Stolz–Cesàroの定理(Stolz–Cesàro theorem)とは、数列の比の極限を差の比から求める定理である。$(b_n)$ が狭義単調増加で $b_n\to+\infty$ のとき、$\frac{a_{n+1}-a_n}{b_{n+1}-b_n}$ が $L$(実数か $\pm\infty$)に収束すれば、$\frac{a_n}{b_n}$ も $L$ に収束する。$a_n,b_n\to0$ で $(b_n)$ が狭義単調減少のときも、$L$ が実数なら同じ結論が成り立つ。l'Hôpital の定理の数列版で、$b_n=n$ とすると「収束する数列の平均は同じ値に収束する」になる。和の公式がない和にも使え、たとえば $p>-1$ で $\frac{1^p+\cdots+n^p}{n^{p+1}}\to\frac{1}{p+1}$ が得られる。逆は成り立たない。
前提知識: 数列の平均の極限, 数列の和と差分, l'Hôpitalの定理(高校数学), 極限とε-δ
$1^3+2^3+\cdots+n^3$ は、$n$ が大きいとき $n^4$ のおよそ何倍だろうか。和の公式が分かっていれば、答えはすぐに出る。
和の公式 $1^3+2^3+\cdots+n^3=\left(\dfrac{n(n+1)}2\right)^2$ を使うと
$$
\frac{1^3+2^3+\cdots+n^3}{n^4}=\frac{n^2(n+1)^2}{4n^4}=\frac14\left(1+\frac1n\right)^2\to\frac14
$$
である。$n=1,2,3,10,100$ での値は $1$、$0.5625$、$0.4444\ldots$、$0.3025$、$0.255025$ である。
では、和の公式が知られていない和ならどうか。
$a_n=\sqrt1+\sqrt2+\cdots+\sqrt n$、$b_n=n^{3/2}=n\sqrt n$ とする。$a_n$ を $n$ の簡単な式で書く公式はない。比 $\dfrac{a_n}{b_n}$ を計算機で求めると、次のようになる(小数第 4 位で丸めた)。
| $n$ | $1$ | $2$ | $10$ | $100$ | $1000$ | $10^4$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| $\dfrac{a_n}{b_n}$ | $1$ | $0.8536$ | $0.7105$ | $0.6715$ | $0.6672$ | $0.6667$ |
| $\dfrac{a_{n+1}-a_n}{b_{n+1}-b_n}$ | $0.7735$ | $0.7315$ | $0.6824$ | $0.6683$ | $0.6668$ | $0.6667$ |
どちらの行も $\dfrac23=0.6666\ldots$ に近づいているように見える。2 行目は、分子と分母の「1 歩ぶんの増え方」の比である。分子の増え方は $a_{n+1}-a_n=\sqrt{n+1}$ で、和ではなく 1 つの項なので、式で扱いやすい。
ex-stz-sqrt-sum の表の 2 行目が $\dfrac23$ に近づけば、1 行目も $\dfrac23$ に近づくと言えないだろうか。関数では、分子と分母の変化の速さ(導関数)の比から元の比の極限が分かることがあった(l'Hôpitalの定理(高校数学))。この記事はその数列版を扱う。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 階差数列 $a_{n+1}-a_n$ | 差分 $\Delta a_n$ | 差分作用素 |
| 増え方の比 | 差の比 $\dfrac{\Delta a_n}{\Delta b_n}$ | 離散版の導関数の比 |
| 前の記事の平均の極限 | $b_n=n$ の場合 | Cesàro 平均 |
| l'Hôpital の定理 | その数列版 | Stolz–Cesàro の定理 |
数列 $(a_n)$ に対し、$\Delta a_n=a_{n+1}-a_n$ を $(a_n)$ の 差分 という(高校でいう階差数列である)。2 つの数列 $(a_n)$、$(b_n)$ で $\Delta b_n\ne0$ のとき、
$$
\frac{\Delta a_n}{\Delta b_n}=\frac{a_{n+1}-a_n}{b_{n+1}-b_n}
$$
を 差の比 という。
差分の性質(和と差分の関係、べき和の公式との関係)は 数列の和と差分 で扱っている。この記事で使うのは、差分を足し合わせると元の数列の差にもどること
$$
\Delta a_N+\Delta a_{N+1}+\cdots+\Delta a_{n-1}=(a_{N+1}-a_N)+(a_{N+2}-a_{N+1})+\cdots+(a_n-a_{n-1})=a_n-a_N
$$
だけである(途中の項が次々に消える)。
比と差の比は、座標平面の上の傾きとして見ることができる。点 $P_n=(b_n,a_n)$ をとると、比 $\dfrac{a_n}{b_n}$ は原点 $O$ と $P_n$ を結ぶ線分の傾きで、差の比 $\dfrac{\Delta a_n}{\Delta b_n}$ は線分 $P_nP_{n+1}$ の傾きである。
点 P_n を結んだ折れ線の傾きが 1 に近づくと、原点と P_n を結ぶ線分の傾きも 1 に近づく
図 1 は、$b_n=n^2$ とし、最初の 3 本の線分の傾きを $3$、その後の線分の傾きをすべて $1$ にした折れ線である($P_0=(0,0)$ から始める)。$n\ge3$ で $a_n=27+(n^2-9)$ なので、比は $\dfrac{a_n}{b_n}=1+\dfrac{18}{n^2}$ で、$n=4,6,8$ では $2.125$、$1.5$、$1.28125$ と $1$ に近づく。折れ線の傾きがある所から先で $1$ になれば、$P_n$ が遠くへ行くにつれて、原点から見た傾きも $1$ に近づく。最初の 3 本の傾きの影響は、$b_n$ が大きくなると薄まるからである。これを一般の場合に示すのが次の定理である。
収束の定義は 極限とε-δ の定義「数列の収束と極限」を使う。$a_n\to+\infty$ とは、どんな正の数 $M$ に対しても、ある番号から先のすべての $n$ で $a_n>M$ となることで、$a_n\to-\infty$ は $-a_n\to+\infty$ のことである(数列の平均の極限 の注意「この記事で使う極限の定義と性質」と同じ)。
数列 $(a_n)$、$(b_n)$ が次の 2 つの条件を満たすとする。
(R1) $(b_n)$ は狭義単調増加(すべての $n$ で $b_n< b_{n+1}$)で、$b_n\to+\infty$ である。
(R1) 差の比 $\dfrac{a_{n+1}-a_n}{b_{n+1}-b_n}$ が $L$ に収束する。ここで $L$ は実数か、$+\infty$ か、$-\infty$ である。
このとき
$$
\frac{a_n}{b_n}\to L
$$
である($b_n\to+\infty$ なので、ある番号から先では $b_n>0$ で、比が定まる)。
条件 (i) の「狭義単調増加」は、差の比の分母 $b_{n+1}-b_n$ がいつも正であることを言っている。分子 $a_n$ については何も仮定しない($a_n\to\pm\infty$ である必要はない)。
方針:$L$ が実数の場合を示す。ある番号 $N$ から先では $\Delta a_k$ が $L\,\Delta b_k$ に近いので、足し合わせると $a_n-a_N$ が $L(b_n-b_N)$ に近くなる。これを $b_n$ で割ると、残る誤差は「番号 $N$ までの分」を $b_n$ で割ったものと、$\varepsilon$ の程度のものになる。数列の平均の極限 の定理「平均の極限」の証明と同じ分け方である。
段 1(番号 $N$ をとる)。正の数 $\varepsilon$ を任意にとる。条件 (ii) により、ある番号 $N$ があって、$k\ge N$ で
$$
\left\lvert\frac{\Delta a_k}{\Delta b_k}-L\right\rvert<\frac\varepsilon2
$$
となる。条件 (i) の $b_n\to+\infty$ により、ある番号から先では $b_n>0$ なので、必要なら $N$ を大きくとり直して $b_N>0$ としておく($N$ を大きくしても上の不等式は $k\ge N$ で成り立ったままである)。
段 2(分母を払って足し合わせる)。条件 (i) より $\Delta b_k>0$ なので、段 1 の不等式に $\Delta b_k$ を掛けても向きは変わらず、$k\ge N$ で
$$
-\frac\varepsilon2\,\Delta b_k<\Delta a_k-L\,\Delta b_k<\frac\varepsilon2\,\Delta b_k
$$
である。$n>N$ として $k=N,N+1,\dots,n-1$ について足すと、差分の和は $\Delta a_N+\cdots+\Delta a_{n-1}=a_n-a_N$、$\Delta b_N+\cdots+\Delta b_{n-1}=b_n-b_N$ となるので
$$
\bigl\lvert(a_n-a_N)-L(b_n-b_N)\bigr\rvert<\frac\varepsilon2\,(b_n-b_N)
$$
である。
段 3($b_n$ で割る)。$a_n-Lb_n=(a_N-Lb_N)+\bigl\{(a_n-a_N)-L(b_n-b_N)\bigr\}$ と分けて、$D=\lvert a_N-Lb_N\rvert$ とおく。$D$ は $N$ だけで決まる一定の数である。$n>N$ では $0< b_N< b_n$ なので $0<\dfrac{b_n-b_N}{b_n}<1$ であり、三角不等式と段 2 から
$$
\left\lvert\frac{a_n}{b_n}-L\right\rvert=\frac{\lvert a_n-Lb_n\rvert}{b_n}\le\frac{D}{b_n}+\frac\varepsilon2\cdot\frac{b_n-b_N}{b_n}<\frac D{b_n}+\frac\varepsilon2
$$
となる。
段 4(残りの誤差を小さくする)。$b_n\to+\infty$ なので、$\dfrac{2D}\varepsilon$ に対して、ある番号 $N'$($N'>N$ にとる)があって、$n\ge N'$ で $b_n>\dfrac{2D}\varepsilon$、すなわち $\dfrac D{b_n}<\dfrac\varepsilon2$ となる($D=0$ なら $N'=N+1$ でよい)。段 3 と合わせて、$n\ge N'$ で
$$
\left\lvert\frac{a_n}{b_n}-L\right\rvert<\frac\varepsilon2+\frac\varepsilon2=\varepsilon
$$
である。$\varepsilon$ は任意だったので $\dfrac{a_n}{b_n}\to L$ である。
$L=\pm\infty$ の場合も同じ分け方で示せる。$\square$
段 1(番号 $N$)。$L=+\infty$ とする。正の数 $M$ を任意にとる。条件 (ii) により、ある番号 $N$ があって、$k\ge N$ で $\dfrac{\Delta a_k}{\Delta b_k}>2M$ となる。必要なら $N$ を大きくとり直して $b_N>0$ とする。
段 2(足し合わせる)。$\Delta b_k>0$ を掛けて $\Delta a_k>2M\,\Delta b_k$、$k=N,\dots,n-1$ について足すと $a_n-a_N>2M(b_n-b_N)$ である。$b_n$ で割ると
$$\frac{a_n}{b_n}>\frac{a_N}{b_n}+2M\left(1-\frac{b_N}{b_n}\right)$$
となる。
段 3($n$ を大きくする)。$b_n\to+\infty$ なので、ある番号から先で $b_n>4b_N$ かつ $b_n>\dfrac{2\lvert a_N\rvert}{M}$ となる。そのような $n$ では $\dfrac{b_N}{b_n}<\dfrac14$、$\dfrac{a_N}{b_n}\ge-\dfrac{\lvert a_N\rvert}{b_n}>-\dfrac M2$ なので、$\dfrac{a_n}{b_n}>-\dfrac M2+2M\cdot\dfrac34=M$ である。$M$ は任意だったので $\dfrac{a_n}{b_n}\to+\infty$ である。
段 4($L=-\infty$)。数列 $(-a_n)$ に $L=+\infty$ の場合を使うと $\dfrac{-a_n}{b_n}\to+\infty$、すなわち $\dfrac{a_n}{b_n}\to-\infty$ である。
3 乗の和の比 a_n/b_n と差の比は、どちらも 1/4 に近づき、差の比の方が先に近づく
図 2 は、ex-stz-cubes の $a_n=1^3+\cdots+n^3$、$b_n=n^4$ について、比と差の比を並べたものである。差の比 $\dfrac{(n+1)^3}{(n+1)^4-n^4}$ と $\dfrac14$ との差は、$n=1,2,3,10$ で $0.2833\ldots$、$0.1653\ldots$、$0.1157\ldots$、$0.0367\ldots$ と小さくなり、比 $\dfrac{a_n}{b_n}$ も後から $\dfrac14$ に近づく。$n=10^4$ では比は $0.2500500025$、差の比は $0.25003749\ldots$ である。
前の記事の定理は、この定理の特別な場合である。
数列 $(a_n)$ が $\alpha$ に収束する($\alpha$ は実数か $\pm\infty$)ならば、$\dfrac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n}\to\alpha$ である。
thm-stz-main を、分子 $A_n=a_1+\cdots+a_n$、分母 $B_n=n$ に使う。$(B_n)$ は狭義単調増加で $B_n\to+\infty$ なので条件 (i) を満たす。差の比は
$$
\frac{A_{n+1}-A_n}{B_{n+1}-B_n}=\frac{a_{n+1}}{1}=a_{n+1}\to\alpha
$$
で、条件 (ii) を満たす。よって $\dfrac{A_n}{B_n}=\dfrac{a_1+\cdots+a_n}n\to\alpha$ である。$\square$
これは 数列の平均の極限 の定理「平均の極限」そのものである。前の記事では $\varepsilon$ と $N$ で直接示したが、thm-stz-main の証明も同じ分け方をしている。分母を $n$ から一般の $b_n$ に広げても、証明の骨組みは変わらない。
分子と分母がどちらも $0$ に近づく「$\dfrac00$ の形」にも、同じ形の定理がある。
数列 $(a_n)$、$(b_n)$ について、$a_n\to0$、$b_n\to0$ で、$(b_n)$ は狭義単調減少($b_n>b_{n+1}$)とする。差の比 $\dfrac{a_{n+1}-a_n}{b_{n+1}-b_n}$ が実数 $L$ に収束するならば、$\dfrac{a_n}{b_n}\to L$ である。
要点:$b_n$ は狭義単調減少で $0$ に近づくので、すべての $n$ で $b_n>0$ である。$k\ge N$ で差の比が $L$ から $\varepsilon$ 未満の所にあるとすると、$n< m$ について $k=n,\dots,m-1$ で足し合わせて $\bigl\lvert(a_m-a_n)-L(b_m-b_n)\bigr\rvert\le\varepsilon(b_n-b_m)$ となる。ここで $m\to\infty$ とすると $a_m\to0$、$b_m\to0$ から $\lvert a_n-Lb_n\rvert\le\varepsilon b_n$、すなわち $n\ge N$ で $\left\lvert\dfrac{a_n}{b_n}-L\right\rvert\le\varepsilon$ となる。$\square$
段 1($b_n>0$)。$b_n$ は狭義単調減少なので、$m>n$ なら $b_m< b_n$ である。$m\to\infty$ とすると $b_m\to0$ なので $0\le b_n$、さらに $b_n>b_{n+1}\ge0$ から $b_n>0$ である。
段 2(足し合わせる)。正の数 $\varepsilon$ をとり、$k\ge N$ で $\left\lvert\dfrac{\Delta a_k}{\Delta b_k}-L\right\rvert<\varepsilon$ となる $N$ をとる。$\Delta b_k<0$ なので、両辺に $\lvert\Delta b_k\rvert=b_k-b_{k+1}$ を掛けると $\lvert\Delta a_k-L\,\Delta b_k\rvert<\varepsilon(b_k-b_{k+1})$ である。$N\le n< m$ として $k=n,\dots,m-1$ について足し、三角不等式を使うと
$$\bigl\lvert(a_m-a_n)-L(b_m-b_n)\bigr\rvert<\varepsilon(b_n-b_m)$$
となる。
段 3($m\to\infty$)。$n$ を固定して $m\to\infty$ とすると、左辺は $\lvert-a_n+Lb_n\rvert$ に、右辺は $\varepsilon b_n$ に近づく。不等式は極限をとると等号つきになる(はさみうちと評価の技法 の反例「極限をとると不等号に等号がつく」)ので、$\lvert a_n-Lb_n\rvert\le\varepsilon b_n$ である。$b_n>0$ で割ると、$n\ge N$ で $\left\lvert\dfrac{a_n}{b_n}-L\right\rvert\le\varepsilon$ となる。$\varepsilon$ は任意なので $\dfrac{a_n}{b_n}\to L$ である($\varepsilon$ の代わりに $\dfrac\varepsilon2$ で同じことをすれば、定義どおりの「$<\varepsilon$」が得られる)。
thm-stz-main が役に立つのは、分子が和 $a_n=c_1+c_2+\cdots+c_n$ の形のときである。和そのものは扱いにくくても、差分 $\Delta a_n=c_{n+1}$ は 1 つの項なので、差の比は計算しやすい。
$p>-1$ を実数とし、$a_n=1^p+2^p+\cdots+n^p$、$b_n=n^{p+1}$ とする。$p+1>0$ なので $(b_n)$ は狭義単調増加で $b_n\to+\infty$ であり、条件 (i) を満たす。差の比は
$$
\frac{\Delta a_n}{\Delta b_n}=\frac{(n+1)^p}{(n+1)^{p+1}-n^{p+1}}
$$
である。分母に、関数 $f(x)=x^{p+1}$ の区間 $[n,n+1]$ での平均値の定理(平均値の定理による差の評価)を使うと、$n< c< n+1$ を満たす $c$ があって
$$
(n+1)^{p+1}-n^{p+1}=f'(c)\cdot1=(p+1)c^p
$$
となる。よって
$$
\frac{\Delta a_n}{\Delta b_n}=\frac1{p+1}\left(\frac{n+1}{c}\right)^p
$$
である。$1<\dfrac{n+1}c<\dfrac{n+1}n=1+\dfrac1n$ なので、$\left(\dfrac{n+1}c\right)^p$ は $1$ と $\left(1+\dfrac1n\right)^p$ の間にある($p\ge0$ なら $1$ 以上、$p<0$ なら $1$ 以下)。$\left(1+\dfrac1n\right)^p\to1$ なので、はさみうちの原理により差の比は $\dfrac1{p+1}$ に収束する。thm-stz-main により
$$
\boxed{\ \frac{1^p+2^p+\cdots+n^p}{n^{p+1}}\to\frac1{p+1}\ }
$$
である。$p=3$ なら ex-stz-cubes の $\dfrac14$、$p=\dfrac12$ なら ex-stz-sqrt-sum の $\dfrac23$ になる。$p=-\dfrac12$ なら $\dfrac{1+\frac1{\sqrt2}+\cdots+\frac1{\sqrt n}}{\sqrt n}\to2$ である。
$p\ge0$ のときは、左辺を $\dfrac1n\displaystyle\sum_{k=1}^n\left(\dfrac kn\right)^p$ と書き直すと区分求積の形になり、極限は $\displaystyle\int_0^1x^p\,dx=\dfrac1{p+1}$ としても求まる(区分求積と積分の定義)。$-1< p<0$ では $x^p$ が $x=0$ の近くで限りなく大きくなるので、高校の定積分の範囲では扱いにくいが、ex-stz-powers の計算は $p$ の符号によらず同じである。
$a_n=H_n=1+\dfrac12+\cdots+\dfrac1n$、$b_n=\log n$ とする。$(b_n)$ は狭義単調増加で $b_n\to+\infty$ である。差の比は
$$
\frac{\Delta a_n}{\Delta b_n}=\frac{\frac1{n+1}}{\log(n+1)-\log n}=\frac{\frac1{n+1}}{\log\left(1+\frac1n\right)}
$$
である。$\log\left(1+\dfrac1n\right)=\displaystyle\int_n^{n+1}\frac{dx}x$ で、$n< x< n+1$ では $\dfrac1{n+1}<\dfrac1x<\dfrac1n$ なので
$$
\frac1{n+1}<\log\left(1+\frac1n\right)<\frac1n
$$
である($n=1$ なら $0.5<0.6931\ldots<1$)。よって差の比は $\dfrac{n}{n+1}$ と $1$ の間にあり、はさみうちの原理により $1$ に収束する。thm-stz-main により $\dfrac{H_n}{\log n}\to1$ である($b_1=0$ なので比は $n\ge2$ で考える)。
| $n$ | $10$ | $100$ | $1000$ | $10^6$ |
|---|---|---|---|---|
| $\dfrac{H_n}{\log n}$ | $1.2720$ | $1.1264$ | $1.0836$ | $1.0418$ |
| 差の比 | $0.9538$ | $0.9950$ | $0.9995$ | $0.9999995$ |
差の比はすぐ $1$ に近づくが、$\dfrac{H_n}{\log n}$ の近づき方はとても遅い。
ex-stz-harmonic の結果は、はさみうちと評価の技法 でも、$H_n$ を $\log$ ではさむ不等式から示している。Stolz–Cesàro の定理を使うと、はさむ不等式を $n$ 項ぶん足し合わせる手間を、定理の証明の中に任せられる。同じ方法で $\log n!$ の大きさも分かる。
$a_n=\log n!=\log1+\log2+\cdots+\log n$、$b_n=n\log n$ とする。$(b_n)$ は狭義単調増加で $b_n\to+\infty$ である。$\Delta a_n=\log(n+1)$、
$$
\Delta b_n=(n+1)\log(n+1)-n\log n=\log(n+1)+n\log\left(1+\frac1n\right)
$$
なので、差の比は
$$
\frac{\Delta a_n}{\Delta b_n}=\frac{1}{1+\dfrac{n\log\left(1+\frac1n\right)}{\log(n+1)}}
$$
である。ex-stz-harmonic の不等式に $n$ を掛けると $\dfrac n{n+1}< n\log\left(1+\dfrac1n\right)<1$ で、分子は $1$ 以下、分母の $\log(n+1)$ は限りなく大きくなるので、分数 $\dfrac{n\log(1+\frac1n)}{\log(n+1)}$ は $0$ に近づく。差の比は $1$ に収束し、thm-stz-main により $\dfrac{\log n!}{n\log n}\to1$ である。値は $n=10,100,1000,10^6$ で $0.6559\ldots$、$0.7898\ldots$、$0.8558\ldots$、$0.9276\ldots$ で、これも近づき方は遅い。$n!$ のもっと詳しい大きさは 階乗の大きさの見積もり で扱う。
$a_n\to\alpha$($\alpha$ は実数)のとき、$A_n=a_1+2a_2+\cdots+na_n$、$B_n=n^2$ とすると
$$
\frac{\Delta A_n}{\Delta B_n}=\frac{(n+1)a_{n+1}}{(n+1)^2-n^2}=\frac{n+1}{2n+1}\,a_{n+1}\to\frac12\cdot\alpha
$$
なので、thm-stz-main により $\dfrac{a_1+2a_2+\cdots+na_n}{n^2}\to\dfrac\alpha2$ である。数列の平均の極限 の演習「重みをつけた平均」と同じ結論が、1 行の計算で得られる。$a_n=1+\dfrac1n$ なら、差の比は $\dfrac{n+2}{2n+1}$ で、$n=10,100$ で $0.5714\ldots$、$0.5074\ldots$ である。
級数 $\displaystyle\sum_{k=1}^\infty\frac1{k^2}$ は収束する(無限級数の和と収束判定)。その「$n$ 番目から先の和」を $a_n=\displaystyle\sum_{k=n}^\infty\frac1{k^2}$ とすると、収束する級数の残りの和なので $a_n\to0$ である(和を $S$、部分和を $s_n$ とすると $a_n=S-s_{n-1}\to S-S=0$)。$b_n=\dfrac1n$ は狭義単調減少で $b_n\to0$ である。
$$
\Delta a_n=a_{n+1}-a_n=-\frac1{n^2},\qquad \Delta b_n=\frac1{n+1}-\frac1n=-\frac1{n(n+1)}
$$
なので、差の比は $\dfrac{n(n+1)}{n^2}=1+\dfrac1n\to1$ である。cor-stz-zero により $\dfrac{a_n}{b_n}=n\displaystyle\sum_{k=n}^\infty\frac1{k^2}\to1$、つまり残りの和はおよそ $\dfrac1n$ である。$n=10,100,1000$ で $n\,a_n=1.0516\ldots$、$1.0050\ldots$、$1.0005\ldots$ である。
thm-stz-main は、関数の極限の l'Hôpitalの定理(高校数学) と同じ形をしている。導関数を差分に、関数の変数 $x$ を番号 $n$ に置きかえた対応である。
| l'Hôpital の定理 | Stolz–Cesàro の定理 | |
|---|---|---|
| 考える比 | $\dfrac{f(x)}{g(x)}$($x\to a$ など) | $\dfrac{a_n}{b_n}$($n\to\infty$) |
| 変化を表すもの | 導関数 $f'(x)$、$g'(x)$ | 差分 $\Delta a_n$、$\Delta b_n$ |
| 分母の仮定 | $a$ の近くで $g'(x)\ne0$ | $\Delta b_n>0$(狭義単調増加) |
| 形 | $\dfrac00$ の形 | $b_n\to+\infty$ の形(系で $\dfrac00$ の形) |
| 証明の道具 | Cauchy の平均値の定理 | 差分の和(途中が消える和)と $\varepsilon$–$N$ |
| 逆 | 成り立たない | 成り立たない(ex-stz-cx-converse) |
l'Hôpital の定理の証明では、Cauchy の平均値の定理で $\dfrac{f(x)}{g(x)}$ を途中の点での $\dfrac{f'(c)}{g'(c)}$ に書きかえた。数列には「途中の点」がないので、代わりに差の比を足し合わせて、「折れ線の傾きの重みつきの平均が原点からの傾きになる」(図 1)ことを使う。実際、段 2 の式から
$$
\frac{a_n-a_N}{b_n-b_N}=\frac{\Delta a_N+\cdots+\Delta a_{n-1}}{\Delta b_N+\cdots+\Delta b_{n-1}}
$$
は、差の比 $\dfrac{\Delta a_k}{\Delta b_k}$ を重み $\Delta b_k$ で平均したものである。
thm-stz-main の仮定を外したり、逆向きの主張を考えたりすると、次のように崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 差の比が収束する(仮定を「比が収束する」に替える) | $a_n=(-1)^n$、$b_n=n$ | 差の比が収束する |
| 条件 (i) の単調増加 | $a_n=n$、$b_n$ は $n$ が偶数なら $n$、奇数なら $3n$ | $\dfrac{a_n}{b_n}\to0$ |
| 条件 (i) の $b_n\to+\infty$ | $a_n=2-\dfrac1n$、$b_n=1-\dfrac1n$ | $\dfrac{a_n}{b_n}\to1$ |
$a_n=(-1)^n$、$b_n=n$ とする。$\left\lvert\dfrac{a_n}{b_n}\right\rvert=\dfrac1n\to0$ なので比は $0$ に収束する。しかし差の比は
$$
\frac{(-1)^{n+1}-(-1)^n}{(n+1)-n}=2(-1)^{n+1}
$$
で、$2$ と $-2$ をくり返し、収束しない。比が収束しても、差の比が収束するとは限らない。
$a_n=n$ とし、$b_n$ を $n$ が偶数なら $n$、奇数なら $3n$ と定める($b_1=3$、$b_2=2$、$b_3=9$、$b_4=4,\dots$)。$b_n\ge n$ なので $b_n\to+\infty$ だが、$b_1>b_2$ のように単調でない。差分は、$n$ が奇数なら $\Delta b_n=(n+1)-3n=1-2n$、偶数なら $\Delta b_n=3(n+1)-n=2n+3$ で、どちらでも $\lvert\Delta b_n\rvert\ge2n-1$ である。$\Delta a_n=1$ なので
$$
\left\lvert\frac{\Delta a_n}{\Delta b_n}\right\rvert\le\frac1{2n-1}\to0
$$
で、差の比は $0$ に収束する。ところが比 $\dfrac{a_n}{b_n}$ は、$n$ が偶数なら $1$、奇数なら $\dfrac13$ で、収束しない($0$ にも近づかない)。
$a_n=2-\dfrac1n$、$b_n=1-\dfrac1n$ とする。$(b_n)$ は狭義単調増加だが、$1$ に収束し、$+\infty$ には発散しない。$\Delta a_n=\Delta b_n=\dfrac1n-\dfrac1{n+1}$ なので、差の比はいつも $1$ で、$1$ に収束する。ところが比は、$n\ge2$ で
$$
\frac{a_n}{b_n}=\frac{2n-1}{n-1}=2+\frac1{n-1}\to2
$$
で、$1$ ではない。
b_n が単調でないと、点が左右に行き来し、原点からの傾きが 1 と 1/3 をくり返す
b_n が有界だと、どの線分の傾きも 1 なのに、原点からの傾きは 2 に近づく
図 3 と図 4 を図 1 と比べると、条件 (i) の役割が分かる。図 1 では点 $P_n$ が右へ右へと限りなく進むので、最初の部分の影響が薄まった。図 3 では点が左右に行き来し、差の比の分母 $\Delta b_n$ が大きく正と負をくり返す。図 4 では点が $(1,2)$ に集まるだけで遠くへ行かない。定理の証明の段 3 の一定の数 $D$(ここでは $a_n-b_n=1$ という一定のずれ)を、大きくならない $b_n$ で割っても小さくならないので、比は差の比と同じ値に近づかない。
$a_1=1$、$a_{n+1}=a_n+\dfrac1{a_n}$ で定まる数列について、$\dfrac{a_n^2}{n}\to2$ を示せ。
段 1($a_n\to+\infty$)。帰納法ですべての $a_n$ は正で、$a_{n+1}-a_n=\dfrac1{a_n}>0$ なので単調増加である。もし上に有界なら、単調有界数列として極限 $\beta$($\beta\ge a_1=1$)をもち、漸化式で $n\to\infty$ として $\beta=\beta+\dfrac1\beta$、すなわち $\dfrac1\beta=0$ となって矛盾する。よって上に有界でなく、単調増加なので $a_n\to+\infty$ である。
段 2(Stolz–Cesàro)。分子を $a_n^2$、分母を $n$ とする。差分は $a_{n+1}^2-a_n^2=\left(a_n+\dfrac1{a_n}\right)^2-a_n^2=2+\dfrac1{a_n^2}$ で、段 1 から $2$ に収束する。分母 $n$ の差分は $1$ なので、thm-stz-main により $\dfrac{a_n^2}n\to2$ である。したがって $\dfrac{a_n}{\sqrt{2n}}\to1$ で、$a_n$ はおよそ $\sqrt{2n}$ の速さで大きくなる。
数値:$n=10,100,1000,10^6$ で $\dfrac{a_n^2}n=2.088\ldots$、$2.020\ldots$、$2.003\ldots$、$2.000006\ldots$ である。
$a_n\to\alpha$($\alpha$ は実数)のとき、$\dfrac{1}{\log n}\left(\dfrac{a_1}1+\dfrac{a_2}2+\cdots+\dfrac{a_n}n\right)\to\alpha$ を示せ。
分子を $A_n=\dfrac{a_1}1+\cdots+\dfrac{a_n}n$、分母を $B_n=\log n$ とする。$(B_n)$ は狭義単調増加で $B_n\to+\infty$ である。差の比は
$$\frac{\Delta A_n}{\Delta B_n}=\frac{\frac{a_{n+1}}{n+1}}{\log\left(1+\frac1n\right)}=a_{n+1}\cdot\frac{\frac1{n+1}}{\log\left(1+\frac1n\right)}$$
で、ex-stz-harmonic で示したとおり後ろの因数は $1$ に収束するので、差の比は $\alpha\cdot1=\alpha$ に収束する。thm-stz-main により $\dfrac{A_n}{B_n}\to\alpha$ である。$a_n=1$ とすると ex-stz-harmonic の $\dfrac{H_n}{\log n}\to1$ になる。
数列の和と差分 で見たとおり、差分と和の関係($\Delta a_N+\cdots+\Delta a_{n-1}=a_n-a_N$)は、微分と積分の関係($\displaystyle\int_N^n f'(x)\,dx=f(n)-f(N)$)の離散版である。この対応で見ると、Stolz–Cesàro の定理は l'Hôpital の定理の離散版で、どちらも「変化の比が $L$ に近づけば、積み重ねた量の比も $L$ に近づく」という同じ内容を述べている。和と積分の違いの大きさそのものは 和と積分の差 で、和を積分で見積もる考え方は 積分と和の類似 で扱う。
大学の解析学では、差の比が収束しない場合にも使える形(上極限と下極限による不等式)や、関数の $\dfrac{\infty}{\infty}$ の形の l'Hôpital の定理も学ぶ。この記事ではどちらも扱わない。
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