Bertrandの仮説

同義語:ベルトランの仮説Bertrand's postulateBertrand–Chebyshevの定理

概要

Bertrandの仮説(Bertrand's postulate)とは、任意の正の整数 $n$ に対して $n<p\leq2n$ を満たす素数 $p$ が存在するという定理である。$n\geq2$ なら $n<p<2n$ と書いてもよい。たとえば $10$ と $20$ の間には $11,13,17,19$ がある。1845 年に Bertrand が予想し、1850 年に Chebyshev が証明した。Erdős の初等的な証明は、区間 $(n,2n]$ の素数がすべて二項係数 $\binom{2n}{n}$ をちょうど 1 回割ることと、$\binom{2n}{n}\geq4^n/(2n)$ という大きさの評価を組み合わせる。系として連続する素数は $p_{k+1}<2p_k$ を満たす。素数の間隔は有界でないが、倍率 $2$ の区間には必ず素数がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 素数, 二項係数, 素因数分解, 床関数, 対数関数
$10$ と $20$ の間には素数 $11,13,17,19$ がある。$25$ と $50$ の間には $29,31,37,41,43,47$ があり、$1$ と $2$ の間($2$ を含める)には $2$ がある。どんな正の整数 $n$ を選んでも、$n$ より大きく $2n$ 以下の素数が必ず 1 つはある、というのが Bertrand の仮説である。1845 年に Bertrand が数表で確かめて予想し、Chebyshev が 1850 年に証明したので、「仮説」という名前のまま定理になっている。証明の鍵は二項係数 $\binom{2n}{n}$ にある。たとえば
$$ \binom{20}{10}=184756=2^2\cdot11\cdot13\cdot17\cdot19 $$
であり、$10$ と $20$ の間の素数 $11,13,17,19$ がちょうど 1 回ずつ現れ、$3,5,7$ は現れない。$\binom{2n}{n}$ はおよそ $4^n$ という大きな数なので、もし $n$ と $2n$ の間に素数がなければ小さい素数だけでこの大きさを作らなければならず、それが不可能だと示すのが Erdős の証明である。素数の間隔はいくらでも大きくなりうる(ex-bertrand-postulate-long-gap)が、「2 倍にすれば必ず次の素数に届く」ことをこの定理は保証する。

定理

以下、$p$ は素数を表す。

Bertrand–Chebyshevの定理

任意の正の整数 $n$ に対し、$n< p\leq2n$ を満たす素数 $p$ が存在する。

定理の言い換え

$n\geq2$ のとき $2n$ は偶数で $2$ より大きいので素数でない。したがって $n\geq2$ については、定理は「$n< p<2n$ を満たす素数 $p$ が存在する」と同じである。$n=1$ では開区間 $(1,2)$ に整数がないので、この形では $n\geq2$ の仮定が必要であり、$n=1$ の場合は $p=2$ が $1< p\leq2$ を満たす。素数計数関数 $\pi(x)$($x$ 以下の素数の個数)を使えば、定理は $\pi(2n)-\pi(n)\geq1$($n\geq1$)と書ける。
実数 $x\geq1$ についても、$(x,2x]$ に素数がある。実際 $n:=\lfloor x\rfloor$ とすると、$n< p\leq2n$ となる素数 $p$ があり、$p\geq n+1>x$ かつ $p\leq2n\leq2x$ である。ここで $\lfloor x\rfloor$ は $x$ 以下の最大の整数(床関数)である。
この定理は証明されているが、歴史的な経緯から「Bertrand の仮説」(Bertrand's postulate)の名で呼ばれることが多い。証明は「証明」の節で与える。$n<512$ の場合を prop-bertrand-postulate-small-n で、$n\geq512$ の場合を prop-bertrand-postulate-large-n で示し、この 2 つを合わせて定理が従う。

例と反例

小さな n での確認

$n$ と、$n< p\leq2n$ を満たす素数の一覧は次のとおりである。
$$ \begin{array}{c|l} n & n< p\leq2n \text{ の素数}\\ \hline 1 & 2\\ 2 & 3\\ 3 & 5\\ 4 & 5,\ 7\\ 5 & 7\\ 10 & 11,\ 13,\ 17,\ 19\\ 25 & 29,\ 31,\ 37,\ 41,\ 43,\ 47 \end{array} $$
$n=100$ では $(100,200]$ に $21$ 個、$n=1000$ では $(1000,2000]$ に $135$ 個の素数がある。$n$ が大きくなると区間の中の素数は増えていくが、定理が保証するのは少なくとも 1 個あることだけである。

反例:素数を含まない長い区間

固定した長さの区間には、素数がないことがある。$k\geq2$ に対し、$k+1$ 個の連続する整数の積 $(k+1)!$(階乗)を使って
$$ (k+1)!+2,\ (k+1)!+3,\ \dots,\ (k+1)!+(k+1) $$
という $k$ 個の連続する整数を作ると、$(k+1)!+j$($2\leq j\leq k+1$)は $j$ で割り切れ、$j<(k+1)!+j$ なので合成数である。たとえば $k=4$ では $122,123,124,125$ がすべて合成数である。したがって、ある定数 $L$ があって「すべての $n$ で $(n,n+L]$ に素数がある」ということは成り立たない。満たす性質は「$(n,2n]$ に素数がある」(Bertrand の仮説)、満たさない性質は「長さ $L$ の区間 $(n,n+L]$ に素数がある」であり、破る含意は「素数の間隔は有界である」である。Bertrand の仮説は区間の長さを $n$ に比例して伸ばすことで、この障害を避けている。

反例:2 倍を 1.5 倍にすると小さい n で破れる

$(n,2n]$ を $(n,\tfrac32n]$ に縮めると、小さい $n$ では素数がないことがある。$n=7$ では $(7,10.5]$ の整数 $8,9,10$ はどれも合成数である。$n=1$ でも $(1,1.5]$ に整数がない。満たす性質は「$(n,2n]$ に素数がある」、満たさない性質は「$(n,\tfrac32n]$ に素数がある」であり、破る含意は「倍率を $2$ より小さくしても定理はすべての $n$ で成り立つ」である。ただし 素数定理 を使うと、十分大きい $x$ に限れば、倍率 $2$ はいくらでも $1$ に近づけられる(prop-bertrand-postulate-pnt)。

中央二項係数の素因数

$$ \binom{10}{5}=252=2^2\cdot3^2\cdot7,\qquad \binom{20}{10}=184756=2^2\cdot11\cdot13\cdot17\cdot19. $$
$n=5$ では $(5,10]$ の素数 $7$ が 1 回現れ、$(\tfrac{10}3,5]$ の素数 $5$ は現れない。$2^2=4$ と $3^2=9$ はどちらも $2n=10$ 以下である。$n=10$ では $(10,20]$ の素数 $11,13,17,19$ が 1 回ずつ現れ、$(\tfrac{20}3,10]$ の素数 $7$ は現れず、$3$ と $5$ も現れない。$2^2=4\leq20$ である。これらはすべて lem-bertrand-postulate-central-exponent の主張の例である。

証明

Erdős による証明(1932 年)を、AZ18 Chapter 2 の筋に沿って述べる(小さい $n$ の扱いと数値の閾値は本記事で選んだ)。同じく $\binom{2n}{n}$ を使う別の形の証明が Sho08 §5.2(pp. 108–110)にある。正の整数 $m$ と素数 $p$ に対し、$m$ の素因数分解における $p$ の指数を $v_p(m)$ と書く。素因数分解の一意性(素数 の記事の定理「算術の基本定理」)により $v_p(ab)=v_p(a)+v_p(b)$ であり、$a/b$ が整数なら $v_p(a/b)=v_p(a)-v_p(b)$ である。$\log$ は自然対数とする。

補題

階乗に含まれる素数の指数

$n\geq0$ を整数、$p$ を素数とすると
$$ v_p(n!)=\sum_{k\geq1}\left\lfloor\frac{n}{p^k}\right\rfloor $$
である。右辺は $p^k>n$ となる $k$ について $0$ になるので、実際には有限和である。

倍数の個数を数える

$v_p(n!)=\sum_{j=1}^nv_p(j)$ であり、$v_p(j)$ は $p^k\mid j$ となる $k\geq1$ の個数に等しい。よって
$$ v_p(n!)=\sum_{j=1}^n\#\{k\geq1: p^k\mid j\}=\sum_{k\geq1}\#\{1\leq j\leq n: p^k\mid j\} $$
である。$1$ 以上 $n$ 以下の $p^k$ の倍数は $p^k,2p^k,\dots,\lfloor n/p^k\rfloor p^k$ の $\lfloor n/p^k\rfloor$ 個なので、主張を得る。$\square$

この公式は Legendreの公式 と呼ばれる。たとえば $v_3(30!)=10+3+1=14$ である(Mos11 Lemma 4, pp. 21–22)。

中央二項係数における素数の指数

$n\geq1$ を整数、$p$ を素数とし、$v:=v_p\!\left(\binom{2n}{n}\right)$ とおく。

  1. $v=\displaystyle\sum_{k\geq1}\left(\left\lfloor\frac{2n}{p^k}\right\rfloor-2\left\lfloor\frac{n}{p^k}\right\rfloor\right)$ であり、各項は $0$ または $1$ で、$p^k>2n$ となる $k$ の項は $0$ である。
  2. $p^{v}\leq2n$ である。
  3. $p>\sqrt{2n}$ ならば $v\leq1$ である。
  4. $p>\sqrt{2n}$ かつ $\tfrac{2n}{3}< p\leq n$ ならば $v=0$ である。
  5. $n< p\leq2n$ ならば $v=1$ である。
床関数の差を調べる

1:$\binom{2n}{n}=\dfrac{(2n)!}{(n!)^2}$ なので、lem-bertrand-postulate-legendre により $v=v_p((2n)!)-2v_p(n!)$ は式のとおりである。実数 $y\geq0$ について、$y=\lfloor y\rfloor+t$($0\leq t<1$)と書くと $\lfloor2y\rfloor=2\lfloor y\rfloor+\lfloor2t\rfloor$ であり、$0\leq2t<2$ から $\lfloor2t\rfloor\in\{0,1\}$ である。$y=n/p^k$ とすれば各項が $0$ または $1$ であることが分かる。$p^k>2n$ なら $\lfloor2n/p^k\rfloor=\lfloor n/p^k\rfloor=0$ である。
2:$p^K\leq2n< p^{K+1}$ となる整数 $K\geq0$ をとると、1 により $0$ でない項は $k=1,\dots,K$ の高々 $K$ 個なので $v\leq K$ であり、$p^v\leq p^K\leq2n$ である。
3:$p>\sqrt{2n}$ なら $p^2>2n$ なので、1 により $k\geq2$ の項は $0$ であり、$v$ は $k=1$ の項だけで $v\leq1$ である。
4:3 により $v=\lfloor2n/p\rfloor-2\lfloor n/p\rfloor$ である。$\tfrac{2n}3< p\leq n$ から $1\leq n/p<\tfrac32$、$2\leq 2n/p<3$ なので、$\lfloor n/p\rfloor=1$、$\lfloor2n/p\rfloor=2$ であり、$v=2-2=0$ である。
5:$p>n\geq1$ と $p\geq2$ から $p^2>pn\geq2n$ なので、3 と同様に $v=\lfloor2n/p\rfloor-2\lfloor n/p\rfloor$ である。$n< p\leq2n$ から $\lfloor n/p\rfloor=0$、$1\leq2n/p<2$ から $\lfloor2n/p\rfloor=1$ なので $v=1$ である。$\square$

中央二項係数の下からの評価

すべての整数 $n\geq1$ について
$$ \binom{2n}{n}\geq\frac{4^n}{2n} $$
である。

二項係数の和の中で最大

$0\leq j<2n$ について $\binom{2n}{j+1}\Big/\binom{2n}{j}=\dfrac{2n-j}{j+1}$ は $j\leq n-1$ のとき $1$ より大きく、$j\geq n$ のとき $1$ より小さい。よって $\binom{2n}{j}$($0\leq j\leq2n$)の最大値は $\binom{2n}{n}$ である。また $n\geq1$ なら $\binom{2n}{0}+\binom{2n}{2n}=2\leq\binom{2n}{n}$ である($\binom{2n}{n}\geq\binom{2n}{1}=2n\geq2$)。二項定理により
$$ 4^n=(1+1)^{2n}=\left(\binom{2n}{0}+\binom{2n}{2n}\right)+\sum_{j=1}^{2n-1}\binom{2n}{j}\leq\binom{2n}{n}+(2n-1)\binom{2n}{n}=2n\binom{2n}{n} $$
である。$\square$

素数の積の上からの評価

すべての整数 $m\geq1$ について、$m$ 以下の素数すべての積は
$$ \prod_{p\leq m}p\leq4^{m-1} $$
を満たす($m=1$ では左辺は空の積で $1$ とする)。

奇数の場合を二項係数で押さえる帰納法

$P(m):=\prod_{p\leq m}p$ とおき、$m$ に関する強い帰納法で示す。$m=1$ では $P(1)=1=4^0$、$m=2$ では $P(2)=2\leq4$ である。
$m\geq3$ とし、$m$ 未満では主張が成り立つとする。$m$ が偶数なら $m$ は素数でないので $P(m)=P(m-1)\leq4^{m-2}<4^{m-1}$ である。
$m=2r+1$($r\geq1$)が奇数の場合を考える。$B:=\binom{2r+1}{r}=\dfrac{(2r+1)!}{r!\,(r+1)!}$ とおく。$r+2\leq p\leq2r+1$ を満たす素数 $p$ は、分子 $(2r+1)!$ を割るが、分母 $r!\,(r+1)!$ の因子はすべて $r+1$ 以下で $p$ より小さいので分母を割らない(素数 の記事の補題「Euclidの補題」)。よって $p\mid B$ であり、相異なる素数の積 $\prod_{r+2\leq p\leq2r+1}p$ も $B$ を割るので、その値は $B$ 以下である。一方 $\binom{2r+1}{r}=\binom{2r+1}{r+1}$ はどちらも $(1+1)^{2r+1}=2^{2r+1}$ の展開に現れる項なので $2B\leq2^{2r+1}$、すなわち $B\leq4^r$ である。帰納法の仮定を $r+1< m$ に使うと
$$ P(2r+1)=P(r+1)\prod_{r+2\leq p\leq2r+1}p\leq4^{r}\cdot4^{r}=4^{2r}=4^{m-1} $$
となる。$\square$

小さい n の場合

511 以下の n での成立

$1\leq n\leq511$ ならば、$n< p\leq2n$ を満たす素数 $p$ が存在する。

2 倍未満で並ぶ素数の列

次の 11 個の数
$$ q_0=2,\ q_1=3,\ q_2=5,\ q_3=7,\ q_4=13,\ q_5=23,\ q_6=43,\ q_7=83,\ q_8=163,\ q_9=317,\ q_{10}=631 $$
はすべて素数であり(それぞれ平方根以下の素数で割り切れないことを確かめればよい。たとえば $631$ は $2,3,5,7,11,13,17,19,23$ のいずれでも割り切れず、$29^2=841>631$ である)、各 $i$ について $q_{i+1}<2q_i$ である($3<4$、$5<6$、$7<10$、$13<14$、$23<26$、$43<46$、$83<86$、$163<166$、$317<326$、$631<634$)。
$n=1$ なら $p=q_0=2$ が $1<2\leq2$ を満たす。$2\leq n\leq511$ なら、$q_0=2\leq n<631=q_{10}$ なので、$q_i\leq n< q_{i+1}$ を満たす $i$($0\leq i\leq9$)がただ 1 つある。このとき $p:=q_{i+1}$ について
$$ n< q_{i+1}<2q_i\leq2n $$
であり、$p$ は求める素数である。$\square$

大きい n の場合

512 以上の n での成立

$n\geq512$ ならば、$n< p\leq2n$ を満たす素数 $p$ が存在する。

上下の評価が両立しないこと

$n\geq512$ とし、$n< p\leq2n$ を満たす素数がないと仮定する。
$\binom{2n}{n}$ は $(2n)!$ を割るので、その素因数はすべて $2n$ 以下である。$2n$ 以下の素数 $p$ を次の 4 つの組に分ける。

  • (A) $p\leq\sqrt{2n}$
  • (B) $\sqrt{2n}< p\leq\tfrac{2n}3$
  • (C) $p>\sqrt{2n}$ かつ $\tfrac{2n}3< p\leq n$
  • (D) $n< p\leq2n$
    各素数はちょうど 1 つの組に属する。lem-bertrand-postulate-central-exponent の 2、3、4 により、(A) の素数 $p$ では $p^{v_p}\leq2n$、(B) の素数では $v_p\leq1$、(C) の素数では $v_p=0$ である。仮定により (D) の素数はない。(A) の素数は $\sqrt{2n}$ 以下の正の整数なので高々 $\sqrt{2n}$ 個である。(B) の素数の積は $\lfloor 2n/3\rfloor$ 以下の素数の積以下なので、lem-bertrand-postulate-primorial により $4^{\lfloor2n/3\rfloor-1}\leq4^{2n/3}$ 以下である。したがって
    $$ \binom{2n}{n}=\prod_{p\leq2n}p^{v_p}\leq(2n)^{\sqrt{2n}}\cdot4^{2n/3} $$
    である。これと lem-bertrand-postulate-lower-bound を合わせると $4^n/(2n)\leq(2n)^{\sqrt{2n}}4^{2n/3}$、すなわち
    $$ 4^{n/3}\leq(2n)^{\sqrt{2n}+1} $$
    を得る。両辺の自然対数を取ると、実数 $x>0$ の関数
    $$ f(x):=\frac{x}{3}\log4-\left(\sqrt{2x}+1\right)\log(2x) $$
    について $f(n)\leq0$ となる。
    一方、$x\geq512$ で $f(x)>0$ であることを示す。$x=512$ では $2x=1024=2^{10}$、$\sqrt{2x}=32$ なので
    $$ f(512)=\frac{512}{3}\cdot2\log2-33\cdot10\log2=\left(\frac{1024}3-330\right)\log2=\frac{34}3\log2>0 $$
    である。また
    $$ f'(x)=\frac{\log4}3-\frac{\log(2x)}{\sqrt{2x}}-\frac{\sqrt{2x}+1}{x}=\frac{2\log2}3-\frac{\log(2x)+2}{\sqrt{2x}}-\frac1x $$
    である($\sqrt{2x}/x=2/\sqrt{2x}$ を使った)。$g(t):=(\log t+2)/\sqrt t$ は $g'(t)=-\log t/(2t^{3/2})<0$($t>1$)なので $t>1$ で減少し、$x\geq512$ では $g(2x)\leq g(1024)=(10\log2+2)/32$、$1/x\leq1/512$ である。よって $x\geq512$ で
    $$ f'(x)\geq\frac{2\log2}3-\frac{10\log2+2}{32}-\frac1{512}=\frac{17}{48}\log2-\frac{33}{512} $$
    であり、$\log2>0.69$ から右辺は $0.244-0.065>0$ である。したがって $f$ は $x\geq512$ で増加し、$f(x)\geq f(512)>0$ である。
    これは $f(n)\leq0$ に矛盾する。よって $n< p\leq2n$ を満たす素数が存在する。$\square$

prop-bertrand-postulate-small-n と prop-bertrand-postulate-large-n により thm-bertrand-postulate が証明された。証明の最後の不等式を $n=512$ で見ると、$4^{512/3}=2^{341.33\cdots}$ に対して $(2n)^{\sqrt{2n}+1}=1024^{33}=2^{330}$ であり、左辺がすでに上回っている。$n$ が大きくなると左辺は $n$ の指数関数、右辺はおよそ $e^{\sqrt{2n}\log(2n)}$ の速さでしか増えないので、差は広がる一方である。この差が、「$(n,2n]$ に素数がないと $\binom{2n}{n}$ の大きさを小さい素数だけでは支えきれない」という証明の直感の定量的な形である。

帰結

連続する素数の比

小さい順に $k$ 番目の素数を $p_k$ とすると、すべての $k\geq1$ について $p_{k+1}<2p_k$ である。特に $p_k\leq2^k$ である。

定理を n=p_k に使う

thm-bertrand-postulate を $n=p_k$ に適用すると、$p_k< q\leq2p_k$ を満たす素数 $q$ がある。$2p_k$ は素数でないので $q<2p_k$ であり、$p_{k+1}$ は $p_k$ より大きい最小の素数なので $p_{k+1}\leq q<2p_k$ である。後半は $p_1=2$ から $k$ に関する帰納法で $p_{k+1}<2p_k\leq2^{k+1}$ として従う。$\square$

調和数は整数でない

$n\geq2$ ならば、$H_n:=1+\dfrac12+\dfrac13+\dots+\dfrac1n$ は整数でない。

1 回だけ現れる素数を使う

$m:=\lfloor n/2\rfloor\geq1$ に thm-bertrand-postulate を適用すると、$m< p\leq2m\leq n$ を満たす素数 $p$ がある。$p\geq m+1>n/2$ なので $2p>n$ であり、$1,\dots,n$ のうち $p$ の倍数は $p$ だけである。
$L$ を $1,2,\dots,n$ の最小公倍数とすると、$p\leq n$ なので $p\mid L$ であり、$p^2>p\cdot\tfrac n2\geq n$($p\geq2$ による)なので $1,\dots,n$ のどれも $p^2$ で割り切れず、$v_p(L)=1$ である。$LH_n=\sum_{j=1}^nL/j$ を考えると、$j\neq p$ の項 $L/j$ は $p$ で割り切れ($v_p(j)=0$ なので $v_p(L/j)=1$)、$j=p$ の項 $L/p$ は $p$ で割り切れない($v_p(L/p)=0$)。よって $LH_n$ は $p$ で割り切れない。一方、$H_n$ が整数なら $LH_n$ は $L$ の倍数であり、$p$ で割り切れる。これは矛盾なので、$H_n$ は整数でない。$\square$

$n=1$ では $H_1=1$ は整数であり、仮定 $n\geq2$ は外せない。この系は、Bertrand の仮説の応用として Mos11 p. 26 に挙げられているものの 1 つである。

十分大きい x での狭い区間

素数定理 $\pi(x)\sim x/\log x$($x\to\infty$ で比が $1$ に近づく)を認める。このとき任意の $\varepsilon>0$ に対し $x_0$ が存在して、$x\geq x_0$ ならば $x< p\leq(1+\varepsilon)x$ を満たす素数 $p$ が存在する。

素数定理による個数の比較

$h(x):=x/\log x$ とおくと、$x>1$ で
$$ \frac{h((1+\varepsilon)x)}{h(x)}=\frac{(1+\varepsilon)\log x}{\log x+\log(1+\varepsilon)}\to1+\varepsilon\quad(x\to\infty) $$
である。素数定理により $\pi(x)/h(x)\to1$、$\pi((1+\varepsilon)x)/h((1+\varepsilon)x)\to1$ なので
$$ \frac{\pi((1+\varepsilon)x)-\pi(x)}{h(x)}=\frac{\pi((1+\varepsilon)x)}{h((1+\varepsilon)x)}\cdot\frac{h((1+\varepsilon)x)}{h(x)}-\frac{\pi(x)}{h(x)}\to(1+\varepsilon)-1=\varepsilon>0 $$
である。よってある $x_0$ があって、$x\geq x_0$ では左辺が $\varepsilon/2$ 以上になり、$h(x)>0$ から $\pi((1+\varepsilon)x)-\pi(x)>0$、すなわち $(x,(1+\varepsilon)x]$ に素数がある。$\square$

この命題は、素数定理が Bertrand の仮説よりはるかに強いことを示している。ただし $x_0$ の大きさはこの議論からは分からず、ex-bertrand-postulate-three-halves のように小さい $x$ では成り立たないことがある。素数定理を使わない明示的な改良もある。Chebyshev 自身の評価から、$\varepsilon>1/5$ なら十分大きいすべての $x$ で $(x,(1+\varepsilon)x)$ に素数があることが従い、この $1/5$ は後に Sylvester らによって小さくされた(Dic19 Chapter XVIII, p. 435)。また、$(m,2m]$ にある素数の個数そのものについて、すべての $m\geq1$ で $\pi(2m)-\pi(m)>m/(3\log(2m))$ という下からの評価が成り立つ(Sho08 Theorem 5.8, pp. 108–110)。

補足

Bertrand は 1845 年、600 万までの数について、$n>6$ ならば $n-2$ と $n/2$ の間に素数があることを確かめた。Chebyshev は $x$ 以下の素数の対数の和を上下から評価し、その系として $x>3$ ならば $x$ と $2x-2$ の間に素数があることを示した(1850 年の論文、Dic19 Chapter XVIII, p. 435)。Chebyshev の仕事は素数定理の方向の評価($\pi(x)$ が $x/\log x$ の定数倍で上下から挟まれること)も含んでおり(Mos11 p. 20)、この評価と素数定理の関係は 素数定理 の記事で扱う。二項係数 $\binom{2n}{n}$ だけを使う短い証明は Ramanujan(1919 年)が与え、Erdős が 1932 年に本記事で述べた形に整えた(AZ18 Chapter 2)。Mos11 Theorem 6(pp. 25–26)は、同じ種類の議論で $3\cdot2^{2r-1}< p<3\cdot2^{2r}$ を満たす素数の存在を示している。
Bertrand の仮説を強めた問題のうち、「連続する 2 つの平方数 $k^2$ と $(k+1)^2$ の間に素数が必ずあるか」(Legendre の予想)は未解決である(Mos11 Classical Unsolved Problems 第 13 問、p. 73)。左端を $x$ とすると、$(x,2x]$ の長さは $x$ だが、$x=k^2$ に対する $(k^2,(k+1)^2)$ の長さは $2k+1=2\sqrt x+1$ しかなく、Bertrand の仮説からは従わない。

関連項目

参考文献

[1]
Martin Aigner and Günter M. Ziegler, Proofs from THE BOOK, 6th ed., Springer, 2018, Chapter 2(Bertrand's postulate:Erdős の証明)
[3]
Leonard Eugene Dickson, History of the Theory of Numbers, Volume I: Divisibility and Primality, Carnegie Institution of Washington, 1919, Chapter XVIII(Theory of prime numbers), p. 435(Bertrand's postulate の節:Bertrand の数値的確認、Chebyshev の証明、Sylvester らによる改良)

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