従属選択公理

同義語:従属選択の公理axiom of dependent choicedependent choice

概要

従属選択公理(axiom of dependent choice)とは、空でない集合 $X$ 上の関係 $R$ で各元が $R$-後続をもつものに対し、すべての $n$ で $x_n\,R\,x_{n+1}$ となる列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が存在するという選択原理である。次に選ぶ候補が前の選択に依存する可算回の選択を許す。ZF 上で選択公理から従い、可算選択公理を含意するが、どちらの逆も成り立たない。ZF 上で、任意の完備距離空間についての Baire のカテゴリー定理と同値であり、無限下降列をもたない関係はすべて整礎であるという主張とも同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 選択公理, 可算選択公理, 二項関係

解析学の証明では「$x_0$ をとる。$x_n$ まで決まったら、$x_n$ に応じた条件を満たす $x_{n+1}$ をとる」と書いて点列を作ることが多い。$n$ ごとに次の候補が存在することは分かっていても、無限に続く列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が一つの集合として存在することは、選び方の規則が書けない限り、選択公理を含まない集合論 $\mathsf{ZF}$ からは出てこない。しかも次に選ぶ候補の集合は、それまでに選んだ元に依存して変わる。この「前の選択に依存する可算回の選択」を認める原理が従属選択公理(axiom of dependent choice、略して $\mathsf{DC}$)である。

以下、基礎の体系は $\mathsf{ZF}$ とし、$\mathbb{N}=\{0,1,2,\dots\}$ とする。

定義

集合 $X$ 上の二項関係 $R\subset X\times X$ について、$(x,y)\in R$ を $x\,R\,y$ と書き、「$y$ は $x$ の $R$-後続」と読む。すべての $x\in X$ が少なくとも一つの $R$-後続をもつとき、$R$ は行き止まりがないという。

従属選択公理

$X$ を空でない集合、$R$ を $X$ 上の行き止まりのない二項関係とする。このとき、$X$ の元の列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、すべての $n\in\mathbb{N}$ について
$$ x_n\,R\,x_{n+1} $$
を満たすものが存在する。この主張を従属選択公理といい、$\mathsf{DC}$ と書く。

$\mathsf{DC}$ は「すべての $x$ に後続を一斉に割り当てる関数」の存在までは要求しない。要求するのは、一本の列に沿った可算回の選択だけである。一方、$\mathsf{DC}$ の仮定「行き止まりがない」は各 $x$ についての存在だけであり、各 $n$ について $x_0,\dots,x_n$ を有限回選ぶことは $\mathsf{ZF}$ でもできる(有限回の存在の主張を順に使えばよい)。$\mathsf{DC}$ が加えるのは、それらを一本の無限列にまとめることである。

列の最初の項を指定した形も同値である。証明に出てくる「有限の道の集合」は、この記事で何度も使う。

初項を指定した形

$\mathsf{ZF}$ において、$\mathsf{DC}$ は次の主張と同値である:空でない集合 $X$ 上の行き止まりのない関係 $R$ と、任意の $a\in X$ に対し、$x_0=a$ かつすべての $n$ で $x_n\,R\,x_{n+1}$ を満たす列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が存在する。

初項を指定した形から $\mathsf{DC}$ は、$X\neq\emptyset$ から元 $a\in X$ を一つとって適用すれば従う(一つの集合から一つの元をとるだけである)。

逆を示す。$\mathsf{DC}$ を仮定し、$X$、$R$、$a$ を与える。$a$ から始まる $R$ に沿った有限の道、すなわち長さ $k\ge1$ の有限列 $s=(s(0),\dots,s(k-1))$ で $s(0)=a$ かつ $s(i)\,R\,s(i+1)$($i< k-1$)を満たすもの全体を $T$ とする($T$ は $\bigcup_{k\ge1}X^{k}$ から分出公理で得られる集合で、長さ $1$ の列 $(a)$ を含むので空でない)。$T$ 上の関係 $\sqsubset$ を「$t$ は $s$ に項を一つ付け加えた列である」で定める。

$\sqsubset$ に行き止まりはない。$s\in T$ の末項を $x=s(k-1)$ とすると、$R$ に行き止まりがないので $x\,R\,y$ となる $y$ があり、$s$ の後ろに $y$ を付けた列は $T$ に属する。$\mathsf{DC}$ により、$s_n\sqsubset s_{n+1}$ を満たす列 $(s_n)_{n\in\mathbb{N}}$ がとれる。$s_0$ の長さを $k_0$ とすると $s_n$ の長さは $k_0+n$ であり、$m\le n$ なら $s_m$ は $s_n$ の始切片である。そこで $x_i:=s_{i}(i)$($s_i$ の長さは $k_0+i>i$ なので定義される)とおくと、$x_i$ は $s_n$($n\ge i$)の $i$ 番目の項に等しい。$x_0=s_0(0)=a$ であり、$x_i\,R\,x_{i+1}$ は $s_{i+1}$ が $T$ に属することから従う。$\square$

直感

可算選択公理は、あらかじめ与えられた集合の列 $(A_n)_{n\in\mathbb{N}}$ から一つずつ選ぶ原理であった。$\mathsf{DC}$ では $n+1$ 番目に選ぶ候補の集合 $\{y\mid x_n\,R\,y\}$ が、$n$ 番目までの選択の結果に依存する。「帰納的に $x_0,x_1,\dots$ をとる」と書いた証明で、後の候補が前の選択に依存するなら、その証明は $\mathsf{DC}$ を使っている。

$\mathsf{DC}$ は木の言葉でも読める。$X$ の元を頂点とし、$x$ から $R$-後続へ枝を伸ばすと、行き止まりのない関係は「どの頂点からも先へ進める」木を与える。$\mathsf{DC}$ は、そのような木には無限に続く道があるという主張である。

例

整列可能な集合では選択が要らない

$X$ 上に整列順序 $\preceq$ が一つ与えられていれば、$X$ 上の行き止まりのない関係 $R$ について $\mathsf{DC}$ の結論は $\mathsf{ZF}$ で得られる。$h(x):=\min_{\preceq}\{y\in X\mid x\,R\,y\}$ と定めると、行き止まりがないので右辺の集合は空でなく、最小元が存在する。$x_0:=\min_{\preceq}X$、$x_{n+1}:=h(x_n)$ と再帰で定めれば $x_n\,R\,x_{n+1}$ である。特に $X=\mathbb{N}$ や $X$ が $\mathbb{N}$ の有限列の全体なら選択は要らない。$\mathsf{DC}$ が意味をもつのは、$\mathbb{R}$ の部分集合の族や一般の距離空間の点のように、整列順序が手元にない集合である。

無限集合の可算無限部分集合

$\mathsf{DC}$ を仮定すると、無限集合 $X$ は可算無限な部分集合をもつ。$X$ の元の有限列で項がすべて異なるもの全体を $S$ とし、$s\,R\,t$ を「$t$ は $s$ に項を一つ付け加えた列」と定める。$s\in S$ の項全体は有限集合なので、$X$ が無限なら $X$ にはまだ $s$ に現れない元 $y$ があり、$s$ の後ろに $y$ を付けた列は $S$ に属する。よって $R$ に行き止まりはなく、prop-dependent-choice-initial を空列から適用すると、長さ $n$ の列 $s_n$ が順に延びていく列が得られる。$f(i):=s_{i+1}(i)$ とおけば $f\colon\mathbb{N}\to X$ は単射であり、その像が可算無限な部分集合である。

この結論自体は可算選択公理からも従う(Jec73 §8.1、印刷 p. 119。この記事では証明しない)。ここでの証明は、各段の候補「まだ使っていない元」がそれまでの選択に依存する、$\mathsf{DC}$ の典型的な使い方になっている。

全有界でない距離空間の離れた点列

$(M,d)$ を距離空間とし、ある $\varepsilon>0$ について、有限個の点を中心とする半径 $\varepsilon$ の開球で $M$ を覆えないとする($M$ が全有界でない場合である)。$\mathsf{DC}$ を仮定すると、どの二項の距離も $\varepsilon$ 以上である点列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が存在する。

実際、どの二項の距離も $\varepsilon$ 以上である有限列の全体を $S$ とし、$R$ を一項の延長とする。$s\in S$ の項を中心とする半径 $\varepsilon$ の開球は有限個なので $M$ を覆わず、覆われない点 $y$ はどの項からも $\varepsilon$ 以上離れている。よって $R$ に行き止まりはなく、ex-dependent-choice-countable-subset と同じく延長の列から点列が得られる。この点列のどの部分列も Cauchy列 でない。したがって $\mathsf{DC}$ のもとで、すべての点列が収束部分列をもつ距離空間は全有界である。

他の選択原理との関係

$\mathsf{ZF}$ において
$$ \mathsf{AC}\ \Longrightarrow\ \mathsf{DC}\ \Longrightarrow\ \mathsf{AC}_\omega $$
が成り立つ。ここで $\mathsf{AC}$ は選択公理、$\mathsf{AC}_\omega$ は可算選択公理である。二つの含意の証明は 選択公理 の記事の命題「弱い形との含意関係」の証明にある。要点だけ述べると、$\mathsf{AC}$ があれば後続を選ぶ関数 $h$($x\,R\,h(x)$)を一斉にとって $x_{n+1}:=h(x_n)$ と再帰すればよく、$\mathsf{DC}$ から $\mathsf{AC}_\omega$ を得るには、$A_0,\dots,A_{k-1}$ から一つずつ選んだ有限列を延長していく関係に $\mathsf{DC}$ を使えばよい(Jec73 §2.4、印刷 pp. 22–23)。

どちらの矢印も逆にはできない($\mathsf{ZF}$ が無矛盾なら)。$\mathsf{DC}$ が成り立ち $\mathsf{AC}$ が成り立たない $\mathsf{ZF}$ のモデルは Jec73 第 5 章 Problem 26(印刷 pp. 83–84)に、$\mathsf{AC}_\omega$ が成り立ち $\mathsf{DC}$ が成り立たないモデルは Jec73 Theorem 8.12(印刷 pp. 130–131。$\kappa=\aleph_1$ とする。置換モデルで構成し、$\mathsf{ZF}$ への移し方は証明の末尾に概略がある)にある。この記事ではこれらのモデルの構成を証明しない。

可算選択公理従属選択公理選択公理
選ぶもの与えられた列 $(A_n)$ の各項から一つ前の選択に応じて決まる集合から次の一つ任意の族の各集合から一つ
選択の回数可算回(互いに独立)可算回(順に依存)任意
典型的な帰結可算個の可算集合の和は可算Baire のカテゴリー定理、整礎性の判定整列可能定理、Zorn の補題

$\mathsf{DC}$ は超限の長さに一般化できる。基数 $\kappa$ について、長さ $\kappa$ 未満の列に後続を与える関係から長さ $\kappa$ の列を得る原理を $\mathsf{DC}_\kappa$ といい、$\mathsf{DC}$ は $\mathsf{DC}_{\aleph_0}$ にあたる。すべての $\kappa$ についての $\mathsf{DC}_\kappa$ は $\mathsf{AC}$ と同値である(Jec73 Theorem 8.1、印刷 pp. 119–121。この記事では証明しない)。

整礎性と無限下降列

$X$ 上の関係 $R$ が整礎(well-founded)であるとは、$X$ の空でない任意の部分集合 $A$ が $R$-極小元、すなわち $b\,R\,m$ となる $b\in A$ をもたない $m\in A$ をもつことをいう。$R$ に沿った無限下降列とは、すべての $n$ で $x_{n+1}\,R\,x_n$ を満たす列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ である。たとえば $\mathbb{N}$ 上の $<$ は整礎で、$\mathbb{Z}$ 上の $<$ は整礎でない($0>-1>-2>\cdots$ が無限下降列である)。

「整礎であることと無限下降列がないことは同値」は整列順序や順序数の議論でよく使われるが、片方の向きは選択原理を必要とし、しかも必要な原理はちょうど $\mathsf{DC}$ である。

整礎性の下降列による判定
  1. ($\mathsf{ZF}$)整礎な関係に沿った無限下降列は存在しない。
  2. $\mathsf{DC}$ を仮定すると、無限下降列をもたない関係は整礎である。
  3. ($\mathsf{ZF}$)逆に、「任意の集合上の任意の関係について、無限下降列をもたなければ整礎である」が成り立つなら、$\mathsf{DC}$ が成り立つ。

したがって $\mathsf{ZF}$ 上で、$\mathsf{DC}$ は「すべての関係について、整礎であることと無限下降列をもたないことが同値」という主張と同値である。

  1. $R$ を整礎とし、無限下降列 $(x_n)$ があったとする。像 $A:=\{x_n\mid n\in\mathbb{N}\}$ は空でないので $R$-極小元 $x_n$ をもつ。しかし $x_{n+1}\in A$ かつ $x_{n+1}\,R\,x_n$ であり、極小性に反する。

  2. $\mathsf{DC}$ を仮定し、$R$ が整礎でないとする。$R$-極小元をもたない空でない $A\subset X$ がある。$A$ 上の関係 $Q$ を $a\,Q\,b\iff b\,R\,a$ で定める。$a\in A$ は極小でないので $b\,R\,a$ となる $b\in A$ があり、$Q$ には行き止まりがない。$\mathsf{DC}$ により $a_n\,Q\,a_{n+1}$、すなわち $a_{n+1}\,R\,a_n$ を満たす列がとれ、これは $R$ に沿った無限下降列である。

  3. 仮定の主張を認め、$X\neq\emptyset$ 上の行き止まりのない関係 $R$ を与える。逆関係 $R^{-1}$($y\,R^{-1}\,x\iff x\,R\,y$)を考える。$m\in X$ が $X$ 自身の $R^{-1}$-極小元であるとは、$b\,R^{-1}\,m$、すなわち $m\,R\,b$ となる $b$ がないことだが、$R$ には行き止まりがないのでそのような $m$ はない。よって $R^{-1}$ は整礎でなく、仮定により $R^{-1}$ に沿った無限下降列 $(x_n)$ がある。$x_{n+1}\,R^{-1}\,x_n$ は $x_n\,R\,x_{n+1}$ のことなので、これが $\mathsf{DC}$ の求める列である。$\square$

2 は Jec73 第 3 章 Problem 17(印刷 p. 41)に演習として現れ、線形順序の場合は §2.4(印刷 p. 23)で証明されている。3 の向きは、関係を逆にするだけで $\mathsf{DC}$ の仮定「行き止まりがない」が「どこにも極小元がない」に変わることによる。

Baire のカテゴリー定理との同値

Baireのカテゴリー定理は、完備距離空間 $M$ の稠密な開集合の列 $(U_n)_{n\in\mathbb{N}}$ について $\bigcap_nU_n$ が $M$ で稠密であることを主張する。以下、これを「完備距離空間についての Baire の定理」と呼ぶ。$\mathsf{DC}$ はこの定理を証明するのにちょうど足りる強さをもつ。

Baire のカテゴリー定理との同値

$\mathsf{ZF}$ において、次の二つは同値である。

  1. $\mathsf{DC}$。
  2. すべての完備距離空間についての Baire の定理:完備距離空間 $(M,d)$ と、$M$ の稠密な開集合の列 $(U_n)_{n\in\mathbb{N}}$ に対し、$\bigcap_{n\in\mathbb{N}}U_n$ は $M$ で稠密である。

(1 ⇒ 2)$M$ を完備距離空間、$U_n$ を稠密な開集合、$V$ を空でない開集合とし、$V\cap\bigcap_nU_n\neq\emptyset$ を示す。$\overline{B}(c,r)$ を中心 $c$、半径 $r$ の閉球、$B(c,r)$ を開球とする。中心と半径の対の有限列 $((c_0,r_0),\dots,(c_{k-1},r_{k-1}))$ で
$$ 0< r_i\le 2^{-i},\qquad \overline{B}(c_0,r_0)\subset V\cap U_0,\qquad \overline{B}(c_{i+1},r_{i+1})\subset B(c_i,r_i)\cap U_{i+1} $$
を満たすもの全体を $S$ とし(空列も含める)、$S$ 上の関係を「一項の延長」とする。

この関係に行き止まりはない。有限列の最後の開球 $B(c_{k-1},r_{k-1})$(空列なら $V$)と $U_k$ の共通部分 $O$ は、$U_k$ が稠密な開集合なので空でない開集合である。点 $c\in O$ と $B(c,2\rho)\subset O$ となる $\rho>0$ をとり、$r:=\min\{\rho,2^{-k}\}$ とおけば $\overline{B}(c,r)\subset B(c,2r)\subset O$ となり、$(c,r)$ を付け加えた列は $S$ に属する。ここで存在を使ったのは一つの有限列についての $c$ と $\rho$ だけである。

prop-dependent-choice-initial を空列から適用すると、延長の列から無限列 $(c_n,r_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が得られる。あとは Baireのカテゴリー定理 の記事の「完備距離空間の場合の証明」の後半と同じである:$m\ge n$ なら $c_m\in\overline{B}(c_n,r_n)$ なので $d(c_n,c_m)\le 2^{-n}$ となり、$(c_n)$ は Cauchy 列で極限 $c$ をもつ。各 $\overline{B}(c_n,r_n)$ は閉集合なので $c\in\overline{B}(c_n,r_n)\subset U_n$ であり、$c\in\overline{B}(c_0,r_0)\subset V$ である。

(2 ⇒ 1)$X$ を空でない集合、$R$ を行き止まりのない関係とする。列の空間 $M:=X^{\mathbb{N}}$ に、$f\neq g$ のとき
$$ d(f,g):=2^{-\min\{n\,\mid\,f(n)\neq g(n)\}} $$
$d(f,f):=0$ として距離を入れる($f$ と $g$、$g$ と $h$ が $0,\dots,n-1$ 番目で一致すれば $f$ と $h$ も一致するので、$d(f,h)\le\max\{d(f,g),d(g,h)\}$ であり、三角不等式が成り立つ)。$d(f,g)<2^{-n}$ は「$f$ と $g$ が $0,\dots,n$ 番目で一致する」ことと同値である。$X\neq\emptyset$ なので定数列があり、$M\neq\emptyset$ である。

段 1($M$ は完備).$(f_k)$ を Cauchy 列とすると、各 $n$ についてある $K$ 以降の $f_k$ はすべて $0,\dots,n$ 番目で一致する。そこで $f(n)$ を「有限個の $k$ を除いて $f_k(n)$ が等しくなる値」と定める。この値はただ一つに決まるので、選択なしに $f\in M$ が定義でき、$f_k\to f$ である。

段 2(稠密な開集合).$n\in\mathbb{N}$ ごとに
$$ U_n:=\{f\in M\mid \text{ある } m>n \text{ について } f(n)\,R\,f(m)\} $$
とおく。$f\in U_n$ が $m>n$ で $f(n)\,R\,f(m)$ を満たすなら、$0,\dots,m$ 番目で $f$ と一致する $g$、すなわち $d(f,g)<2^{-m}$ となる $g$ もすべて $U_n$ に属するので、$U_n$ は開集合である。稠密性を示す。空でない開集合は、ある $h\in M$ と $L\ge1$ について「$0,\dots,L-1$ 番目で $h$ と一致する列の全体」を含む。$n< L$ なら、$h(n)\,R\,y$ となる $y$ をとり、$g$ を $L-1$ 番目までは $h$、$L$ 番目以降はすべて $y$ とすると $g(n)\,R\,g(L)$ で $g\in U_n$ である。$n\ge L$ なら、$x\in X$ と $x\,R\,y$ となる $y$ をとり、$g$ を $L-1$ 番目までは $h$、$L$ 番目から $n$ 番目までは $x$、$n+1$ 番目以降は $y$ とすると $g(n)\,R\,g(n+1)$ で $g\in U_n$ である。どちらの場合も、とったのは有限個の元だけである。

段 3(列の取り出し).2 により $\bigcap_nU_n$ は稠密で、$M\neq\emptyset$ だから空でない。その元 $f$ を一つとる。$n_0:=0$、
$$ n_{k+1}:=\min\{m>n_k\mid f(n_k)\,R\,f(m)\} $$
と再帰で定める。$f\in U_{n_k}$ なので右辺の集合は空でなく、最小元で決まるので選択は要らない。$x_k:=f(n_k)$ とおけば $x_k\,R\,x_{k+1}$ がすべての $k$ で成り立つ。$\square$

1 ⇒ 2 の証明で選択を使うのは「閉球の有限列を延ばし続ける」一か所だけで、そこが $\mathsf{DC}$ の使いどころである。Gol85 の要旨は $\mathsf{DC}$ と完備距離空間についての Baire の定理の同値を、強制法のジェネリック集合の存在定理などとの同値とあわせて述べている。

2 は「すべての完備距離空間について」という全称的な主張である。個々の空間では $\mathsf{DC}$ なしに Baire の定理が証明できることがある。

可分な完備距離空間では選択が要らない

完備距離空間 $M$ が可算な稠密部分集合 $D$ をもつとき、Baire の定理は $\mathsf{ZF}$ で証明できる。全射 $e\colon\mathbb{N}\to D$ を一つ固定し、1 ⇒ 2 の証明の $(c_{k},r_{k})$ を、条件を満たす対 $(e(j),2^{-l})$ のうち $(j,l)$ が $\mathbb{N}\times\mathbb{N}$ の固定した整列順序で最小のものと定める。そのような対があることは、空でない開集合 $O$ が開球 $B(c,\rho)$ を含むとき、$d(e(j),c)<\rho/2$ となる $j$ と $2^{-l}<\rho/2$ となる $l$ をとれば $\overline{B}(e(j),2^{-l})\subset B(c,\rho)\subset O$ となることから分かる。こうして列は再帰で定義でき、選択は要らない。$\mathbb{R}$ や $\mathbb{R}^n$ の Baire の定理はこの場合にあたる。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$R$ に行き止まりがない$X=\{0,1\}$、$R=\{(0,1)\}$$x_n\,R\,x_{n+1}$ を満たす無限列の存在
$X$ が空でない$X=\emptyset$、$R=\emptyset$無限列の存在
$\mathsf{DC}$($\mathsf{ZF}$ だけで考える)$\mathsf{DC}$ が成り立たないモデル(Jec73 Theorem 8.12)無限下降列のない関係は整礎、完備距離空間についての Baire の定理
Baire の定理の「完備」$\mathbb{Q}$稠密な開集合の可算個の共通部分が稠密
Baire の定理の「開集合」$\mathbb{R}$ の稠密な部分集合 $\mathbb{Q}$ と $\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$共通部分が稠密(空になる)

1 行目:$R=\{(0,1)\}$ では $0$ の後続は $1$ だけで、$1$ には後続がない。したがって $x_0\,R\,x_1$ なら $x_1=1$ で、$x_1\,R\,x_2$ となる $x_2$ はない。破れている条件は「すべての $x$ が後続をもつ」ことである。2 行目:$X=\emptyset$ なら「すべての $x$ が後続をもつ」は空虚に真だが、$X$ の元の列は存在しない。

3 行目:thm-dependent-choice-well-founded の 3 と thm-dependent-choice-baire により、$\mathsf{DC}$ が成り立たない $\mathsf{ZF}$ のモデルでは、無限下降列をもたないのに整礎でない関係があり、Baire の定理が成り立たない完備距離空間がある。満たす性質は $\mathsf{ZF}$ の公理(さらに Jec73 Theorem 8.12 のモデルでは可算選択公理)で、満たさない性質は $\mathsf{DC}$ の帰結である。

4 行目:$\mathbb{Q}$ は完備でない距離空間で、一点集合 $\{q\}$ の補集合 $\mathbb{Q}\setminus\{q\}$ はどれも $\mathbb{Q}$ の稠密な開集合だが、$\mathbb{Q}$ を番号づけてこれら可算個の共通部分をとると空になる(Baireのカテゴリー定理 の記事の例「有理数全体は Baire 空間でない」)。5 行目:$\mathbb{Q}$ と $\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ はどちらも $\mathbb{R}$ で稠密だが開集合ではなく、共通部分は空である。

注意

  • $\mathsf{DC}$ は列の存在を主張するだけで、列を一つ指定する方法は与えない。ex-dependent-choice-well-orderable のように規則が書ける場合は、$\mathsf{DC}$ を使わずに列を定義できる。
  • 「帰納的に選ぶ」証明がすべて $\mathsf{DC}$ を要するわけではない。各段の候補の集合があらかじめ $n$ だけで決まっていれば可算選択公理で足り、候補から最小元などの規則で選べれば選択は要らない。
  • ここでの Baire のカテゴリー定理は、集合が開集合と第一類集合との対称差で表せるという Baireの性質 とは別の概念である。

関連項目

参考文献

[1]
Thomas J. Jech, The Axiom of Choice, Dover Books on Mathematics, Dover Publications(North-Holland 1973 年版の復刻), 2008, §2.4(印刷 pp. 22–23):従属選択公理の定式化、可算選択公理の導出、線形順序の整列性の判定。第 3 章 Problem 17(印刷 p. 41):整礎性と無限下降列。第 5 章 Problem 26(印刷 pp. 83–84):DC が成り立ち AC が成り立たないモデル。§8.1 Theorem 8.1(印刷 pp. 119–121):DC_κ。Theorem 8.12(印刷 pp. 130–131):可算選択公理が成り立ち DC が成り立たないモデル。

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