コホモロジー的Brauer群

同義語:コホモロジー的ブラウアー群cohomological Brauer groupBr′

概要

コホモロジー的Brauer群(cohomological Brauer group)とは、スキーム $X$ のエタールコホモロジー群 $H^2(X,\mathbb{G}_m)$ の捩れ部分群 $\mathrm{Br}'(X)$ である。Brauer 群 $\mathrm{Br}(X)$ は余境界で $\mathrm{Br}'(X)$ に単射に写り、$X$ が正則なネータースキームなら $H^2(X,\mathbb{G}_m)$ 自体が捩れ群で、$X$ が整ならさらに関数体の Brauer 群に単射に写る。Gabber の定理により準射影的なら $\mathrm{Br}(X)=\mathrm{Br}'(X)$ だが、非分離な正規曲面では等号が破れる。$n$ 捩れ部分は Kummer 完全列で $\mathrm{Pic}(X)/n$ と $H^2(X,\mu_n)$ から求まる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: エタールコホモロジー, Brauer群, Azumaya代数, Kummer完全列, Galoisコホモロジー

定義

以下、スキーム $X$ に対し $H^i(X,\mathcal{F})$ はエタール層 $\mathcal{F}$エタールコホモロジー$H^i(X_{\mathrm{\acute{e}t}},\mathcal{F})$$\mathbb{G}_m$乗法群 $U\mapsto\Gamma(U,\mathcal{O}_U)^\times$ を表す。アーベル群 $M$ に対し、$M_{\mathrm{tors}}$ で有限位数の元のなす部分群(捩れ部分群)、$M[n]$$n$ 倍で消える元の部分群を表す。

コホモロジー的Brauer群の定義

スキーム $X$ に対し
$$ \mathrm{Br}'(X):=H^2(X,\mathbb{G}_m)_{\mathrm{tors}} $$
$X$コホモロジー的 Brauer 群(cohomological Brauer group)という。可換環 $R$ については $\mathrm{Br}'(R):=\mathrm{Br}'(\operatorname{Spec}R)$ とおく。

スキームの射 $f\colon Y\to X$ の引き戻し $f^*\colon H^2(X,\mathbb{G}_m)\to H^2(Y,\mathbb{G}_m)$ は捩れ元を捩れ元に送るので、$f^*\colon\mathrm{Br}'(X)\to\mathrm{Br}'(Y)$ が定まり、$\mathrm{Br}'$ はスキームの反変関手である。

2 つの流儀

Grothendieck Gro68b$H^2(X,\mathbb{G}_m)$ 全体を $\mathrm{Br}'(X)$ と書き、これを「コホモロジー的 Brauer 群」と名づけた。今日の多くの文献(Mil80 第 IV 章、CTS21)は上の定義のように捩れ部分群を指す。両者の違いは捩れでない部分だけなので、$n$ 捩れ部分 $\mathrm{Br}'(X)[n]=H^2(X,\mathbb{G}_m)[n]$$\ell$ 準素部分はどちらの流儀でも同じである。さらに thm-cbg-torsion により、$X$ が正則なネータースキームなら $H^2(X,\mathbb{G}_m)$ 自体が捩れ群なので両者は一致する。

$X$ 上の次数 $r$Azumaya代数 $A$$\mathrm{PGL}_r$ トーサーを定め、中心拡大 $1\to\mathbb{G}_m\to\mathrm{GL}_r\to\mathrm{PGL}_r\to1$余境界により $H^2(X,\mathbb{G}_m)$ の元 $\delta(A)$ を定める。これは Brauer群 $\mathrm{Br}(X)$ からの群準同型 $\delta\colon\mathrm{Br}(X)\to H^2(X,\mathbb{G}_m)$ を与える。thm-cbg-injective により $\delta$ は単射で、$X$準コンパクトなら像は捩れ部分群に入るので、
$$ \mathrm{Br}(X)\subset\mathrm{Br}'(X)\subset H^2(X,\mathbb{G}_m) $$
である。左の包含がいつ等号になるか(Grothendieck の問い)と、右の包含がいつ等号になるか(捩れ性)が、この群をめぐる 2 つの基本問題である。

直感

Azumaya 代数から作る $\mathrm{Br}(X)$ は幾何的な対象で、直接計算するのは難しい。一方 $H^2(X,\mathbb{G}_m)$層コホモロジーなので、長完全列スペクトル系列・Kummer 完全列という一般的な道具で計算できる。Grothendieck が「コホモロジー的 Brauer 群」を導入した動機は、計算できる側 $\mathrm{Br}'(X)$ を主対象にし、あとで $\mathrm{Br}(X)$ との一致を可能な範囲で確かめる、という分業にある。捩れ部分群に限るのは、Azumaya 代数の類が必ず捩れである一方、$H^2(X,\mathbb{G}_m)$ には特異なスキームで捩れでない元が現れうるからである。

例と反例

体のスペクトル

$k$$k^{\mathrm{s}}$ をその分離閉包$G_k=\operatorname{Gal}(k^{\mathrm{s}}/k)$ とする。$\operatorname{Spec}k$ のエタールコホモロジーは Galois コホモロジーに等しく、$H^2(\operatorname{Spec}k,\mathbb{G}_m)=H^2(G_k,(k^{\mathrm{s}})^\times)$ である。射有限群 $G_k$ の離散加群を係数とする正の次数のコホモロジーは捩れ群である(GaloisコホモロジーGS06 第 4 章)ので、
$$ \mathrm{Br}'(k)=H^2(k,\mathbb{G}_m)=\mathrm{Br}(k) $$
となる。最後の等号は Brauer群 の記事の定理「Galoisコホモロジーによる記述」による。たとえば $\mathrm{Br}'(\mathbb{R})\cong\mathbb{Z}/2$有限体 $\mathbb{F}_q$ では $\mathrm{Br}'(\mathbb{F}_q)=0$、非アルキメデス局所体 $K$ では $\mathrm{Br}'(K)\cong\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ である。

Hensel局所環のスペクトル

$R$狭義Hensel局所環とすると、$\operatorname{Spec}R$ の正の次数のエタールコホモロジーはすべて $0$ である(Mil80 第 III 章 §1)ので、$\mathrm{Br}'(R)=0$ である。より一般に $R$Hensel局所環$k$ をその剰余体とすると、Grothendieck Gro68b §2 により $\mathrm{Br}(R)=H^2(R,\mathbb{G}_m)$ であり、Azumaya の定理により $\mathrm{Br}(R)\cong\mathrm{Br}(k)$ である(Azumaya代数 の記事の定理「Hensel局所環上の分類」)。したがって $\mathrm{Br}'(R)=H^2(R,\mathbb{G}_m)\cong\mathrm{Br}(k)$ である。たとえば $\mathrm{Br}'(\mathbb{Z}_p)\cong\mathrm{Br}(\mathbb{F}_p)=0$ である。

代数閉体上の滑らかな射影曲線

$k$代数閉体$X$$k$ 上の滑らかで射影的な連結代数曲線とする。prop-cbg-curve-kummer により、$k$ で可逆な任意の $n$ について $\mathrm{Br}'(X)[n]=0$ である。すなわち $k$標数$0$ なら $\mathrm{Br}'(X)=0$ であり、標数が $p>0$ なら $\mathrm{Br}'(X)$$p$ 準素部分だけからなる。実際にはさらに $\mathrm{Br}'(X)=0$ である:$X$ は正則で次元 $1$ なので thm-cbg-torsion により $H^2(X,\mathbb{G}_m)=\mathrm{Br}'(X)$関数体 $k(X)$ の Brauer 群に単射に写り、Tsenの定理GS06 第 6 章)により $\mathrm{Br}(k(X))=0$ だからである。Kummer 完全列による計算は標数と素な部分しか与えないが、$\mathrm{Pic}(X)/n$$H^2(X,\mu_n)$ の位数を比べるという形は曲面(ex-cbg-surface)にもそのまま通用する。

代数閉体上の滑らかな射影曲面

$k$ を代数閉体、$X$$k$ 上の滑らかで射影的な連結曲面、$\ell$$k$ の標数と異なる素数とする。Kummer 完全列を $n=\ell^\nu$ に適用して逆極限をとると、Tate加群 $T_\ell\mathrm{Br}'(X)$ は階数 $b_2-\rho$ の自由 $\mathbb{Z}_\ell$ 加群になる($b_2$ は 2 次の $\ell$ 進 Betti 数、$\rho$ は Picard 数。Brauer群 の記事の定理「Tate加群と2次のℓ進コホモロジー」に証明がある)。$X$ は射影的なので thm-cbg-gabber により $\mathrm{Br}(X)=\mathrm{Br}'(X)$ である。

反例:分離的でない正規曲面

Edidin–Hassett–Kresch–Vistoli EHKV01 は、アフィン 2 次錐 $\operatorname{Spec}\mathbb{C}[x,y,z]/(xy-z^2)$ の 2 つのコピーを頂点の補集合に沿って貼り合わせた、分離的でない正規曲面 $X$ について、$\mathrm{Br}'(X)$ に Azumaya 代数で表されない位数 $2$ の元があること、すなわち $\mathrm{Br}(X)\subsetneq\mathrm{Br}'(X)$ を示した。本記事はこの計算を確かめない。この $X$ は「分離的」という条件を破り、thm-cbg-gabber の仮定を満たさない。分離的なスキーム一般で等号が成り立つかは、これらの文献の時点では未解決である(CTS21 第 4 章)。

反例:捩れでない2次コホモロジー

$H^2(X,\mathbb{G}_m)$ は一般には捩れ群でない。Grothendieck Gro68b §1 は、Mumford Mum61 の構成した正規曲面で、孤立特異点 $x$ の局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$一意分解整域であるのに狭義 Hensel 化の局所Picard群が捩れでも有限生成でもないものがあり、そのとき $H^2(X,\mathbb{G}_m)$ は捩れ群でない、と述べている(講演者自身の留保つき。Brauer群 の記事の注意「捩れでない2次コホモロジー」)。この例は thm-cbg-torsion の仮定「正則」を「Zariski 局所環が一意分解整域」に弱めてはいけないことを示す(rem-cbg-torsion-hypothesis)。本記事は Mumford の構成を確かめない。

性質

Brauer 群からの単射

余境界の単射性と捩れ性

$X$ をスキームとする。余境界 $\delta\colon\mathrm{Br}(X)\to H^2(X,\mathbb{G}_m)$ は単射な群準同型であり、次数 $r$ の Azumaya 代数の類の像は $r$ 倍で $0$ になる。とくに $X$ が準コンパクトなら $\delta$ の像は $\mathrm{Br}'(X)$ に含まれる。

証明の筋

この定理は Grothendieck Gro68a §2・§5(Mil80 第 IV 章 §2)による。証明の筋は次のとおり。

  1. 核が自明であること。次数 $r$ の Azumaya 代数 $A$$\mathrm{PGL}_r$ トーサー $\mathcal{I}som(M_r(\mathcal{O}_X),A)$ に対応する(Azumaya代数 の記事の定理「PGLトーサーとの対応」)。非可換コホモロジーの完全列 $H^1(X,\mathrm{GL}_r)\to H^1(X,\mathrm{PGL}_r)\xrightarrow{\delta}H^2(X,\mathbb{G}_m)$ により、$\delta(A)=0$ となるのはこのトーサーが階数 $r$局所自由層 $E$ から来るとき、すなわち $A\cong\mathcal{E}nd(E)$ のときで、その類は単位元である。
  2. 準同型であること。$A\otimes B$ のトーサーは、Kronecker 積 $\mathrm{PGL}_r\times\mathrm{PGL}_s\to\mathrm{PGL}_{rs}$ で 2 つのトーサーを押し出したものである。中心拡大の余境界はこの押し出しと両立し、$\mathbb{G}_m\times\mathbb{G}_m\to\mathbb{G}_m$ は積なので $\delta(A\otimes B)=\delta(A)+\delta(B)$ となる。
  3. $r$ 捩れであること。中心拡大 $1\to\mu_r\to\mathrm{SL}_r\to\mathrm{PGL}_r\to1$fppf位相で完全であり($r$$X$ 上可逆ならエタール位相でも完全)、$\mathbb{G}_m$ は滑らかな群スキームなので fppf コホモロジーとエタールコホモロジーは一致する(エタールコホモロジーとfppfコホモロジーの比較定理Mil80 第 III 章 §3)。fppf 位相でこの拡大の余境界 $H^1(X,\mathrm{PGL}_r)\to H^2(X,\mu_r)$$\mu_r\to\mathbb{G}_m$ の合成が $\delta$ である($\mathrm{SL}_r\to\mathrm{GL}_r$ が 2 つの中心拡大の間の射を与え、$\mathrm{PGL}_r$ 上では恒等だから)。$\mu_r$$r$ 倍で消えるので $r\delta(A)=0$ である。
  4. 準コンパクトなら捩れ。Azumaya 代数の階数は局所定数なので、$X$ が準コンパクトなら $X$ は階数が一定な有限個の開かつ閉な部分スキーム $X_1,\dots,X_m$ の非交和であり、$H^2(X,\mathbb{G}_m)=\prod_iH^2(X_i,\mathbb{G}_m)$ である。3 を各 $X_i$ に当てれば、各類は次数の最小公倍数倍で消える。

正則スキームでの捩れ性と関数体への単射性

正則なネータースキームでは $H^2(X,\mathbb{G}_m)$ 全体が捩れ群、したがって $\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb{G}_m)$ である。Brauer群 の記事の定理「正則な整スキームの生成点への制限」は同じ主張を言明だけしており、証明は本記事が受け持つ。方針は、$\mathbb{G}_m$有理関数の層と Weil因子の層に分けることである。

証明せずに使う事実

以下の証明では次の事実を用いる(出典は Mil80 第 II・III 章、GS06 第 4 章、Mat86 §20)。

  • (F1) 体 $F$ と離散 $G_F$ 加群 $M$ について、Galoisコホモロジー $H^q(F,M)$$q\ge1$ で捩れ群である。また Hilbertの定理90$H^1(F,\mathbb{G}_m)=0$
  • (F2) $X$ をネータースキーム、$x\in X$$i\colon\operatorname{Spec}\kappa(x)\to X$ を包含、$M$$\operatorname{Spec}\kappa(x)$ 上のエタール層とする。高次順像 $R^qi_*M$幾何的点 $\bar y$ でのは、$\operatorname{Spec}(\mathcal{O}^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y}\otimes_{\mathcal{O}_X}\kappa(x))$ 上の $M$$q$ 次コホモロジーである($\mathcal{O}^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y}$ は狭義 Hensel化)。この環は $x$ の上にある $\operatorname{Spec}\mathcal{O}^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y}$ の有限個の点の剰余体($\kappa(x)$ の分離代数拡大)の直積である。
  • (F3) ネータースキーム上では、エタールコホモロジーは層の帰納極限、とくに直和と交換する。したがって捩れ層のコホモロジーは捩れ群である(捩れ層 $\mathcal{F}$$\mathcal{F}[n]$ の帰納極限で、$H^p(X,\mathcal{F}[n])$$n$ 倍で消えるから)。
  • (F4) 射 $f\colon Y\to X$ とエタール層 $\mathcal{F}$ について Lerayスペクトル系列 $E_2^{p,q}=H^p(X,R^qf_*\mathcal{F})\Rightarrow H^{p+q}(Y,\mathcal{F})$ があり、低次の項は完全列 $0\to H^1(X,f_*\mathcal{F})\to H^1(Y,\mathcal{F})\to H^0(X,R^1f_*\mathcal{F})\to H^2(X,f_*\mathcal{F})\to H^2(Y,\mathcal{F})$ をなす。
  • (F5) 正則局所環は一意分解整域であり(Auslander–Buchsbaum)、その狭義 Hensel 化も正則局所環である。ネーター正規整域 $A$正規環整域)は高さ $1$素イデアルでの局所化離散付値環)の共通部分 $\bigcap_{\operatorname{ht}\mathfrak{q}=1}A_{\mathfrak{q}}$ である。
  • (F6) $\operatorname{Spec}\mathcal{O}^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y}\to\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,y}$ は全射で、素イデアルとその像の高さは等しい。
正則スキームの2次コホモロジーの捩れ性

$X$ を正則なネータースキームとする。

  1. $q\ge2$ について $H^q(X,\mathbb{G}_m)$ は捩れ群である。とくに $\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb{G}_m)$ である。
  2. $X$ が整で $K$ をその関数体とすると、生成点への制限 $H^2(X,\mathbb{G}_m)\to H^2(K,\mathbb{G}_m)=\mathrm{Br}(K)$ は単射である。したがって $\mathrm{Br}(X)\subset\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb{G}_m)\subset\mathrm{Br}(K)$ である。
有理関数の層と因子の層への分解

段 0(完全列)。正則なネータースキームは正規なので、連結成分は有限個の整スキームであり、コホモロジーは成分ごとの直積になる。よって $X$ は整としてよい。$g\colon\operatorname{Spec}K\to X$ を生成点、$X^{(1)}$ を余次元 $1$ の点の集合、$x\in X^{(1)}$ に対し $i_x\colon\operatorname{Spec}\kappa(x)\to X$ を包含とする。エタールな $U\to X$ について $U$ は正則で、$\Gamma(U,g_*\mathbb{G}_{m,K})$$U$ の各連結成分の関数体の単元群直積$\Gamma(U,i_{x*}\mathbb{Z})$$U$$x$ の上にある点(余次元 $1$ の点 $u$。その局所環は離散付値環)で添字づけられた $\mathbb{Z}$ の直積である。有理関数 $f$ の位数 $v_u(f)$ は有限個の $u$ を除いて $0$ なので、$f\mapsto(v_u(f))_u$ は層の射 $g_*\mathbb{G}_{m,K}\to\bigoplus_{x\in X^{(1)}}i_{x*}\mathbb{Z}$ を定める。列
$$ 0\to\mathbb{G}_m\to g_*\mathbb{G}_{m,K}\to\bigoplus_{x\in X^{(1)}}i_{x*}\mathbb{Z}\to0 $$
を (W) と呼び、これがエタール層の完全列であることを示す。幾何的点 $\bar y$ での茎をとり、$\mathcal{O}:=\mathcal{O}^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y}$ とおく。(F5) により $\mathcal{O}$ は正則局所環、したがって一意分解整域である。$\mathbb{G}_m$ の茎は $\mathcal{O}^\times$ である。$g_*\mathbb{G}_{m,K}$ の茎は (F2)($q=0$)により $(\mathcal{O}\otimes_{\mathcal{O}_X}K)^\times$ で、$\mathcal{O}\otimes_{\mathcal{O}_X}K$ は整域 $\mathcal{O}$ の局所化で $K$ 上整だから体、すなわち $\mathcal{O}$商体 $L$ である。$\bigoplus_xi_{x*}\mathbb{Z}$ の茎は (F2)・(F6) により、$\mathcal{O}$ の高さ $1$ の素イデアル $\mathfrak{q}$ で添字づけられた $\bigoplus_{\mathfrak{q}}\mathbb{Z}$ で、茎での射は $f\mapsto(v_{\mathfrak{q}}(f))_{\mathfrak{q}}$$v_{\mathfrak{q}}$ は離散付値環 $\mathcal{O}_{\mathfrak{q}}$ の付値)である。列 $0\to\mathcal{O}^\times\to L^\times\to\bigoplus_{\mathfrak{q}}\mathbb{Z}\to0$ は完全である。実際、すべての $v_{\mathfrak{q}}(f)=0$ なら (F5) により $f,f^{-1}\in\bigcap_{\mathfrak{q}}\mathcal{O}_{\mathfrak{q}}=\mathcal{O}$$f\in\mathcal{O}^\times$ であり、$\mathcal{O}$ は一意分解整域なので各 $\mathfrak{q}$ は素元 $\pi_{\mathfrak{q}}$ で生成され、$v_{\mathfrak{q}}(\pi_{\mathfrak{q}})=1$$\mathfrak{q}'\ne\mathfrak{q}$ なら $v_{\mathfrak{q}'}(\pi_{\mathfrak{q}})=0$ だから右の射は全射である。
段 1(真ん中の項)。$n\ge1$ について $H^n(X,g_*\mathbb{G}_{m,K})$ が捩れ群であることを示す。(F4) の Leray スペクトル系列 $E_2^{p,q}=H^p(X,R^qg_*\mathbb{G}_{m,K})\Rightarrow H^{p+q}(K,\mathbb{G}_m)$ を考える。$q\ge1$ のとき $R^qg_*\mathbb{G}_{m,K}$ の茎は (F2) により体 $L$$H^q(L,\mathbb{G}_m)$ で、(F1) により捩れ群だから、$R^qg_*\mathbb{G}_{m,K}$ は捩れ層で、(F3) により $E_2^{p,q}$$q\ge1$ で捩れ群である。収束先 $H^n(K,\mathbb{G}_m)$$n\ge1$ で (F1) により捩れ群で、$E_\infty^{n,0}$ はその部分群だから捩れ群である。$E_2^{n,0}=H^n(X,g_*\mathbb{G}_{m,K})$ から $E_\infty^{n,0}$ への全射の核は、微分 $d_r\colon E_r^{n-r,r-1}\to E_r^{n,0}$$r\ge2$)の像を順に積み上げた有限のフィルトレーションをもち、各 $E_r^{n-r,r-1}$$E_2^{n-r,r-1}$$r-1\ge1$)の部分商だから捩れ群である。捩れ群の捩れ群による拡大は捩れ群なので、$E_2^{n,0}$ は捩れ群である。
段 2(右の項)。$x\in X^{(1)}$ について、$H^n(X,i_{x*}\mathbb{Z})$$n\ge1$ で捩れ群、$n=1$ では $0$ であることを示す。段 1 と同じ議論を $i_x$ と定数層 $\mathbb{Z}$ に当てる。$R^qi_{x*}\mathbb{Z}$$q\ge1$)の茎は (F2) により $\kappa(x)$ の有限個の分離代数拡大 $F'$ についての $H^q(F',\mathbb{Z})$ の直積で、(F1) により捩れ群であり、収束先 $H^n(\kappa(x),\mathbb{Z})$$n\ge1$ で捩れ群だから、$H^n(X,i_{x*}\mathbb{Z})$$n\ge1$ で捩れ群である。$n=1$ では (F4) により $H^1(X,i_{x*}\mathbb{Z})\hookrightarrow H^1(\kappa(x),\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}_{\mathrm{cont}}(G_{\kappa(x)},\mathbb{Z})$ で、コンパクト群から離散群 $\mathbb{Z}$ への連続準同型は像が有限部分群、すなわち $0$ なので右辺は $0$ である。(F3) により $H^n(X,\bigoplus_xi_{x*}\mathbb{Z})=\bigoplus_xH^n(X,i_{x*}\mathbb{Z})$ なので、これも $n\ge1$ で捩れ群、$n=1$$0$ である。
段 3(主張 1)。(W) の長完全列の一部 $H^{q-1}(X,\bigoplus_xi_{x*}\mathbb{Z})\to H^q(X,\mathbb{G}_m)\to H^q(X,g_*\mathbb{G}_{m,K})$ において、$q\ge2$ なら左は段 2、右は段 1 により捩れ群である。真ん中の群は捩れ群の像を部分群にもち、その商が捩れ群に単射に写るので、捩れ群である。
段 4(主張 2)。(W) の長完全列と段 2 の $H^1(X,\bigoplus_xi_{x*}\mathbb{Z})=0$ から、$H^2(X,\mathbb{G}_m)\to H^2(X,g_*\mathbb{G}_{m,K})$ は単射である。次に (F4) の低次の完全列 $H^0(X,R^1g_*\mathbb{G}_{m,K})\to H^2(X,g_*\mathbb{G}_{m,K})\to H^2(K,\mathbb{G}_m)$ を見る。$R^1g_*\mathbb{G}_{m,K}$ の茎は (F2) により体 $L$$H^1(L,\mathbb{G}_m)$ で、Hilbert の定理 90(F1)により $0$ である。よって $H^2(X,g_*\mathbb{G}_{m,K})\to H^2(K,\mathbb{G}_m)$ は単射で、合成 $H^2(X,\mathbb{G}_m)\to H^2(K,\mathbb{G}_m)=\mathrm{Br}(K)$ が単射であることが従う。thm-cbg-injective と合わせて $\mathrm{Br}(X)\subset\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb{G}_m)\subset\mathrm{Br}(K)$ を得る。$\square$

仮定について

証明で正則性から使ったのは、(i) $X$ が正規であること、(ii) 各点の狭義 Hensel 化が一意分解整域であることだけである。したがって定理は「局所環の狭義 Hensel 化がすべて一意分解整域であるネータースキーム」に対して成り立つ(Grothendieck Gro68b §1 の形)。Zariski 局所環が一意分解整域であるだけでは足りないことは ex-cbg-mumford が示す。正規でない場合は 2 の単射性も崩れる:$\operatorname{Spec}\mathbb{R}[x,y]/(x^2+y^2)$ では関数体 $\mathbb{C}(x)$ の Brauer 群が $0$ なのに四元数代数の類が $\mathrm{Br}(X)$$0$ でない(Brauer群 の記事の反例「正規でない曲線での非単射性」)。正規なら $H^2(X,\mathbb{G}_m)\to\mathrm{Br}(K)$ の核は各点の局所Picard群で記述される。

Gabber の定理

Gabber–de Jong の定理

$X$ を準コンパクト分離的なスキームで、豊富な可逆層をもつものとする。このとき $\mathrm{Br}(X)=\mathrm{Br}'(X)$ である。すなわち $H^2(X,\mathbb{G}_m)$ の捩れ元はすべて Azumaya 代数で表される。

出典と先行する場合

この定理は Gabber による(未刊)。証明は de Jong deJ03 が与えた。それ以前に Gabber Gab81 はアフィンスキームについて、Grothendieck Gro68b §2 は次元 $\le1$ のネータースキームと正則で次元 $\le2$ のスキームについて等号を示している(Brauer群 の記事の定理「等号が成り立つ場合」)。本記事ではいずれも証明しない。定理は体上の準射影多様体やアフィンスキームに適用でき、その上ではコホモロジー的 Brauer 群の計算がそのまま Brauer 群の計算になる。分離的でない場合に等号が破れる例が ex-cbg-nonseparated である。

Kummer 完全列による計算

$n\ge1$$X$ 上可逆なら、Kummer完全列 $1\to\mu_n\to\mathbb{G}_m\xrightarrow{\,n\,}\mathbb{G}_m\to1$ の長完全列と $H^1(X,\mathbb{G}_m)=\mathrm{Pic}(X)$ から、完全列
$$ 0\to\mathrm{Pic}(X)/n\to H^2(X,\mu_n)\to\mathrm{Br}'(X)[n]\to0 $$
が得られる(Brauer群 の記事の命題「n捩れ部分の完全列」に証明がある)。これにより $\mathrm{Br}'(X)[n]$ は有限係数のエタールコホモロジー $H^2(X,\mu_n)$Picard群から計算できる。体の場合は $\mathrm{Pic}=0$ なので $\mathrm{Br}'(K)[n]\cong H^2(K,\mu_n)$ である(Kummer完全列 の記事の例「体の場合のn捩れ部分」)。

代数閉体上の曲線のn捩れ部分

$k$ を代数閉体、$X$$k$ 上の滑らかで射影的な連結曲線、$n\ge1$$k$ の標数で割り切れない整数とする。このとき $\mathrm{Pic}(X)/n\to H^2(X,\mu_n)$ は同型であり、$\mathrm{Br}'(X)[n]=0$ である。

位数の数え上げ

次の 2 つの事実を用いる。(K1) $H^2(X,\mu_n)\cong\mathbb{Z}/n$ である(Mil80 第 V 章 §2。そこでの証明は Tsen の定理を経由する)。(K2) 次数 $0$可逆層の類の群 $\mathrm{Pic}^0(X)$$n$ 可除である(可除群)。実際、$\mathrm{Pic}^0(X)$$X$Jacobi多様体 $J$$k$ 有理点の群であり、アーベル多様体$n$ 倍写像は全射な準同型(同種写像)なので、代数閉体 $k$ の上で $J(k)\xrightarrow{\,n\,}J(k)$ は全射である(Mum70 §4・§6)。
$X$ は代数閉体上の曲線なので次数 $1$ の閉点をもち、次数写像 $\deg\colon\mathrm{Pic}(X)\to\mathbb{Z}$ は全射で、核は $\mathrm{Pic}^0(X)$ である。完全列 $0\to\mathrm{Pic}^0(X)\to\mathrm{Pic}(X)\to\mathbb{Z}\to0$$\mathbb{Z}/n$ をテンソルすると、テンソル積の右完全性により $\mathrm{Pic}^0(X)/n\to\mathrm{Pic}(X)/n\to\mathbb{Z}/n\to0$ は完全で、(K2) により左端は $0$ だから $\mathrm{Pic}(X)/n\cong\mathbb{Z}/n$ である。Kummer 完全列から得た完全列 $0\to\mathrm{Pic}(X)/n\to H^2(X,\mu_n)\to\mathrm{Br}'(X)[n]\to0$ において、左の射は位数 $n$有限群 $\mathrm{Pic}(X)/n$ から、(K1) により位数 $n$ の有限群 $H^2(X,\mu_n)$ への単射だから全単射である。よって余核 $\mathrm{Br}'(X)[n]$$0$ である。$\square$

$n$ を標数と素なすべての整数にわたって動かせば、$\mathrm{Br}'(X)$ の標数と素な捩れ部分が $0$ であることになる(ex-cbg-curve)。曲面で同じ数え上げを行うと $\mathrm{Pic}(X)/n$$H^2(X,\mu_n)$ の位数の差が $\mathrm{Br}'(X)[n]$ の位数を与え、これが ex-cbg-surface$b_2-\rho$ の起源である。

関連項目

参考文献

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Alexander Grothendieck, Le groupe de Brauer II : Théorie cohomologique, Dix exposés sur la cohomologie des schémas (North-Holland, Amsterdam; Masson, Paris), 1968, 67–87(§1 捩れ性と単射性、§2 Hensel 局所環と低次元での $\mathrm{Br}=\mathrm{Br}'$)
[2]
Alexander Grothendieck, Le groupe de Brauer I : Algèbres d'Azumaya et interprétations diverses, Dix exposés sur la cohomologie des schémas (North-Holland, Amsterdam; Masson, Paris), 1968, 46–66(§2・§5 余境界 $\mathrm{Br}(X)\to H^2(X,\mathbb{G}_m)$)
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James S. Milne, Étale Cohomology, Princeton University Press, 1980, 第 I 章 §3、第 II・III 章(高次順像・極限・Leray スペクトル系列・狭義 Hensel 局所環)、第 IV 章 §2(Brauer 群)、第 V 章 §2(曲線のコホモロジー)
[4]
Philippe Gille, Tamás Szamuely, Central Simple Algebras and Galois Cohomology, Cambridge University Press, 2006, 第 4 章(Galois コホモロジーの捩れ性、Hilbert の定理 90、Brauer 群)、第 6 章(Tsen の定理)
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Hideyuki Matsumura, Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, 1986, §20(正則局所環が一意分解整域であること)、§11(正規整域と離散付値環)
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Jean-Louis Colliot-Thélène, Alexei N. Skorobogatov, The Brauer–Grothendieck Group, Springer, 2021, 第 4 章(Brauer 群とコホモロジー的 Brauer 群の比較)
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Ofer Gabber, Some theorems on Azumaya algebras, Le groupe de Brauer (Séminaire, Les Plans-sur-Bex, 1980), Lecture Notes in Mathematics 844, Springer, 1981, アフィンスキームでの $\mathrm{Br}=\mathrm{Br}'$
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Dan Edidin, Brendan Hassett, Andrew Kresch, Angelo Vistoli, Brauer groups and quotient stacks, American Journal of Mathematics, 2001, 761–777(分離的でない正規曲面での反例)
[11]
David Mumford, The topology of normal singularities of an algebraic surface and a criterion for simplicity, Publications Mathématiques de l'IHÉS, 1961, 5–22

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