Kervaire多様体

同義語:Kervaire manifoldKervaireの多様体Kervaire球面Kervaire sphereKervaire不変量Kervaire invariantplumbing円板束のplumbing

概要

Kervaire多様体(Kervaire manifold)とは、$S^5$ の接束の円板束を 2 つ plumbing した $10$ 次元の多様体 $P^{10}$ に、境界 $\Sigma^9$ の錐を足して得られる $4$ 連結な $10$ 次元の閉じた組合せ多様体 $K^{10}$ のことである。Kervaire はこれがどんな滑らかな構造ももたず、滑らかな閉多様体とホモトピー同値でさえないことを示した。道具は、$H^5(M;\mathbb{Z}/2)$ のカップ積の 2 次の細分の Arf 不変量 $\Phi(M)$ で、滑らかな場合は $\Phi=0$、$K^{10}$ では零切断の法束が自明でないことから $\Phi=1$ となる。副産物として境界 $\Sigma^9$ は $S^9$ と同相だが微分同相でない異種球面である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: PL多様体, Kervaire–Milnorの群, Poincaré双対, カップ積, 接束

滑らかな多様体は PL 多様体の構造をもつ(Whitehead三角形分割)。では、PL 多様体はいつも滑らかな構造をもつだろうか。Kervaire(1960)は、$10$ 次元の閉じた PL 多様体(組合せ多様体)$K^{10}$ で、どんな滑らかな構造ももたず、どんな滑らかな多様体ともホモトピー同値でないものを作った。これを Kervaire 多様体という。
$K^{10}$ は、$S^5$ の接束の円板束を 2 つ、底空間と繊維の役割を入れ替えて貼り合わせた(plumbing した)$10$ 次元の多様体 $P^{10}$ に、その境界の錐を足したものである。境界 $\Sigma^9=\partial P^{10}$ はホモトピー球面なので $S^9$ と同相で、錐を足すと閉多様体になる。滑らかな構造がないことは、$5$ 次元の $\mathbb{Z}/2$ 係数コホモロジーの上のカップ積を細かくした 2 次形式の Arf 不変量(Kervaire 不変量)$\Phi$ による:Kervaire は、$4$ 連結な滑らかな $10$ 次元閉多様体では $\Phi=0$ であることを示し、$\Phi(K^{10})=1$ を計算した。副産物として、$\Sigma^9$ は $S^9$ と同相だが微分同相でない $9$ 次元の異種球面である。
この記事では、plumbing の境界がホモロジー球面になること、Arf 不変量が基底によらないこと、主定理と異種球面の系を $\Phi$ の 2 つの性質から導くことを完全に証明する。$\Phi$ の定義(ループ空間 $\Omega S^6$ を使う)と、「滑らかなら $\Phi=0$」という Kervaire の定理は、所在付きで引用する。

定義

この記事では、「滑らか」は $C^\infty$ 級を指し、ホモロジー・コホモロジーは特異(コ)ホモロジーである。$k\ge3$ を奇数とする。

plumbing と Kervaire 多様体

$S^k$ の接束の閉円板束 $U$($S^k\times S^k$ の対角線の閉じた管状近傍と同じもの)と射影 $p\colon U\to S^k$ をとる。$S^k$ の中の閉円板 $V$ の上で $p^{-1}(V)\cong V\times D^k\cong D^k\times D^k$(底空間 $\times$ 繊維)と自明化する。$U$ の 2 つの複製 $U'$、$U''$ を、$p'^{-1}(V)$ と $p''^{-1}(V)$ の点を $(x,y)\leftrightarrow(y,x)$ で同一視して貼り、角を丸めた(角の解消)$2k$ 次元のコンパクトな多様体を $P^{2k}$ と書き、2 つの円板束を plumbing したものという。$\Sigma^{2k-1}:=\partial P^{2k}$ とおく。
$k=5$ のとき、$\Sigma^9$ は $S^9$ と同相なので(prop-kvm-boundary)、$P^{10}$ に $\Sigma^9$ の錐 $C\Sigma^9$ を貼った閉じた空間
$$ K^{10}:=P^{10}\cup_{\Sigma^9}C\Sigma^9 $$
は $10$ 次元の位相多様体である。これを Kervaire 多様体という。

$K^{10}$ が位相多様体であることは、同相写像 $h\colon\Sigma^9\to S^9$ を錐の上に放射状に延ばすと $C\Sigma^9\cong D^{10}$ となり、$K^{10}\cong P^{10}\cup_hD^{10}$ と書けることによる。さらに $\Sigma^9$ は $S^9$ と組合せ的に同値なので、$K^{10}$ は組合せ多様体(PL多様体 の定義「組合せ多様体」)の構造をもつ(Ker60 §3、p. 265 が Milnor を引いて述べる)。文献によっては、閉じる前の $P^{2k}$ そのもの(境界付き)を Kervaire 多様体と呼び、$\Sigma^{2k-1}$ を Kervaire 球面と呼ぶ(Kos93 Ch. VI §12、p. 120)。
2 つの零切断 $A'\subset U'$、$A''\subset U''$ は $P^{2k}$ の中の $k$ 次元球面で、plumbing の正方形の中でただ 1 点 $(0,0)$ で横断的に交わる。$k$ が奇数なので入れ替え $(x,y)\mapsto(y,x)$ は $D^k\times D^k$ の向きを逆にするが、$U''$ の向きを反転しておけば貼り合わせは向きと両立し、$P^{2k}$ は向き付け可能である。

境界はホモトピー球面

plumbing の境界

$k\ge3$ を奇数とする。

  1. $P^{2k}$ は単連結で、$\tilde H_*(P^{2k})$ は $H_k(P^{2k})\cong\mathbb{Z}^2$(基底は $A'$、$A''$ の基本類 $e_1$、$e_2$)のほかは $0$ である。
  2. $H_k(P^{2k})$ の交点形式の行列は、基底 $e_1,e_2$ について $\begin{pmatrix}0&\pm1\\\mp1&0\end{pmatrix}$ である。
  3. $\Sigma^{2k-1}=\partial P^{2k}$ はホモロジー球面である。
  4. $\Sigma^{2k-1}$ はホモトピー球面で、$S^{2k-1}$ と同相である。

1:$P=U'\cup U''$ で、共通部分 $D^k\times D^k$ は可縮である。$U'$、$U''$ は零切断 $S^k$ に変形レトラクトするので、Mayer–Vietoris完全列 により $\tilde H_*(P)\cong\tilde H_*(S^k)\oplus\tilde H_*(S^k)$ で、生成元は零切断の基本類である。Van Kampenの定理 により $\pi_1(P)\cong\pi_1(S^k)*\pi_1(S^k)=1$ である(カラーで開集合に太らせて使う)。
2:$k$ が奇数なので中間次元の交点形式は交代的で(Kos93 Ch. VI §12、p. 118)、$e_i\cdot e_i=-e_i\cdot e_i$ から $e_i\cdot e_i=0$ である。$A'$ と $A''$ はただ 1 点で横断的に交わるので $e_1\cdot e_2=\pm1$ である(Ker60 p. 265)。
3:対 $(P,\partial P)$ の長完全列
$$ H_{i+1}(P,\partial P)\to H_i(\partial P)\to H_i(P)\xrightarrow{\ j\ }H_i(P,\partial P) $$
を使う。Poincaré双対 の定理「Lefschetz 双対」により $H_i(P,\partial P)\cong H^{2k-i}(P)$ であり、1 と普遍係数定理から、これは $i=k$ で $\mathbb{Z}^2$、$i=2k$ で $\mathbb{Z}$、ほかの $i$ で $0$ である。$i=k$ では、$j$ と Lefschetz 双対と普遍係数定理の同型 $H^k(P)\cong\operatorname{Hom}(H_k(P),\mathbb{Z})$ の合成は $e_i\mapsto(e_l\mapsto e_i\cdot e_l)$ であり(交点形式の定義)、その行列は 2 の行列で、行列式 $1$ なので $j$ は同型である。

  • $0< i< 2k-1$、$i\ne k,k-1$:両隣の $H_{i+1}(P,\partial P)$ と $H_i(P)$ が $0$ なので $H_i(\partial P)=0$ である。
  • $i=k$:$H_{k+1}(P,\partial P)=0$ で $j$ は単射なので $H_k(\partial P)=0$ である。
  • $i=k-1$:$j\colon H_k(P)\to H_k(P,\partial P)$ は全射で $H_{k-1}(P)=0$ なので $H_{k-1}(\partial P)=0$ である。
    $\partial P$ は向き付けられた連結な閉多様体($H_0(\partial P)\cong\mathbb{Z}$ は $i=0$ の部分から従う)なので $H_{2k-1}(\partial P)\cong\mathbb{Z}$ であり、$\partial P$ はホモロジー球面である。
    4:$\partial P$ が単連結であることは、$P$ が $2k$ 次元の円板に $k$ 次元のハンドルを 2 つ付けたもの($(2k,k)$ ハンドル体)であることから従う(Kos93 Ch. VI (12.2) Proposition、p. 119。この記事では証明しない)。3 と Kervaire–Milnorの群 の補題「ホモトピー球面の判定」により $\partial P$ はホモトピー球面で、$2k-1\ge5$ なので 一般次元のPoincaré予想 により $S^{2k-1}$ と同相である。$\square$

2 の行列は Kos93 Ch. VI §12(p. 120)の $K(2k)$ の交点行列と同じである。Kos93 (12.2) は、$(2k,k)$ ハンドル体の境界がホモトピー球面になることと交点行列が行列式 $\pm1$ であることが同値であることを述べている。
$K^{10}$ は $4$ 連結である:$K^{10}$ は $P^{10}$ に $10$ 次元の胞体を 1 つ付けたものとホモトピー同値なので、単連結で $\tilde H_i(K^{10})=0$($i\le4$)となり、Hurewicz の定理(Hat02 Theorem 4.32、p. 366)から $\pi_i(K^{10})=0$($i\le4$)が従う。

Arf 不変量

$\mathbb{F}_2=\mathbb{Z}/2$ の上の有限次元ベクトル空間 $V$ と、双線形形式 $x\cdot y$ で、交代的(すべての $x$ で $x\cdot x=0$)かつ非退化($x\cdot V=0$ なら $x=0$)なものを考える。

2 次の細分と Arf 不変量
  1. 写像 $q\colon V\to\mathbb{F}_2$ が、すべての $x,y\in V$ で
    $$ q(x+y)=q(x)+q(y)+x\cdot y $$
    をみたすとき、$q$ を $x\cdot y$ の 2 次の細分(quadratic refinement)という。
  2. $V$ の基底 $e_1,\dots,e_m,f_1,\dots,f_m$ で $e_i\cdot e_l=f_i\cdot f_l=0$、$e_i\cdot f_l=\delta_{il}$ となるものをシンプレクティック基底という。
  3. シンプレクティック基底について $\operatorname{Arf}(q):=\sum_{i=1}^mq(e_i)q(f_i)\in\mathbb{F}_2$ を $q$ の Arf 不変量という(thm-kvm-arf により基底によらない)。

2 次の細分では $q(0)=q(0)+q(0)+0$ から $q(0)=0$ であり、$0=q(x+x)=2q(x)+x\cdot x$ から、交代性 $x\cdot x=0$ は細分があれば自動的に成り立つ。

シンプレクティック基底の存在

交代的で非退化な形式をもつ $V$ にはシンプレクティック基底がある。とくに $\dim V$ は偶数である。

$\dim V$ についての帰納法による。$V\ne0$ なら $e\ne0$ をとり、非退化性から $e\cdot f=1$ となる $f$ をとる。$e\cdot e=f\cdot f=0$ なので $e,f$ は 1 次独立で、$H:=\langle e,f\rangle$ とおく。$x\in V$ に $x':=x+(x\cdot f)e+(x\cdot e)f$ を対応させると、$x'\cdot e=x\cdot e+(x\cdot e)(f\cdot e)=0$、$x'\cdot f=x\cdot f+(x\cdot f)(e\cdot f)=0$ なので $x'\in H^\perp$ であり、$V=H\oplus H^\perp$ である。$y\in H^\perp$ が $H^\perp$ と直交すれば $V$ 全体と直交するので $y=0$ であり、$H^\perp$ の形式も非退化である。帰納法の仮定で $H^\perp$ のシンプレクティック基底をとり、$e,f$ を加えればよい。$\square$

Arf 不変量は基底によらない

$\dim V=2m$ とし、$q$ を 2 次の細分とする。任意のシンプレクティック基底について
$$ \sum_{x\in V}(-1)^{q(x)}=(-1)^{\operatorname{Arf}(q)}\,2^m $$
が成り立つ。左辺は基底によらないので、$\operatorname{Arf}(q)$ も基底によらない。言い換えると、$\operatorname{Arf}(q)$ は $q$ が $2^{2m-1}+2^{m-1}$ 個の元でとる値(多数派の値)である。さらに、直交直和について $\operatorname{Arf}(q_1\oplus q_2)=\operatorname{Arf}(q_1)+\operatorname{Arf}(q_2)$ である。

Arf 不変量が基底によらない

細分の式を繰り返し使うと、$x_1,\dots,x_r\in V$ について
$$ q(x_1+\dots+x_r)=\sum_kq(x_k)+\sum_{k< l}x_k\cdot x_l $$
である。$x=\sum_i(a_ie_i+b_if_i)$($a_i,b_i\in\mathbb{F}_2$)に使うと、異なる基底ベクトルどうしの積で $0$ でないのは $e_i\cdot f_i=1$ だけなので、$q(a e)=aq(e)$($q(0)=0$)と合わせて
$$ q(x)=\sum_{i=1}^m\bigl(a_iq(e_i)+b_iq(f_i)+a_ib_i\bigr) $$
となる。したがって和は $i$ ごとの積に分かれ、$\alpha=q(e_i)$、$\beta=q(f_i)$ とおくと
$$ \sum_{a,b\in\mathbb{F}_2}(-1)^{a\alpha+b\beta+ab}=1+(-1)^\alpha+(-1)^\beta-(-1)^{\alpha+\beta}=2(-1)^{\alpha\beta} $$
である($\alpha,\beta\in\{0,1\}$ の 4 通りを代入して確かめられる)。よって $\sum_x(-1)^{q(x)}=\prod_i2(-1)^{q(e_i)q(f_i)}=2^m(-1)^{\operatorname{Arf}(q)}$ である。
$q$ の値が $0$ の元の個数を $N_0$、$1$ の元の個数を $N_1$ とすると、$N_0+N_1=2^{2m}$、$N_0-N_1=(-1)^{\operatorname{Arf}(q)}2^m$ なので、値 $\operatorname{Arf}(q)$ をとる元は $2^{2m-1}+2^{m-1}$ 個、もう一方の値をとる元は $2^{2m-1}-2^{m-1}$ 個である。
直和については、$q_1$、$q_2$ のシンプレクティック基底を合わせたものが $q_1\oplus q_2$ のシンプレクティック基底になるので、定義から和になる。$\square$

Kervaire 不変量

$M$ を三角形分割可能な $10$ 次元の閉多様体で、$4$ 連結なものとする。$V:=H^5(M;\mathbb{Z}/2)$ の上の形式 $x\cdot y:=\langle x\smile y,[M]\rangle$ は、Poincaré双対(体係数ではカップ積の対が完全対)により非退化である。
Kervaire は、ループ空間 $\Omega S^6$ への写像を使って、この形式の 2 次の細分 $\varphi_M\colon H^5(M;\mathbb{Z}/2)\to\mathbb{Z}/2$ を定めた。整数係数の類 $X\in H^5(M)$ に対して $f^*(e_5)=X$ となる写像 $f\colon M\to\Omega S^6$ をとり($e_5$ は $H^5(\Omega S^6)\cong\mathbb{Z}$ の生成元)、$H^{10}(\Omega S^6;\mathbb{Z}/2)$ の生成元 $u_{10}$ について $\varphi_M(X\bmod2):=\langle f^*u_{10},[M]\rangle$ とおく。これが $f$ のとり方によらず、2 次の細分になることが示される(Ker60 §1、Lemma 1.1–1.3、pp. 257–259)。

Kervaire 不変量

$4$ 連結な三角形分割可能な $10$ 次元閉多様体 $M$ に対し、$\Phi(M):=\operatorname{Arf}(\varphi_M)\in\mathbb{Z}/2$ を $M$ の Kervaire 不変量という(Ker60 p. 259)。

$\varphi_M$ は写像のホモトピー類とコホモロジーだけで定まるので、ホモトピー同値 $g\colon M\to N$ について $\varphi_M\circ g^*=\varphi_N$ であり、$\Phi$ はホモトピー型の不変量である(Ker60 p. 259)。次の 2 つの定理は、この記事では証明しない。

滑らかな多様体の Kervaire 不変量

$M$ が $4$ 連結な $10$ 次元の滑らかな閉多様体とホモトピー同値なら、$\Phi(M)=0$ である。

対偶の形

$\Phi$ はホモトピー型の不変量なので、この定理の対偶は、$\Phi(M)=1$ である $4$ 連結な $10$ 次元の三角形分割可能な閉多様体は、どの滑らかな閉多様体ともホモトピー同値でないことを述べる。

これは Ker60 Theorem 1(p. 259。証明は §2、pp. 260–264 で、§4・§5 の補題を使う)である。Kervaire は $C^1$ 級の多様体について述べているが、$C^1$ 級の構造は両立する $C^\infty$ 級の構造を含むので(C^r構造の平滑化)、滑らかな場合と同じである。証明は、滑らかな $4$ 連結な $10$ 次元閉多様体が安定平行化可能であることから Pontryagin–Thom 構成で安定ホモトピー群 $\pi_{n+10}(S^n)$ の元を作り、その $2$ 成分についての計算に帰着させる。

$K^{10}$ の Kervaire 不変量

$K^{10}$ の $H^5(K^{10};\mathbb{Z}/2)$ には、2 つの球面 $A'$、$A''$ の双対となるシンプレクティック基底 $x,y$ があり、$\varphi(x)=\varphi(y)=1$ である。したがって $\Phi(K^{10})=\varphi(x)\varphi(y)=1$ である。

2 つの定理の組み合わせ

$\Phi(K^{10})=1$ なので、前の定理の対偶により、$K^{10}$ は滑らかな閉多様体とホモトピー同値にならない。主定理はこの 2 つの性質を組み合わせて得られる。

これは Ker60 Theorem 2(p. 260)と §3 の計算(p. 265)である。$\varphi(x)=1$ は、$A'$ の法束が自明でない($S^5$ の接束と同型)ことを、その Thom 複体の胞体の貼り付け写像が Whitehead 積 $[\iota_5,\iota_5]$ で表されることを通して $\Omega S^6$ へ伝えて示される。

主定理

Kervaire の定理(滑らかな構造をもたない PL 多様体)

$K^{10}$ は $4$ 連結な $10$ 次元の閉じた組合せ多様体で、どんな滑らかな構造ももたない。さらに、$K^{10}$ はどんな滑らかな閉多様体ともホモトピー同値でない。

Kervaire の定理

$K^{10}$ が $4$ 連結な閉じた組合せ多様体であることは、def-kvm-main の後の注意と prop-kvm-boundary の後の注意で見た。
$K^{10}$ が滑らかな閉多様体 $N$ とホモトピー同値だったとする($K^{10}$ に滑らかな構造があれば、その構造を入れた多様体 $N$ は $K^{10}$ と同相、とくにホモトピー同値である)。$N$ は $10$ 次元の閉多様体で、$K^{10}$ とホモトピー同値なので $4$ 連結である。thm-kvm-smooth-zero により $\Phi(K^{10})=0$ となるが、thm-kvm-value により $\Phi(K^{10})=1$ であり、矛盾する。$\square$

$9$ 次元の異種球面

$P^{10}$ の境界としての滑らかな構造を入れた $\Sigma^9$ は、$S^9$ と同相だが微分同相でない。

同相であることは prop-kvm-boundary の 4 である。微分同相写像 $\psi\colon\Sigma^9\to S^9=\partial D^{10}$ があったとする。$N:=P^{10}\cup_\psi D^{10}$ は、カラーを使って滑らかな構造が入る閉多様体である(境界に沿った貼り合わせと連結和 の定理「貼り合わせの滑らかな構造」)。$\psi$ を錐の上に放射状に延ばすと同相写像 $C\Sigma^9\to D^{10}$ が得られ、$P^{10}$ の上の恒等写像と合わせて同相写像 $K^{10}\to N$ ができる。これは $K^{10}$ が滑らかな閉多様体と同相、とくにホモトピー同値であることを意味し、thm-kvm-main に反する。$\square$

これは Ker60 pp. 265–266 の議論である。$[\Sigma^9]$ は Kervaire–Milnorの群 $\Theta_9$ の中で、位数 $2$ の部分群 $bP_{10}$ を生成する(Kos93 Ch. X §6、p. 219)。

例

2 次元の空間の上の 2 次の細分

$V=\langle e,f\rangle$、$e\cdot f=1$ とすると、2 次の細分は $(q(e),q(f))$ で決まり、$q(e+f)=q(e)+q(f)+1$ である。

$(q(e),q(f))$$q(0),q(e),q(f),q(e+f)$$0$ をとる元の個数$\operatorname{Arf}(q)$
$(0,0)$$0,0,0,1$$3$$0$
$(1,0)$$0,1,0,0$$3$$0$
$(0,1)$$0,0,1,0$$3$$0$
$(1,1)$$0,1,1,1$$1$$1$

thm-kvm-arf のとおり、$\operatorname{Arf}(q)$ は $2^{1}+2^{0}=3$ 個の元でとる値である。$(1,0)$ の $q$ は基底を $e,f$ から $e,e+f$ に取り替えると $(1,0)$ のまま、$e+f,f$ に取り替えると $(0,0)$ になり、$\sum q(e_i)q(f_i)$ はどちらも $0$ で変わらない。

接束が自明な場合:$S^k\times S^k$

接束の円板束のかわりに自明な束 $S^k\times D^k$ を 2 つ plumbing すると、$S^k\times S^k$ から開円板を除いたものが得られる。実際、$S^k=D_+\cup D_-$(上半球と下半球)と分けると、$S^k\times S^k$ から $\operatorname{Int}(D_-\times D_-)$ を除いたもの(角を丸める)は $(S^k\times D_+)\cup(D_+\times S^k)$ で、2 つは $D_+\times D_+$ で交わり、そこで一方の底空間の座標が他方の繊維の座標になっている。境界は $\partial(D_-\times D_-)$、すなわち標準的な $S^{2k-1}$ で、錐を足した閉多様体は滑らかな $S^k\times S^k$ である。$k=1,3,7$ では $S^k$ の接束が自明なので、Kervaire の plumbing $P^{2k}$ 自身がこれと同じになり、$\Sigma^{2k-1}$ は $S^{2k-1}$ と微分同相である(Kos93 Ch. VI §12、p. 120。証明は演習とされている)。

$S^5\times S^5$ の Kervaire 不変量

$S^5\times S^5$ は $4$ 連結な滑らかな $10$ 次元閉多様体なので、thm-kvm-smooth-zero により $\Phi(S^5\times S^5)=0$ である(Kos93 Ch. X §4、p. 208 も同じことを述べる)。$H^5(S^5\times S^5;\mathbb{Z}/2)$ は 2 つの因子の基本類の双対 $x,y$ をシンプレクティック基底にもち、カップ積の形式は $K^{10}$ の場合と同型である。違いは 2 次の細分 $\varphi$ の値だけにある。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
滑らか(thm-kvm-smooth-zero の仮定)$K^{10}$(組合せ多様体)$4$ 連結な $10$ 次元閉多様体の $\Phi$ は $0$
接束の円板束を plumbing する自明な束 $S^5\times D^5$ の plumbing閉じた多様体が滑らかな構造をもたない
2 次の細分まで見る$S^5\times S^5$ と $K^{10}$カップ積の形式が同型なら $\Phi$ も等しい
反例:PL 多様体では Φ は 0 とは限らない

$K^{10}$ は $4$ 連結な $10$ 次元の閉じた組合せ多様体で、$\Phi(K^{10})=1$ である(thm-kvm-value)。破れる条件は「滑らか」で、thm-kvm-smooth-zero の証明は、滑らかな多様体が安定平行化可能であり、Pontryagin–Thom 構成で安定ホモトピー群の元を与えることを使う。組合せ多様体にはこの構成がない。

反例:自明な束の plumbing

ex-kvm-trivial で $k=5$ とすると、plumbing は $S^5\times S^5$ から円板を除いたもので、境界は標準的な $S^9$、錐を足したものは滑らかな $S^5\times S^5$ である。prop-kvm-boundary の 1–4 はこの場合も成り立つ(証明で使ったのは、零切断が 1 点で横断的に交わることと $k$ が奇数であることだけ)が、thm-kvm-value の $\varphi(x)=\varphi(y)=1$ は、零切断の法束が自明でないことから来ていた。自明な束では $\Phi=0$ となり(ex-kvm-s5s5)、滑らかな構造がないという結論は得られない。

反例:カップ積だけでは Φ は決まらない

ex-kvm-s5s5 のとおり、$S^5\times S^5$ と $K^{10}$ の $H^5(\,\cdot\,;\mathbb{Z}/2)$ の上のカップ積の形式は同型だが、$\Phi$ は $0$ と $1$ で異なる。$\operatorname{Arf}$ は 2 次の細分の不変量で、双線形形式だけからは決まらない(ex-kvm-arf-plane の 4 つの $q$ は同じ形式の細分である)。

補足

  • 高い次元の類似:$k$ が奇数のとき、同じ plumbing から $P^{4n+2}$ と $\Sigma^{4n+1}$ が作られる。Kervaire 自身は高い次元で滑らかな構造がないことを示せなかったと述べている(Ker60 p. 257)。$\Sigma^{4n+1}$ が標準的な球面と微分同相であることと、Kervaire 不変量が $1$ の閉じた安定平行化可能な(π 多様体の)$(4n+2)$ 次元多様体があることは同値である(Kos93 Ch. X (4.7) Corollary、p. 210)。Browder は、$n+1$ が $2$ の冪でなければ $\Sigma^{4n+1}$ は標準的な球面と微分同相でないことを示した(Kos93 pp. 121、219)。
  • 群 $\Theta_n$ との関係:$bP_{4n+2}\subset\Theta_{4n+1}$ は $0$ か $\mathbb{Z}/2$ で、後者のとき $[\Sigma^{4n+1}]$ が生成元である(KM63 Theorem 8.5、p. 536、Kos93 (6.2)、p. 216)。Kervaire–Milnorの群 を見よ。
  • 構造の階層の中で:Kervaire 多様体は、PL 多様体が滑らかな構造をもつとは限らないことの最初の例である(多様体の構造の階層)。$8$ 次元でも、三角形分割と両立する滑らかな構造をもたない PL 多様体が 異種球面 の束から作れる(MS74 §20 の Example 2、pp. 247–248)が、Kervaire 多様体はどんな滑らかな構造ももたず、ホモトピー型の段階で滑らかな多様体と区別される。

関連項目

参考文献

[2]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. VI §12 (2k,k)-Handlebodies; Plumbing:交点行列の交代性(p. 118)、(12.2) Proposition(p. 119)、K(2k) の交点行列と Kervaire 球面・k=1,3,7 の場合(p. 120)、Browder の結果への言及(p. 121);Ch. X §4:S^{2n+1}×S^{2n+1} の Kervaire 不変量(p. 208)、(4.7) Corollary(p. 210);§6 (6.2) Proposition(p. 216)、bP^10 = Z_2 と Browder の結果(p. 219)

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