Hippiasの円積曲線

同義語:ヒッピアスの円積曲線Hippiasの円積線quadratrix of Hippias

概要

Hippiasの円積曲線(quadratrix of Hippias)とは、1 辺 $a$ の正方形 $OXYZ$ で、辺 $OZ$ を $O$ のまわりに一定の速さで回して $OX$ に重ねる動きと、辺 $ZY$ を一定の速さで平行に下ろして $OX$ に重ねる動きを同時に行うとき、2 本の交点がえがく曲線である(2 本が重なる終わりの時刻は除く)。$O$ を原点、$OX$ を $x$ 軸にとると $x=y\cot\frac{\pi y}{2a}$($0<y\le a$)で表され、点の向きの角と高さが比例するので、曲線が 1 本あれば直角以下の角を、作図できる任意の比に分けられる。$y\to+0$ のとき点は $\left(\frac{2a}\pi,0\right)$ に近づき、この点が得られれば定規とコンパスで円積問題が解ける。ただしこの点は曲線の上になく、交点としては得られない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Dioclesのシッソイド, 3大作図問題の不可能性, sin x/xの極限, 一般角と弧度法, 定規とコンパスによる作図

高校での出発点:回る線分と下りる線分の交点

Nicomedesのコンコイド と Dioclesのシッソイド では、$x$、$y$ の多項式の式で書ける曲線を 1 本使って、角の 3 等分と立方体の倍積を解いた。この記事の曲線は、2 つの動きを組み合わせて作る。正方形の 1 辺を、1 つの頂点のまわりに回しながら、同時に向かい合う辺を平行に下ろしていく。2 本の線分の交点を追いかけてみる。

正方形の中の 2 つの動き

1 辺 $1$ の正方形 $OXYZ$ を、$O(0,\ 0)$、$X(1,\ 0)$、$Y(1,\ 1)$、$Z(0,\ 1)$ にとる。時刻 $0$ から時刻 $1$ まで、次の 2 つの動きを同時に行う。

  • 線分 $OZ$ を、$O$ を中心に一定の速さで時計回りに回し、時刻 $1$ で $OX$ に重ねる。時刻 $\tau$ での線分の向きは、$x$ 軸から測って $\theta=\dfrac\pi2(1-\tau)$ である。
  • 線分 $ZY$ を、水平のまま一定の速さで下ろし、時刻 $1$ で $OX$ に重ねる。時刻 $\tau$ での高さは $y=1-\tau$ である。
  1. 時刻 $\dfrac12$:回る線分の向きは $\dfrac\pi4$($45^\circ$)、水平な線分の高さは $\dfrac12$ である。向き $45^\circ$ の半直線 $y=x$ と直線 $y=\dfrac12$ の交点は $\left(\dfrac12,\ \dfrac12\right)$ である。
  2. 時刻 $\dfrac14$:向きは $\dfrac{3\pi}8$($67.5^\circ$)、高さは $\dfrac34$ である。向き $\theta$ の半直線の上で高さ $y$ の点の $x$ 座標は $\dfrac y{\tan\theta}$ なので、交点の $x$ 座標は $\dfrac34\cdot\dfrac1{\tan67.5^\circ}=\dfrac34\tan22.5^\circ=\dfrac34(\sqrt2-1)\approx0.311$ である。
  3. 時刻 $\dfrac34$:向きは $\dfrac\pi8$($22.5^\circ$)、高さは $\dfrac14$ で、交点の $x$ 座標は $\dfrac14\cdot\dfrac1{\tan22.5^\circ}=\dfrac14(\sqrt2+1)\approx0.604$ である。
    時刻が進むと、交点は $Z(0,\ 1)$ から出て右下へ進む。ただし時刻 $1$ では 2 本の線分がどちらも $OX$ に重なり、交点は 1 点に決まらない。

$\tan22.5^\circ=\sqrt2-1$ と $\dfrac1{\tan22.5^\circ}=\sqrt2+1$ は、半角の公式 $\tan\dfrac\alpha2=\dfrac{1-\cos\alpha}{\sin\alpha}$ に $\alpha=45^\circ$ を代入して得られる。
こうして交点がえがく曲線を Hippias の円積曲線 という。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 円積曲線はどんな式で表され、なぜ角を任意の比に分けられるのか。→ thm-quad-eq、cor-quad-divide
  2. 時刻 $1$ に近づくと、交点はどこへ近づくか。→ thm-quad-limit
  3. その近づく先の点が使えると、なぜ円積問題が解けるのか。→ cor-quad-square
    この記事の作図も、目盛りのない定規とコンパスに「正方形を決めれば、その円積曲線を引ける道具」を加えたものである。3大作図問題の不可能性 の不可能性の定理とは矛盾しない。円積問題については、さらに注意が要る(rem-quad-endpoint)。
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    一定の速さの 2 つの動き角と高さが比例する曲線の媒介変数表示
    $\dfrac{y}{\tan\theta}$ で $x$ 座標を求める$x=y\cot\dfrac{\pi y}{2a}$三角関数を含む曲線
    $\dfrac{\sin x}x\to1$端の点 $\left(\dfrac{2a}\pi,\ 0\right)$極限の点・曲線の閉包
    比例する線分を作る円積問題の手順$\pi$ の作図
    正方形の中で、O のまわりに回る線分(青)と水平に下りる線分(緑)の交点が、赤い円積曲線をえがく。回り終える時刻には 2 本が重なる 正方形の中で、O のまわりに回る線分(青)と水平に下りる線分(緑)の交点が、赤い円積曲線をえがく。回り終える時刻には 2 本が重なる

円積曲線の定義と式

Hippias の円積曲線

$a>0$ とし、1 辺 $a$ の正方形を $O(0,\ 0)$、$X(a,\ 0)$、$Y(a,\ a)$、$Z(0,\ a)$ にとる。時刻 $\tau$($0\le\tau\le1$)に、$O$ を端とし $x$ 軸から向き
$$ \theta=\frac\pi2(1-\tau) $$
の線分と、高さ
$$ y=a(1-\tau) $$
の水平な線分を考える(時刻 $0$ では $OZ$ と $ZY$、時刻 $1$ ではどちらも $OX$)。$0\le\tau<1$ の各時刻の 2 本の交点をとり、その全体を Hippias の円積曲線 という。時刻 $1$ の点は含めない。

時刻 $1$ を除くのは、2 本の線分がどちらも $OX$ に重なり、交点が 1 点に決まらないからである。この除いた部分が、thm-quad-limit と rem-quad-endpoint の主題になる。

円積曲線の式

def-quad の円積曲線について、次が成り立つ。
(1) 時刻 $\tau$($0\le\tau<1$)の交点は、向き $\theta=\dfrac\pi2(1-\tau)$ の半直線と直線 $y=a(1-\tau)$ のただ 1 つの交点である。曲線の点 $P$ の、$x$ 軸から測った向き $\theta$($0<\theta\le\dfrac\pi2$)と高さ $y$ の間には
$$ y=\frac{2a}\pi\,\theta $$
の関係がある。つまり、角と高さが比例する。
(2) 曲線は
$$ x=y\cot\frac{\pi y}{2a}\qquad\left(0< y\le a\right) $$
のグラフである($\cot t=\dfrac{\cos t}{\sin t}$)。原点からの距離を $r$ とすると、$r=\dfrac{2a\theta}{\pi\sin\theta}$($0<\theta\le\dfrac\pi2$)とも書ける。
(3) 向き $\theta$($0<\theta\le\dfrac\pi2$)の半直線は曲線とただ 1 点で交わり、その高さは $\dfrac{2a}\pi\theta$ である。高さ $y$($0< y\le a$)の水平な直線も曲線とただ 1 点で交わり、その点の向きは $\dfrac{\pi}{2a}y$ である。

時刻を消去する

段 1(交点がただ 1 つ)。$0\le\tau<1$ では $\theta=\dfrac\pi2(1-\tau)$ は $0<\theta\le\dfrac\pi2$、$y_\tau=a(1-\tau)$ は $0< y_\tau\le a$ である。向き $\theta$ の半直線の点は $s(\cos\theta,\ \sin\theta)$($s\ge0$)で、高さが $y_\tau$ になるのは $s\sin\theta=y_\tau$、つまり $s=\dfrac{y_\tau}{\sin\theta}$ のときだけである($\sin\theta>0$)。よって交点はただ 1 つで、
$$ P=\left(\frac{y_\tau\cos\theta}{\sin\theta},\ y_\tau\right),\qquad OP=\frac{y_\tau}{\sin\theta} $$
である。$0\le\dfrac{y_\tau\cos\theta}{\sin\theta}\le a$ も確かめておく($\theta\le\dfrac\pi2$ で $\cos\theta\ge0$、また $\dfrac{\sin\theta}{\theta}\ge\dfrac2\pi$ から $\dfrac{y_\tau}{\sin\theta}=\dfrac{2a\theta}{\pi\sin\theta}\le a$ なので $x\le OP\le a$)。交点は正方形の中にある。
段 2(比例)。2 つの式 $\theta=\dfrac\pi2(1-\tau)$、$y=a(1-\tau)$ から $1-\tau$ を消去すると $1-\tau=\dfrac{2\theta}\pi$ なので $y=\dfrac{2a}\pi\theta$ である。$\tau$ が $0\le\tau<1$ を動くと、$\theta$ は $0<\theta\le\dfrac\pi2$ を、$y$ は $0< y\le a$ を動く。
段 3((2) の式)。段 1 の $x=\dfrac{y\cos\theta}{\sin\theta}=y\cot\theta$ に、段 2 から得られる $\theta=\dfrac{\pi y}{2a}$ を代入すると $x=y\cot\dfrac{\pi y}{2a}$ である。また $r=OP=\dfrac{y}{\sin\theta}$ に $y=\dfrac{2a\theta}\pi$ を代入すると $r=\dfrac{2a\theta}{\pi\sin\theta}$ である。
段 4((3))。曲線の点は時刻 $\tau$ で 1 つずつ決まり、向き $\theta$ も高さ $y$ も $\tau$ で 1 対 1 に決まる($\theta=\dfrac\pi2(1-\tau)$ と $y=a(1-\tau)$ は $\tau$ の 1 次式で、傾きが $0$ でない)。よって向き $\theta$ の点は $\tau=1-\dfrac{2\theta}\pi$ の点ただ 1 つで、その高さは $\dfrac{2a}\pi\theta$ である。高さ $y$ の点は $\tau=1-\dfrac ya$ の点ただ 1 つで、その向きは $\dfrac\pi{2a}y$ である。$\square$

段 1 の不等式 $\dfrac{\sin\theta}\theta\ge\dfrac2\pi$($0<\theta\le\dfrac\pi2$)は、$y=\sin\theta$ のグラフが区間 $\left[0,\ \dfrac\pi2\right]$ で上に凸なので、両端 $(0,\ 0)$、$\left(\dfrac\pi2,\ 1\right)$ を結ぶ線分 $y=\dfrac2\pi\theta$ より上にあることからわかる。(2) の 2 つの式は Wei26 にも載っており、同じ頁は、この曲線が角の等分と円積問題に使えることを述べている。

曲線の点

$a=1$ とする。thm-quad-eq (2) の式 $x=y\cot\dfrac{\pi y}2$ で点を求める。

  • $y=1$:$\cot\dfrac\pi2=0$ なので $(0,\ 1)$、つまり $Z$ である。
  • $y=\dfrac23$:向きは $\dfrac\pi3$($60^\circ$)で、$x=\dfrac23\cot\dfrac\pi3=\dfrac23\cdot\dfrac1{\sqrt3}=\dfrac{2\sqrt3}9\approx0.385$ である。
  • $y=\dfrac12$:向きは $\dfrac\pi4$ で、$x=\dfrac12$ である(ex-quad-start (1))。
  • $y=\dfrac13$:向きは $\dfrac\pi6$($30^\circ$)で、$x=\dfrac13\cot\dfrac\pi6=\dfrac{\sqrt3}3\approx0.577$ である。
    高さが $\dfrac23$ から $\dfrac13$ へ半分になると、向きも $60^\circ$ から $30^\circ$ へ半分になる。これが (1) の「角と高さが比例する」ことの例である。

角を任意の比に分ける

角と高さが比例するので、角を分ける問題が、線分を分ける問題に置きかわる。線分を $n$ 等分すること、さらに与えられた比に分けることは、平行線を引く方法で定規とコンパスでできる(定規とコンパスによる作図 の定理「四則と平方根の作図」の積と商の作図)。

角の任意の比の分割

def-quad の円積曲線が与えられているとする。$0<\alpha\le\dfrac\pi2$ の角 $\angle AOX=\alpha$ と正の数 $k$($0< k<1$)について、$k$ が定規とコンパスで作図できる数ならば、角 $k\alpha$ は定規とコンパスと円積曲線で作図できる。とくに $k=\dfrac13$ として、どの鋭角と直角も 3 等分できる。
手順は次のとおりである。
(R1) 半直線 $OA$ と円積曲線の交点 $P$ をとり、$P$ から $OX$ に垂線を下ろして、$P$ の高さ $h$ の線分を得る。
(R1) 高さ $h$ の線分を $k$ 倍した長さ $kh$ を作る。
(R1) 高さ $kh$ の水平な直線と円積曲線の交点 $Q$ をとる。このとき $\angle QOX=k\alpha$ である。

向きと高さの対応を 2 回使う

段 1。thm-quad-eq (3) により、向き $\alpha$ の半直線 $OA$ は曲線とただ 1 点 $P$ で交わり、その高さは $h=\dfrac{2a}\pi\alpha$ である。垂線を下ろす作図は定規とコンパスでできる。
段 2。$k$ が作図できる数なので、長さ $h$ の線分から長さ $kh$ の線分が定規とコンパスで作れる。$0< kh< h\le a$ である。
段 3。thm-quad-eq (3) により、高さ $kh$ の水平な直線は曲線とただ 1 点 $Q$ で交わり、その向きは
$$ \frac\pi{2a}\cdot kh=\frac\pi{2a}\cdot k\cdot\frac{2a}\pi\alpha=k\alpha $$
である。よって $\angle QOX=k\alpha$ である。$\square$

Nicomedesのコンコイド では、角を 3 等分するのに角ごとに別のコンコイド(基線の位置が角で変わる)を使った。円積曲線は 1 本で、$\dfrac\pi2$ 以下のすべての角を、作図できるすべての比に分けられる。

$60^\circ$ の 3 等分と $90^\circ$ の 5 等分

$a=1$ とする。
(1) $\alpha=60^\circ$、$k=\dfrac13$。向き $60^\circ$ の半直線と曲線の交点は、ex-quad-points の $P\left(\dfrac{2\sqrt3}9,\ \dfrac23\right)$ で、高さは $h=\dfrac23$ である。$kh=\dfrac29$ で、高さ $\dfrac29$ の点は
$$ Q=\left(\frac29\cot\frac{\pi}9,\ \frac29\right)\approx(0.6106,\ 0.2222) $$
である($\dfrac\pi2\cdot\dfrac29=\dfrac\pi9=20^\circ$)。向きは $\tan\angle QOX=\dfrac{2/9}{0.6106}\approx0.3640\approx\tan20^\circ$ で、$\angle QOX=20^\circ$ である。
(2) $\alpha=90^\circ$、$k=\dfrac15$。向き $90^\circ$ の点は $Z(0,\ 1)$ で、$h=1$ である。高さ $\dfrac15$ の点の向きは $\dfrac\pi2\cdot\dfrac15=\dfrac\pi{10}=\boxed{18^\circ}$ で、$90^\circ$ が 5 等分される。$18^\circ$ は定規とコンパスでも作図できる角(正五角形の作図から)なので、これは検算にもなっている。

a=1 の円積曲線で 60° を 3 等分する。向き 60° の点 P の高さ 2/3 を 3 等分し、高さ 2/9 の水平線と曲線の交点 Q を O と結ぶと 20° になる a=1 の円積曲線で 60° を 3 等分する。向き 60° の点 P の高さ 2/3 を 3 等分し、高さ 2/9 の水平線と曲線の交点 Q を O と結ぶと 20° になる

主定理:端の点は $\dfrac{2a}\pi$ に近づく

時刻 $1$ に近づくと、交点は正方形の下の辺 $OX$ に近づく。どこに近づくかを求める。

端の点の極限

def-quad の円積曲線の点 $\left(y\cot\dfrac{\pi y}{2a},\ y\right)$ について、$y\to+0$ のとき
$$ y\cot\frac{\pi y}{2a}\to\frac{2a}\pi $$
である。つまり、曲線の点は $y\to+0$ のとき点 $G\left(\dfrac{2a}\pi,\ 0\right)$ に限りなく近づく。$G$ 自身は曲線の上にない。

$\dfrac{\sin u}u\to1$ に帰着する

段 1(置きかえ)。$u=\dfrac{\pi y}{2a}$ とおくと $y=\dfrac{2a}\pi u$ で、$y\to+0$ のとき $u\to+0$ である。
$$ y\cot\frac{\pi y}{2a}=\frac{2a}\pi\,u\cdot\frac{\cos u}{\sin u}=\frac{2a}\pi\cdot\frac{u}{\sin u}\cdot\cos u $$
と書ける。
段 2(極限)。sin x/xの極限 の定理により $u\to0$ のとき $\dfrac{\sin u}u\to1$ なので、その逆数 $\dfrac u{\sin u}\to1$ である。また $\cos u\to\cos0=1$ である。積の極限は極限の積なので
$$ y\cot\frac{\pi y}{2a}\to\frac{2a}\pi\cdot1\cdot1=\frac{2a}\pi $$
である。
段 3($G$ は曲線の上にない)。曲線の点は $0< y\le a$ を満たし、$G$ の $y$ 座標は $0$ なので、$G$ は曲線の上にない。$\square$

端の点に近づく様子

$a=1$ とすると $\dfrac2\pi=0.636619\ldots$ である。$x=y\cot\dfrac{\pi y}2$ を計算すると、次のように $\dfrac2\pi$ に近づく。

  • $y=0.1$:$x=0.1\cot(0.05\pi)\approx0.1\times6.3138=0.63138$
  • $y=0.01$:$x\approx0.63657$
  • $y=0.001$:$x\approx0.636619$
    $y=0.1$ でも $\dfrac2\pi$ との差は $0.0052$ ほどで、曲線は $G$ に向かってなめらかに下りてくる。
    小数点以下をもっと開く

    $y=0.01$ では $x=0.6365674\ldots$、$y=0.001$ では $x=0.6366192\ldots$ で、$\dfrac2\pi=0.6366198\ldots$ との差は、それぞれ約 $5.2\times10^{-5}$、約 $5.2\times10^{-7}$ である。差はおよそ $y^2$ に比例して小さくなる。

a=1 の円積曲線(赤)は、y が 0 に近づくと白丸の点 G(2/π, 0) に近づく。G は曲線の上の点ではない a=1 の円積曲線(赤)は、y が 0 に近づくと白丸の点 G(2/π, 0) に近づく。G は曲線の上の点ではない

端の点から円積問題へ

$G$ が作図できたとすると、円積問題が解ける(Wei26 もこの曲線が円積問題に使えることを述べている)。

端の点を使った円積

1 辺 $a$ の正方形と、点 $G\left(\dfrac{2a}\pi,\ 0\right)$ が与えられているとする。このとき、定規とコンパスで次の順に作図でき、半径 $a$ の円と同じ面積の正方形が得られる。
(R1) 長さ $OG=\dfrac{2a}\pi$ と $a$ から、長さ $\dfrac{a^2}{OG}=\dfrac{\pi a}2$ の線分を作る。これは半径 $a$ の円周の $\dfrac14$ の長さである。
(R1) それを 2 倍して、長さ $\pi a$ の線分を作る。縦 $a$、横 $\pi a$ の長方形の面積は $\pi a^2$ で、半径 $a$ の円の面積に等しい。
(R1) 長さ $\sqrt{a\cdot\pi a}=a\sqrt\pi$ の線分を作り、それを 1 辺とする正方形をかく。

商と平方根の作図

段 1。定規とコンパスによる作図 の定理「四則と平方根の作図」により、作図できる長さの積・商・平方根は作図できる。$OG=\dfrac{2a}\pi$ と $a$ から、商 $\dfrac{a\cdot a}{OG}=\dfrac{a^2\pi}{2a}=\dfrac{\pi a}2$ が作れる。半径 $a$ の円周の長さは $2\pi a$ なので、これはその $\dfrac14$ である。
段 2。$\dfrac{\pi a}2$ を 2 倍すると $\pi a$ で、縦 $a$、横 $\pi a$ の長方形の面積は $\pi a^2$ である。
段 3。同じ定理により $a\cdot\pi a$ の平方根 $a\sqrt\pi$ が作れる。この長さを 1 辺とする正方形の面積は $\pi a^2$ で、半径 $a$ の円の面積に等しい。$\square$

$a=1$ なら、$\dfrac1{OG}=\dfrac\pi2=1.5708\ldots$、1 辺 $\sqrt\pi=1.7725\ldots$ の正方形ができる。

端の点は曲線から直接はとれない

cor-quad-square は「$G$ が与えられているとき」の主張である。thm-quad-limit のとおり、$G$ は曲線の上の点ではなく、曲線の点が限りなく近づく先の点である。def-quad で時刻 $1$ を除いたのは、2 つの線分が重なって交点が決まらないからで、曲線と直線の交点として $G$ をとることはできない。曲線を引く道具で $G$ まで含めて描けることにする(極限の点まで描くことを許す)なら円積問題が解けるが、それは極限をとる操作を 1 つ加えたことになる。
3大作図問題の不可能性 では、Lindemann の定理($0$ でない整数係数のどんな多項式に $\pi$ を代入しても $0$ にならない)を使って、定規とコンパスでは $\sqrt\pi$ が作図できないことを示した。円積曲線を使う作図はその定理の仮定(定規とコンパスだけ)を満たさないので、矛盾はない。

3 本の曲線の比較

作図の 3 大問題を解く曲線を並べる。

Nicomedes のコンコイドDiocles のシッソイドHippias の円積曲線
作り方直線に長さ $b$ をはさみ込む円と接線の間の線分を原点に移す回転と平行移動の 2 つの動き
式$(x-a)^2(x^2+y^2)=b^2x^2$$y^2(2a-x)=x^3$$x=y\cot\dfrac{\pi y}{2a}$
式の形$x$、$y$ の 4 次式$x$、$y$ の 3 次式三角関数を含む
解ける問題角の 3 等分立方体の倍積角の任意の比の分割、円積(端の点を使う)
曲線の本数角ごとに 1 本1 本で任意の立方根1 本ですべての鋭角

コンコイドとシッソイドは $x$、$y$ の多項式の式で書けて、交点を求めると 3 次方程式が出てくる。円積曲線は角と長さを比例させる曲線で、式に三角関数が入る。角を任意の比に分けられるのも、$\pi$ の関係する長さ $\dfrac{2a}\pi$ が現れるのも、角と長さの比例から来ている。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
2 つの動きがどちらも一定の速さ平行移動だけ $y=a(1-\tau)^2$ にする高さを 3 等分すると角が 3 等分される
時刻 $1$ を除く時刻 $1$ も定義に入れる曲線の各点が交点としてただ 1 つに決まる
端の点 $G$ そのものを使う曲線の点 $y=0.1$ で代用する正確な円積
反例:平行移動の速さを変える

$a=1$ とし、回転は def-quad のまま、水平な線分の高さだけを $y=(1-\tau)^2$ にする。時刻 $0$ と $1$ の位置は変わらないが、$\theta=\dfrac\pi2(1-\tau)$ から $1-\tau=\dfrac{2\theta}\pi$ で、$y=\left(\dfrac{2\theta}\pi\right)^2$ となり、高さは角の 2 乗に比例する。
$60^\circ$ の半直線との交点の高さは $\left(\dfrac23\right)^2=\dfrac49$ で、その $\dfrac13$ の高さ $\dfrac4{27}$ の点の向きは、$\dfrac{2\theta}\pi=\sqrt{\dfrac4{27}}=\dfrac2{3\sqrt3}$ から $\theta=\dfrac\pi2\cdot\dfrac2{3\sqrt3}=\dfrac{\pi}{3\sqrt3}\approx34.64^\circ$ である。$20^\circ$ にはならない。prf-quad-divide の段 3 の計算は、角と高さが比例することだけを使っていた。

反例:時刻 1 も入れる

def-quad で時刻 $1$ も入れると、その時刻の 2 本の線分はどちらも $OX$ で、共通部分は線分 $OX$ 全体になる。交点は 1 点に決まらず、「時刻 $\tau$ の交点」という定義が意味をもたない。$OX$ 全体を曲線に含めてしまうと、$OX$ の上のどの点も曲線の点になり、$G$ を選び出す手がかりがなくなる。$G$ は $OX$ の上の特別な 1 点で、thm-quad-limit の極限としてはじめて決まる。

反例:端の点を曲線の点で代用する

$a=1$ とし、$G$ の代わりに $y=0.1$ の曲線の点の $x$ 座標 $0.63138$ を使って cor-quad-square の手順を行うと、手順 (i) で $\dfrac1{0.63138}\approx1.58384$ となり、「円周率」として $2\times1.58384\approx3.16769$ が得られる。$\pi=3.14159\ldots$ との差は約 $0.026$ である。$y=0.01$ の点を使うと $3.14185$ となり差は約 $0.0003$ に縮むが、曲線の点を使う限り、正確な $\pi$ にはならない。$0< y<1$ の点では $u=\dfrac{\pi y}2$ が $0< u<\dfrac\pi2$ にあり、$\tan u>u$(sin x/xの極限 の補題「正弦・弧度・正接の大小」)から $x=\dfrac2\pi\cdot\dfrac u{\tan u}<\dfrac2\pi$ となるので、得られる値はいつも $\pi$ より大きい。

高さが角の 2 乗に比例するように動かした曲線(紫)では、60° の点の高さ 4/9 の 3 分の 1 の高さの点は約 34.6° の向きにあり、3 等分にならない。赤は円積曲線 高さが角の 2 乗に比例するように動かした曲線(紫)では、60° の点の高さ 4/9 の 3 分の 1 の高さの点は約 34.6° の向きにあり、3 等分にならない。赤は円積曲線

大学数学で見る:極限の点と超越数

thm-quad-limit のように、曲線の点が限りなく近づく点の全体を曲線に付け加えたものを、大学数学では曲線の 閉包 という。円積曲線の閉包は、曲線に 1 点 $G$ を加えたものである。この記事の円積の手順(cor-quad-square)は、この閉包の点を使っている。
$\pi$ が、$0$ でない整数係数のどんな多項式に代入しても $0$ にならない数(超越数)であることは、3大作図問題の不可能性 の定理「Lindemann の定理」として紹介した(証明は 超越数 の範囲で、この記事ではしない)。Nicomedesのコンコイド と Dioclesのシッソイド は $x$、$y$ の多項式の式で書けるので、交点の座標は方程式の根として求まり、3 次方程式を解くのに使えた。$\pi$ はそのような根にならないので、円積問題には、角と長さを比例させるような別の種類の曲線が使われる。

さらに先へ

  • 極方程式 $r=k\theta$ の曲線 Archimedesの螺旋 も、角と長さ(原点からの距離)を比例させた曲線で、同じように角を任意の比に分けられる。
  • 円周率を正多角形の周で挟む方法は 正多角形で円周率を挟む で扱う。円積曲線の端の点は、$\dfrac{2a}\pi$ を曲線の極限として与える、別の見方である。
  • 作図できる数の全体と、作図できない数の見分け方は 作図可能数 で扱う。

関連項目

参考文献

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