有理標準形

同義語:Frobenius標準形rational canonical formFrobenius normal form

概要

有理標準形(rational canonical form)とは、体 $K$ 上の正方行列を相似変換で移した先として、モニックな多項式 $a_1\mid a_2\mid\cdots\mid a_m$ の同伴行列を対角に並べた区分対角行列 $C(a_1)\oplus\cdots\oplus C(a_m)$ のことである。どの行列にもただ 1 つの有理標準形があり、$a_i$(不変因子)は特性行列 $xI-A$ の Smith 標準形の単元でない対角成分に一致する。不変因子の積が固有多項式、最後の不変因子が最小多項式で、2 つの行列が相似であることは不変因子が一致することと同値である。Jordan 標準形と違って体を広げずに作れるので、係数の体を広げても相似かどうかは変わらない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 行列の相似, Smith標準形, 単項イデアル整域, 最小多項式(線形代数)

正方行列を相似変換でできるだけ簡単な形にする問題では、Jordan標準形がよく知られている。しかし Jordan 標準形は、固有多項式が係数の体 $K$ の上で 1 次式の積に分解するときにしか使えない。$\mathbb{R}$ の上の $90^\circ$ 回転のように固有値が $K$ にない行列では、体を広げなければ Jordan 標準形は作れない。
有理標準形(rational canonical form)は、体を広げずに、四則演算だけで作れる標準形である。どの正方行列も、同伴行列と呼ばれる特別な形の行列を対角に並べた行列に相似であり、並べる多項式に「順に割り切り合う」という条件を付ければ、その並び方はただ 1 通りに決まる。この多項式の列を不変因子という。2 つの行列が相似かどうかは、不変因子が一致するかどうかで判定できる。
この記事では、行列 $A$ の特性行列 $xI-A$ を多項式環 $K[x]$ の上の行列と見て、その Smith標準形 から有理標準形を作り、存在と一意性を証明する。そこから、相似の判定、固有多項式と最小多項式の読み取り、係数の体を広げても相似かどうかが変わらないこと、巡回ベクトルの存在の判定を導く。最後に、不変因子を素因数に分けた形と Jordan 標準形との関係を述べる。

定義

この記事では、$K$ は体、$M_n(K)$ は $K$ の元を成分とする $n$ 次正方行列の全体とする。最高次の係数が $1$ の多項式を モニック という。$A\in M_n(K)$ の固有多項式を $\chi_A(x)=\det(xI-A)$、最小多項式を $\mu_A(x)$ と書く。正方行列 $A_1,\dots,A_m$ を対角に並べた区分対角行列を $A_1\oplus\cdots\oplus A_m$ と書く。

同伴行列

$f(x)=x^d+c_{d-1}x^{d-1}+\cdots+c_1x+c_0\in K[x]$($d\ge1$)をモニックな多項式とする。$d$ 次正方行列
$$ C(f)=\begin{pmatrix} 0&0&\cdots&0&-c_0\\ 1&0&\cdots&0&-c_1\\ 0&1&\cdots&0&-c_2\\ \vdots&&\ddots&&\vdots\\ 0&0&\cdots&1&-c_{d-1} \end{pmatrix} $$
を $f$ の 同伴行列(companion matrix)という。すなわち、すぐ下の斜めの列に $1$ を並べ、最後の列に $-c_0,\dots,-c_{d-1}$ を並べ、ほかの成分を $0$ とした行列である。

標準基底 $e_1,\dots,e_d$ で書くと、$C(f)e_k=e_{k+1}$($k< d$)、$C(f)e_d=-\sum_{k=0}^{d-1}c_ke_{k+1}$ である。したがって $e_1,C(f)e_1,\dots,C(f)^{d-1}e_1$ は $e_1,\dots,e_d$ そのものであり、$f(C(f))e_1=0$ が成り立つ。

有理標準形と不変因子

モニックで次数 $1$ 以上の多項式 $a_1,\dots,a_m\in K[x]$ が
$$ a_1\mid a_2\mid\cdots\mid a_m $$
を満たすとき、区分対角行列 $C(a_1)\oplus C(a_2)\oplus\cdots\oplus C(a_m)$ を 有理標準形 という。$A\in M_n(K)$ と相似な有理標準形を $A$ の有理標準形といい、そのときの $a_1,\dots,a_m$ を $A$ の 不変因子 という。

$A$ の有理標準形はつねに存在してただ 1 つであり(thm-rcf-existence、thm-rcf-uniqueness)、不変因子は $xI-A$ の Smith 標準形の単元でない対角成分と一致する。したがってこの定義は、Smith標準形 の記事の節「行列の相似」で述べた不変因子と同じものを与える。

直感

$A\in M_n(K)$ があると、$K^n$ は多項式を作用させて $p\cdot v:=p(A)v$ とすることで $K[x]$ 上の加群になる。これを $V_A$ と書く。$x$ の作用が $A$ を掛けることであり、$A$ の不変部分空間とは $V_A$ の部分加群のことである。$B=P^{-1}AP$ なら $v\mapsto P^{-1}v$ が $V_A\to V_B$ の加群の同型を与えるので、相似な行列の分類は $K[x]$ 加群の分類と同じ問題になる。
$K[x]$ は 単項イデアル整域 なので、有限生成の $K[x]$ 加群は $K[x]/(a)$ の形の巡回加群の直和に分かれる。$V_A$ は $K$ 上有限次元なので自由な部分を含まず、$V_A\cong K[x]/(a_1)\oplus\cdots\oplus K[x]/(a_m)$ となる。$K[x]/(a)$ の中で $x$ を掛ける写像を基底 $1,x,\dots,x^{d-1}$($d=\deg a$)で表すと、$x^k\mapsto x^{k+1}$($k< d-1$)、$x^{d-1}\mapsto x^d\equiv-\sum_kc_kx^k$ となり、これが同伴行列 $C(a)$ である。有理標準形とは、この直和分解をそのまま行列に書いたものである。
この見方では、特性行列 $xI-A$ は $V_A$ の「関係式の行列」になる(lem-rcf-presentation)。Smith 標準形は関係式の行列を対角にする操作なので、Smith 標準形を計算すれば直和分解が読み取れる。

例

2 次の行列と回転
  1. スカラー行列 $cI_2$ では、$\mu=x-c$ で、不変因子は $x-c,\ x-c$、有理標準形は $C(x-c)\oplus C(x-c)=cI_2$ そのものである。
  2. スカラー行列でない $A\in M_2(K)$ では、$v$ と $Av$ が線形独立になる $v$ がある($0$ でないすべての $v$ が固有ベクトルなら、$e_1,e_2,e_1+e_2$ の固有値を比べて $A$ はスカラー行列になる)。基底 $v,Av$ で表すと、行列の相似 の例「2 次の行列の同伴行列」と同じ計算で $A$ は $C(\chi_A)$ に相似である。不変因子は $\chi_A$ ただ 1 つである。
  3. $\mathbb{R}$ の上の $90^\circ$ 回転 $R=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ は $C(x^2+1)$ そのものであり、すでに有理標準形である。$R$ は実数の固有値をもたないので、$\mathbb{R}$ の上の Jordan 行列とは相似でない。
最小多項式と固有多項式から読む
  1. $A=\begin{pmatrix}2&1&0\\0&2&0\\0&0&2\end{pmatrix}$ とする。Smith標準形 の例「多項式行列 $xI-A$」で計算したとおり、$xI-A$ の Smith 標準形は $\operatorname{diag}(1,\ x-2,\ (x-2)^2)$ である。よって不変因子は $x-2,\ (x-2)^2$ で、$(x-2)^2=x^2-4x+4$ だから有理標準形は
    $$ C(x-2)\oplus C\bigl((x-2)^2\bigr)=\begin{pmatrix}2&0&0\\0&0&-4\\0&1&4\end{pmatrix} $$
    である。
  2. $A=\begin{pmatrix}1&1&0\\0&1&0\\0&0&2\end{pmatrix}$($K=\mathbb{Q}$)では、$\chi_A=(x-1)^2(x-2)$ である。$\mu_A$ は $\chi_A$ を割り切り、$1$ と $2$ を根にもつ(最小多項式(線形代数) の命題「固有値は最小多項式の根」)ので $(x-1)(x-2)$ か $\chi_A$ であり、$(A-I)(A-2I)$ の $(1,2)$ 成分は $-1\neq0$ だから $\mu_A=\chi_A$ である。cor-rcf-char-min により不変因子の積は $\chi_A$、最後の不変因子は $\mu_A$ なので、不変因子は $\chi_A=x^3-4x^2+5x-2$ ただ 1 つであり、有理標準形は
    $$ C(\chi_A)=\begin{pmatrix}0&0&2\\1&0&-5\\0&1&4\end{pmatrix} $$
    である。

特性行列と同伴行列

存在と一意性の証明は、2 つの補題に分かれる。1 つ目は、特性行列 $xI-A$ が加群 $V_A$ の関係式を与えること、2 つ目は、同伴行列の特性行列の Smith 標準形が計算できることである。以下、$K[x]^n$ の元を多項式を成分とする縦ベクトルと見て、$K^n\subset K[x]^n$ を定数のベクトルの全体とする。

特性行列による表示

$A=(a_{ij})\in M_n(K)$ とし、$K[x]$ 線形写像 $\varphi\colon K[x]^n\to V_A$ を
$$ \varphi\Bigl(\sum_{j=1}^np_j(x)e_j\Bigr)=\sum_{j=1}^np_j(A)e_j $$
で定める。$\varphi$ は全射で、その核は $N:=(xI-A)K[x]^n$ である。したがって $K[x]$ 加群として $K[x]^n/(xI-A)K[x]^n\cong V_A$ である。

定数のベクトルまで割り算する

$\varphi(e_j)=e_j$ なので $\varphi$ は全射である。$(xI-A)e_j=xe_j-\sum_ia_{ij}e_i$ について $\varphi((xI-A)e_j)=Ae_j-\sum_ia_{ij}e_i=0$ であり、$N$ はこれらで生成されるので $N\subset\ker\varphi$ である。
逆を示す。上の式から $xe_j\equiv\sum_ia_{ij}e_i\pmod N$ なので、$x\cdot K^n\subset K^n+N$ である。$xN\subset N$ と合わせると、$K^n+N$ は $x$ を掛けても閉じた部分加群であり、$e_1,\dots,e_n$ を含むので $K[x]^n$ 全体に等しい。$u\in\ker\varphi$ を $u=c+w$($c\in K^n$、$w\in N$)と書くと、$0=\varphi(u)=\varphi(c)=c$ だから $u=w\in N$ である。$\square$

同伴行列の特性行列

モニックな $f\in K[x]$($\deg f=d\ge1$)について、$xI-C(f)$ は $K[x]$ の上で $\operatorname{diag}(1,\dots,1,f)$ と同値である。とくに $\chi_{C(f)}=f$ である。

小行列式を 2 つ計算する

$f=x^d+\sum_{k< d}c_kx^k$ とする。$T:=xI-C(f)$ は、対角成分が $x$、すぐ下の斜めの成分が $-1$、最後の列が $(c_0,c_1,\dots,c_{d-2},x+c_{d-1})^{\top}$ の行列である。
第 1 行と第 $d$ 列を除いた $d-1$ 次の小行列は、対角成分が $-1$ の上三角行列なので、その行列式は $(-1)^{d-1}$ で単元である。よって $I_{d-1}(T)=(1)$ である($d=1$ でも $I_0(T)=K[x]$ なので同じ)。
$\det T$ を最後の列で展開する。第 $i$ 行・第 $d$ 列を除いた小行列は、左上の $i-1$ 次の部分が対角成分 $x$ の下三角行列、右下の $d-i$ 次の部分が対角成分 $-1$ の上三角行列で、第 $1,\dots,i-1$ 行は左上の部分の列にしか $0$ でない成分をもたない。よってその行列式は $x^{i-1}(-1)^{d-i}$ で、符号 $(-1)^{i+d}$ と合わせて第 $i$ 項は $c_{i-1}x^{i-1}$($i=d$ では $(x+c_{d-1})x^{d-1}$)である。和をとると $\det T=f$ である。
$T$ の Smith 標準形を $\operatorname{diag}(s_1,\dots,s_d)$ とすると、Smith標準形 の定理「Smith標準形の一意性と行列式因子」の 1 により $(s_1\cdots s_{d-1})=I_{d-1}(T)=(1)$、$(s_1\cdots s_d)=I_d(T)=(f)$ である。よって $s_1,\dots,s_{d-1}$ は単元で、$s_d$ は $f$ の単元倍であり、Smith 標準形は単元倍を除いて $\operatorname{diag}(1,\dots,1,f)$ である。$\square$

存在と一意性

有理標準形の存在

任意の $A\in M_n(K)$ について、モニックで次数 $1$ 以上の $a_1\mid a_2\mid\cdots\mid a_m$ と $P\in\mathrm{GL}_n(K)$ があって
$$ P^{-1}AP=C(a_1)\oplus\cdots\oplus C(a_m) $$
となる。$a_1,\dots,a_m$ は $xI-A$ の Smith 標準形の単元でない対角成分をモニックにしたものにとれる。

Smith 標準形から直和分解を読む

Smith標準形 の定理「Smith標準形の存在」により、$U,V\in\mathrm{GL}_n(K[x])$ で $U(xI-A)V=\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_n)$、$d_1\mid\cdots\mid d_r$ となるものがある。$\det U\det V$ は単元で $\det(xI-A)=\chi_A\neq0$ なので、$d_1\cdots d_r$ は $0$ でなく $r=n$ である。$K[x]$ の単元は $0$ でない定数なので、行に定数を掛けて各 $d_i$ をモニックにできる。単元は整除の列の先頭に集まるので、$d_1=\cdots=d_{n-m}=1$ で、残りを $a_1,\dots,a_m$(次数 $1$ 以上)とおく。
lem-rcf-presentation と Smith標準形 の命題「Smith 標準形による余核の分解」から、$K[x]$ 加群の同型
$$ \psi\colon V_A\xrightarrow{\ \sim\ }K[x]/(a_1)\oplus\cdots\oplus K[x]/(a_m) $$
を得る($K[x]/(1)=0$ の項は消える)。$K[x]/(a_i)$ では、割り算の余りを考えると $1,x,\dots,x^{\deg a_i-1}$ の類が $K$ 上の基底をなし、$x$ を掛ける写像のこの基底での表現行列は $C(a_i)$ である(def-rcf-companion の直後の式)。これらの基底を並べたものを $\psi^{-1}$ で $K^n$ に移した基底を $p_1,\dots,p_n$ とし、これを列に並べた行列を $P$ とする。$\psi$ は $K$ 線形で $x$ の作用と可換なので、$A\psi^{-1}(u)=\psi^{-1}(xu)$ であり、$A$ の基底 $p_1,\dots,p_n$ での表現行列は $C(a_1)\oplus\cdots\oplus C(a_m)$、すなわち $P^{-1}AP$ に等しい。$\square$

一意性は、有理標準形の特性行列の Smith 標準形を直接計算して示す。

有理標準形の一意性

$A\in M_n(K)$ が有理標準形 $C(b_1)\oplus\cdots\oplus C(b_l)$ と相似なら、$b_1,\dots,b_l$ は $xI-A$ の Smith 標準形の単元でない対角成分をモニックにしたものに一致する。とくに $A$ の有理標準形はただ 1 つであり、不変因子は $A$ だけで決まる。

有理標準形の特性行列を対角にする

$R:=C(b_1)\oplus\cdots\oplus C(b_l)$ とおく。$xI-R=\bigoplus_j(xI-C(b_j))$ であり、lem-rcf-companion-smith による各ブロックの同値変換 $U_j(xI-C(b_j))V_j=\operatorname{diag}(1,\dots,1,b_j)$ を区分対角に並べると、$xI-R$ は $\bigoplus_j\operatorname{diag}(1,\dots,1,b_j)$ と同値になる。行と列を同じ置換で並べ替える(置換行列は可逆)と、これは
$$ \operatorname{diag}(\underbrace{1,\dots,1}_{n-l},\ b_1,\dots,b_l) $$
と同値であり、$1\mid\cdots\mid1\mid b_1\mid\cdots\mid b_l$ なのでこれは $xI-R$ の Smith 標準形である。
$A$ と $R$ は相似なので、Smith標準形 の命題「相似な行列の特性行列」により $xI-A$ と $xI-R$ は同値であり、上の対角行列は $xI-A$ の Smith 標準形でもある。同じ記事の定理「Smith標準形の一意性と行列式因子」の 3 により、$xI-A$ のどの Smith 標準形も、対角成分が上のものの単元倍である。単元でない成分の個数は $l$ で、モニックにすれば $b_1,\dots,b_l$ に戻る。よって $b_1,\dots,b_l$ は $A$ から決まる。$\square$

一意性の証明は、Smith標準形 の記事で証明せずに述べた「$xI-A$ の Smith 標準形の単元でない対角成分は $A$ の不変因子に一致する」ことの証明にもなっている。

不変因子で読めること

相似の判定

$A,B\in M_n(K)$ について、次は同値である。

  1. $A$ と $B$ は相似である。
  2. $A$ と $B$ の不変因子(有理標準形)が一致する。
  3. $xI-A$ と $xI-B$ は $K[x]$ の上で同値である。

1 ⇒ 3 は Smith標準形 の命題「相似な行列の特性行列」である。3 ⇒ 2:同値な行列の Smith 標準形は単元倍を除いて一致するので、thm-rcf-uniqueness により不変因子が一致する。2 ⇒ 1:$A$ と $B$ はどちらも同じ有理標準形に相似であり、相似は同値関係である。$\square$

固有多項式と最小多項式

$A$ の不変因子を $a_1\mid\cdots\mid a_m$ とすると、$\chi_A=a_1a_2\cdots a_m$、$\mu_A=a_m$ である。

相似な行列の固有多項式と最小多項式は等しいので、$A=C(a_1)\oplus\cdots\oplus C(a_m)$ としてよい。lem-rcf-companion-smith により $\chi_{C(a_i)}=a_i$ で、区分対角行列の固有多項式は積なので $\chi_A=\prod_ia_i$ である。$C(a)$ の最小多項式は $a$ である。実際 $a(C(a))e_1=0$ で、$e_k=C(a)^{k-1}e_1$ について $a(C(a))e_k=C(a)^{k-1}a(C(a))e_1=0$ なので $a(C(a))=O$ であり、次数 $\deg a$ 未満の $0$ でない $p$ では $p(C(a))e_1$ が $e_1,\dots,e_{\deg a}$ の自明でない線形結合になって $0$ でない。最小多項式(線形代数) の命題「区分対角行列の最小多項式」により $\mu_A=\operatorname{lcm}(a_1,\dots,a_m)=a_m$ である。$\square$

とくに $\mu_A\mid\chi_A$(Cayley–Hamiltonの定理)と、$\chi_A$ の既約因子がすべて $\mu_A$ の因子であることが、この系から読み取れる。

係数の体を広げても変わらない

$L$ を $K$ を部分体として含む体とし、$A,B\in M_n(K)$ とする。

  1. $A$ を $M_n(L)$ の元と見たときの有理標準形は、$K$ の上での有理標準形と同じ行列である。
  2. $A$ と $B$ が $L$ の上で相似なら、$K$ の上でも相似である。

1:$K$ の上の有理標準形 $R=P^{-1}AP$($P\in\mathrm{GL}_n(K)$)は、$L$ の上でも有理標準形の条件を満たし(モニック性と整除関係は $K[x]\subset L[x]$ で保たれる)、$P\in\mathrm{GL}_n(L)$ なので、$L$ の上の一意性(thm-rcf-uniqueness)により $L$ の上の有理標準形でもある。2:$L$ の上で相似なら $L$ の上の有理標準形が一致し、1 により $K$ の上の有理標準形が一致するので、cor-rcf-similarity により $K$ の上で相似である。$\square$

行列の相似 の定理「体の拡大と相似」は $K$ が無限体の場合に別の方法で同じ結論を示している。cor-rcf-field は有限体でも成り立つ。

巡回ベクトルをもつ行列

$A\in M_n(K)$ について、次は同値である。

  1. $v,Av,\dots,A^{n-1}v$ が $K^n$ の基底になる $v$(巡回ベクトル)がある。
  2. 不変因子はただ 1 つ($m=1$)である。すなわち $A$ は $C(\chi_A)$ に相似である。
  3. $\mu_A=\chi_A$ である。

2 ⇔ 3:cor-rcf-char-min により $\chi_A=a_1\cdots a_m$、$\mu_A=a_m$ で、$a_1,\dots,a_{m-1}$ は次数 $1$ 以上だから、$\chi_A=\mu_A$ は $m=1$ と同値である。2 ⇒ 1:$C(\chi_A)$ では $e_1$ が巡回ベクトルであり、相似で移したベクトルは $A$ の巡回ベクトルである。1 ⇒ 3:$v,Av,\dots,A^{n-1}v$ が線形独立なので、次数 $n$ 未満の $0$ でない $p$ について $p(A)v\neq0$ である。よって $\deg\mu_A\ge n$ で、$\mu_A\mid\chi_A$ と $\deg\chi_A=n$ から $\mu_A=\chi_A$ である。$\square$

素因数に分けた形と Jordan 標準形

不変因子をさらに既約多項式の冪に分けると、より細かい標準形が得られる。$a_i=\prod_jp_j^{e_{ij}}$($p_j$ は相異なるモニックな既約多項式)と分解したとき、$e_{ij}\ge1$ となる $p_j^{e_{ij}}$ の全体(重複を込める)を $A$ の 初等因子(elementary divisor)という。

初等因子による標準形

$A\in M_n(K)$ は、初等因子 $q_1,\dots,q_s$(既約多項式の冪)の同伴行列の区分対角行列 $C(q_1)\oplus\cdots\oplus C(q_s)$ に相似である。$p=x-\lambda$ のとき、$C((x-\lambda)^e)$ は Jordan 細胞 $J_e(\lambda)$ に相似である。したがって $\chi_A$ が $K$ の上で 1 次式の積に分解するなら、$A$ は Jordan 行列に相似である。

中国式剰余定理と小行列式

互いに素なモニックな $g,h$ について、$K[x]/(gh)\cong K[x]/(g)\oplus K[x]/(h)$($K[x]$ 加群として)である。$ug+vh=1$ となる $u,v$ をとれば、$p\mapsto(p\bmod g,\ p\bmod h)$ は核が $(g)\cap(h)=(gh)$ で、$(r,s)$ の逆像として $rvh+sug$ がとれるので全射だからである。これを thm-rcf-existence の証明の同型 $\psi$ の各成分に繰り返し使うと、$V_A\cong\bigoplus_kK[x]/(q_k)$ を得る。同じ証明のとおり基底を移せば、$A$ は $\bigoplus_kC(q_k)$ に相似である。

Jordan 細胞との相似

$J=J_e(\lambda)$ は対角成分が $\lambda$、すぐ上の斜めの成分が $1$ の $e$ 次正方行列である。$xI-J$ の第 $e$ 行と第 $1$ 列を除いた小行列は、対角成分が $-1$ の下三角行列なので行列式は $(-1)^{e-1}$、また $\det(xI-J)=(x-\lambda)^e$ である。lem-rcf-companion-smith の証明と同じく、$xI-J$ の Smith 標準形は $\operatorname{diag}(1,\dots,1,(x-\lambda)^e)$ で、$xI-C((x-\lambda)^e)$ と同値である。cor-rcf-similarity により $J$ と $C((x-\lambda)^e)$ は相似である。$\chi_A$ が 1 次式の積に分解すれば、その因子である各 $a_i$ も分解し、初等因子はすべて $(x-\lambda)^e$ の形なので、各 $C(q_k)$ を Jordan 細胞に取り替えられる。$\square$

この命題により、Jordan 標準形の存在は有理標準形の存在から従う。このとき Jordan 細胞 $J_e(\lambda)$ の組は初等因子 $(x-\lambda)^e$ の組に対応する(一意性は Jordan標準形 の定理「Jordan標準形の一意性」)。$\chi_A$ が分解しない場合でも、有理標準形と初等因子による標準形は $K$ の中だけで作れる。
計算では、不変因子を $xI-A$ の行列式因子 $\Delta_k$($k$ 次小行列式の最大公約元)の比 $\Delta_k/\Delta_{k-1}$ のうち単元でないものとして求めるか(Smith標準形 の定理「Smith標準形の一意性と行列式因子」)、小さい行列では cor-rcf-char-min の $\chi_A=\prod a_i$、$\mu_A=a_m$ と次数の数え上げで決める(ex-rcf-read の 2)。$\chi_A$ と $\mu_A$ だけでは決まらない場合があることは、次の反例の表の 2 行目が示す。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
整除の条件 $a_1\mid a_2$$C(x-1)\oplus C(x-2)$ と $C(x^2-3x+2)$($K=\mathbb{Q}$)同伴行列の区分対角行列としての表し方の一意性
相似の判定に不変因子をすべて使うこと($\chi_A$ と $\mu_A$ だけにする)$J_2(0)\oplus J_2(0)$ と $J_2(0)\oplus(0)\oplus(0)$$\chi$ と $\mu$ が一致すれば相似
区分対角に並べるブロックを同伴行列とすること(Jordan 細胞にする)$\mathbb{R}$ の上の $R=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$標準形の存在
係数が体であること($\mathbb{Z}$ にする)$\begin{pmatrix}0&-5\\1&0\end{pmatrix}$ と $\begin{pmatrix}1&-3\\2&-1\end{pmatrix}$固有多項式が同じ既約多項式なら相似
反例:表の各行の確かめ

1 行目の 2 つの行列はどちらも相異なる固有値 $1,2$ をもち、$\operatorname{diag}(1,2)$ に相似である。2 行目の 2 つは $\chi=x^4$、$\mu=x^2$ が等しいが、不変因子が $x^2,x^2$ と $x,x,x^2$ で異なる。3 行目の $R$ は実数の固有値をもたない。4 行目の 2 つは固有多項式がともに $x^2+5$ だが、$\mathbb{Z}$ の上では相似でない。

詳細

1 行目:$C(x^2-3x+2)=\begin{pmatrix}0&-2\\1&3\end{pmatrix}$ の固有多項式は $x^2-3x+2=(x-1)(x-2)$ である。どちらの行列も $\operatorname{diag}(1,2)$ と相似なので互いに相似だが、整除の条件を満たすのは後者だけで、前者は有理標準形ではない($x-1\nmid x-2$)。

2 行目:どちらも冪零で $\chi=x^4$、$X^2=O$ かつ $X\neq O$ なので $\mu=x^2$ である。しかし階数が $2$ と $1$ で異なり、相似でない。不変因子は cor-rcf-char-min から積が $x^4$、最後が $x^2$ で、個数は核の次元 $4-\operatorname{rank}$(不変因子 1 つにつき固有値 $0$ の固有ベクトルが 1 次元)に等しく、$2$ 個と $3$ 個になる。

3 行目:$\chi_R=x^2+1$ は実数の根をもたないので、$R$ は実の Jordan 行列(固有値が対角に並ぶ上三角行列)とは相似でない。有理標準形は $R=C(x^2+1)$ 自身である。

4 行目:$A=\begin{pmatrix}0&-5\\1&0\end{pmatrix}=C(x^2+5)$、$B=\begin{pmatrix}1&-3\\2&-1\end{pmatrix}$ とすると、$\operatorname{tr}B=0$、$\det B=-1+6=5$ で $\chi_B=x^2+5$ である。体 $\mathbb{Q}$ の上では、$x^2+5$ は既約なので $\mu=\chi$ となり、cor-rcf-cyclic により両者は $C(x^2+5)$ に相似である。$\mathbb{Z}$ の上で $B=PAP^{-1}$($P\in\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})$、$\det P=\pm1$)とすると、$w:=Pe_1$ について $(w,Bw)=P(e_1,Ae_1)=P$ の行列式は $\pm1$ である。ところが $w=(a,b)^{\top}\in\mathbb{Z}^2$ について $\det(w,Bw)=a(2a-b)-b(a-3b)=2a^2-2ab+3b^2=(a-b)^2+a^2+2b^2$ であり、$b\neq0$ なら $2$ 以上、$b=0$ なら $2a^2\neq\pm1$ である。よって $A$ と $B$ は $\mathbb{Z}$ の上では相似でない。

補足

文献

同伴行列の定義(同じ向きの規約)、有理標準形の存在と一意性、相似の判定、体の拡大で変わらないことは DF04 §12.2(p. 475 の定義、Theorem 14・16、pp. 476–477、Theorem 17・Corollary 18、p. 477)にあり、$K[x]$ 加群の構造定理から導かれている。最小多項式が最後の不変因子であることは同 Proposition 13(p. 474)、固有多項式が不変因子の積であることは Proposition 20(p. 478)、$xI-A$ の Smith 標準形が不変因子を与えることは Theorem 21(p. 479)にある。Theorem 21 の証明はそこでは演習に回されており、この記事では thm-rcf-existence と thm-rcf-uniqueness として Smith 標準形の存在・一意性から直接証明した。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2004, §12.2 同伴行列と有理標準形の定義(p. 475)、Proposition 13(p. 474)、Theorem 14(p. 476)、Theorem 16・Theorem 17・Corollary 18(p. 477)、Proposition 20(p. 478)、Theorem 21(p. 479)

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