Eakinの定理(Eakin theorem)とは、単位元を共有する部分環 $A\subset B$ について、$B$ が有限生成 $A$ 加群でありNoether環ならば、$A$ もNoether環であるという定理である。有限生成かつ忠実な $A$ 加群 $M$ で、イデアル $I$ が定める部分加群 $IM$ の族が昇鎖条件を満たせば、$M$ はNoether加群で $A$ はNoether環となるという加群版から導かれる。$B$ の有限生成性を落とすと成り立たず、無限変数多項式環とその分数体が反例となる。包含でない一般の有限環準同型 $A\to B$ では、像 $A/\ker(A\to B)$ がNoether環になる。
Noether 環の部分環は、一般には Noether でない。例えば無限個の変数を持つ多項式環は Noether ではないが、その分数体は体なので Noether である。Eakin の定理は、上の環が下の環の加群として有限生成である場合に、この下降を保証する。有限生成性はこの定理の十分条件であり、下降が起こるための必要条件とは主張しない。
注意すべきなのは、上の環が Noether 環であることと、下の環上の Noether 加群であることの違いである。前者が与えるのは上の環のイデアル列の停止であり、下の環の部分加群列全体の停止を直接与えるわけではない。この隔たりを埋めるのが、イデアルによって生成される部分加群 $IM$ の鎖条件を使う証明である。本記事では、環拡大の定理をその加群版から導き、必要な補題も証明する。MatCA §35。
環は可換単位環、環準同型は単位元を保つものとする。部分環は単位元を共有する。「有限」は加群として有限生成の意味であり、有限集合や単に有限型の代数という意味ではない。
$A\subset B$ を単位元を共有する部分環の包含とする。$B$ が $A$ 加群として有限生成であり、$B$ が Noether 環なら、$A$ も Noether 環である。
環拡大の結論は、下の加群版を証明した後にその適用として導く。有限忠実加群に関する補題から順に示す。
この結果は Eakin–Nagata の定理とも呼ばれる。有限環拡大に関する主張であり、有限型の環拡大一般についての主張ではない。包含の条件は、下の環が上の環へ忠実に作用するために使う。一般の有限環準同型 $A\to B$ で核がある場合、直接分かるのは像 $A/\ker(A\to B)$ の Noether 性であって、$A$ 自身の Noether 性ではない。
加群 $M$ が $A$ 上忠実であるとは $\operatorname{Ann}_A(M)=0$、すなわち $aM=0$ なら $a=0$ となることである。ここで忠実とは作用が元を識別するという意味で、自由や平坦を意味しない。
$A$ 加群 $M$ に対し、イデアル $I\subset A$ が定める部分加群を
$$IM=\left\{\sum_{j=1}^r a_jx_j:r\ge0,\ a_j\in I,\ x_j\in M\right\}$$
とする。部分加群族 $\{IM:I\subset A\text{ はイデアル}\}$ の増大列が有限段階で停止するとき、この族は昇鎖条件を満たすという。
$IM$ は、イデアル自身 $I$ と同じ集合ではない。異なるイデアルが同じ $IM$ を定める場合もある。従って $I_1M\subset I_2M$ という包含から $I_1\subset I_2$ と推論してはならない。以下の証明は部分加群 $IM$ の包含を使い、必要なときは商写像に沿ったイデアルの逆像を具体的に取る。
$M$ を有限生成かつ忠実な $A$ 加群とする。$IM$ の族が昇鎖条件を満たすなら、$M$ は Noether 加群であり、$A$ は Noether 環である。
この定理は次の鎖条件の基礎を確認してから、二つの極大商を取ることで証明する。
仮定は、全ての部分加群の増大列が停止することより弱く見える。実際、全ての部分加群が $IM$ の形とは限らない。それでも有限生成性と忠実性を加えると、全ての部分加群に対する鎖条件を導ける。証明の核心は、二つの異なる極大性を順番に使うことである。一つは非 Noether 商を残すイデアル像の極大性、もう一つは忠実商を残す部分加群の極大性である。
加群 $P$ が Noether であることと、その全ての部分加群が有限生成であることは同値である。部分加群と商は Noether 性を保ち、短完全列の両端が Noether なら中項も Noether である。
$P$ が昇鎖条件を満たすとする。部分加群 $U$ の有限生成部分加群の族には極大元 $H$ がある。極大元がなければ、一つの有限生成部分加群から始めて、より大きなものを順に取り無限の真増大列ができるからである。$H\ne U$ なら $x\in U\setminus H$ を選び、$H+Ax$ がより大きい有限生成部分加群となって矛盾する。よって $U=H$ は有限生成である。
逆に全部分加群が有限生成なら、増大列 $U_1\subset U_2\subset\cdots$ の合併 $U$ も部分加群であり有限生成である。その有限個の生成元は一つの共通段階 $U_n$ に入る。従って $U=U_n$ であり、以後の列は一定となる。
部分加群内の鎖は元の加群内の鎖でもある。商の鎖は逆像を取れば元の鎖となる。よって部分加群と商は Noether 性を保つ。次に $0\to P'\to P\xrightarrow{\pi}P''\to0$ の両端が Noether とする。$P$ 内の増大列 $U_n$ について、交叉 $U_n\cap P'$ と像 $\pi U_n$ はともに有限段階で停止する。二つとも停止した後、$x\in U_{n+1}$ の像と同じ像を持つ $y\in U_n$ を選ぶと、$x-y\in U_{n+1}\cap P'=U_n\cap P'$ である。従って $x\in U_n$、すなわち $U_{n+1}=U_n$ となる。
有限直和の Noether 性は短完全列の帰納法で従う。特に Noether 環 $A$ 上の有限生成加群は Noether である。$A^r$ は有限直和として Noether で、有限生成加群はその商だからである。この結論を、まだ $A$ が Noether と分かっていない場面で使ってはいけない。
有限生成性だけについても、短完全列 $0\to U\to P\to V\to0$ の両端が有限生成なら中項は有限生成である。$V$ の有限生成元を $P$ へ持ち上げ、その生成元で任意の元の像を消すと差は $U$ に入る。従って持上げた元と $U$ の生成元が $P$ を生成する。この事実は環の Noether 性を必要としない。
$A$ が忠実な Noether 加群 $P$ を持つなら $A$ は Noether 環である。
前補題により $P$ 自身は有限生成なので、生成元 $z_1,\ldots,z_r$ を取る。写像
$$A\longrightarrow P^r,\qquad a\longmapsto(az_1,\ldots,az_r)$$
の核は $\operatorname{Ann}_A(P)=0$ である。従って $A$ は Noether 加群 $P^r$ の部分加群に同型で、Noether となる。環自身の加群部分加群はイデアルなので、これは $A$ の Noether 環性である。
$P=0$ が忠実なら $A=0$ であり、零環は Noether である。この端点では空の生成列を用いてもよい。
写像は成分の組への写像である。成分を足した $a\mapsto\sum_i az_i$ では一般に単射にならない。体 $k$ と加群 $P=k$ に対し生成族 $z_1=1,z_2=-1$ を取ると、和への写像は零写像である。標数2でも $1+(-1)=0$ なので同じ例が成立する。
$M$ が Noether でないと仮定して矛盾を導く。零環の場合は忠実性から $M=0$ なので、この仮定は起こらない。
非 Noether 商を残す最大のイデアル像。
$M/IM$ が Noether でないようなイデアル像 $IM$ の族を考える。$I=0$ のとき商は $M$ なので族は非空である。昇鎖条件から極大元 $I_0M$ を取れる。商
$$M_1=M/I_0M,\qquad A_1=A/\operatorname{Ann}_A(M_1)$$
を作る。$M_1$ は有限生成・非 Noether であり、$A_1$ 上忠実である。$M_1$ の $A$ 部分加群と $A_1$ 部分加群は同じなので、Noether 性は変わらない。
$A_1$ の非零イデアル $J$ の $A$ における逆像を $I$ とする。$I$ は $\operatorname{Ann}_A(M_1)$ を含み、特に $I_0$ を含む。$M_1$ の忠実性から $JM_1\ne0$ なので $IM$ は $I_0M$ を真に含む。極大性より
$$M_1/JM_1\cong M/IM$$
は Noether である。こうして $A_1,M_1$ は、全ての非零イデアル $J$ に対して $M_1/JM_1$ が Noether という追加性質を持つ。
イデアル像の昇鎖条件も商に保存される。$J_nM_1$ の増大列を $M\to M_1$ の逆像で引き戻すと、対応する $I_nM$ の増大列になる。その逆像が本当に $I_nM$ であるのは $I_n\supset I_0$ であり、$I_0M$ が既に $I_nM$ に入るためである。従って元の昇鎖条件を適用できる。以下、記号を簡単にするため、この $A_1,M_1$ を改めて $A,M$ と書く。
忠実商を残す最大の部分加群。
$$\mathcal F=\{N\subset M:M/N\text{ が }A\text{ 上忠実}\}$$
とする。$M$ は忠実なので $0\in\mathcal F$ である。包含関係で鎖 $N_\lambda$ を取ると、その合併 $N$ も $\mathcal F$ に入る。実際 $aM\subset N$ とし、$M$ の有限生成元 $z_1,\ldots,z_r$ を取る。各 $az_i$ は鎖のどこかに入り、有限個なので一つの共通段階 $N_\lambda$ に全て入る。よって $aM\subset N_\lambda$ となり、$M/N_\lambda$ の忠実性から $a=0$ である。これは $M/N$ の忠実性を示す。
従って Zorn の補題により極大元 $N_0\in\mathcal F$ が存在する。$V=M/N_0$ とする。$V$ は有限生成かつ忠実である。もし $V$ が Noether なら、前補題から $A$ が Noether となる。すると有限生成加群 $M$ も Noether となり、選択した $M$ が非 Noether であることに反する。従って $V$ は Noether でない。
全ての非零イデアル $J$ について、$V/JV$ は Noether 加群 $M/JM$ の商なので Noether である。一方、全ての非零部分加群 $U\subset V$ について $V/U$ は忠実でない。もし忠実なら、$U$ の $M$ における逆像は $N_0$ を真に含む $\mathcal F$ の元となり、極大性に反するからである。
最後の有限生成性の矛盾。
$V$ は Noether でないので、最初の補題により有限生成でない部分加群 $U$ を持つ。$U\ne0$ であり、$V/U$ は忠実でないから、ある $0\ne a\in A$ が $aV\subset U$ を満たす。非零イデアル $(a)$ に対して $V/aV$ は Noether である。従ってその部分加群 $U/aV$ は有限生成である。
また $aV$ は有限生成加群 $V$ の乗法写像による像なので有限生成である。短完全列
$$0\longrightarrow aV\longrightarrow U\longrightarrow U/aV\longrightarrow0$$
に有限生成元の持上げを適用すると、$U$ も有限生成となる。これは $U$ の選択に反する。従って最初の $M$ は Noether でなければならない。忠実な Noether 加群から環へという補題を、最初の $A,M$ に適用すれば $A$ も Noether となる。これで加群版を証明した。$\square$
二つの商で役割が異なる。最初の商は非零イデアルをさらに割ると Noether になるようにする。次の商は非零部分加群をさらに割ると忠実性が失われるようにする。この二つを合わせると、非有限生成部分加群 $U$ の中に有限生成の $aV$ を作れ、その商も有限生成になる。証明中で $A$ の Noether 性を使うのは、忠実 Noether 商が存在したと仮定した場合の矛盾と、最後の結論だけである。
$M=B$ を $A$ 加群として考える。$aB=0$ なら $a\cdot1_B=0$ であり、部分環の包含から $a=0$ である。従って $B$ は有限生成かつ忠実な $A$ 加群である。
$A$ のイデアル $I$ に対し $IB$ は $B$ のイデアルである。実際 $\sum_i a_ib_i\in IB$ を $b\in B$ で掛けると、可換性により $\sum_i a_i(bb_i)\in IB$ となる。従って $I_1B\subset I_2B\subset\cdots$ という増大列は $B$ のイデアル列であり、$B$ の Noether 環性から停止する。加群版の全ての仮定が成立するので $B$ は $A$ 上の Noether 加群となり、$A$ も Noether 環となる。
この適用は $B$ の有限生成 $A$ 加群性から、その部分加群 $A$ の有限生成性を推論していない。任意環上で有限生成加群の部分加群が有限生成とは限らず、それこそ Noether 性が必要な性質である。加群版の議論は、その性質を鎖条件から先に導いている。
$A\to B$ が有限環準同型、$B$ が Noether なら、像 $A/\ker(A\to B)$ は Noether である。
$C=A/\ker(A\to B)$ は $B$ の部分環であり、$B$ の有限個の $A$ 加群生成元は $C$ 加群の生成元でもある。Eakin の定理から $C$ は Noether である。
体 $k$ に対し $A=k[x_1,x_2,\ldots]$ を無限変数多項式環、$B=\operatorname{Frac}(A)$ をその分数体とする。$A$ は整域で $A\subset B$、$B$ は体なので Noether である。しかしイデアル列
$$(x_1)\subsetneq(x_1,x_2)\subsetneq\cdots$$
は停止しない。$x_{n+1}$ が前のイデアルに入らないことは、$x_1,\ldots,x_n$ を零とし残りの変数をそのまま保つ評価写像で確認できる。従って $A$ は Noether でない。
$B$ は $A$ 上有限生成でないことも直接確認できる。有限個の分数の共通分母を $d\ne0$ とすると、それらの $A$ 線形結合は全て $d^{-1}A$ に入る。一方 $d$ に現れない変数 $x_j$ を取れば $1/x_j\notin d^{-1}A$ である。もし入れば $d=x_ja$ となるが、$x_j=0$ と評価したとき $d$ は変わらず非零なので矛盾する。
同じく体 $k$ に対し $A=k[x_1,x_2,\ldots]$ とし、全変数を零にする写像 $A\to k$ を取る。$B=k$ は一元 $1$ で生成される有限 $A$ 加群であり、Noether 環である。しかし $A$ は前の増大列によって Noether でない。$B$ の零化イデアルは $(x_1,x_2,\ldots)$ で、忠実性が失われている。像が Noether という一般準同型版とは矛盾しない。
体 $k$ に対し上の非 Noether 整域 $A$ と $M=\operatorname{Frac}(A)$ を取る。$M$ は忠実である。$I=0$ なら $IM=0$、$I\ne0$ なら $a\in I\setminus\{0\}$ を取れて $a$ が $M$ 内で可逆なので $IM=M$ である。従ってイデアル像の族は $\{0,M\}$ だけで、昇鎖条件を満たす。それでも $A$ は Noether でない。有限生成性なしでは、Zorn の鎖合併が忠実商を残すという証明の有限共通段階を取れない。
体 $k$ に対し $A=k[t^2,t^3]\subset B=k[t]$ とする。$B$ は $A$ 上 $1,t$ で生成される。各単項式 $t^n$ は、$n$ が偶数なら $A$ に属し、奇数なら $t$ と偶数冪の積になるためである。$B$ は Noether である。一変数多項式環の非零イデアルでは最小次数のモニック元を取ると、任意の元をその多項式で割った余りがなおイデアルに入り、その次数は小さいので零となる。従って全イデアルは主である。
Eakin の定理から $k[t^2,t^3]$ は Noether となる。ここでは $A$ の Noether 性を多項式環の商表示から先に知る必要はない。有限生成された加群 $B$ と、その環としての Noether 性だけで下降できる。
$A$ が Noether、$B$ が有限 $A$ 代数なら $B$ は Noether 環である。この方向では写像 $A\to B$ が単射である必要はない。
$B$ は Noether 環 $A$ 上の有限生成加群なので、鎖条件の補題より Noether $A$ 加群である。$B$ の任意のイデアルは $A$ 部分加群でもあり、イデアル増大列は部分加群増大列として停止する。従って $B$ は Noether 環である。
従って有限部分環拡大 $A\subset B$ の場合は $A$ が Noether であることと $B$ が Noether であることが同値となる。逆方向は有限生成加群の一般論で短く証明できるが、下降方向は部分加群の有限性を先取りできないので加群版の二段の極大性を必要とする。
有限型代数とは、有限個の元を環として添加して生成される代数である。有限加群なら有限型代数でもあるが、逆ではない。例えば $A[t]$ は一元で生成される有限型 $A$ 代数だが、$A\ne0$ なら $1,t,t^2,\ldots$ の係数独立性から有限 $A$ 加群ではない。Eakin の定理における有限性は、後者の加群有限性である。
有限環拡大の元は整であることも、有限性の意味を確認する方法になる。$B$ の $A$ 加群生成元 $b_1,\ldots,b_r$ を取り、$b\in B$ の乗法について $bb_i=\sum_j a_{ij}b_j$ と書く。行列 $bI-(a_{ij})$ の随伴行列を掛けると、そのモニック行列式が全生成元を殺す。$1_B$ も生成元の線形結合なので行列式は $B$ 内で零となり、$b$ はモニック多項式を満たす。この整性は有限性からの帰結であり、証明の主段で Noether 性の代わりに使うものではない。
一般の整拡大、正規化の有限性、有限型代数の下降などは、それぞれ別の条件を要する。例えば有限な正規化 $A\subset\overline A$ が与えられ、その上の環が Noether なら本定理を適用できるが、正規化が有限であること自体を Eakin の定理が保証するわけではない。有限性を先に確認するのと、そこから Noether 性を下降するのとを分ける必要がある。
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