有限単純群(finite simple group)とは、単位元だけの群でない有限群で、正規部分群が単位元だけの部分群と自分自身の 2 つしかないもののことであり、組成列の因子として有限群を組み立てる単位になる。分類定理により、有限単純群は素数位数の巡回群、5 次以上の交代群、Lie 型の 16 の族の群、26 個の散在型単純群のいずれかと同型である。可換でない有限単純群が指数 $m\geq2$ の部分群をもてば、剰余類への作用により交代群 $A_m$ に埋め込まれ、$m\geq5$ となる。これと Sylow の定理から、位数 60 の単純群は $A_5$ と同型であることが従う。
有限単純群は、有限群を正規部分群と剰余群に分けていったときに最後に残る「それ以上分解できない部分」である。組成列の理論により、どの有限群もこれらから組み立てられ、組み立てに使う有限単純群の並びは群ごとに決まる。この記事では、有限単純群を定義し、分類定理が挙げる 4 つの系列を説明したうえで、単純性が置換表現に与える強い制約を使って「位数 $60$ の単純群は $A_5$ と同型である」ことを完全に証明する。
有限群 $G$ が単純群であるとき、すなわち $G\neq\{e\}$ であり、$G$ の正規部分群が $\{e\}$ と $G$ の 2 つだけであるとき、$G$ を有限単純群(finite simple group)という。
可換な有限単純群は素数位数の巡回群に限られる(単純群 の命題「可換な単純群の分類」)。可換でない有限単純群 $G$ では中心が自明で、交換子部分群が $G$ 全体に一致するので、$G$ は可解群でない(同記事の命題「可換でない単純群の中心と交換子部分群」)。有限単純群の研究の中心は、この可換でないものにある。
単純群からの準同型は単射か自明かのどちらかである(単純群 の命題「単純性の言い換え」)。とくに有限単純群 $G$ が集合に自明でなく作用すれば、$G$ はその集合の上の対称群に埋め込まれる。この記事の証明は、すべてこの事実から出発する。
この記事では証明しない。言明は Sol01 p. 341 と DF04 §3.4(p. 104。巡回群・交代群を含めた 18 の無限族と 26 個の散在型単純群という数え方)にあり、同じ言明は 単純群 の定理「有限単純群の分類」にもある。完成の主張は 1980 年頃に出されたが、その後も準薄群(quasithin group)の場合に未完の部分が残り、その証明は Aschbacher と Smith が引き受けた(Sol01 p. 341)。証明は多数の論文にまたがり、たとえば奇数位数の場合の基礎である Feit–Thompsonの定理 の論文だけで 255 頁ある(Sol01 p. 330)。
1 と 2 が単純であることは 単純群 と 交代群 の記事で示されている。3 の Lie 型の群は、有限体 $\mathbb{F}_q$ の上の単純代数群・単純 Lie 環から作られる行列の群を中心で割ったものである。Chevalley群 の記事が構成と単純性を扱い、16 の族は次のように分かれる。
| 系列 | 族 | 代表例 |
|---|---|---|
| Chevalley 群(9 族) | $A_n(q)$ $(n\geq1)$、$B_n(q)$ $(n\geq2)$、$C_n(q)$ $(n\geq3)$、$D_n(q)$ $(n\geq4)$、$E_6(q)$、$E_7(q)$、$E_8(q)$、$F_4(q)$、$G_2(q)$ | $A_n(q)=\mathrm{PSL}_{n+1}(\mathbb{F}_q)$ |
| Steinberg の捩れ型(4 族) | ${}^2A_n(q^2)$ $(n\geq2)$、${}^2D_n(q^2)$ $(n\geq4)$、${}^2E_6(q^2)$、${}^3D_4(q^3)$ | ${}^2A_n(q^2)=\mathrm{PSU}_{n+1}(\mathbb{F}_{q^2})$ |
| Suzuki 群・Ree 群(3 族) | ${}^2B_2(2^{2m+1})$、${}^2G_2(3^{2m+1})$、${}^2F_4(2^{2m+1})$ | Suzuki 群 $\mathrm{Sz}(2^{2m+1})$ |
この表の族の構成と単純性は、この記事では証明しない。所在は次のとおりである。
$q$ を素数冪とする。$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_q)$ の位数は $q(q^2-1)$ である。実際、第 1 列 $v$ は零でないベクトル($q^2-1$ 通り)であり、$v$ を固定すると $w\mapsto\det(v\ w)$ は $\mathbb{F}_q^2$ 上の零でない線形形式なので、$\det(v\ w)=1$ となる第 2 列 $w$ はちょうど $q$ 個ある。中心はスカラー行列 $aI$($a^2=1$)からなり、$q$ が奇数なら $\{\pm I\}$、$q$ が偶数なら $a^2-1=(a-1)^2$ なので $\{I\}$ である。したがって
$$
|\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_q)|=\frac{q(q^2-1)}{\gcd(2,q-1)}.
$$
$q=4,5,7,8,9,11$ では順に $60,60,168,504,360,660$ であり、$q\geq4$ ではこれらは単純群である(単純群 の例「行列の群から得られる単純群」。言明は DF04 §3.4、p. 104 にもあり、この記事では証明しない)。位数 $60$ の 2 つ $\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_4)$ と $\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_5)$ は、下の cor-fsg-psl2-a5 で $A_5$ と同型であることが分かる。
有限群 $G$ の部分群 $H$ の指数を $m=[G:H]$ とすると、$G$ は左剰余類の集合 $G/H$ に $g\cdot aH:=gaH$ で作用し、準同型 $\rho\colon G\to\operatorname{Sym}(G/H)\cong S_m$ が得られる(群の作用)。$m\geq2$ なら $a\notin H$ について $a\cdot H=aH\neq H$ なので、この作用は自明でない。
$G$ を可換でない有限単純群とし、$H$ を指数 $m\geq2$ の部分群とする。このとき $G$ は交代群 $A_m$ のある部分群と同型である。とくに $|G|$ は $m!/2$ を割り切り、$m\geq5$ である。
上の $\rho\colon G\to S_m$ は自明でないので、$G$ の単純性から単射である(単純群 の命題「単純群の作用と位数の制約」の 1)。$K:=\rho(G)\cong G$ とおく。符号準同型 $\operatorname{sgn}\colon S_m\to\{\pm1\}$ を $K$ に制限した核 $K\cap A_m$ は $K$ の正規部分群で、準同型定理により指数は $|\operatorname{sgn}(K)|\in\{1,2\}$ である。指数が $2$ なら $K\cap A_m$ は $K$ の正規部分群で $\{e\}$ でも $K$ でもない($|K\cap A_m|=|K|/2$ で、$|K|=2$ なら $K$ は可換になる)ので、$K\cong G$ の単純性に反する。よって $K\subset A_m$ であり、Lagrangeの定理により $|G|$ は $|A_m|=m!/2$ を割り切る。
$m\leq4$ とすると、$A_2=\{e\}$、$A_3\cong\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ は可換なので可換でない $G$ を含まない。$A_4$ の部分群の位数は $1,2,3,4,12$ のいずれかで(位数 $6$ の部分群はない。交代群 の命題「4 次の交代群における位数 6 の部分群の非存在」)、位数 $1,2,3$ の群は巡回群、位数 $4$ の群は巡回群か、すべての元の位数が $2$ 以下なので可換であり(有限群 の命題「すべての元の位数が 2 以下の群」)、位数 $12$ の部分群 $A_4$ 自身は単純でない(交代群 の例「Kleinの四元群と $A_4$ の正規部分群」)。よって $A_4$ は可換でない単純群と同型な部分群をもたず、$m\geq5$ である。$\square$
可換でない有限単純群の真部分群の指数は $5$ 以上である。
指数 $5$ の部分群があれば、$G$ は $A_5$ の部分群になる。位数が $60$ ならそれは $A_5$ 全体である。次の定理の証明は、指数 $5$ の部分群を Sylowの定理 と元の数え上げで見つけることにある。
位数 $60$ の単純群は $A_5$ と同型である。
$G$ を位数 $60$ の単純群とする。$60$ は素数でないので $G$ は可換でない(単純群 の命題「可換な単純群の分類」)。
段 1:指数 $5$ の部分群があれば結論が従う。 $H$ を指数 $5$ の部分群とすると、lem-fsg-embed-alternating により $G$ は $A_5$ の部分群 $K$ と同型であり、$|K|=60=|A_5|$ なので $K=A_5$ である。
段 2:Sylow $2$-部分群の個数。 $60=2^2\cdot3\cdot5$ である。Sylow $2$-部分群の個数 $n_2$ は $15$ の約数で奇数なので $n_2\in\{1,3,5,15\}$ である。$n_2=1$ なら唯一の Sylow $2$-部分群は位数 $4$ の正規部分群になり単純性に反する。$P$ を Sylow $2$-部分群とすると $n_2=[G:N_G(P)]$ であり、cor-fsg-index-five により $n_2\neq3$ である。$n_2=5$ なら $N_G(P)$ は指数 $5$ の部分群なので、段 1 により $G\cong A_5$ である。
段 3:$n_2=15$ の場合。 Sylow $5$-部分群の個数 $n_5$ は $12$ の約数で $5$ を法として $1$ なので $n_5\in\{1,6\}$ であり、単純性から $n_5=6$ である。位数 $5$ の相異なる部分群は単位元だけを共有するので、位数 $5$ の元はちょうど $6\cdot4=24$ 個ある。
相異なる Sylow $2$-部分群どうしがつねに単位元だけを共有するとすると、Sylow $2$-部分群に含まれる単位元以外の元は $15\cdot3=45$ 個ある。これらの位数は $2$ か $4$ で、位数 $5$ の元とは重ならないので、$45+24=69>59$ 個の単位元以外の元が必要になり矛盾する。よって相異なる Sylow $2$-部分群 $P,Q$ で $D:=P\cap Q\neq\{e\}$ となるものがある。$P\neq Q$ なので $|D|=2$ である。
位数 $4$ の群は、位数 $4$ の元があれば巡回群、なければすべての元の位数が $2$ 以下なので、いずれにせよ可換である(有限群 の命題「すべての元の位数が 2 以下の群」)。よって $P$ と $Q$ の元は $D$ の元と可換であり、$P\cup Q$ は中心化群 $M:=C_G(D)=\{g\in G\mid gd=dg\ (d\in D)\}$ に含まれる。$M=G$ なら $D$ は $G$ の中心 $Z(G)$ に含まれ、$Z(G)$ は $\{e\}$ でない正規部分群になるので、単純性から $Z(G)=G$ となって $G$ が可換になり矛盾する。よって $M\neq G$ である。$M\supset P$ から $4$ は $|M|$ を割り、$M\supset P\cup Q$、$P\neq Q$ から $|M|>4$ である。$60$ の約数で $4$ の倍数のものは $4,12,20,60$ なので $|M|\in\{12,20\}$、すなわち $[G:M]\in\{5,3\}$ である。cor-fsg-index-five により $[G:M]=5$ であり、段 1 により $G\cong A_5$ である。$\square$
段 3 の場合は、実際には起こらない($A_5$ の Sylow $2$-部分群は $5$ 個ある)。証明では起こらないことを示す必要はなく、どの場合にも指数 $5$ の部分群が見つかることだけを使った。同じ定理と、段 3 の場合が起こらないことまで含めた証明は DF04 §4.5 Proposition 23(pp. 145–146)にある。
$\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_4)\cong\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_5)\cong A_5$ である。
ex-fsg-psl2-orders により両者は位数 $60$ の単純群なので、thm-fsg-order-60 により $A_5$ と同型である。$\square$
$A_5$ が位数 $60$ 未満の可換でない単純群をもたないこと、すなわち $A_5$ が位数最小の可換でない単純群であることは、単純群 の節「5 次の交代群の単純性」の後の詳細で示されている。thm-fsg-order-60 と合わせると、位数 $60$ 以下の可換でない単純群は同型を除いて $A_5$ ただ 1 つである。
有限群 $G\neq\{e\}$ は組成列 $\{e\}=G_0\trianglelefteq G_1\trianglelefteq\cdots\trianglelefteq G_r=G$ をもち、組成因子 $G_i/G_{i-1}$ は有限単純群である。Jordan–Hölder の定理により、組成因子の並びは順序と同型を除いて組成列の選び方によらない(組成列 の定理「Jordan–Hölder の定理」)。有限群を調べることは、組成因子として現れる有限単純群を知ることと、それらから群を組み立てる方法(群の拡大)を知ることの 2 つに分かれる。分類定理は前者に答える。
組成因子がすべて素数位数の巡回群であることは、有限群が可解であることと同値である(組成列 の系「有限可解群の組成因子」)。したがって「ある種類の有限群はすべて可解である」という定理は、「その種類の群の組成因子に可換でない有限単純群は現れない」と言い換えられる。この形の代表的な定理が 2 つある。
正の整数の集合 $\mathbb{N}_{>0}$ の置換のうち、有限個の点しか動かさない偶置換全体を $A_\infty$ とする。$A_n$ を $n+1,n+2,\dots$ を固定する置換とみなすと、$A_5\subset A_6\subset\cdots$ であり、$A_\infty=\bigcup_{n\geq5}A_n$ である。$A_\infty$ は無限群で、単純群である。
実際、$N$ を $\{e\}$ でない $A_\infty$ の正規部分群とし、$\sigma\in N$、$\sigma\neq e$ をとる。$\sigma$ はある $A_n$($n\geq5$)に属する。$m\geq n$ について $N\cap A_m$ は $A_m$ の正規部分群で $\sigma$ を含むので $\{e\}$ でなく、$A_m$ は単純(交代群 の定理「交代群の単純性」)だから $A_m\subset N$ である。よって $N\supset\bigcup_{m\geq n}A_m=A_\infty$ である。$A_\infty$ は無限群なので、thm-fsg-classification のどの系列の群とも同型でない。
lem-fsg-embed-alternating と thm-fsg-order-60 の仮定は次のように外せない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 有限であること(thm-fsg-classification) | $A_\infty$(ex-fsg-infinite-alternating) | 4 つの系列のどれかと同型であること |
| 可換でないこと(lem-fsg-embed-alternating) | $G=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$、$H=\{0\}$、$m=2$ | $A_m$ の部分群と同型であること |
| 単純であること(lem-fsg-embed-alternating) | $G=S_3$、$H=\langle(1\,2)\rangle$、$m=3$ | $A_m$ の部分群と同型であること |
| 単純であること(thm-fsg-order-60) | $A_4\times\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}$(位数 $60$) | $A_5$ と同型であること |
2 行目:$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は単純群だが可換であり、$A_2=\{e\}$ は位数 $2$ の群を含まない。3 行目:$S_3$ は可換でないが単純でなく($A_3$ が正規部分群)、位数 $6$ は $|A_3|=3$ より大きいので $A_3$ の部分群と同型になりえない。剰余類への作用 $S_3\to S_3$ は単射だが、像は奇置換を含む。4 行目:$A_4\times\{0\}$ は指数 $5$ の正規部分群なので $A_4\times\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}$ は単純でなく、単純群 $A_5$ と同型でない。
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