関手(∞圏)(functor of infinity-categories)とは、準圏の間の単体的写像として表され、対象・射とすべての高次整合性を運ぶ対応である。関手∞圏を定義し、通常の関手と豊穣表示への帰着を説明する。
∞-圏を準圏で表示する。準圏は内部ホーン $\Lambda_i^n\subseteq\Delta^n$($0< i< n$)をすべて充填できる単体的集合であり、その頂点・辺・高次単体が対象・射・合成の整合性を表す。単体的集合は単体圏 $\Delta$ から集合の圏への反変関手である。
準圏 $\mathcal C,\mathcal D$ の間の関手(functor of infinity-categories)は単体的集合の写像 $F:\mathcal C\to\mathcal D$ である。すなわち各次元での写像 $F_n:\mathcal C_n\to\mathcal D_n$ が面写像・退化写像と可換する。
頂点や辺の対応だけでなく、すべての高次単体を運ぶことが定義に含まれる。従って合成を証言する2単体や、その整合性を証言する高次単体も保たれる。定義は HTT09 §1.2.7 による。
単体的集合 $K$ と準圏 $\mathcal D$ に対し
$$
\operatorname{Fun}(K,\mathcal D)_n
=\operatorname{Hom}_{\mathrm{sSet}}(K\times\Delta^n,\mathcal D)
$$
と定める。これは準圏になる。頂点は $K$ 型の図式、辺は図式の間の自然変換(自然変換(∞圏))である。$K=\mathcal C$ なら関手∞圏という。準圏であることは HTT09 Proposition 1.2.7.3 による。関手∞圏 $\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal D)$ の定義と性質の詳細は 関手圏(∞圏) が扱う。ここでは記法だけを導入する。
準圏性の証明を分解すると、内部ホーンから $\operatorname{Fun}(K,\mathcal D)$ への写像は、指数随伴により $K\times\Lambda_i^n\to\mathcal D$ と同じである。ここで、内部ホーンの押し出し・超限合成・レトラクトから作られる写像を内部anodyneという。$K\times\Lambda_i^n\hookrightarrow K\times\Delta^n$ も内部anodyneとなる積の補題を使うと、$\mathcal D$ のホーン充填から延長が得られる。この積の補題は非自明であり、ここでは HTT09 Corollary 2.3.2.4を用いている。単に指数対象と定義しただけで準圏性が自動的に従うわけではない。
「合成をホモトピーまで保つ」とだけ言うと、個々の合成に対するホモトピーしか指定していないように見える。∞関手では、それらのホモトピーの間の整合性もすべて必要である。準圏の写像という定義は、このデータを一括して与える。
準圏の間の写像は、このモデルでは厳密な単体的写像である。一方、単体的豊穣圏の未置換の厳密関手とはモデルが異なる。「厳密」という語だけで両者の柔軟性を比較しない。
通常の関手 $F:A\to B$ は、合成可能な射の列に各成分で $F$ を適用することにより脈体の写像 $N(F):N(A)\to N(B)$ を定める。逆に脈体間の単体的写像は、通常の関手から得られる。
$*\to\mathcal D$ は対象の指定、$\Delta^1\to\mathcal D$ は射の指定である。$\Delta^2\to\mathcal D$ は2本の射と合成を表す3本目の射、およびそれらを結ぶ2単体を指定する。辺だけのグラフへの対応より多くのデータを持つ。
一対象圏 $\mathbb Z/2$(群を一対象圏とみなす)の非単位元を、一対象圏 $\mathbb Z$ の元 $1$ に送るとする。対象と射集合への対応としては書けるが、$\mathbb Z/2$ の関係 $g^2=e$ が $\mathbb Z$ で $1+1=0$ を要求して矛盾する。対応する2単体を保てないので、脈体の間の∞関手には延長できない。
準圏の間の関手は、単体的写像として合成できる。さらに評価写像から関手∞圏の合成を得る。HTT09 §1.2.7。
$F,G$ が面写像 $d_i$ と可換すれば、$d_iGF=Gd_iF=GFd_i$ であり、退化写像についても同じである。恒等写像もこの条件を満たす。従って合成と恒等は∞関手である。
関手∞圏の合成は、$n$-単体 $H:\mathcal D\times\Delta^n\to\mathcal E$ と $F:\mathcal C\times\Delta^n\to\mathcal D$ を、同じパラメータを使う $(c,t)\mapsto H(F(c,t),t)$ へ送る。これは対角写像と評価の合成なので面・退化と可換し、合成の結合律も保つ。
通常の圏 $A,B$ に対して
$$\operatorname{Fun}(N(A),N(B))\cong N(\operatorname{Fun}(A,B))$$
である。
左辺の $n$-単体は $N(A)\times\Delta^n=N(A\times[n])$ から $N(B)$ への写像である。脈体の写像は通常の関手に対応するので、これは $A\times[n]\to B$ と同じである。さらにこれは $A\to B$ の関手の間の $n$ 本の合成可能な自然変換に対応し、右辺の $n$-単体になる。この対応は面・退化と可換する。
∞関手は各 $x,y$ の写像空間(写像空間(∞圏))の写像
$$
\operatorname{Map}_{\mathcal C}(x,y)\to
\operatorname{Map}_{\mathcal D}(Fx,Fy)
$$
を誘導する。右写像空間 $\operatorname{Hom}^R$ の表示では、「面 $\{0,\ldots,n\}$ 全体が $x$ で定値であり、最後の頂点が $y$ である $(n+1)$-単体」に $F$ を適用する。最初の頂点がすべて $x$ という条件だけでは不十分で、辺や高次の面も定値である必要がある。$\operatorname{Hom}^R$・$\operatorname{Hom}^L$・円柱モデルは互いに弱同値であり(HTT09 §4.2.1)、どの表示で誘導写像を作っても同じ結論を得る。
$\pi_0$ を取ればホモトピー圏(∞圏のホモトピー圏)の関手 $hF:h\mathcal C\to h\mathcal D$ を得る。従って、ホモトピー圏で同型になる射、すなわち同値射は同値射へ送られる。すべての写像空間で同値を誘導するとき充満忠実(充満忠実関手(∞圏))といい、さらにすべての対象が $Fx$ と同値なら圏同値(圏同値(∞圏))となる。充満忠実かつ本質的全射な関手が圏同値であることは、圏同値(∞圏) の記事の定理である。HTT09 §§1.2.2, 1.2.10。
局所Kanな単体的圏の厳密な単体的関手は、ホモトピー整合的脈体を介して∞関手を与える。逆向きの表現には源や標的の適切な置換が必要になる。関手∞圏全体を計算する場合、未置換の厳密な関手と自然変換を並べるだけでは不十分なことがある。HTT09 §1.2.7 Remark 1.2.7.1、§2.2.5。
Quillen随伴を持つモデル圏からは、cofibrant・fibrant置換を用いた導来関手を通して∞圏の関手へ進める。元の関手がすべての弱同値を保つと無条件に仮定しない。随伴関手(∞圏) の記事では写像空間の普遍性との関係を説明する。
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