有限生成代数

同義語:finitely generated algebra有限型代数algebra of finite type

概要

有限生成代数(finitely generated algebra)とは、可換環 $B$ 上の代数 $A$ で、有限個の元 $a_1,\dots,a_n$ によって $A=B[a_1,\dots,a_n]$ と書けるもの、すなわち多項式環 $B[x_1,\dots,x_n]$ の剰余環と同型なもののことである。加群として有限生成な有限代数とは異なり、両者は「有限 = 有限生成 + 整」で結ばれ、有限生成性は部分代数には受け継がれない。Noether 環 $A$ と $A\subset B\subset C$ について、$C$ が $A$ 上有限生成で $B$ 上有限なら $B$ も $A$ 上有限生成であるという Artin–Tate の補題が成り立ち、有限群の不変式環の有限生成性や Zariski の補題が従う。代数幾何学では有限型射の局所的な形を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換環, 多項式環, イデアル, Noether環, 整拡大

可換環 $B$ 上の 有限生成代数 とは、$B$ の元と有限個の元 $a_1,\dots,a_n$ から、和と積だけで全体が得られる $B$ 代数のことである。言い換えると、有限個の変数の多項式環 $B[x_1,\dots,x_n]$ をイデアルで割った環であり、幾何学では「有限個の座標関数で書ける図形の関数環」にあたる。代数幾何学では、体や $\mathbb{Z}$ の上で有限型のスキームの局所的な形を与える環がこれであり、有限型射・固有射・Néron モデルなどの定義の基本単位になる。
体上の場合は 体上有限生成環 の記事で扱った。この記事では係数の環 $B$ を一般の可換環とし、加群として有限生成な「有限」代数との違い、有限生成性が保たれる操作を整理したうえで、主定理として Artin–Tate の補題を証明する。その応用として、有限群の不変式環が有限生成であること(Noether の定理)と、体上有限生成な体が有限次拡大であること(Zariski の補題)を導く。

定義

この記事では、環は単位元をもつ可換環とし、環準同型は単位元を保つものとする。環 $B$ 上の 代数($B$ 代数)とは、環 $A$ と環準同型 $\varphi\colon B\to A$(構造射)の組のことで、$ba:=\varphi(b)a$ により $A$ は $B$ 加群にもなる。$B$ 代数の準同型とは、構造射と両立する環準同型である。$a_1,\dots,a_n\in A$ について、$B$ 代数の準同型
$$ \operatorname{ev}\colon B[x_1,\dots,x_n]\longrightarrow A,\qquad x_i\longmapsto a_i $$
(多項式に $a_i$ を代入する写像)の像を $B[a_1,\dots,a_n]$ と書く。これは $\varphi(B)$ と $a_1,\dots,a_n$ を含む $A$ の最小の部分環である。

有限生成代数

$B$ 代数 $A$ が 有限生成(finitely generated)である、または $B$ 上 有限型(of finite type)であるとは、有限個の元 $a_1,\dots,a_n\in A$ で $A=B[a_1,\dots,a_n]$ となるものがあることをいう。これは、ある $n$ と多項式環のイデアル $I\subset B[x_1,\dots,x_n]$ によって、$B$ 代数として
$$ A\cong B[x_1,\dots,x_n]/I $$
と書けることと同値である($\operatorname{ev}$ は全射になり、準同型定理による)。この $I$ を有限個の元で生成できるようにとれるとき、$A$ は $B$ 上 有限表示(finitely presented)であるという。

有限代数

$B$ 代数 $A$ が $B$ 加群として有限生成であるとき、すなわち $A=Ba_1+\cdots+Ba_r$ となる $a_1,\dots,a_r$ があるとき、$A$ は $B$ 上 有限(finite)であるという。

有限代数は有限生成代数である(加群の生成元 $a_1,\dots,a_r$ は代数としても全体を生成する)。逆は成り立たない(ex-fga-polynomial)。二つの有限性の違いは、生成元の積や冪を許すかどうかにある。

用語の注意
  1. 「有限生成 $B$ 代数」「$B$ 上有限型の代数」「$B$ 上有限生成な環」は同じ意味である。$B=\mathbb{Z}$ のときは単に 有限生成環 ともいう(任意の環は $\mathbb{Z}$ 代数の構造をただ一通りもつ)。
  2. 「有限代数」は、加群として有限生成であることを指し、元の個数が有限であることではない。
  3. 非可換な代数の有限生成性(たとえば自由代数)もあるが、この記事では扱わない。

多項式環の普遍性($x_i$ の行き先を任意に指定すると、$B$ 代数の準同型がただ一つ定まること)から、有限生成代数への準同型や、有限生成代数からの準同型は、生成元の行き先で決まる。

表示と準同型の対応

$A=B[x_1,\dots,x_n]/I$ とし、$I$ がイデアルの生成系 $\{F_\lambda\}$ で生成されるとする。任意の $B$ 代数 $C$ について、$B$ 代数の準同型 $A\to C$ の全体は、
$$ \{(c_1,\dots,c_n)\in C^n\mid \text{すべての }\lambda\text{ について }F_\lambda(c_1,\dots,c_n)=0\} $$
と、準同型 $\psi$ に $(\psi(\bar x_1),\dots,\psi(\bar x_n))$ を対応させることで全単射に対応する($\bar x_i$ は $x_i$ の類)。

代入写像が商を経由する条件

$c=(c_1,\dots,c_n)\in C^n$ に対し、多項式環の普遍性から $x_i\mapsto c_i$ となる $B$ 代数の準同型 $\operatorname{ev}_c\colon B[x_1,\dots,x_n]\to C$ がただ一つある。準同型 $A\to C$ を商写像と合成すると、このような $\operatorname{ev}_c$ が得られ、逆に $\operatorname{ev}_c$ が $A$ を経由することは $I\subset\ker\operatorname{ev}_c$ と同値である。$\ker\operatorname{ev}_c$ はイデアルなので、これは生成系について $\operatorname{ev}_c(F_\lambda)=F_\lambda(c)=0$ がすべての $\lambda$ で成り立つことと同値である。経由する準同型は商写像の全射性によりただ一つであり、$\bar x_i$ を $c_i$ へ送る。

たとえば $A=k[x,y]/(y^2-x^3)$ から $k$ 代数 $C$ への準同型は、$c^2=b^3$ を満たす組 $(b,c)\in C^2$ と一対一に対応する。$C=B$ とおくと、$B$ 代数の準同型 $A\to B$ は、方程式系 $F_\lambda=0$ の $B$ に値をもつ解にほかならない。

直感

有限生成代数 $A=B[x_1,\dots,x_n]/I$ は、「有限個の未知数 $x_1,\dots,x_n$ と、それらの満たす式 $I$」の記録である。prop-fga-universal のとおり、$A$ から $C$ への準同型を一つ与えることは、方程式系の $C$ に値をもつ解を一つ与えることである。このため、$\operatorname{Spec}A$ は方程式系の解の全体を幾何学的に表すものと考えられ、$B$ 上有限型であることは「有限個の座標で書ける」ことを意味する。
一方、有限代数は「加群として有限個の元で張られる」ことで、幾何学的には各点の上に有限個の点しか乗らない状況(有限射)にあたる。$k[x]$ は $k$ 上有限型だが有限でない。直線 $\operatorname{Spec}k[x]$ は一点 $\operatorname{Spec}k$ の上に無限個の点をもつからである。Artin–Tate の補題は、上下の環のあいだにこの二つの有限性が挟まれているとき、中間の環にも有限生成性が受け継がれることを述べる。

例と反例

多項式環とその商
  1. 多項式環 $B[x_1,\dots,x_n]$ とその剰余環 $B[x_1,\dots,x_n]/I$ は $B$ 上有限生成である。
  2. $k[x]$ は体 $k$ 上有限生成だが有限でない。$1,x,x^2,\dots$ は $k$ 上一次独立であり、$k[x]$ は無限次元だからである。
  3. $\mathbb{Z}[i]\cong\mathbb{Z}[x]/(x^2+1)$ は $\mathbb{Z}$ 上有限生成であり、$1,i$ で生成される $\mathbb{Z}$ 加群なので有限でもある。
有限個の分母と無限個の分母
  1. $\mathbb{Z}[1/2]\cong\mathbb{Z}[x]/(2x-1)$ は $\mathbb{Z}$ 上有限生成である。しかし $\mathbb{Z}$ 上有限ではない。有限個の元 $a_i/2^{e_i}$ で $\mathbb{Z}$ 加群として生成されるなら、すべての元は $e=\max e_i$ について $a/2^e$($a\in\mathbb{Z}$)の形になるが、$1/2^{e+1}$ はこの形でない。
  2. 有理数体 $\mathbb{Q}$ は $\mathbb{Z}$ 上有限生成でない。$\mathbb{Q}=\mathbb{Z}[q_1,\dots,q_n]$、$q_i=a_i/b_i$($b_i\ge1$)と仮定し、$b=b_1\cdots b_n$ とおくと、$\mathbb{Z}[q_1,\dots,q_n]$ の元はすべて $a/b^N$($a\in\mathbb{Z}$、$N\ge0$)の形である。$b$ を割らない素数 $p$(たとえば $b+1$ の素因数)をとり、$1/p=a/b^N$ と書けたとすると $b^N=pa$ となり、$p$ が $b$ を割って矛盾する。

有限個の元で分母を払える局所化は有限生成だが、無限個の分母を必要とする局所化はそうとは限らない。体上の同じ現象は 体上有限生成環 の記事の定理「有理関数体は環としては有限生成でない」にある。

反例:整だが有限生成でない代数

体 $k$ 上の無限個の変数の多項式環を、変数の平方が生成するイデアルで割った環
$$ C=k[x_1,x_2,\dots]/(x_1^2,x_2^2,\dots) $$
を考える。単項式からなる生成系をもつイデアルの元は、各単項式がどれかの $x_i^2$ で割り切れる多項式なので、$C$ は平方因子をもたない単項式 $x_{i_1}\cdots x_{i_r}$($i_1<\cdots< i_r$)の類を $k$ 上の基底にもつ。各 $\bar x_i$ は $T^2=0$ の根なので $k$ 上整であり、整な元の和と積は整なので(整拡大 の記事の命題「整な元の和と積」)、$C$ は $k$ 上整である。しかし $C$ は $k$ 上有限生成でない。有限個の元で生成されるなら、それらに現れる変数は $x_1,\dots,x_N$ に限られ、生成される部分環は $x_1,\dots,x_N$ だけの単項式の類で張られるので、基底の元 $\bar x_{N+1}$ を含まない。

有限群の不変式環

体 $k$ の標数が $2$ でないとし、$k[x,y]$ の $k$ 代数の自己同型 $\sigma$ を $\sigma(x)=-x$、$\sigma(y)=-y$ で定める。$\sigma(x^ay^b)=(-1)^{a+b}x^ay^b$ なので、$\sigma$ で動かない多項式は、$a+b$ が偶数の単項式の一次結合に限る(奇数の単項式の係数 $c$ は $c=-c$ を満たし、標数が $2$ でないので $0$ になる)。$a+b$ が偶数の単項式は、$a,b$ がともに偶数なら $(x^2)^{a/2}(y^2)^{b/2}$、ともに奇数なら $xy\,(x^2)^{(a-1)/2}(y^2)^{(b-1)/2}$ と書けるので、不変式の環は
$$ k[x,y]^{\{1,\sigma\}}=k[x^2,\,xy,\,y^2] $$
であり、$k$ 上有限生成である。$k[x,y]$ はこの環の上で $1,x,y$ で生成される加群であり、有限である。一般の有限群について同じことが成り立つことを cor-fga-noether-invariants で示す。

性質

有限生成性を保つ操作

合成・係数拡大・商・局所化

$A$ を $B$ 上有限生成な代数とする。

  1. (推移性)$C$ が $A$ 上有限生成なら、$C$ は(合成した構造射 $B\to A\to C$ により)$B$ 上有限生成である。
  2. (係数拡大)任意の $B$ 代数 $B'$ について、$A\otimes_BB'$ は $B'$ 上有限生成である。
  3. (商)任意のイデアル $J\subset A$ について、$A/J$ は $B$ 上有限生成である。
  4. (有限個の元による局所化)$f_1,\dots,f_r\in A$ について、$A[1/f_1,\dots,1/f_r]$ は $B$ 上有限生成である。
  5. (有限性)$A$ が $B$ 上有限なら、$A$ は $B$ 上有限生成である。
生成元を書き出す

$A=B[a_1,\dots,a_n]$ とする。
1:$C=A[c_1,\dots,c_m]$ とすると、$C$ の元は $c_j$ の $A$ 係数の多項式であり、その係数はそれぞれ $a_i$ の $B$ 係数の多項式なので、$C$ の元は $a_i$ の像と $c_j$ の $B$ 係数の多項式である。よって $C$ は $B$ 上でそれらの有限個の元で生成される。
2:$A\otimes_BB'$ の元は単純テンソル $a\otimes b'$ の有限和であり、$a$ は $a_i$ の $B$ 係数の多項式なので、$a\otimes b'=b'\cdot P(a_1\otimes1,\dots,a_n\otimes1)$($P$ は $B$ 係数の多項式で、係数は $B\to B'$ で送ったもの)と書ける。よって $a_1\otimes1,\dots,a_n\otimes1$ が $B'$ 上の生成元である。
3:$a_i$ の類が生成元になる。
4:$f=f_1\cdots f_r$ とおくと、$1/f_j=(\prod_{l\neq j}f_l)/f$ なので $A[1/f_1,\dots,1/f_r]=A[1/f]$ であり、その元は $a/f^N$($a\in A$)の形である。よって $a_1,\dots,a_n,1/f$ が生成元である。
5:加群の生成元 $a_1,\dots,a_r$ について $A=\sum Ba_j\subset B[a_1,\dots,a_r]\subset A$ である。

体上の場合の同じ操作は 体上有限生成環 の記事の命題「商・有限個の局所化・テンソル積」に、スキームの射に言い換えた形(合成と底変換で閉じること)は 有限型射 の記事にある。部分代数への制限では有限生成性は保たれない(体上有限生成環 の記事の例「有限生成代数の非有限生成部分代数」)。この「部分代数」の問題に、追加の条件のもとで答えるのが次の節の Artin–Tate の補題である。

Noether 性と有限性

係数の環が Noether環 なら、有限生成代数もまた Noether 環であり(Noether環 の記事の系「有限生成代数」)、さらに有限表示である(Hilbertの基底定理 の記事の命題「Noether 基底上の有限型代数」)。どちらも Hilbert の基底定理から従う。
有限性と有限生成性は、整性で結ばれる。$B\subset A$ を環の拡大とするとき、

  • $A$ が $B$ 上有限なら、$A$ は $B$ 上整である。
  • $A$ が $B$ 上整で、$B$ 上有限生成なら、$A$ は $B$ 上有限である。
    (整拡大 の記事の系「有限生成と有限性」)。すなわち、有限 = 有限生成 + 整 である。ex-fga-polynomial の $k[x]$ は有限生成だが整でなく、ex-fga-integral-not-fg の環は整だが有限生成でない。

Artin–Tate の補題

Artin–Tate の補題

$A\subset B\subset C$ を環の拡大とし、次を仮定する。

  1. $A$ は Noether 環である。
  2. $C$ は $A$ 上有限生成である。
  3. $C$ は $B$ 上有限である(同じことだが、$C$ は $B$ 上整である)。
    このとき、$B$ は $A$ 上有限生成である。

条件 3 の二つの形が同値であることは、$C$ が $A$ 上、したがって $B$ 上有限生成であることと、「有限 = 有限生成 + 整」による。

係数を集めた Noether 部分環

条件 3 は加群として有限生成な形で使う。$C=A[x_1,\dots,x_m]$ とし、$C=By_1+\cdots+By_n$ とする。生成元に $1$ を加えてよいので $y_1=1$ とする。各 $x_i$ と各積 $y_jy_l$ を $y$ たちの $B$ 係数の一次結合に書き、
$$ x_i=\sum_{j=1}^nb_{ij}y_j,\qquad y_jy_l=\sum_{q=1}^nb_{jlq}y_q\qquad(b_{ij},b_{jlq}\in B) $$
とする。これらの有限個の係数が $A$ 上生成する部分環を $B_0=A[\,b_{ij},b_{jlq}\,]\subset B$ とおく。$B_0$ は Noether 環 $A$ 上有限生成なので、Noether環 の記事の系「有限生成代数」により Noether 環である。
$M=B_0y_1+\cdots+B_0y_n\subset C$ とおく。$M$ は $y_1=1$ を含むので $B_0\subset M$、とくに $A\subset M$ であり、上の式から各 $x_i\in M$ である。また $y_jy_l\in M$ なので、$M$ の二元の積は再び $M$ に入り、$M$ は $C$ の部分環である。$C$ は $A$ と $x_1,\dots,x_m$ を含む最小の部分環なので $C\subset M$、すなわち $C=M$ であり、$C$ は $B_0$ 上有限である。
$B$ は有限生成 $B_0$ 加群 $C$ の部分 $B_0$ 加群であり、$B_0$ は Noether 環なので、Noether環 の記事の命題「Noether加群との関係」の 2 により、$B$ も $B_0$ 加群として有限生成である。$B=B_0z_1+\cdots+B_0z_t$ とすると、
$$ B=A[\,b_{ij},\,b_{jlq},\,z_1,\dots,z_t\,] $$
であり、$B$ は $A$ 上有限生成である。

証明の要点は、$C$ を $B$ 上の加群として書くのに必要な係数が有限個しかないことである。$B$ そのものは大きくても、その有限個の係数だけで生成される Noether 環 $B_0$ の上で $C$ はすでに有限になり、Noether 性によって $B$ が $B_0$ 上有限になる。この議論は AM69 Proposition 7.8(pp. 81–82)による。

有限群の不変式環(Noether の定理)

$A$ を Noether 環、$C$ を $A$ 上有限生成な代数とし、有限群 $G$ が $C$ に $A$ 代数の自己同型として作用しているとする。このとき不変式環
$$ C^G=\{c\in C\mid \text{すべての }g\in G\text{ について }g(c)=c\} $$
は $A$ 上有限生成であり、$C$ は $C^G$ 上有限である。

軌道の多項式

$C^G$ は $C$ の部分環であり、$G$ は $A$ 代数の自己同型として作用するので、構造射 $A\to C$ の像 $\bar A$ を含む。$\bar A$ は Noether 環 $A$ の剰余環なので Noether 環であり、$C$ は $\bar A$ 上有限生成である。
$c\in C$ について、$C[T]$ の多項式
$$ P_c(T)=\prod_{g\in G}\bigl(T-g(c)\bigr) $$
を考える。$h\in G$ を係数に作用させると、因子 $T-g(c)$ は $T-hg(c)$ に移り、$g\mapsto hg$ は $G$ の全単射なので、$P_c$ は変わらない。よって $P_c$ の係数は $C^G$ に入る。$P_c$ はモニックで、単位元 $g=e$ の因子により $P_c(c)=0$ である。したがって $C$ の元はすべて $C^G$ 上整である。
$C=\bar A[c_1,\dots,c_m]$ とすると、$\bar A\subset C^G$ なので $C=C^G[c_1,\dots,c_m]$ であり、$C$ は $C^G$ 上有限生成かつ整なので、$C^G$ 上有限である(整拡大 の記事の系「有限生成と有限性」)。$\bar A\subset C^G\subset C$ に thm-fga-artin-tate を当てると、$C^G$ は $\bar A$ 上、したがって $A$ 上有限生成である。

ex-fga-invariants は、$G=\{1,\sigma\}$ の場合にこれを直接確かめたものである。

Zariski の補題

体 $k$ 上有限生成な代数 $K$ が体であれば、$K$ は $k$ の有限次拡大である。

有理関数体は有限生成でない

$K=k[b_1,\dots,b_m]$ とする。$K=k(b_1,\dots,b_m)$ なので、超越次数 の記事の命題「超越基底の存在と延長」の 3 により、$b_1,\dots,b_m$ の中から $K/k$ の超越基底 $x_1,\dots,x_r$ を選べる。$F=k(x_1,\dots,x_r)\subset K$ とおくと、各 $b_i$ は $F$ 上代数的であり、$F$ は体なので最小多項式を最高次の係数で割ってモニックにでき、$b_i$ は $F$ 上整である。$K=F[b_1,\dots,b_m]$ なので、$K$ は $F$ 上有限である(整拡大 の記事の系「有限生成と有限性」)。
$r\ge1$ と仮定して矛盾を導く。$k\subset F\subset K$ に thm-fga-artin-tate を当てると(体 $k$ は Noether 環)、$F=k[y_1,\dots,y_s]$ と書ける。$P=k[x_1,\dots,x_r]$ とし、$y_i=f_i/g_i$($f_i,g_i\in P$、$g_i\neq0$)と書いて $g=g_1\cdots g_s$ とおく。$F$ の元は $y_i$ の多項式なので、すべて $p/g^N$($p\in P$、$N\ge0$)の形である。$g$ が定数なら $h=x_1$、そうでなければ $h=g+1$ とおく。どちらの場合も $h$ は定数でない多項式である。$x_1,\dots,x_r$ は代数的に独立なので $P$ は多項式環と同型で、$h\neq0$ であり、$1/h\in F$ である。したがって $1/h=p/g^N$、すなわち $g^N=hp$ となる $p\in P$ と $N$ がある。$P$ は一意分解整域であり(一意分解整域 の記事の定理「Gaussの補題と多項式環の一意分解性」)、定数でない $h$ はある素元 $\pi$ で割り切れる。$\pi$ は $g^N$ を割るので $g$ を割る。$g$ が定数なら $\pi$ は単元を割ることになり、そうでなければ $\pi$ は $g$ と $h=g+1$ を割るので $1$ を割り、どちらも $\pi$ が素元であることに反する。
よって $r=0$ であり、$F=k$、$K$ は $k$ 上有限である。

Zariski の補題は Hilbertの零点定理 の核心であり、同記事の定理「Zariskiの補題」には Artin–Tate の補題を経由しない証明がある。上の証明は AM69 Proposition 7.9(p. 82)の筋による。

仮定を外したときの反例

各行は、左の命題の仮定を一つだけ外したものである。$k$ は体とする。

外す条件反例成り立たなくなること
Artin–Tate:$C$ が $B$ 上有限$A=k$、$B=k[x,xy,xy^2,\dots]$、$C=k[x,y]$$B$ は $k$ 上有限生成でない
Artin–Tate:$C$ が $A$ 上有限生成$A=k$、$B=C=k[x_1,x_2,\dots]$$B$ は $k$ 上有限生成でない
有限生成なら有限:$A$ が $B$ 上整$k[x]$$k$ 上有限でない
整なら有限:$A$ が $B$ 上有限生成$k[x_1,x_2,\dots]/(x_1^2,x_2^2,\dots)$$k$ 上有限でない
局所化の有限生成性:逆にする元が有限個$\mathbb{Q}$($\mathbb{Z}$ の $0$ でない元をすべて逆にする)$\mathbb{Z}$ 上有限生成でない
Noether 性の遺伝:係数の環が Noether$B=k[x_1,x_2,\dots]$ を $B$ 上の代数とみる有限生成だが Noether 環でない

1 行目の $B=k+xk[x,y]$ が有限生成でないことは 体上有限生成環 の記事の例「有限生成代数の非有限生成部分代数」で示した。$C=k[x,y]$ は $k$ 上有限生成なので、Artin–Tate の補題の対偶から、$k[x,y]$ は $B$ 上有限でも整でもないことが分かる。2 行目の $k[x_1,x_2,\dots]$ が有限生成でないことは、ex-fga-integral-not-fg と同じく、有限個の生成元に現れる変数が有限個であることから従う。

幾何学での意味

有限生成代数は、代数幾何学で「有限型」と呼ばれる性質の局所的な形である。スキームの射 $X\to\operatorname{Spec}B$ が有限型であることは、$X$ が有限個のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A_i$ で覆われ、各 $A_i$ が $B$ 上有限生成であることと同値である(有限型射 の記事の定義「局所有限型・有限型・有限表示の射」と命題「局所有限型はアフィン開集合の取り方によらない」)。体 $k$ 上有限型のスキームは、有限個の多項式の零点として局所的に書ける図形であり、その閉点の剰余体は Zariski の補題により $k$ の有限次拡大である(閉点でない点では成り立たない。たとえば $\operatorname{Spec}k[x]$ の生成点の剰余体は $k(x)$ である)。
$B=\mathbb{Z}$ や $B$ が離散付値環の場合には、有限生成 $B$ 代数は $B$ 係数の方程式系を表し、$B$ の素イデアルごとの還元(係数を $\bmod p$ で読むこと)を一度に扱う枠組みを与える。prop-fga-operations の 2(係数拡大)は、方程式系の係数を別の環で読み直す操作であり、ファイバーをとる操作にあたる。

関連項目

参考文献

[1]
M. F. Atiyah, I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, Chapter 5(Corollary 5.2、p. 60)、Chapter 7(Corollary 7.7 p. 81、Proposition 7.8 Artin–Tate の補題 pp. 81–82、Proposition 7.9 p. 82)

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