微分Galois理論(differential Galois theory)とは、線形常微分方程式に Galois 理論を移した理論で、方程式の解で生成され新しい定数をもたない微分体の拡大(Picard–Vessiot 拡大)の、微分と可換な自己同型の群を調べる。この微分 Galois 群は解空間に作用して一般線形群の部分群になり、実は線形代数群である。定数体が代数閉体なら中間の微分体と Zariski 閉部分群が 1 対 1 に対応し、方程式が積分・指数関数・代数関数で解けることは、群の単位元の連結成分が可解であることと同値になる(Kolchin)。原始関数や指数関数を 1 つ添加した拡大の群は加法群・乗法群かその有限部分群である。
多項式の方程式の Galois 理論は、根を互いに入れ替える対称性の群から、方程式が冪根で解けるかどうかを読み取る。微分Galois理論(differential Galois theory)は、これを線形常微分方程式に移したものである。解の全体を含む「微分体」の自己同型のうち微分と可換なものの群を考えると、それは行列群になり、方程式の解の性質(代数関数で書けるか、指数関数と積分で書けるか)がその群の構造に映る。Picard と Vessiot が始め、Kolchin が代数群の言葉で完成させた理論で、Picard–Vessiot 理論ともよばれる。
この記事では、微分体と Picard–Vessiot 拡大を定義し、主定理として、Picard–Vessiot 拡大の微分 Galois 群が一般線形群に埋め込まれることを証明する。そのための道具として、関数の 1 次独立性を判定する Wronski 行列式の定理を証明する。続いて、原始関数を 1 つ添加する拡大と、指数関数を 1 つ添加する拡大の微分 Galois 群を完全に決定し、$e^x$・$\log x$・$\sqrt x$ の例を計算する。Galois 対応と、方程式が「Liouville 関数」で解けるための Kolchin の判定法は、所在を示して述べる。
以下この記事を通して、体と環の標数は $0$ とする。
可換環 $R$ と、$R$ の導分 $\partial\colon R\to R$($\partial(a+b)=\partial a+\partial b$、$\partial(ab)=(\partial a)b+a\,\partial b$)の組 $(R,\partial)$ を微分環といい、$R$ が体のとき微分体(differential field)という。$\partial a$ を $a'$、$\partial^ja$ を $a^{(j)}$ とも書く。$C_R=\{c\in R\mid c'=0\}$ を $R$ の定数の環という。微分体 $K$ の定数 $C_K$ は $K$ の部分体である。
微分体 $K\subset L$ について、$L$ の導分の $K$ への制限が $K$ の導分であるとき、$L$ を $K$ の微分拡大という。$L$ の体の自己同型 $\sigma$ で $K$ の元を動かさず、$\sigma(a')=\sigma(a)'$ を満たすものを $L/K$ の微分自己同型という。
$C_K$ が部分体であることは、$c\ne0$、$c'=0$ なら $(c^{-1})'=-c^{-2}c'=0$ となることによる($1'=(1\cdot1)'=2\cdot1'$ から $1'=0$)。標数 $0$ では $\mathbb{Q}\subset C_K$ である。
$K$ を微分体とし、$a_0,\dots,a_{n-1}\in K$ について線形微分作用素
$$
L(y)=y^{(n)}+a_{n-1}y^{(n-1)}+\dots+a_1y'+a_0y
$$
を考える。微分拡大 $M$ の中の解 $L(y)=0$($y\in M$)の全体は $C_M$ 上のベクトル空間である。
微分環の元 $y_1,\dots,y_r$ について、$r$ 次正方行列 $\bigl(y_j^{(i-1)}\bigr)_{1\le i,j\le r}$ の行列式
$$
\operatorname{wr}(y_1,\dots,y_r)=\det\begin{pmatrix}y_1&\cdots&y_r\\ y_1'&\cdots&y_r'\\ \vdots&&\vdots\\ y_1^{(r-1)}&\cdots&y_r^{(r-1)}\end{pmatrix}
$$
を Wronski 行列式(Wronskian)という。
$K$ を微分体、$L$ を上の線形微分作用素とする。$K$ の微分拡大 $E$ が $L(y)=0$ の Picard–Vessiot 拡大(PV 拡大)であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。
$y_i^{(n)}$ は $L(y_i)=0$ によって $y_i,\dots,y_i^{(n-1)}$ の $K$ 係数の 1 次結合なので、1 の体は $\partial$ で閉じ、自動的に微分体になる。条件 2 は、多項式の分解体が「根を添加して余計なものを足さない」ことにあたる。
$K$ を微分体とし、定数の体 $C_K$ が代数閉体であるとする。このとき、どの線形微分作用素 $L$ についても $L(y)=0$ の Picard–Vessiot 拡大が存在し、それは $K$ 上の微分体の同型を除いてただ一つである。
この記事では証明しない。Sin09 §1.3 の Definition 1.3.2 の前後(pp. 10–11)に、行列の形の方程式 $Y'=AY$ について、多項式環 $K[Y_{ij},1/\det Y]$ を極大な微分イデアルで割って構成する方法と、存在・一意性・$C_E=C_K$ の主張があり、証明は van der Put–Singer の教科書の §1.2 に委ねられている。単独の方程式 $L(y)=0$ は、同伴行列による $Y'=AY$ の場合にあたる。
$M$ を微分体、$y_1,\dots,y_r\in M$ とする。$y_1,\dots,y_r$ が定数の体 $C_M$ 上 1 次従属であることと、$\operatorname{wr}(y_1,\dots,y_r)=0$ であることは同値である。
要点:従属なら微分した関係式で列が従属になる。逆は $r$ の帰納法で、Wronski 行列の列の $M$ 上の 1 次関係を最後の係数が $1$ になるよう正規化し、それを微分すると残りの係数の導関数が $r-1$ 個の Wronski 行列式の消えない連立方程式を満たすので $0$ になり、係数が定数になる。
$\sum_jc_jy_j=0$($c_j\in C_M$、すべては $0$ でない)なら、微分を繰り返して $\sum_jc_jy_j^{(i)}=0$($0\le i\le r-1$)となるので、Wronski 行列の列が 1 次従属で、行列式は $0$ である。
逆を $r$ についての帰納法で示す。$r=1$ では $\operatorname{wr}(y_1)=y_1=0$ なので従属である。$r\ge2$ とし、$\operatorname{wr}(y_1,\dots,y_r)=0$ とする。$\operatorname{wr}(y_1,\dots,y_{r-1})=0$ なら帰納法の仮定から $y_1,\dots,y_{r-1}$ が従属なので、$\operatorname{wr}(y_1,\dots,y_{r-1})\ne0$ としてよい。Wronski 行列の列は体 $M$ 上 1 次従属なので、すべては $0$ でない $b_1,\dots,b_r\in M$ で $\displaystyle \sum_{j=1}^rb_jy_j^{(i)}=0\qquad(0\le i\le r-1)\qquad\text{(1)}$ となるものがある。$b_r=0$ なら (1) の $0\le i\le r-2$ の式から $\operatorname{wr}(y_1,\dots,y_{r-1})=0$ となって矛盾するので、$b_r\ne0$ で、全体を $b_r$ で割って $b_r=1$ としてよい。(1) の $i$ 番目の式($0\le i\le r-2$)を微分すると $\displaystyle \sum_{j=1}^rb_j'y_j^{(i)}+\sum_{j=1}^rb_jy_j^{(i+1)}=0$ であり、第 2 の和は (1) の $i+1$ 番目の式により $0$、$b_r'=0$ なので、$\sum_{j=1}^{r-1}b_j'y_j^{(i)}=0$($0\le i\le r-2$)を得る。$\operatorname{wr}(y_1,\dots,y_{r-1})\ne0$ だから $b_1'=\dots=b_{r-1}'=0$、すなわち $b_j\in C_M$ である。(1) の $i=0$ の式 $\sum_jb_jy_j=0$ は、$b_r=1$ を含む $C_M$ 上の自明でない関係である。$\square$
$M$ を $K$ の微分拡大とすると、$\{y\in M\mid L(y)=0\}$ は $C_M$ 上のベクトル空間として次元が $n$ 以下である。
$y_1,\dots,y_{n+1}$ を解とすると、$\operatorname{wr}(y_1,\dots,y_{n+1})$ の最後の行 $\bigl(y_j^{(n)}\bigr)_j$ は $L(y_j)=0$ により上の $n$ 行の $K$ 係数の 1 次結合 $-\sum_{i< n}a_i\bigl(y_j^{(i)}\bigr)_j$ なので、行列式は $0$ である。thm-dg-wronskian により $y_1,\dots,y_{n+1}$ は $C_M$ 上従属である。$\square$
関数の環では、thm-dg-wronskian の逆向きは一般に成り立たない(後の反例の表)。体であること(割り算ができること)が、証明の「$b_r$ で割る」「$\operatorname{wr}\ne0$ から $b_j'=0$」の段で使われている。
$E/K$ を $L(y)=0$ の Picard–Vessiot 拡大、$y_1,\dots,y_n$ を基本解系とし、$C=C_K$ とおく。
1:$\sigma$ は $K$ の元を動かさず微分と可換なので、$L(\sigma(y_j))=\sigma(L(y_j))=0$ である。$\sigma(y_j)$ は $E$ の中の解であり、cor-dg-solution-space より $E$ の中の解空間は $C_E$ 上 $n$ 次元以下で、$y_1,\dots,y_n$ はその中の 1 次独立な $n$ 個なので基底である。$C_E=C$ だから $\sigma(y_j)=\sum_im_{ij}y_i$($m_{ij}\in C$)と一意に書ける。行ベクトル $Y=(y_1,\dots,y_n)$ で書けば $\sigma(Y)=YM_\sigma$ であり、$\sigma,\tau\in\operatorname{Gal}_\partial(E/K)$ について、$\sigma$ は $C\subset K$ の元を動かさないので
$$
(\sigma\tau)(Y)=\sigma(YM_\tau)=\sigma(Y)M_\tau=YM_\sigma M_\tau
$$
となり、$M_{\sigma\tau}=M_\sigma M_\tau$ である。$\sigma(y_1),\dots,\sigma(y_n)$ は $\sigma$ が微分と可換な体の同型であることから $\operatorname{wr}(\sigma y_1,\dots,\sigma y_n)=\sigma(w)\ne0$ を満たし($w\ne0$ は thm-dg-wronskian による)、1 次独立なので $M_\sigma$ は正則である。$M_\sigma=1$ なら $\sigma$ は $y_i$ を、したがって微分との可換性から $y_i^{(j)}$ をすべて動かさない。$E$ はこれらで $K$ 上生成されるので $\sigma=\mathrm{id}$ であり、準同型は単射である。
2:行列式の各行を順に微分した行列式の和として $w'$ を計算すると、第 $i$ 行($i< n$)を微分したものは第 $i+1$ 行と同じ行を 2 つもつので $0$ であり、最後の行を微分したものだけが残る。その行は $y_j^{(n)}=-\sum_{i< n}a_iy_j^{(i)}$ であり、$i< n-1$ の項は上の行と重なって消えるので、$w'=-a_{n-1}w$ である。また $\sigma$ は Wronski 行列の各成分に作用し、$\sigma(y_j^{(i)})=\sum_km_{kj}y_k^{(i)}$ なので、行列として $\sigma(W)=WM_\sigma$、行列式をとって $\sigma(w)=w\det M_\sigma$ である。$a_{n-1}=0$ なら $w'=0$ で $w\in C_E=C\subset K$ なので $\sigma(w)=w$、$w\ne0$ から $\det M_\sigma=1$ である。$\square$
基本解系を取り替えると $M_\sigma$ は $GL_n(C)$ の中で共役なものに変わるので、像は共役を除いて決まる。像はさらに Zariski 閉部分群、すなわち $C$ 上の線形代数群(代数群)である(Sin09 Proposition 1.3.6, p. 12。この記事では証明しない)。
$C_K$ が代数閉体であるとし、$E/K$ を Picard–Vessiot 拡大、$G=\operatorname{Gal}_\partial(E/K)$ とする。
1 階の 2 つの拡大について、微分 Galois 群をこの記事の中で完全に決定する。どちらも $K$ を微分体、$C=C_K$ とする。
$K\subset E=K(y)$ を体の拡大とし、$\partial$ を $K$ の導分とする。
要点:$E$ の元は $y$ の有理式であり、導分は和・積・商の規則で値が決まる。
1:$E=K(y)$ の元は $f(y)/g(y)$($f,g\in K[Y]$、$g\ne0$)であり、導分 $D$ は Leibniz 則と $D(1/g)=-D(g)/g^2$ から、$K$ 上の値と $D(y)$ で決まる。2:$P\in K[Y]$ を $y$ の最小多項式とし、$P$ の係数を $\partial$ で微分した多項式を $P^\partial$ と書くと、延長 $D$ は $0=D(P(y))=P^\partial(y)+P'(y)\,D(y)$ を満たす。標数 $0$ では $P$ は分離的なので $P'(y)\ne0$ であり、$D(y)=-P^\partial(y)/P'(y)$ と決まる。$K(y)=K[y]$ の元は $y$ の多項式なので、$D$ は 1 と同様に決まる。$\square$
$b\in K$ とし、$E=K(y)$ を $y'=b$ を満たす $K$ の微分拡大で、$C_E=C$ となるものとする。
1:$f'=b$ なら $(y-f)'=0$ なので $y-f\in C_E=C\subset K$、よって $y\in K$。逆は $f=y$ とすればよい。
2:$y$ が代数的とし、最小多項式を $P(Y)=Y^d+c_{d-1}Y^{d-1}+\dots+c_0$($c_i\in K$)とする。$(y^i)'=iy^{i-1}b$ なので
$$
0=\bigl(P(y)\bigr)'=(db+c_{d-1}')\,y^{d-1}+\sum_{i=0}^{d-2}\bigl(c_i'+(i+1)c_{i+1}b\bigr)y^i
$$
である。右辺は $y$ における $d-1$ 次以下の多項式の値で、$P$ の最小性からその多項式は $0$ である。とくに $db+c_{d-1}'=0$ で、$f=-c_{d-1}/d\in K$ は $f'=b$ を満たす。1 により $y\in K$ となる。よって $y\notin K$ なら $y$ は超越的である。
$\sigma\in\operatorname{Gal}_\partial(E/K)$ について $\sigma(y)'=\sigma(y')=\sigma(b)=b$ なので $(\sigma(y)-y)'=0$、$c_\sigma:=\sigma(y)-y\in C$ である。$C\subset K$ は $\sigma$ で動かないので $(\sigma\tau)(y)=\sigma(y+c_\tau)=y+c_\sigma+c_\tau$ であり、$\sigma\mapsto c_\sigma$ は準同型である。$E=K(y)$ なので $c_\sigma=0$ なら $\sigma=\mathrm{id}$ である。全射を示す。$c\in C$ について、$y$ は超越的なので $y\mapsto y+c$ は $K$ 上の体の自己同型 $\sigma_c$ を定める。$D=\sigma_c\circ\partial\circ\sigma_c^{-1}$ は $E$ の導分で、$K$ の上では $\partial$ に一致し、$D(y)=\sigma_c(\partial(y-c))=\sigma_c(b)=b=\partial y$ である。lem-dg-extension の 1 により $D=\partial$、すなわち $\sigma_c$ は微分自己同型で、$c_{\sigma_c}=c$ である。$\square$
$b\ne0$ のとき、$E$ は 2 階の方程式 $y''-(b'/b)y'=0$ の Picard–Vessiot 拡大でもある(基本解系 $1,y$)。thm-dg-matrix の行列表示では $\sigma\mapsto\begin{pmatrix}1&c_\sigma\\0&1\end{pmatrix}$ で、加法群 $C$ は上三角の単冪行列の群として現れる。
$C$ が代数閉体であるとする。$a\in K$ とし、$E=K(y)$ を $y\ne0$、$y'=ay$ を満たす $K$ の微分拡大で、$C_E=C$ となるものとする。
要点:$\sigma(y)/y$ は導関数が $0$ なので定数である。$y$ が代数的なら、最小多項式 $P$ を微分した式から $P$ の定数項 $c_0$ が $c_0'=dac_0$ を満たし、$y^d/c_0$ が定数、すなわち $y^d\in K$ となる。逆向きの自己同型 $y\mapsto\lambda y$ が微分と可換であることは、導分の延長の一意性からわかる。
1:$\sigma(y)'=a\sigma(y)$ なので $\bigl(\sigma(y)/y\bigr)'=\bigl(a\sigma(y)y-\sigma(y)ay\bigr)/y^2=0$ であり、$\lambda_\sigma:=\sigma(y)/y\in C^\times$ である。$(\sigma\tau)(y)=\sigma(\lambda_\tau y)=\lambda_\tau\lambda_\sigma y$ なので準同型で、$E=K(y)$ から単射である。
まず、$y$ が代数的なら、ある $d\ge1$ について $y^d\in K$ であることを示す。最小多項式を $P(Y)=Y^d+c_{d-1}Y^{d-1}+\dots+c_0$ とすると、$y\ne0$ と既約性から $c_0\ne0$ である。$(y^i)'=iay^i$ なので $\displaystyle Q(Y)=\sum_{i=0}^{d}(c_i'+iac_i)Y^i-da\,P(Y)\qquad(c_d=1)$ は $Q(y)=\bigl(P(y)\bigr)'-da\,P(y)=0$ を満たし、$Y^d$ の係数が $da-da=0$ なので $d-1$ 次以下である。$P$ の最小性から $Q=0$ で、定数項から $c_0'=dac_0$ を得る。すると $\displaystyle \Bigl(\frac{y^d}{c_0}\Bigr)'=\frac{day^dc_0-y^dc_0'}{c_0^2}=0$ なので $y^d/c_0\in C_E=C\subset K$、すなわち $y^d\in K$ である。
2:仮定と上の段から $y$ は超越的である。$\lambda\in C^\times$ について、$y\mapsto\lambda y$ は $K$ 上の体の自己同型 $\sigma_\lambda$ を定め、$D=\sigma_\lambda\circ\partial\circ\sigma_\lambda^{-1}$ は $K$ 上 $\partial$ に一致し $D(y)=\sigma_\lambda(\partial(\lambda^{-1}y))=\sigma_\lambda(\lambda^{-1}ay)=ay=\partial y$ を満たす。lem-dg-extension の 1 により $\sigma_\lambda$ は微分自己同型で、$\lambda_{\sigma_\lambda}=\lambda$ である。
3:$y^n\in K$ なので $y$ は代数的であり、最小多項式の次数 $d$ について上の段から $y^d\in K$、$n$ の最小性から $d\ge n$ である。$y$ は $Y^n-y^n\in K[Y]$ の根なので $d\le n$、よって $d=n$ で最小多項式は $Y^n-y^n$ である。$\sigma(y)^n=\sigma(y^n)=y^n$ から $\lambda_\sigma^n=1$ である。逆に $\zeta\in\mu_n(C)$ について、$\zeta y$ は既約多項式 $Y^n-y^n$ の根なので、$y\mapsto\zeta y$ は $K$ 上の体の自己同型 $\sigma_\zeta$ を定める。2 と同じ計算で $D=\sigma_\zeta\partial\sigma_\zeta^{-1}$ は $D(y)=\partial y$ を満たし、lem-dg-extension の 2 により $D=\partial$ である。よって像は $\mu_n(C)$ 全体である。$C$ は標数 $0$ の代数閉体なので、$Y^n-1$ は $C$ に相異なる $n$ 個の根をもち、$\mu_n(C)$ は位数 $n$ の巡回群である(体の乗法群の有限部分群は巡回群)。$\square$
以下 $K=\mathbb{C}(x)$、$\partial=d/dx$、$C=\mathbb{C}$ とし、$E$ は ex-dg-examples の 2 の有理型関数の体の部分体としてとる。そうすれば $C_E\subset C_{\mathcal{M}(D)}=\mathbb{C}$ なので、新しい定数がないことは自動的に満たされる。
Sin09 Examples 1.3.7(pp. 12–13)では、方程式 $y'=(\alpha/x)y$ の微分 Galois 群が、$\alpha=k/m$(既約分数、$m\ge1$)なら $\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}$、$\alpha\notin\mathbb{Q}$ なら $\mathbb{C}^\times$ と計算され、$y'=y$ の群が $\mathbb{C}^\times$ と計算されている。3 は前者の $\alpha=1/2$ の場合、1 は後者にあたる。1 の群 $\mathbb{C}^\times$ の Zariski 閉部分群は有限巡回群 $\mu_m$($m\ge1$)と全体だけで、thm-dg-fundamental により $\mu_m$ に対応する中間の微分体は $\mathbb{C}(x)(e^{mx})$ である($y\mapsto\zeta y$($\zeta\in\mu_m$)で動かない $K(y)$ の元は $y^m$ の有理式)。
微分体の列 $K=K_0\subset K_1\subset\dots\subset K_m$ で、各 $i$ について $K_{i+1}=K_i(t_i)$ となり、$t_i$ が次のどれかを満たすものを Liouville 塔という:$t_i$ は $K_i$ 上代数的である、$t_i'\in K_i$(原始関数の添加)、$t_i\ne0$ かつ $t_i'/t_i\in K_i$(指数関数の添加)。Picard–Vessiot 拡大 $E/K$ がある Liouville 塔の最後の体に含まれるとき、$L(y)=0$ は Liouville 関数で解けるという。
$C_K$ が代数閉体であるとし、$E/K$ を $L(y)=0$ の Picard–Vessiot 拡大とする。$L(y)=0$ が Liouville 関数で解けることは、$\operatorname{Gal}_\partial(E/K)$ の単位元を含む連結成分が可解群であることと同値である。
この記事では証明しない。Sin09 Definition 1.5.6・Theorem 1.5.7(p. 44)にあり、Picard と Vessiot が述べ、Kolchin が証明を与えた。証明は、連結な可解の線形代数群が上三角行列の群に共役であるという Lie–Kolchin の定理(同 Theorem 1.5.8, p. 44)を使い、thm-dg-primitive と thm-dg-exponential の型の拡大を積み重ねる。多項式の方程式が冪根で解けることと Galois 群が可解であることの同値(Galois理論 の注意「根号による可解性」)にあたる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-dg-wronskian の「微分体の元」(関数の環に広げる) | $\mathbb{R}$ 上の $C^1$ 級関数 $x^2$ と $x\lvert x\rvert$ | Wronski 行列式は $2x^2\lvert x\rvert-2x^2\lvert x\rvert=0$ だが、$x>0$ で一致し $x<0$ で符号が逆なので、$\mathbb{R}$ 上 1 次独立 |
| thm-dg-primitive の「新しい定数がない」 | $K=\mathbb{C}(x)$、$E=K(t)$($t$ は超越元で $t'=0$)、$y=x+t$ | $y'=1$ で $1$ は $K$ に原始関数 $x$ をもつが、$y\notin K$ |
| thm-dg-exponential の「$C$ が代数閉体」 | $K=\mathbb{R}(x)$、$E=K(x^{1/3})$($x>0$ 上の実関数)、$y'=y/(3x)$ | $[E:K]=3$ だが、$\mu_3(\mathbb{R})=\{1\}$ なので微分 Galois 群は自明で位数 $3$ にならず、固定体は $E^G=E\ne K$ |
3 行目で $C_E=\mathbb{R}$ であることは、$E$ が $(0,\infty)$ 上の実解析関数の体に含まれ、導関数が $0$ の関数は定数であることによる。$Y^3-x$ が $\mathbb{R}(x)$ 上既約であることは、ex-dg-computations の 3 と同じく $x=0$ での位数を比べればわかる($R^3=x$ なら位数は $3$ の倍数)。
初等関数の原始関数。 $\int e^{-x^2}dx$ が初等関数で書けないことを示す Liouville の定理(初等関数で表せない原始関数 の記事の定理「Liouville の定理」)は、この記事の微分体の言葉で述べられる。原始関数と指数関数の添加に代数的な元の添加を加えたものが、初等関数を生む拡大である。逆問題と計算。 どの線形代数群が $\mathbb{C}(x)$ 上の微分 Galois 群として現れるかという逆問題と、2 階の方程式の Liouville 解を求める Kovacic のアルゴリズムについては Sin09 の §1.5・§1.6 に概説がある。
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