Drinfeld加群(Drinfeld module)とは、有限体上の関数体に対する加群構造をFrobenius作用素の捩れ多項式環へ写す環準同型である。Carlitz加群を階数1の基本例とし、トーション点や自己準同型が数体上の楕円曲線と平行する算術を与える。
Drinfeld加群(Drinfeld module)とは、有限体上の関数体に対する加群構造をFrobenius作用素の捩れ多項式環へ写す環準同型である。Carlitz加群を階数1の基本例とし、トーション点や自己準同型が数体上の楕円曲線と平行する算術を与える。
本記事では係数環を $A=\mathbb F_q[T]$ に固定する。$K$ を $\mathbb F_q$-体、$\iota\colon A\to K$ を $\mathbb F_q$-代数準同型とし、$\theta:=\iota(T)$ と書く。一般の関数体に付随する定義には追加の幾何学的準備が必要なので扱わない。形式群との歴史的・類比的な関係は 形式群 に分ける。
Frobenius捩れ多項式環 $K\{\tau\}$ とは、左 $K$-ベクトル空間として
$$
K\{\tau\}=\left\{c_0+c_1\tau+\cdots+c_n\tau^n\mid c_i\in K\right\}
$$
であり、乗法が
$$
\tau c=c^q\tau\qquad(c\in K)
$$
で定まる環である。$P=\sum c_i\tau^i$ は、加法多項式
$$
P(X)=\sum_i c_iX^{q^i}
$$
として $K$ の代数閉包に作用する。
$K$ 上の Drinfeld加群とは、$\mathbb F_q$-代数の準同型
$$
\phi:A\to K\{\tau\},
\qquad a\longmapsto\phi_a
$$
で次を満たすものである。
構造準同型 $\iota\colon A\to K$ の核 $\mathfrak p=\ker\iota$ を $\phi$ の標数イデアルという。$\mathfrak p=(0)$ のとき $\phi$ は標数0または生成的標数(generic characteristic)をもつといい、$\mathfrak p\neq(0)$ のとき有限標数をもつという。これは体 $K$ 自身の標数が常に素数 $p$ であることとは別の概念である。
$0\ne a\in A$ とする。Drinfeld加群 $\phi$ の $a$-トーションを
$$
\phi[a]:=\{x\in \overline K\mid \phi_a(x)=0\}
$$
と定める。ここで $\overline K$ は $K$ の代数閉包であり、$\phi_a(x)$ は $\phi_a\in K\{\tau\}$ に対応する加法多項式の値である。
$\phi[a]$ は加法多項式 $\phi_a$ の核なので加法について閉じ、$A/(a)$-加群になる。$a$ が標数イデアルと互いに素な場合、後述の分離性により根の個数を次数から数えられる。標数イデアルに属する $a$ では $\iota(a)=0$ となり、非分離性が起こり得るため同じ結論を無条件には使えない。
二つのDrinfeld加群 $\phi,\psi\colon A\to K\{\tau\}$ のあいだの準同型とは、$u\in K\{\tau\}$ で
$$
u\phi_a=\psi_a u\qquad(a\in A)
$$
を満たすものをいう。$u\in K^\times$ であるとき同型という。自己準同型全体は合成と加法により環 $\operatorname{End}_K(\phi)$ をなす。$A$ 自身は $a\mapsto\phi_a$ によってこの自己準同型環へ作用する。
$K=\mathbb F_q(\theta)$ とし、$\iota(T)=\theta$ とする。
$$
C_T=\theta+\tau
$$
で定まる階数1のDrinfeld加群 $C$ を Carlitz加群という。加法多項式としては
$$
C_T(X)=\theta X+X^q
$$
である。例えば $\tau\theta=\theta^q\tau$ に注意すると
$$
C_{T^2}=C_T\circ C_T
=\theta^2+(\theta+\theta^q)\tau+\tau^2.
$$
これは整数論の楕円加群と類似する階数1の基本例である。
Carlitz加群について
$$
C_T(X)=\theta X+X^q=X(\theta+X^{q-1})
$$
である。$\theta\neq0$ なら形式微分は $\theta$ であり、$C_T$ は分離的である。従って代数閉包中の $T$-トーション点はちょうど $q$ 個ある。非零トーション点は $x^{q-1}=-\theta$ を満たし、一つの非零解を $\lambda$ とすれば $\mathbb F_q^\times\lambda$ が非零解全体になる。
$\theta X+X^{q+1}$ を $T$ の作用として指定してもDrinfeld加群にはならない。実際、特性 $p$ で
$$
(X+Y)^{q+1}
=X^{q+1}+X^qY+XY^q+Y^{q+1}
$$
であり、交差項 $X^qY+XY^q$ が残る。したがって対応する写像は加法を保たず、$K\{\tau\}$ の元ではない。この反例は、「多項式で作用する」ことだけでは足りず、$q$ の冪を指数とする加法多項式である条件が必要なことを示す。
$P\in K\{\tau\}$ に対して
$$
P(x+y)=P(x)+P(y),
\qquad
P(\lambda x)=\lambda P(x)\qquad(\lambda\in\mathbb F_q)
$$
が成り立つ。また $P,Q\in K\{\tau\}$ に対して、捩れ多項式環の積 $PQ$ の作用は写像の合成 $P\circ Q$ に等しい。
特性 $p$ におけるFrobenius恒等式から
$$
(x+y)^{q^i}=x^{q^i}+y^{q^i}
$$
である。$\lambda\in\mathbb F_q$ なら $\lambda^{q^i}=\lambda$ なので、二つの加法性は各項ごとに従う。
積については、単項 $c\tau^i$ と $d\tau^j$ に対して
$$
(c\tau^i)(d\tau^j)=cd^{q^i}\tau^{i+j}
$$
であり、対応する写像の合成も
$$
c(dX^{q^j})^{q^i}=cd^{q^i}X^{q^{i+j}}
$$
となる。分配律により一般の $P,Q$ に対する主張が従う。$\blacksquare$
$P=\theta+g_1\tau+\cdots+g_r\tau^r\in K\{\tau\}$($r\ge1$、$g_r\ne0$)を任意にとる。このとき
$$
\phi_T=P
$$
を満たす $K$ 上のDrinfeld加群 $\phi$ がただ一つ存在する。また $0\ne a\in A$ に対して
$$
\deg_\tau\phi_a=r\deg_Ta
$$
である。
$A=\mathbb F_q[T]$ は一元多項式環なので、$T\mapsto P$ はただ一つの $\mathbb F_q$-代数準同型
$$
\phi:\mathbb F_q[T]\to K\{\tau\}
$$
に延長する。$P$ の $\tau^0$ 係数は $\theta$ なので、$a(T)$ の $P$ への代入で得られる $\phi_a$ の $\tau^0$ 係数は $a(\theta)=\iota(a)$ である。また $r\ge1$ より $P\notin K$ である。
$a\in\mathbb F_q^\times$ なら $\phi_a=a$ なので次数公式は明らかである。以下 $n:=\deg_Ta\ge1$ とし、最高次係数を $c\in\mathbb F_q^\times$ とする。捩れ多項式の非零元に対して $\tau$-次数は積で加法的だから、$P^n$ の $\tau$-次数は $rn$ である。
$$
\phi_a=cP^n+\text{($P$ の $n-1$ 次以下の項)}
$$
であり、後半の $\tau$-次数は $r(n-1)$ 以下なので最高次項は打ち消されない。よって $\deg_\tau\phi_a=rn$ である。$\blacksquare$
$\phi$ を階数 $r$ のDrinfeld加群とする。$0\ne a\in A$ が $\iota(a)\ne0$ を満たすなら、$\phi_a(X)$ は分離多項式で、
$$
\#\phi[a]=q^{r\deg_Ta}
$$
である。
prop-drinfeld-by-T から $\deg_\tau\phi_a=r\deg_Ta$ である。対応する通常の多項式 $\phi_a(X)$ の次数は従って $q^{r\deg_Ta}$ である。一方、
$$
\phi_a(X)=\iota(a)X+c_1X^q+\cdots+c_mX^{q^m}
$$
であるから、形式微分は
$$
\phi_a'(X)=\iota(a)\ne0
$$
となる。よって $\phi_a(X)$ は重根をもたず、分離閉包中に次数と同じ個数の異なる根をもつ。$\blacksquare$
$0\neq a\in A$ が $\iota(a)\neq0$ を満たすとする。このとき $\phi[a]$ は有限な $A/(a)$-加群であり、その元数は $|A/(a)|^r=q^{r\deg_Ta}$ である。
$x\in\phi[a]$ と $b\in A$ に対し $b\cdot x:=\phi_b(x)$ と定める。$\phi$ が環準同型であることから、これは $A$-加群作用である。また
$$
\phi_a(\phi_b(x))=\phi_{ab}(x)=\phi_b(\phi_a(x))=0
$$
なので作用は $\phi[a]$ を保つ。$a$ はすべての元を零化するから作用は $A/(a)$ を通る。有限性と元数は直前の分離性の命題から従い、$|A/(a)|=q^{\deg_Ta}$ なので所望の式を得る。$\square$
$\phi_T=\theta$ と置くだけでも $\mathbb F_q$-代数準同型 $A\to K\subset K\{\tau\}$ は得られるが、これは単なるスカラー作用である。定義の $\phi_T\notin K$ という条件を破り、正の階数をもたないため、Drinfeld加群とは呼ばない。
$a\in\ker\iota$ なら $\phi_a(X)$ の一次係数は0であるため、形式微分も0になる。従って prop-drinfeld-torsion-separable の仮定を外して根の個数を次数と等置してはいけない。この相違は、生成的標数と有限標数のDrinfeld加群のトーション論を分ける。
Drinfeld加群では、環 $A$ が加法群 $\mathbb G_a$ 上に捩れ多項式を通じて作用する。$a$-トーション、Tate加群、自己準同型環、良い還元といった構成は楕円曲線の算術と平行する。ただしDrinfeld加群の基礎となる代数群は一次元加法群であり、作用を与える多項式は一般に非可換な環 $K\{\tau\}$ に属する。従って「Drinfeld加群は楕円曲線そのもの」であるという意味ではない。
階数 $r$ は、$a$ と標数イデアルが互いに素なときのトーションの大きさ $q^{r\deg a}$ を支配する。階数1のCarlitz加群は、関数体算術において乗法群に相当する最初の例として働く。
定義、階数、トーション、Carlitz加群の標準的な性質については Gos96 を参照した。
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