アフィン変換

同義語:affine transformation

概要

アフィン変換(affine transformation)とは、ベクトル空間 $V$ からそれ自身への全単射な写像で、正則な線形写像 $T$ とベクトル $b$ によって $x\mapsto Tx+b$ と書けるもの、すなわち線形変換に平行移動を合成したものである。アフィン変換の全体は平行移動の群と一般線形群の半直積をなし、直線・平行・同じ直線上の線分の長さの比・凸性・面積の比を保つが、長さと角度は保たない。$n$ 次元の空間ではアフィン独立な $n+1$ 点の行き先を指定すると変換がただ 1 つ決まり、平面のどの 2 つの三角形も互いに移り合う。実数の空間(次元 $2$ 以上)では、直線を直線に移す全単射はアフィン変換に限る(アフィン幾何の基本定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: アフィン部分空間, 線形写像, 一般線形群

平面の三角形はどれも、1 次変換と平行移動を組み合わせた変換で、頂点 $(0,0)$、$(1,0)$、$(0,1)$ の三角形に移せる。この変換は角度や長さを変えてしまうが、中点・重心・平行・同じ直線上の線分の長さの比・面積の比は変えない。そのため、これらだけで述べられる定理は 1 つの三角形で確かめれば十分である(高校数学では 中点連結定理 の定義「平面のアフィン変換」と定理「1 つの三角形で確かめれば足りる」)。この変換を、一般の次元と一般の体の上で考えたものが アフィン変換 である。
アフィン変換は「原点を特別扱いしない線形変換」であり、平行移動の群と一般線形群を組み合わせた群(アフィン群)をなす。この記事では、アフィン変換の定義と群の構造、アフィン枠の行き先による存在と一意性、固定点、そして実数の空間で「直線を直線に移す全単射はアフィン変換に限る」というアフィン幾何の基本定理を証明する。

定義

以下、$K$ は体、$V,W$ は $K$ 上のベクトル空間とする。$V$ の元を点ともベクトルとも呼ぶ。主な例は $V=\mathbb{R}^n$ である。

アフィン写像とアフィン変換

写像 $f\colon V\to W$ が、ある線形写像 $T\colon V\to W$ とベクトル $b\in W$ によって
$$ f(x)=T(x)+b\qquad(x\in V) $$
と書けるとき、$f$ を アフィン写像(affine map)という。$T$ を $f$ の 線形部分、$b=f(0)$ を 平行移動部分 という。$V$ から $V$ 自身へのアフィン写像で全単射であるものを、$V$ の アフィン変換(affine transformation)という。

線形部分は $f$ から $T(x)=f(x)-f(0)$ で決まるので、$T$ と $b$ は $f$ からただ 1 通りに定まる。アフィン写像が全単射であることは、線形部分 $T$ が全単射であることと同値である($f$ は $T$ に平行移動 $y\mapsto y+b$ を合成したもので、平行移動は全単射だから)。有限次元の $V=K^n$ では、アフィン変換は正則行列 $A$(一般線形群 $\mathrm{GL}_n(K)$ の元)とベクトル $b$ による $x\mapsto Ax+b$ のことである。
アフィン部分空間 の記事の命題「アフィン写像とアフィン結合」により、写像 $f\colon V\to W$ がアフィン写像であることは、アフィン結合(係数の和が $1$ の線形結合)を保つこと
$$ f\Bigl(\sum_i\lambda_ix_i\Bigr)=\sum_i\lambda_if(x_i)\qquad\Bigl(\sum_i\lambda_i=1\Bigr) $$
と同値である。この言い換えは原点を使わないので、アフィン変換は「原点のない空間」の変換として意味をもつ(rem-aff-abstract)。

アフィン群

$V$ のアフィン変換の全体を $\mathrm{Aff}(V)$ と書く。$V=K^n$ のときは $\mathrm{Aff}_n(K)$ とも書く。ベクトル $b$ による平行移動 $t_b(x):=x+b$ の全体を $\mathrm{Tr}(V)$ と書く。

直感

線形変換は原点を動かさず、原点を通る直線を原点を通る直線に移す。アフィン変換はそこに平行移動を加えたもので、原点も動かしてよい。どの点も特別でないので、アフィン変換が保つ性質は「どの点から見ても同じ」幾何的な性質である。
アフィン変換が保つのは、直線・平面などのアフィン部分空間、平行、同じ直線上(または平行な直線上)の線分の長さの比、凸集合、そして面積・体積の 比 である。保たないのは長さ・角度・円であり、正三角形は一般の三角形に、円は楕円に移る。逆に言えば、「三角形」「平行四辺形」「楕円」はアフィン変換で区別できない図形であり、どの三角形も同じ 1 つの三角形と思ってよい(cor-aff-triangles)。Euclid 幾何が合同変換で保たれる性質を調べるのに対し、アフィン幾何はアフィン変換で保たれる性質を調べる。

例と反例

アフィン変換の例

$V=\mathbb{R}^2$ とし、点 $c$ と実数 $\lambda\ne0$ を固定する。

  1. 平行移動 $t_b(x)=x+b$:線形部分は恒等写像である。
  2. 相似拡大(中心 $c$、比 $\lambda$):$h(x)=c+\lambda(x-c)=\lambda x+(1-\lambda)c$。$c$ を動かさず、$c$ を通る直線をそれぞれ自分自身に移す。$\lambda=-1$ なら点 $c$ に関する点対称である。
  3. ずらし(せん断):$s(x,y)=(x+ky,\ y)$。線形部分 $\begin{pmatrix}1&k\\0&1\end{pmatrix}$ の行列式は $1$ で、面積を変えないが、正方形を平行四辺形に変える。
  4. 斜めの折り返し:直線 $\ell$ と、$\ell$ に平行でない方向 $d$ をとり、点 $x$ を $x=p+td$($p\in\ell$)と書いて $x\mapsto p-td$ とする。$\ell=\{y=0\}$、$d=(1,1)$ なら $(x,y)\mapsto(x-2y,\,-y)$ である。$d$ が $\ell$ に垂直なら通常の鏡映である。
  5. 合同変換:$x\mapsto Ux+b$($U$ は直交行列)。長さを保つアフィン変換であり、Euclid 幾何の変換である。
円を楕円に移す

$a,b>0$ とし、$f(x,y)=(ax,\ by)$ とする。単位円 $x^2+y^2=1$ の点 $(\cos\theta,\sin\theta)$ は $(a\cos\theta,\ b\sin\theta)$ に移り、像は楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$ である。面積は $ab$ 倍になるので、楕円の面積は単位円の面積 $\pi$ の $ab$ 倍で $\pi ab$ である。単位円に内接する正三角形(面積 $\frac{3\sqrt3}{4}$)は、楕円に内接する面積 $\frac{3\sqrt3}{4}ab$ の三角形に移る。面積の比は保たれるので、この三角形は楕円に内接する三角形のうち面積が最大のものである(円に内接する三角形の面積が正三角形で最大になることを使う。楕円に内接する多角形の最大面積)。

反例:アフィン変換でない変換
  1. アフィン変換は線形写像とは限らない:$x\mapsto 2x+1$($\mathbb{R}\to\mathbb{R}$)はアフィン変換だが、$0$ を $1$ に移すので線形写像でない。線形写像はアフィン写像のうち $b=0$ のものである。
  2. 全単射だがアフィンでない:$x\mapsto x^3$($\mathbb{R}\to\mathbb{R}$)は全単射だが、中点を保たない($0$ と $2$ の中点 $1$ の像は $1$、像 $0$ と $8$ の中点は $4$)。
  3. アフィンだが全単射でない:平行射影 $(x,y)\mapsto(x,0)$ は線形部分の行列式が $0$ のアフィン写像で、アフィン変換ではない。三角形を線分に潰す。

性質

アフィン群の構造

アフィン群は半直積
  1. $\mathrm{Aff}(V)$ は写像の合成について群である。$f(x)=Tx+b$、$g(x)=Sx+c$ のとき
    $$ (f\circ g)(x)=TSx+(Tc+b),\qquad f^{-1}(x)=T^{-1}x-T^{-1}b $$
    である。
  2. 線形部分をとる写像 $L\colon\mathrm{Aff}(V)\to\mathrm{GL}(V)$、$f\mapsto T$ は全射な群準同型で、核は平行移動の群 $\mathrm{Tr}(V)\cong V$ である。とくに $\mathrm{Tr}(V)$ は正規部分群である。
  3. $f\in\mathrm{Aff}(V)$ と平行移動 $t_v$ について $f\circ t_v\circ f^{-1}=t_{L(f)v}$ である。$\mathrm{GL}(V)$ を原点を動かさないアフィン変換の部分群とみると、$\mathrm{Aff}(V)$ のどの元も $t_b\circ T$ の形にただ 1 通りに書け、$\mathrm{Aff}(V)$ は $V$ と $\mathrm{GL}(V)$ の半直積 $V\rtimes\mathrm{GL}(V)$ である。
合成を計算する
  1. $(f\circ g)(x)=T(Sx+c)+b=TSx+(Tc+b)$ であり、$TS$ は全単射な線形写像なので $f\circ g$ はアフィン変換である。$h(x):=T^{-1}x-T^{-1}b$ もアフィン変換で、$f(h(x))=x-b+b=x$、$h(f(x))=x+T^{-1}b-T^{-1}b=x$ なので $h=f^{-1}$ である。恒等写像はアフィン変換であり、写像の合成は結合的なので、$\mathrm{Aff}(V)$ は群である。
  2. 1 の式から $L(f\circ g)=TS=L(f)L(g)$ なので $L$ は準同型である。$T\in\mathrm{GL}(V)$ は $L(T)=T$ を満たすので全射である。$L(f)=\mathrm{id}$ は $f(x)=x+b$、すなわち $f=t_b$ と同値なので、核は $\mathrm{Tr}(V)$ である。$t_b\circ t_c=t_{b+c}$ なので $b\mapsto t_b$ は $V$ から $\mathrm{Tr}(V)$ への同型である。準同型の核なので正規部分群である。
  3. $f\circ t_v\circ f^{-1}(x)=T\bigl(T^{-1}x-T^{-1}b+v\bigr)+b=x+Tv$ なので $t_{Tv}$ である。$f(x)=Tx+b$ は $f=t_b\circ T$ と書け、$t_b\circ T=t_{b'}\circ T'$ なら $0$ での値から $b=b'$、すると $T=T'$ である。$\mathrm{Tr}(V)\cap\mathrm{GL}(V)=\{\mathrm{id}\}$ で、$\mathrm{Tr}(V)$ が正規部分群、$\mathrm{GL}(V)$ の作用が $t_v\mapsto t_{Tv}$ なので、$\mathrm{Aff}(V)$ は半直積である。$\square$

$V=K^n$ では、アフィン変換 $x\mapsto Ax+b$ を $(n+1)$ 次の正則行列
$$ \begin{pmatrix}A&b\\0&1\end{pmatrix},\qquad \begin{pmatrix}A&b\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}Ax+b\\1\end{pmatrix} $$
に対応させると、合成が行列の積に対応する(1 の式は積 $\begin{pmatrix}A&b\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}B&c\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}AB&Ac+b\\0&1\end{pmatrix}$ である)。こうして $\mathrm{Aff}_n(K)$ は $\mathrm{GL}_{n+1}(K)$ の部分群とみなせる。射影幾何の言葉では、アフィン変換は無限遠超平面を動かさない射影変換である(円錐曲線 の記事でこの見方を使う)。

アフィン枠と変換の決まり方

$V$ を $n$ 次元とする。点 $p_0,p_1,\dots,p_n\in V$ が アフィン独立 であるとは、ベクトル $p_1-p_0,\dots,p_n-p_0$ が線形独立であることをいう(このとき $p_0,\dots,p_n$ は $V$ と異なるアフィン部分空間には含まれない。この組を $V$ の アフィン枠 という)。平面($n=2$)では、一直線上にない 3 点、つまり三角形の 3 頂点である。

アフィン枠の行き先で決まる

$V$ を $n$ 次元、$p_0,\dots,p_n$ を $V$ のアフィン枠とし、$q_0,\dots,q_n\in W$ を任意の点とする。

  1. $f(p_i)=q_i$($i=0,\dots,n$)を満たすアフィン写像 $f\colon V\to W$ がただ 1 つ存在する。
  2. $W=V$ のとき、この $f$ がアフィン変換であることと、$q_0,\dots,q_n$ がアフィン枠であることは同値である。
基底の行き先で線形部分を決める

$u_i:=p_i-p_0$($i=1,\dots,n$)は $n$ 個の線形独立なベクトルなので、$V$ の基底である。

  1. 存在:基底 $u_1,\dots,u_n$ の行き先を指定すると線形写像が決まるので、$T(u_i)=q_i-q_0$ となる線形写像 $T\colon V\to W$ がある。$f(x):=T(x-p_0)+q_0=T(x)+\bigl(q_0-T(p_0)\bigr)$ はアフィン写像で、$f(p_0)=q_0$、$f(p_i)=T(u_i)+q_0=q_i$ である。一意性:$g(x)=S(x)+c$ も条件を満たすとすると、$S(u_i)=g(p_i)-g(p_0)=q_i-q_0=T(u_i)$ なので、基底の上で一致する線形写像として $S=T$ である。さらに $c=g(p_0)-S(p_0)=q_0-T(p_0)$ なので $g=f$ である。
  2. $f$ がアフィン変換であることは、線形部分 $T$ が全単射であること、すなわち基底 $u_1,\dots,u_n$ の像 $q_1-q_0,\dots,q_n-q_0$ が $V$ の基底であることと同値である。$\dim V=n$ なので、これは $q_1-q_0,\dots,q_n-q_0$ が線形独立であること、すなわち $q_0,\dots,q_n$ がアフィン枠であることと同値である。$\square$
三角形はどれもアフィン変換で移り合う

$\mathbb{R}^n$ の 2 つのアフィン枠 $(p_0,\dots,p_n)$、$(q_0,\dots,q_n)$ について、$p_i$ を $q_i$ に移すアフィン変換がただ 1 つある。とくに平面の任意の 2 つの三角形 $ABC$、$A'B'C'$ について、$A,B,C$ をそれぞれ $A',B',C'$ に移すアフィン変換がただ 1 つある。また、アフィン枠の各点を動かさないアフィン変換は恒等変換だけである。

thm-aff-frame の 1 と 2 を $W=V$ に使えばよい。最後の主張は $q_i=p_i$ の場合の一意性である。中点連結定理 の定理「1 つの三角形で確かめれば足りる」は、この系を三角形 $(0,0)$、$(1,0)$、$(0,1)$ に使ったものである。四角形については同じことは成り立たない。平面のアフィン変換は平行四辺形を平行四辺形に移すので(prop-aff-preserve の 2)、正方形を平行四辺形でない台形に移すアフィン変換はない。

アフィン変換で保たれる量

$f(x)=Tx+b$ を $V$ のアフィン変換とする。

  1. $f$ は $k$ 次元のアフィン部分空間 $a+U$ を $k$ 次元のアフィン部分空間 $f(a)+T(U)$ に全単射に移す。とくに直線を直線に、平面を平面に移す。
  2. 平行な(方向の部分空間が等しい)アフィン部分空間は、平行なアフィン部分空間に移る。
  3. 4 点 $x,y,z,w$ が $z-w=\lambda(y-x)$($\lambda\in K$)を満たすなら、$f(z)-f(w)=\lambda\bigl(f(y)-f(x)\bigr)$ である。とくに、同じ直線上または平行な直線上の 2 つの線分の長さの比、線分の内分点・中点は保たれる。
  4. $K=\mathbb{R}$ のとき、$f$ は凸集合を凸集合に移し、有限個の点の重心 $\frac1m\sum x_i$ を像の重心に移す。
線形部分で差を移す

すべて $f(y)-f(x)=T(y-x)$ から出る。

  1. $f(a+u)=f(a)+T(u)$ なので $f(a+U)=f(a)+T(U)$ である。$T$ は単射なので $\dim T(U)=\dim U=k$ であり、$f$ は単射なので $a+U$ から像への全単射である。
  2. 方向が等しい $a+U$ と $a'+U$ の像は、方向がともに $T(U)$ である。
  3. $f(z)-f(w)=T(z-w)=T(\lambda(y-x))=\lambda T(y-x)=\lambda(f(y)-f(x))$ である。$\lambda$ は 2 つの線分の(向きを込めた)長さの比であり、内分点 $(1-t)x+ty$ の像が $(1-t)f(x)+tf(y)$ であることはアフィン結合が保たれることの特別な場合である。
  4. 凸集合については 凸集合 の記事の命題「アフィン写像による像と逆像」による。重心 $\sum\frac1mx_i$ は係数の和が $1$ のアフィン結合なので、像は $\sum\frac1mf(x_i)$ である。$\square$

面積と体積は保たれないが、その 比 は保たれる。平面のアフィン変換 $x\mapsto Ax+b$ は、平行四辺形と三角形の面積を $|\det A|$ 倍する(平行移動は面積を変えず、線形部分については 1次変換と行列式:面積の拡大率 の定理「行列式は符号付き面積の拡大率」)。$\mathbb{R}^n$ でも、Lebesgue 可測集合の測度は $|\det A|$ 倍になる(Lebesgue測度 の記事の注意「$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度の性質」。この記事では証明しない)。倍率が図形によらないので、2 つの図形の面積の比は変わらない。三角形の面積比の問題が、cor-aff-triangles で計算しやすい三角形に移して解けるのはこのためである(三角形の面積比)。

固定点

固定点をもつ条件

$f(x)=Tx+b$ を有限次元の $V$ のアフィン変換とする。$1$ が $T$ の固有値でなければ、$f$ はただ 1 つの固定点 $c$ をもち、$f(x)=c+T(x-c)$ と書ける。すなわち $f$ は $c$ を原点とみたときの線形変換である。

1 次方程式を解く

$f(c)=c$ は $(\mathrm{id}-T)c=b$ と同値である。$1$ が $T$ の固有値でないことは $\mathrm{id}-T$ が単射であること、有限次元では全単射であることと同値なので、解 $c=(\mathrm{id}-T)^{-1}b$ がただ 1 つある。このとき $f(x)-c=f(x)-f(c)=T(x-c)$ である。$\square$

たとえば相似拡大 $x\mapsto\lambda x+b$($\lambda\ne1$)の固定点 $c=b/(1-\lambda)$ は相似の中心である。$1$ が固有値なら固定点がないこともあり、平行移動($b\ne0$)やすべり鏡映 $(x,y)\mapsto(x+1,\,-y)$ がその例である。

アフィン幾何の基本定理

アフィン変換は直線を直線に移す(prop-aff-preserve の 1)。実数の空間では逆が成り立ち、「直線を直線に移す全単射」というまったく幾何的な条件だけで、アフィン変換が特徴づけられる。証明の最後に、実数体の性質が次の形で効く。

実数体の自己同型は恒等写像だけ

写像 $\sigma\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ が $\sigma(s+t)=\sigma(s)+\sigma(t)$、$\sigma(st)=\sigma(s)\sigma(t)$、$\sigma(1)=1$ を満たすなら、$\sigma$ は恒等写像である。

有理数を固定し、順序を保つ

加法性から $\sigma(0)=0$、$\sigma(-t)=-\sigma(t)$ であり、$\sigma(1)=1$ と合わせて整数 $m$ について $\sigma(m)=m$ である。整数 $q\ne0$ について $q\,\sigma(p/q)=\sigma(q)\sigma(p/q)=\sigma(p)=p$ なので、有理数 $r$ について $\sigma(r)=r$ である。
$t\ge0$ なら $\sigma(t)=\sigma(\sqrt t)^2\ge0$ である。よって $s\le t$ なら $\sigma(t)-\sigma(s)=\sigma(t-s)\ge0$ であり、$\sigma$ は大小を保つ。実数 $a$ と、$r< a< s$ を満たす有理数 $r,s$ について $r=\sigma(r)\le\sigma(a)\le\sigma(s)=s$ である。$r,s$ はいくらでも $a$ に近くとれるので $\sigma(a)=a$ である。$\square$

アフィン幾何の基本定理

$n\ge2$ とし、$f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ を全単射とする。どの直線 $L$ についても像 $f(L)$ が直線であるならば、$f$ はアフィン変換である。

平面・平行・和・スカラー倍の順に保たれることを示す

方針:直線の行き先から平行四辺形が保たれることを導き、和を保つことを示す。スカラー倍については、各直線の上に誘導される写像が実数体の自己同型になることを示し、lem-aff-real-automorphism を使う。
段 0(原点を固定する)。平行移動は直線を直線に移すアフィン変換なので、$f$ の代わりに $t_{-f(0)}\circ f$ を考えれば、$f(0)=0$ と仮定してよい。$f$ は単射なので、異なる直線は異なる直線に移り、交わらない 2 直線の像は交わらない。
段 1(平面は平面の中に移る)。点 $p$ で交わる異なる 2 直線 $L_1,L_2$ と、それらを含む平面 $\Pi$ をとる。$f(L_1)$ と $f(L_2)$ は $f(p)$ で交わる異なる 2 直線なので、それらを含む平面 $\Pi'$ がある。$x\in\Pi$ について $f(x)\in\Pi'$ を示す。$x\in L_1\cup L_2$ なら明らかなので、$x\notin L_1\cup L_2$ とする。$L_1$ の点 $q_1\ne p$ で、直線 $xq_1$ が $L_2$ に平行でないものをとる(直線 $xq_1$ が $L_2$ に平行になる $q_1$ は、$x$ を通り $L_2$ に平行な直線と $L_1$ の交点の高々 1 つである)。直線 $M:=xq_1$ は $\Pi$ に含まれ $L_2$ に平行でないので、$L_2$ と 1 点 $q_2$ で交わる。$q_1\notin L_2$($q_1\ne p$ だから)なので $q_1\ne q_2$ であり、$M$ は $q_1$ と $q_2$ を通る直線である。像 $f(M)$ は異なる 2 点 $f(q_1)\in f(L_1)$、$f(q_2)\in f(L_2)$ を通る直線なので $\Pi'$ に含まれ、$f(x)\in f(M)\subset\Pi'$ である。
段 2(平行線は平行線に移る)。$L,M$ を異なる平行な 2 直線とし、それらを含む平面を $\Pi$、$L$ と $M$ の両方に交わる $\Pi$ の直線を $N$ とする。$\Pi$ は交わる 2 直線 $L,N$ を含む平面なので、段 1 により $f(\Pi)$ は $f(L)$ と $f(N)$ を含む平面 $\Pi'$ に含まれる。よって $f(L)$ と $f(M)$ は同じ平面 $\Pi'$ の上の交わらない 2 直線であり、平行である(平面の中で交わらない相異なる 2 直線は平行である。アフィン部分空間 の記事の節「交わりと結び」)。
段 3(線形独立性は保たれる)。$x,y$ が線形独立なら $f(x),f(y)$ も線形独立である。実際、$f$ は直線 $\mathbb{R}x$ を $0=f(0)$ と $f(x)$ を通る直線 $\mathbb{R}f(x)$ の上へ全単射に移す。$f(y)\in\mathbb{R}f(x)$ なら $f(y)=f(z)$ となる $z\in\mathbb{R}x$ があり、単射性から $y=z\in\mathbb{R}x$ となって矛盾する。
段 4(和を保つ)。$x,y$ が線形独立なとき、$0,x,x+y,y$ は平行四辺形の 4 頂点で、直線 $0x$ と直線 $y(x+y)$、直線 $0y$ と直線 $x(x+y)$ はそれぞれ平行である。段 2 により、$f(x+y)$ は $f(y)$ を通り $\mathbb{R}f(x)$ に平行な直線と、$f(x)$ を通り $\mathbb{R}f(y)$ に平行な直線の上にある。よって $f(x+y)=f(y)+\alpha f(x)=f(x)+\beta f(y)$ と書け、段 3 の線形独立性から $\alpha=\beta=1$、すなわち $f(x+y)=f(x)+f(y)$ である。
$x,y$ が線形従属なときを考える。$x=0$ または $y=0$ なら明らかなので、$x,y\ne0$ とし、$n\ge2$ を使って $z\notin\mathbb{R}x$ をとる。$y\in\mathbb{R}x$ なので、$x$ と $y+z$、$y$ と $z$、$-x$ と $z$、$x$ と $-x+z$ はどれも線形独立である。$x+y\ne0$ のときは $x+y$ と $z$ も線形独立なので、線形独立な場合の結果を繰り返し使って
$$ f(x+y)+f(z)=f(x+y+z)=f(x)+f(y+z)=f(x)+f(y)+f(z) $$
となり、$f(x+y)=f(x)+f(y)$ である。$x+y=0$ のときは $f(z)=f(x+(-x+z))=f(x)+f(-x)+f(z)$ から $f(-x)=-f(x)$ であり、$f(x+y)=f(0)=0=f(x)+f(y)$ である。
段 5(スカラー倍を保つ)。$x\ne0$ について、$f$ は $\mathbb{R}x$ を $\mathbb{R}f(x)$ の上へ全単射に移すので、全単射 $\sigma_x\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ が $f(\lambda x)=\sigma_x(\lambda)f(x)$ で定まる。段 4 から $\sigma_x$ は加法的で、$\sigma_x(1)=1$ である。$\sigma_x$ が $x$ によらないことを示す。$x,y$ が線形独立なら、
$$ \sigma_{x+y}(\lambda)\bigl(f(x)+f(y)\bigr)=f(\lambda x+\lambda y)=\sigma_x(\lambda)f(x)+\sigma_y(\lambda)f(y) $$
と段 3 から $\sigma_x(\lambda)=\sigma_{x+y}(\lambda)=\sigma_y(\lambda)$ である。$x,y\ne0$ が線形従属なら、$z\notin\mathbb{R}x$ をとって $\sigma_x=\sigma_z=\sigma_y$ である。そこで共通の写像を $\sigma$ と書くと、$\mu\ne0$ について
$$ \sigma(\lambda\mu)f(x)=f(\lambda\mu x)=\sigma(\lambda)f(\mu x)=\sigma(\lambda)\sigma(\mu)f(x) $$
なので $\sigma(\lambda\mu)=\sigma(\lambda)\sigma(\mu)$ であり、$\mu=0$ でも両辺は $0$ である。lem-aff-real-automorphism により $\sigma$ は恒等写像で、$f(\lambda x)=\lambda f(x)$ である。
段 6(まとめ)。段 4・5 により、$f(0)=0$ と仮定した $f$ は線形写像で、全単射なので $\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})$ の元である。段 0 の平行移動を戻せば、もとの $f$ はアフィン変換である。$\square$

一般の体 $K$ の上では、同じ証明の段 0〜5 から「$f(x)=T(x)+b$ で、$T$ は加法的かつ $T(\lambda x)=\sigma(\lambda)T(x)$($\sigma$ は $K$ の自己同型)」という形が得られる。このような $f$ を 半アフィン変換 という(段 1 では直線が 3 点以上を含むこと、すなわち $K\ne\mathbb{F}_2$ を使う)。実数体では lem-aff-real-automorphism により半アフィン変換はアフィン変換に限る。
基本定理の仮定は、どれを外しても結論が成り立たなくなる。各行は 1 つの条件だけを破る。

外す条件反例成り立たなくなること
$n\ge2$$n=1$ で $f(x)=x^3$$\mathbb{R}$ の直線は $\mathbb{R}$ 自身だけで、どの全単射も直線を直線に移すが、$f$ はアフィンでない
体が $\mathbb{R}$$\mathbb{C}^2$ で $f(z,w)=(\bar z,\bar w)$複素直線 $\{a+\lambda d\}$ を複素直線 $\{\bar a+\mu\bar d\}$ に移す全単射だが、$f(\lambda x)=\bar\lambda f(x)$ で $\mathbb{C}$ 上のアフィン変換でない
体が $\mathbb{R}$$\mathbb{F}_2^3$ の任意の全単射直線は 2 点集合なので、$8!=40320$ 個の全単射がすべて直線を直線に移すが、アフィン変換は $8\times168=1344$ 個しかない
$f$ は全単射$f(x,y)=(x^3+y,\ 0)$どの直線も $x$ 軸の上へ移る($x$ が動く直線では 3 次式、$x$ が一定の直線では 1 次式がすべての実数値をとる)が、$f$ はアフィンでない

3 行目の $168$ は $|\mathrm{GL}_3(\mathbb{F}_2)|=(8-1)(8-2)(8-4)$、$8$ は平行移動の個数である。

補足

原点のないアフィン空間

集合 $E$ に $K$ 上のベクトル空間 $V$ が平行移動として作用し、任意の 2 点 $P,Q\in E$ に対し $P+v=Q$ となる $v\in V$ がただ 1 つある($v=\overrightarrow{PQ}$ と書く)とき、$E$ を $V$ を方向にもつアフィン空間という(アフィン部分空間 の記事の注意「抽象的なアフィン空間との関係」)。$E$ の点の和は意味をもたないが、係数の和が $1$ のアフィン結合 $\sum\lambda_iP_i:=P+\sum\lambda_i\overrightarrow{PP_i}$ は基準点 $P$ によらずに定まる。アフィン結合を保つ写像をアフィン写像という。基準点 $O\in E$ を 1 つ選ぶと $E$ は $V$ と同一視され、この記事の定義に戻る。代数幾何学で多項式環から作る アフィン空間 は別の対象である。

文献

$\mathbb{R}^n$ のアフィン写像 $x\mapsto Ax+b$ と、それが凸性を保つことは BV04 §2.3.2(p. 36)にある。部分空間の平行移動とアフィン結合は Axl24 §3E(pp. 99–104)にある。

関連項目

参考文献

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