Pickの定理

同義語:Pick's theoremピックの定理Pickの公式Pick's formula

概要

Pickの定理(Pick's theorem)とは、頂点がすべて格子点(座標がともに整数の点)である単純多角形の面積が、内部の格子点の個数 $I$ と周上の格子点の個数 $B$ だけで $I+B/2-1$ と表される、という定理である。たとえば頂点が $(0,0),(4,0),(0,3)$ の三角形では $I=3$、$B=8$ で、面積 $6=3+4-1$ である。$I+B/2-1$ が多角形の貼り合わせについて面積と同じく加法的であることから、長方形・三角形の場合を経て、対角線による分割と帰納法で証明される。系として格子多角形の面積は $1/2$ の整数倍であり、格子点を頂点とする正三角形は存在しない。穴のある図形では穴 1 つにつき $1$ の補正が必要であり、3 次元では Reeve の四面体が示すように同じ形の公式は存在しない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 格子点, 多角形, 面積

動機

方眼紙の交点(座標がともに整数の点)を頂点とする多角形の面積は、交点を数えるだけで求められる。たとえば頂点が $(0,0)$、$(4,0)$、$(0,3)$ の直角三角形を考える。周の上にある交点は、底辺の上に $(0,0),(1,0),\dots,(4,0)$ の 5 個、縦の辺の上に $(0,1),(0,2),(0,3)$ の 3 個で、斜辺の上には頂点以外の交点がないので、合わせて $B=8$ 個である。内部にある交点は $(1,1),(2,1),(1,2)$ の $I=3$ 個である。このとき
$$ I+\frac{B}{2}-1=3+4-1=6 $$
であり、これは三角形の面積 $\frac12\cdot4\cdot3=6$ にちょうど等しい。
凸でない図形でも同じことが起こる。頂点が $(0,0)$、$(4,0)$、$(4,4)$、$(2,1)$、$(0,4)$ の 5 角形(上辺が内側にへこんだ形)では、周の上の交点が $B=14$ 個、内部の交点が $I=4$ 個で、$4+7-1=10$ は面積 $16-6=10$(正方形から、へこみの三角形 $(0,4),(2,1),(4,4)$ の面積 $6$ を除いたもの)に一致する。
このように、頂点がすべて交点にある多角形の面積は、内部の交点の数 $I$ と周上の交点の数 $B$ だけで $I+B/2-1$ と決まる。これが Pick の定理であり、G. Pick が 1899 年に発表した Pic99。刊行書による解説として Beck–Robins の第 2 章 §2.6 BR15 も参照できる。

定義

座標平面の点 $(x,y)$ で $x,y$ がともに整数であるものを格子点(lattice point)という。

単純多角形と格子多角形

$n\geq3$ とし、相異なる点 $V_1,\dots,V_n$ と $n$ 本の線分 $V_1V_2,\,V_2V_3,\,\dots,\,V_{n-1}V_n,\,V_nV_1$(辺)を考える。隣り合う 2 辺は共通の頂点だけで交わり、隣り合わない 2 辺は交わらないとき、この閉じた折れ線を単純多角形という。頂点 $V_1,\dots,V_n$ がすべて格子点である単純多角形を格子多角形という。

隣り合う 3 頂点が一直線上に並ぶこと(その頂点での角が $180^\circ$ であること)も許す。以下の議論では多角形を分割したときにこのような頂点が現れるが、頂点の選び方は面積にも格子点の個数にも影響しない。

多角形の内部と外部

単純多角形 $P$ の辺の和集合 $\partial P$ を平面から除くと、有界な部分(内部)と有界でない部分(外部)のちょうど 2 つに分かれ、$\partial P$ はどちらの部分の境界にもなる。これは多角形の場合の Jordan曲線定理 であり、本記事では証明せずに使う(直観的には明らかだが証明は易しくないことは Bruckner–Thomson–Bruckner の PDF 版の §2.1.3、p. 41 BTB11 も注意している)。以下、多角形 $P$ の内部と $\partial P$ を合わせた閉じた領域も $P$ と書き、その面積を $\operatorname{Area}(P)$ と書く。面積については、合同な図形の面積が等しいこと、共通部分が線分や折れ線だけの 2 つの領域を合わせた領域の面積が各面積の和であること、長方形の面積が縦と横の積であることを使う。

格子多角形 $P$ について
$$ I(P):=(\text{内部にある格子点の個数}),\qquad B(P):=(\partial P\text{ 上にある格子点の個数}) $$
とおく。$P$ は有界なので、どちらも有限である。

定理

Pickの定理

格子多角形 $P$ について
$$ \operatorname{Area}(P)=I(P)+\frac{B(P)}{2}-1 $$
が成り立つ。

証明の方針

証明は下の節で行う(prf-pick-main)。量 $I+B/2-1$ が多角形の貼り合わせについて面積と同じように振る舞うこと(lem-pick-additivity)を示し、軸に平行な長方形・直角三角形、一般の三角形の順に等式を確かめ、最後に多角形を対角線で分けて頂点の個数に関する帰納法を使う。

$B(P)$ は次の補題で辺ごとに計算できる。

線分上の格子点の個数

格子点 $(x_1,y_1)$ と $(x_2,y_2)$ を結ぶ線分上の格子点の個数(両端を含む)は、$\gcd(|x_2-x_1|,|y_2-y_1|)+1$ である。ただし $\gcd(k,0)=k$ とする。

$\Delta x:=x_2-x_1$、$\Delta y:=y_2-y_1$、$g:=\gcd(|\Delta x|,|\Delta y|)$ とし、$\Delta x=gu$、$\Delta y=gv$($\gcd(u,v)=1$)と書く。線分上の点は $(x_1+t\Delta x,\,y_1+t\Delta y)$($0\leq t\leq1$)と表され、これが格子点であることは $tgu$ と $tgv$ がともに整数であることと同値である。Bézoutの等式により $au+bv=1$ となる整数 $a,b$ があるので、このとき $tg=a(tgu)+b(tgv)$ も整数である。逆に $tg$ が整数なら $tgu$、$tgv$ も整数である。よって格子点に対応する $t$ は $t=k/g$($k=0,1,\dots,g$)のちょうど $g+1$ 個である。

したがって格子多角形の頂点を $V_1,\dots,V_n$($V_{n+1}:=V_1$)とすると、$B(P)$ は各辺 $V_iV_{i+1}$ の座標の差の最大公約数の和に等しい。冒頭の三角形では $4+3+\gcd(4,3)=8$ である。

証明

以下、格子多角形 $P$ に対して
$$ f(P):=I(P)+\frac{B(P)}{2}-1 $$
とおき、$\operatorname{Area}(P)=f(P)$ を示す。証明は Bruckner–Thomson–Bruckner の PDF 版の第 2 章 §2.1.4、§2.3.3、§2.4(pp. 43–45、59–63)と、問題 25・28・45・49・52 の解答(pp. 86–89、97–104)BTB11 の筋に従う(同書では分割線を 1 本の線分とし、三角形の場合を図で処理している)。

貼り合わせと加法性

折れ線で分けたときの加法性

格子多角形 $P$ が、頂点がすべて格子点である折れ線 $\Gamma$ によって 2 つの格子多角形 $P_1$、$P_2$ に分けられているとする。すなわち、$\Gamma$ は $\partial P$ 上の 2 点を結び、その 2 点以外では $P$ の内部を通り、$P=P_1\cup P_2$、$P_1\cap P_2=\Gamma$ であるとする。このとき
$$ f(P)=f(P_1)+f(P_2),\qquad \operatorname{Area}(P)=\operatorname{Area}(P_1)+\operatorname{Area}(P_2) $$
が成り立つ。特に、$P$、$P_1$、$P_2$ のうち 2 つが Pick の定理の等式を満たせば、残りの 1 つも満たす。

$\Gamma$ 上の格子点の個数(両端を含む)を $k$ とする。$\Gamma$ の両端は $P_1$ と $P_2$ の頂点なので格子点であり、$k\geq2$ である。$P$ の格子点は、$P_1$ の内部、$P_2$ の内部、$\Gamma$ の両端以外の点、$\partial P$ のいずれか 1 つに属し、$\Gamma$ の両端以外の $k-2$ 個の格子点は $P$ の内部にある。したがって
$$ I(P)=I(P_1)+I(P_2)+(k-2) $$
である。また $\Gamma$ 上の $k$ 個の格子点は $B(P_1)$ と $B(P_2)$ の両方で数えられており、そのうち両端の 2 個だけが $\partial P$ に残るので
$$ B(P)=B(P_1)+B(P_2)-2k+2 $$
である。よって
$$ f(P)=I(P_1)+I(P_2)+k-2+\frac{B(P_1)+B(P_2)}{2}-k+1-1=f(P_1)+f(P_2) $$
である。面積の等式は面積の加法性による。最後の主張は、2 つの等式の差をとれば従う。

長方形と三角形

軸に平行な長方形と直角三角形

辺が座標軸に平行な格子多角形の長方形 $R$、および 2 つの脚が座標軸に平行な格子多角形の直角三角形 $T$ は、Pick の定理の等式を満たす。

$R=[x_0,x_0+a]\times[y_0,y_0+b]$($a,b$ は正の整数)とすると、内部の格子点は $(a-1)(b-1)$ 個、周上の格子点は $2(a+b)$ 個なので
$$ f(R)=(a-1)(b-1)+(a+b)-1=ab=\operatorname{Area}(R) $$
である。
$T$ の直角の頂点を含む、$T$ を囲む最小の長方形を $R$ とする。$R$ は $T$ の斜辺で $T$ と三角形 $T'$ に分けられる。$R$ の中心を $(c_1,c_2)$ とすると $2c_1$、$2c_2$ は整数なので、中心のまわりの $180^\circ$ 回転 $(x,y)\mapsto(2c_1-x,\,2c_2-y)$ は格子点を格子点に移し、$T$ を $T'$ に移す。よって $I(T)=I(T')$、$B(T)=B(T')$、$\operatorname{Area}(T)=\operatorname{Area}(T')$ であり、lem-pick-additivity から
$$ 2f(T)=f(T)+f(T')=f(R)=\operatorname{Area}(R)=2\operatorname{Area}(T) $$
となる。

平面の変換 $(x,y)\mapsto(-x,y)$、$(x,y)\mapsto(x,-y)$、$(x,y)\mapsto(y,x)$ や、格子点だけずらす平行移動は、格子点全体を格子点全体に移し、面積を変えない。したがって、格子多角形をこれらの変換で移しても $I$、$B$、面積は変わらず、Pick の定理を示すときにはこれらの変換で都合のよい位置に置いてよい。

格子三角形

頂点が格子点であるすべての三角形は、Pick の定理の等式を満たす。

三角形 $T=ABC$ を囲む最小の長方形を $R=[x_0,x_1]\times[y_0,y_1]$ とする。$R$ の 4 辺のそれぞれに $T$ の頂点がある($x$ 座標・$y$ 座標の最小値・最大値はどれも頂点で達成される)。頂点は 3 個しかないので、鳩の巣原理によりある頂点は $R$ の 2 辺に同時に乗り、$R$ の角にある。上の変換で動かして、$A=(x_0,y_0)$ としてよい。以下、面積が $0$ に退化する部分は省いて読む。
場合 1:$R$ の対角の角 $(x_1,y_1)$ が $T$ の頂点である場合。$C=(x_1,y_1)$ とする。長方形 $R$ の中心のまわりの $180^\circ$ 回転は $A$ と $C$ を入れ替え、直線 $AC$ の両側を入れ替えるので、これで動かして、$B=(p,q)$ が直線 $AC$ に関して点 $(x_1,y_0)$ と同じ側にあるとしてよい。このとき $x_0< p\leq x_1$、$y_0\leq q< y_1$ である。$R$ は対角線 $AC$ によって、直角三角形 $U=A\,(x_0,y_1)\,C$ と直角三角形 $L=A\,(x_1,y_0)\,C$ に分かれる。prop-pick-rectangle により $R$ と $U$ は等式を満たすので、lem-pick-additivity により $L$ も満たす。次に $L$ は折れ線 $A\,B\,C$ によって $T$ と四角形 $Q=A\,(x_1,y_0)\,C\,B$ に分かれる($B$ が $L$ の周上にある場合は、折れ線のうち周上にない部分の線分で分ける)。$Q$ は、$B$ から下ろした縦の線分と $B$ から右へ引いた横の線分によって、直角三角形 $A\,(p,y_0)\,B$、長方形 $[p,x_1]\times[y_0,q]$、直角三角形 $B\,(x_1,q)\,C$ に分かれ、これらはどれも prop-pick-rectangle により等式を満たす。lem-pick-additivity を 2 回使うと $Q$ も等式を満たし、もう一度使うと $L$ と $Q$ から $T$ も等式を満たす。
場合 2:$(x_1,y_1)$ が $T$ の頂点でない場合。$A$ は辺 $x=x_1$ にも辺 $y=y_1$ にも乗らないので、残りの 2 頂点がこの 2 辺に 1 つずつ乗る。$B=(x_1,q)$($y_0\leq q< y_1$)、$C=(p,y_1)$($x_0\leq p< x_1$)とする。$R$ は $T$ と、3 つの直角三角形 $W_1=A\,(x_1,y_0)\,B$、$W_2=B\,(x_1,y_1)\,C$、$W_3=C\,(x_0,y_1)\,A$ に分かれ、各 $W_i$ の 2 つの脚は座標軸に平行である。$R$ から線分 $BC$ で $W_2$ を切り離し、残りから線分 $AB$ で $W_1$ を、さらに線分 $CA$ で $W_3$ を切り離すと $T$ が残る。$R$ と各 $W_i$ は prop-pick-rectangle により等式を満たすので、lem-pick-additivity を 3 回使って、切り離したあとの残りの図形が順に等式を満たし、最後に $T$ も満たす。

一般の多角形への帰納法

多角形の 2 つの頂点を結ぶ線分で、両端以外では多角形の内部を通るものを対角線という。

対角線の存在

頂点が 4 個以上の単純多角形には対角線がある。

rem-pick-jordan の平面分離を使う。まず頂点のうち $y$ 座標が最小で、その中で $x$ 座標が最小の $V$ を選ぶと、隣の頂点 $U,W$ が作る角は凸で、その内側は $P$ の内部にある。三角形 $UVW$ に別の頂点がなければ $UW$ が対角線になる。別の頂点があれば、$V$ から辺 $UW$ へ向かう一次関数 $h$ の値が最小の頂点 $X$ を選ぶと、$VX$ が対角線になる。いずれも、候補線分が辺と交わらず内部を通ることを以下で確かめる。

頂点の選択と二つの場合の詳しい証明

この証明では、rem-pick-jordan の多角形の Jordan 曲線定理を証明せずに使う。そこから次の (J) が従う。

  • (J) 平面の連結な部分集合(線分や三角形の内部など)が $\partial P$ と交わらなければ、それは $P$ の内部と外部のどちらか一方に含まれる。また $\partial P$ の各点の近くには内部の点がある。

さらに、単純多角形の定義から次の 2 つが従う。

  • (a) 辺はその両端以外の頂点を含まない。実際、辺 $e$ が両端以外の頂点 $Y$ を含むとし、$Y$ を端点とする辺 $YZ$ をとる。$YZ$ が $e$ と隣り合わなければ、2 辺は $Y$ で交わる。隣り合えば $Z$ は $e$ の端点であり、線分 $YZ$ 全体が $e$ に含まれるので、2 辺は共通の頂点 $Z$ 以外でも交わる。どちらも単純多角形の定義に反する。
  • (b) 頂点 $V$ に隣り合う頂点を $U$、$W$ とすると、辺 $VU$、$VW$ 以外の辺 $e$ は $V$ を含まず、辺 $VU$、$VW$ とは $U$ または $W$ 以外では交わらない。実際、$V$ を端点とする辺は $VU$、$VW$ だけなので、(a) により $e$ は $V$ を含まない。$e$ が $VU$ と隣り合わなければ 2 辺は交わらず、隣り合えば共通の頂点は $V$ でないので $U$ であり、隣り合う 2 辺は共通の頂点だけで交わる。$VW$ についても同じである。

頂点 $V$ の選び方. $P$ の頂点のうち $y$ 座標が最小で、その中で $x$ 座標が最小のものを $V$ とし、$V$ に隣り合う頂点を $U$、$W$ とする。$U$、$W$ はどちらも $V$ より上にあるか、$V$ と同じ高さで右にあり、両方が $V$ の真右にあることはない(そうなら 2 辺 $VU$、$VW$ が $V$ 以外でも交わる)。したがって $U,V,W$ は一直線上になく、$\angle UVW<180^\circ$ であり、角 $\angle UVW$ の内側は直線 $y=y_V$ 以上にある。直線 $y=y_V$ より下の開いた半平面は連結で有界でなく、$\partial P$ と交わらないので、(J) により外部に含まれる(内部は有界)。(a) により $V$ を含む辺は $VU$、$VW$ だけなので、$V$ を中心とする十分小さな開円板 $D$ では、$\partial P\cap D$ はこの 2 辺の部分だけからなる。$D$ から 2 辺を除くと 2 つの開いた扇形に分かれ、それぞれは連結なので (J) により内部か外部の一方に含まれる。$V$ の近くには内部の点があるので、少なくとも一方の扇形は内部に含まれる。$V$ の真下の点を含む扇形は外部に含まれるので、角 $\angle UVW$ の内側の扇形が内部に含まれる。

高さの関数. $U,V,W$ は一直線上にないので、$h(V)=0$、$h(U)=h(W)=1$ を満たす 1 次関数 $h(x,y)=ax+by+c$ がただ 1 つある。$h(p)$ は、$V$ を通り直線 $UW$ に平行な直線から $p$ までの距離を、直線 $UW$ の側を正として測ったものに比例する。$\Delta$ を閉じた三角形 $UVW$ とすると、$\Delta$ 上で $0\leq h\leq1$ であり、$\Delta$ の点で $h=0$ となるのは $V$ だけである。$0< t\leq1$ に対して $\Delta_t:=\{p\in\Delta:h(p)\leq t\}$ とおく。これは $V$ と、辺 $VU$、$VW$ 上の各 1 点を頂点とする閉じた三角形で($\Delta_1=\Delta$)、その周は、辺 $VU$、$VW$ に含まれる 2 辺と、直線 $h=t$ 上の 1 辺からなる。

主張. $0< t\leq1$ とし、$\Delta_t$ に含まれる頂点で $h< t$ を満たすものが $V$ だけであるとする。このとき、どの辺も $\Delta_t$ の内部と交わらない。

主張の証明:辺 $e$ が $\Delta_t$ の内部の点 $p$ を含むとする。辺 $VU$、$VW$ は $\Delta_t$ の周の 2 辺を含む直線の上にあるので $\Delta_t$ の内部と交わらず、$e$ はこれら以外である。$h$ は $e$ 上で 1 次関数なので、$e$ の端点 $A$ で、線分 $pA$ 上で常に $h\leq h(p)< t$ となるものがある($p$ が端点なら $A=p$)。線分 $pA$ は $\Delta_t$ の周と交わらない。実際、周のうち直線 $h=t$ 上の辺とは $h$ の値から交わらない。辺 $VU$、$VW$ とは、(b) により $U$ または $W$ でしか交わりえないが、$h(U)=h(W)=1>h(p)$ なので $U$、$W$ は線分 $pA$ 上にない。$\Delta_t$ は凸なので、その内部の点から出て周と交わらない線分は内部にとどまり、$A$ は $\Delta_t$ の内部にある。$V$ は $\Delta_t$ の周上にあるので $A\neq V$ であり、$A$ は $\Delta_t$ に含まれ $h(A)< t$ を満たす $V$ 以外の頂点となって、仮定に反する。

以下、$\Delta$ に含まれる頂点のうち $U,V,W$ 以外のものの集合を $S$ とする。

場合 1:$S$ が空の場合、線分 $UW$ が対角線であることを示す。頂点が 4 個以上なので、$U$ と $W$ は隣り合わない(隣り合えば $P$ は三角形 $UVW$ である)。$\Delta=\Delta_1$ に含まれる頂点で $h<1$ を満たすものは $V$ だけなので、主張により、どの辺も $\Delta$ の内部と交わらない。次に、ある辺 $e$ が線分 $UW$ の両端以外の点 $p$ を含むとする。辺 $VU$、$VW$ は直線 $UW$ と $U$、$W$ でしか交わらないので、$e$ はこれら以外である。$p$ は $\Delta$ に含まれる $U,V,W$ 以外の点なので、$S$ が空であることから $e$ の端点ではない。$e$ が直線 $UW$ 上になければ、$e$ は $p$ でこの直線を横切るので、$p$ の近くにある $e$ の点のうち直線 $UW$ に関して $V$ の側にあるものは $\Delta$ の内部にあり、上で示したことに反する。$e$ が直線 $UW$ 上にあれば、$e$ は $p$ を含み、端点はどちらも線分 $UW$ の両端以外の点ではない($S$ が空)ので、$e$ は線分 $UW$ 全体を含む。(a) により $U$、$W$ は $e$ の端点であり、$e=UW$ となって、$U$ と $W$ が隣り合わないことに反する。以上より、$\Delta$ の内部と線分 $UW$ の両端以外の点を合わせた集合 $K$ は $\partial P$ と交わらない。$K$ は凸なので連結であり、$V$ の近くで角 $\angle UVW$ の内側の点を含むので、(J) と $V$ の選び方の段落により、$K$ 全体が $P$ の内部に含まれる。よって $UW$ は対角線である。

場合 2:$S$ が空でない場合。$S$ の中で $h$ が最小のもの(直線 $UW$ から最も遠いもの)$X$ を 1 つ選び、$t:=h(X)$ とおく。$X\neq V$ なので $t>0$ である。(a) により $X$ は辺 $VU$、$VW$ 上になく、したがって $X$ は $\Delta$ の内部にあるか、線分 $UW$ の両端以外の点である(後者は $t=1$ のときに限る)。$\Delta_t$ に含まれる頂点で $h< t$ を満たすものは、$X$ の選び方と $h(U)=h(W)=1\geq t$ により $V$ だけなので、主張により、どの辺も $\Delta_t$ の内部と交わらない。線分 $VX$ の両端以外の点 $p$ は、ある $s$($0< s<1$)により $p=V+s(X-V)$ と書けて $h(p)=st< t$ を満たし、$X$ の位置から $\Delta$ の内部にあるので、$\Delta_t$ の内部にある。よって線分 $VX$ の両端以外の点は $\partial P$ と交わらない。この部分は連結で、$V$ の近くでは角 $\angle UVW$ の内側にあるので、(J) と $V$ の選び方の段落により $P$ の内部に含まれる。$V$ に隣り合う頂点は $U$、$W$ だけなので $X$ は $V$ に隣り合わず、$VX$ は対角線である。

頂点の個数 $n$ に関する数学的帰納法で示す。$n=3$ のときは prop-pick-triangle である。$n\geq4$ とし、頂点が $n$ 個未満の格子多角形については定理が成り立つとする。lem-pick-diagonal により $P$ には対角線 $D$ がある。$D$ は $P$ を 2 つの単純多角形 $P_1$、$P_2$ に分け、その頂点は $P$ の頂点なので $P_1$、$P_2$ は格子多角形である。$P_1$、$P_2$ の頂点の個数を $n_1$、$n_2$ とすると、$D$ の両端が両方で数えられるので $n_1+n_2=n+2$ であり、$n_1,n_2\geq3$ から $n_1,n_2\leq n-1$ である。帰納法の仮定により $P_1$、$P_2$ は定理の等式を満たし、lem-pick-additivity($\Gamma=D$)により $P$ も満たす。

帰結

面積は $\frac{1}{2}$ の整数倍

格子多角形の面積は $1/2$ の整数倍である。特に、頂点以外に格子点を含まない格子三角形(内部にも辺の上にも頂点以外の格子点がない三角形)の面積は $1/2$ である。

thm-pick-main により $2\operatorname{Area}(P)=2I(P)+B(P)-2$ は整数である。頂点以外に格子点を含まない三角形では $I=0$、$B=3$ なので、面積は $0+3/2-1=1/2$ である。

格子点を頂点とする正三角形は存在しない

3 つの頂点がすべて格子点である正三角形は存在しない。

そのような正三角形があったとし、1 辺の長さを $s$ とする。2 つの格子点の距離の平方は、三平方の定理による距離の公式から整数なので、$s^2$ は正の整数である。正三角形の面積は $\frac{\sqrt3}{4}s^2$ であり、$\sqrt3$ は無理数なので、これは無理数である。一方 cor-pick-half-integer により面積は有理数であり、矛盾する。

この系は Bruckner–Thomson–Bruckner の PDF 版の問題 71(p. 80、解答 p. 117)BTB11 にある。空間では、$(1,0,0)$、$(0,1,0)$、$(0,0,1)$ のように格子点を頂点とする正三角形が存在するので、「平面の」格子点であることが効いている。

例と反例

分割による確認

頂点が $(0,0)$、$(5,1)$、$(2,4)$ の三角形では、lem-pick-segment により辺の上の格子点は $\gcd(5,1)+\gcd(3,3)+\gcd(2,4)=1+3+2=6$ 個で $B=6$、内部の格子点は $I=7$ 個である。$f=7+3-1=9$ であり、囲む長方形 $[0,5]\times[0,4]$ の面積 $20$ から 3 つの直角三角形の面積 $\frac52$、$\frac92$、$4$ を引いた $20-11=9$ に一致する。これは prf-pick-triangle の場合 2 の計算そのものである。

反例:穴のある図形

正方形 $[0,3]\times[0,3]$ から、内側の正方形 $[1,2]\times[1,2]$ の内部を取り除いた図形 $G$ を考える。$G$ の面積は $9-1=8$ である。$G$ の境界は外側の正方形の周(格子点 12 個)と内側の正方形の周(格子点 4 個)からなるので $B=16$、境界以外で $G$ に属し境界上にない格子点はないので $I=0$ であり、$I+B/2-1=7\neq8$ である。$G$ の頂点はすべて格子点だが、境界が 1 つの閉じた折れ線ではない(穴がある)ので単純多角形でなく、定理の結論が破れる。

穴があっても、補正を加えれば同じ形の式が成り立つ。

穴のある領域に対する公式

$P$ を格子多角形、$H_1,\dots,H_h$ を $P$ の内部に含まれる格子多角形とし、閉じた領域 $H_1,\dots,H_h$ はどの 2 つも共通点をもたないとする。$P$ から各 $H_i$ の内部を取り除いた領域を $G$ とし、$G$ の境界 $\partial P\cup\partial H_1\cup\dots\cup\partial H_h$ 上の格子点の個数を $B(G)$、$G$ に属し境界上にない格子点の個数を $I(G)$ とすると
$$ \operatorname{Area}(G)=I(G)+\frac{B(G)}{2}-1+h $$
である。

$I_i:=I(H_i)$、$B_i:=B(H_i)$ とおく。$P$ の内部の格子点は、$G$ の境界上にない点、いずれかの $H_i$ の内部の点、いずれかの $\partial H_i$ 上の点のどれか 1 つに当たるので $I(P)=I(G)+\sum_i(I_i+B_i)$ であり、$B(G)=B(P)+\sum_iB_i$ である。thm-pick-main を $P$ と各 $H_i$ に使うと
$$ \operatorname{Area}(G)=\operatorname{Area}(P)-\sum_{i=1}^h\operatorname{Area}(H_i)=\Bigl(I(P)+\frac{B(P)}{2}-1\Bigr)-\sum_{i=1}^h\Bigl(I_i+\frac{B_i}{2}-1\Bigr) $$
であり、$I(P)$ と $B(P)$ を書き換えると
$$ \operatorname{Area}(G)=I(G)+\sum_i(I_i+B_i)+\frac{B(G)-\sum_iB_i}{2}-1-\sum_iI_i-\sum_i\frac{B_i}{2}+h=I(G)+\frac{B(G)}{2}-1+h $$
となる。

ex-pick-hole では $h=1$ で、$0+8-1+1=8$ となる。この公式は Bruckner–Thomson–Bruckner の PDF 版の問題 64・65(p. 74、解答 pp. 110–113)BTB11 にある。

反例:頂点が格子点でない多角形

頂点が $(\pm\frac12,\pm\frac12)$ の正方形は面積 $1$ で、内部の格子点は原点の 1 個、周上の格子点は $0$ 個なので、$I+B/2-1=0\neq1$ である。この正方形は単純多角形であるが「頂点が格子点」を満たさず、定理の結論が破れる。

反例:3次元のReeveの四面体

正の整数 $r$ に対し、空間の 4 点 $(0,0,0)$、$(1,0,0)$、$(0,1,0)$、$(1,1,r)$ を頂点とする四面体 $T_r$ を考える。底面の三角形の面積は $1/2$、高さは $r$ なので体積は $r/6$ である。

$T_r$ に含まれる格子点は 4 つの頂点だけである。実際、$T_r$ の点は $t_0,t_1,t_2,t\geq0$、$t_0+t_1+t_2+t=1$ として $(t_1+t,\ t_2+t,\ rt)$ と書ける。これが格子点 $(x,y,k)$ なら $t=k/r$ で、$0< k< r$ とすると $0< t<1$ である。$x=t_1+t$ は $0< x\leq1$ を満たす整数なので $x=1$、$t_1=1-t$ となり、$t_0+t_2=0$ から $t_2=0$、$y=t$ は整数でなくなって矛盾する。$k=0$ なら $t=0$ で点は底面の三角形にあり、その格子点は 3 頂点だけであり、$k=r$ なら $t=1$ で点は $(1,1,r)$ である。

したがって $T_r$ の内部の格子点の個数は $0$、表面の格子点の個数は $4$ で $r$ によらないが、体積 $r/6$ は $r$ とともにいくらでも大きくなる。よって空間の格子多面体の体積を、内部と表面の格子点の個数だけで表す Pick 型の公式は存在しない。この例は Reeve による Ree57(Bruckner–Thomson–Bruckner の PDF 版の問題 73、p. 80、解答 p. 118 BTB11 も参照)。

補足

別の証明と歴史

Pick の定理には、頂点以外に格子点を含まない三角形への分割(格子点をすべて頂点とする三角形分割)と平面グラフの Euler の公式を組み合わせる証明(Bruckner–Thomson–Bruckner の PDF 版の §2.5、p. 65 BTB11 が第 2 巻でグラフ理論と Euler の定理により再訪すると予告し、§2.6.3、p. 67 がそのような三角形分割を論じている)もある。Minkowskiの格子点定理を用いる別証明は Murty–Thain MT07 にある。

Pick の原論文は 1899 年にプラハで発表された Pic99。Bruckner–Thomson–Bruckner の PDF 版の §2.6.1(p. 66)BTB11 に引かれた Murty–Thain の文章によれば、この公式が広く知られるようになったのは、Steinhaus の本 Mathematical Snapshots で紹介された 1969 年以後である。

関連項目

参考文献

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