Cauchyの剛性定理

同義語:コーシーの剛性定理Cauchy's rigidity theorem

概要

Cauchyの剛性定理(Cauchy's rigidity theorem)とは、面のつながり方が同じ 2 つの凸多面体で、対応する面がどれも合同ならば、2 つの多面体は合同であるという定理である。面を板、辺を蝶番にした凸多面体は動かない、とも言い表せる。証明は、対応する辺で二面角を比べて $+$、$-$、$0$ の印をつけ、印のある頂点のまわりでは符号が 4 回以上変わること(腕の補題による)と、Euler の多面体定理から全体ではそれが起こりえないことを合わせる。どの頂点にも 3 本の辺が集まる場合は、3 つの面の角から二面角が決まるので直接わかる。凸でない多面体や、面が合同でなく辺の長さだけ等しい場合には成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Eulerの多面体定理(高校数学), 余弦定理(高校数学), 三角形の合同条件, ベクトルの内積(高校数学)

高校での出発点:棒で作った図形は動くか

同じ長さの棒 4 本を、端どうしを自由に回る留め金でつないで四角形を作る。正方形にしても、押せばひし形につぶれる。一方、3 本の棒の三角形は形が変わらない。3 辺の長さで三角形は決まるからである(三角形の合同条件 の 3 辺相等)。

四角形は動き、三角形は動かない
  1. 1 辺 $2$ の正方形と、1 辺 $2$、1 つの角が $60^\circ$ のひし形は、4 辺の長さがすべて等しいが、合同ではない。対角線の長さが、正方形では $2\sqrt2$ と $2\sqrt2$、ひし形では $2$ と $2\sqrt3$ で違う(図 1 の左)。
  2. 3 辺が $2,2,2$ の三角形は、どれも 1 辺 $2$ の正三角形と合同である(図 1 の右)。辺の長さから角が決まる。たとえば余弦定理から $\cos A=\dfrac{2^2+2^2-2^2}{2\cdot2\cdot2}=\dfrac12$ で、$A=60^\circ$ である(余弦定理(高校数学))。

左:辺の長さが同じ正方形とひし形。棒の四角形は押すとつぶれる。右:3 辺の長さが決まった三角形は形が変わらない 左:辺の長さが同じ正方形とひし形。棒の四角形は押すとつぶれる。右:3 辺の長さが決まった三角形は形が変わらない
空間では、多面体の面を金属の板にして、辺を蝶番(ちょうつがい)でつなぐ。板の形は変わらないが、蝶番で板どうしの角度は変わりうる。この立体は動くだろうか。この記事の主定理は、凸多面体なら動かない、というものである。
この記事では次の問いに答える。

  1. 面の形とつながり方が同じ 2 つの凸多面体は、必ず合同か。→ thm-crt-main
  2. 証明の鍵は何か。→ lem-crt-local(頂点のまわり)と lem-crt-global(全体の数え上げ)
  3. どの頂点にも 3 本の辺が集まる多面体では、もっと易しく分かるか。→ thm-crt-three
  4. 「凸」や「面が合同」を外すとどうなるか。→「例と反例」の節
    高校での見方この記事の言葉大学の言葉
    3 辺で三角形が決まる3 本の辺の頂点では二面角が決まる球面三角形の 3 辺相等
    板と蝶番の立体が動かない剛性Cauchy の剛性定理
    辺に $+$、$-$ の印をつける符号の変わり目グラフの辺の符号付け
    $V-E+F=2$ で数える変わり目の数え上げ平面グラフの Euler の公式

言葉の準備:つながり方と二面角

多面体と凸多面体は Eulerの多面体定理(高校数学) の定義「この記事での多面体」と同じ意味で使う。

つながり方が同じ・二面角
  1. 2 つの多面体 $P$、$P'$ の頂点の間に 1 対 1 の対応 $x\leftrightarrow x'$ があり、頂点 $x_1,x_2,\dots,x_k$ がこの順に $P$ の面の頂点になることと、$x_1',x_2',\dots,x_k'$ がこの順に $P'$ の面の頂点になることが同じであるとき、$P$ と $P'$ は つながり方が同じ という。このとき面・辺も対応する。
  2. 多面体の辺 $e$ で隣り合う 2 枚の面のなす角(多面体の内側で測る)を、$e$ での 二面角 という。$e$ の上の点から、2 枚の面の中で $e$ に垂直な半直線を引いたときの、2 本の半直線のなす角である。凸多面体の二面角は $0^\circ$ より大きく $180^\circ$ より小さい。
立方体と正四面体の二面角
  1. 立方体の二面角は、隣り合う 2 枚の正方形が垂直なので $90^\circ$ である。
  2. 正四面体の二面角 $\theta$ は $\cos\theta=\dfrac13$、$\theta\approx70.53^\circ$ である。これは次の節の prop-crt-formula で求める(ex-crt-formula)。

主定理:Cauchy の剛性定理

Cauchy の剛性定理

2 つの凸多面体 $P$、$P'$ のつながり方が同じで、対応する面がどれも(頂点の対応のとおりに)合同であるとする。このとき $P$ と $P'$ は合同である。

Wei26 は、この定理を「凸多面体の面を金属の板に、辺を蝶番に替えても、多面体は動かない」と述べている。
証明は 4 つの部分からなる。

  • lem-crt-glue:対応する二面角がすべて等しければ合同である。
  • 2 つの多面体の二面角を比べて、各辺に $+$、$-$、$0$ の印をつける。
  • lem-crt-local:印のついた辺が集まる頂点のまわりでは、符号が 4 回以上変わる。
  • lem-crt-global:多面体全体では、そうはなりえない(Euler の多面体定理を使う)。
    lem-crt-local の証明には lem-crt-arm(腕の補題)を使う。この記事では、腕の補題を、辺が 3 本の場合($n=3$)だけ証明し、一般の場合は証明しない。したがって、thm-crt-main の証明は、腕の補題の一般の場合を認めたうえでの証明である。どの頂点にも 3 本の辺が集まる多面体については、thm-crt-three で、腕の補題の一般の場合を使わずに証明を完結させる。

3 本の辺が集まる頂点:二面角は面の角で決まる

凸多面体の頂点 $O$ から出る辺を、$O$ から出る半直線と見る。2 本の半直線 $r$、$s$ のなす角を $\angle(r,s)$ と書く。$O$ に集まる面の $O$ での角は、その面の 2 本の辺のなす角である。

3 本の半直線の公式

点 $O$ から出る 3 本の半直線 $r_1$、$r_2$、$r_3$ が同じ平面上になく、$\angle(r_1,r_2)=a$、$\angle(r_2,r_3)=b$ とする($0^\circ< a,b<180^\circ$)。$r_1,r_2$ を含む平面の半分と $r_2,r_3$ を含む平面の半分が $r_2$ でなす角を $\theta$ とすると
$$ \cos\angle(r_1,r_3)=\cos a\cos b+\sin a\sin b\cos\theta $$
である。特に、$a$、$b$ を決めると、$\angle(r_1,r_3)$ は $\theta$ が大きいほど大きく、$\theta$ は $\angle(r_1,r_3)$ から 1 つに決まる。

座標をうまくとって内積を計算する

要点:$r_2$ を $z$ 軸にとり、$r_1$、$r_3$ の向きの単位ベクトルを $u_1=(\sin a,0,\cos a)$、$u_3=(\sin b\cos\theta,\sin b\sin\theta,\cos b)$ と書くと、内積 $u_1\cdot u_3$ が右辺になる。

詳しい証明を開く

方針:$r_2$ を $z$ 軸にとり、3 本の半直線の向きの単位ベクトルを書き下して内積を計算する(ベクトルの内積(高校数学))。

段 1(座標)。$O$ を原点、$r_2$ の向きの単位ベクトルを $u_2=(0,0,1)$ とする。$r_1$ が $xz$ 平面の $x>0$ の側にあるように座標をとると、$r_1$ の向きの単位ベクトルは $u_1=(\sin a,0,\cos a)$ である($z$ 軸となす角が $a$)。

段 2($r_3$ の向き)。$r_3$ の向きの単位ベクトル $u_3$ は $z$ 軸となす角が $b$ なので、$u_3=(\sin b\cos\psi,\ \sin b\sin\psi,\ \cos b)$ と書ける。ここで $\psi$ は、$u_1$、$u_3$ を $xy$ 平面に正射影した $(\sin a,0,0)$ と $(\sin b\cos\psi,\sin b\sin\psi,0)$ のなす角である。この 2 つの射影は、2 枚の平面の半分の中で $r_2$ に垂直な向きなので、そのなす角は二面角 $\theta$ に等しい。よって $\psi=\theta$ としてよい(必要なら $y$ 軸の向きを逆にとる)。

段 3(内積)。$\cos\angle(r_1,r_3)=u_1\cdot u_3=\sin a\sin b\cos\theta+\cos a\cos b$ である。

段 4(大小)。$0^\circ< a,b<180^\circ$ なので $\sin a\sin b>0$ である。$0^\circ<\theta<180^\circ$ で $\cos\theta$ は減少するので、右辺は $\theta$ について減少し、$\angle(r_1,r_3)$ は $\theta$ について増加する。増加するので、$\angle(r_1,r_3)$ が決まれば $\theta$ はただ 1 つに決まる。$\square$

この公式は、球面の上の三角形についての 球面の余弦定理 と同じ式である(球面三角法)。

公式を使う
  1. 立方体の頂点:3 本の辺のどの 2 本も $90^\circ$ で、$a=b=90^\circ$、$\theta=90^\circ$ を入れると $\cos\angle(r_1,r_3)=0+1\cdot1\cdot0=0$ で、$90^\circ$ と合う。
  2. 正四面体の頂点:面の角はどれも $60^\circ$ なので、$a=b=\angle(r_1,r_3)=60^\circ$ である。公式から
    $$ \frac12=\frac12\cdot\frac12+\frac{\sqrt3}2\cdot\frac{\sqrt3}2\cos\theta,\qquad \cos\theta=\frac{\frac12-\frac14}{\frac34}=\frac13 $$
    で、二面角は $\theta\approx70.53^\circ$ である。
  3. $a=b=60^\circ$ のまま $\theta$ を変えると、$\theta=70^\circ$ で $\angle(r_1,r_3)\approx59.6^\circ$、$\theta=120^\circ$ で $\approx97.2^\circ$ になる(図 2)。

3 本の半直線 r1、r2、r3(r1 と r2、r2 と r3 のなす角はどちらも 60°)。r2 での二面角 θ を 70° から 120° に広げると、r1 と r3 のなす角(赤い弧)が大きくなる 3 本の半直線 r1、r2、r3(r1 と r2、r2 と r3 のなす角はどちらも 60°)。r2 での二面角 θ を 70° から 120° に広げると、r1 と r3 のなす角(赤い弧)が大きくなる
次の補題は、二面角が全部そろえば多面体が決まることを言う。

二面角がそろえば合同

thm-crt-main の仮定に加えて、対応する辺での $P$ と $P'$ の二面角がすべて等しいならば、$P$ と $P'$ は合同である。

面を 1 枚ずつ貼り合わせる

要点:1 枚の面 $f_1$ と対応する面 $f_1'$ を重ねると、隣の面は、共有する辺・面の形・二面角で位置が 1 つに決まるので、$P$ と $P'$ で重なる。面は辺をたどってすべてつながっているので、全部の面が重なる。

詳しい証明を開く

段 1(1 枚目)。$f_1$ と $f_1'$ は頂点の対応のとおりに合同なので、$P'$ を動かして(必要なら裏返して)$f_1'$ を $f_1$ にぴったり重ねられる。さらに、$f_1$ を含む平面について $P'$ を裏返すことで、$P'$ が $f_1$ の平面に対して $P$ と同じ側にあるようにできる(凸多面体は、どの面についても、その面の平面の片側にある)。

段 2(隣の面)。$f_1$ と辺 $e$ を共有する面 $f_2$ を考える。$f_2$ は、$e$ を含み、$f_1$ の平面と $P$ の内側で角 $\theta_e$ をなす平面の上にあり、その平面の中で $e$ に対して $f_1$ と反対の側にある。この平面は $e$ と $\theta_e$ で決まり、平面の中の $f_2$ の位置は、$e$ の両端と面の形で決まる。$P'$ の $f_2'$ も、同じ辺 $e$、同じ二面角、合同な形なので、$f_2$ と重なる。$P'$ も $f_2$ の平面に対して $P$ と同じ側にある。

段 3(全部の面)。多面体の表面はひとつながりなので、どの面にも、辺を共有する面を順にたどって $f_1$ から行ける。段 2 をくり返すと、すべての面が重なる。よって $P$ と $P'$ は合同である。$\square$

3 本の辺が集まる多面体の剛性

thm-crt-main の仮定に加えて、$P$ のどの頂点にもちょうど 3 本の辺が集まるとする。このとき $P$ と $P'$ は合同である。

頂点ごとに二面角を求める

方針:各頂点で、3 つの面の角から 3 つの二面角が決まることを prop-crt-formula で示し、lem-crt-glue に持ちこむ。
段 1(頂点の面の角)。$P$ の頂点 $O$ から出る 3 本の辺を $r_1,r_2,r_3$ とし、$O$ に集まる 3 枚の面の $O$ での角を $a=\angle(r_1,r_2)$、$b=\angle(r_2,r_3)$、$c=\angle(r_1,r_3)$ とする。3 枚は $O$ のまわりに輪のように並ぶので、$r_1$ と $r_3$ も 1 枚の面の 2 辺である。$P'$ の対応する頂点 $O'$ にも 3 枚の面が集まり、面が合同なので、面の角は同じ $a,b,c$ である。
段 2(二面角)。$O$ に集まる 3 本の辺は、凸多面体の頂点から出るので同じ平面上にない。prop-crt-formula から、$r_2$ での二面角 $\theta_2$ は
$$ \cos\theta_2=\frac{\cos c-\cos a\cos b}{\sin a\sin b} $$
で決まる。$P'$ でも同じ式になるので、$r_2$ での二面角は $P$ と $P'$ で等しい。$r_1$、$r_3$ での二面角も、役割を入れかえて同じように等しい。
段 3(まとめ)。どの辺も、その両端のどちらかの頂点で段 2 を使えば、$P$ と $P'$ で二面角が等しい。lem-crt-glue から $P$ と $P'$ は合同である。$\square$

3 本の辺が集まる多面体

立方体、正十二面体、正四面体、角柱、それに 半正多面体 の主定理で調べた頂点の形 $p.q.r$ の 7 つ(切頂四面体やサッカーボールの形の切頂二十面体など)は、どの頂点にも 3 本の辺が集まる。したがって、これらと面の形・つながり方が同じ凸多面体は、それぞれと合同である。たとえば、正五角形 12 枚と正六角形 20 枚をサッカーボールと同じつながり方で貼り合わせた凸多面体は、切頂二十面体と合同である。

一般の場合:腕の補題

頂点に 4 本以上の辺が集まると、面の角だけでは二面角が決まらない。平面の四角形が 4 辺で決まらないのと同じである。そこで、二面角を比べて印をつける方法をとる。

凸な多面角

点 $O$ から出る $n$ 本($n\ge3$)の半直線 $r_1,\dots,r_n$ がこの順に $O$ のまわりに並び、隣り合う $r_i$、$r_{i+1}$($r_n$ と $r_1$ も)の間の角の部分を面とする、$O$ を頂点とするとがった立体の角 $K$ を考える。$K$ の中の 2 点を結ぶ線分がいつも $K$ に含まれ、$K$ が $O$ を通るある平面の片側にある($O$ 以外はその平面にのらない)とき、$K$ を $r_1,\dots,r_n$ を辺とする 凸な多面角 という。$r_i$ で隣り合う 2 つの面のなす角($K$ の内側で測る)を、$r_i$ での 二面角 という。

凸多面体の頂点では、そこから出る辺が凸な多面角をつくる。凸な多面角を、$O$ を通る平面で 2 つに切ると、切り口の平面を面にもつ 2 つの凸な多面角になる。

腕の補題

$n\ge3$ とし、$r_1,\dots,r_n$ を辺とする凸な多面角 $K$ と、$r_1',\dots,r_n'$ を辺とする凸な多面角 $K'$ が次を満たすとする。
(R1) $i=1,\dots,n-1$ について $\angle(r_i,r_{i+1})=\angle(r_i',r_{i+1}')$ である。
(R2) $i=2,\dots,n-1$ について、$r_i$ での二面角 $\theta_i$ と $r_i'$ での二面角 $\theta_i'$ が $\theta_i\le\theta_i'$ を満たす。
このとき $\angle(r_1,r_n)\le\angle(r_1',r_n')$ であり、等号が成り立つのは $i=2,\dots,n-1$ のすべてで $\theta_i=\theta_i'$ のときに限る。

$r_1,r_2,\dots,r_n$ を、肩から指先までの腕の骨と見る。関節の角(二面角)を開くと、肩 $r_1$ と指先 $r_n$ の開きが大きくなる、という主張である。$r_n$ と $r_1$ の間の面の角だけは条件に入っていない。

  • $n=3$ の場合は prop-crt-formula そのものである。$r_2$ での二面角が大きいほど $\angle(r_1,r_3)$ は大きく、二面角が等しければ等しい。
  • $n\ge4$ の場合は、この記事では証明しない。thm-crt-main の証明はこの補題を使うので、thm-crt-main の証明は $n\ge4$ の腕の補題を認めたうえでのものである。thm-crt-three は $n\ge4$ の腕の補題を使わない。
平面の腕

同じことを平面の折れ線で見る。長さ $1$ の棒 3 本を $A_0A_1$、$A_1A_2$、$A_2A_3$ とつなぎ、$A_1$、$A_2$ での角をどちらも $120^\circ$ にすると、$A_0=(0,0)$、$A_1=(1,0)$ として $A_2=\left(\frac32,\frac{\sqrt3}2\right)$、$A_3=(1,\sqrt3)$ で、端の距離は $A_0A_3=\sqrt{1+3}=2$ である。2 つの角をどちらも $150^\circ$ に広げると、$A_0A_3=1+\sqrt3\approx2.73$ に伸びる(図 3)。角を開くと端が遠ざかる。

途中の計算を開く

$A_2=\left(1+\frac{\sqrt3}2,\frac12\right)$、$A_3=\left(\frac32+\frac{\sqrt3}2,\ \frac12+\frac{\sqrt3}2\right)$ で、$$A_0A_3^2=\left(\frac{3+\sqrt3}2\right)^2+\left(\frac{1+\sqrt3}2\right)^2=\frac{12+6\sqrt3}4+\frac{4+2\sqrt3}4=4+2\sqrt3=(1+\sqrt3)^2$$ である。

長さ 1 の棒 3 本の折れ線。2 つの角を 120 度から 150 度に開くと、端の距離が 2 から 1+√3 に伸びる 長さ 1 の棒 3 本の折れ線。2 つの角を 120 度から 150 度に開くと、端の距離が 2 から 1+√3 に伸びる

頂点のまわりの符号

thm-crt-main の $P$、$P'$ の対応する辺 $e$、$e'$ で、二面角を比べて $e$ に印をつける。

  • $P'$ の二面角が $P$ の二面角より大きければ $+$
  • 小さければ $-$
  • 等しければ $0$
    頂点のまわりを 1 周して、$0$ を飛ばして $+$、$-$ を読んだとき、隣り合う 2 つの符号が違う箇所を 符号の変わり目 という(最後と最初の間も数える)。1 周して元に戻るので、変わり目の数は偶数である。
頂点のまわりの符号

thm-crt-main の $P$、$P'$ の辺に上のように印をつける。$P$ の頂点で、$+$ か $-$ の印のついた辺が集まるものでは、符号の変わり目は 4 回以上ある。

変わり目が 0 回・2 回なら腕の補題に反する

方針:変わり目は偶数なので、0 回と 2 回の場合を否定すればよい。どちらの場合も、頂点の多面角を切り開いて腕の補題を当て、同じはずの角が違うという矛盾を出す。
$P$ の頂点 $O$ から出る辺を $O$ のまわりの順に $r_1,\dots,r_n$($n\ge3$)とし、$P'$ の対応する辺を $r_1',\dots,r_n'$ とする。面が合同なので、隣り合う辺のなす角(面の角)は $P$ と $P'$ で等しい。$O$、$O'$ から出る辺はそれぞれ凸な多面角 $K$、$K'$ をつくる。
段 1(変わり目が 0 回)。$0$ でない印はすべて同じ符号である。$P$ と $P'$ の役割を入れかえれば、印は $+$ か $0$ で、ある辺 $r_k$ が $+$ としてよい。$O$ に集まる $n\ge3$ 枚の面のうち $r_k$ を含むのは 2 枚なので、$r_k$ を含まない面がある。それを $r_j$ と $r_{j+1}$ の間の面とし、辺を $r_{j+1}$ から始めて $O$ のまわりに $r_j$ まで並べ直す。$r_k$ はその途中にある。腕の補題を $K$、$K'$ に使うと、条件 (i)(ii) を満たし、$r_k$ で二面角が真に大きいので、$\angle(r_{j+1},r_j)<\angle(r_{j+1}',r_j')$ である。しかし両辺は、$r_j$ と $r_{j+1}$ の間の面の角で、面が合同なので等しい。これは矛盾である。
段 2(変わり目が 2 回)。$O$ のまわりで、$0$ でない印は $+$ の続く部分と $-$ の続く部分に 1 つずつ分かれる。そこで、$O$ に集まる面 $F$、$G$ を、$F$ から $G$ まで $O$ のまわりを回る間の辺の印が $+$ か $0$(少なくとも 1 本は $+$)、$G$ から $F$ まで戻る間の辺の印が $-$ か $0$(少なくとも 1 本は $-$)になるように選べる。$F$ の中に $O$ から出る半直線 $s$ を、$G$ の中に半直線 $t$ を引き、$P'$ でも対応する面の同じ位置に $s'$、$t'$ を引く(面が合同なので引ける)。$K$ は凸で $O$ を通る平面の片側にあるので、$s$ と $t$ は一直線にならず、$s$、$t$ を含む平面で $K$ を 2 つの凸な多面角に切れる。$F$ から $G$ の側の多面角は、辺が $s$、($+$ か $0$ の辺)、$t$ の順で、途中の辺での二面角は $K$ のものと同じ、隣り合う辺のなす角も $K'$ の側と等しい。腕の補題から $\angle(s,t)<\angle(s',t')$ である。$G$ から $F$ の側では、$P$ と $P'$ の役割を入れかえて腕の補題を使うと、$\angle(s',t')<\angle(s,t)$ である。2 つは両立しない。
段 1・段 2 から、変わり目は 0 回でも 2 回でもなく、偶数なので 4 回以上である。$\square$

頂点のまわりの辺の印。左は変わり目が 4 回で、補題と矛盾しない。右は変わり目が 2 回で、補題によりこのような頂点はない 頂点のまわりの辺の印。左は変わり目が 4 回で、補題と矛盾しない。右は変わり目が 2 回で、補題によりこのような頂点はない

変わり目を数える
  1. 頂点のまわりの印が順に $+,+,-,0,+,-$ なら、$0$ を飛ばすと $+,+,-,+,-$ で、変わり目は $+\to-$、$-\to+$、$+\to-$、最後と最初の $-\to+$ の 4 回である(図 4 の左)。
    ほかの例を開く

    (2) 印が $+,0,+,-,-$ なら、$0$ を飛ばすと $+,+,-,-$ で、変わり目は 2 回である(図 4 の右)。lem-crt-local により、このような頂点はない。

    (3) 辺が 3 本の頂点では、変わり目は多くても 2 回なので、lem-crt-local から、印はすべて $0$ である。これは thm-crt-three の証明と同じ結論である。

全体の数え上げ:Euler の多面体定理を使う

lem-crt-local は頂点ごとの性質である。次の補題は、多面体全体ではそれが両立しないことを、辺と面を数えて示す。二面角も腕の補題も使わない、数え上げだけの補題である。
平面の網は Eulerの多面体定理(高校数学) の定義「平面の網」の意味で使い、その命題「平面の網の数え方」($V-E+F_{\mathrm{in}}=1$)を使う。平面の網の頂点 $x$ で、$x$ から出る辺を $x$ のまわりの順に並べたとき、隣り合う 2 本の辺(最後と最初も)の組を $x$ での 角 という。$x$ から出る辺が $d$ 本($d\ge2$)なら、$x$ での角は $d$ 個で、どの角も網のどれか 1 つの領域に面している。

証明せずに使う平面の図形の事実

次の 2 つは、Eulerの多面体定理(高校数学) の注意「平面の図形について使う事実」と同じく、多角形の Jordan 曲線定理(多角形のJordan曲線定理)が要るので、この記事では証明しない。
(R1) 平面の網の各領域 $R$ について、$R$ のまわりを 1 周すると、$R$ に面する角を 1 つずつ順に通って元に戻る。$R$ に面する角の数を $n_R$ とすると、すべての領域(外側の領域も含む)について足した和は $2E$ である(各辺の両側がそれぞれ 1 回ずつ数えられる)。
(R2) どの頂点からも 3 本以上の辺が出ている網では、どの領域でも $n_R\ge3$ である。

変わり目の数え上げ

凸多面体の辺に $+$、$-$、$0$ の印をつけ、$+$ か $-$ の辺が少なくとも 1 本あるとする。このとき、$+$ か $-$ の辺が集まる頂点のうち、符号の変わり目が 4 回未満のものがある。

変わり目を頂点と領域で 2 通りに数える

方針:どの頂点でも変わり目が 4 回以上だと仮定して、変わり目の総数を、頂点ごとに下から、領域ごとに上から押さえ、Euler の多面体定理と矛盾させる。
段 1(網を作る)。$+$ か $-$ の辺と、その両端の頂点だけを残した図形を考え、その中で辺でつながっている部分の 1 つを $H$ とする。1 つの頂点に集まる $+$ か $-$ の辺は、すべて $H$ に入るか、すべて入らない(同じ頂点でつながっているからである)。Eulerの多面体定理(高校数学) の注意「凸多面体を平らに広げる」のとおり多面体を平面に広げると、$H$ は辺が交わらずひとつながりの平面の網になる。$H$ の頂点・辺・領域(外側の領域も含む)の数を $V_H$、$E_H$、$F_H$ とすると、命題「平面の網の数え方」から $V_H-E_H+(F_H-1)=1$、つまり
$$ V_H-E_H+F_H=2 $$
である。
段 2(頂点ごとに数える)。$H$ のどの頂点でも変わり目が 4 回以上あると仮定する。変わり目は、$H$ の頂点での角のうち、2 本の辺の符号が違うものである。その総数を $C$ とすると $C\ge4V_H$ である。また、変わり目が 4 回以上ある頂点からは $H$ の辺が 4 本以上出ている。
段 3(領域ごとに数える)。$H$ の領域 $R$ のまわりを 1 周すると(rem-crt-facts の (i))、$R$ に面する $n_R$ 個の角を通って元に戻るので、そのうち変わり目の数 $c_R$ は偶数で、$n_R$ 以下である。よって $c_R\le2\left\lfloor\dfrac{n_R}2\right\rfloor$ である。rem-crt-facts の (ii) から $n_R\ge3$ で、$n_R=3$ なら $2\le2$、$n_R=4$ なら $4\le4$、$n_R\ge5$ なら $2\left\lfloor\dfrac{n_R}2\right\rfloor\le n_R\le2n_R-4$ なので、いつも
$$ c_R\le2n_R-4 $$
である。
段 4(矛盾)。どの角もちょうど 1 つの領域に面するので、段 3 を全部の領域で足すと、rem-crt-facts の (i) から
$$ C=\sum_Rc_R\le\sum_R(2n_R-4)=2\cdot2E_H-4F_H=4(E_H-F_H)=4(V_H-2) $$
である(最後に段 1 の式を使った)。これは $C\ge4V_H$ と両立しない。よって、変わり目が 4 回未満の頂点がある。$\square$

立方体の辺に印をつけてみる

立方体の上の面の 4 本の辺に $+$、下の面の 4 本に $-$、縦の 4 本に $0$ をつけると、上の面の頂点では $0$ を飛ばして $+,+$ となり、変わり目は 0 回である。立方体のどの頂点からも辺は 3 本しか出ないので、どう印をつけても変わり目は 2 回以下で、lem-crt-global の結論が成り立っている。

主定理の証明

Cauchy の剛性定理の証明

方針:二面角を比べた印がすべて $0$ であることを示し、lem-crt-glue で合同を結論する。
段 1(印をつける)。thm-crt-main の $P$、$P'$ の対応する辺で二面角を比べ、「頂点のまわりの符号」の節のとおり $+$、$-$、$0$ の印をつける。
段 2(印はすべて 0)。$+$ か $-$ の辺が 1 本でもあると仮定する。lem-crt-global から、$+$ か $-$ の辺が集まる頂点で、変わり目が 4 回未満のものがある。これは lem-crt-local に反する。よって印はすべて $0$ で、対応する二面角はすべて等しい。
段 3(合同)。lem-crt-glue から $P$ と $P'$ は合同である。$\square$

段 2 で使った lem-crt-local は、lem-crt-arm を $n\ge4$ でも使っている。この記事で証明していない部分は、$n\ge4$ の腕の補題と、rem-crt-facts の平面の図形の事実である。

例と反例:どの条件が効いているか

外す条件反例成り立たなくなること
$P'$ も凸立方体にのせた四角錐のふたを内側に折り返す$P$ と $P'$ は合同
対応する面が合同(辺の長さだけ等しい)立方体と、ひし形 6 枚の平行六面体$P$ と $P'$ は合同
空間の凸多面体(平面の多角形にする)正方形とひし形辺の長さが同じなら合同
反例:ふたを内側に折り返す

立方体 $-1\le x,y,z\le1$ の上の面に、頂点 $A=\left(0,0,\frac32\right)$ の四角錐をのせた多面体 $P$ を考える(図 5)。面は正方形 5 枚と、3 辺が $2,\frac32,\frac32$ の二等辺三角形 4 枚である($A$ から上の面の頂点 $(1,1,1)$ までの距離は $\sqrt{1+1+\frac14}=\frac32$)。$A$ は、立方体の側面を延ばした平面 $x=\pm1$、$y=\pm1$ で囲まれた部分にあるので、$P$ は凸である。
$A$ を上の面について折り返した点 $A'=\left(0,0,\frac12\right)$ を頂点とし、四角錐を立方体の内側にへこませた多面体 $P'$ を作る(図 6)。$A'$ から $(1,1,1)$ までの距離も $\frac32$ なので、$P'$ の面も正方形 5 枚と同じ二等辺三角形 4 枚で、つながり方も $P$ と同じである。しかし体積が違う($P$ は $\frac{26}3$、$P'$ は $\frac{22}3$)ので、$P$ と $P'$ は合同でない。$P'$ は凸でない。thm-crt-main で $P'$ も凸と仮定したのはこのためである。

詳細

四角錐の体積は $\frac13\times(\text{底面積 }4)\times(\text{高さ }\frac12)=\frac23$ なので、$P$ の体積は $8+\frac23=\frac{26}3$、$P'$ の体積は $8-\frac23=\frac{22}3$ である。$P'$ が凸でないことは、$(1,1,1)$ と $(-1,-1,1)$ を結ぶ線分の中点 $(0,0,1)$ が、へこみの中($P'$ の外)にあることから分かる。

立方体の上に四角錐のふたをのせた凸多面体 立方体の上に四角錐のふたをのせた凸多面体
同じふたを内側に折り返した凸でない多面体。面の形とつながり方は左と同じ 同じふたを内側に折り返した凸でない多面体。面の形とつながり方は左と同じ
反例:辺の長さだけ等しい

1 辺 $1$ の立方体と、$O$ から出る 3 本の辺の向きが
$$ e_1=(1,0,0),\quad e_2=\left(\tfrac12,\tfrac{\sqrt3}2,0\right),\quad e_3=\left(\tfrac12,\tfrac{\sqrt3}6,\tfrac{\sqrt6}3\right) $$
の平行六面体を比べる(図 7・図 8)。$e_1,e_2,e_3$ はどれも長さ $1$ で、どの 2 つの内積も $\frac12$(なす角 $60^\circ$)である。平行六面体の 12 本の辺はどれも長さ $1$ で、面は 1 つの角が $60^\circ$ のひし形 6 枚、つながり方は立方体と同じである。対応する辺の長さはすべて等しいが、面は正方形とひし形で合同でなく、立体も合同でない(体積は立方体が $1$、平行六面体が $\frac{\sqrt2}2$)。thm-crt-main の「面が合同」を「辺の長さが等しい」に弱めると成り立たない。面がすべて三角形なら、辺の長さが等しければ面は合同になる(3 辺相等)ので、この弱め方でも定理は使える。

1 辺 1 の立方体 1 辺 1 の立方体
辺の長さがすべて 1 で、面が角 60 度のひし形の平行六面体。つながり方は立方体と同じ 辺の長さがすべて 1 で、面が角 60 度のひし形の平行六面体。つながり方は立方体と同じ

平面の多角形では、ex-crt-plane のとおり、辺の長さだけでは形が決まらない(三角形を除く)。空間の凸多面体では、面が「板」として形を保つことと、凸であることが合わさって、形が決まる。

大学数学で見る:Cauchy の証明と、動く多面体

Wei26 によれば、この定理は Cauchy が 1813 年の論文で述べたが、その論文には誤りがあり、50 年以上気づかれなかった。この記事では、証明を「頂点のまわり」(lem-crt-local)と「全体の数え上げ」(lem-crt-global)に分け、頂点のまわりの部分が腕の補題に帰着することまでを示した。腕の補題の一般の場合の証明は、この記事では扱わない。

凸でない多面体は動くことがある:動く多面体を開く

Wei26b によれば、凸でない多面体では、面の形を保ったまま連続的に動くもの(動く多面体)がある。最初の例は 1978 年に Connelly が見つけた 18 枚の三角形の面をもつ多面体で、のちに Steffen が 9 個の頂点と 14 枚の三角形の面をもつ例を見つけた。さらに Connelly らは 1997 年に、動く多面体は動いても体積が変わらないこと(ふいご予想)を証明した。この記事の ex-crt-dent の $P$ と $P'$ は、面の形とつながり方が同じで合同でない例だが、一方から他方へ連続的に動かせるわけではない。

演習

正八面体の二面角

正八面体の頂点には、1 辺の等しい正三角形が 4 枚集まる。頂点 $(0,0,1)$ と、そこから出る辺の向き $(1,0,-1)$、$(0,1,-1)$、$(-1,0,-1)$ を使い、prop-crt-formula で、辺 $(0,1,-1)$ の向きでの二面角 $\theta$ を求めよ。

解答を開く

3 本の向きを長さ $1$ にすると $u_1=\frac1{\sqrt2}(1,0,-1)$、$u_2=\frac1{\sqrt2}(0,1,-1)$、$u_3=\frac1{\sqrt2}(-1,0,-1)$ である。$\cos a=u_1\cdot u_2=\frac12$、$\cos b=u_2\cdot u_3=\frac12$ で $a=b=60^\circ$、$\cos\angle(r_1,r_3)=u_1\cdot u_3=\frac{-1+1}2=0$ である。$r_1$、$r_3$ は $r_2$ の両隣の辺なので、$r_2$ での二面角が公式の $\theta$ である。公式から $0=\frac14+\frac34\cos\theta$ で、$\cos\theta=-\frac13$、$\theta\approx109.47^\circ$ である。$r_1$ と $r_3$ のなす角 $90^\circ$ は面の角ではないが、prop-crt-formula は 3 本の半直線についての式なので、そのまま使える。

印のつけ方

正八面体(どの頂点にも 4 本の辺が集まる)の 1 つの頂点のまわりの 4 本の辺に、lem-crt-local と矛盾しないように $+$、$-$、$0$ の印をつけるには、どうすればよいか。

解答を開く

印のついた辺があるなら、変わり目が 4 回以上必要である。4 本しかないので、4 本すべてに印をつけ、$+,-,+,-$ と交互に並べるしかない。それ以外($0$ が 1 本でもある、または同じ符号が隣り合う)では変わり目は 2 回以下である。すべて $0$ でもよい。

さらに先へ

  • 正多面体の分類 では、正多面体の型 $\{p,q\}$ が 5 通りに限ることを示している。thm-crt-main を使うと、同じ型で辺の長さが同じ正多面体は合同であること、つまり型が形を決めることも分かる(面が合同な正多角形で、つながり方が同じになることは、型から組み立て方が決まることを示す必要があり、この記事では扱わない)。
  • 頂点のまわりの角の大きさは Descartesの角欠損定理、頂点のまわりを球面の上の多角形として見る見方は 球面三角法 で扱う。
  • 凸でない多面体の例は Kepler–Poinsotの多面体 にもある。

関連項目

参考文献

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