Cramerの公式(Cramer's rule)とは、$n$ 次正方行列 $A$ の行列式が $0$ でないとき、連立1次方程式 $Ax=b$ のただ1つの解の第 $j$ 成分が、$A$ の第 $j$ 列を $b$ に取り替えた行列 $A_j(b)$ を使って $x_j=\det A_j(b)/\det A$ と書けるという公式である。土台は、解が1つでもあれば $(\det A)x_j=\det A_j(b)$ が成り立つという、行列式の多重線形性と交代性だけから出る恒等式で、成分が可換環でも正しく、整数係数の方程式がどの右辺でも整数解をもつのは $\det A=\pm1$ のときに限ることが従う。$\det A=0$ でも、ある $\det A_j(b)$ が $0$ でなければ解はなく、未知数が1つ多い斉次方程式の解は小行列式で書ける。
未知数と式の個数が同じ 連立1次方程式 $Ax=b$ で、係数行列 $A$ の 行列式 が $0$ でなければ、解はただ 1 つあり、その各成分は行列式の比で書ける。これが Cramer の公式 である。第 $j$ 成分 $x_j$ は、$A$ の第 $j$ 列を右辺 $b$ に取り替えた行列の行列式を $\det A$ で割ったものになる。
公式の土台は、行列式が各列について線形で、2 つの列が等しいと $0$ になるという性質だけから出る次の恒等式である:解 $x$ が 1 つでもあれば、$\det A$ が $0$ かどうかにかかわらず
$$
(\det A)\,x_j=\det A_j(b)\qquad(j=1,\dots,n)
$$
が成り立つ。この記事では、この恒等式から公式を導き(thm-cramer-main)、成分が整数や多項式のような可換環に属する場合の形(thm-cramer-ring)、$\det A=0$ のときに右辺の行列式から解の有無がどこまで読めるか(thm-cramer-singular)、未知数が式より 1 つ多い斉次方程式の解を小行列式で書く公式(thm-cramer-kernel)を証明する。
以下、$K$ は 体 とし、$n\ge1$ とする。$n$ 次正方行列 $A\in M_n(K)$ の第 $k$ 列を $a_k\in K^n$ と書き、$A=(a_1\ \cdots\ a_n)$ と列を並べて表す。
$A=(a_1\ \cdots\ a_n)\in M_n(K)$、$b\in K^n$、$1\le j\le n$ に対し、$A$ の第 $j$ 列を $b$ に取り替えた行列を
$$
A_j(b):=(a_1\ \cdots\ a_{j-1}\ \ b\ \ a_{j+1}\ \cdots\ a_n)
$$
と書く。ほかの列はそのままの位置に残す。
$A\in M_n(K)$、$b\in K^n$ とする。
行列式は各列について線形であり、2 つの列が等しい行列の行列式は $0$ である。これは 行列式 の記事の定理「多重線形性と交代性」(行についての主張)を、命題「転置と行列式」$\det A=\det A^{\top}$ で列に移したものである。
1:$Ax=b$ は、列で書くと $b=x_1a_1+x_2a_2+\cdots+x_na_n$ ということである。$A_j(b)$ の第 $j$ 列にこれを代入し、第 $j$ 列についての線形性で展開すると
$$
\det A_j(b)=\sum_{k=1}^n x_k\det(a_1\ \cdots\ a_{j-1}\ \ a_k\ \ a_{j+1}\ \cdots\ a_n)
$$
となる。$k\ne j$ の項の行列は、第 $j$ 列と第 $k$ 列がどちらも $a_k$ なので行列式は $0$ である。残る $k=j$ の項の行列は $A$ そのものなので、$\det A_j(b)=x_j\det A$ を得る。
2:$\det A\ne0$ なら $A$ は正則である(行列式 の記事の定理「正則性の判定」の 2 ⇒ 1)。$x:=A^{-1}b$ とおけば $Ax=b$ なので解は存在する。$Ax=b$ を満たす $x$ はどれも、1 により $x_j=\det A_j(b)/\det A$ を満たすので、解は 1 つしかなく、成分は公式のとおりである。$\square$
1 は $A$ が正則かどうかを問わない。解があれば必ず成り立つ等式であり、$\det A=0$ の場合を調べるときにも使う(thm-cramer-singular)。$n=1$ では $A=(a)$、$A_1(b)=(b)$ で、公式は $ax=b$ の解 $x=b/a$ そのものである。
行列式 の記事の定理「余因子行列と逆行列の公式」の 3 は、同じ公式を逆行列 $A^{-1}=(\det A)^{-1}\operatorname{adj}A$ から導いている。$x=A^{-1}b$ の第 $j$ 成分は $(\det A)^{-1}\sum_iC_{ij}b_i$($C_{ij}$ は $(i,j)$ 余因子)で、この和は $A_j(b)$ を第 $j$ 列で余因子展開したものに等しい。上の証明は逆行列を使わず、多重線形性と交代性だけから 1 の恒等式を得ている。このため $A$ が正則でない場合や、成分が体でない場合にもそのまま使える(thm-cramer-ring)。DF04 §11.4 Theorem 26(p. 438)も、成分が可換環の場合に 1 の形で述べている。
$n=2$ で実数の場合を考える。$\det(u\ v)$ は列ベクトル $u,v$ が張る平行四辺形の符号付き面積である。$b=x_1a_1+x_2a_2$ のとき、$\det A_1(b)=\det(b\ \ a_2)$ は $b$ と $a_2$ が張る平行四辺形の面積だが、$b$ から $a_2$ の倍数 $x_2a_2$ を引いても、$a_2$ を底辺とする平行四辺形の高さは変わらないので面積は変わらない。引いた残りは $x_1a_1$ なので、$\det(b\ \ a_2)=\det(x_1a_1\ \ a_2)=x_1\det(a_1\ \ a_2)$ となる。つまり $x_1$ は「$a_2$ 方向に押しつぶしても変わらない面積の比」として読める。$x_2$ も同様に、$a_1$ 方向の成分を取り除いた面積の比である。一般の $n$ でも、$x_j$ は $b$ と $a_j$ 以外の列が張る平行体の体積と、$A$ の列が張る平行体の体積の比である。
$$
\begin{cases}px+qy=e\\ rx+sy=f\end{cases}
$$
で $ps-qr\ne0$ なら、thm-cramer-main により
$$
x=\frac{\det\begin{pmatrix}e&q\\ f&s\end{pmatrix}}{\det\begin{pmatrix}p&q\\ r&s\end{pmatrix}}=\frac{es-qf}{ps-qr},\qquad
y=\frac{\det\begin{pmatrix}p&e\\ r&f\end{pmatrix}}{\det\begin{pmatrix}p&q\\ r&s\end{pmatrix}}=\frac{pf-er}{ps-qr}
$$
である。分母はどちらも同じ $ps-qr$ で、分子は右辺の列 $(e,f)^{\top}$ を求めたい未知数の列の位置に入れた行列式である。
$$
\begin{cases}2x+y-z=-1\\ x+3y+2z=2\\ x+z=3\end{cases},\qquad
A=\begin{pmatrix}2&1&-1\\1&3&2\\1&0&1\end{pmatrix},\quad b=\begin{pmatrix}-1\\2\\3\end{pmatrix}
$$
を解く。第 1 行で余因子展開すると $\det A=2(3-0)-1(1-2)+(-1)(0-3)=6+1+3=10$ である。同じように
$$
\det A_1(b)=\det\begin{pmatrix}-1&1&-1\\2&3&2\\3&0&1\end{pmatrix}=10,\quad
\det A_2(b)=\det\begin{pmatrix}2&-1&-1\\1&2&2\\1&3&1\end{pmatrix}=-10,\quad
\det A_3(b)=\det\begin{pmatrix}2&1&-1\\1&3&2\\1&0&3\end{pmatrix}=20
$$
なので、$(x,y,z)=(1,-1,2)$ である。もとの 3 式に代入すると $2-1-2=-1$、$1-3+4=2$、$1+2=3$ で、たしかに解になっている。
どれも第 1 行で余因子展開する。$\det A_1(b)=-1\cdot(3-0)-1\cdot(2-6)+(-1)\cdot(0-9)=-3+4+9=10$。$\det A_2(b)=2(2-6)-(-1)(1-2)+(-1)(3-2)=-8-1-1=-10$。$\det A_3(b)=2(9-0)-1(3-2)+(-1)(0-3)=18-1+3=20$。
$t$ を実数として
$$
\begin{cases}tx+y=1\\ x+ty=1\end{cases}
$$
を考える。$\det A=t^2-1$、$\det A_1(b)=\det\begin{pmatrix}1&1\\1&t\end{pmatrix}=t-1$、$\det A_2(b)=\det\begin{pmatrix}t&1\\1&1\end{pmatrix}=t-1$ である。$t\ne\pm1$ なら解はただ 1 つで、$x=y=\dfrac{t-1}{t^2-1}=\dfrac1{t+1}$ である。$t=1$ では 2 つの式が同じ $x+y=1$ になり、解は無数にある。$t=-1$ では $-x+y=1$ と $x-y=1$ を足すと $0=2$ となり、解はない。この 2 つの場合は $\det A=0$ で公式は使えないが、$t=-1$ では $\det A_1(b)=-2\ne0$ であることから解がないことが分かり、$t=1$ では $\det A_1(b)=\det A_2(b)=0$ である。この違いは thm-cramer-singular で説明する。
成分が整数や多項式のときは、割り算が自由にできないので、「$\det A\ne0$」を「$\det A$ が逆元をもつ」に置き換える必要がある。$R$ を可換環(単位元 $1$ をもつ)とし、その可逆元全体を $R^\times$ と書く。$M_n(R)$ の行列式は体の場合と同じ Leibniz の公式で定め、行列式 の記事の注意「可換環上の行列式」のとおり、多重線形性と交代性、転置で変わらないこと、積の公式 $\det(AB)=\det A\det B$、余因子行列の等式 $A\operatorname{adj}A=\operatorname{adj}A\,A=(\det A)I_n$ は、可換環上でも同じ証明で成り立つ。余因子行列はその記事では $n\ge2$ で定めているので、$n=1$ では $\operatorname{adj}A:=(1)$ と定める。このとき $A=(a)$ について $A\operatorname{adj}A=\operatorname{adj}A\,A=(a)=(\det A)I_1$ は明らかである。
$R$ を可換環、$A\in M_n(R)$ とする。
1:prf-cramer-main の 1 の計算は、行列式の列についての線形性と、2 つの列が等しければ $0$ になることしか使っていない。どちらも可換環上で成り立つので、同じ計算で $\det A_j(b)=x_j\det A$ を得る。
2:(a) ⇒ (c)。$d:=\det A$ が可逆元なら $B:=d^{-1}\operatorname{adj}A\in M_n(R)$ とおくと、余因子行列の等式から $AB=BA=I_n$ である。$x:=Bb$ は $Ax=ABb=b$ を満たす。逆に $Ax=b$ なら $x=BAx=Bb$ なので、解はただ 1 つである。
(c) ⇒ (b) は明らかである。
(b) ⇒ (a)。$e_1,\dots,e_n$ を標準基底とし、$Ax=e_i$ の解を 1 つずつ選んで $c_i\in R^n$ とする。$c_i$ を第 $i$ 列とする行列を $C$ とすると $AC=I_n$ である。積の公式から $\det A\cdot\det C=\det I_n=1$ なので、$\det A$ は $R$ の可逆元である。
3:解 $x$ について 1 の等式の両辺に $(\det A)^{-1}$ を掛ければよい。$\square$
(b) ⇒ (a) では、解の一意性を使わずに $\det A$ の可逆性が出ている。とくに、すべての $b$ について解をもつなら、解は自動的にただ 1 つである。2 の (a) と「$A$ が $M_n(R)$ の可逆元であること」の同値は DF04 §11.4 Theorem 30(p. 440)にある。
$A\in M_n(\mathbb{Z})$、$d:=\det A\ne0$ とする。
1:$A$ を有理数を成分とする行列とみると $d\ne0$ なので、thm-cramer-main により解はただ 1 つで $dx_j=\det A_j(b)$ である。$A_j(b)$ の成分は整数なので、Leibniz の公式(整数の積の和)により $\det A_j(b)\in\mathbb{Z}$ である。
2:thm-cramer-ring の 2 を $R=\mathbb{Z}$ に当てる。$\mathbb{Z}^\times=\{1,-1\}$ なので、(a) は $d=\pm1$ である。$\square$
$A=\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}$ は $\det A=1$ なので、どんな整数 $e,f$ についても $2x+y=e$、$x+y=f$ は整数の解 $x=e-f$、$y=2f-e$ をもつ。一方 $A'=\begin{pmatrix}2&1\\0&1\end{pmatrix}$ は $\det A'=2$ で、$b=(1,0)^{\top}$ に対する有理数の解は $x=\det\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}/2=1/2$、$y=\det\begin{pmatrix}2&1\\0&0\end{pmatrix}/2=0$ である。分母は $2$ で、整数の解はない。
成分が多項式環 $K[t]$ に属する場合にも、thm-cramer-main を有理関数体 $K(t)$ で使えば、解の各成分は分母 $\det A$ の有理式になる。とくに実数の行列では、$\det A\ne0$ の範囲で解 $x$ は係数 $A,b$ の成分の有理式であり、係数について連続(さらに何回でも微分可能)である。ex-cramer-parameter の $x=y=1/(t+1)$ はその例である。
$\det A=0$ のとき公式の分母は $0$ になり、解はないか、あっても 2 つ以上ある(連立1次方程式 の記事の注意「係数行列が正方行列の場合」)。それでも thm-cramer-main の 1 は使える。
$A\in M_n(K)$、$\det A=0$、$b\in K^n$ とする。
$A$ の列空間(列 $a_1,\dots,a_n$ が張る部分空間)を $W$ とすると、$\dim W=\operatorname{rank}A$ であり(行列の階数)、$Ax=b$ が解をもつことは $b\in W$ と同値である。また、$n$ 個のベクトルを並べた正方行列の行列式が $0$ でないことと、その $n$ 個が 線形独立 であることは同値である(行列式 の記事の定理「正則性の判定」の 2 と 3)。
1:解 $x$ があれば、thm-cramer-main の 1 により $\det A_j(b)=x_j\det A=0$ がすべての $j$ で成り立つ。対偶をとればよい。
2:解をもてばすべて $0$ になることは 1 で示した。逆を対偶で示す。$Ax=b$ が解をもたない、すなわち $b\notin W$ とする。$W$ は $a_1,\dots,a_n$ で生成されるので、そのうち $\dim W=n-1$ 個が $W$ の基底になる(基底 の記事の定理「有限生成ベクトル空間の基底の存在」)。基底に選ばれなかった列を $a_j$ とする。$A_j(b)$ の列は、$W$ の基底をなす $n-1$ 個の列と $b$ である。$\sum_{k\ne j}c_ka_k+cb=0$ とすると、$c\ne0$ なら $b=-c^{-1}\sum_{k\ne j}c_ka_k\in W$ となって仮定に反するので $c=0$ であり、基底の線形独立性からすべての $c_k$ も $0$ である。よって $A_j(b)$ の列は線形独立で、$\det A_j(b)\ne0$ である。
3:$A_j(b)$ の列のうち $b$ 以外の $n-1$ 個は $W$ に属するので、$n$ 個の列が張る部分空間の次元は $\dim W+1\le n-1$ 以下である。$n$ 個のベクトルが次元 $n-1$ 以下の部分空間に入るので線形独立でなく、$\det A_j(b)=0$ である。$\square$
ex-cramer-parameter では、$t=\pm1$ のとき $A=\begin{pmatrix}t&1\\1&t\end{pmatrix}$ の階数は $1=n-1$ である。$t=-1$ では $\det A_1(b)=-2\ne0$ なので解がなく、$t=1$ では $\det A_1(b)=\det A_2(b)=0$ なので 2 により解がある。階数が $n-2$ 以下になると、3 により右辺の行列式はいつも $0$ なので、解の有無について何も分からない。たとえば $n=2$、$A=O$(零行列)なら、$b=0$ では解は無数にあり、$b=(1,0)^{\top}$ では解はないが、どちらの場合も $\det A_1(b)=\det A_2(b)=0$ である。
未知数が $n+1$ 個、式が $n$ 本の斉次方程式 $Ax=0$ は、$0$ でない解を必ずもつ(連立1次方程式 の記事の系「未知数が式より多い斉次方程式」)。係数行列の階数が $n$ なら、その解は $n$ 次の小行列式を並べて書ける。
$A$ を $K$ の元を成分とする $n\times(n+1)$ 行列とし、その列を $a_1,\dots,a_{n+1}$ とする。$k=1,\dots,n+1$ について、$A$ から第 $k$ 列を除いた $n$ 次正方行列の行列式を $\Delta_k$ とし、
$$
v:=\bigl(\Delta_1,\ -\Delta_2,\ \Delta_3,\ \dots,\ (-1)^{n}\Delta_{n+1}\bigr)^{\top},\qquad v_k=(-1)^{k+1}\Delta_k
$$
とおく。
1:$i=1,\dots,n$ を固定する。$A$ の上に $A$ の第 $i$ 行をもう 1 行置いた $(n+1)$ 次正方行列を $B_i$ とする。$B_i$ の第 1 行と第 $i+1$ 行はどちらも $A$ の第 $i$ 行なので、$\det B_i=0$ である(行列式 の記事の定理「多重線形性と交代性」)。$B_i$ を第 1 行で余因子展開する(同じ記事の定理「行と列に関する余因子展開」)。$B_i$ の $(1,k)$ 成分は $A$ の $(i,k)$ 成分 $a_{ik}$ で、$B_i$ から第 1 行と第 $k$ 列を除いた行列は、$A$ から第 $k$ 列を除いた行列そのものなので、$(1,k)$ 余因子は $(-1)^{1+k}\Delta_k=v_k$ である。よって
$$
0=\det B_i=\sum_{k=1}^{n+1}a_{ik}v_k
$$
であり、右辺は $Av$ の第 $i$ 成分である。$i$ は任意なので $Av=0$ である。
2:$\operatorname{rank}A=n$ なら、$A$ の列空間は $K^n$ 全体であり、$n+1$ 個の列のうち $n$ 個が $K^n$ の基底になる(基底 の記事の定理「有限生成ベクトル空間の基底の存在」)。基底に選ばれなかった列を $a_k$ とすると、$a_k$ を除いた $n$ 個の列は線形独立なので $\Delta_k\ne0$(行列式 の記事の定理「正則性の判定」)、よって $v\ne0$ である。次元 の記事の定理「階数と退化次数の公式」を $A\colon K^{n+1}\to K^n$ に当てると、解全体(核)の次元は $(n+1)-n=1$ である。$v$ は 1 により核に属する $0$ でないベクトルなので、核は $v$ のスカラー倍全体である。$\square$
$n=2$ とし、$A$ の 2 つの行を $\mathbb{R}^3$ のベクトル $u=(u_1,u_2,u_3)$、$w=(w_1,w_2,w_3)$ とする。thm-cramer-kernel の $v$ は
$$
v=\bigl(u_2w_3-u_3w_2,\ \ -(u_1w_3-u_3w_1),\ \ u_1w_2-u_2w_1\bigr)
$$
で、これは外積 $u\times w$ にほかならない。1 は $u\times w$ が $u$ とも $w$ とも直交することを、2 は $u,w$ が線形独立なら、両方に直交するベクトルが $u\times w$ のスカラー倍に限ることを述べている。
平面の相異なる 2 点 $(p_1,p_2)$、$(q_1,q_2)$ を通る直線 $\alpha x+\beta y+\gamma=0$ を求める。係数 $(\alpha,\beta,\gamma)$ は
$$
\begin{pmatrix}p_1&p_2&1\\ q_1&q_2&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\alpha\\ \beta\\ \gamma\end{pmatrix}=0
$$
の解で、2 点が異なるので係数行列の階数は $2$ である。thm-cramer-kernel により、解は
$$
(\alpha,\beta,\gamma)=c\,\bigl(p_2-q_2,\ \ -(p_1-q_1),\ \ p_1q_2-p_2q_1\bigr)\qquad(c\in K)
$$
に限る。たとえば $(1,0)$ と $(0,2)$ では $(\alpha,\beta,\gamma)=c(-2,-1,2)$ で、直線は $2x+y=2$ である。
$A\in M_n(K)$、$b\in K^n$ に対し、$Ax=b$ は $n\times(n+1)$ 行列 $(A\ \ {-b})$ の斉次方程式 $(A\ \ {-b})\binom{x}{1}=0$ と同じである。thm-cramer-kernel の $v$ をこの行列で計算すると、$v_{n+1}=(-1)^n\det A$ であり、$j\le n$ では、第 $j$ 列を除いた行列 $(a_1\ \cdots\ \widehat{a_j}\ \cdots\ a_n\ \ {-b})$ の最後の列 $-b$ を第 $j$ 列の位置まで隣と $n-j$ 回入れ替えて動かすと $A_j(-b)$ になるので、$v_j=(-1)^{j+1}(-1)^{n-j}\det A_j(-b)=(-1)^n\det A_j(b)$ である(最後の等号は第 $j$ 列の線形性による)。したがって
$$
v=(-1)^n\bigl(\det A_1(b),\ \dots,\ \det A_n(b),\ \det A\bigr)^{\top}
$$
である。$\det A\ne0$ なら $(A\ \ {-b})$ の階数は $n$ なので、解 $\binom{x}{1}$ は $v$ のスカラー倍であり、最後の成分を $1$ にそろえると $x_j=\det A_j(b)/\det A$ が再び得られる。
Cramer の公式で $n$ 元の方程式を解くには、$n+1$ 個の $n$ 次行列式が要る。行列式を置換の和(Leibniz の公式)で計算すると 1 つあたり $n!$ 個の積が現れるので、$n$ が大きいときは実用にならない。行列式を前進消去で求めても、掃き出し法 で直接解くより手数がかかる(掃き出し法 の記事の命題「Gauss の消去法の乗除算の回数」)。Cramer の公式の価値は数値計算ではなく、解を係数の明示的な式として書けることにある。分母が $\det A$ であること(cor-cramer-integer)、係数について連続であること、斉次方程式の解が小行列式で書けること(thm-cramer-kernel)は、どれも公式の形から読み取れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-cramer-main の $\det A\ne0$ | $A=\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}$、$b=(1,1)^{\top}$ | 解がただ 1 つ |
| thm-cramer-main の $\det A\ne0$ | $A=\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}$、$b=(1,2)^{\top}$ | 解が存在する |
| thm-cramer-ring の $\det A\in R^\times$($\det A\ne0$ だけにする) | $R=\mathbb{Z}$、$A=(2)$、$b=(1)$ | $R^n$ に解が存在する |
| thm-cramer-singular の 2 の $\operatorname{rank}A=n-1$ | $A=O$($2$ 次)、$b=(1,0)^{\top}$ | すべての $\det A_j(b)=0$ なら解をもつ |
| thm-cramer-kernel の 2 の $\operatorname{rank}A=n$ | $A=(0\ \ 0)$($n=1$) | $v$ のスカラー倍が解のすべて |
1 行目:$x+y=1$ の 1 本の式になり、$(x,y)=(s,1-s)$ がすべて解である。2 行目:$x+y=1$ と $x+y=2$ は同時に成り立たない。$\det A_1(b)=\det\begin{pmatrix}1&1\\2&1\end{pmatrix}=-1\ne0$ なので、thm-cramer-singular の 1 からも解がないと分かる。3 行目:$2x=1$ は整数の解をもたない。有理数の解 $1/2$ はあるので、「$\det A\ne0$」は体の上では十分だが、$\mathbb{Z}$ の上では足りない。4 行目:$\operatorname{rank}O=0=n-2$ で、$A_1(b)=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$、$A_2(b)=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ の行列式はどちらも $0$ だが、$Ox=b$ は解をもたない。5 行目:$\Delta_1=\Delta_2=0$ なので $v=0$ だが、$0x_1+0x_2=0$ の解は $K^2$ 全体である。
thm-cramer-ring の 1 は、未知数が環の元でなく加群の元でも成り立つ。$R$ を可換環、$M$ を $R$ 加群、$A\in M_n(R)$ とし、$m_1,\dots,m_n\in M$ が $\sum_ka_{ik}m_k=0$($i=1,\dots,n$)を満たすとする。両辺に左から $\operatorname{adj}A$ を掛ける(成分ごとに書けば、第 $j$ 式は $\sum_iC_{ij}\sum_ka_{ik}m_k=0$)と、$\operatorname{adj}A\,A=(\det A)I_n$ により $(\det A)\,m_j=0$ がすべての $j$ で成り立つ。この形は、有限生成加群についての Cayley–Hamilton の定理や中山の補題の証明で使われる。
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