Fordの円(Ford circles)とは、既約分数 $p/q$ ごとに点 $p/q$ で実軸に接する半径 $1/(2q^2)$ の円のことである。どの 2 つの円板も内部が交わらず、接するのはたすき掛けの差 $\lvert ps-qr\rvert$ が $1$ の組、たとえば Farey 数列で隣り合う分数の組に限る。$\infty$ に直線 $\operatorname{Im}z=1$ の上側を対応させると、モジュラー群 $\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ の各元は円板を互いに移し、円板の全体は 1 つの軌道になる。Farey の隣接を結ぶ半円の族の記述や、無理数 $x$ に $\lvert x-p/q\rvert<1/(2q^2)$ を満たす分数が無限にあることの証明に使われる。
前提知識: 上半平面, モジュラー群, Farey数列(高校数学), Bézoutの等式
既約分数 $p/q$ ごとに、点 $p/q$ で実軸に接する半径 $1/(2q^2)$ の円を描くと、どの 2 つの円も重ならず、たすき掛けの差 $\lvert ps-qr\rvert$ が $1$ の組だけがちょうど接する。これが Ford の円(Ford circles)であり、接し方の計算は高校向けの Fordの円(高校数学) で扱った。
この記事では、Ford の円を モジュラー群 $\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ の作用から見直す。上半平面 $\mathfrak H$ の中で円が囲む閉円板(接点を除く)を考え、無限遠点 $\infty$ にも「円」として直線 $\operatorname{Im}z=1$ の上側を対応させる。すると $\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ の各元はこれらの円板を互いに移し合い(thm-ford-action)、円板の全体は $\{\operatorname{Im}z\ge1\}$ のただ 1 つの軌道になる。接するか離れるかの判定(thm-ford-tangency)は、この作用で一方を $\infty$ に移せば一目でわかる。応用として、Farey 数列で隣り合う分数を結ぶ半円の族を作用で記述し(prop-ford-farey-arcs)、無理数 $x$ には $\lvert x-p/q\rvert< 1/(2q^2)$ を満たす分数が無限に多くあること(thm-ford-approximation)を Farey 数列から証明する。
$\widehat{\mathbb Q}:=\mathbb Q\cup\{\infty\}$ とおく。整数の組 $(p,q)$ で $\gcd(p,q)=1$ のものを原始ベクトルとよび、列ベクトル $v=\binom pq$ と書く。原始ベクトル $v$ には $\widehat{\mathbb Q}$ の元 $p/q$($q=0$ なら $\infty$)が対応し、$v$ と $-v$ は同じ元を与える。逆に $\widehat{\mathbb Q}$ の各元は、符号を除いてただ 1 つの原始ベクトルから来る。$z\in\mathfrak H$ には $\tilde z:=\binom z1$ を対応させる。
既約分数 $p/q$($q\ge1$)に対し、中心 $\frac pq+\frac{i}{2q^2}$、半径 $\frac1{2q^2}$ の円を $C(p/q)$ と書き、Ford の円という。$C(p/q)$ で囲まれた閉円板から実軸上の接点 $p/q$ を除いた集合を $B(p/q)$ と書き、Ford の円板という。$\infty$ に対しては $C(\infty):=\{z\mid\operatorname{Im}z=1\}$、$B(\infty):=\{z\mid\operatorname{Im}z\ge1\}$ とおく。
Ford の円板はどれも $\mathfrak H$ に含まれる。次の補題は、有限の分数と $\infty$ を同じ式で扱えるようにする。
原始ベクトル $v=\binom pq$ に対し
$$
B(p/q)=\{z\in\mathfrak H\mid \operatorname{Im}z\ge\lvert qz-p\rvert^2\}
$$
が成り立つ($q=0$ のときは $B(\infty)$)。
$q=0$ なら $p=\pm1$ で、右辺は $\{\operatorname{Im}z\ge1\}$ である。$q\ne0$ なら $v$ を $-v$ に替えて $q\ge1$ としてよい。$z=x+iy$($y>0$)とすると、$y\ge q^2\lvert z-p/q\rvert^2$ は
$$
\Bigl(x-\frac pq\Bigr)^2+\Bigl(y-\frac1{2q^2}\Bigr)^2\le\frac1{4q^4}
$$
と同値であり、これは $z$ が $C(p/q)$ の囲む閉円板に入ることを表す。$y>0$ により接点 $p/q$ は除かれる。$\square$
$\lvert qz-p\rvert$ は、$2\times2$ 行列 $(v\ \tilde z)=\begin{pmatrix}p&z\\q&1\end{pmatrix}$ の行列式 $\det(v,\tilde z)=p-qz$ の絶対値である。この見方が次の節の証明の鍵になる。
$C(0/1)$ と $C(1/1)$ は半径 $\frac12$ で、中心 $\frac i2$ と $1+\frac i2$ の距離 $1$ が半径の和に等しいので、点 $\frac12+\frac i2$ で接する。$C(1/2)$ は半径 $\frac18$ で、この 2 つの円と直線 $\mathbb R$ に囲まれた隙間に入り、両方に接する。$C(\infty)$ は $C(n/1)$($n\in\mathbb Z$)と点 $n+i$ で接する。
$\gamma=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ は $\mathfrak H$ に $\gamma z=\frac{az+b}{cz+d}$ で作用し、$\operatorname{Im}(\gamma z)=\frac{\operatorname{Im}z}{\lvert cz+d\rvert^2}$ が成り立つ(上半平面 の命題「作用の基本性質」)。$\gamma$ は $\widehat{\mathbb Q}$ にも同じ式で作用し($\gamma\infty=a/c$、$c=0$ なら $\infty$)、原始ベクトルで言えば $v\mapsto\gamma v$(行列と列ベクトルの積)である。$\gamma$ は $\mathbb Z^2$ の自己同型なので原始ベクトルを原始ベクトルに移す。
$\gamma\in\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ と原始ベクトル $v$ について、$v$ が表す $\widehat{\mathbb Q}$ の元を $r$ とすると
$$
\gamma\bigl(B(r)\bigr)=B(\gamma r)
$$
が成り立つ。とくに $\gamma(B(\infty))=B(a/c)$($a/c$ は $\gamma$ の第 1 列が表す元)である。$\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ は Ford の円板の全体 $\{B(r)\mid r\in\widehat{\mathbb Q}\}$ に推移的に作用し、$B(\infty)$ を保つ元は $\pm\begin{pmatrix}1&n\\0&1\end{pmatrix}$($n\in\mathbb Z$)に限る。
$\gamma\tilde z=\binom{az+b}{cz+d}=(cz+d)\,\widetilde{\gamma z}$ なので、$\gamma v=\binom{p'}{q'}$ とおくと
$$
p'-q'\gamma z=\det\bigl(\gamma v,\widetilde{\gamma z}\bigr)=\frac{\det(\gamma v,\gamma\tilde z)}{cz+d}=\frac{\det\gamma\cdot\det(v,\tilde z)}{cz+d}=\frac{p-qz}{cz+d}
$$
である。これと虚部の式を合わせると
$$
\operatorname{Im}(\gamma z)-\lvert q'\gamma z-p'\rvert^2=\frac{\operatorname{Im}z-\lvert qz-p\rvert^2}{\lvert cz+d\rvert^2}
$$
となる。lem-ford-disc-equation により $z\in B(r)$ と $\gamma z\in B(\gamma r)$ は同値であり、$z\mapsto\gamma z$ は $\mathfrak H$ の全単射なので $\gamma(B(r))=B(\gamma r)$ である。
推移性:既約分数 $p/q$ について、Bézoutの等式 により $pd-qb=1$ となる整数 $b,d$ があり、$\gamma=\begin{pmatrix}p&b\\q&d\end{pmatrix}\in\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ は $\gamma(B(\infty))=B(p/q)$ を満たす。固定部分群:$\gamma(B(\infty))=B(\infty)$ は $\gamma\binom10=\pm\binom10$、すなわち $a=\pm1$、$c=0$ と同値で、このとき $ad=1$ から $d=a$ である。逆にこの形の元は $z\mapsto z+n$ で、$B(\infty)$ を保つ。$\square$
$B(r)$ は、双曲幾何では点 $r$ を中心とするホロ円板とよばれる。thm-ford-action の式は、$\operatorname{Im}z-\lvert qz-p\rvert^2$ が $\gamma$ で正の数 $\lvert cz+d\rvert^{-2}$ 倍されるだけであることを示しており、Ford の円板の全体が $B(\infty)$ のただ 1 つの軌道であることを意味する。
$r_1\ne r_2$ を $\widehat{\mathbb Q}$ の元とし、原始ベクトル $v_1=\binom pq$、$v_2=\binom{p'}{q'}$ で表す。$B(r_1)$ と $B(r_2)$ の内部は交わらない。さらに $B(r_1)\cap B(r_2)\ne\emptyset$ となるのは $\lvert\det(v_1,v_2)\rvert=\lvert pq'-qp'\rvert=1$ のときに限り、このとき両者はただ 1 点で接する。
まず $r_1=\infty$、$v_1=\binom10$ の場合を示す。$r_2=p'/q'$($q'\ge1$)で、$\lvert\det(v_1,v_2)\rvert=q'$ である。$B(p'/q')$ の点の虚部は最大でも $1/q'^2$ で、それに達するのは最上点 $\frac{p'}{q'}+\frac{i}{q'^2}$ だけである。$q'\ge2$ なら虚部は $\frac14$ 以下なので $B(\infty)$ と交わらない。$q'=1$ なら $B(\infty)$ との共通部分はちょうど 1 点 $p'+i$ で、内部どうしは交わらない。
一般の場合、thm-ford-action の証明のように $\gamma\binom10=v_1$ となる $\gamma\in\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ をとる。$w:=\gamma^{-1}v_2$ とおくと、$\gamma$ は $\mathfrak H$ の同相写像で、$B(\infty)$ と $B(\gamma^{-1}r_2)$ を $B(r_1)$ と $B(r_2)$ に移す。$\det\gamma=1$ より $\det\bigl(\tbinom10,w\bigr)=\det(\gamma\tbinom10,\gamma w)=\det(v_1,v_2)$ なので、前半の場合に帰着する。$\square$
Fordの円(高校数学) の定理「2 つの Ford の円の位置関係」は、中心間の距離の 2 乗と半径の和の 2 乗の差が $\frac{(pq'-qp')^2-1}{q^2q'^2}$ になるという直接の計算で同じ結論を得ている。
$C(1/3)$ と $C(1/2)$ は $\lvert1\cdot2-3\cdot1\rvert=1$ なので接し、$C(1/3)$ と $C(2/3)$ は $\lvert1\cdot3-3\cdot2\rvert=3$ なので離れている。$C(2/5)$ と $C(3/7)$ は $\lvert2\cdot7-5\cdot3\rvert=1$ なので接する。
$\widehat{\mathbb Q}$ の 2 元 $r_1,r_2$ が原始ベクトル $v_1,v_2$ で $\lvert\det(v_1,v_2)\rvert=1$ を満たすとき、$r_1,r_2$ は Farey の隣接であるという(thm-ford-tangency により、$C(r_1)$ と $C(r_2)$ が接することと同値)。位数 $n$ の Farey 数列 $F_n$($0$ 以上 $1$ 以下で分母が $n$ 以下の既約分数を小さい順に並べた列、Farey数列(高校数学) の定義「Farey 数列」)で隣り合う 2 項 $\frac ab<\frac cd$ は $bc-ad=1$ を満たし(同記事の定理「隣り合う 2 項のたすき掛け」、HW60 Theorem 28)、したがって Farey の隣接である。とくに $F_n$ で隣り合う 2 項の Ford の円は接する。
Farey の隣接 $r_1,r_2$ に対し、$r_1,r_2$ を直径の両端とする $\mathfrak H$ の中の半円(一方が $\infty$ なら、他方を通る実軸に垂直な半直線)を $E(r_1,r_2)$ と書き、Farey の弧とよぶ。
$E(r_1,r_2)$ は、$r_1,r_2$ を通り複素共役 $z\mapsto\bar z$ で自分に移る円または直線のうち実軸 $\mathbb R\cup\{\infty\}$ 以外のものの、$\mathfrak H$ に入る部分である(共役で保たれる円は中心が実軸上にあり、$r_1,r_2$ を通るならそれを直径の両端とする)。$\gamma\in\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ の係数は実数なので $\gamma(\bar z)=\overline{\gamma z}$ であり、Möbius 変換は円と直線の全体を自分に移す(Möbius変換 の定理「円は円に移る」)。したがって $\gamma$ は、$r_1,r_2$ を通り共役で保たれる円または直線を、$\gamma r_1,\gamma r_2$ を通り共役で保たれる円または直線に移す。$\gamma$ は実軸 $\mathbb R\cup\{\infty\}$ を自分に移すので、実軸以外のものは実軸以外のものに移る。$\gamma$ は $\mathfrak H$ を保つので $\gamma(E(r_1,r_2))=E(\gamma r_1,\gamma r_2)$ であり、$\lvert\det(\gamma v_1,\gamma v_2)\rvert=\lvert\det(v_1,v_2)\rvert$ なので右辺も Farey の弧である。逆に Farey の隣接 $r_1,r_2$ を表す原始ベクトルを、必要なら $v_2$ の符号を替えて $\det(v_1,v_2)=1$ ととると、$\gamma:=(v_1\ v_2)\in\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ は $\gamma\infty=r_1$、$\gamma0=r_2$ を満たし、$E(r_1,r_2)=\gamma(E(\infty,0))$ である。
2。$C(\infty)$ と $C(0/1)$ の接点は $i$ で、虚軸の上にある。1 の $\gamma$ は thm-ford-action により $B(\infty),B(0)$ を $B(r_1),B(r_2)$ に移すので、接点 $i$ を $C(r_1)$ と $C(r_2)$ の接点 $\gamma i$ に移し、$\gamma i\in\gamma(E(\infty,0))=E(r_1,r_2)$ である。$\square$
$r_1=\frac01$、$r_2=\frac12$ では $\gamma=\begin{pmatrix}0&1\\1&2\end{pmatrix}$($\det=-1$)の代わりに $v_2=\binom{-1}{-2}$ をとって $\gamma=\begin{pmatrix}0&-1\\1&-2\end{pmatrix}$ とすると、接点は $\gamma i=\frac{-1}{i-2}=\frac{2+i}{5}$ である。これは直径 $[0,\frac12]$ の半円 $\lvert z-\frac14\rvert=\frac14$ の上にあり($\lvert\frac{2+i}{5}-\frac14\rvert^2=\frac{9+16}{400}=\frac1{16}$)、$C(0/1)$ と $C(1/2)$ の上にもある。
Fordの円(高校数学) の定理「接する円のすべてと接点」は、$C(p/q)$ に接する円を 1 次不定方程式 $\lvert xq-yp\rvert=1$ の解で列挙している。thm-ford-action から見ると、$B(\infty)$ に接する円板 $B(n/1)$ が平行移動 $z\mapsto z+1$ で 1 列に並ぶ様子を、$\gamma\infty=p/q$ となる $\gamma=\begin{pmatrix}p&b\\q&d\end{pmatrix}\in\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)$ で $B(p/q)$ の周りに移したものであり、$B(p/q)$ に接する円板は $B\bigl(\frac{b+np}{d+nq}\bigr)$($n\in\mathbb Z$)とちょうど書ける。
実軸に垂直な直線 $\operatorname{Re}z=x$ が Ford の円板 $B(p/q)$ と交わるのは、$\lvert x-p/q\rvert\le\frac1{2q^2}$ のとき、すなわち $x$ が円板の真下の区間に入るときである。$\infty$ から $x$ へ真下に降りる直線は、$x$ が無理数なら無限に多くの Ford の円板を通る。これが次の定理の図形的な意味である。
既約分数 $\frac pq<\frac rs$($q,s\ge1$)が $qr-ps=1$ を満たし、無理数 $x$ が $\frac pq< x<\frac rs$ を満たすとする。このとき
$$
\Bigl\lvert x-\frac pq\Bigr\rvert<\frac1{2q^2}\quad\text{または}\quad\Bigl\lvert x-\frac rs\Bigr\rvert<\frac1{2s^2}
$$
が成り立つ。
どちらも成り立たないとすると、$x-\frac pq\ge\frac1{2q^2}$ かつ $\frac rs-x\ge\frac1{2s^2}$ である。足すと、$\frac rs-\frac pq=\frac{qr-ps}{qs}=\frac1{qs}$ から
$$
0\ge\frac1{2q^2}+\frac1{2s^2}-\frac1{qs}=\frac12\Bigl(\frac1q-\frac1s\Bigr)^2\ge0
$$
となるので、すべて等号である。よって $q=s$ で、$qr-ps=q(r-p)=1$ から $q=s=1$ であり、$x-p=\frac12$ となって $x$ が有理数になり、矛盾する。$\square$
$x$ を無理数とする。$\Bigl\lvert x-\dfrac pq\Bigr\rvert<\dfrac1{2q^2}$ を満たす既約分数 $\dfrac pq$($q\ge1$)は無限に多くある。
$m:=\lfloor x\rfloor$ とおき、$x-m\in(0,1)$ に対して示せば、平行移動で分母は変わらないので $x$ に対しても成り立つ。そこで $0< x< 1$ とする。正の整数 $n$ をとる。$x$ は無理数なので、$F_n$ の隣り合う 2 項 $\frac pq<\frac rs$ で $\frac pq< x<\frac rs$ となるものがある。Farey数列(高校数学) の定理「隣り合う 2 項のたすき掛け」により $qr-ps=1$、定理「中間の分数による挿入」の (1) により $q+s>n$ である(HW60 Theorems 28・30)。lem-ford-neighbors により、$\frac pq,\frac rs$ の一方 $\frac ab$ は $\lvert x-\frac ab\rvert<\frac1{2b^2}$ を満たす。さらに
$$
\Bigl\lvert x-\frac ab\Bigr\rvert<\frac rs-\frac pq=\frac1{qs}\le\frac1{\max(q,s)}<\frac2n
$$
である($q+s>n$ から $\max(q,s)>n/2$)。$x$ は無理数なので $\lvert x-\frac ab\rvert>0$ であり、$n\to\infty$ のとき $\lvert x-\frac ab\rvert\to0$ となる。よって得られる分数は無限に多くの異なる値をとる。$\square$
定数 $\frac12$ は $\frac1{\sqrt5}$ まで小さくでき、これ以上は小さくできない(Diophantus近似 の定理「Hurwitz の定理」、HW60 Theorems 193・194、p. 164)。$\frac1{q^2}$ の形の近似(HW60 Theorem 185、p. 155)は連分数でも得られる(連分数)。有理数 $x=\frac ab$ では、$\frac pq\ne x$ なら $\lvert x-\frac pq\rvert\ge\frac1{bq}$ なので、$\lvert x-\frac pq\rvert<\frac1{2q^2}$ を満たす $\frac pq\ne x$ は $q<\frac b2$ のものに限られ、有限個しかない($x=\frac12$ の場合は ex-ford-counterexamples)。
$0< p/q\le1$ の既約分数は、分母 $q$ ごとに Eulerのφ関数 の値 $\varphi(q)$ 個ある。Ford の円板の内部は互いに交わらないので、それらの面積の和は
$$
\sum_{q\ge1}\varphi(q)\cdot\frac{\pi}{4q^4}=\frac\pi4\cdot\frac{\zeta(3)}{\zeta(4)}
$$
である。等号は、Eulerのφ関数 の定理「Gaussの約数和公式」$\sum_{d\mid n}\varphi(d)=n$ により $\zeta(4)\sum_{q\ge1}\varphi(q)q^{-4}=\sum_{n\ge1}\bigl(\sum_{d\mid n}\varphi(d)\bigr)n^{-4}=\zeta(3)$ となることによる(正項級数の積を $n=dq'$ ごとにまとめた)。$\zeta(4)=\frac{\pi^4}{90}$(Riemannゼータ関数)を使うと、値は $\frac{45\,\zeta(3)}{2\pi^3}\approx0.872$ である。
thm-ford-tangency・thm-ford-action・thm-ford-approximation の仮定は外せない。表の各行は仮定を 1 つだけ外す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 分数が既約 | $\frac24$ に半径 $\frac1{32}$ の円を立てる | 円板の内部が交わらないこと:$C(1/2)$ の内部に入る |
| 半径が $\frac1{2q^2}$ | 半径を $\frac1{q^2}$ にした $\frac01$ と $\frac11$ の円 | 円板の内部が交わらないこと |
| $\det\gamma=1$ | $\gamma=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$、$z\mapsto-z$ | $\gamma(B(\infty))=\{\operatorname{Im}z\le-1\}$ は $\mathfrak H$ に入らず、Ford の円板でない |
| $x$ が無理数 | $x=\frac12$ | 近似できる分数は $\frac12$ 自身だけ |
1 行目:中心 $\frac12+\frac i{32}$、半径 $\frac1{32}$ の円板は、中心 $\frac12+\frac i8$、半径 $\frac18$ の $C(1/2)$ の円板に含まれる(中心間の距離 $\frac3{32}$ は半径の差 $\frac3{32}$ に等しく、内接する)。2 行目:中心 $i$ と $1+i$ の距離 $1$ は半径の和 $2$ より小さい。4 行目:$\frac pq\ne\frac12$ なら $\lvert\frac12-\frac pq\rvert=\frac{\lvert q-2p\rvert}{2q}\ge\frac1{2q}\ge\frac1{2q^2}$ なので、不等式 $<\frac1{2q^2}$ は成り立たない。
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