射の合成に等しく($a=b$ なら恒等射)、このことから $\varphi$ は単体的写像 $K\to N(\mathcal C)$ になる。
$b-a$ についての帰納法で、$2$ 単体 $\sigma|_{\{a,b-1,b\}}$ が辺 $\sigma|_{\{a,b-1\}}$、$\sigma|_{\{b-1,b\}}$、$\sigma|_{\{a,b\}}$ をもつことから $\sigma|_{\{a,b\}}=\sigma|_{\{b-1,b\}}\circ\sigma|_{\{a,b-1\}}$ となる。順序写像 $\alpha\colon[m]\to[n]$ で引き戻した単体 $\alpha^*\sigma$ の背骨は辺 $\sigma|_{\{\alpha(j-1),\alpha(j)\}}$ の列であり、いま示したことからこれは $\varphi(\sigma)$ を $\alpha$ で引き戻した列と一致する。よって $\varphi$ は構造写像と両立する。
$\varphi$ が同型であることを、$\varphi_n$ の全単射性についての帰納法で示す。$n=0,1$ では $\mathcal C$ の作り方から全単射である。$n\geq2$ とし、次数 $n-1$ 以下で全単射であるとする。次の図式は可換である。
$$ \xymatrix{ \operatorname{Hom}(\Delta^n,K) \ar[r]^{\varphi_*} \ar[d] & \operatorname{Hom}(\Delta^n,N(\mathcal C)) \ar[d] \\ \operatorname{Hom}(\Lambda^n_1,K) \ar[r]_{\varphi_*} & \operatorname{Hom}(\Lambda^n_1,N(\mathcal C)) } $$
つまり、単体的写像 $\sigma\colon\Delta^n\to K$ に対し $(\varphi\circ\sigma)|_{\Lambda^n_1}=\varphi\circ(\sigma|_{\Lambda^n_1})$ であり、$\varphi$ との合成と制限の順を入れ替えても同じ写像である。縦の写像は制限であり、仮定 (ii) と prop-nerve-horn-filling により全単射である。下の写像は、lem-nerve-horn-maps によりホーンからの写像が $(n-1)$ 単体の族で $(n-2)$ 単体の等式を満たすものであること、$\varphi_{n-1}$ が全単射で $\varphi_{n-2}$ が単射であることから、全単射である。したがって上の写像 $\varphi_n$ も全単射であり、$\varphi$ は同型 $K\cong N(\mathcal C)$ である。
最後に、$K\cong N(\mathcal C)$ なら、上の作り方で $K$ から得られる圏は $\mathcal C$ と同型である(対象と射は $0$ 単体と $1$ 単体、合成は $2$ 単体で読み取れる)。$\blacksquare$
この定理は HTT09 Proposition 1.1.2.2 であり、証明もそれに沿っている。脈体の $2$ 単体は合成を記録し、$3$ 次元以上の単体は境界だけで決まって新しい情報をもたない(prop-nerve-horn-filling の条件 (iii)、RV22 Remark 1.1.5 の「脈体は $2$ 余骨格的」)。条件 (ii) から「ただ 1 通り」を外し、延長の存在だけを求めたものが準圏であり、準圏を $(\infty,1)$ 圏のモデルとして使うのが ∞圏 の立場である。
小さな圏 $\mathcal C,\mathcal D$ に対し、$F\mapsto N(F)$ は全単射
$$ \operatorname{Hom}_{\mathbf{Cat}}(\mathcal C,\mathcal D)\longrightarrow\operatorname{Hom}_{\mathbf{sSet}}(N(\mathcal C),N(\mathcal D)) $$
である。
単射性:$N(F)$ は $0$ 単体と $1$ 単体の上で $F$ の対象の写像と射の写像そのものなので、$N(F)=N(G)$ なら $F=G$ である。
全射性:単体的写像 $\varphi\colon N(\mathcal C)\to N(\mathcal D)$ をとり、$F$ を対象では $\varphi_0$、射では $\varphi_1$ で定める。$\varphi$ は面写像 $d_0,d_1$ と両立するので $F$ は始域と終域を保ち、$s_0$ と両立するので恒等射を保つ。合成可能な $f,g$ に対し、$2$ 単体 $(f,g)$ の辺は $f,g,g\circ f$ であり、$\varphi_2(f,g)$ は $N(\mathcal D)$ の $2$ 単体で、その辺は $\varphi_1(f),\varphi_1(g),\varphi_1(g\circ f)$ である。脈体の $2$ 単体の $d_1$ は他の $2$ 辺の合成なので $\varphi_1(g\circ f)=\varphi_1(g)\circ\varphi_1(f)$ となり、$F$ は関手である。最後に、$N(F)$ と $\varphi$ はどちらも単体的写像で $1$ 単体の上で一致する。脈体の $n$ 単体は背骨の辺で決まり、単体的写像は辺を辺へ送る(辺をとる操作は構造写像である)から、$N(F)=\varphi$ である。$\blacksquare$
したがって $\mathbf{Cat}$ は $\mathbf{sSet}$ の充満部分圏とみなせる。圏とその脈体を同一視し、圏論の概念を単体的集合の言葉で述べ直せるのはこのためである(RV22 Definition 1.1.4)。
小さな圏 $\mathcal C,\mathcal D$ に対し、射影から誘導される写像 $N(\mathcal C\times\mathcal D)\to N(\mathcal C)\times N(\mathcal D)$ は同型である。
単体的集合の積は次数ごとの積で計算される(単体的集合 の定理「極限と余極限の次数ごとの計算」)。次数 $n$ では、関手 $[n]\to\mathcal C\times\mathcal D$ は成分の関手の組 $([n]\to\mathcal C,\ [n]\to\mathcal D)$ と $1$ 対 $1$ に対応し、この対応は前合成と両立する。$\blacksquare$
関手 $F,G\colon\mathcal C\to\mathcal D$ の間の自然変換 $\theta\colon F\Rightarrow G$ は、各対象 $c$ の射 $\theta_c\colon Fc\to Gc$ で、すべての射 $f\colon c\to c'$ について次の図式が可換、つまり $\theta_{c'}\circ F(f)=G(f)\circ\theta_c$ となるものである。
$$ \xymatrix{ Fc \ar[r]^{\theta_c} \ar[d]_{F(f)} & Gc \ar[d]^{G(f)} \\ Fc' \ar[r]_{\theta_{c'}} & Gc' } $$
関手 $F,G\colon\mathcal C\to\mathcal D$ の間の自然変換 $F\Rightarrow G$ は、単体的写像 $h\colon\Delta^1\times N(\mathcal C)\to N(\mathcal D)$ で、$\{0\}\times N(\mathcal C)$ への制限が $N(F)$、$\{1\}\times N(\mathcal C)$ への制限が $N(G)$ であるものと $1$ 対 $1$ に対応する。
$\Delta^1\times N(\mathcal C)\cong N([1]\times\mathcal C)$(ex-nerve-standard-simplex と prop-nerve-products)であり、prop-nerve-fully-faithful により、$h$ は関手 $H\colon[1]\times\mathcal C\to\mathcal D$ で $H(0,-)=F$、$H(1,-)=G$ となるものと $1$ 対 $1$ に対応する。そのような $H$ と自然変換は、$\theta_c=H(0\to1,\mathrm{id}_c)$ で対応する。鍵は、$[1]\times\mathcal C$ の射 $(0\to1,f)$ の $2$ 通りの分解
$$ (0\to1,f)=(\mathrm{id}_1,f)\circ(0\to1,\mathrm{id}_c)=(0\to1,\mathrm{id}_{c'})\circ(\mathrm{id}_0,f) $$
に $H$ を適用すると自然性の等式 $G(f)\circ\theta_c=\theta_{c'}\circ F(f)$ になることである。
$H$ から定めた $\theta$ は、上の等式により自然変換である。逆に自然変換 $\theta$ から、$H(\mathrm{id}_0,f)=F(f)$、$H(\mathrm{id}_1,f)=G(f)$、$H(0\to1,f)=\theta_{c'}\circ F(f)=G(f)\circ\theta_c$ と定める。$2$ つの対応は互いに逆である。$H$ が合成を保つことを確かめる。$[1]\times\mathcal C$ の $2$ つの射の合成で第 $1$ 成分に $0\to1$ が現れるのは、$(\mathrm{id}_1,g)\circ(0\to1,f)$ と $(0\to1,g)\circ(\mathrm{id}_0,f)$ の形だけである($0\to1$ が $2$ 回現れる合成はない)。前者では $G(g)\circ G(f)\circ\theta_c=G(gf)\circ\theta_c$、後者では $\theta_{c''}\circ F(g)\circ F(f)=\theta_{c''}\circ F(gf)$ となり、どちらも $H(0\to1,gf)$ の定義と一致する。第 $1$ 成分が恒等射だけの合成は $F,G$ の関手性から従う。$\square$
こうして、関手は脈体の間の単体的写像、自然変換は $\Delta^1$ でパラメーター付けられた単体的写像(ホモトピー)になる。∞圏の関手・自然変換(関手(∞圏)、自然変換(∞圏))は、この形をそのまま準圏へ広げたものである。
脈体関手には左随伴がある。単体的集合 $X$ の基本圏(ホモトピー圏)$hX$ を、次のように定める。対象は $X_0$ の元とし、射は $X_1$ の各元 $f$ を $d_1f$ から $d_0f$ への射とみなして生成される自由圏(射は辺の有限列)を、関係
$$ [s_0x]=\mathrm{id}_x\quad(x\in X_0),\qquad [d_1\sigma]=[d_0\sigma]\circ[d_2\sigma]\quad(\sigma\in X_2) $$
が生成する合同関係で割ったものとする。$X$ が準圏なら、$hX$ の射は辺のホモトピー類として簡単に書ける(∞圏のホモトピー圏、RV22 Lemma 1.1.12)。
単体的集合 $X$ と小さな圏 $\mathcal C$ に対し、$X$ と $\mathcal C$ について自然な全単射
$$ \operatorname{Hom}_{\mathbf{Cat}}(hX,\mathcal C)\cong\operatorname{Hom}_{\mathbf{sSet}}(X,N(\mathcal C)) $$
がある。つまり $h\colon\mathbf{sSet}\to\mathbf{Cat}$ は $N$ の左随伴であり、余単位 $\varepsilon_{\mathcal C}\colon hN(\mathcal C)\to\mathcal C$ は同型である。
単体的写像 $u\colon X\to N(\mathcal C)$ から関手を作る。頂点 $x$ を $u_0(x)$ へ、辺 $f$ を射 $u_1(f)$ へ送ると、$u$ が $d_0,d_1$ と両立するので始域と終域が合い、自由圏からの関手が定まる。$u$ は $s_0$ と両立するので $u_1(s_0x)=\mathrm{id}$、$2$ 単体 $\sigma$ に対し $u_2(\sigma)$ は脈体の $2$ 単体なので $u_1(d_1\sigma)=u_1(d_0\sigma)\circ u_1(d_2\sigma)$ である。よって関係は保たれ、関手 $hX\to\mathcal C$ が得られる。逆に関手 $F\colon hX\to\mathcal C$ からは、各単体を背骨の辺の像の列へ送ることで単体的写像が得られ、$2$ つの対応は互いに逆である。
関手 $F\colon hX\to\mathcal C$ から、$n$ 単体 $\sigma$ を背骨の射の列 $\bigl(F[\sigma|_{\{0,1\}}],\ldots,F[\sigma|_{\{n-1,n\}}]\bigr)$ へ送る写像 $u$ を作る。$hX$ の中で $[\sigma|_{\{a,b\}}]$ は背骨の $a$ から $b$ までの類の合成に等しい($2$ 単体 $\sigma|_{\{a,b-1,b\}}$ の関係と $\sigma|_{\{a,a\}}=s_0(\sigma|_{\{a\}})$ による帰納法)。このことから、thm-nerve-characterization の証明の比較の写像と同じ理由で $u$ は構造写像と両立する。単体的写像 $u\colon X\to N(\mathcal C)$ は、脈体の単体が背骨で決まるので $u_0,u_1$ で決まる。よって $2$ つの対応は互いに逆であり、$X$ と $\mathcal C$ についての自然性は作り方から明らかである。
余単位:$hN(\mathcal C)$ は $\mathcal C$ の射を生成元とし、合成可能な組 $(f,g)$ ごとに関係 $[g\circ f]=[g]\circ[f]$、恒等射ごとに $[\mathrm{id}_c]=\mathrm{id}_c$ を課した圏である。生成元の列 $[f_n]\circ\cdots\circ[f_1]$ は関係によって $[f_n\circ\cdots\circ f_1]$ に等しいので、$hN(\mathcal C)$ の射は $\mathcal C$ の射と $1$ 対 $1$ に対応し、$\varepsilon_{\mathcal C}$ は同型である。$\blacksquare$
随伴の単位 $\eta_X\colon X\to N(hX)$ は各単体をその背骨の類の列へ送る写像、余単位は $\varepsilon_{\mathcal C}\colon hN(\mathcal C)\to\mathcal C$ であり、三角恒等式は次の $2$ つの図式が可換であることである。
$$ \xymatrix{ N(\mathcal C) \ar[r]^{\eta_{N(\mathcal C)}} \ar@{=}[dr] & N(hN(\mathcal C)) \ar[d]^{N(\varepsilon_{\mathcal C})} & & hX \ar[r]^{h(\eta_X)} \ar@{=}[dr] & hN(hX) \ar[d]^{\varepsilon_{hX}} \\ & N(\mathcal C) & & & hX } $$
つまり
$$ N(\varepsilon_{\mathcal C})\circ\eta_{N(\mathcal C)}=\mathrm{id}_{N(\mathcal C)},\qquad \varepsilon_{hX}\circ h(\eta_X)=\mathrm{id}_{hX} $$
である。
余単位が同型であることからも、右随伴 $N$ が充満忠実であることが従う(Rie14 Lemma 15.3.8 の証明はこの形で述べている)。prop-nerve-fully-faithful はその直接の証明である。$h$ は Rie14 Example 1.5.5 で米田埋め込みに沿った左 Kan 拡張として作られ、RV22 Proposition 1.1.11 でも同じ随伴が示されている。通常の圏 $\mathcal C$ を準圏とみなしてホモトピー圏をとると $\mathcal C$ に戻ること(∞圏 の命題「通常の圏の脈体のホモトピー圏」)は、余単位が同型であることの言い換えである。
脈体であるための条件 thm-nerve-characterization の (ii) の一部を満たさない単体的集合を並べる。最後の行は、脈体がもたなくてよい性質の例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 内側のホーン $\Lambda^2_1$ が埋まる | 境界 $\partial\Delta^2$ | 脈体である(準圏でもない) |
| 内側のホーン $\Lambda^2_1$ が埋まる | 単体的円周 $\Delta^1/\partial\Delta^1$ | 脈体である |
| 延長の一意性 | 特異単体的集合 $\operatorname{Sing}\mathbb R$ | 脈体である |
| 圏のすべての射が可逆 | $N([1])=\Delta^1$ | 外側のホーンが埋まる |
$\partial\Delta^2$ は頂点 $0,1,2$ と辺 $01,12,02$ をもち、非退化な $2$ 単体をもたない。辺 $01,12$ からなる内側のホーン $\Lambda^2_1\to\partial\Delta^2$(包含)を $\Delta^2$ へ延ばす $2$ 単体は、辺 $01,12,02$ をもつ非退化な $2$ 単体でなければならないが、それはない。よって $\partial\Delta^2$ は内側のホーンが埋まらず、thm-nerve-characterization により脈体と同型でない。延長の存在も成り立たないので準圏でもない(∞圏 の「反例:三角形の辺だけでは足りない」)。
$X=\Delta^1/\partial\Delta^1$ は $\Delta^1$ の $2$ 頂点を $1$ 点 $v$ に潰したもので、非退化単体は $v$ とループ $e$ だけである。$X_2$ は $3$ 個の元 $s_0s_0v$、$s_0e$、$s_1e$ からなり、その面 $(d_0,d_1,d_2)$ は順に $(s_0v,s_0v,s_0v)$、$(e,e,s_0v)$、$(s_0v,e,e)$ である。辺 $d_2=e$、$d_0=e$ をもつ $2$ 単体はないので、$e$ と $e$ からなる内側のホーン $\Lambda^2_1\to X$ は埋まらず、$X$ は脈体でない。$X$ を図形にすると円周になるが、$e$ を $2$ 回たどる合成が単体として用意されていない。
位相的標準単体を $\lvert\Delta^n\rvert=\{(t_0,\ldots,t_n)\in\mathbb R^{n+1}\mid t_i\geq0,\ \textstyle\sum t_i=1\}$ とし、位相空間 $Y$ の特異単体的集合 $\operatorname{Sing}Y$ を、$n$ 単体が連続写像 $\lvert\Delta^n\rvert\to Y$、面写像が面 $\{t_i=0\}$ への制限であるものとする。$Y=\mathbb R$ で、辺 $d_2$、$d_0$ がともに値 $0$ の定値写像であるホーン $\Lambda^2_1\to\operatorname{Sing}\mathbb R$ を考える。値 $0$ の定値な $2$ 単体と、$\sigma(t_0,t_1,t_2)=t_0t_2$ はどちらもこのホーンの延長である($\sigma$ は $t_0=0$ と $t_2=0$ の上で $0$)。前者の $d_1$ は定値、後者の $d_1$ は $\{t_1=0\}$ の上の $t_0t_2=t_0(1-t_0)$ で定値でないので、$2$ つの延長は異なる。よって $\operatorname{Sing}\mathbb R$ は脈体でない。
$N([1])=\Delta^1$ で、辺 $e_{01}=(0\to1)$、$e_{02}=\mathrm{id}_0$ を与える外側のホーン $\Lambda^2_0\to N([1])$ を考える。延長には $e_{12}\circ(0\to1)=\mathrm{id}_0$ となる射 $e_{12}\colon1\to0$ が要るが、$[1]$ には $1$ から $0$ への射がない。脈体は内側のホーンだけを一意に埋める。外側のホーンまですべて埋まるのは、圏のすべての射が可逆なとき(亜群のとき)に限る。これは、準圏のすべてのホーンが埋まることとホモトピー圏が亜群であることが同値であること(RV22 Corollary 1.1.15)と、$hN(\mathcal C)\cong\mathcal C$(thm-nerve-left-adjoint)から従う。
射の集合が単体的集合になっている圏(単体的豊穣圏)では、各射の単体的集合の $0$ 単体だけを見た通常の圏の脈体をとると、高次の単体の情報が捨てられる。そこで $[n]$ を、合成が「ホモトピーを込めて」結合的になるよう太らせた単体的豊穣圏 $\mathfrak C[\Delta^n]$ に取り替え、$n$ 単体を $\mathfrak C[\Delta^n]$ からの単体的関手とする構成を使う。これをホモトピー整合的脈体(単体的脈体)という。通常の圏を射の集合が定値な単体的豊穣圏とみなすと、ホモトピー整合的脈体は通常の脈体に一致する(HTT09 Example 1.1.5.8)。記号 $N$ は両方に使われることがあるので、どちらの脈体か区別する必要がある(HTT09 Warning 1.1.5.7)。
脈体の単体を位相的標準単体に置き換えて貼り合わせた空間(幾何学的実現)$\lvert N(\mathcal C)\rvert$ を圏 $\mathcal C$ の分類空間という。群 $G$ に対する $\lvert BG\rvert$ は、離散群 $G$ の分類空間(分類空間)の模型を与える。
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