擬コンパクト空間(pseudocompact space)とは、その上の実数値連続関数がすべて有界であるような位相空間のことである。可算コンパクト空間は擬コンパクトであり、擬コンパクト空間の連続像も擬コンパクトである。逆は一般には成り立たず、非可算集合に余可算位相を入れた空間は、連続関数がすべて定数なので擬コンパクトであるが可算コンパクトではない。$T_1$ かつ正規な空間では、Tietze の拡張定理により擬コンパクト性と可算コンパクト性は同値になる。
以下、$\mathbb{R}$ には通常の位相を入れ、位相空間 $X$ 上の連続関数とは連続写像 $f\colon X\to\mathbb{R}$ のことをいう。関数 $f$ が有界であるとは、ある $M>0$ があってすべての $x\in X$ で $|f(x)|\le M$ となること、すなわち像 $f(X)$ が $\mathbb{R}$ の有界集合であることをいう。
位相空間 $X$ が擬コンパクト(pseudocompact)であるとは、$X$ 上の任意の連続関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ が有界であることをいう。擬コンパクトな位相空間を擬コンパクト空間という。
コンパクト性は開被覆の言葉で定まる性質だが、その帰結のうち「実数値の連続関数が有界である」という一点だけを取り出したものが擬コンパクト性である。取り出した条件が弱いので、コンパクトでも可算コンパクトでもない空間が擬コンパクトになりうる。一方で、連続関数を十分たくさん作れる空間——$T_1$ かつ正規な空間がその代表である——では、この弱い条件から可算コンパクト性が復元される。
コンパクト空間は擬コンパクトである。実際、コンパクト空間の連続像はコンパクトなので $f(X)$ は $\mathbb{R}$ のコンパクト集合であり、したがって有界である。より一般に prop-pseudocompact-space-countably-compact が成り立つ。有限位相空間や閉区間 $[0,1]$ はこの例である($[0,1]$ がコンパクトであることは Heine–Borel の定理による。Mun00 §27 を引用し、本記事では証明しない)。
$X$ が擬コンパクトで $f\colon X\to Y$ が連続な全射ならば、$Y$ も擬コンパクトである。実際、連続関数 $g\colon Y\to\mathbb{R}$ に対し $g\circ f$ は $X$ 上の連続関数なので有界であり、$f$ が全射なので $g(Y)=(g\circ f)(X)$ も有界である。
次の例は「擬コンパクトならば可算コンパクトである」が一般には成り立たないことを示す。$X$ を非可算集合とし、$X$ の余可算位相を、空集合と補集合が高々可算であるような部分集合の全体を開集合として定める(これが位相であることは、可算集合の有限合併と任意交叉が可算であることによる)。この空間は $T_1$ 空間であり(一点集合の補集合は補集合が一点=可算なので開である)、prop-pseudocompact-space-cocountable により擬コンパクトであるが、prop-pseudocompact-space-cocountable-noncountably-compact により可算コンパクトではない。したがって $T_1$ の仮定のもとでも、擬コンパクト性から可算コンパクト性は従わない。thm-pseudocompact-space-normal は正規性を仮定している。この空間が正規でないことは、その定理から従う:正規であれば擬コンパクト性から可算コンパクト性が出てしまい、上に反する。
可算コンパクト空間は擬コンパクトである。
$X$ を可算コンパクト空間、$f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。各 $n\ge1$ に対し $U_n=f^{-1}\bigl((-n,n)\bigr)$ とおくと、$f$ の連続性より $U_n$ は開集合である。任意の $x\in X$ について $|f(x)|< n$ となる $n$ があるので $\{U_n\}_{n\ge1}$ は $X$ の高々可算な開被覆である。可算コンパクト性より有限部分被覆 $U_{n_1},\dots,U_{n_k}$ が取れる。$N=\max\{n_1,\dots,n_k\}$ とおくと $U_{n_j}\subset U_N$ なので $X=U_N$ であり、すべての $x$ で $|f(x)|< N$ となる。よって $f$ は有界である。$\square$
$X$ を非可算集合に余可算位相を入れた空間とする。このとき $X$ 上の連続関数はすべて定数であり、とくに $X$ は擬コンパクトである。
まず、$X$ の空でない二つの開集合は必ず交わる。実際、$U,V$ が空でない開集合なら $X\setminus U$ と $X\setminus V$ は高々可算なので、その合併 $X\setminus(U\cap V)$ も高々可算であり、$X$ が非可算だから $U\cap V\neq\emptyset$ である。
$f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とし、$f$ が定数でないと仮定する。$a\neq b$ なる $a,b\in f(X)$ を取り、$\varepsilon=|a-b|/2$ とおくと、開区間 $(a-\varepsilon,a+\varepsilon)$ と $(b-\varepsilon,b+\varepsilon)$ は交わらない。それぞれの逆像は空でない開集合であり、しかも交わらない。これは前段に反する。よって $f$ は定数であり、有界である。$\square$
$X$ を非可算集合に余可算位相を入れた空間とする。このとき $X$ は可算コンパクトでない。
$X$ は非可算なので、相異なる点からなる可算無限列 $d_1,d_2,\dots$ を取ることができる(無限集合から相異なる点を可算無限個選ぶ操作には可算選択公理を使う)。$D=\{d_n\mid n\ge1\}$ とおき、各 $n\ge1$ に対し
$$U_n=X\setminus\{d_m\mid m>n\}$$
とおく。$X\setminus U_n=\{d_m\mid m>n\}$ は可算なので $U_n$ は開集合である。$\{U_n\}$ は $X$ を覆う:$x\notin D$ ならすべての $U_n$ に属し、$x=d_j$ なら $n\ge j$ で $U_n$ に属する。一方 $U_1\subset U_2\subset\cdots$ なので、有限部分族 $U_{n_1},\dots,U_{n_k}$ の合併は $U_N$($N=\max n_j$)に等しく、$d_{N+1}$ を含まない。よって有限部分被覆は存在せず、$X$ は可算コンパクトでない。$\square$
$X$ を $T_1$ かつ正規な位相空間とする。このとき $X$ が擬コンパクトであることと可算コンパクトであることは同値である。
可算コンパクトならば擬コンパクトであることは prop-pseudocompact-space-countably-compact による(正規性も $T_1$ 性も使わない)。逆を対偶で示す。$X$ が可算コンパクトでないとする。
まず、可算無限で閉かつ離散な部分集合が取れることを見る。可算コンパクトでないので、高々可算な開被覆 $\{V_n\}_{n\ge1}$ で有限部分被覆を持たないものがある。$W_n=V_1\cup\dots\cup V_n$ とおくと $W_n$ は開で増大し、合併は $X$、どの $W_n$ も $X$ と異なる。そこで $x_n\in X\setminus W_n$ を選ぶ(可算選択公理)。各点 $y\in X$ はある $W_m$ に属し、$W_m$ は $y$ の開近傍で、$n\ge m$ のとき $x_n\notin W_m$ だから、$W_m$ が含む $x_n$ の添字は $n< m$ に限られる。すなわち各点は、列 $(x_n)$ の項を有限個しか含まない近傍を持つ。したがって値の集合 $D=\{x_n\mid n\ge1\}$ は無限である(有限なら、ある値が無限回現れ、その点のどの近傍も無限個の項を含む)。さらに $y\in X$ に対し、$y$ の近傍 $W_m$ から $D\cap W_m$ の点のうち $y$ 以外の有限個を除けば($T_1$ より一点集合は閉なので有限集合も閉であり、除いた後も開集合である)、$D$ と高々 $\{y\}$ でしか交わらない $y$ の開近傍が得られる。よって $D$ は $X$ の閉集合であり、部分空間として離散である。
$D$ の点を重複なく $y_1,y_2,\dots$ と並べ、$g\colon D\to\mathbb{R}$ を $g(y_k)=k$ で定める。$D$ は離散なので $g$ は連続である。$X$ は $T_1$ かつ正規で $D$ は閉集合だから、Tietze の拡張定理により $g$ は連続関数 $G\colon X\to\mathbb{R}$ に拡張される(Mun00 §35 を引用し、本記事では証明しない)。$G(y_k)=k$ なので $G$ は有界でなく、$X$ は擬コンパクトでない。$\square$
以上より、コンパクト $\Rightarrow$ 可算コンパクト $\Rightarrow$ 擬コンパクト という含意が成り立つ(前者は 可算コンパクト空間 の記事で扱う。後者は prop-pseudocompact-space-countably-compact)。逆向きはいずれも成り立たない。可算コンパクトだがコンパクトでない例は $[0,\omega_1)$ であり(可算コンパクト空間 を参照)、擬コンパクトだが可算コンパクトでない例は rem-pseudocompact-space-counterexample の余可算位相の空間である。
thm-pseudocompact-space-normal は、正規かつ $T_1$ という仮定のもとで下の二つが一致することを述べている。証明で使うのは、可算コンパクトでない空間から可算無限な閉離散部分集合を取り出すこと($T_1$ 性)と、その上の非有界な関数を全体へ延ばすこと(正規性と Tietze の拡張定理)である。距離空間は $T_1$ かつ正規なので(Mun00 §32 を引用し、本記事では証明しない)、距離空間では擬コンパクトと可算コンパクトが一致する。距離空間でさらに点列コンパクト性・コンパクト性とも一致することは、本記事では扱わない。擬コンパクト性と他のコンパクト性の一般的な関係は Engelking89 3.10 に整理されている。