Hausdorffの極大原理

同義語:ハウスドルフの極大原理Hausdorff maximal principleHausdorff maximality principle

概要

Hausdorffの極大原理(Hausdorff maximal principle)とは、任意の半順序集合には、包含についてこれ以上大きくできない鎖(極大鎖)が存在するという原理である。与えられた鎖を含む極大鎖があるという強い形も含めて、ZF の上で選択公理と同値であり、Zornの補題と同じ強さをもつ。整列可能定理を使えば、元を順に調べて比較できるものだけを採ることで極大鎖が作れる。完備束の極大鎖は任意の上限と下限で閉じ、集合 $X$ の冪集合の極大鎖は $X$ 上の全順序と一対一に対応する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 半順序集合, 鎖(順序集合), 選択公理, 整列可能定理

Hausdorffの極大原理(Hausdorff maximal principle)は、「どの半順序集合にも、これ以上のばせない鎖がある」と述べる原理である。半順序集合の中の、どの 2 元も比較できる部分集合を鎖という。有限の半順序集合なら、元の個数が最大の鎖をとれば極大な鎖が得られるが、無限の場合は「いちばん長い鎖」を数でとらえることができない。極大な鎖の存在は 選択公理 と同値であり、Zornの補題 と同じ強さをもつ。歴史的には Zorn の補題より早く、Hausdorff が 1914 年に述べた(Mun00 §11、p. 69)。
この記事では、極大原理を「与えられた鎖を含む極大鎖がある」という強い形で、整列可能定理 から証明する。次に、選択公理を使わずに、弱い形から強い形と選択公理が従うことを示す。後半では、極大鎖そのものの形を調べる。完備束の極大鎖は任意の上限と下限で閉じていること、集合 $X$ の冪集合の極大鎖は $X$ 上の全順序と一対一に対応することを証明し、有理数の冪集合の中の極大鎖を具体的に書き下す。

定義

以下、$(P,\le)$ を 半順序集合 とし、$x< y$ で「$x\le y$ かつ $x\ne y$」を表す。

  • $P$ の部分集合 $C$ が 鎖 であるとは、$C$ のどの 2 元 $x,y$ についても $x\le y$ または $y\le x$ が成り立つことをいう。空集合も鎖である。
  • 鎖 $C$ が 極大鎖 であるとは、$C\subsetneq C'$ となる $P$ の鎖 $C'$ が存在しないことをいう。すなわち、$P$ の鎖全体を包含で順序づけた半順序集合での極大元である(鎖(順序集合) の定義「極大鎖・最長鎖・被覆」)。
    極大鎖を調べるときは、次の言い換えをよく使う。鎖 $C$ が極大であることは、「$C\cup\{x\}$ が鎖になるような $x\in P$ は $C$ に属するものに限る」ことと同値である。実際、$C$ が極大で $C\cup\{x\}$ が鎖なら、極大性から $C\cup\{x\}=C$、すなわち $x\in C$ である。逆にこの条件が成り立つとき、$C\subsetneq C'$ となる鎖 $C'$ があれば、$x\in C'\setminus C$ について $C\cup\{x\}\subset C'$ は鎖なので $x\in C$ となり矛盾する。
極大原理の二つの形
  1. Hausdorffの極大原理:任意の半順序集合には極大鎖がある。
  2. 強い形:半順序集合 $P$ の任意の鎖 $C_0$ に対し、$C_0\subset B$ を満たす $P$ の極大鎖 $B$ がある。

強い形で $C_0=\emptyset$ とすると弱い形になる。逆向きも選択公理なしに示せる(prop-hmp-weak-to-strong)。Mun00 §11(p. 69)は、狭義の半順序 $\prec$ について「包含について極大な、$\prec$ で全順序づけられた部分集合がある」という形で述べている。$\prec$ と、それに等号を加えた半順序 $\preceq$ とで、全順序づけられた部分集合は同じなので、これは 1 と同じ主張である。
極大鎖は一般に一つではなく、元の個数もそろわない。2 元の反鎖 $\{a,b\}$ では $\{a\}$ と $\{b\}$ がどちらも極大鎖であり、鎖(順序集合) の例「反例:極大鎖は最長とは限らない」では、元が 2 個の極大鎖と 3 個の極大鎖が並んでいる。極大原理が主張するのは存在だけである。

選択公理からの証明

選択公理は 整列可能定理 と同値である(選択公理 の定理「整列可能定理との同値」)。$P$ を整列し、その順に元を一つずつ調べて、「それまでに採った元と比べられるなら採る」という手続きを最後まで行うと、極大鎖ができる(Mun00 §11、p. 70 の説明)。整列順序に沿った採否の決め方は、整列可能定理 の節「整列順序に沿った構成」の再帰で正当化される。

与えられた鎖を含む極大鎖

$\mathsf{ZFC}$ において、半順序集合 $P$ の任意の鎖 $C_0$ は、$P$ のある極大鎖に含まれる。とくに、任意の半順序集合には極大鎖がある。

$P$ 上の整列順序 $\sqsubseteq$ をとる(整列可能定理。$\le$ とは無関係の順序である)。$q\sqsubset p$ は「$q\sqsubseteq p$ かつ $q\ne p$」を表す。$\sqsubseteq$ に沿った再帰により、部分集合 $B_1\subset P$ を次で定める。各 $p\in P$ について
$$ D_p:=C_0\cup\{q\in B_1\mid q\sqsubset p\} $$
とおき、
$$ p\in B_1\iff D_p\cup\{p\}\text{ が鎖である} $$
とする。$p$ の採否は $p$ より $\sqsubseteq$ で前の元の採否だけから決まるので、この定義は正当である。$B:=C_0\cup B_1$ とおく。
$B$ は鎖である。 $x,y\in B$ を相異なる 2 元とする。3 つの場合に分ける。

  • $x,y\in C_0$ のとき:$C_0$ が鎖なので比較可能である。
  • $x\in C_0$、$y\in B_1$ のとき:$y\in B_1$ の定義により $D_y\cup\{y\}$ は鎖であり、$x\in C_0\subset D_y$ なので、$x$ と $y$ は比較可能である。
  • $x,y\in B_1$ のとき:$\sqsubseteq$ は全順序なので $x\sqsubset y$ としてよい。すると $x\in D_y$ であり、$D_y\cup\{y\}$ が鎖なので $x$ と $y$ は比較可能である。

$B$ は極大鎖である。 定義の直後の言い換えにより、$B\cup\{x\}$ が鎖となる $x\in P$ が $B$ に属することを示せばよい。$D_x\subset B$ なので $D_x\cup\{x\}\subset B\cup\{x\}$ であり、鎖の部分集合は鎖なので $D_x\cup\{x\}$ は鎖である。$B_1$ の定義により $x\in B_1\subset B$ である。
$C_0\subset B$ は $B$ の定義から明らかである。$\square$

選択公理を使ったのは、$P$ の整列順序をとるところだけである。したがって、$P$ が整列可能なら、この証明は選択公理なしに通る。たとえば $P$ が可算なら、$\mathbb N$ への単射を一つとれば、$\mathbb N$ の順序を引き戻して整列順序が得られる(Mun00 §11、p. 70 は可算の場合をまずこの形で示している)。Zornの補題 の記事の定理「鎖の上界から得られる極大元」は、選択関数で鎖の上の元を選んで鎖を伸ばしていく証明であり、整列可能定理 の記事の定理「整列可能定理から Zorn の補題へ」は、整列順序に沿って同じ形の採否の手続き(それまでに採ったどの元よりも大きければ採る)で極大元を作る証明である。

選択公理との同値

弱い形から強い形を導くには、「$C_0$ を含む鎖」の全体に弱い形を当てはめればよい。

弱い形から強い形へ

$\mathsf{ZF}$ において、Hausdorffの極大原理(def-hmp-statements の 1)から、その強い形(同じ定義の 2)が従う。

$C_0$ を $P$ の鎖とし、$C_0$ を含む $P$ の鎖全体の集合を $\mathcal Q$ とおく。$C_0\in\mathcal Q$ なので $\mathcal Q$ は空でない。$\mathcal Q$ を包含で順序づけ、極大原理により $\mathcal Q$ の極大鎖 $\mathcal K$ をとる。
$\mathcal K$ は空でない。空なら $\{C_0\}$ が $\mathcal Q$ の鎖で $\mathcal K$ を真に含むからである。$B:=\bigcup\mathcal K$ とおく。$B$ は $P$ の鎖である。実際 $x,y\in B$ なら $x\in K$、$y\in K'$ となる $K,K'\in\mathcal K$ があり、$\mathcal K$ は包含について鎖なので大きい方が $x,y$ を両方含み、それが $P$ の鎖なので $x,y$ は比較可能である。$C_0\subset B$ なので $B\in\mathcal Q$ である。$\mathcal K$ のどの元も $B$ に含まれるので、$\mathcal K\cup\{B\}$ は $\mathcal Q$ の鎖であり、$\mathcal K$ の極大性から $B\in\mathcal K$ である。
$B$ が $P$ の極大鎖であることを示す。$B\cup\{x\}$ が $P$ の鎖だとする。これは $C_0$ を含むので $\mathcal Q$ に属し、$\mathcal K$ のどの元も $B\subset B\cup\{x\}$ に含まれるので、$\mathcal K\cup\{B\cup\{x\}\}$ は $\mathcal Q$ の鎖である。$\mathcal K$ の極大性から $B\cup\{x\}\in\mathcal K$ であり、$\mathcal K$ の元は $B$ に含まれるので $B\cup\{x\}\subset B$、すなわち $x\in B$ である。定義の直後の言い換えにより、$B$ は極大鎖である。$\square$

選択公理と同値な形

$\mathsf{ZF}$ において、次の 3 つは同値である。

  1. 選択公理:空でない集合の族 $(X_i)_{i\in I}$ には、各 $i$ で $f(i)\in X_i$ となる写像 $f$(選択関数)がある。
  2. Hausdorffの極大原理の強い形。
  3. Hausdorffの極大原理。

1 ⇒ 2 は thm-hmp-main である(選択公理から整列可能定理が従うことは 選択公理 の定理「整列可能定理との同値」による)。2 ⇒ 3 は $C_0=\emptyset$ とすればよい。
3 ⇒ 1 を示す。$(X_i)_{i\in I}$ を空でない集合の族とする。$I$ の部分集合 $J$ 上で定義され、各 $i\in J$ で $f(i)\in X_i$ となる写像 $f$ を 部分選択関数 と呼び、その全体を $\mathcal F$ とする。写像を順序対の集合とみて、$\mathcal F$ を包含で順序づける。$f\subset g$ は「$g$ が $f$ の拡張である」ことである。定義域が空な写像が $\mathcal F$ に属するので、$\mathcal F$ は空でない。
極大原理により $\mathcal F$ の極大鎖 $\mathcal K$ をとり、$g:=\bigcup\mathcal K$ とおく。$\mathcal K$ の 2 元はどちらかが他方の拡張なので、$(i,x),(i,y)\in g$ なら両方を含む $\mathcal K$ の元があり、それが写像なので $x=y$ である。よって $g$ は写像で、定義域は $\mathcal K$ の元の定義域の合併 $J\subset I$ であり、$g(i)\in X_i$ を満たす。すなわち $g\in\mathcal F$ である。$\mathcal K$ のどの元も $g$ に含まれるので $\mathcal K\cup\{g\}$ は鎖であり、極大性から $g\in\mathcal K$ である。
$J\ne I$ と仮定する。$i_0\in I\setminus J$ をとり、$X_{i_0}$ は空でないので元 $x_0$ を一つとる(一つの集合から一つの元をとるだけなので選択公理は要らない)。$h:=g\cup\{(i_0,x_0)\}$ は $\mathcal F$ に属し、$\mathcal K$ のどの元も $g\subsetneq h$ に含まれる。$h\in\mathcal K$ なら $h\subset g$ となるが、$(i_0,x_0)\notin g$ なので $h\notin\mathcal K$ である。よって $\mathcal K\cup\{h\}$ は $\mathcal K$ を真に含む鎖となり、$\mathcal K$ の極大性に反する。したがって $J=I$ であり、$g$ は選択関数である。$\square$

Hausdorffの極大原理と Zornの補題・Tukey の補題が $\mathsf{ZF}$ の上で互いに同値であることは、Zornの補題 の記事の定理「Zornの補題と同値な原理」で示されている(Mun00 §11 は Hausdorff ⇒ Zorn を p. 71 で示し、逆向きを Exercises 5–7、p. 72 に置いている)。選択公理は $\mathsf{ZF}$ から独立なので(選択公理 の系「選択公理の独立性」)、Hausdorffの極大原理も $\mathsf{ZF}$ だけからは証明できない。

極大鎖の形

極大原理は極大鎖の存在しか言わないが、極大鎖には「すき間をふさぐ元をすべて含む」という強い性質がある。完備束 は、任意の部分集合が上限と下限をもつ半順序集合である。

完備束の極大鎖は上限と下限で閉じる

$L$ を完備束、$C$ を $L$ の極大鎖とする。$C$ の任意の部分集合 $S$ について、$L$ での上限 $\bigvee S$ と下限 $\bigwedge S$ は $C$ に属する。とくに $C$ は $L$ の最小元と最大元を含み、$L$ の順序を制限した $C$ は完備束である。

$s:=\bigvee S$ とおき、$s$ が $C$ のどの元 $c$ とも比較可能であることを示す。$c$ が $S$ の上界なら、上限の定義により $s\le c$ である。$c$ が $S$ の上界でないなら、$x\not\le c$ となる $x\in S$ がある。$x$ と $c$ はともに $C$ の元なので比較可能であり、$x\not\le c$ から $c< x$ である。$x\le s$ なので $c< s$ である。
よって $C\cup\{s\}$ は鎖であり、$C$ の極大性から $s\in C$ である。下限については順序を逆にして同じ議論をする。$S=\emptyset$ とすると、$\bigvee\emptyset$ は $L$ の最小元、$\bigwedge\emptyset$ は最大元なので、これらが $C$ に属する。$C$ の部分集合の $L$ での上限と下限が $C$ に属するので、それは $C$ の中での上限と下限でもあり、$C$ は完備束である。$\square$

冪集合 $\mathcal P(X)$ は包含について完備束で、上限は合併、下限は共通部分である。したがって $\mathcal P(X)$ の極大鎖は、任意個の合併と共通部分で閉じた部分集合の族であり、$\emptyset$ と $X$ を含む。この性質を使うと、$\mathcal P(X)$ の極大鎖は $X$ 上の全順序で完全に記述できる。
$X$ 上の全順序 $\preceq$ について、部分集合 $D\subset X$ が 下集合 であるとは、$y\in D$ かつ $x\preceq y$ なら $x\in D$ となることをいう。$\preceq$ に関する下集合全体を $\mathcal D(\preceq)$ と書く。$\emptyset$、$X$、各 $y$ の ${\downarrow}y:=\{x\in X\mid x\preceq y\}$ は下集合である(${\downarrow}y$ については推移律による)。逆に $\mathcal P(X)$ の部分集合族 $\mathcal C$ について、$X$ 上の関係 $\preceq_{\mathcal C}$ を
$$ x\preceq_{\mathcal C}y\iff(\forall C\in\mathcal C)\ (y\in C\Rightarrow x\in C) $$
で定める。

冪集合の極大鎖と全順序

$X$ を集合とする。

  1. $X$ 上の全順序 $\preceq$ について、$\mathcal D(\preceq)$ は $(\mathcal P(X),\subset)$ の極大鎖であり、$\preceq_{\mathcal D(\preceq)}$ は $\preceq$ に一致する。
  2. $(\mathcal P(X),\subset)$ の極大鎖 $\mathcal C$ について、$\preceq_{\mathcal C}$ は $X$ 上の全順序であり、$\mathcal D(\preceq_{\mathcal C})=\mathcal C$ である。
    したがって $\preceq\mapsto\mathcal D(\preceq)$ は、$X$ 上の全順序全体から $\mathcal P(X)$ の極大鎖全体への全単射であり、逆写像は $\mathcal C\mapsto\preceq_{\mathcal C}$ である。

1. $\mathcal D(\preceq)$ が鎖であること:下集合 $D,E$ が比較不能なら、$y\in D\setminus E$ と $x\in E\setminus D$ がある。$\preceq$ は全順序なので $x\preceq y$ か $y\preceq x$ である。前者なら $D$ が下集合なので $x\in D$、後者なら $E$ が下集合なので $y\in E$ となり、どちらも矛盾する。
極大であること:$S\subset X$ が $\mathcal D(\preceq)$ のどの元とも比較可能だとして、$S$ が下集合であることを示す。$y\in S$、$x\preceq y$ とし、$x\notin S$ と仮定する。$S$ と ${\downarrow}x$ は比較可能で、$x\in{\downarrow}x\setminus S$ なので ${\downarrow}x\not\subset S$、したがって $S\subset{\downarrow}x$ である。すると $y\in S$ から $y\preceq x$ となり、$x\preceq y$ と反対称律から $x=y\in S$ となって矛盾する。よって $S\in\mathcal D(\preceq)$ であり、定義の直後の言い換えにより $\mathcal D(\preceq)$ は極大鎖である。
$\preceq_{\mathcal D(\preceq)}=\;\preceq$ であること:$x\preceq y$ なら、$y$ を含む下集合は $x$ も含むので $x\preceq_{\mathcal D(\preceq)}y$ である。逆に $x\preceq_{\mathcal D(\preceq)}y$ なら、$y$ を含む下集合 ${\downarrow}y$ が $x$ を含むので $x\preceq y$ である。
2. $\preceq_{\mathcal C}$ が反射的かつ推移的であることは定義から明らかである。
全順序性:$x\preceq_{\mathcal C}y$ でも $y\preceq_{\mathcal C}x$ でもないとすると、$y\in C$、$x\notin C$ となる $C\in\mathcal C$ と、$x\in C'$、$y\notin C'$ となる $C'\in\mathcal C$ がある。$C$ と $C'$ は比較可能なはずだが、$C\subset C'$ なら $y\in C'$、$C'\subset C$ なら $x\in C$ となり、どちらも矛盾する。
反対称性:$x\ne y$ で、$x\preceq_{\mathcal C}y$ かつ $y\preceq_{\mathcal C}x$ と仮定する。すなわち、$\mathcal C$ の各元は $x,y$ を両方含むか、両方含まない。$U:=\bigcup\{C\in\mathcal C\mid x\notin C\}$ とおくと、prop-hmp-complete-lattice により $U\in\mathcal C$ であり、$x\notin U$ である。$V:=U\cup\{x\}$ が $\mathcal C$ のどの元 $C$ とも比較可能であることを示す。$x\notin C$ なら $C\subset U\subset V$ である。$x\in C$ なら、$x\notin U$ なので $C\not\subset U$ であり、$C$ と $U$ は比較可能なので $U\subset C$、したがって $V\subset C$ である。$\mathcal C$ の極大性から $V\in\mathcal C$ である。$V$ は $x$ を含むので、仮定により $y$ も含み、$y\ne x$ から $y\in U$ である。すると $y\in C$、$x\notin C$ となる $C\in\mathcal C$ があり、仮定に反する。
$\mathcal D(\preceq_{\mathcal C})=\mathcal C$ であること:$C\in\mathcal C$、$y\in C$、$x\preceq_{\mathcal C}y$ なら、定義から $x\in C$ なので、$C$ は $\preceq_{\mathcal C}$ の下集合である。よって $\mathcal C\subset\mathcal D(\preceq_{\mathcal C})$ である。1 により右辺は鎖であり、$\mathcal C$ は極大鎖なので、両者は一致する。
1 と 2 から、二つの対応は互いに逆である。$\square$

$X$ が $n$ 元の有限集合なら、$X$ 上の全順序は $X$ の元の並べ方と一対一に対応するので、$\mathcal P(X)$ の極大鎖はちょうど $n!$ 本ある。これは 鎖(順序集合) の系「冪集合の極大鎖と並べ方」と一致する。

例

有理数の下集合がなす極大鎖

$X=\mathbb Q$ に通常の順序 $\le$ を入れる。thm-hmp-power-set により、$\le$ に関する下集合全体 $\mathcal D(\le)$ は $\mathcal P(\mathbb Q)$ の極大鎖である。その元は次のとおりである。
$$ \emptyset,\qquad\mathbb Q,\qquad\{q\in\mathbb Q\mid q< r\}\ (r\in\mathbb R),\qquad\{q\in\mathbb Q\mid q\le a\}\ (a\in\mathbb Q). $$
実際、$D\ne\emptyset,\mathbb Q$ を下集合とし、$b\in\mathbb Q\setminus D$ をとると、$D$ の元はすべて $b$ より小さい($d\ge b$ なら $b\in D$ となる)。よって $D$ は空でなく上に有界で、実数 $s:=\sup D$ がある。$q< s$ なら $q< d$ となる $d\in D$ があるので $q\in D$、$q>s$ なら $q\notin D$ である。したがって $D$ は $\{q< s\}$ か $\{q\le s\}$ であり、後者が前者と異なるのは $s$ が有理数のときだけである。
この極大鎖は非可算である。全単射 $q\colon\mathbb N\to\mathbb Q$ で $\mathbb N$ に写せば、$\mathcal P(\mathbb N)$ の極大鎖で、鎖(順序集合) の定理「$\mathcal{P}(\mathbb{N})$ の鎖」の 1 の非可算な鎖 $\{S_r\mid r\in\mathbb R\}$ を含むものが得られる。$\{S_r\}$ 自身は極大でない。$a\in\mathbb Q$ について $\{n\mid q(n)\le a\}$ を加えても鎖のままだからである。

差が有理数になる実数の鎖

$\mathbb R$ に、$a\preceq b\iff b-a$ が $0$ 以上の有理数、で半順序を入れる(Mun00 §11 Exercise 1、p. 71 の順序に等号を加えたもの)。$a,b$ が比較可能であることは $a-b\in\mathbb Q$ と同値である。よって $C$ が空でない鎖なら $C$ の元どうしの差はすべて有理数で、$c\in C$ を一つとれば $C\subset c+\mathbb Q$ である(空な鎖は $\{x\}$ に真に含まれるので極大でない)。$c+\mathbb Q$ はどの 2 元の差も有理数なので鎖であり、$c+\mathbb Q$ を真に含む鎖はない。したがって極大鎖はちょうど剰余類 $c+\mathbb Q$ であり、極大鎖は互いに交わらず $\mathbb R$ を覆う。
この半順序では極大鎖が具体的に書けるので、極大鎖の存在に選択公理は要らない。一方、各極大鎖 $c+\mathbb Q$ は $[0,1]$ と交わるので、各極大鎖から $[0,1]$ の点を 1 点ずつ選んだ集合は 選択公理 の例「Vitali集合の構成」の Vitali 集合と同じ種類の集合であり、その存在には選択公理を使う。極大鎖を一つとることと、すべての極大鎖から代表を選ぶことは別の主張である。

反例:条件を外したとき

極大原理は「鎖全体の族」に極大元があると言う。族を鎖の一部に制限したり、結論を「最大」に強めたりすると成り立たない。

外す条件反例成り立たなくなること
鎖の大きさを制限しない$(\mathbb R,\le)$ の可算な鎖の族包含について極大なものがある
鎖を整列したものに限らない$(\mathbb Q,\le)$ の整列した部分集合の族包含について極大なものがある
結論は極大(最大ではない)2 元の反鎖 $\{a,b\}$すべての鎖を含む鎖がある
半順序集合が完備束(prop-hmp-complete-lattice)$(\mathbb Q,\le)$ の極大鎖 $\mathbb Q$極大鎖は完備束
鎖が極大(thm-hmp-power-set の 2)$\mathcal P(\{1,2\})$ の鎖 $\{\emptyset,\{1,2\}\}$$\preceq_{\mathcal C}$ は全順序
表の反例の確かめ

1 行目:$\mathbb R$ の可算部分集合 $A$ は鎖である。$\mathbb R$ は非可算なので $x\notin A$ があり、$A\cup\{x\}$ は $A$ を真に含む可算な鎖である。よって可算な鎖の中に極大なものはない。鎖全体の族では $\mathbb R$ 自身が極大鎖である。
2 行目:$W\subset\mathbb Q$ が整列しているとする。$W=\emptyset$ なら $q\in\mathbb Q$ を一つ、$W\ne\emptyset$ なら $q:=\min W-1$ をとる。$W\cup\{q\}$ の空でない部分集合は、$q$ を含めば $q$ を最小元にもち、含まなければ $W$ の部分集合なので最小元をもつ。よって $W\cup\{q\}$ は $W$ を真に含む整列部分集合であり、整列した鎖の中に極大なものはない。
3 行目:$\{a,b\}$ の鎖は $\emptyset,\{a\},\{b\}$ だけで、極大鎖は $\{a\}$ と $\{b\}$ である。$\{a\}$ と $\{b\}$ を両方含む鎖はない。
4 行目:$(\mathbb Q,\le)$ は全順序集合なので $\mathbb Q$ 自身がただ一つの極大鎖だが、$\{q\in\mathbb Q\mid q>0,\ q^2< 2\}$ は $\mathbb Q$ に上限をもたない(上限と下限 の命題「有理数体における上限の不存在」)。
5 行目:$\mathcal C=\{\emptyset,\{1,2\}\}$ は鎖だが、$\{1\}$ を加えても鎖なので極大でない。$2$ を含む $\mathcal C$ の元 $\{1,2\}$ は $1$ も含み、逆も同じなので $1\preceq_{\mathcal C}2$ かつ $2\preceq_{\mathcal C}1$ であり、反対称律が破れる。

関連項目

参考文献

[1]
James R. Munkres, Topology, 2nd ed., Prentice Hall, 2000, §11 The Maximum Principle(極大原理の主張と Hausdorff 1914 年 p. 69、整列可能定理からの導出 p. 70、Zorn の補題の導出と Exercise 1 p. 71、Exercises 5–7 p. 72)

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