尖点(特異点)

同義語:通常尖点cusp (singularity)ordinary cusp

概要

尖点(特異点)(cusp)とは、平面曲線の二重点のうち、接線がただ 1 本の二重接線で、その接線との接触の位数がちょうど $3$ であるもののことで、$y^2=x^3$ の原点が典型である。尖点であることは接線方向での 3 次の項が消えないことで判定でき、尖点の近くで曲線は冪級数の意味でも 2 つの枝に分かれない。尖点をもつ平面 3 次曲線は、標数が $3$ でなければ射影変換で $Y^2Z=X^3$ に移り、その非特異点の全体は弦と接線の法則で加法群 $\mathbb{G}_a$ と同型な群をなす。これは楕円曲線の加法的還元として現れる退化である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数曲線, 特異点, 射影平面

尖点(cusp)は、平面曲線の特異点のうち、曲線がその点で折り返して尖るものである。典型は $y^2=x^3$ の原点で、実数の点を描くと 2 本の弧 $y=\pm x^{3/2}$ が $x$ 軸に接しながら原点で合わさり、とがった形になる。媒介変数表示 $t\mapsto(t^2,t^3)$ では、動点が原点で一瞬止まって向きを変える。
代数的には、尖点は「重複度 $2$ の点で、接線がただ 1 本の二重接線であり、その接線との接触の位数がちょうど $3$ である点」として定まる(cusp-def)。この条件は 3 次の項の 1 つの係数で判定でき(cusp-thm-criterion)、尖点を通る枝はただ 1 本である(cusp-thm-unibranch)。この点で、2 本の枝が交わる結節点(node)と異なる。尖点をもつ平面 3 次曲線は、標数が $3$ でなければ座標変換で $Y^2Z=X^3$ に移り(cusp-thm-cubic)、その非特異点の全体は弦と接線の法則で加法群 $\mathbb{G}_a$ と同型な群になる(cusp-thm-additive)。これは楕円曲線が加法的還元をもつときに現れる退化である。

定義

$k$ を体とし、アフィン平面曲線は定数でない多項式 $f\in k[x,y]$ で与える。点 $P=(a,b)\in k^2$ で $f(P)=0$ とする。$f(x+a,y+b)$ を斉次成分に分けて
$$ f(x+a,y+b)=f_m+f_{m+1}+\cdots+f_n\qquad(f_d\text{ は }d\text{ 次の斉次多項式},\ f_m\neq0) $$
と書くとき、$m=:m_P(f)$ を $P$ での重複度、最低次の成分 $f_m$ の 1 次因子が定める $P$ を通る直線を $P$ での接線という(Ful08 §3.1)。$m_P(f)\ge2$ である点が特異点であり(代数曲線 の定理「Jacobi の判定法(平面曲線)」)、$m_P(f)=2$ の点を二重点という。
$P$ を通る直線 $L=\{P+sv\mid s\in k\}$($v\in k^2$、$v\neq0$)に対し、
$$ I(P,f\cap L):=\operatorname{ord}_{s=0}f(P+sv) $$
とおく。ここで $\operatorname{ord}_{s=0}$ は 1 変数多項式が $s=0$ で消える位数で、$f(P+sv)$ が恒等的に $0$($L$ が曲線に含まれる)ときは $\infty$ とする。$v$ を $\lambda v$($\lambda\in k^\times$)に取り替えても位数は変わらないので、これは $P$ と $L$ だけで決まる。この値は $P$ における $f$ と $L$ の局所交点数に等しい(Ful08 Problem 3.21、局所交点数)。

尖点

$f\in k[x,y]$、$P\in k^2$、$f(P)=0$ とする。$P$ が $f$ の尖点(cusp)、詳しくは通常尖点(ordinary cusp)であるとは、次の 3 条件が成り立つことをいう。

  1. $m_P(f)=2$ である(二重点)。
  2. ある $c\in k^\times$ と $0$ でない 1 次斉次式 $\ell\in k[x,y]$ によって $f_2=c\,\ell^2$ と書ける。すなわち $P$ での接線はただ 1 本の直線 $L:=\{P+(x,y)\mid\ell(x,y)=0\}$ で、二重接線である。
  3. $I(P,f\cap L)=3$ である。

この定義は Ful08 Problem 3.22 の定義を、体が代数閉とは限らない場合に書いたものである。代数閉体上では 2 は「接線がただ 1 本」と同じであり、$f_2$ が $k$ 上で既約な 2 次式(たとえば $\mathbb{R}$ 上の $x^2+y^2$)のときは 2 が成り立たない。

定義についての注意
  1. 座標によらない。 平面のアフィン変換 $x\mapsto Ax+u$($A$ は可逆行列)は、斉次成分の次数、最低次の成分の 1 次因子、直線の上の多項式の位数を保つので、3 条件はアフィン変換で不変である。そこで以下ではしばしば $P=(0,0)$、$\ell=y$ とする。
  2. 標数が $2$ でないとき、$f_2=\alpha x^2+\beta xy+\gamma y^2\neq0$ について条件 2 は $\beta^2-4\alpha\gamma=0$ と同値である。実際 $\beta^2=4\alpha\gamma$ なら、$\alpha\neq0$ のとき $f_2=\alpha\bigl(x+\tfrac{\beta}{2\alpha}y\bigr)^2$、$\alpha=0$ のとき $\beta=0$ で $f_2=\gamma y^2$ である。逆に $f_2=c(px+qy)^2$ なら $\beta^2-4\alpha\gamma=4c^2p^2q^2-4c^2p^2q^2=0$ である。
  3. $f_2$ が相異なる 2 つの 1 次式(互いに定数倍でないもの)の積になる二重点を結節点(node)という。代数閉体上では、これは接線が 1 本でない二重点と同じである(Ful08 §3.1。代数曲線 の例「結節点と尖点」)。
  4. 重複度の高い場合。 $m_P(f)=m\ge2$ で接線がただ 1 本、その接線との位数が $m+1$ の点を、Ful08 Problem 3.23 は hypercusp と呼ぶ(例:$y^3=x^4$ の原点)。この記事の尖点は $m=2$ の場合である。$y^2=x^5$ の原点は接線 $y=0$ との位数が $5$ なので、この記事の意味の尖点でない(cusp-ex-higher)。
尖点という語のほかの意味

「尖点」は数学のいくつかの分野で別の対象の名前にも使われる。この記事の尖点は曲線の特異点の意味である。

  • モジュラー曲線の尖点。 合同部分群 $\Gamma\subset\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$ について、$\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})$ の $\Gamma$ 軌道は上半平面の商 $\mathbb{H}/\Gamma$ をコンパクト化するときに付け加える点に対応し、これを $\Gamma$ の尖点(cusp)という。尖点で消えるモジュラー形式を尖点形式(cusp form)という(Sil09 付録 C §12、pp. 437–438)。特異点とは関係がない。
  • 尖点表現。 有限簡約群や局所体上の簡約群の表現論の尖点表現(尖点表現)は、放物型誘導から得られない表現のことで、別の概念である。
  • 微積分のグラフの尖点。 関数 $y=x^{2/3}$ のグラフは原点でとがる。これは曲線 $y^3=x^2$ の実数の点であり、この記事の意味で原点は尖点である($f=y^3-x^2$ は $f_2=-x^2$、接線 $x=0$、$f(0,s)=s^3$)。サイクロイド(サイクロイド)やカージオイド(カージオイド)の尖った点も、媒介変数表示の速度が $0$ になる点として同じ形をしている。

直感

$y^2=x^3$ を例にとる。原点での最低次の成分は $y^2$ なので接線は $y=0$ だけであり、しかもそれは「二重に」数えられる。原点を通る直線 $y=\lambda x$ との交わりは $f(s,\lambda s)=\lambda^2s^2-s^3$ で、$\lambda\neq0$ なら位数 $2$、接線 $\lambda=0$ に限り位数 $3$ になる。二重点を通る直線は必ず位数 $2$ 以上で曲線と交わり、接線はそれより高い位数で交わる。尖点はこの接線の位数がちょうど $3$ という、二重点の中でもっとも単純な「接線 1 本」の状況である。
媒介変数表示 $\gamma(t)=(t^2,t^3)$ は $y^2=x^3$ を全部たどる。速度 $\gamma'(t)=(2t,3t^2)$ は $t=0$ で $0$ になり、動点は $x$ 軸に接する向きから入ってきて同じ向きへ戻っていく。結節点 $y^2=x^2(x+1)$ の媒介変数表示 $(t^2-1,t(t^2-1))$ は原点を $t=\pm1$ の 2 回通る。尖点は「枝が 1 本だが滑らかでない」点、結節点は「滑らかな枝が 2 本交わる」点である。この違いは正規化で尖点の上に 1 点、結節点の上に 2 点が現れることにも表れる(正規化 の例「尖点の正規化」「結節点の二つの枝」)。

判定

尖点の判定

$f\in k[x,y]$、$P\in k^2$ が cusp-def の条件 1・2 をみたすとし、接線 $L$ の方向ベクトルを $v\neq0$($\ell(v)=0$)とする。$f(x+a,y+b)$ の 3 次の斉次成分を $f_3$ と書く。

  1. $I(P,f\cap L)\ge3$ である。
  2. $P$ が尖点であることと $f_3(v)\neq0$ は同値である。
    とくに $P=(0,0)$、$\ell=y$ で $f=\sum_{i,j}a_{ij}x^iy^j$ と書くとき、$P$ が尖点であることと $x^3$ の係数 $a_{30}$ が $0$ でないことは同値である。

平行移動して $P=(0,0)$ としてよい。$f=f_2+f_3+\cdots+f_n$ であり、斉次性から $f_d(sv)=s^df_d(v)$ なので
$$ f(sv)=s^2f_2(v)+s^3f_3(v)+s^4f_4(v)+\cdots+s^nf_n(v) $$
である。条件 2 から $f_2(v)=c\,\ell(v)^2=0$ なので、$f(sv)=s^3f_3(v)+(s^4\text{ 以上の項})$ となる。よって位数は $3$ 以上であり、ちょうど $3$ であることは $f_3(v)\neq0$ と同値である。最後の主張は $v=(1,0)$ のとき $f_3(v)=a_{30}$ であることによる。$\square$

この定理は Ful08 Problem 3.22 (a)(b) の内容である(同書は代数閉体上で、$x^3$ の係数を 3 階微分 $f_{xxx}(P)=6a_{30}$ で述べている。標数 $2$・$3$ では $6=0$ なので、係数で述べるほうが標数によらない)。

基本の尖点 $y^2=x^3$

$f=y^2-x^3$ と $P=(0,0)$ では $f_2=y^2$、$a_{30}=-1$ なので、cusp-thm-criterion により原点はどの標数でも尖点である。原点以外の点は特異点でない(代数曲線 の例「結節点と尖点」、標数 $2$・$3$ を含めた確かめは cusp-prop-cubic-singular)。座標環 $k[x,y]/(y^2-x^3)$ は $x\mapsto t^2$、$y\mapsto t^3$ により $k[t^2,t^3]\subset k[t]$ と同型で、正規化は $\mathbb{A}^1\to C$、$t\mapsto(t^2,t^3)$ である(正規化 の例「尖点の正規化」)。この正規化は点の上で全単射だが同型でない(代数曲線 の例「反例:尖点の正規化は全単射だが同型でない」)。原点の Zariski 接空間は 2 次元で、局所環は正則でない(特異点 の例「節点と尖点の一次判定」)。

Weierstrass 方程式の尖点

$k$ を代数閉体とし、Weierstrass 方程式
$$ f=y^2+a_1xy+a_3y-x^3-a_2x^2-a_4x-a_6 $$
の定める曲線が特異点 $P=(x_0,y_0)$ をもつとする。$P$ では $f$ と 2 つの偏微分が消えるので $f(x+x_0,y+y_0)$ には定数項も 1 次の項もなく、2 次の成分は $y^2$ の係数が $1$ なので $(y-\alpha x)(y-\beta x)$($\alpha,\beta\in k$)と分解する。Sil09 III.1(p. 44)は $\alpha=\beta$ のとき $P$ を cusp と呼ぶ。この場合 $P$ は cusp-def の意味の尖点である。実際、3 次の成分は平行移動で変わらない $f$ の 3 次の部分 $-x^3$ であり、接線 $y=\alpha x$ の方向 $v=(1,\alpha)$ について $f_3(v)=-1\neq0$ なので、cusp-thm-criterion が当てはまる。Weierstrass 方程式の曲線が尖点をもつことは、判別式 $\Delta$ と $c_4$ がともに $0$ であることと同値である(Sil09 Proposition III.1.4、p. 45。この記事では証明しない)。楕円曲線(楕円曲線)の極小 Weierstrass 方程式を素イデアルを法として還元した曲線が尖点をもつとき、その楕円曲線は加法的還元(additive reduction)をもつという(Sil09 VII.5、p. 196)。名前の由来は cusp-thm-additive にある。

枝がただ 1 本であること

尖点の局所的な特徴は、曲線が尖点の近くで 2 つ以上の部分に分かれないことである。これを形式的冪級数環 $k[\![x,y]\!]$ での既約性として述べる。$k[\![x,y]\!]$ は整域であり、その単元は定数項が $0$ でない冪級数である。冪級数 $g\neq0$ の最低次の斉次成分を $\operatorname{in}(g)$、その次数を $\operatorname{ord}(g)$ と書くと、$k[x,y]$ が整域であることから $\operatorname{in}(gh)=\operatorname{in}(g)\operatorname{in}(h)$、$\operatorname{ord}(gh)=\operatorname{ord}(g)+\operatorname{ord}(h)$ である。

尖点を通る枝はただ 1 本

$P=(0,0)$ が $f\in k[x,y]$ の尖点なら、$f$ は $k[\![x,y]\!]$ で既約である。すなわち、$f=gh$($g,h\in k[\![x,y]\!]$)と書けば $g$ か $h$ は単元である。とくに、$f$ を $k[x,y]$ で既約因子に分解したとき、原点で消える既約因子はちょうど 1 つで、その重複度は $1$ である。

cusp-rem-def の 1 により、$\ell=y$ としてよい。$f=gh$ で $g,h$ がともに単元でないとする。単元でない冪級数は定数項が $0$ なので $\operatorname{ord}(g),\operatorname{ord}(h)\ge1$ であり、$\operatorname{ord}(g)+\operatorname{ord}(h)=\operatorname{ord}(f)=2$ から $\operatorname{ord}(g)=\operatorname{ord}(h)=1$ である。最低次の成分について $\operatorname{in}(g)\operatorname{in}(h)=f_2=c\,y^2$ であり、$k[x,y]$ は一意分解整域で $y$ は素元なので、$\operatorname{in}(g)=\beta y$、$\operatorname{in}(h)=\gamma y$($\beta,\gamma\in k^\times$)である。
$y=0$ を代入する環準同型 $k[\![x,y]\!]\to k[\![x]\!]$ を考える。$g=\beta y+(\text{2 次以上の項})$ なので $g(x,0)$ は $x^2$ で割り切れ、同様に $h(x,0)$ も $x^2$ で割り切れる。よって $f(x,0)=g(x,0)h(x,0)$ は $x^4$ で割り切れる。一方、尖点の条件 3 により $f(x,0)$ は $s=x$ の多項式として位数がちょうど $3$ である。これは矛盾である。
後半:$f=\prod_jp_j^{e_j}$ を $k[x,y]$ での既約分解とする。原点で消える因子が 2 つ以上ある、または原点で消える因子 $p$ の重複度が $2$ 以上なら、$f$ は $k[\![x,y]\!]$ で単元でない 2 つの元の積に書ける($p_j(0,0)=0$ の因子を 2 組に分ける)。これは前半に反する。$f(0,0)=0$ なので原点で消える因子は少なくとも 1 つある。$\square$

後半の主張は Ful08 Problem 3.22 (c) の内容である。前半はそれより強く、尖点の近くで曲線が冪級数の意味でも 2 つの部分に分かれないことを述べている。たとえば結節点 $y^2=x^2(1+x)$ は $k[x,y]$ で既約だが、標数が $2$ でなければ $1+x$ は $k[\![x]\!]$ で平方根 $u$ をもち、$y^2-x^2(1+x)=(y-xu)(y+xu)$ と $k[\![x,y]\!]$ で分解する。尖点ではこのような分解が起こらない。
この定理の 3 つの仮定のうち、条件 2 と 3 はどちらも外せない。

外す条件反例成り立たなくなること
条件 2(接線がただ 1 本)$f=y^2-x^2-x^3$(標数 $\neq2$。二重点で接線は $y=\pm x$ の 2 本、各接線との位数は $f(s,\pm s)=-s^3$ でちょうど $3$)$k[\![x,y]\!]$ での既約性($k[x,y]$ では既約だが、上のとおり $(y-xu)(y+xu)$ と分解する)
条件 3(接線との位数が 3)$f=y^2-x^4=(y-x^2)(y+x^2)$(標数 $\neq2$。二重点で接線は $y=0$ の 1 本、位数は $4$)原点を通る既約因子がちょうど 1 つであること(したがって $k[\![x,y]\!]$ での既約性も)

2 行目の曲線の原点は 2 本の放物線が接する点で、tacnode と呼ばれる。いずれの行でも条件 1(二重点)は成り立っている。条件 1 だけを外す行はない。条件 2 は $f_2\neq0$ を要求するので、条件 1 だけを外すと $m_P(f)=1$ となり、最低次の次数が $1$ の冪級数は単元でない 2 つの元の積に書けない(次数の和が $1$ にならない)ので、結論は崩れないからである。

位数 5 の場合

$f=y^2-x^5$ の原点は二重点で、接線は $y=0$ の 1 本だが、$f(s,0)=-s^5$ なので位数は $5$ であり、この記事の意味の尖点でない。それでも $f$ は $k[\![x,y]\!]$ で既約であり、原点は「枝が 1 本の特異点」である。

既約であることの確かめ

実際、$f=gh$ で $g,h$ がともに単元でないとすると、cusp-prf-unibranch の前半と同じく $\operatorname{in}(g)=\beta y$、$\operatorname{in}(h)=\gamma y$($\beta,\gamma\neq0$)である。環準同型 $\varphi\colon k[\![x,y]\!]\to k[\![t]\!]$、$x\mapsto t^2$、$y\mapsto t^5$ を考えると、$\varphi(f)=t^{10}-t^{10}=0$ である。$g=\sum g_{ij}x^iy^j$ について $\varphi(g)=\sum g_{ij}t^{2i+5j}$ であり、$2i+5j=5$ となる $(i,j)$ は $(0,1)$ だけなので、$\varphi(g)$ の $t^5$ の係数は $g_{01}=\beta\neq0$ である。同様に $\varphi(h)\neq0$ である。$k[\![t]\!]$ は整域なので $\varphi(g)\varphi(h)\neq0$ となり、$\varphi(f)=0$ に反する。


このように、「枝が 1 本」という性質は尖点より広い特異点でも成り立つ。cusp-thm-unibranch の条件 3 は、枝が 1 本であることの十分条件として使われているのであって、必要条件ではない。

尖点をもつ 3 次曲線

射影平面 $\mathbb{P}^2_k$(射影平面)の曲線は、定数でない斉次多項式 $F\in k[X,Y,Z]$ で与える。点 $[X:Y:Z]$ がアフィン部分 $Z\neq0$ にあるときは $f(x,y)=F(x,y,1)$ で、$Y\neq0$ にあるときは $F(x,1,z)$ で考え、特異点・尖点・直線との位数はそのアフィン部分で定める(どのアフィン部分で計算しても同じ値になることは Ful08 §5.1 による。以下の計算では各点で 1 つのアフィン部分だけを使う)。

曲線 $Y^2Z=X^3$ の特異点

$k$ を任意の体とし、$C:=V(Y^2Z-X^3)\subset\mathbb{P}^2_k$ とする。$C$ の特異点は $S:=[0:0:1]$ だけであり、$S$ は尖点で、接線は $Y=0$ である。$C$ の点で $Y=0$ をみたすものは $S$ だけである。

$Y=0$ なら $X^3=0$ より $X=0$ なので、$C\cap\{Y=0\}=\{S\}$ である。したがって $S$ 以外の点はアフィン部分 $Y\neq0$ にあり、そこで $C$ は $g(x,z):=z-x^3=0$ で与えられる。$\partial g/\partial z=1$ はどこでも $0$ でないので、これらの点は特異点でない(代数曲線 の定理「Jacobi の判定法(平面曲線)」)。$S$ はアフィン部分 $Z\neq0$ の原点で、そこで $C$ は $y^2-x^3=0$ であり、cusp-ex-basic により接線 $y=0$ の尖点である。$\square$

尖点をもつ 3 次曲線の標準形

$k$ を標数が $3$ でない体、$F\in k[X,Y,Z]$ を 3 次の斉次多項式とし、$\mathbb{P}^2_k$ の点 $P\in V(F)(k)$ が $V(F)$ の尖点で、その接線が $k$ 上の直線であるとする。このとき $k$ 上の可逆な線形変換 $N$ と $\lambda\in k^\times$ があって、$F=\lambda\,(G\circ N)$、$G:=Y^2Z-X^3$ となる。とくに射影変換 $N$ は $V(F)$ を $C=V(G)$ に移し、$V(F)$ は既約で、その特異点は $P$ だけである。

$k$ 上の射影変換で $P=[0:0:1]$、接線を $Y=0$ にしてよい(尖点であること・接線・位数は線形変換で保たれる。cusp-rem-def の 1)。$F$ を $Z$ の冪で分けて
$$ F=Z^3F_0+Z^2F_1(X,Y)+ZF_2(X,Y)+F_3(X,Y)\qquad(F_d\text{ は }d\text{ 次の斉次式}) $$
と書くと、$f(x,y)=F(x,y,1)=F_0+F_1+F_2+F_3$ であり、これが $f$ の原点での斉次成分の分解である。原点が尖点なので $F_0=0$、$F_1=0$、$F_2=a\,Y^2$($a\neq0$)であり、cusp-thm-criterion により $F_3$ の $X^3$ の係数は $0$ でない。そこで
$$ F=aY^2Z-bX^3-cX^2Y-dXY^2-eY^3\qquad(a,b\in k^\times,\ c,d,e\in k) $$
と書ける。
1 段目:標数が $3$ でないので $t:=-c/(3b)$ がとれる。$X=X'+tY$ と置くと、$-b(X'+tY)^3-c(X'+tY)^2Y$ の $X'^2Y$ の係数は $-3bt-c=0$ である。よって新しい座標 $(X',Y,Z)$ で
$$ F=aY^2Z-bX'^3-d'X'Y^2-e'Y^3\qquad(d',e'\in k) $$
となる。
2 段目:$F=Y^2(aZ-d'X'-e'Y)-bX'^3$ と書き直し、$Z':=(aZ-d'X'-e'Y)/b$ と置くと、$F=b(Y^2Z'-X'^3)$ である。
$(X,Y,Z)\mapsto(X',Y,Z')=(X-tY,\ Y,\ (aZ-d'(X-tY)-e'Y)/b)$ は、変数を $(Y,X,Z)$ の順に並べると係数行列が下三角で対角成分が $1,1,a/b$ の線形変換なので可逆であり、これを $N$ とすれば $F=b\,(G\circ N)$ である。最後の主張は、$G$ が $Z$ について 1 次で係数 $Y^2$ と $X^3$ が互いに素なので $k[X,Y,Z]$ で既約であることと、cusp-prop-cubic-singular による。$\square$

この定理は Ful08 Problem 5.10(p. 55)の内容である(同書は代数閉体上で述べている)。証明で標数 $3$ でないことを使うのは 1 段目だけである。

非特異点のなす加法群

$C=V(Y^2Z-X^3)$、$S=[0:0:1]$ とし、非特異点の集合を $C^\circ:=C\setminus\{S\}$、$O:=[0:1:0]$ とおく。cusp-prop-cubic-singular の証明のとおり、$C^\circ$ はアフィン部分 $Y\neq0$ に含まれ、そこでの座標 $x=X/Y$、$z=Z/Y$ で $C^\circ$ は 3 次関数のグラフ $z=x^3$ そのものである。したがって
$$ \phi\colon\mathbb{A}^1_k\longrightarrow C^\circ,\qquad t\longmapsto[t:1:t^3] $$
は同型であり、逆写像は $[X:Y:Z]\mapsto X/Y$ である。$\phi(0)=O$ である。
平面 3 次曲線の非特異点の上には、弦と接線による合成が定まる。$P,Q\in C^\circ(k)$ に対し、$P$ と $Q$ を通る直線($P=Q$ のときは $P$ での接線)が $C$ と交わる 3 点目(位数を込めて数える)を $R$ とし、$O$ と $R$ を通る直線が $C$ と交わる 3 点目を $P\oplus Q$ とする(Sil09 III.2.1、楕円曲線)。この合成が $C^\circ(k)$ の中で意味をもつことも、次の定理に含まれる。

尖点 3 次曲線の非特異点は加法群

$k$ を任意の体とする。

  1. 直線 $L\colon aX+bY+cZ=0$ が $S$ を通らない($c\neq0$)とき、$L$ と $C$ の交点はすべて $C^\circ$ にあり、$L\cap C^\circ=\{\phi(t)\mid ct^3+at+b=0\}$ である。点 $\phi(t_0)$ での $L$ と $C$ の位数は、$t_0$ が 3 次式 $ct^3+at+b$ の根としてもつ重複度に等しい。とくに、$\bar k$ で重複度を込めて数えた 3 つの交点 $\phi(t_1),\phi(t_2),\phi(t_3)$ について $t_1+t_2+t_3=0$ である。
  2. $S$ を通る直線は、$C^\circ$ と高々 1 点で、しかも位数 $1$ でしか交わらない。
  3. 弦と接線による合成は $C^\circ(k)$ の上で定まり、$\phi(s)\oplus\phi(t)=\phi(s+t)$ が成り立つ。すなわち $\phi$ は加法群 $(k,+)$ から $(C^\circ(k),\oplus)$ への群の同型である。

1:$c\neq0$ なので $S=[0:0:1]$ は $L$ にない。$C$ の点で $C^\circ$ にないのは $S$ だけなので、交点はすべて $C^\circ$、すなわちアフィン部分 $Y\neq0$ にある。そこで $L$ は $ax+b+cz=0$、すなわち $z=-(ax+b)/c$ であり、$x$ を媒介変数として $x\mapsto(x,-(ax+b)/c)$ と表示できる。$C$ の方程式 $z-x^3$ にこれを代入すると
$$ -\frac{ax+b}{c}-x^3=-\frac1c\,(cx^3+ax+b) $$
となる。交点は $x$ がこの式の根である点 $(x,x^3)=\phi(x)$ であり、点 $\phi(t_0)$ を基点に $x=t_0+s$ と媒介変数をとれば、位数 $\operatorname{ord}_{s=0}$ は $t_0$ の根としての重複度に等しい。3 次式 $ct^3+0\cdot t^2+at+b$ は $\bar k$ で重複度を込めて 3 つの根 $t_1,t_2,t_3$ をもち、根と係数の関係から $t_1+t_2+t_3=-0/c=0$ である。
2:$S$ を通る直線は $aX+bY=0$ の形である。$a=0$ なら直線 $Y=0$ で、cusp-prop-cubic-singular により $C$ とは $S$ だけで交わる。$a\neq0$ なら、アフィン部分 $Y\neq0$ で $x=-b/a$ という直線であり、$z$ を媒介変数にとると $C$ の方程式は $z-(-b/a)^3$ となる。これは $z$ の 1 次式なので、交点は 1 点で位数は $1$ である。
3:$P=\phi(s)$、$Q=\phi(t)$ とする。$P\neq Q$ なら $P,Q$ を通る直線は $C^\circ$ と 2 点で交わり、$P=Q$ なら接線は $P$ で位数 $2$ 以上で交わる(接線の定義と cusp-thm-criterion の証明の展開による。非特異点では接線との位数は $2$ 以上)。どちらの場合も 2 によりこの直線は $S$ を通らないので、1 が当てはまり、3 点目は $\phi(-s-t)$ で、$-s-t\in k$ なので $k$ 有理点である。次に $O=\phi(0)$ と $R=\phi(-s-t)$ を通る直線($R=O$ なら接線)も同様に $S$ を通らず、3 点目は $\phi(-(0+(-s-t)))=\phi(s+t)$ である。よって $\phi(s)\oplus\phi(t)=\phi(s+t)$ である。$\phi$ は $k$ から $C^\circ(k)$ への全単射なので、$(C^\circ(k),\oplus)$ は群になり、$\phi$ は群の同型である。$\square$

$O=\phi(0)$ では直線 $Z=0$($a=b=0$)が $ct^3=0$、すなわち位数 $3$ で接している。$O$ は変曲点であり、合成の単位元になる。この定理は Sil09 Proposition III.2.5 (b)(p. 56)の、尖点の場合を具体的に書いたものである。同書の写像 $(x,y)\mapsto(x-x(S))/(y-\alpha x-\beta)$ は、$C$ のアフィン部分 $Z\neq0$ の座標 $(x,y)=(X/Z,Y/Z)$ では $x/y=X/Y$ であり、上の $\phi^{-1}$ に一致する。また Ful08 Problem 6.30 (a)(p. 75)は、$\phi$ が代数群の同型 $\mathbb{G}_a\cong C^\circ$ であることを述べている(代数群)。
結節点をもつ 3 次曲線では、代数閉体上では(より一般に、結節点での 2 本の接線が $k$ 上定義されるときは)、非特異点の群は乗法群 $\mathbb{G}_m$ と同型になる(Sil09 Proposition III.2.5 (a)、乗法群)。楕円曲線の還元が尖点をもつとき「加法的還元」、結節点をもつとき「乗法的還元」と呼ぶのは、この 2 つの退化した群に由来する(Sil09 VII.5、Néronモデル)。

関連項目

参考文献

[2]
Joseph H. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 106, Springer, 2009, III.1(node と cusp の定義、p. 44)、Proposition III.1.4(p. 45)、III.2.1 の合成と Proposition III.2.5(pp. 56–57)、VII.5(還元の型、p. 196)、付録 C §12(モジュラー曲線の尖点と尖点形式、pp. 437–438)

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