Dirichletの算術級数定理

同義語:ディリクレの算術級数定理Dirichlet's theorem on arithmetic progressions算術級数定理Dirichletの素数定理

概要

Dirichletの算術級数定理(Dirichlet's theorem on arithmetic progressions)とは、整数 $a$ と正の整数 $m$ が互いに素なら、$m$ で割って $a$ 余る素数が無限に存在するという定理である。法 $m$ の Dirichlet 指標 $\chi$ ごとの $L(s,\chi)=\sum_n\chi(n)n^{-s}$ と指標の直交関係により、この類の素数の逆数和 $\sum_{p\equiv a}p^{-s}$ は $s\to1+0$ で $\frac1{\varphi(m)}\log\frac1{s-1}$ の速さで発散することが示される。証明の核心は主指標でない $\chi$ について $L(1,\chi)\neq0$ となることで、これが素数の Dirichlet 密度や Chebotarev の密度定理への出発点になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Dirichlet指標, 素数の無限性, 既約剰余類群, Riemannゼータ関数

$4$ で割って $3$ 余る素数が無限にあることは、Euclid の議論を少し変えるだけで示せる(素数の無限性 の記事の命題「4 で割って 3 余る素数の無限性」)。しかし同じ方法で、たとえば $10$ で割って $7$ 余る素数が無限にあることを示すのは難しい。Dirichlet の算術級数定理は、初項 $a$ と公差 $m$ が互いに素な等差数列 $a,a+m,a+2m,\dots$ には必ず素数が無限に含まれる、という定理である。
証明は Euler による素数の無限性の証明(素数の逆数の和の発散)を、Dirichlet指標 を使って剰余類ごとに分けたものである。要になるのは、指標 $\chi$ ごとの級数 $L(s,\chi)=\sum_n\chi(n)n^{-s}$ が $s=1$ で $0$ にならないこと(thm-dap-nonvanishing)で、この記事ではこれを含めて完全に証明する。使う解析は実数 $s$ での級数の評価と複素数の対数の初歩だけで、正則関数の理論は使わない。

定理

以下、$m\ge1$ を整数、$\varphi$ を Euler の関数、$X_m$ を法 $m$ の Dirichlet 指標全体、$\chi_0$ を主指標とする。$p$ は素数を動く。

Dirichletの算術級数定理

$a$ を $m$ と互いに素な整数とする。このとき $p\equiv a\pmod m$ を満たす素数 $p$ は無限に存在する。さらに、実数 $s$ が $1< s\le2$ を動くとき
$$ \sum_{p\equiv a\ (\mathrm{mod}\ m)}\frac1{p^s}=\frac1{\varphi(m)}\log\frac1{s-1}+O(1) $$
が成り立つ。ここで $O(1)$ は、$s$ によらない定数で絶対値が抑えられる量を表す。

証明の組み立て

右辺は $s\to1+0$ で $+\infty$ に発散するので、左辺の和は有限和ではありえず、前半は後半から従う。後半は 4 段で示す。(1) $L(s,\chi)$ を定め、Euler 積で $\log L(s,\chi)$ を素数の和で表す(prop-dap-euler)。(2) 指標の直交関係で、$p\equiv a$ の素数だけの和を取り出す。(3) 主指標の項は $\zeta(s)$ と同じように発散する。(4) それ以外の指標の項は有界にとどまる。(4) の核心が $L(1,\chi)\neq0$(thm-dap-nonvanishing)である。証明は prf-dap-main にある。

$\gcd(a,m)>1$ なら $p\equiv a\pmod m$ の素数は $\gcd(a,m)$ を割り切るので、高々有限個(実際には高々 1 個)しかない。したがって定理の仮定は外せない(ex-dap-counterexamples)。

直感

素数 $p$ が $a$ と合同かどうかを表す関数 $\mathbf 1[p\equiv a]$ は、指標の 1 次結合
$$ \mathbf 1[n\equiv a\ (\mathrm{mod}\ m)]=\frac1{\varphi(m)}\sum_{\chi\in X_m}\overline{\chi(a)}\chi(n)\qquad(\gcd(a,m)=1) $$
で書ける(Dirichlet指標 の記事の定理「指標の個数と直交関係」の 4)。そこで $\sum_{p\equiv a}p^{-s}$ は、$\varphi(m)$ 個の和 $\sum_p\chi(p)p^{-s}$ の 1 次結合になる。主指標 $\chi_0$ の和は($m$ を割る有限個の素数を除いて)素数全体の逆数和 $\sum_pp^{-s}$ で、$s\to1$ で発散する。残りの指標の和は $\chi(p)$ の値が $1$ の冪根の間で打ち消し合い、有界にとどまる。有界であることを保証するのが、$\log L(s,\chi)$ が $s=1$ の近くで有界であること、つまり $L(1,\chi)\neq0$ である。$L(1,\chi)=0$ だと $\log L(s,\chi)\to-\infty$ となり、主指標の発散を打ち消してしまうおそれがある。

$L$ 関数とその $s=1$ の近くでの振る舞い

Dirichlet の $L$ 関数

$\chi\in X_m$ と実数 $s>1$ に対し
$$ L(s,\chi):=\sum_{n=1}^\infty\frac{\chi(n)}{n^s} $$
と定める。$|\chi(n)|\le1$ なので級数は絶対収束する。主指標では $L(s,\chi_0)=\sum_{\gcd(n,m)=1}n^{-s}$ である。

$\chi\neq\chi_0$ のときは、和の打ち消し合いにより、級数は $s=1$ でも収束する。その評価に使うのが部分和
$$ A_\chi(x):=\sum_{1\le n\le x}\chi(n) $$
である。

部分和の有界性と $L$ 関数の連続性

$\chi\neq\chi_0$ とする。

  1. すべての $x\ge0$ について $|A_\chi(x)|\le\varphi(m)$ である。
  2. 実数 $\sigma>0$ と $0< \alpha<\beta$ について $\bigl|\sum_{\alpha< n\le\beta}\chi(n)n^{-\sigma}\bigr|\le2\varphi(m)\alpha^{-\sigma}$ である。とくに $L(s,\chi)$ の級数は $s>0$ で収束し、$s\ge1$ で $|L(s,\chi)|\le\varphi(m)$ である。
  3. $1\le s\le2$ について $|L(s,\chi)-L(1,\chi)|\le3\varphi(m)(s-1)$ である。とくに $L(s,\chi)$ は $[1,2]$ で連続である。

1.指標の直交関係(Dirichlet指標 の記事の定理「指標の個数と直交関係」の 3 で $\psi=\chi_0$)により、連続する $m$ 個の整数にわたる $\chi(n)$ の和は $0$ である。よって $A_\chi(x)$ は、長さ $m$ 未満の区間にわたる和に等しく、その中で $\chi(n)\neq0$ となる $n$ は $\varphi(m)$ 個以下で、各項の絶対値は $1$ である。
2.$A=A_\chi$ と書き、$a=\lfloor\alpha\rfloor$、$b=\lfloor\beta\rfloor$ とおく。$\chi(n)=A(n)-A(n-1)$ を代入して和を並べ替えると(Abelの級数変形法とその応用 の定理「級数変形法の等式」)
$$ \sum_{a< n\le b}\frac{\chi(n)}{n^\sigma}=\frac{A(b)}{b^\sigma}-\frac{A(a)}{(a+1)^\sigma}+\sum_{a< n< b}A(n)\Bigl(\frac1{n^\sigma}-\frac1{(n+1)^\sigma}\Bigr) $$
である。括弧の中は正で、その和は $(a+1)^{-\sigma}-b^{-\sigma}$ なので、1 により絶対値は $\varphi(m)\bigl(b^{-\sigma}+(a+1)^{-\sigma}+(a+1)^{-\sigma}-b^{-\sigma}\bigr)=2\varphi(m)(a+1)^{-\sigma}\le2\varphi(m)\alpha^{-\sigma}$ 以下である。$\alpha\to\infty$ でこれは $0$ に近づくので、Cauchy の判定法により級数は収束する。さらに $a=0$ として $b\to\infty$ とすると $A(b)b^{-\sigma}\to0$ なので
$$ L(\sigma,\chi)=\sum_{n=1}^\infty A(n)h_n(\sigma),\qquad h_n(\sigma):=\frac1{n^\sigma}-\frac1{(n+1)^\sigma}\ge0 $$
を得る。$\sum_nh_n(\sigma)=1$ なので $|L(\sigma,\chi)|\le\varphi(m)$ である($\sigma\ge1$ の範囲で使う)。
3.$1\le\sigma\le2$ のとき
$$ h_n'(\sigma)=-\frac{\log n}{n^\sigma}+\frac{\log(n+1)}{(n+1)^\sigma}=\int_n^{n+1}\frac{d}{dx}\Bigl(\frac{\log x}{x^\sigma}\Bigr)dx=\int_n^{n+1}\frac{1-\sigma\log x}{x^{\sigma+1}}dx $$
で、$x\ge1$ では $\bigl|\frac{1-\sigma\log x}{x^{\sigma+1}}\bigr|\le\frac{1+2\log x}{x^2}$ なので、$|h_n'(\sigma)|\le\int_n^{n+1}\frac{1+2\log x}{x^2}dx=:c_n$ である。$\sum_nc_n=\int_1^\infty\frac{1+2\log x}{x^2}dx=1+2=3$ である。平均値の定理により $|h_n(s)-h_n(1)|\le c_n(s-1)$ なので
$$ |L(s,\chi)-L(1,\chi)|\le\sum_{n=1}^\infty|A(n)|\,|h_n(s)-h_n(1)|\le\varphi(m)\cdot3(s-1) $$
である。$\square$

Euler 積と対数

$|z|<1$ の複素数 $z$ に対し $\lambda(z):=\sum_{k\ge1}z^k/k$ とおく。$\chi\in X_m$ と実数 $s>1$ について
$$ \ell(s,\chi):=\sum_p\lambda\bigl(\chi(p)p^{-s}\bigr)=\sum_p\sum_{k\ge1}\frac{\chi(p)^k}{kp^{ks}} $$
は絶対収束し、$e^{\ell(s,\chi)}=L(s,\chi)$ が成り立つ。とくに $L(s,\chi)\neq0$ である。さらに $\ell(s,\chi)$ は $s>1$ で連続である。

$|z|<1$ で $e^{\lambda(z)}=1/(1-z)$ を確かめ、$p\le x$ の有限積を展開して $x\to\infty$ とする。

詳しい証明を開く

$w(z)=(1-z)e^{\lambda(z)}$ とおくと、$\lambda'(z)=\sum_{k\ge1}z^{k-1}=1/(1-z)$ より $w'(z)=0$ で、$w(0)=1$ なので、$|z|<1$ で $e^{\lambda(z)}=1/(1-z)$ である。$|z|\le\frac12$ なら $|\lambda(z)|\le\sum_k|z|^k=|z|/(1-|z|)\le2|z|$ である。

$z_p=\chi(p)p^{-s}$ とおくと $|z_p|\le p^{-s}\le\frac12$ で、$|\lambda(z_p)|\le2p^{-s}$ だから $\ell(s,\chi)$ は絶対収束する。$1+\delta\le s$ の範囲では各項が $2p^{-1-\delta}$ で抑えられ、$\sum_pp^{-1-\delta}<\infty$ なので一様収束し、$\ell$ は連続である。

$x\ge2$ について、等比級数 $\frac1{1-z_p}=\sum_{k\ge0}\chi(p^k)p^{-ks}$($\chi$ は完全乗法的)を $p\le x$ について掛け合わせる。どれも絶対収束するので展開でき、素因数分解の一意性により$$\prod_{p\le x}\frac1{1-z_p}=\sum_{n\in N_x}\frac{\chi(n)}{n^s}$$となる。ここで $N_x$ は素因数がすべて $x$ 以下の正の整数の集合で、$n\le x$ ならば $n\in N_x$ である。よって$$\Bigl|L(s,\chi)-\prod_{p\le x}\frac1{1-z_p}\Bigr|\le\sum_{n>x}\frac1{n^s}\xrightarrow[x\to\infty]{}0$$である。左の積は $\exp\bigl(\sum_{p\le x}\lambda(z_p)\bigr)$ に等しく、$x\to\infty$ で $e^{\ell(s,\chi)}$ に近づくので、$L(s,\chi)=e^{\ell(s,\chi)}\neq0$ である。$\square$

主指標の $L$ 関数の評価

$1< s\le2$ で
$$ \frac{\varphi(m)}{m}\cdot\frac1{s-1}\le L(s,\chi_0)\le\frac2{s-1} $$
が成り立つ。

$\zeta(s)$ の Euler 積と比べて $L(s,\chi_0)=\zeta(s)\prod_{p\mid m}(1-p^{-s})$ とし、$\zeta(s)$ の評価を使う。

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$\chi_0(p)$ は $p\mid m$ なら $0$、それ以外は $1$ なので、prop-dap-euler の有限積と $\zeta(s)$ の Euler 積(Riemannゼータ関数 の記事の定理「Euler 積」)を比べて $L(s,\chi_0)=\zeta(s)\prod_{p\mid m}(1-p^{-s})$ である。同記事の命題「実軸上の評価」の $\frac1{s-1}\le\zeta(s)\le\frac s{s-1}\le\frac2{s-1}$ と、$\varphi(m)/m=\prod_{p\mid m}(1-p^{-1})\le\prod_{p\mid m}(1-p^{-s})\le1$ から従う。$\square$

$L(1,\chi)\neq0$ の証明

$L(1,\chi)$ は $0$ でない

$\chi\in X_m$ が主指標でなければ、$L(1,\chi)\neq0$ である。

証明の分け方

指標 $\chi$ が実数値(値が $0,\pm1$ だけ)かどうかで、証明を 2 つに分ける。実数値でない指標は、すべての指標の $L$ 関数の積を見れば片づく(prf-dap-complex)。実数値の指標には別の議論が要る(prf-dap-real)。

すべての指標にわたる積

$L$ 関数の積は $1$ 以上

実数 $s>1$ について $\prod_{\chi\in X_m}L(s,\chi)$ は $1$ 以上の実数である。

prop-dap-euler により積は $\exp\bigl(\sum_\chi\ell(s,\chi)\bigr)$ に等しい。絶対収束するので和の順序を入れ替えてよく、
$$ \sum_{\chi\in X_m}\ell(s,\chi)=\sum_p\sum_{k\ge1}\frac1{kp^{ks}}\sum_{\chi\in X_m}\chi(p^k)=\varphi(m)\sum_{p^k\equiv1\ (\mathrm{mod}\ m)}\frac1{kp^{ks}}\ge0 $$
である。ここで、Dirichlet指標 の記事の定理「指標の個数と直交関係」の 4 で $b=1$ とした $\sum_\chi\chi(n)=\varphi(m)\cdot\mathbf 1[n\equiv1]$ を使った($\gcd(n,m)>1$ ならすべての $\chi(n)$ が $0$ である)。$0$ 以上の実数の $\exp$ は $1$ 以上である。$\square$

実数値でない指標の場合

$\chi$ が実数値でないとし、$L(1,\chi)=0$ と仮定して矛盾を導く。複素共役 $\bar\chi$ も法 $m$ の指標で、$\bar\chi\neq\chi$ である。$s$ が実数なので $L(s,\bar\chi)=\overline{L(s,\chi)}$ で、$L(1,\bar\chi)=0$ でもある。$1< s\le2$ で、lem-dap-partial-sum の 3 から
$$ |L(s,\chi)|\le3\varphi(m)(s-1),\qquad|L(s,\bar\chi)|\le3\varphi(m)(s-1) $$
であり、prop-dap-principal から $L(s,\chi_0)\le2/(s-1)$、残りの $\varphi(m)-3$ 個の指標 $\psi$ については lem-dap-partial-sum の 2 から $|L(s,\psi)|\le\varphi(m)$ である($\chi_0,\chi,\bar\chi$ は相異なる)。よって
$$ \Bigl|\prod_{\psi\in X_m}L(s,\psi)\Bigr|\le\frac2{s-1}\cdot9\varphi(m)^2(s-1)^2\cdot\varphi(m)^{\varphi(m)}\xrightarrow[s\to1+0]{}0 $$
となり、prop-dap-product の「$1$ 以上」に反する。$\square$

実数値の指標では $\bar\chi=\chi$ なので、$L(s,\chi)$ の $s=1$ での零点は $1$ 重のぶんしか $L(s,\chi_0)$ の極を打ち消さず、積の議論では矛盾が出ない。代わりに、約数にわたる和が $0$ 以上になることを使う。

実数値の指標の場合

約数にわたる和

$\chi$ を実数値の指標とし、$r(n):=\sum_{d\mid n}\chi(d)$($d$ は $n$ の正の約数)とおく。すべての $n\ge1$ で $r(n)\ge0$ であり、$n$ が平方数なら $r(n)\ge1$ である。

$r$ は乗法的で、素数冪では $r(p^e)=\sum_{i=0}^e\chi(p)^i$ を $\chi(p)\in\{0,1,-1\}$ ごとに調べる。

詳しい証明を開く

$\chi$ は完全乗法的なので、$r$ は乗法的($\gcd(n,n')=1$ なら $r(nn')=r(n)r(n')$)である。約数 $d\mid nn'$ が $d=ee'$($e\mid n$、$e'\mid n'$)と一意に分かれることによる。素数冪では $r(p^e)=\sum_{i=0}^e\chi(p)^i$ で、$\chi(p)=0$ なら $1$、$\chi(p)=1$ なら $e+1$、$\chi(p)=-1$ なら $e$ が偶数のとき $1$、奇数のとき $0$ である。どれも $0$ 以上で、$e$ が偶数なら $1$ 以上である。平方数の素因数分解では指数がすべて偶数なので $r(n)\ge1$ である。$\square$

平方根の逆数の和

定数 $C$ があって、実数 $t\ge1$ について
$$ \sum_{1\le k\le t}\frac1{\sqrt k}=2\sqrt t+C+E(t),\qquad|E(t)|\le\frac3{\sqrt t} $$
が成り立つ。また $\sum_{1\le k\le t}k^{-1/2}\le2\sqrt t$ である。

$a_N=\sum_{k\le N}k^{-1/2}-2\sqrt N$ が減少し、隣り合う差が $N^{-1/2}-(N-1)^{-1/2}$ 以上であることから極限 $C$ の存在と誤差を得る。

詳しい証明を開く

整数 $N\ge1$ について $a_N=\sum_{k=1}^Nk^{-1/2}-2\sqrt N$ とおく。$2\sqrt N-2\sqrt{N-1}=\int_{N-1}^Nx^{-1/2}dx$ は $N^{-1/2}$ 以上 $(N-1)^{-1/2}$ 以下なので、$N\ge2$ で$$N^{-1/2}-(N-1)^{-1/2}\le a_N-a_{N-1}\le0$$である。$a_N$ は減少し、$M< N$ について $a_N\ge a_M+N^{-1/2}-M^{-1/2}\ge a_M-M^{-1/2}$ なので、極限 $C=\lim a_N$ があって $|a_M-C|\le M^{-1/2}$ である。$t\ge1$、$N=\lfloor t\rfloor$ とすると $N\ge t/2$ で、$0\le2\sqrt t-2\sqrt N=\frac{2(t-N)}{\sqrt t+\sqrt N}\le N^{-1/2}$ なので、$|E(t)|\le|a_N-C|+N^{-1/2}\le2N^{-1/2}\le2\sqrt2/\sqrt t$ である。後半は $k^{-1/2}\le\int_{k-1}^kx^{-1/2}dx$ を足せばよい。$\square$

実数値の指標の場合

$\chi\neq\chi_0$ を実数値とし、$x\ge1$ について
$$ F(x):=\sum_{1\le n\le x}\frac{r(n)}{\sqrt n}=\sum_{dk\le x}\frac{\chi(d)}{\sqrt{dk}} $$
とおく($d,k$ は正の整数)。$F(x)$ を 2 通りに評価する。
下から。 lem-dap-divisor-sum により各項は $0$ 以上で、$n=k^2$ の項は $1/k$ 以上なので
$$ F(x)\ge\sum_{1\le k\le\sqrt x}\frac1k\ge\log\lfloor\sqrt x\rfloor\xrightarrow[x\to\infty]{}\infty $$
である。
上から。 $y=\sqrt x$ とおく。$dk\le x$ を満たす組を、$d\le y$ のものと、$d>y$(このとき $k< y$)のものに分ける。
$$ F(x)=\underbrace{\sum_{d\le y}\frac{\chi(d)}{\sqrt d}\sum_{k\le x/d}\frac1{\sqrt k}}_{F_1}+\underbrace{\sum_{k< y}\frac1{\sqrt k}\sum_{y< d\le x/k}\frac{\chi(d)}{\sqrt d}}_{F_2} $$
$F_2$ の内側の和は lem-dap-partial-sum の 2 で $2\varphi(m)y^{-1/2}$ 以下で、$\sum_{k< y}k^{-1/2}\le2\sqrt y$ なので $|F_2|\le4\varphi(m)$ である。$F_1$ には $x/d\ge y\ge1$ なので lem-dap-sqrt-sum が使えて
$$ F_1=2\sqrt x\sum_{d\le y}\frac{\chi(d)}d+C\sum_{d\le y}\frac{\chi(d)}{\sqrt d}+\sum_{d\le y}\frac{\chi(d)}{\sqrt d}E\Bigl(\frac xd\Bigr) $$
となる。第 1 項は、lem-dap-partial-sum の 2 による $\bigl|\sum_{d>y}\chi(d)/d\bigr|\le2\varphi(m)/y$ を使うと $2\sqrt xL(1,\chi)$ との差が $2\sqrt x\cdot2\varphi(m)/y=4\varphi(m)$ 以下である。第 2 項の和は $|\chi(1)|+2\varphi(m)\le1+2\varphi(m)$ 以下である。第 3 項は $|E(x/d)|\le3\sqrt{d/x}$ より $\sum_{d\le y}3/\sqrt x\le3$ 以下である。まとめると、$x$ によらない定数 $K$ で
$$ |F(x)-2\sqrt x\,L(1,\chi)|\le K $$
となる。もし $L(1,\chi)=0$ なら $F(x)$ は有界になり、下からの評価に反する。よって $L(1,\chi)\neq0$ である。$\square$

2 つの場合を合わせて thm-dap-nonvanishing が示された。実数値の指標については、さらに $L(1,\chi)>0$ であることもわかる。実際、$F(x)\ge0$ と上の評価から $2\sqrt xL(1,\chi)\ge-K$ がすべての $x$ で成り立つので $L(1,\chi)\ge0$ であり、$0$ でないので正である。

定理の証明

$L(1,\chi)\neq0$ から $\ell(s,\chi)$ の有界性を導くには、複素数値の対数を扱う必要がある。$e^{\ell}=L$ から $\operatorname{Re}\ell=\log|L|$ は有界になるが、虚部(偏角)が $2\pi$ の整数倍だけずれていかないことを確かめる。

$\ell(s,\chi)$ の有界性

$\chi\neq\chi_0$ とする。$\ell(s,\chi)$ は $1< s\le2$ で有界である。

lem-dap-partial-sum の 3 により $L(s,\chi)$ は閉区間 $[1,2]$ で連続で、$s>1$ では prop-dap-euler により、$s=1$ では thm-dap-nonvanishing により $0$ にならない。よって $\mu:=\min_{1\le s\le2}|L(s,\chi)|>0$ である。また $|L(s,\chi)|\le\varphi(m)$ なので、$\operatorname{Re}\ell(s,\chi)=\log|L(s,\chi)|$ は $[\log\mu,\log\varphi(m)]$ に入る。
虚部を調べる。$L$ は $[1,2]$ で一様連続なので、$\delta>0$ を、$|s-t|\le\delta$ なら $|L(s,\chi)-L(t,\chi)|<\mu$ となるようにとる。$t\in(1,2]$ を固定し、$I_t=\{s\in(1,2]:|s-t|\le\delta\}$ とおく。$s\in I_t$ では $w(s):=L(s,\chi)/L(t,\chi)$ が $|w(s)-1|<1$ を満たすので、その主値の対数 $\operatorname{Log}w(s)$($|\operatorname{Im}\operatorname{Log}w(s)|<\pi/2$)が $s$ の連続関数として定まる。$\exp\bigl(\ell(s,\chi)-\ell(t,\chi)\bigr)=w(s)=\exp(\operatorname{Log}w(s))$ なので
$$ \ell(s,\chi)-\ell(t,\chi)-\operatorname{Log}w(s)\in2\pi i\mathbb Z $$
である。左辺は区間 $I_t$ 上の連続関数で、値は離散集合 $2\pi i\mathbb Z$ に入るので定数であり、$s=t$ で $0$ だから恒等的に $0$ である。よって $|\operatorname{Im}\ell(s,\chi)-\operatorname{Im}\ell(t,\chi)|<\pi/2$($s\in I_t$)である。$t=2$ から始めて幅 $\delta$ ずつ $1$ に近づけば、$(1,2]$ のどの $s$ も $2$ から $1/\delta+1$ 歩以内で到達するので、$|\operatorname{Im}\ell(s,\chi)|\le|\operatorname{Im}\ell(2,\chi)|+(1/\delta+1)\pi/2$ である。$\square$

剰余類ごとの逆数和

$\gcd(a,m)=1$、$1< s\le2$ とする。prop-dap-euler の級数は絶対収束するので、直交関係(Dirichlet指標 の記事の定理「指標の個数と直交関係」の 4 で $b=a$)を使うと
$$ \sum_{\chi\in X_m}\overline{\chi(a)}\,\ell(s,\chi)=\sum_p\sum_{k\ge1}\frac1{kp^{ks}}\sum_{\chi\in X_m}\chi(p^k)\overline{\chi(a)}=\varphi(m)\sum_{p^k\equiv a\ (\mathrm{mod}\ m)}\frac1{kp^{ks}} $$
である。右辺のうち $k=1$ の部分が求める和 $S(s):=\sum_{p\equiv a}p^{-s}$ で、$k\ge2$ の部分は
$$ 0\le\sum_p\sum_{k\ge2}\frac1{kp^{ks}}\le\sum_p\sum_{k\ge2}\frac1{p^k}=\sum_p\frac1{p(p-1)}\le\sum_{n\ge2}\frac1{n(n-1)}=1 $$
で抑えられる。よって
$$ S(s)=\frac1{\varphi(m)}\ell(s,\chi_0)+\frac1{\varphi(m)}\sum_{\chi\neq\chi_0}\overline{\chi(a)}\,\ell(s,\chi)+O(1) $$
である。
主指標の項:$\chi_0(p)p^{-s}$ は実数なので $\ell(s,\chi_0)$ は実数で、$e^{\ell(s,\chi_0)}=L(s,\chi_0)$ より $\ell(s,\chi_0)=\log L(s,\chi_0)$ である。prop-dap-principal により
$$ \log\frac1{s-1}+\log\frac{\varphi(m)}m\le\ell(s,\chi_0)\le\log\frac1{s-1}+\log2 $$
なので、$\ell(s,\chi_0)=\log\frac1{s-1}+O(1)$ である。
それ以外の指標の項:$|\overline{\chi(a)}|=1$ で、lem-dap-log-bounded により各 $\ell(s,\chi)$ は有界である。指標は有限個なので、和も有界である。
以上から $S(s)=\frac1{\varphi(m)}\log\frac1{s-1}+O(1)$ が成り立つ。右辺は $s\to1+0$ で $+\infty$ に発散する。もし $p\equiv a$ の素数が有限個なら $S(s)$ は有限和で、$s\to1+0$ で有限の値に近づくから矛盾する。よって $p\equiv a\pmod m$ の素数は無限に存在する。$\square$

例と反例

法 $4$ の実数値の指標

法 $4$ の指標は主指標と、$\chi_4(n)=1\ (n\equiv1)$、$-1\ (n\equiv3)$、$0\ (n$ 偶数$)$ の 2 つである。
$$ L(1,\chi_4)=1-\frac13+\frac15-\frac17+\cdots $$
は項の絶対値が単調に $0$ に減る交代級数なので、和は $1-\frac13=\frac23$ 以上で、とくに $0$ でない。この場合は thm-dap-nonvanishing の一般の議論を使わずに $L(1,\chi)\neq0$ がわかる。prf-dap-main の式は
$$ \sum_{p\equiv1\ (4)}\frac1{p^s}-\sum_{p\equiv3\ (4)}\frac1{p^s}=\ell(s,\chi_4)+O(1)=O(1) $$
を与え、主指標の式と足し引きすると、$4$ で割って $1$ 余る素数と $3$ 余る素数の逆数和は、どちらも $\frac12\log\frac1{s-1}+O(1)$ の速さで発散する。

剰余類ごとの素数の個数

$x$ 以下の素数を $10$ で割った余りで分けると、次のようになる($2$ と $5$ を除く)。

$x$余り $1$余り $3$余り $7$余り $9$
$10^3$$40$$42$$46$$38$
$10^4$$306$$310$$308$$303$
$10^5$$2387$$2402$$2411$$2390$

4 つの類がほぼ同じ割合 $1/\varphi(10)=1/4$ を占めている。thm-dap-main の評価は、各類の逆数和が素数全体の逆数和の $1/\varphi(m)$ の速さで発散することを示しており、この均等さの「逆数和」版にあたる。個数そのものについて、$x$ 以下の $p\equiv a$ の素数の個数が $x/(\varphi(m)\log x)$ に漸近することは、算術級数の素数定理として知られている(Sho08 §5.5.4、Theorem 5.21、p. 122)。この記事では証明しない。

反例の表
外す条件反例成り立たなくなること
$\gcd(a,m)=1$$a=6$、$m=9$$p\equiv6\pmod 9$ なら $3\mid p$ で $p=3$ だが $3\not\equiv6$。この類に素数は 1 つもない
数列が 1 次式 $a+mn$ であること2 次式 $n^2-1=(n-1)(n+1)$値が素数になるのは $n=2$(値 $3$)だけで、素数は有限個しかない
$\chi$ が主指標でないこと(lem-dap-partial-sum)主指標 $\chi_0$$A_{\chi_0}(km)=k\varphi(m)$ なので部分和は有界でない。$L(s,\chi_0)\ge\frac{\varphi(m)}m\cdot\frac1{s-1}$ は $s\to1+0$ で $+\infty$ に発散するので、$L(s,\chi_0)$ は $[1,2]$ 上の連続関数に延びない

2 行目について、既約な 2 次式 $n^2+1$ の値に素数が無限に含まれるかどうかは未解決である。1 次式の場合だけが Dirichlet の定理で完全に解決している。

補足

Dirichlet 密度と一般化

thm-dap-main の評価と $\sum_pp^{-s}=\log\frac1{s-1}+O(1)$(主指標の計算で $m=1$ とした場合)を比べると、
$$ \lim_{s\to1+0}\frac{\sum_{p\equiv a}p^{-s}}{\sum_pp^{-s}}=\frac1{\varphi(m)} $$
となる。この形の極限を素数の集合の Dirichlet密度 という。代数体の素イデアルへの一般化は Hecke の $L$ 関数を使って示され(Neu99 Chapter VII、(13.2) Theorem、p. 543)、Galois 拡大の Frobenius 元の分布についての Chebotarevの密度定理 へと広がる。

文献と証明について

定理の主張は HW60 §2.3、Theorem 15(p. 13)にある。Neu99 Chapter VII は、円分体 $\mathbb Q(\zeta_m)$ の Dedekind ゼータ関数が $s=1$ に 1 位の極をもつことから $L(1,\chi)\neq0$ を導き((5.13) Proposition、p. 469)、そこから定理を示している((5.14)、pp. 469–470)。この記事の証明は代数体の理論を使わない。実数値でない指標は $L$ 関数の積が $1$ 以上であることで、実数値の指標は約数にわたる和 $r(n)\ge0$ と和の 2 通りの評価で扱った。

関連項目

参考文献

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