三角形分割可能な多様体

同義語:triangulable manifold組合せ的な三角形分割combinatorial triangulation組合せ的でない三角形分割non-combinatorial triangulation

概要

三角形分割可能な多様体(triangulable manifold)とは、ある単体複体の多面体と同相な位相多様体である。三角形分割は、各頂点のリンクが PL 球面であるとき組合せ的といい、組合せ的な三角形分割をもつことは PL 構造をもつことと同じである。三角形分割された $n$ 次元多様体では頂点のリンクは $S^{n-1}$ と同じホモロジーをもち、$2$ 次元以下ではどの三角形分割も組合せ的だが、Poincaré ホモロジー球面の二重懸垂は $S^5$ の組合せ的でない三角形分割を与える。三角形分割できない多様体も $4$ 次元以上にある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相多様体, 単体複体, PL多様体, 相対ホモロジー

位相多様体が単体複体の多面体と同相であるとき、その多様体は三角形分割可能(triangulable)であるという。三角形分割は多様体を有限個の種類の部品の組合せで記述するので、ホモロジーの計算などに便利だが、どの位相多様体でも三角形分割できるわけではない。また、三角形分割できたとしても、その単体複体が組合せ多様体(各頂点のリンクが PL 球面であるもの)になるとは限らない。組合せ多様体になる三角形分割は組合せ的であるといい、組合せ的な三角形分割をもつことは PL 構造をもつことと同じである(PL多様体)。
したがって、位相多様体・三角形分割可能な多様体・PL 多様体は、この順に条件が強くなる 3 つの段である。この記事では、三角形分割された多様体の局所的な構造(次元がそろうこと、頂点のリンクのホモロジーが球面と同じであること)を証明し、$2$ 次元以下ではどの三角形分割も組合せ的であることを示す。一方、単連結でないホモロジー球面の懸垂は多様体でないことを証明し、Edwards–Cannon の二重懸垂定理(引用)とあわせて、$5$ 次元球面の組合せ的でない三角形分割を与える。

定義

以下、単体複体・多面体・星状体・リンク・PL 球面・組合せ多様体の用語は単体複体とPL多様体の記事にしたがう。単体複体は Bry02 §2 にしたがい $\mathbb{R}^N$ の中の局所有限なものとし、多面体には相対位相を入れる。位相多様体は Hausdorff かつ第 2 可算で、境界をもたないものとする。

三角形分割可能な多様体と組合せ的な三角形分割

$n\ge1$ とし、$M$ を $n$ 次元の位相多様体とする。単体複体 $K$ と同相写像 $h\colon|K|\to M$ の組を $M$ の三角形分割(triangulation)といい(単体複体の定義「三角形分割と多面体」)、三角形分割をもつ位相多様体を三角形分割可能な多様体(triangulable manifold)という。三角形分割 $(K,h)$ は、$K$ が組合せ $n$ 次元多様体、すなわち各頂点のリンク $|\operatorname{Lk}(v,K)|$ が PL $(n-1)$ 球面であるとき組合せ的(combinatorial)であるという。

PL多様体の定理「リンクの条件」により、三角形分割が組合せ的であることは、多面体 $|K|$ が PL $n$ 次元多様体であることと同値である。多面体が PL 多様体であることは PL 同相で保たれ、PL 構造(座標変換が PL 同相写像であるアトラス)をもつ位相多様体は組合せ的な三角形分割をもつ(Bry02 §2「Triangulations」)。したがって、次の 3 つの類がこの順に含まれる。

位相多様体三角形分割可能PL 構造をもつ
要求すること局所的に $\mathbb{R}^n$ と同相ある単体複体の多面体と同相組合せ的な三角形分割をもつ
局所的な組合せ構造なし頂点のリンクは球面と同じホモロジーをもつ頂点のリンクは PL 球面
$n\le3$3 つの類は一致する
$n=4$三角形分割可能でないものがある三角形分割可能なら PL 構造をもつ
$n\ge5$三角形分割可能でないものがあるPL 構造をもたないものがある

表の最後の 3 行は引用である(Rud01 Summary 1・4a・4b、pp. 86–87。$n\le3$ は Radó と Moise による。Summary は連結で有限 CW 複体のホモトピー型をもつ多様体を仮定している)。「頂点のリンクは球面と同じホモロジーをもつ」は下の prop-tri-link-homology で証明する。

三角形分割された多様体の局所構造

次元がそろうこと

$K$ を $n$ 次元位相多様体 $M$ の三角形分割とする。$K$ の単体の次元は $n$ 以下であり、$K$ の各単体はある $n$ 単体の面である。

$K$ は局所有限なので、各単体を含む単体は有限個であり、その中で包含について極大なものがある。したがって、極大な単体(ほかの単体の真の面でないもの)の次元がすべて $n$ であることを示せばよい。$\sigma$ を極大な $k$ 単体とする。$\sigma$ を含む単体は $\sigma$ だけなので、$\sigma$ の頂点の開星状近傍の共通部分 $\bigcap_{v\in\sigma}\operatorname{st}v$(台が $\sigma$ のすべての頂点を含む点の全体)は $\sigma$ の内部 $\operatorname{int}\sigma$ に等しく、単体近似定理の補題「星状近傍の基本性質」の (i) により $|K|$ の開集合である。$\operatorname{int}\sigma$ は $\sigma$ の張る $k$ 次元アフィン空間 $\cong\mathbb{R}^k$ の空でない開集合である。一方、$h(\operatorname{int}\sigma)$ は $M$ の空でない開集合なので、その点のまわりの座標近傍と交わらせると、$\mathbb{R}^k$ の空でない開集合で $\mathbb{R}^n$ の空でない開集合と同相なものが得られる。領域不変性の定理「次元の一意性」により $k=n$ である。$\square$

局所的な構造を調べるには、次の錐の局所ホモロジーの計算を使う。錐の定義は PL多様体 の記事(「錐への拡張」の直前)にしたがう:$x\Gamma$ が $x$ を頂点とする錐であるとは、$x\notin\Gamma$ で、$x$ 以外の各点が $(1-t)x+ty$($0< t\le1$、$y\in\Gamma$)とただ 1 通りに書けることをいう。

錐の頂点での局所ホモロジー

$\Gamma\subset\mathbb{R}^N$ を空でないコンパクト集合、$X=x\Gamma$ を $x$ を頂点とする錐とする。すべての $i$ について $H_i(X,X\setminus\{x\})\cong\tilde H_{i-1}(\Gamma)$ である。

$q\colon\Gamma\times[0,1]\to X$、$q(y,t):=(1-t)x+ty$ は連続な全射で、コンパクト空間から Hausdorff 空間への写像なので閉写像、したがって商写像である。錐の条件により、$q$ で同じ点に写る 2 点は $\Gamma\times\{0\}$ の点どうしに限る。$\Gamma\times(0,1]$ は $q$ で飽和した開集合なので、$q$ はそこから $X\setminus\{x\}$ への同相写像を与える。よって $X\setminus\{x\}\cong\Gamma\times(0,1]$ は $\Gamma\cong\Gamma\times\{1\}$ に強変位レトラクトし、ホモトピー同値なので $\tilde H_*(X\setminus\{x\})\cong\tilde H_*(\Gamma)$ である。また $H(z,s):=(1-s)z+sx$ は $X$ の中で $\mathrm{id}_X$ と定値写像を結ぶ($z=(1-t)x+ty$ なら $H(z,s)=(1-(1-s)t)x+(1-s)ty\in X$)ので、$X$ は可縮空間である。被約ホモロジーの対の長完全列(相対ホモロジーと長完全列の記事の命題「被約ホモロジーの対の長完全列」)で $\tilde H_*(X)=0$ を使うと、$H_i(X,X\setminus\{x\})\cong\tilde H_{i-1}(X\setminus\{x\})\cong\tilde H_{i-1}(\Gamma)$ である。$\square$

PL多様体の補題「星状体は錐である」により、単体複体 $K$ の頂点 $v$ の星状体 $|\operatorname{St}(v,K)|$ は $v$ を頂点とする $|\operatorname{Lk}(v,K)|$ 上の錐である。点 $x$ の局所ホモロジー群 $H_i(X,X\setminus\{x\})$ は $x$ の任意の開近傍 $U$ についての $H_i(U,U\setminus\{x\})$ に等しい(切除定理の記事の定理「Euclid 空間の局所ホモロジーと次元の不変性」の後の注意)。開星状近傍 $\operatorname{st}v$ は $|K|$ でも $|\operatorname{St}(v,K)|$ でも $v$ の開近傍なので、$H_i(|K|,|K|\setminus\{v\})\cong H_i(|\operatorname{St}(v,K)|,|\operatorname{St}(v,K)|\setminus\{v\})$ である。

頂点のリンクのホモロジー

$K$ を $n$ 次元位相多様体の三角形分割とする。各頂点 $v$ について、$|\operatorname{Lk}(v,K)|$ は $S^{n-1}$ と同じ被約ホモロジー群をもつ:
$$ \tilde H_j(|\operatorname{Lk}(v,K)|)\cong\begin{cases}\mathbb{Z}&(j=n-1)\\0&(j\ne n-1)\end{cases} $$

$v$ は $M\cong|K|$ の点なので、座標近傍と切除定理の記事の定理「Euclid 空間の局所ホモロジーと次元の不変性」により $H_i(|K|,|K|\setminus\{v\})$ は $i=n$ で $\mathbb{Z}$、それ以外で $0$ である。上の注意と lem-tri-cone($\Gamma=|\operatorname{Lk}(v,K)|$ は prop-tri-pure により空でない)により、これは $\tilde H_{i-1}(|\operatorname{Lk}(v,K)|)$ に等しい。$j=i-1$ とおけばよい。$\square$

PL $(n-1)$ 球面は $S^{n-1}$ と同相なので、組合せ的な三角形分割ではこの結論は当然である。この命題は、三角形分割でもリンクが「ホモロジーの上では」球面であることを示す。逆に、ホモロジーが球面と同じでも球面と同相とは限らないことが、組合せ的でない三角形分割の源になる(下の prop-tri-suspension)。

2 次元以下の三角形分割

2 次元以下の三角形分割は組合せ的

$n=1,2$ とする。$n$ 次元位相多様体のどの三角形分割も組合せ的である。とくに、三角形分割可能な $2$ 次元以下の位相多様体は PL 構造をもつ。

$(K,h)$ を三角形分割とする。
$n=1$ の場合.prop-tri-pure により $K$ の単体は頂点と辺で、各頂点 $v$ のリンクは $v$ を端点とする辺の他方の端点の集合(有限集合)である。prop-tri-link-homology により $\tilde H_0(|\operatorname{Lk}(v,K)|)\cong\mathbb{Z}$ なので、リンクはちょうど 2 点からなる。2 点の集合は $\partial\Delta^1$ と PL 同相なので、$K$ は組合せ $1$ 次元多様体である。
$n=2$ の場合.prop-tri-pure により $K$ の極大な単体はすべて三角形である。
段 1(各辺はちょうど 2 つの三角形の面).辺 $e=[a,b]$ を面にもつ三角形を $[a,b,c_1],\dots,[a,b,c_m]$($m\ge1$)とし、$x$ を $e$ の中点とする。三角形 $[a,b,c_j]$ は 2 つの三角形 $[a,x,c_j]$ と $[x,b,c_j]$ の和で、それぞれ $x$ を頂点とする辺 $[a,c_j]$、$[c_j,b]$ 上の錐である。よって $|\operatorname{St}(e,K)|=\bigcup_j[a,b,c_j]$ は、$x$ を頂点とする
$$ \Gamma:=\bigcup_{j=1}^m\bigl([a,c_j]\cup[c_j,b]\bigr) $$
上の錐である(2 つの三角形は $e$ でしか交わらず、$e$ の点は $[x,a]$ か $[x,b]$ の上にあるので、表し方は一意である)。$e$ を含む単体の内部の和集合は $|K|$ の開集合で($\operatorname{st}a\cap\operatorname{st}b$ に等しい)、$x$ の開近傍として $|\operatorname{St}(e,K)|$ に含まれるので、頂点の場合と同じく $H_2(|K|,|K|\setminus\{x\})\cong H_2(|\operatorname{St}(e,K)|,|\operatorname{St}(e,K)|\setminus\{x\})$ である。左辺は $\mathbb{Z}$ なので、lem-tri-cone により $\tilde H_1(\Gamma)\cong\mathbb{Z}$ である。$\Gamma$ は頂点 $m+2$ 個・辺 $2m$ 本の連結なグラフなので、Euler標数の記事の系「2 つの Euler 標数は一致する」により
$$ (m+2)-2m=\operatorname{rank}H_0(\Gamma)-\operatorname{rank}H_1(\Gamma)=1-1 $$
であり、$m=2$ である。
段 2(頂点のリンクは多角形).頂点 $v$ のリンク $L:=\operatorname{Lk}(v,K)$ は、$v$ を含む三角形 $[v,a,b]$ の対辺 $[a,b]$ とその端点からなる $1$ 次元の単体複体(グラフ)である。$L$ の頂点 $a$ を端点とする $L$ の辺は、辺 $[v,a]$ を面にもつ三角形と一対一に対応するので、段 1 により $L$ の各頂点の次数は $2$ である。prop-tri-link-homology により $\tilde H_0(|L|)=0$、すなわち $|L|$ は連結である。連結な有限グラフで各頂点の次数が $2$ のものは 1 つの閉路である:頂点 $w_0$ から、直前に来た辺でない方の辺をたどって $w_0,w_1,w_2,\dots$ と進むと、有限なのでいつか既に通った頂点に戻り、$w_j$($j\ge1$)の 2 本の辺はすでに使ったので、戻る先は $w_0$ である。こうして得た閉路の頂点はどれも 2 本の辺を使い切っているので、閉路は連結成分であり、$L$ 全体に等しい。単体複体には多重辺がないので閉路の長さ $k$ は $3$ 以上で、$L$ は $k$ 角形の単体複体 $C_k$ と同型である。PL多様体の例「多角形とトーラス」により $|L|$ は PL $1$ 球面である。よって $K$ は組合せ $2$ 次元多様体である。
最後の主張は、PL多様体の命題「多面体としての PL 多様体は PL 構造をもつ」と、同相写像 $h$ で PL アトラスを $M$ に移すことによる。$\square$

$2$ 次元の位相多様体は三角形分割可能で PL 構造を一意にもち(Radó)、$3$ 次元でも同じである(Moise)(Rud01 Summary 1、p. 86。Summary は連結で有限 CW 複体のホモトピー型をもつ多様体について述べている)。$4$ 次元の三角形分割可能な位相多様体も PL 構造をもつ(Rud01 Examples 21.6、p. 85)。三角形分割可能だが PL 構造をもたない位相多様体は $5$ 次元以上にだけある(Rud01 Summary 4a、pp. 86–87)。組合せ的でない三角形分割の典型例は、次に見る $5$ 次元球面の三角形分割である。

懸垂と二重懸垂

$\mathbb{R}^N$ の有限な単体複体 $A$、$B$ の多面体が結可能($|A|\cap|B|=\emptyset$ で、$|A|$ の点と $|B|$ の点を結ぶ 2 本の線分は、一致するか共通の端点でしか交わらない)であるとき、$A$ の単体 $\sigma$、$B$ の単体 $\tau$(どちらか一方は空でもよい)とそれらの頂点の和が張る単体 $\sigma\tau$ の全体をジョイン(join)$A*B$ という(Bry02 §2「Joins: Cones and Suspensions」、ジョイン)。2 点からなる単体複体 $S^0=\{u_+,u_-\}$ とのジョイン $S^0*A$ を $A$ の懸垂(suspension)という。$|S^0*A|$ は 2 つの錐 $u_+|A|$ と $u_-|A|$ を $|A|$ で貼り合わせたものである。ジョインの頂点 $a\in A$ のリンクは
$$ \operatorname{Lk}(a,A*B)=\operatorname{Lk}(a,A)*B $$
である:$a$ を含む単体は $\sigma\tau$($a\in\sigma$、$\tau$ は空でもよい)で、その面のうち $a$ を含まないものは $\sigma'\tau'$($\sigma'$ は $a$ を含まない $\sigma$ の面、$\tau'$ は $\tau$ の面、どちらかは空でもよい)だからである。
$n$ 次元の閉 PL 多様体 $H$ で $H$ と $S^n$ の整係数ホモロジー群が同型なものを $n$ 次元ホモロジー球面という(Rud01 §21、p. 84)。$3$ 次元の Poincaré ホモロジー球面はホモロジー球面であり(Bry02 §9)、単連結でない(Poincaré が基本群が非自明であることを示した。Kos93 Ch. VII §7、pp. 140–141)。

単連結でない多様体の懸垂は多様体でない

$n\ge2$ とし、$K_H$ を、単連結でない連結な $n$ 次元閉位相多様体 $H$ の三角形分割とする(多面体 $|K_H|$ を $H$ と同一視する)。このとき懸垂の多面体 $X:=|S^0*K_H|$ は位相多様体でない。

$0< t\le1$ について $C_t:=\{(1-s)u_++sy\mid0\le s< t,\ y\in H\}$ とおく。lem-tri-cone の証明のとおり、$q(y,s):=(1-s)u_++sy$ は $H\times[0,1]$ から錐 $u_+H$ への商写像で、$H\times(0,1]$ の上で単射である。ジョインの点の表し方は一意なので $C_1=X\setminus u_-H$ であり、$u_-H$ はコンパクトなので $C_1$ は $X$ の開集合である。$q^{-1}(C_t)=H\times[0,t)$ は飽和した開集合なので $C_t$ は $u_+H$ の開集合で、$C_1$ に含まれるので $X$ の開集合でもあり、$C_t\setminus\{u_+\}$ は $H\times(0,t)$ と同相である。$C_t$ は $u_+$ を中心とする半径 $tD$($D:=\max_{y\in H}\lvert y-u_+\rvert$)の球に含まれるので、$\{C_t\}$ は $u_+$ の近傍の基本系である。
$X$ が $m$ 次元位相多様体であると仮定する。$C_1\setminus\{u_+\}\cong H\times(0,1)$ は $X$ の空でない開集合で $(n+1)$ 次元多様体なので、領域不変性の系「位相多様体の次元の一意性」により $m=n+1$ である。$u_+$ のまわりの座標近傍 $g\colon W\to g(W)\subset\mathbb{R}^{n+1}$、$g(u_+)=0$ をとり、$C_t\subset W$ となる $t$、$g(C_t)$ に含まれる開球 $B$(中心 $0$)、$C_{t'}\subset g^{-1}(B)$ となる $t'< t$ を順にとる。$H$ の中の $0$ にホモトピックでない閉道 $\gamma_0$ をとり、$\gamma(\theta):=q(\gamma_0(\theta),t'/2)$ とおくと、$\gamma$ は $C_{t'}\setminus\{u_+\}\subset g^{-1}(B\setminus\{0\})$ の中の閉道である。$B\setminus\{0\}$ は球面 $S^n$ に強変位レトラクトし、$n\ge2$ なので $\pi_1(S^n)=0$(球面のホモトピー群の命題「消滅域と対角線」)であるから、$g\circ\gamma$ は $B\setminus\{0\}$ の中で $0$ にホモトピックである。$g^{-1}$ で戻すと、$\gamma$ は $g^{-1}(B\setminus\{0\})\subset C_t\setminus\{u_+\}\cong H\times(0,t)$ の中で $0$ にホモトピックであり、第 1 成分への射影を合成すると $\gamma_0$ は $H$ の中で $0$ にホモトピックになる。これは $\gamma_0$ の選び方に反する。$\square$

$H$ がホモロジー球面なら、lem-tri-cone により $X$ の懸垂点での局所ホモロジーは $\tilde H_{i-1}(H)\cong\tilde H_{i-1}(S^n)$ で、$\mathbb{R}^{n+1}$ の点の局所ホモロジーと同じである。したがってこの命題は、局所ホモロジーだけでは多様体であることを判定できないことも示している。証明で使ったのは、「小さい近傍から 1 点を除いたものが単連結」という基本群の局所的な条件である。

5 次元球面の組合せ的でない三角形分割

$K_H$ を Poincaré ホモロジー球面の三角形分割、$\partial\Delta^2$ を三角形の境界の単体複体とし、$K:=\partial\Delta^2*K_H$(二重懸垂)とおく。Edwards–Cannon の二重懸垂定理により $|K|$ は $S^5$ と同相であり、$K$ は $S^5$ の組合せ的でない三角形分割である。

$|K|$ が $S^5$ と同相であることは Edwards–Cannon の二重懸垂定理(Bry02 Theorem 9.1:$n$ 次元の PL ホモロジー球面 $H$ と $k\ge1$ について $S^k*H$ は $S^{k+n+1}$ と同相)の $k=1$、$n=3$ の場合であり、この記事では証明しない。$\partial\Delta^2$ の頂点 $a$ のリンクは、ジョインのリンクの公式により $\operatorname{Lk}(a,\partial\Delta^2)*K_H=S^0*K_H$ である。prop-tri-suspension($n=3$)により $|S^0*K_H|$ は位相多様体でなく、とくに $S^4$ と同相でないので PL $4$ 球面でない。よって $K$ は組合せ的でない。$\square$

$S^5$ は $\partial\Delta^6$ という組合せ的な三角形分割ももつ。つまり、同じ位相多様体 $S^5$ に組合せ的な三角形分割と組合せ的でない三角形分割が共存する。Edwards は、ある非単連結なホモロジー $3$ 球面の $k$ 重懸垂が $S^{k+3}$ と同相であることを示して $n\ge5$ の $S^n$ の組合せ的でない三角形分割を最初に与え、Cannon がすべてのホモロジー球面について二重懸垂の問題を解いた(Bry02 §9)。

三角形分割できるかどうか

次の結果は深い定理であり、この記事では証明しない。

  • 三角形分割はあるが PL 構造をもたない多様体:$5$ 以上のすべての次元にある。Siebenmann は、良い性質(二重懸垂が $S^5$ と同相で、符号数 $8$ の平行化可能な多様体の境界になる)をもつホモロジー $3$ 球面があれば向き付け可能な $5$ 次元閉位相多様体はすべて三角形分割可能であることを示し、Cannon の二重懸垂定理によってそのようなホモロジー $3$ 球面があることがわかった(Rud01 Examples 21.4・Theorem 21.5、pp. 84–85)。Freedman の $E_8$ 多様体 $V$ と円周の積 $V\times S^1$ はその例である(同所)。
  • 三角形分割できない多様体:$4$ 次元では Freedman の $E_8$ 多様体(交叉形式が $E_8$ の閉単連結位相多様体、Rud01 Theorem 7.2、p. 42)が三角形分割できない(Casson。Rud01 Examples 21.6、p. 85。E8多様体)。$5$ 次元以上では、三角形分割可能であることがある障害類の消滅と同値であり(Galewski–Stern、Matumoto。Rud01 Theorem 21.7、p. 86)、Manolescu はその障害が消えない多様体が $5$ 以上のすべての次元にあることを示した(同所。三角形分割予想とManolescuの定理)。

例

球面・トーラス・曲面

$\partial\Delta^{n+1}$ は $S^n$ の組合せ的な三角形分割であり(PL多様体の例「単体の境界」)、単体複体の例「トーラスの三角形分割」はトーラスの組合せ的な三角形分割である(PL多様体の例「多角形とトーラス」)。$2$ 次元以下では thm-tri-low-dim により、どの三角形分割も組合せ的である。たとえば $S^2$ のどんな三角形分割でも、各辺はちょうど 2 つの三角形の面で、各頂点のまわりの三角形は 1 つの輪をなす。

懸垂のリンクの計算

$K_H$ を Poincaré ホモロジー球面の組合せ的な三角形分割($H$ は PL 多様体なのでとれる)とする。懸垂 $S^0*K_H$ の頂点のうち、懸垂点 $u_\pm$ のリンクは $K_H$ 自身で、$K_H$ の頂点 $w$ のリンクはジョインのリンクの公式により $S^0*\operatorname{Lk}(w,K_H)$ である。$\operatorname{Lk}(w,K_H)$ は PL $2$ 球面なので、後者は PL $2$ 球面の懸垂で、PL $3$ 球面になる(Bry02 Theorem 2.2 (3):PL 球面どうしのジョインは PL 球面)。$u_\pm$ 以外の点は $K_H$ のある頂点 $w$ の開星状近傍に属するので、PL多様体の定理「リンクの条件」の十分性の証明のとおり、PL 座標近傍をもつ。つまり $|S^0*K_H|$ が多様体でなくなるのは 2 点 $u_\pm$ だけである。二重懸垂 $\partial\Delta^2*K_H$ では、リンクが PL 球面でない頂点は $\partial\Delta^2$ の 3 頂点で、それぞれのリンクが $S^0*K_H$ である。辺の内部の点も、そこで細分して頂点にするとリンクが $S^0*K_H$ になるので(PL多様体の補題「リンクの PL 不変性」)、PL 座標近傍をもたない点は円周 $|\partial\Delta^2|$ 全体である。それでも多面体全体は $S^5$ と同相である(cor-tri-double-suspension)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$2$ 次元以下$S^5$ の二重懸垂による三角形分割(cor-tri-double-suspension)三角形分割は組合せ的
局所 Euclid 性(局所ホモロジーの条件だけを課す)Poincaré ホモロジー球面の懸垂(prop-tri-suspension)局所ホモロジーが Euclid 空間と同じ多面体は多様体
三角形分割可能$E_8$ 多様体($4$ 次元)、Manolescu の多様体($5$ 次元以上)位相多様体は三角形分割可能
PL 構造$E_8$ 多様体と円周の積($5$ 次元)三角形分割可能な多様体は PL 構造をもつ

1・2 行目はこの記事で証明した(1 行目は二重懸垂定理の引用を使う)。1 行目の反例は位相多様体 $S^5$ の三角形分割で、次元が $2$ 以下という仮定だけを外しており、thm-tri-low-dim の結論を破る。2 行目の懸垂は、懸垂点での局所ホモロジーが $\mathbb{R}^4$ の点と同じ(lem-tri-cone)で、ほかの点では PL 座標近傍をもつ(ex-tri-suspension-link)のに多様体でないので、「局所ホモロジーが Euclid 空間と同じなら多様体」という含意を破る。3・4 行目は上の節の引用である。

補足

三角形分割と PL 構造の違い

三角形分割可能であることは位相多様体の性質であり、三角形分割そのものは構造として一意でない。たとえば $S^5$ の三角形分割 $\partial\Delta^6$ と cor-tri-double-suspension の $K$ は、どう細分しても同型にならない:組合せ多様体の細分は組合せ多様体で、組合せ多様体でないものの細分は組合せ多様体でない(PL多様体の系「組合せ多様体であることは PL 同相で保たれる」)からである。組合せ的な三角形分割どうしの比較が PL 構造の分類で、$n\ge5$ では Kirby–Siebenmann の理論が $H^3(M;\mathbb{Z}/2)$ で数える(Bry02 Theorem 9.3。基本予想、Kirby–Siebenmann不変量)。滑らかな多様体の Whitehead 三角形分割は組合せ的で、それが定める PL 構造は一意である(Whitehead三角形分割)。

関連項目

参考文献

[1]
J. L. Bryant, Piecewise linear topology, Handbook of Geometric Topology, R. J. Daverman, R. B. Sher (eds.), Handbook of Geometric Topology, North-Holland, 2002, pp. 219–259。§2(Triangulations、Joins: Cones and Suspensions、Theorem 2.2 PL 球面のジョイン)、§9(Poincaré ホモロジー球面、Edwards と Cannon の歴史、Theorem 9.1 二重懸垂定理、Theorem 9.3)
[2]
Yuli B. Rudyak, Piecewise Linear Structures on Topological Manifolds, arXiv:math/0105047, arXiv:math/0105047v2(2014-12-24。のち World Scientific 2016 から同名の本として刊行)。Theorem 7.2(Freedman の E8 多様体、p. 42)、§21 のホモロジー球面の定義(p. 84)、Examples 21.4・Theorem 21.5(pp. 84–85)、Examples 21.6(p. 85)、Theorem 21.7 とその後の段落(Manolescu、p. 86)、Summary 1・4a・4b(pp. 86–87)
[3]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. VII §7 Heegaard Diagrams(pp. 140–141、Poincaré のホモロジー球面と基本群が非自明であること)

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