Schwarzの補題

同義語:シュワルツの補題Schwarz lemmaSchwarz's lemma

概要

Schwarzの補題(Schwarz lemma)とは、単位円板 $\mathbb{D}$ からそれ自身への正則関数 $f$ が $f(0)=0$ を満たせば、すべての $z\in\mathbb{D}$ で $|f(z)|\le|z|$ かつ $|f'(0)|\le1$ が成り立ち、$0$ 以外の 1 点で前者の等号が成り立つか後者の等号が成り立つなら、$f$ は回転 $z\mapsto cz$($|c|=1$)であるという定理である。証明は $f(z)/z$ に最大値原理を当てるだけで短い。円板の自己同型と合成すると、原点を固定しない場合の導関数の評価や、恒等写像でない自己写像の不動点が高々 1 つであることが得られ、円板の自己同型群の決定、Schwarz–Pick の補題と双曲計量、Riemann の写像定理の一意性など、1 変数の幾何学的な関数論の基本的な道具になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正則関数, Taylor展開(複素解析), 開写像定理(複素解析), Möbius変換

単位円板 $\mathbb{D}=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|<1\}$ からそれ自身への正則関数 $f$ で、原点を原点に写すものを考える。たとえば $f(z)=z^2$ は $|f(z)|=|z|^2<|z|$($z\neq0$)を満たし、どの点も原点に近づける。回転 $f(z)=e^{i\theta}z$ は原点からの距離を変えない。Schwarz の補題(Schwarz lemma)は、この 2 つの間にあるものしかないことを述べる:$f(0)=0$ なら常に $|f(z)|\le|z|$ かつ $|f'(0)|\le1$ であり、どこか 1 点で等号が成り立てば $f$ は回転である。
仮定は「値が単位円板に入る」という大雑把な有界性だけなのに、結論は各点での精密な不等式である。証明は $f(z)/z$ に最大値原理を当てるだけで短いが、円板の自己同型との合成で正規化を動かすと、円板の自己同型の決定(双正則写像)、Schwarz–Pick の補題と双曲計量(双曲計量)、Riemann の写像定理の一意性(等角写像)、Koebe の 1/4 定理の応用(Koebeの1/4定理)など、1 変数の幾何学的な関数論の多くの議論の出発点になる。

主定理

以下、$D(c,r):=\{z\mid|z-c|< r\}$、$\overline{D}(c,r):=\{z\mid|z-c|\le r\}$ と書き、$\mathbb{D}=D(0,1)$ とする。
主定理の証明では、閉円板の上では正則関数の絶対値の最大値が周の上でとられることを使う。

閉円板での最大値は周の上でとる

$r>0$ とし、$g$ を $\overline{D}(0,r)$ を含む開集合の上の正則関数とする。このとき $|z|\le r$ なら $|g(z)|\le\max_{|\zeta|=r}|g(\zeta)|$ である。

要点:最大値をとる点が内部にあれば $g$ は定数である。

詳しい証明を開く

$|g|$ はコンパクト集合 $\overline{D}(0,r)$ の上の連続関数なので、ある点 $w$ で最大値をとる。$|w|=r$ なら主張は明らかである。$|w|< r$ なら、$|g|$ は連結な開円板 $D(0,r)$ の点 $w$ で極大値をとるので、開写像定理(複素解析) の系「正則関数の最大値原理」により $g$ は $D(0,r)$ の上で定数であり、連続性から $\overline{D}(0,r)$ の上でも定数である。このとき周の上の値も同じなので、やはり主張が成り立つ。

次が主定理である。

Schwarz の補題

$f\colon\mathbb{D}\to\mathbb{D}$ を正則関数で $f(0)=0$ を満たすものとする。このとき次が成り立つ。

  1. すべての $z\in\mathbb{D}$ について $|f(z)|\le|z|$ である。
  2. $|f'(0)|\le1$ である。
  3. ある $z_0\in\mathbb{D}\setminus\{0\}$ で $|f(z_0)|=|z_0|$ となるか、または $|f'(0)|=1$ となるなら、$|c|=1$ を満たす定数 $c$ によって $f(z)=cz$($z\in\mathbb{D}$)と書ける。

$f$ は $\mathbb{D}$ で正則なので、Taylor展開(複素解析) の定理「正則関数の冪級数展開」により $\mathbb{D}$ 全体で $f(z)=\sum_{k\ge0}a_kz^k$ と展開され、$a_0=f(0)=0$ である。そこで
$$ g(z):=\sum_{k\ge1}a_kz^{k-1}\qquad(z\in\mathbb{D}) $$
とおく。この冪級数の収束半径は $f$ の展開と同じで $1$ 以上なので、$g$ は $\mathbb{D}$ 上の正則関数であり、$z\neq0$ では $g(z)=f(z)/z$、また $g(0)=a_1=f'(0)$ である。
$0< r<1$ を固定する。$|z|=r$ では $|f(z)|<1$ なので $|g(z)|=|f(z)|/r<1/r$ である。lem-schwarz-max により、$|z|\le r$ のすべての $z$ で $|g(z)|\le1/r$ が成り立つ。いま $z\in\mathbb{D}$ を固定すると、$|z|\le r<1$ を満たすすべての $r$ についてこの不等式が使えるので、$r\to1$ として $|g(z)|\le1$ を得る。$z\neq0$ ではこれは $|f(z)|\le|z|$ であり($z=0$ では両辺 $0$)、$z=0$ では $|f'(0)|=|g(0)|\le1$ である。これで 1 と 2 が示された。
3 の仮定のもとでは、$|g(z_0)|=1$ または $|g(0)|=1$ である。前段により $\mathbb{D}$ の上で $|g|\le1$ なので、$|g|$ は $\mathbb{D}$ の内部の点で最大値 $1$ をとる。開写像定理(複素解析) の系「正則関数の最大値原理」により $g$ は定数 $c$ であり、$|c|=1$、$f(z)=zg(z)=cz$ である。$\square$

不等式 $|f(z)|\le|z|$ は、$f$ が円板 $|z|\le r$ を円板 $|w|\le r$ の中に写すこと、つまり原点を中心とする各円板が $f$ で自分自身の中に入ることを述べている。等号条件は、この縮小がどこか 1 点でも等式なら、$f$ は全体で回転にほかならないことを述べている。

変形と一般化

半径と零点の位数

半径の異なる円板

$r,s>0$ とし、$f\colon D(0,r)\to D(0,s)$ を正則関数で $f(0)=0$ を満たすものとする。このとき $|f(z)|\le\frac{s}{r}|z|$($z\in D(0,r)$)、$|f'(0)|\le\frac sr$ であり、$0$ 以外の 1 点で前者の等号が成り立つか、後者の等号が成り立てば、$|c|=1$ のある $c$ で $f(z)=c\frac srz$ である。

要点:拡大縮小で単位円板に戻す。

詳しい証明を開く

$h(w):=f(rw)/s$ とおくと $h\colon\mathbb{D}\to\mathbb{D}$ は正則で $h(0)=0$、$h'(0)=rf'(0)/s$ である。thm-schwarz-main を $h$ に使い、$w=z/r$ を代入すれば $|f(z)|/s\le|z|/r$、$r|f'(0)|/s\le1$ を得る。等号の場合は $h(w)=cw$ なので $f(z)=sh(z/r)=c\frac srz$ である。

高位の零点

$m\ge1$ とし、$f\colon\mathbb{D}\to\mathbb{D}$ を正則関数で $f(0)=f'(0)=\dots=f^{(m-1)}(0)=0$ を満たすものとする。このとき $|f(z)|\le|z|^m$($z\in\mathbb{D}$)、$|f^{(m)}(0)|\le m!$ であり、ある $z_0\neq0$ で $|f(z_0)|=|z_0|^m$ となるか $|f^{(m)}(0)|=m!$ となるなら、$|c|=1$ のある $c$ で $f(z)=cz^m$ である。

要点:$f(z)/z^m$ に同じ議論を当てる。

詳しい証明を開く

仮定から $f(z)=\sum_{k\ge m}a_kz^k$ であり、$g(z):=\sum_{k\ge m}a_kz^{k-m}$ は $\mathbb{D}$ 上で正則で、$z\neq0$ では $g(z)=f(z)/z^m$、$g(0)=a_m=f^{(m)}(0)/m!$ である。$|z|=r<1$ では $|g(z)|<1/r^m$ なので、lem-schwarz-max により $|z|\le r$ で $|g(z)|\le1/r^m$ であり、$r\to1$ として $\mathbb{D}$ 上で $|g|\le1$ を得る。等号の場合は $|g|$ が内部で最大値 $1$ をとるので、prf-schwarz-main の最後と同じく $g$ は絶対値 $1$ の定数である。

原点を固定しない場合

$a\in\mathbb{D}$ に対し
$$ \varphi_a(z):=\frac{z-a}{1-\bar az} $$
とおく。$\varphi_a$ は $\mathbb{D}$ を $\mathbb{D}$ の上へ双正則に写し、$\varphi_a(a)=0$、逆写像は $\varphi_{-a}$ である(Möbius変換 の例「単位円板の自己同型」)。直接の計算で
$$ \varphi_a'(z)=\frac{1-|a|^2}{(1-\bar az)^2},\qquad 1-|\varphi_a(z)|^2=\frac{(1-|a|^2)(1-|z|^2)}{|1-\bar az|^2} $$
となる。$\mathbb{D}$ の正則な自己写像を $\varphi_a$ と合成すると、どの点で比べる問題も原点での問題に移せる。

原点を固定しない場合の評価

$f\colon\mathbb{D}\to\mathbb{D}$ を正則関数とし、$b:=f(0)$ とおく。このとき
$$ \Bigl|\frac{f(z)-b}{1-\bar bf(z)}\Bigr|\le|z|\quad(z\in\mathbb{D}),\qquad |f'(0)|\le1-|b|^2 $$
が成り立つ。後者で等号が成り立つなら、$|c|=1$ のある $c$ で $f(z)=\varphi_{-b}(cz)=\dfrac{cz+b}{1+\bar bcz}$ である。

$F:=\varphi_b\circ f$ は $\mathbb{D}$ から $\mathbb{D}$ への正則関数で $F(0)=\varphi_b(b)=0$ である。連鎖律と上の導関数の式から $F'(0)=\varphi_b'(b)f'(0)=\dfrac{f'(0)}{1-|b|^2}$ である。thm-schwarz-main を $F$ に使うと $|F(z)|\le|z|$ と $|F'(0)|\le1$ を得る。これが示すべき 2 つの不等式である。後者が等号なら $F(z)=cz$ であり、$f=\varphi_b^{-1}\circ F=\varphi_{-b}\circ F$ である。$\square$

$f'(0)$ の評価を $\mathbb{D}$ の任意の点 $z$ に移すと $\dfrac{|f'(z)|}{1-|f(z)|^2}\le\dfrac{1}{1-|z|^2}$ となる。これが 双曲計量 の定理「Schwarz–Pickの補題」であり、正則写像が双曲計量について距離を縮めることを意味する。

不動点は高々 1 つ

$f\colon\mathbb{D}\to\mathbb{D}$ を恒等写像でない正則関数とする。このとき $f$ の $\mathbb{D}$ 内の不動点は高々 1 つである。

要点:一方の不動点を原点へ移すと、もう一方で Schwarz の補題の等号が成り立つ。

詳しい証明を開く

$a\neq b$ をともに不動点とする。$g:=\varphi_a\circ f\circ\varphi_{-a}$ は $\mathbb{D}$ の正則な自己写像で、$g(0)=\varphi_a(f(a))=\varphi_a(a)=0$ である。$c:=\varphi_a(b)$ は $\varphi_a$ が単射なので $0$ でなく、$g(c)=\varphi_a(f(b))=\varphi_a(b)=c$ である。$|g(c)|=|c|$ だから thm-schwarz-main の 3 により $g(z)=\lambda z$($|\lambda|=1$)であり、$\lambda c=c$ から $\lambda=1$ である。よって $g$ は恒等写像で、$f=\varphi_{-a}\circ g\circ\varphi_a$ も恒等写像となり、仮定に反する。

零点を指定した評価

有限個の零点をもつ場合

$f\colon\mathbb{D}\to\mathbb{D}$ を正則関数とし、$a_1,\dots,a_k\in\mathbb{D}$ を(重複を許して)並べた点とする。各 $a$ について、$a$ がこの並びに現れる回数を $m_a$ とし、$f$ は $a$ で $m_a$ 位以上の零点をもつとする。このとき
$$ |f(z)|\le\prod_{j=1}^k|\varphi_{a_j}(z)|\qquad(z\in\mathbb{D}) $$
が成り立つ。

要点:$B:=\prod_j\varphi_{a_j}$ で割った $f/B$ は正則で、$|B|$ は円周に近づくと一様に $1$ に近づくので、最大値の評価から $|f/B|\le1$ となる。

詳しい証明を開く

$\varphi_a$ は $\mathbb{D}$ の中で $a$ だけに 1 位の零点をもつので、$B$ の零点は $a_j$ たちで、点 $a$ での位数はちょうど $m_a$ である。$a$ の近くで $f(z)=(z-a)^{m_a}f_1(z)$、$B(z)=(z-a)^{m_a}B_1(z)$、$B_1(a)\neq0$ と書けるので、$g:=f/B$ は $a$ で除去可能な特異点をもつだけであり、$\mathbb{D}$ 上の正則関数に延びる。

$|1-\bar az|\ge1-|a|$ と上の $1-|\varphi_a(z)|^2$ の式から、$1-|\varphi_a(z)|^2\le\frac{1+|a|}{1-|a|}(1-|z|^2)$ である。よって $\varepsilon>0$ を与えると、$1$ に十分近い $r$ では $|z|=r$ の上で $|B(z)|\ge1-\varepsilon$ である。このとき $|z|=r$ の上で $|g(z)|\le1/(1-\varepsilon)$ であり、lem-schwarz-max により $|z|\le r$ でも同じ評価が成り立つ。$z\in\mathbb{D}$ を固定して $r\to1$、続けて $\varepsilon\to0$ とすれば $|g(z)|\le1$、すなわち $|f(z)|\le|B(z)|$ を得る。

$k=1$、$a_1=0$ のときは $\varphi_0(z)=z$ なので、これは thm-schwarz-main の 1 である。$B=\prod_j\varphi_{a_j}$ のような関数は有限 Blaschke 積とよばれ、$\mathbb{D}$ を $\mathbb{D}$ に写して、指定した零点をもつ関数のうちで絶対値が最大のものになっている。

有界な領域での一意性

単位円板を一般の有界な領域に置き換えると、不等式の形は崩れるが、導関数についての主張は残る。

Cartan の一意性定理

$U\subset\mathbb{C}$ を有界な領域(連結な開集合)、$f\colon U\to U$ を正則関数、$p\in U$ を $f(p)=p$ となる点とする。このとき $|f'(p)|\le1$ であり、$f'(p)=1$ なら $f$ は恒等写像である。

要点:$f$ の $\ell$ 回の合成 $f^{\ell}$ も $U$ を $U$ に写すので、その Taylor 係数は $\ell$ によらない上界をもつ(Cauchy の評価式)。一方、$f'(p)$ が大きすぎたり、$f'(p)=1$ で $f$ が恒等写像でなかったりすると、係数が $\ell$ とともに大きくなる。

詳しい証明を開く

平行移動して $p=0$ としてよい。$U$ は有界なので $U\subset D(0,R)$ となる $R$ があり、$U$ は開集合なので $\overline{D}(0,r)\subset U$ となる $r>0$ がある。$f^{\ell}:=f\circ\cdots\circ f$($\ell$ 回)は $U$ から $U$ への正則関数で $f^{\ell}(0)=0$ であり、円周 $|z|=r$ の上で $|f^{\ell}|< R$ である。Cauchyの積分公式 の命題「Cauchy の評価式」により、$f^{\ell}$ の $0$ での $k$ 次の Taylor 係数は絶対値が $R/r^k$ 以下である。

連鎖律により $(f^{\ell})'(0)=f'(0)^{\ell}$ なので、$|f'(0)|^{\ell}\le R/r$ がすべての $\ell$ で成り立つ。$|f'(0)|>1$ なら左辺は $\ell\to\infty$ で発散するので、$|f'(0)|\le1$ である。

$f'(0)=1$ で $f$ が恒等写像でないとする。一致の定理(一致の定理)により $f$ は $0$ の近くでも恒等写像でないので、$0$ のまわりの展開は $f(z)=z+a_mz^m+(\text{$m+1$ 次以上の項})$、$m\ge2$、$a_m\neq0$ の形である。$\ell$ についての帰納法で、$f^{\ell}(z)=z+\ell a_mz^m+(\text{$m+1$ 次以上の項})$ を示す。$\ell-1$ で成り立つとすると、$w:=f^{\ell-1}(z)=z+O(z^m)$ について $w^m=z^m+O(z^{2m-1})$ であり、$2m-1\ge m+1$ なので $f^{\ell}(z)=f(w)=w+a_mw^m+O(w^{m+1})=z+(\ell-1)a_mz^m+a_mz^m+O(z^{m+1})$ となる。したがって Cauchy の評価式から $\ell|a_m|\le R/r^m$ がすべての $\ell$ で成り立ち、$a_m=0$ となって矛盾する。よって $f$ は $0$ の近くで恒等写像であり、$U$ は連結なので一致の定理により $U$ 全体で恒等写像である。

$U=\mathbb{D}$、$p=0$ のとき、この定理は thm-schwarz-main の 2 と、3 のうち $f'(0)=1$ の場合を含む。等号 $f'(0)=c$($|c|=1$、$c\neq1$)の場合までは主張していない点に注意する。

例

等号が成り立つ関数と成り立たない関数
  1. $f(z)=z^m$($m\ge2$)は $f(0)=0$ で $\mathbb{D}$ を $\mathbb{D}$ に写し、$|f(z)|=|z|^m<|z|$($z\neq0$)、$f'(0)=0$ である。prop-schwarz-higher の等号が成り立つ。
  2. $a\in\mathbb{D}\setminus\{0\}$ について $f(z)=z\varphi_a(z)$ は $f(0)=0$、$f'(0)=\varphi_a(0)=-a$ を満たし、$|f'(0)|=|a|<1$ である。$f$ は $0$ と $a$ に零点をもち、prop-schwarz-blaschke の等号が全域で成り立つ。
  3. 回転 $f(z)=e^{i\theta}z$ は thm-schwarz-main の 1 と 2 の等号を同時に満たす。
上半平面での形

上半平面 $H=\{z\mid\operatorname{Im}z>0\}$ から $H$ への正則関数 $f$ が $f(i)=i$ を満たせば $|f'(i)|\le1$ である。Cayley 変換 $C(z)=\frac{z-i}{z+i}$ は $H$ から $\mathbb{D}$ への双正則写像で $C(i)=0$ である(双正則写像 の例「上半平面と単位円板」)。$F:=C\circ f\circ C^{-1}$ は $\mathbb{D}$ の正則な自己写像で $F(0)=0$ であり、連鎖律から $F'(0)=C'(i)f'(i)(C^{-1})'(0)=f'(i)$ となる($(C^{-1})'(0)=1/C'(i)$)。thm-schwarz-main により $|f'(i)|=|F'(0)|\le1$ である。

自己同型の決定

$\mathbb{D}$ の自己同型 $f$ で $f(0)=0$ となるものは、$f$ と $f^{-1}$ の両方に thm-schwarz-main を使うと $|f(z)|\le|z|=|f^{-1}(f(z))|\le|f(z)|$ となり、等号条件から回転に限る。一般の自己同型は回転と $\varphi_a$ の合成 $e^{i\theta}\varphi_a$ である。この議論の詳細は 双正則写像 の定理「単位円板の自己同型群」にある。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
$f(0)=0$$f=\varphi_{-1/2}$、すなわち $f(z)=\frac{z+1/2}{1+z/2}$$\lvert f(z)\rvert\le\lvert z\rvert$
値が $\mathbb{D}$ に入る$f(z)=2z$($\mathbb{D}\to D(0,2)$)$\lvert f'(0)\rvert\le1$
等号の点 $z_0$ が $0$ でない$f(z)=z^2$、$z_0=0$$\lvert f(z_0)\rvert=\lvert z_0\rvert$ なら回転
Cartan の定理で領域が有界$U=\mathbb{C}$、$f(z)=z+z^2$、$p=0$$f'(p)=1$ なら恒等写像
反例の確かめ
  1. $\varphi_{-1/2}$ は $\mathbb{D}$ の自己同型で、$f(0)=1/2>0=|0|$ である。
  2. $2z$ は正則で $f(0)=0$ だが、値は $D(0,2)$ に入るだけで、$f'(0)=2$ である。cor-schwarz-radii($r=1$、$s=2$)の評価 $|f'(0)|\le2$ には反しない。
  3. $z_0=0$ では $|f(0)|=|0|$ が任意の $f$ で成り立つので、等号条件は $z_0\neq0$ を要する。$z^2$ は回転でない。
  4. $z+z^2$ は $\mathbb{C}$ を $\mathbb{C}$ に写し、$f(0)=0$、$f'(0)=1$ だが恒等写像でない。$\mathbb{C}$ の上では $f(z)=2z$ も $f'(0)=2>1$ となり、不等式の部分も成り立たない。

補足

thm-schwarz-main の証明は Leb26c Lemma 3.5.1(p. 86)にある証明と同じ筋である。自己同型 $\varphi_a$ の性質は同 Proposition 3.5.2(p. 88)、自己同型の決定は同 Proposition 3.5.3(p. 88)にある。
円板の自己写像の評価は、領域の等角写像の理論の基本的な道具である。単連結な領域 $\Omega\subsetneq\mathbb{C}$ から $\mathbb{D}$ への等角写像は、基点とそこでの導関数の偏角を決めると一意である(等角写像 の定理「Riemann の写像定理」の一意性の部分)。これは ex-schwarz-automorphism から従う。等角写像で円板の Schwarz–Pick の補題を移すと、領域の包含について双曲密度が単調であることが分かる(双曲計量 の系「領域の包含に関する単調性」)。$w\in\Omega$ から境界までの距離を $d$ とし、$\Omega$ に含まれる円板 $D(w,d)$ と比べると、双曲密度は $d$ の逆数で上から押さえられる。Koebeの1/4定理 は逆向きに、$d$ の逆数の $1/4$ 倍で下から押さえる評価を与える。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する