初期値への滑らかな依存性

同義語:初期値への微分可能な依存性初期値とパラメータへの依存性変分方程式smooth dependence on initial conditionsvariational equation

概要

初期値への滑らかな依存性(smooth dependence on initial conditions)とは、自励系 $x'=f(x)$ の右辺 $f$ が $C^k$ 級($1\le k\le\infty$)なら、初期値 $\xi$ の最大解 $\varphi(t,\xi)$ が定義される集合 $\Omega$ は開集合で、$\varphi$ は $(t,\xi)$ について $C^k$ 級であるという定理である。初期値についての微分 $D_\xi\varphi(t,\xi)$ は、変分方程式 $Y'=Df(\varphi(t,\xi))Y$、$Y(0)=I$ の解として計算できる。$C^1$ 級であることは Grönwall の不等式で示し、変分方程式を連立させた帰納法で $C^k$ 級に上げる。パラメータを含む方程式にも広がり、ベクトル場の流れが滑らかであることの根拠となる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 常微分方程式, Picard–Lindelöfの定理, 全微分, Lipschitz連続

常微分方程式 $x'=f(x)$ の解は初期値 $\xi$ を決めるとただ 1 つに決まる(Picard–Lindelöfの定理)。そこで解を初期値の関数とみて $\varphi(t,\xi)$ と書くと、「初期値を少し動かしたとき、解はどう動くか」という問いが立つ。初期値への滑らかな依存性(smooth dependence on initial conditions)とは、右辺 $f$ が $C^k$ 級なら、解 $\varphi(t,\xi)$ が時刻 $t$ と初期値 $\xi$ の組について $C^k$ 級であるという定理である。さらに、初期値についての微分 $D_\xi\varphi(t,\xi)$ は、解に沿って線形化した方程式(変分方程式)$Y'=Df(\varphi(t,\xi))\,Y$、$Y(0)=I$ の解として計算できる。この定理は、ベクトル場の流れが滑らかな写像であること、したがって流れの各時刻の写像が微分同相写像であることの根拠であり、パラメータを含む方程式にもそのまま広がる。

設定と主定理

$W\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon W\to\mathbb{R}^n$ を $C^k$ 級写像($1\le k\le\infty$)とし、自励系 $x'=f(x)$ を考える。$\mathbb{R}^n$ のベクトルの長さを $\lvert x\rvert$、行列 $B$ の大きさを作用素ノルム $\|B\|:=\sup_{\lvert u\rvert=1}\lvert Bu\rvert$ で測る。$f$ は $C^1$ 級なので局所 Lipschitz 条件をみたし、各 $\xi\in W$ について初期値問題 $x'=f(x)$、$x(0)=\xi$ の最大解がただ 1 つある(常微分方程式の記事の定理「最大解の存在と一意性」)。

解の写像と変分方程式

初期値問題 $x'=f(x)$、$x(0)=\xi$ の最大解を $t\mapsto\varphi(t,\xi)$、その最大存在区間($0$ を含む開区間)を $I_\xi$ とし、
$$ \Omega:=\{(t,\xi)\in\mathbb{R}\times W\mid t\in I_\xi\},\qquad\varphi\colon\Omega\to W $$
とおく。$\xi\in W$ について、$n$ 次正方行列値の未知関数 $Y(t)$ についての線形方程式
$$ Y'(t)=Df\bigl(\varphi(t,\xi)\bigr)\,Y(t),\qquad Y(0)=I\qquad(t\in I_\xi) $$
を、解 $\varphi(\cdot,\xi)$ に沿った変分方程式という。係数 $t\mapsto Df(\varphi(t,\xi))$ は $I_\xi$ 上連続なので、各列について線形方程式の解が $I_\xi$ 全体でただ 1 つ存在する(常微分方程式の記事の定理「線形方程式の解の大域存在と解空間」)。この解を $Y_\xi(t)$ と書く。

変分方程式は、次のように考えると自然に出てくる。$\varphi(t,\xi)$ が $\xi$ について微分でき、微分の順序を交換できるとすると、$\partial_t\varphi(t,\xi)=f(\varphi(t,\xi))$ を $\xi$ で微分して、連鎖律から $\partial_t D_\xi\varphi=Df(\varphi)\,D_\xi\varphi$ を得る。また $\varphi(0,\xi)=\xi$ から $D_\xi\varphi(0,\xi)=I$ である。主定理は、この形式的な計算が正しいことを保証する。

初期値への滑らかな依存性

$f\colon W\to\mathbb{R}^n$ を $C^k$ 級($1\le k\le\infty$)とする。
(R1) $\Omega$ は $\mathbb{R}\times W$ の開集合である。
(R2) $\varphi\colon\Omega\to W$ は $C^k$ 級である。
(R3) すべての $(t,\xi)\in\Omega$ で $\partial_t\varphi(t,\xi)=f(\varphi(t,\xi))$ かつ $D_\xi\varphi(t,\xi)=Y_\xi(t)$ である。

定理の読み方と仮定の役割
  1. は、初期値を少し動かしても、同じ時刻まで解が存在し続けることを意味する。(R2) は、$f$ の滑らかさが解の初期値への依存にそのまま引き継がれることを述べ、(R3) は、その微分が変分方程式の解として具体的に計算できることを述べる。$f$ が滑らかであるという仮定は、解の一意性のためにも必要である。たとえば連続なだけの $f(x)=\sqrt{|x|}$ では、初期値 $0$ から出る解が $x(t)=0$ と $x(t)=t^2/4$($t\ge0$)の 2 つあり、解の写像 $\varphi$ そのものが定まらない。

証明は 4 つの段で行う。(a) $\xi_0$ の近くの初期値について、共通の短い時間の解が存在し、初期値について Lipschitz 連続であること(lem-sd-local)。(b) 変分方程式を使って $C^1$ 級であることを示す(thm-sd-c1)。(c) 変分方程式を連立させた方程式に (b) を当てて、$k$ についての帰納法で $C^k$ 級にする(thm-sd-ck)。(d) 時間を細かく区切って合成し、$\Omega$ 全体へ広げる(prf-sd-main)。

局所の存在と Lipschitz 連続性

共通の時間と Lipschitz 連続性

$\xi_0\in W$ とし、$r>0$ を $\overline{B}_{2r}(\xi_0):=\{x\mid\lvert x-\xi_0\rvert\le2r\}\subset W$ となるようにとる。$M:=\max_{\overline{B}_{2r}(\xi_0)}\lvert f\rvert$、$L:=\max_{\overline{B}_{2r}(\xi_0)}\|Df\|$ とおき、$\varepsilon:=r/M$($M=0$ なら $\varepsilon:=1$)とする。$B:=\{\xi\mid\lvert\xi-\xi_0\rvert< r\}$ とおくと、次が成り立つ。
(R1) $[-\varepsilon,\varepsilon]\times B\subset\Omega$ であり、$\lvert t\rvert\le\varepsilon$、$\xi\in B$ なら $\varphi(t,\xi)\in\overline{B}_{2r}(\xi_0)$ である。
(R2) $\lvert\varphi(t,\xi)-\varphi(s,\eta)\rvert\le e^{L\varepsilon}\lvert\xi-\eta\rvert+M\lvert t-s\rvert$($\lvert t\rvert,\lvert s\rvert\le\varepsilon$、$\xi,\eta\in B$)。とくに $\varphi$ は $[-\varepsilon,\varepsilon]\times B$ の上で連続である。

$\overline{B}_{2r}(\xi_0)$ は凸なので、その 2 点 $x,y$ について $s\mapsto f(x+s(y-x))$ に微分積分学の基本定理と連鎖律を使うと $f(y)-f(x)=\int_0^1Df(x+s(y-x))(y-x)\,ds$ であり、$\lvert f(y)-f(x)\rvert\le L\lvert y-x\rvert$ である(ベクトル値の積分について $\lvert\int g\rvert\le\int\lvert g\rvert$)。すなわち $f$ はその上で Lipschitz 定数 $L$ の Lipschitz 写像である(Lipschitz連続の記事の命題「連続微分可能な写像の局所Lipschitz性」と同じ議論)。$\xi\in B$ なら $\overline{B}_r(\xi)\subset\overline{B}_{2r}(\xi_0)$ なので、Picard–Lindelöfの定理の記事の定理「Picard–Lindelöf の定理」を $V:=[-\varepsilon,\varepsilon]\times\overline{B}_r(\xi)$、$\delta:=r$ で使える。$V$ の上で $\lvert f\rvert\le M$ なので、保証される時間は $\min\{\varepsilon,r/M\}=\varepsilon$ 以上であり($M=0$ なら $\varepsilon$ そのもの)、$[-\varepsilon,\varepsilon]$ 上の解が $\overline{B}_r(\xi)$ の中に存在する。解は最大解の制限なので $[-\varepsilon,\varepsilon]\subset I_\xi$ であり、(i) が従う。
(ii):$\xi,\eta\in B$ とすると、$\varphi(\cdot,\xi)$ と $\varphi(\cdot,\eta)$ は $[-\varepsilon,\varepsilon]$ で $\overline{B}_{2r}(\xi_0)$ にとどまるので、$\lvert f(\varphi(t,\xi))-f(\varphi(t,\eta))\rvert\le L\lvert\varphi(t,\xi)-\varphi(t,\eta)\rvert$ である。開区間 $(-\varepsilon,\varepsilon)$ の上で常微分方程式の記事の定理「初期値への連続依存性」を使うと $\lvert\varphi(t,\xi)-\varphi(t,\eta)\rvert\le e^{L\lvert t\rvert}\lvert\xi-\eta\rvert$ であり、$t=\pm\varepsilon$ でも連続性から同じ不等式が成り立つ。また積分方程式から $\lvert\varphi(t,\eta)-\varphi(s,\eta)\rvert\le\bigl\lvert\int_s^t\lvert f(\varphi(u,\eta))\rvert\,du\bigr\rvert\le M\lvert t-s\rvert$ である。三角不等式で 2 つを合わせればよい。$\square$

$C^1$ 級であること

局所的な $C^1$ 級性

lem-sd-local の記号で、$\varphi$ は $(-\varepsilon,\varepsilon)\times B$ の上で $C^1$ 級であり、そこで $D_\xi\varphi(t,\xi)=Y_\xi(t)$、$\partial_t\varphi(t,\xi)=f(\varphi(t,\xi))$ である。

証明の鍵は、初期値を $h$ だけずらした解と、元の解に「変分方程式の解 $Y(t)h$」を足したものとの差 $\theta(t)$ が、線形の方程式に小さな誤差項を加えた式をみたすことである。Grönwall の不等式により、誤差項が $o(\lvert h\rvert)$ なら $\theta$ も $o(\lvert h\rvert)$ になる。

段 1(1 次の近似の誤差).$K:=\overline{B}_{2r}(\xi_0)$ とし、
$$ \omega(\rho):=\sup\bigl\{\|Df(u)-Df(v)\|\ \big|\ u,v\in K,\ \lvert u-v\rvert\le\rho\bigr\} $$
とおく。$Df$ はコンパクト集合 $K$ の上で一様連続なので、$\rho\to0$ で $\omega(\rho)\to0$ である。$x,y\in K$ なら、$K$ は凸なので $s\mapsto f(x+s(y-x))$ に微分積分学の基本定理を使って
$$ f(y)-f(x)=Df(x)(y-x)+R(y,x)(y-x),\qquad R(y,x):=\int_0^1\bigl(Df(x+s(y-x))-Df(x)\bigr)\,ds $$
と書け、$\|R(y,x)\|\le\omega(\lvert y-x\rvert)$ である。
段 2(微分可能性).$\xi\in B$ を固定し、$\lvert h\rvert$ を $\xi+h\in B$ となるほど小さくとる。$0\le t<\varepsilon$ とし、
$$ \theta(t):=\varphi(t,\xi+h)-\varphi(t,\xi)-Y_\xi(t)h $$
とおく。$\theta(0)=0$ であり、段 1 を $x=\varphi(t,\xi)$、$y=\varphi(t,\xi+h)$(どちらも $K$ の点)に使うと、$A(t):=Df(\varphi(t,\xi))$ として
$$ \theta'(t)=A(t)\,\theta(t)+R\bigl(\varphi(t,\xi+h),\varphi(t,\xi)\bigr)\bigl(\varphi(t,\xi+h)-\varphi(t,\xi)\bigr) $$
である。lem-sd-local (ii) から $\lvert\varphi(t,\xi+h)-\varphi(t,\xi)\rvert\le e^{L\varepsilon}\lvert h\rvert$ なので、第 2 項の大きさは $\beta(h):=\omega(e^{L\varepsilon}\lvert h\rvert)\,e^{L\varepsilon}\lvert h\rvert$ 以下である。$\|A(t)\|\le L$ なので、積分して
$$ \lvert\theta(t)\rvert\le\varepsilon\,\beta(h)+L\int_0^t\lvert\theta(s)\rvert\,ds $$
を得る。常微分方程式の記事の補題「Grönwall の不等式」により $\lvert\theta(t)\rvert\le\varepsilon\,\beta(h)\,e^{L\varepsilon}$ であり、右辺を $\lvert h\rvert$ で割ったものは $\varepsilon\,e^{2L\varepsilon}\,\omega(e^{L\varepsilon}\lvert h\rvert)\to0$($h\to0$)である。したがって $\xi\mapsto\varphi(t,\xi)$ は $\xi$ で微分可能で、$D_\xi\varphi(t,\xi)=Y_\xi(t)$ である。$-\varepsilon< t<0$ のときは、$\tilde f:=-f$ の解が $\varphi(-t,\xi)$ であり $\tilde f$ も同じ $M$、$L$、$\omega$ をもつので、同じ議論が使える。
段 3(導関数の連続性).$\xi,\eta\in B$、$0\le t<\varepsilon$ とする。$Y_\eta=I+\int_0^tA_\eta Y_\eta$($A_\eta(s):=Df(\varphi(s,\eta))$、$\|A_\eta\|\le L$)に Grönwall の不等式を使うと $\|Y_\eta(t)\|\le e^{L\varepsilon}$ である。次に
$$ Y_\xi(t)-Y_\eta(t)=\int_0^t\Bigl(A_\xi(s)\bigl(Y_\xi(s)-Y_\eta(s)\bigr)+\bigl(A_\xi(s)-A_\eta(s)\bigr)Y_\eta(s)\Bigr)\,ds $$
であり、$\|A_\xi(s)-A_\eta(s)\|\le\omega(e^{L\varepsilon}\lvert\xi-\eta\rvert)$ だから、Grönwall の不等式により
$$ \|Y_\xi(t)-Y_\eta(t)\|\le\varepsilon\,e^{2L\varepsilon}\,\omega\bigl(e^{L\varepsilon}\lvert\xi-\eta\rvert\bigr) $$
である($t<0$ も同様)。また $\|Y_\eta'(t)\|\le Le^{L\varepsilon}$ から $\|Y_\eta(t)-Y_\eta(s)\|\le Le^{L\varepsilon}\lvert t-s\rvert$ である。この 2 つを三角不等式で合わせると、$(t,\xi)\mapsto Y_\xi(t)$ は $(-\varepsilon,\varepsilon)\times B$ の上で連続である。
段 4(まとめ).$\partial_t\varphi(t,\xi)=f(\varphi(t,\xi))$ は解の定義そのものであり、lem-sd-local (ii) により $(t,\xi)$ について連続である。段 2・段 3 により $\xi$ についての偏導関数 $D_\xi\varphi=Y_\xi(t)$ も存在して連続である。偏導関数がすべて存在して連続な写像は $C^1$ 級である(Leb26 Proposition 8.4.6)。$\square$

$C^k$ 級への帰納法

変分方程式を元の方程式と連立させると、$(\varphi,D_\xi\varphi)$ が 1 つの自励系の解になる。この連立系の右辺は $f$ より 1 回だけ微分の回数が少ないので、$k$ についての帰納法が回る。

局所的な $C^k$ 級性

$f$ が $C^k$ 級($k$ は有限、$k\ge1$)なら、各 $\xi_0\in W$ に対して $\varepsilon>0$ と $\xi_0$ の開近傍 $B$ があって、$(-\varepsilon,\varepsilon)\times B\subset\Omega$ かつ $\varphi$ はそこで $C^k$ 級であり、$D_\xi\varphi(t,\xi)=Y_\xi(t)$ である。

「任意の次元 $m$、任意の開集合 $W'\subset\mathbb{R}^m$ と $C^k$ 級の $g\colon W'\to\mathbb{R}^m$ について主張が成り立つ」ことを $k$ についての帰納法で示す。$k=1$ は thm-sd-c1 である。
$k\ge2$ とし、$k-1$ で主張が成り立つとする。$n$ 次正方行列の全体 $M_n(\mathbb{R})$ を $\mathbb{R}^{n^2}$ と同一視し、開集合 $W\times M_n(\mathbb{R})$ の上の写像
$$ F(x,Y):=\bigl(f(x),\ Df(x)\,Y\bigr) $$
を考える。$Df$ は $C^{k-1}$ 級、$(B,Y)\mapsto BY$ は多項式なので、$F$ は $C^{k-1}$ 級である。$F$ の解の写像を $\Psi(t,(\xi,Y_0))$ と書く。
段 1(連立系の解).$\xi\in W$ について、$t\mapsto\bigl(\varphi(t,\xi),Y_\xi(t)\bigr)$($t\in I_\xi$)は、変分方程式の定義から、初期値 $(\xi,I)$ の $x'=f(x)$、$Y'=Df(x)Y$ の解である。$k-1\ge1$ なので $F$ は $C^1$ 級で局所 Lipschitz 条件をみたし、解は一意だから、$\Psi(t,(\xi,I))=\bigl(\varphi(t,\xi),Y_\xi(t)\bigr)$ が両辺の定義される範囲で成り立つ。
段 2($D_\xi\varphi$ の滑らかさ).帰納法の仮定を $F$ と点 $(\xi_0,I)$ に使うと、$\varepsilon'>0$ と $(\xi_0,I)$ の開近傍 $B'$ があって、$\Psi$ は $(-\varepsilon',\varepsilon')\times B'$ の上で $C^{k-1}$ 級である。$\xi\mapsto(\xi,I)$ は滑らかなので、$\varepsilon$ を $\varepsilon'$ 以下に、$B$ を $\{\xi\mid(\xi,I)\in B'\}$ との共通部分に小さくとり直すと、$(t,\xi)\mapsto Y_\xi(t)$ は $(-\varepsilon,\varepsilon)\times B$ の上で $C^{k-1}$ 級である(段 1 により $\Psi(t,(\xi,I))$ の第 2 成分)。thm-sd-c1 により、これが $D_\xi\varphi(t,\xi)$ である。
段 3(1 回ずつ上げる).$(-\varepsilon,\varepsilon)\times B$ の上で $\varphi$ が $C^j$ 級($1\le j\le k-1$)だとする。$\varphi$ の偏導関数は $\partial_t\varphi=f\circ\varphi$ と $D_\xi\varphi=Y_\xi(t)$ である。前者は $C^k$ 級の $f$ と $C^j$ 級の $\varphi$ の合成なので $C^j$ 級、後者は段 2 により $C^{k-1}$ 級、したがって $C^j$ 級である。1 階の偏導関数がすべて $C^j$ 級なので、$\varphi$ は $C^{j+1}$ 級である。thm-sd-c1 の $j=1$ から始めてこれを繰り返すと、$\varphi$ は $C^k$ 級である。$\square$

主定理の証明

局所的な結果を $\Omega$ 全体に広げるには、解の写像の「群の法則」を使う。

群の法則

$(t,\xi)\in\Omega$ とし、$\eta:=\varphi(t,\xi)$ とおく。このとき $I_\eta=I_\xi-t$ であり、$s\in I_\eta$ について $\varphi(s,\eta)=\varphi(s+t,\xi)$ である。

$s\mapsto\varphi(s+t,\xi)$($s\in I_\xi-t$)は、$f$ が時刻によらないので $x'=f(x)$ の解であり、$s=0$ で $\eta$ をとる。初期値 $\eta$ の任意の解は最大解の制限なので、$I_\xi-t\subset I_\eta$ かつ $\varphi(s,\eta)=\varphi(s+t,\xi)$ である。とくに $\varphi(-t,\eta)=\xi$ なので、$\eta$ と $\xi$ の役割を入れ替えた同じ議論から $I_\eta+t\subset I_\xi$ である。よって $I_\eta=I_\xi-t$ である。$\square$

主定理

まず $k$ を有限とする。$k=\infty$ のときは、すべての有限の $k$ について以下を当てはめれば、$\Omega$ は $k$ によらないので、$\varphi$ は $\Omega$ 上ですべての $k$ について $C^k$ 級、すなわち $C^\infty$ 級である。(i)(ii) を示す。$(t_0,\xi_0)\in\Omega$ とし、$t_0>0$ とする($t_0<0$ は同様、$t_0=0$ は thm-sd-ck そのもの)。
段 1(一様な短い時間).解の軌跡 $C:=\{\varphi(t,\xi_0)\mid0\le t\le t_0\}$ は連続写像によるコンパクト集合の像なのでコンパクトである。$C$ の各点 $c$ に thm-sd-ck の $\varepsilon_c$ と開近傍 $B_c$ をとり、有限個 $B_{c_1},\dots,B_{c_N}$ で $C$ を覆う。$\varepsilon:=\min_i\varepsilon_{c_i}$、$G:=\bigcup_iB_{c_i}$ とおくと、$(-\varepsilon,\varepsilon)\times G\subset\Omega$ で、$\varphi$ はそこで $C^k$ 級である。
段 2(小さな時間の合成).正の整数 $m$ を $\tau:=t_0/m<\varepsilon$ となるようにとり、$\psi:=\varphi(\tau,\cdot)\colon G\to W$($C^k$ 級)とおく。
$$ G_m:=\bigl\{\xi\in G\ \big|\ \psi(\xi),\ \psi^2(\xi),\ \dots,\ \psi^m(\xi)\text{ がすべて定義されて }G\text{ に属する}\bigr\} $$
は、連続写像による開集合の逆像を順にとったものなので開集合である。lem-sd-group を $j$ についての帰納法で使うと、$\xi\in G_m$ なら $j\tau\in I_\xi$ かつ $\varphi(j\tau,\xi)=\psi^j(\xi)$($0\le j\le m$)である。$\psi^j(\xi_0)=\varphi(j\tau,\xi_0)\in C\subset G$ なので $\xi_0\in G_m$ である。
段 3($t_0$ の近く).$\lvert t-t_0\rvert<\varepsilon$、$\xi\in G_m$ とする。$\psi^m(\xi)\in G$ なので $t-t_0\in(-\varepsilon,\varepsilon)\subset I_{\psi^m(\xi)}$ であり、lem-sd-group により $t\in I_\xi$ かつ
$$ \varphi(t,\xi)=\varphi\bigl(t-t_0,\ \psi^m(\xi)\bigr) $$
である。よって $(t_0-\varepsilon,t_0+\varepsilon)\times G_m\subset\Omega$ であり、その上で $\varphi$ は $C^k$ 級の写像 $(t,\xi)\mapsto(t-t_0,\psi^m(\xi))\in(-\varepsilon,\varepsilon)\times G$ と $\varphi$ の合成なので $C^k$ 級である。$(t_0,\xi_0)$ は任意だったので、$\Omega$ は開集合で $\varphi$ は $\Omega$ 上 $C^k$ 級である。
(iii):前半は解の定義である。後半を示す。$\xi\in W$ を固定し、$Z(t):=D_\xi\varphi(t,\xi)$($t\in I_\xi$)とおく。$t_1\in I_\xi$、$\eta_1:=\varphi(t_1,\xi)$ とすると、$\xi$ の近くの $\xi'$ と $t_1$ の近くの $t$ について lem-sd-group から $\varphi(t,\xi')=\varphi\bigl(t-t_1,\varphi(t_1,\xi')\bigr)$ であり、連鎖律から $Z(t)=D_\xi\varphi(t-t_1,\eta_1)\,Z(t_1)$ である。thm-sd-c1 により、$t$ が $t_1$ に近いとき $D_\xi\varphi(t-t_1,\eta_1)=Y_{\eta_1}(t-t_1)$ であり、これは $s=t-t_1$ について $Y'=Df(\varphi(s,\eta_1))\,Y$ をみたす。$\varphi(s,\eta_1)=\varphi(s+t_1,\xi)$ なので、$Z'(t)=Df(\varphi(t,\xi))\,Z(t)$ が $t_1$ の近くで成り立つ。$t_1$ は任意なので $Z$ は $I_\xi$ 全体で変分方程式をみたし、$Z(0)=I$ だから、線形方程式の解の一意性により $Z=Y_\xi$ である。$\square$

$f$ が $C^\infty$ 級なら $\varphi$ は $\Omega$ 上 $C^\infty$ 級である。これが、ベクトル場の流れの記事の定理「流れの基本定理」の証明で「初期値についての滑らかさ」として使われている事実である。

時刻に依存する方程式とパラメータ

主定理は、時刻 $t$ やパラメータ $\lambda$ を未知関数に加えることで、自励系でない方程式にもそのまま使える。

パラメータへの依存性

$U\subset\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^p$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^k$ 級とする。$(t_0,x_0,\lambda)\in U$ について、初期値問題 $x'=f(t,x,\lambda)$、$x(t_0)=x_0$ の最大解を $t\mapsto\phi(t;t_0,x_0,\lambda)$ とする。このとき $\phi$ の定義域 $\{(t,t_0,x_0,\lambda)\}$ は開集合であり、$\phi$ はそこで $(t,t_0,x_0,\lambda)$ について $C^k$ 級である。

$z=(s,x,\mu)\in U$ についての自励系 $z'=g(z)$、$g(s,x,\mu):=(1,f(s,x,\mu),0)$ を考える。$g$ は $C^k$ 級である。初期値 $z(0)=(t_0,x_0,\lambda)$ の最大解を $\Phi(\sigma,(t_0,x_0,\lambda))$ とする。$\sigma\mapsto\bigl(t_0+\sigma,\ \phi(t_0+\sigma;t_0,x_0,\lambda),\ \lambda\bigr)$ はこの自励系の解であり、逆に自励系の解の第 1 成分は $t_0+\sigma$、第 3 成分は $\lambda$ で一定なので、第 2 成分は $x'=f(t,x,\lambda)$ の解である。一意性により
$$ \phi(t;t_0,x_0,\lambda)=\operatorname{pr}_x\Phi\bigl(t-t_0,(t_0,x_0,\lambda)\bigr) $$
が両辺の定義域(一致する)で成り立つ。右辺は主定理により開集合の上の $C^k$ 級写像と $C^\infty$ 級写像 $(t,t_0,x_0,\lambda)\mapsto(t-t_0,(t_0,x_0,\lambda))$ の合成なので、主張が従う。$\square$

例

線形の方程式

$A$ を $n$ 次実正方行列、$f(x):=Ax$ とする。解は $\varphi(t,\xi)=e^{tA}\xi$ で $\Omega=\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n$ である(常微分方程式の記事の定理「定数係数の線形方程式の解」)。$Df=A$ は定数なので変分方程式は $Y'=AY$、$Y(0)=I$ であり、その解は $Y_\xi(t)=e^{tA}$ である。確かに $D_\xi\varphi(t,\xi)=e^{tA}$ で、主定理 (iii) と一致する。線形の方程式では、初期値の微小な変化は元の方程式と同じ方程式に従って運ばれる。

有限時間で発散する方程式

$n=1$、$f(x):=x^2$ とする。解は $\varphi(t,\xi)=\xi/(1-t\xi)$ であり($\xi=0$ では $0$)、
$$ \Omega=\{(t,\xi)\in\mathbb{R}^2\mid t\xi<1\} $$
である。$\xi>0$ なら $I_\xi=(-\infty,1/\xi)$、$\xi<0$ なら $I_\xi=(1/\xi,\infty)$、$\xi=0$ なら $I_\xi=\mathbb{R}$ であり、$\Omega$ は双曲線 $t\xi=1$ の枝ではさまれた開集合である(主定理 (i))。$\Omega$ は直積の形をしていない。たとえば $t=1$ では $\xi<1$ の初期値だけが時刻 $1$ まで生き延びる。
初期値についての微分は $\partial_\xi\varphi(t,\xi)=1/(1-t\xi)^2$ であり、これは変分方程式 $y'=2\varphi(t,\xi)\,y$、$y(0)=1$ の解になっている。

確かめと 2 階の導関数を開く

$y=(1-t\xi)^{-2}$ について $y'=2\xi(1-t\xi)^{-3}=2\cdot\frac{\xi}{1-t\xi}\cdot(1-t\xi)^{-2}=2\varphi y$ であり、$y(0)=1$ である。さらに変分方程式を $\xi$ で微分すると、2 階の導関数 $z:=\partial_\xi^2\varphi$ は $z'=2\varphi z+2y^2$、$z(0)=0$ をみたすはずであり、実際 $z=2t/(1-t\xi)^3$ について $z'=2(1-t\xi)^{-3}+6t\xi(1-t\xi)^{-4}$、$2\varphi z+2y^2=4t\xi(1-t\xi)^{-4}+2(1-t\xi)^{-4}$ で、両者は $(1-t\xi)^{-4}$ を掛けるとどちらも $2+4t\xi$ になる。

2 階以上の導関数は、変分方程式を繰り返し微分して得られる線形の方程式(高階の変分方程式)の解になる(この記事では証明しない。Tes12 Theorem 2.10)。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$f$ が $C^1$ 級(Lipschitz 連続だけにする)$x'=\lvert x\rvert$$\varphi(t,\cdot)$ が $\xi=0$ で微分可能
$f$ が $C^2$ 級($C^1$ 級だけにする)$x'=x\lvert x\rvert$$\varphi(t,\cdot)$ が $C^2$ 級
$f$ の Lipschitz 条件(連続だけにする)$x'=3x^{2/3}$$\varphi$ が写像として定まる
時刻を最大存在区間の中に限る$x'=x^2$、時刻 $t=1$$\varphi(1,\cdot)$ が $W$ 全体で定義される
反例の確かめ

1 行目:$f(x)=\lvert x\rvert$ は Lipschitz 定数 $1$ の Lipschitz 写像だが、$0$ で微分可能でない(満たさない性質:$C^1$ 級)。解は $\xi\ge0$ で $\varphi(t,\xi)=\xi e^t$、$\xi<0$ で $\varphi(t,\xi)=\xi e^{-t}$ である(それぞれ $x'=x$、$x'=-x$ の解で、符号を保つ)。よって $\xi=0$ での右微分係数は $e^t$、左微分係数は $e^{-t}$ であり、$t\ne0$ では一致しない。解の一意性と連続依存性(lem-sd-local の評価)は保たれるが、微分可能性が崩れる。破れる含意は「$f$ が Lipschitz 連続なら $\varphi$ は初期値について微分可能である」である。
2 行目:$f(x)=x\lvert x\rvert$ は $f'(x)=2\lvert x\rvert$ なので $C^1$ 級だが、$f'$ が $0$ で微分可能でないので $C^2$ 級でない(満たさない性質)。$\xi>0$ では $x'=x^2$、$\xi<0$ では $x'=-x^2$ を解いて、$\varphi(t,\xi)=\xi/(1-t\lvert\xi\rvert)$ を得る。$\xi\ne0$ で
$$ \partial_\xi\varphi(t,\xi)=\frac{1}{(1-t\lvert\xi\rvert)^2},\qquad\partial_\xi^2\varphi(t,\xi)=\frac{2t\operatorname{sgn}\xi}{(1-t\lvert\xi\rvert)^3} $$
であり、$\partial_\xi\varphi(t,\cdot)$ は $\xi=0$ でも連続(値 $1$)なので $\varphi$ は $C^1$ 級だが(主定理の $k=1$)、$\partial_\xi\varphi(t,\cdot)$ の $\xi=0$ での右微分係数は $2t$、左微分係数は $-2t$ で、$t\ne0$ では $\varphi(t,\cdot)$ は 2 回微分可能でない。したがって主定理の「$f$ が $C^k$ 級なら $\varphi$ も $C^k$ 級」の $k$ は、一般には上げられない。
3 行目と 4 行目:前者では $\varphi$ そのものが定まらず、後者では時刻を固定した写像が $W$ 全体では定義されない。

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3 行目:$f(x)=3x^{2/3}$ は連続だが $0$ の近くで Lipschitz 条件をみたさず、初期値 $0$ の解が $0$ と $t^3$ など無数にある(常微分方程式の記事の例「反例:一意性が崩れる」)。したがって「初期値 $0$ の解」$\varphi(t,0)$ が 1 つに決まらず、写像 $\varphi$ が定義できない(満たさない性質)。破れる含意は「$f$ が連続なら解の写像 $\varphi$ が定まる」である。

4 行目:ex-sd-square のとおり、$(1,\xi)\in\Omega$ となるのは $\xi<1$ のときだけである。$f$ は $\mathbb{R}$ 全体で $C^\infty$ 級だが、時刻を固定した $\varphi(1,\cdot)$ は $W=\mathbb{R}$ 全体では定義されない(満たさない性質)。破れる含意は「$f$ が $W$ 全体で滑らかなら $\varphi(t,\cdot)$ は $W$ 全体で定義される」である。主定理が述べるのは開集合 $\Omega$ の上での滑らかさであり、定義から、$\Omega=\mathbb{R}\times W$ となるのはすべての解が大域解であるときである。

補足

  • 主定理は、$\varphi(t,\cdot)$ が開集合 $\{\xi\mid(t,\xi)\in\Omega\}$ から $\{\eta\mid(-t,\eta)\in\Omega\}$ への $C^k$ 級の微分同相写像で、逆写像が $\varphi(-t,\cdot)$ であることを含む(lem-sd-group と (ii) による)。多様体の上では、これがベクトル場の流れの記事の定理「流れの基本定理」の (iii) になる。
  • 証明の段 2 の Grönwall による評価は、Tes12 Theorem 2.10(p. 46)の証明と同じ方針である。$C^k$ 級への帰納法をこの記事では連立系 $F(x,Y)=(f(x),Df(x)Y)$ で行った。パラメータを含む形は同書 Theorem 2.11、流れの定義域が開集合であることは同書 Theorem 6.1 にある。

関連項目

参考文献

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