楕円曲面

同義語:elliptic surface

概要

楕円曲面(elliptic surface)とは、曲面 $X$ から曲線 $C$ への全射 $f$ で $f_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_C$ をみたし、一般のファイバーが滑らかな種数 $1$ の曲線になるもの(楕円ファイブレーション)をもつ曲面である。ファイバーに $(-1)$ 曲線を含まない相対極小なものでは、可約なファイバーの成分はすべて自己交点数 $-2$ の射影直線であり、成分の配置は拡大 Dynkin 図形に限られる(小平邦彦による特異ファイバーの分類)。複素数体上の相対極小な楕円曲面では $K_X^2=0$、$e(X)=12\chi(\mathcal{O}_X)$ が成り立つ。有理楕円曲面・K3 曲面の一部・Enriques 曲面などが例で、小平次元が $1$ の極小曲面は楕円曲面である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数曲面, 楕円曲線, 重複ファイバー, 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理, 標準因子

楕円曲面(elliptic surface)とは、曲線への射で、一般のファイバーが滑らかな種数 $1$ の曲線(楕円曲線)になるものをもつ曲面である。ファイバーが楕円曲線の族として動き、有限個の点の上でだけ特異なファイバーに退化する。特異なファイバーの形は、相対極小という条件のもとで小平邦彦(Kunihiko Kodaira)が完全に分類した(小平の特異ファイバーの分類)。
楕円曲面は曲面の分類の中で大きな位置を占める。有理曲面の一部、K3曲面 の一部、Enriques曲面(複素数体上ではすべて。BHPV04 VIII.17.7)、アーベル曲面の一部が楕円ファイブレーションをもち、Enriques–小平の分類では小平次元が $1$ の極小曲面は「極小な真の楕円曲面」の類をなす(BHPV04 VI 章 Table 10、p. 244)。代数的でないコンパクト複素曲面にも楕円曲面があり、Hopf曲面 の一部はその例である。
この記事では、楕円ファイブレーションを定義し、平面 3 次曲線の束から有理楕円曲面を作る。ファイバーの成分の交点形式についての Zariski の補題を証明し、そこから、可約なファイバーの成分がすべて自己交点数 $-2$ の射影直線であることを導く。小平の分類表を Euler 数とともに示し、複素数体上の相対極小な楕円ファイブレーションでは標準因子の平方が $0$ で、Euler 数が $12\chi(\mathcal{O}_X)$ に等しいことを示す。

定義

以下、$k$ は代数閉体とし、曲面は $k$ 上の滑らかで連結な射影曲面(代数曲面)、曲線は $k$ 上の滑らかで連結な射影曲線とする。

楕円ファイブレーションと楕円曲面

曲面 $X$ から曲線 $C$ への射 $f\colon X\to C$ がファイブレーションであるとは、$f$ が全射で $f_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_C$ をみたすことをいう。ファイブレーション $f$ が楕円ファイブレーションであるとは、$C$ の空でない開集合 $U$ があって、$p\in U$ の上のファイバー $X_p=f^{-1}(p)$ がすべて滑らかな種数 $1$ の曲線になることをいう。楕円ファイブレーションをもつ曲面を楕円曲面という。
楕円ファイブレーション $f$ が相対極小であるとは、どのファイバーも $(-1)$ 曲線(自己交点数 $-1$ の射影直線。Castelnuovoの収縮定理 の定義「$(-1)$ 曲線」)を含まないことをいう。

この定義は 重複ファイバー の定義「曲面の曲線へのファイブレーション」と同じである。そこで示されているとおり、$f$ は平坦で、すべてのファイバーは空でなく連結であり、閉点 $p$ の上のファイバーを因子 $f^*(p)=\sum_ia_iC_i$($a_i\ge1$、$C_i$ は既約曲線)と見ると、

  • $f^*(p)$ はすべて数値的に同値で、その類を $F$ と書く(ファイバーの類)。
  • 垂直な曲線(ファイバーに含まれる既約曲線)$D$ について $F\cdot D=0$、とくに $F^2=0$ である。
  • 水平な既約曲線 $D$ について $F\cdot D=\deg(f|_D)$ である。
    (重複ファイバー の命題「ファイバーの連結性と交点数」。)係数の最大公約数 $m$ が $2$ 以上のファイバー $f^*(p)=mF_p$ を重複ファイバーという。
    複素数体上では、同じ定義をコンパクト複素曲面に課したものも楕円曲面と呼ぶ。すなわち、コンパクト連結な $2$ 次元複素多様体 $X$ から Riemann 面 $S$ への固有な正則写像で、ファイバーが連結で、一般のファイバーが楕円曲線になるものをもつ $X$ である(BHPV04 V 章、p. 200)。この意味の楕円曲面は代数的とは限らない(Hopf曲面)。
    文献によっては、楕円曲面に切断 $\sigma\colon C\to X$($f\circ\sigma=\mathrm{id}_C$)の存在を課すことがある。この記事では課さない。切断をもつ楕円ファイブレーションは重複ファイバーをもたない(重複ファイバー の命題「水平曲線の次数と切断の非存在」)。

直感

楕円曲線は格子による複素平面の商 $\mathbb{C}/(\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\tau)$ であり、周期の比 $\tau$ が楕円曲線の形を決める。楕円曲面は、底の曲線の点 $s$ ごとに周期 $\tau(s)$ を動かした族で、$\tau(s)$ が上半平面の境界へ逃げる点や、周期が多価になる点の上でファイバーが退化する。退化したファイバーは一般のファイバーと同じ「交点数 $0$」の条件を受け継ぐので、成分の交点の仕方が強く制限され、その組合せは拡大 Dynkin 図形として現れる。これが小平の分類の背後にある仕組みで、下の thm-es-components がその中心の一歩である。

例

積

$E$ を楕円曲線、$C$ を曲線とすると、第 2 射影 $E\times C\to C$ は楕円ファイブレーションで、すべてのファイバーが $E$ に同型である。第 1 射影の切断が各点 $e\in E$ ごとに $\{e\}\times C$ として与えられる。$C$ も楕円曲線なら、$E\times C$ は 2 通りの楕円ファイブレーションをもつ。

楕円曲線と曲線の積を有限群で割ると、重複ファイバーをもつ楕円曲面ができる(重複ファイバー の命題「楕円曲線と曲線の積の商による構成」と例「双楕円曲面の楕円ファイブレーション」)。次の例は、射影平面から作る楕円曲面である。

3 次曲線の束から作る有理楕円曲面

$C_0=V(G_0)$、$C_\infty=V(G_\infty)$ を $\mathbb{P}^2$ の滑らかな 3 次曲線で、相異なる $9$ 点 $p_1,\dots,p_9$ で横断的に交わるものとする。$X$ を $\mathbb{P}^2$ を $p_1,\dots,p_9$ でブローアップした曲面、$\pi\colon X\to\mathbb{P}^2$ をその射、$E_1,\dots,E_9$ を例外曲線、$H$ を直線の類とする。このとき次が成り立つ。

  1. 有理写像 $[G_0:G_\infty]\colon\mathbb{P}^2\dashrightarrow\mathbb{P}^1$ は射 $f\colon X\to\mathbb{P}^1$ に延び、$f$ は楕円ファイブレーションである。$[\lambda:\mu]$ の上のファイバーは 3 次曲線 $C_{[\lambda:\mu]}:=V(\mu G_0-\lambda G_\infty)$ の固有変換で、$C_{[\lambda:\mu]}$ に同型である。
  2. ファイバーの類は $F=3\pi^*H-\sum_{i=1}^9E_i$ で、$K_X=-F$ である。
  3. $f$ は相対極小で、各 $E_i$ は $f$ の切断の像である。
  4. $\chi(\mathcal{O}_X)=1$、$K_X^2=0$ である。

1.束の 2 つの相異なる元 $C_s,C_t$ は $C_0$ と $C_\infty$ の 1 次結合を取り替えたものなので、スキームとしての交わり $C_s\cap C_t$ は $C_0\cap C_\infty$ に等しく、被約な $9$ 点 $p_1,\dots,p_9$ である。とくに $\mathbb{P}^2\setminus\{p_1,\dots,p_9\}$ の各点はちょうど 1 つの $C_t$ に乗り、そこでは $[G_0:G_\infty]$ は射である。
点 $p_i$ を固定し、$p_i$ で $0$ にならない 1 次形式 $\ell$ をとって $u:=G_0/\ell^3$、$v:=G_\infty/\ell^3$ とおく。$C_0$ と $C_\infty$ が $p_i$ で横断的に交わるので、$du,dv$ は $p_i$ で 1 次独立であり、$u,v$ は $p_i$ の局所座標である。$p_i$ のブローアップは、この座標で $v=us$ の座標近傍と $u=vs'$ の座標近傍で覆われ、それぞれの上で $[G_0:G_\infty]=[u:v]=[1:s]=[s':1]$ は射である。よって $[G_0:G_\infty]$ は射 $f\colon X\to\mathbb{P}^1$ に延び、$E_i$ の上では $f$ は傾き $s$ を与える同型 $E_i\to\mathbb{P}^1$ である。
$\mu G_0-\lambda G_\infty$ は $p_i$ で微分 $\mu\,du-\lambda\,dv\ne0$ をもつので、束のどの元 $C_t$ も $p_i$ で滑らかで、その重複度は $1$ である。したがって $\pi^*C_t=\tilde C_t+\sum_iE_i$($\tilde C_t$ は固有変換)であり、$\tilde C_t\to C_t$ は同型である(滑らかな点での爆発は曲線の固有変換を変えない)。一方 $f^{-1}(t)$ は $\tilde C_t$ に等しいから、$f^*(t)=\tilde C_t$ である($f^*(t)$ の局所方程式は $p_i$ の外で $\mu G_0-\lambda G_\infty$ の比、$E_i$ の近くで $s-s_0$ の形で、どちらも被約な $\tilde C_t$ を定める)。
$C_0$ が滑らかなので、$t$ が $\mathbb{P}^1$ の空でない開集合を動くとき $C_t$ は滑らかな平面 3 次曲線、すなわち種数 $1$ の曲線である(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の系「随伴公式」から $2g-2=9-9=0$)。$f$ は全射である。$f_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}$ を示す。$f$ の Stein分解 を $X\xrightarrow{f'}C'\xrightarrow{q}\mathbb{P}^1$ とすると、$C'$ は正規な整曲線で $q$ は有限である。$E_1$ が与える切断 $\sigma\colon\mathbb{P}^1\to X$($f\circ\sigma=\mathrm{id}$)から $q\circ(f'\circ\sigma)=\mathrm{id}$ なので、$q$ は次数 $1$ の有限射で、正規な曲線の間の双有理な有限射だから同型である。よって $f_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}$ で、$f$ は楕円ファイブレーションである。
2.$f^*(t)=\tilde C_t=\pi^*C_t-\sum_iE_i$ で $C_t\sim3H$ だから $F=3\pi^*H-\sum_iE_i$ である。爆発の標準因子の公式(Har77 V.3.3)により $K_X=\pi^*K_{\mathbb{P}^2}+\sum_iE_i=-3\pi^*H+\sum_iE_i=-F$ である。
3.垂直な既約曲線 $Z$ について $K_X\cdot Z=-F\cdot Z=0$ である。$(-1)$ 曲線 $Z$ は随伴公式により $K_X\cdot Z=-2-Z^2=-1$ をみたすので、ファイバーに $(-1)$ 曲線はない。$E_i$ が切断の像であることは 1 で示した。
4.爆発で $H^i(\mathcal{O})$ は変わらない(Har77 V.3.4)ので $\chi(\mathcal{O}_X)=\chi(\mathcal{O}_{\mathbb{P}^2})=1$ である。$K_X^2=F^2=0$ である。$\square$

$k=\mathbb{C}$ なら $X$ の Euler 数は $e(\mathbb{P}^2)+9=12=12\chi(\mathcal{O}_X)$ であり、下の thm-es-noether と合っている。同じ定理から、特異なファイバーがすべて結節をもつ 3 次曲線(小平の型 $\mathrm{I}_1$、Euler 数 $1$)なら、その本数はちょうど $12$ である。$\mathbb{P}^1$ 上の楕円曲面で切断をもち $\chi(\mathcal{O}_X)=1$ のものを有理楕円曲面という。
ほかの代表的な例は、K3曲面 の楕円ファイブレーション、Enriques曲面 の楕円ファイブレーション(標数 $0$ では重複度 $2$ の重複ファイバーがちょうど 2 本ある。重複ファイバー の命題「Enriques 曲面の楕円ファイブレーションの重複ファイバー」)、Weierstrass 方程式で与えられる切断つきの楕円曲面(重複ファイバー の例「反例:切断をもつ楕円曲面」)である。

ファイバーの成分

Zariski の補題

ファイバーの成分どうしの交点数は、ファイバー全体との交点数が $0$ であることから強い制約を受ける。

Zariski の補題

$f\colon X\to C$ をファイブレーション、$p\in C$ を閉点とし、$f^*(p)=\sum_{i=1}^ra_iC_i$($a_i\ge1$、$C_i$ は相異なる既約曲線)とする。有理数 $x_1,\dots,x_r$ について $D=\sum_ix_iC_i$ とおくと(交点数は $\mathbb{Q}$ 係数へ双線形に延ばす)、
$$ D^2\le0 $$
であり、等号が成り立つのは $D=c\,f^*(p)$($c\in\mathbb{Q}$)のときに限る。とくに $r\ge2$ なら、各成分について $C_i^2<0$ である。

$M_{ij}:=C_i\cdot C_j$ とおく。$i\ne j$ なら $C_i$ と $C_j$ は共通成分をもたないので $M_{ij}\ge0$ であり、$M_{ij}>0$ となるのは $C_i\cap C_j\ne\emptyset$ のときに限る(交わりの点ごとの局所交点数は正。Har77 V.1.4)。垂直な曲線との交点数は $0$ なので、各 $i$ について
$$ \sum_{j=1}^rM_{ij}a_j=f^*(p)\cdot C_i=0 $$
である。$y_i:=x_i/a_i$ とおく。上の式に $a_iy_i^2$ を掛けて $i$ について足すと $\sum_{i,j}a_ia_jM_{ij}y_i^2=0$ なので、
$$ D^2=\sum_{i,j}a_ia_jM_{ij}y_iy_j=\sum_{i,j}a_ia_jM_{ij}\Bigl(y_iy_j-\frac{y_i^2+y_j^2}{2}\Bigr)=-\frac12\sum_{i\ne j}a_ia_jM_{ij}(y_i-y_j)^2 $$
となる(2 つ目の等号では、引いた項 $\sum_{i,j}a_ia_jM_{ij}y_i^2$ が $0$ であることと $M_{ij}=M_{ji}$ を使った。$i=j$ の項は $y_i-y_j=0$ で消える)。$a_ia_jM_{ij}\ge0$ なので $D^2\le0$ である。
等号は、$M_{ij}>0$ となるすべての組で $y_i=y_j$ のときに成り立つ。成分を頂点とし、交わる成分の組を辺とするグラフを考える。このグラフが連結でなければ、成分を 2 つの空でない組に分けて、組をまたぐ成分が交わらないようにでき、ファイバーの台 $f^{-1}(p)$ が 2 つの空でない互いに素な閉集合の和になる。ファイバーは連結(重複ファイバー の命題「ファイバーの連結性と交点数」の 1)なので、グラフは連結である。したがって等号はすべての $y_i$ が等しいとき、すなわち $D=y_1\,f^*(p)$ のときに限る。逆に $f^*(p)^2=0$ である。
$r\ge2$ のとき、$D=C_i$ は $f^*(p)$ の有理数倍でない($f^*(p)$ はほかの成分 $C_j$ を正の係数で含むが $C_i$ は含まない)ので、$C_i^2<0$ である。$\square$

可約なファイバーの成分

可約なファイバーの成分は $(-2)$ 曲線

$f\colon X\to C$ を相対極小な楕円ファイブレーション、$f^*(p)=\sum_{i=1}^ra_iC_i$ を $r\ge2$ 個の成分をもつファイバーとする。このとき各成分 $C_i$ は射影直線に同型で、$C_i^2=-2$、$K_X\cdot C_i=0$ をみたす。また、すべてのファイバーについて $K_X\cdot f^*(p)=0$ である。

一般のファイバー $F_0$ は滑らかな種数 $1$ の曲線で $F_0^2=0$ だから、随伴公式(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の系「随伴公式」)により $0=2\cdot1-2=F_0^2+K_X\cdot F_0=K_X\cdot F_0$ である。すべてのファイバーは数値的に同値なので、$K_X\cdot f^*(p)=0$ である。
各成分 $C_i$ について $K_X\cdot C_i\ge0$ を示す。随伴公式により
$$ K_X\cdot C_i=2p_a(C_i)-2-C_i^2 $$
であり、lem-es-zariski により $C_i^2\le-1$ である。$p_a(C_i)\ge1$ なら $K_X\cdot C_i\ge-C_i^2\ge1$ である。$p_a(C_i)=0$ なら、既約曲線の算術種数が $0$ であることから $C_i\cong\mathbb{P}^1$ である(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の命題「算術種数と正規化の種数」)。$C_i^2=-1$ なら $C_i$ はファイバーに含まれる $(-1)$ 曲線となり、相対極小に反するので、$C_i^2\le-2$ で $K_X\cdot C_i=-2-C_i^2\ge0$ である。いずれの場合も $K_X\cdot C_i\ge0$ であり、等号は $p_a(C_i)=0$ かつ $C_i^2=-2$ のときに限る。
一方
$$ 0=K_X\cdot f^*(p)=\sum_{i=1}^ra_i\,(K_X\cdot C_i) $$
で、$a_i\ge1$、各項は $0$ 以上だから、すべての $i$ で $K_X\cdot C_i=0$ である。したがって各 $C_i$ は射影直線で $C_i^2=-2$ である。$\square$

thm-es-components の証明で相対極小を使ったのは、$C_i^2=-1$ かつ $p_a(C_i)=0$ の場合を除くところだけである。既約なファイバー $f^*(p)=aC$ についても同じ式から $K_X\cdot C=0$ であり、重複ファイバーでなければ($a=1$)$p_a(C)=1-\chi(\mathcal{O}_{X_p})=1$ である(ファイバーの $\chi(\mathcal{O})$ は一定で、一般のファイバーでは $0$)。正規化の種数が $1$ なら $C$ は滑らかな楕円曲線、$0$ なら特異点の寄与が $1$ で、$C$ は結節を 1 つもつ有理曲線か尖点を 1 つもつ有理曲線である(BHPV04 V.7 の (a)、p. 200)。

小平の分類

成分の交点の仕方は、lem-es-zariski と thm-es-components によって、自己交点数 $-2$ の頂点からなる半負定値なグラフに制限される。そのようなグラフを数え上げると、拡大 Dynkin 図形 $\tilde A_n$、$\tilde D_n$、$\tilde E_6$、$\tilde E_7$、$\tilde E_8$ が得られ、次の表になる。

小平の特異ファイバーの分類

$k=\mathbb{C}$ とし、$f\colon X\to\Delta$ を単位円板上の相対極小な楕円ファイブレーションで、$0$ 以外のファイバーが滑らかなものとする。重複ファイバーでないなら、$X_0$ は次の表のいずれかの型である。重複ファイバーなら $X_0=mX_0'$ で、$X_0'$ は型 $\mathrm{I}_b$($b\ge0$)であり、型を ${}_m\mathrm{I}_b$ と書く。

分類の出典

この定理はこの記事では証明しない(BHPV04 V.7、Table 3、pp. 200–202。同書は分類を小平邦彦の 1960 年代の論文に帰している)。重複ファイバーでない可約なファイバーについて、証明の第一歩は thm-es-components であり、そこから双対グラフの交点形式が半負定値で核が $1$ 次元になることを使って拡大 Dynkin 図形を数え上げる。重複ファイバーの $X_0'$ が $\mathrm{I}_b$ 型に限られることは 重複ファイバー の定理「tame と wild の構造」の 4 でもある。

型ファイバーの形成分の数双対グラフEuler 数
$\mathrm{I}_0$滑らかな楕円曲線$1$—$0$
$\mathrm{I}_1$結節を 1 つもつ有理曲線$1$—$1$
$\mathrm{I}_b$($b\ge2$)$b$ 本の $(-2)$ 曲線の輪$b$$\tilde A_{b-1}$$b$
$\mathrm{II}$尖点を 1 つもつ有理曲線$1$—$2$
$\mathrm{III}$1 点で接する 2 本の $(-2)$ 曲線$2$$\tilde A_1$$3$
$\mathrm{IV}$1 点を通る 3 本の $(-2)$ 曲線$3$$\tilde A_2$$4$
$\mathrm{I}_b^*$($b\ge0$)木の形の $(-2)$ 曲線$b+5$$\tilde D_{b+4}$$b+6$
$\mathrm{II}^*$木の形の $(-2)$ 曲線$9$$\tilde E_8$$10$
$\mathrm{III}^*$木の形の $(-2)$ 曲線$8$$\tilde E_7$$9$
$\mathrm{IV}^*$木の形の $(-2)$ 曲線$7$$\tilde E_6$$8$
${}_m\mathrm{I}_b$($m\ge2$)$m$ 倍の $\mathrm{I}_b$$\max(b,1)$$\mathrm{I}_b$ と同じ$b$
Euler 数の数え方

位相的な Euler 数は、空間を閉部分空間に分けたとき包除で計算できる。射影直線(2 次元球面)の Euler 数は $2$ である。$n$ 本の射影直線が木の形に、相異なる $n-1$ 個の点で 1 点ずつ横断的に交わると、Euler 数は $2n-(n-1)=n+1$ である。これで $\mathrm{I}_b^*$、$\mathrm{II}^*$、$\mathrm{III}^*$、$\mathrm{IV}^*$ が出る。$\mathrm{I}_b$($b\ge2$)は $b$ 本が輪になって $b$ 個の点で交わるので $2b-b=b$、$\mathrm{I}_1$ は球面の 2 点を 1 点に貼ったものなので $2-1=1$、$\mathrm{II}$ は尖点で位相的には球面なので $2$、$\mathrm{III}$ は 2 本が 1 点で交わるので $4-1=3$、$\mathrm{IV}$ は 3 本が共通の 1 点で交わるので $6-2=4$ である。重複ファイバーの Euler 数は台の Euler 数で、$\mathrm{I}_b$ と同じ $b$ である。滑らかな楕円曲線(トーラス)の Euler 数は $0$ である。

表の型のうち $\mathrm{III}$、$\mathrm{IV}$、$\mathrm{I}_b^*$、$\mathrm{II}^*$、$\mathrm{III}^*$、$\mathrm{IV}^*$ のファイバーは、成分の係数(重複度)が拡大 Dynkin 図形の各頂点に付く最小の正の解(交点行列の核を張るベクトル)になっている。これは lem-es-zariski の等号の条件、すなわち $f^*(p)$ が交点形式の核を張ることの現れである。

標準因子と Euler 数

この節では $k=\mathbb{C}$ とし、$f\colon X\to C$ を相対極小な楕円ファイブレーション、$g$ を $C$ の種数、$m_1F_1,\dots,m_rF_r$ を重複ファイバーの全体とする。標準束公式(重複ファイバー の定理「楕円曲面の標準束公式」。標数 $0$ の形は小平による。この記事では証明しない)は
$$ K_X\sim f^*(K_C+L)+\sum_{i=1}^r(m_i-1)F_i\qquad(L\text{ は }C\text{ 上の次数 }\chi(\mathcal{O}_X)\text{ の因子}) $$
である。そこで
$$ \delta(f):=\chi(\mathcal{O}_X)+2g-2+\sum_{i=1}^r\Bigl(1-\frac1{m_i}\Bigr) $$
とおく。

標準因子の平方と Euler 数

上の設定で次が成り立つ。

  1. $K_X$ は $\mathbb{Q}$ 係数で $\delta(f)F$ に数値的に同値である。とくに $K_X^2=0$ である。
  2. $e(X)=12\chi(\mathcal{O}_X)=\sum_{s\in C}e(X_s)$ である(和は特異なファイバーについての有限和)。
  3. $\chi(\mathcal{O}_X)\ge0$ であり、$\chi(\mathcal{O}_X)=0$ となるのは、特異なファイバーがすべて ${}_m\mathrm{I}_0$ 型(台が滑らかな楕円曲線の重複ファイバー)のときに限る。
  4. $\delta(f)<0$ なら、すべての $n\ge1$ で $P_n(X):=\dim H^0(X,\omega_X^{\otimes n})=0$ である。

1.$C$ 上の因子 $D$ について、$f^*(D)$ は $\deg D$ 本のファイバーの和と数値的に同値なので $f^*(D)\equiv(\deg D)F$ である。$m_iF_i$ はファイバーなので $F_i\equiv\frac1{m_i}F$ である。標準束公式の両辺の数値的な類をとると、$\deg(K_C+L)=2g-2+\chi(\mathcal{O}_X)$ だから
$$ K_X\equiv\Bigl(2g-2+\chi(\mathcal{O}_X)+\sum_i\frac{m_i-1}{m_i}\Bigr)F=\delta(f)F $$
である。$F^2=0$ より $K_X^2=\delta(f)^2F^2=0$ である。
2.Noetherの公式 $12\chi(\mathcal{O}_X)=K_X^2+e(X)$ と 1 から $e(X)=12\chi(\mathcal{O}_X)$ である。一般のファイバー $X_{\mathrm{gen}}$ についてのファイブレーションの Euler 数の公式
$$ e(X)=e(X_{\mathrm{gen}})\,e(C)+\sum_{s\in C}\bigl(e(X_s)-e(X_{\mathrm{gen}})\bigr) $$
(BHPV04 III.11.4、p. 118。この記事では証明しない)に $e(X_{\mathrm{gen}})=0$(トーラス)を入れると $e(X)=\sum_se(X_s)$ を得る。
3.thm-es-kodaira の表で Euler 数はすべて $0$ 以上なので、2 から $\chi(\mathcal{O}_X)\ge0$ である。等号は、すべてのファイバーの Euler 数が $0$ のときに限り、表で Euler 数が $0$ の型は $\mathrm{I}_0$ と ${}_m\mathrm{I}_0$ だけである。
4.$X$ は射影的なので豊富な因子 $H$ がとれ、$F\cdot H>0$ である($F$ は $0$ でない有効因子の類)。$\omega_X^{\otimes n}$ が $0$ でない切断をもてば $nK_X$ は有効因子に線形同値で、$nK_X\cdot H\ge0$ である。一方 1 から $nK_X\cdot H=n\,\delta(f)\,F\cdot H<0$ なので矛盾する。$\square$

$P_n(X)$ を $X$ の $n$ 種数(plurigenus)といい、$P_n$ がすべて $0$ のとき小平次元 $\kappa(X)$ を $-\infty$、$P_n$ がすべて $0$ か $1$ で $0$ でないものがあるとき $\kappa(X)=0$ とする(一般には標準環の超越次数から $1$ を引いたもの。BHPV04 I.7、p. 29)。相対極小な楕円曲面について、$\kappa(X)\le1$ であり、$\kappa(X)=-\infty,0,1$ はそれぞれ $\delta(f)<0$、$=0$、$>0$ と同値である(BHPV04 V.12.5、p. 215。この記事では 4 の $\delta(f)<0\Rightarrow\kappa=-\infty$ だけを証明した)。

曲面と楕円ファイブレーション$\chi(\mathcal{O}_X)$$g$重複ファイバー$\delta(f)$$\kappa(X)$
$E\times\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^1$$0$$0$なし$-2$$-\infty$
有理楕円曲面(prop-es-cubic-pencil)$1$$0$なし$-1$$-\infty$
$E\times E'\to E'$$0$$1$なし$0$$0$
楕円 K3 曲面 $X\to\mathbb{P}^1$$2$$0$なし$0$$0$
Enriques 曲面 $X\to\mathbb{P}^1$$1$$0$$2F_1,2F_2$$0$$0$
$E\times C\to C$($g(C)\ge2$)$0$$g(C)$なし$2g(C)-2$$1$

積 $E\times C$ の $\chi(\mathcal{O})$ は Künneth の公式で $h^1(\mathcal{O})=1+g(C)$、$h^2(\mathcal{O})=g(C)$ から $0$ になる。K3 曲面の楕円ファイブレーションは重複ファイバーをもたない(重複ファイバー $m_iF_i$ があれば標準束公式から $K_X\sim f^*(K_{\mathbb{P}^1}+L)+\sum(m_i-1)F_i$、$\deg(K_{\mathbb{P}^1}+L)=0$ で、$\mathbb{P}^1$ 上の次数 $0$ の因子は主因子なので $0\sim K_X\sim\sum(m_i-1)F_i$ となり、$0$ でない有効因子が $0$ に線形同値になる)。楕円 K3 曲面では thm-es-noether の 2 から特異なファイバーの Euler 数の和は $24$ である。

反例:仮定を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
lem-es-zariski の「$f_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_C$」$q\colon C'\to C$ を次数 $2$ の分離的な射、$p\in C$ を分岐しない点で $q^{-1}(p)=\{p_1,p_2\}$、$X=E\times C'$、$f=q\circ\mathrm{pr}_2$$f^*(p)=E\times\{p_1\}+E\times\{p_2\}$ で、$D=E\times\{p_1\}$ は $D^2=0$ だが $f^*(p)$ の有理数倍でない
thm-es-components の「相対極小」$E\times\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^1$ のファイバー上の 1 点を爆発した曲面そのファイバーは $\tilde F+E_0$($E_0$ は例外曲線)で、$\tilde F^2=-1$、$\tilde F$ は種数 $1$、$E_0$ は $(-1)$ 曲線なので、成分は $(-2)$ 曲線でない
thm-es-noether の 1 の「一般のファイバーが種数 $1$」$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^1$(一般のファイバーは種数 $0$)$K^2=8\ne0$、$e=4\ne12=12\chi(\mathcal{O})$
表の確かめ

1 行目:$f_*\mathcal{O}_X=q_*\mathcal{O}_{C'}$ は階数 $2$ なので $f$ はファイブレーションでない。$D=E\times\{p_1\}$ は第 2 射影のファイバーなので $D^2=0$ であり、$D$ と $f^*(p)$ の成分の係数は $(1,0)$ と $(1,1)$ で比例しない。ファイバー $f^{-1}(p)$ は 2 つの互いに素な曲線の和で連結でなく、lem-es-zariski の等号の議論の「グラフが連結」が破れる。

2 行目:ファイバー $E\times\{t\}$ 上の点 $x$ を爆発すると、ファイバーの全変換は固有変換 $\tilde F$ と例外曲線 $E_0$ の和で、$\tilde F^2=0-1=-1$(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の命題「固有変換の交点数と種数」)、$\tilde F\cong E$ は種数 $1$ である。このファイブレーションは相対極小でない($E_0$ がファイバーに含まれる)。

3 行目:$K=-2(\text{両方向のファイバーの和})$ で $K^2=8$、$e(\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1)=4$、$\chi(\mathcal{O})=1$ である。

関連項目

参考文献

[1]
Wolf P. Barth, Klaus Hulek, Chris A. M. Peters, Antonius Van de Ven, Compact Complex Surfaces, 2nd ed., Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete, 3. Folge, 4, Springer, 2004, I.7(小平次元、p. 29)、III.11.4(ファイブレーションの Euler 数、p. 118)、V.7 Table 3(小平の特異ファイバーの表、pp. 200–202)、V.12.5(楕円曲面の小平次元、p. 215)、VI.1 Table 10(Enriques–小平の分類の表、p. 244)、VIII.17.7(Enriques 曲面の楕円ファイブレーション、p. 345)
[2]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, V.1.4(局所交点数の和)、V.3.3(爆発の標準因子)、V.3.4(爆発と構造層のコホモロジー、p. 387)

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