整礎関係

同義語:整礎的な関係well-founded relation

概要

整礎関係(well-founded relation)とは、集合 $A$ 上の二項関係 $R$ で、$A$ の空でない任意の部分集合が $R$-極小元、すなわち自分より $R$ について下にある元を含まない元をもつものである。自然数の大小、有限集合の真の包含、正の整数の真の約数がその例で、全順序である必要はない。整礎であることは、下のすべての元で成り立てばその元でも成り立つという帰納法が使えることと同値であり、同じ形の再帰で関数がただ一つ定まる。また、$R$ に沿って値が真に増える順序数への写像をもつことと同値で、その最小のものが階数を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 二項関係, 整列順序, 順序数

自然数についての数学的帰納法が正しいのは、$\mathbb{N}$ の空でない部分集合に最小元があるからである。この性質から「全順序」の条件を外し、「空でない部分集合には、それより下に何もない元(極小元)がある」ことだけを要求した関係が 整礎関係 である。有限集合の真の包含、正の整数の真の約数、集合の所属関係 $\in$ などは全順序ではないが整礎であり、その上でも同じ形の帰納法と再帰が使える。
この記事では、整礎関係の上の帰納法(整礎帰納法)と再帰(整礎再帰)を証明し、整礎関係が「$R$ に沿って値が真に増える、順序数への写像をもつ関係」として特徴づけられること(階数)を示す。応用として、Ackermann 関数の定義や、辞書式の積・逆像・推移閉包で整礎性が保たれることを確かめる。

定義

以下では、選択公理を含まない集合論 $\mathsf{ZF}$ で議論する。選択公理の弱い形を使う箇所はそのことを書く。

整礎関係

$A$ を集合、$R\subset A\times A$ を $A$ 上の二項関係とし、$(y,x)\in R$ を $y\,R\,x$ と書く。

  1. 部分集合 $S\subset A$ の元 $m$ が $R$-極小元 であるとは、$y\,R\,m$ となる $y\in S$ が存在しないことをいう。
  2. $R$ が 整礎(well-founded)であるとは、$A$ の空でない任意の部分集合が $R$-極小元をもつことをいう。整礎な関係を 整礎関係 という。
  3. $x\in A$ に対し、$\operatorname{pred}_R(x):=\{y\in A\mid y\,R\,x\}$ を $x$ の $R$-前者 の集合という。

$y\,R\,x$ を「$y$ は $x$ より下にある」と読む。$R$ が推移的である必要も、比較できない元がないことも要求しない。極小元は最小元と違い、一つとは限らない。$R$ が $A$ 上の全順序(狭義)のときは、極小元は最小元と同じなので、整礎であることは整列順序であることと同じである(整列順序)。

整礎関係の基本性質

$R$ を $A$ 上の整礎関係とする。

  1. どの $x\in A$ についても $x\,R\,x$ ではない。さらに、$n\geq1$ と $x_0,\dots,x_{n-1}\in A$ で $x_0\,R\,x_1\,R\,\cdots\,R\,x_{n-1}\,R\,x_0$ となるもの(長さ $n$ の循環)はない。
  2. $B\subset A$ なら、$R\cap(B\times B)$ は $B$ 上の整礎関係である。
  3. $A$ 上の関係 $R'$ が $R'\subset R$ を満たせば、$R'$ も整礎である。

1.循環があれば、$S=\{x_0,\dots,x_{n-1}\}$ の各元 $x_i$ について $x_{i-1}\,R\,x_i$(添字は $n$ を法として読む)なので、$S$ に $R$-極小元がない。$n=1$ の場合が $x\,R\,x$ である。
2.$B$ の空でない部分集合は $A$ の空でない部分集合であり、その $R$-極小元は $R\cap(B\times B)$-極小元でもある。
3.$S$ の $R$-極小元 $m$ について、$y\,R'\,m$ となる $y\in S$ があれば $y\,R\,m$ となり矛盾する。よって $m$ は $R'$-極小元でもある。$\square$

例と反例

整礎関係の例
  1. $\mathbb{N}$ 上の $<$ は整列順序なので整礎である。後者の関係 $S=\{(n,n+1)\mid n\in\mathbb{N}\}$ は推移的でないが、$S\subset{<}$ なので prop-wfr-basic の 3 により整礎である。
  2. 集合 $X$ の有限部分集合全体の上の真の包含 $\subsetneq$ は整礎である。空でない族 $\mathcal{S}$ の元のうち元の個数が最小のもの $m$ は、$T\subsetneq m$ なら $T$ の元の個数が $m$ より少ないので、$T\notin\mathcal{S}$ となり、$\subsetneq$-極小元である。$X$ が 2 個以上の元をもてば、この関係は全順序ではない。
  3. 正の整数全体の上で「$a$ は $b$ の約数で $a\neq b$」を $a\prec b$ と書く。$a\prec b$ なら $a< b$ なので、$\prec$ は $<$ に含まれ、整礎である。正の整数全体の $\prec$-極小元は $1$ だけであり、$\{2,3,5,7,\dots\}$ のように極小元が無限個ある部分集合もある。
  4. 正則性公理は、任意の集合 $A$ の上で所属関係 $\{(y,x)\in A\times A\mid y\in x\}$ が整礎であることを主張する公理である。
  5. 空関係 $\emptyset$ は整礎であり、すべての元が極小元である。
反例:整礎でない関係
  1. $\mathbb{Z}$ 上の $<$:$\mathbb{Z}$ 自身に極小元がない($n-1< n$)。
  2. $\mathbb{Q}\cap[0,1]$ 上の $<$:最小元 $0$ はあるが、部分集合 $\{1/n\mid n\geq1\}$ に極小元がない。
  3. $\mathbb{N}$ の部分集合全体の上の真の包含 $\subsetneq$:$\{\{k\mid k\geq n\}\mid n\in\mathbb{N}\}$ に極小元がない。有限部分集合に限った例 2 との違いは、無限集合から元を一つずつ除く列が止まらないことにある。
  4. $x\,R\,x$ となる元をもつ関係:prop-wfr-basic の 1 により整礎でない。

全順序の場合の「整礎 $\Leftrightarrow$ 整列」と比べると、例 2・3 の関係は比較できない元をもちながら整礎である。どの例でも、整礎性は「下へ向かう道筋がいつか止まる」ことを表している。

整礎帰納法

整礎関係の上では、「$x$ より下のすべての元で成り立てば $x$ でも成り立つ」ことを示すだけで、すべての元で成り立つことが結論できる。整礎性はこの帰納法が使えることと同値である。

整礎帰納法

$A$ 上の関係 $R$ について、次は同値である。
(a) $R$ は整礎である。
(b) $A$ の任意の部分集合 $P$ について、すべての $x\in A$ で
$$ \operatorname{pred}_R(x)\subset P\ \Longrightarrow\ x\in P $$
が成り立つならば、$P=A$ である。

(a) $\Rightarrow$ (b):$P$ が (b) の仮定を満たすのに $P\neq A$ だとする。$A\setminus P$ は空でないので $R$-極小元 $x$ をもつ。$y\,R\,x$ なら極小性から $y\notin A\setminus P$、すなわち $y\in P$ なので $\operatorname{pred}_R(x)\subset P$ である。仮定から $x\in P$ となり、$x\in A\setminus P$ に反する。
(b) $\Rightarrow$ (a):空でない $S\subset A$ が $R$-極小元をもたないとし、$P:=A\setminus S$ とおく。$x\in A$ が $\operatorname{pred}_R(x)\subset P$ を満たすとする。もし $x\in S$ なら、$x$ は $S$ の $R$-極小元でないので $y\,R\,x$ となる $y\in S$ があり、$y\in\operatorname{pred}_R(x)\subset P$ に反する。よって $x\in P$ である。(b) により $P=A$、すなわち $S=\emptyset$ となり、仮定に反する。$\square$

$\mathbb{N}$ 上の $<$ に当てはめたものが累積帰納法(強い帰納法)であり、整列集合に当てはめたものが超限帰納法である。性質が論理式 $\varphi(x)$ で与えられるときは、分出公理で $P=\{x\in A\mid\varphi(x)\}$ とおいて (b) を使う。

反例:整礎でない関係では帰納法が成り立たない

$\mathbb{Z}$ 上の $<$ と $P=\emptyset$ を考える。どの $n\in\mathbb{Z}$ にも $n-1< n$ となる $n-1\notin P$ があるので、$\operatorname{pred}(n)\subset P$ を満たす $n$ は一つもない。したがって (b) の仮定は(空虚に)成り立つが、$P\neq\mathbb{Z}$ である。

無限下降列

$R$ に沿った 無限下降列 とは、すべての $n\in\mathbb{N}$ で $x_{n+1}\,R\,x_n$ を満たす列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ のことである。整礎な関係は無限下降列をもたず、逆は従属選択公理のもとで成り立ち、しかもちょうど従属選択公理を必要とする(従属選択公理の定理「整礎性の下降列による判定」)。集合が整列できる場合には、選択公理を使わずに逆が言える。

整列できる集合の上の下降列

$A$ 上に整列順序 $\lhd$ が一つ与えられているとする(たとえば $A$ が可算集合のとき、単射 $A\to\mathbb{N}$ から定まる順序)。このとき $A$ 上の関係 $R$ が無限下降列をもたなければ、$R$ は整礎である。

$R$-極小元をもたない空でない $S\subset A$ があるとして、無限下降列を作る。$x_0$ を $S$ の $\lhd$-最小元とし、$x_n\in S$ が決まったら、$x_{n+1}$ を $\{y\in S\mid y\,R\,x_n\}$ の $\lhd$-最小元とする。この集合は $x_n$ が $S$ の $R$-極小元でないことから空でない。各段階の選び方が「$\lhd$-最小元」と一通りに決まっているので、列は自然数上の再帰(帰納的定義)で定まり、選択公理は要らない。この列は $x_{n+1}\,R\,x_n$ を満たす。$\square$

無限下降列がないことは、計算の停止の証明に使われる。手続きの状態の集合 $A$ と整礎関係 $R$ があり、1 回の操作で状態が $R$ について真に下がる(次の状態 $x'$ が $x'\,R\,x$ を満たす)なら、操作の列は有限回で止まる。止まらなければ状態の列が無限下降列になるからである。

整礎再帰

帰納法が性質の真偽を下から上へ伝えるのに対し、再帰は値を下から上へ決めていく。$x$ での値を「$x$ と、$x$ より下での値の全体」から決める規則を与えれば、関数がただ一つ定まる。規則は集合とは限らない対応(論理式で定まる対応、クラス関数)でよい。

整礎再帰定理

$R$ を集合 $A$ 上の整礎関係とし、$\mathbf{G}$ を、各 $x\in A$ と各関数 $h$ に集合 $\mathbf{G}(x,h)$ を対応させる規則(論理式で定まる対応)とする。このとき、定義域 $A$ の関数 $F$ で、すべての $x\in A$ について
$$ F(x)=\mathbf{G}\bigl(x,\ F|_{\operatorname{pred}_R(x)}\bigr) $$
を満たすものがただ一つ存在する。

下に閉じた集合の上の近似を貼り合わせる

$C\subset A$ が 下に閉じている とは、$x\in C$ かつ $y\,R\,x$ なら $y\in C$ となることとする。下に閉じた $C$ を定義域とする関数 $\sigma$ が、すべての $x\in C$ で $\sigma(x)=\mathbf{G}(x,\sigma|_{\operatorname{pred}_R(x)})$ を満たすとき、$\sigma$ を $C$ 上の近似 と呼ぶ($C$ が下に閉じているので $\operatorname{pred}_R(x)\subset C$ である)。
一致。 $\sigma,\sigma'$ をそれぞれ $C,C'$ 上の近似とすると、$C\cap C'$ 上で $\sigma=\sigma'$ である。実際、$D:=\{x\in C\cap C'\mid\sigma(x)\neq\sigma'(x)\}$ が空でないとし、その $R$-極小元 $x$ をとる。$C\cap C'$ は下に閉じているので $\operatorname{pred}_R(x)\subset C\cap C'$ であり、極小性から $\operatorname{pred}_R(x)$ 上で $\sigma=\sigma'$ である。よって $\sigma(x)=\mathbf{G}(x,\sigma|_{\operatorname{pred}_R(x)})=\mathbf{G}(x,\sigma'|_{\operatorname{pred}_R(x)})=\sigma'(x)$ となり、$x\in D$ に反する。特に、各 $C$ 上の近似は高々一つである。
存在。 近似をもつ下に閉じた部分集合の全体を $\mathcal{D}\subset\mathcal{P}(A)$ とする(分出公理)。$C\in\mathcal{D}$ に $C$ 上のただ一つの近似 $\sigma_C$ を対応させ、置換公理で集合 $\{\sigma_C\mid C\in\mathcal{D}\}$ を作って、その合併を $F$ とおく。一致の主張から $F$ は関数で、その定義域 $D^*:=\bigcup\mathcal{D}$ は下に閉じている。$x\in C\in\mathcal{D}$ なら $F|_C=\sigma_C$ かつ $\operatorname{pred}_R(x)\subset C$ なので、$F(x)=\sigma_C(x)=\mathbf{G}(x,F|_{\operatorname{pred}_R(x)})$ であり、$F$ は $D^*$ 上の近似である。
$D^*\neq A$ とし、$A\setminus D^*$ の $R$-極小元 $x$ をとる。$\operatorname{pred}_R(x)\subset D^*$ なので $C:=D^*\cup\{x\}$ は下に閉じている。$F$ に対 $\bigl(x,\mathbf{G}(x,F|_{\operatorname{pred}_R(x)})\bigr)$ を加えた関数は $C$ 上の近似なので $C\in\mathcal{D}$、よって $x\in D^*$ となり矛盾する。したがって $D^*=A$ であり、$F$ が求める関数である。一意性は一致の主張から従う。$\square$

$\mathbb{N}$ 上の $<$ に当てはめると、それまでのすべての値から次の値を決める再帰(帰納的定義の「段数と履歴に依存する再帰」)になり、順序数の $\in$ に当てはめると超限再帰になる。$\mathbf{G}(x,h):=\{h(y)\mid y\in\operatorname{dom}h\}$ ととれば $F(x)=\{F(y)\mid y\,R\,x\}$ となり、これはMostowskiの崩壊定理の崩壊写像である。

Ackermann 関数

$\mathbb{N}\times\mathbb{N}$ 上の辞書式順序 $(m',n')<_{\mathrm{lex}}(m,n)\iff m'< m$、または $m'=m$ かつ $n'< n$ は整列順序なので整礎である(辞書式順序の定理「整列集合の有限直積」)。$h$ が $\operatorname{pred}((m,n))$ 上の $\mathbb{N}$ に値をとる関数のとき
$$ \mathbf{G}((m,n),h):=\begin{cases}n+1&(m=0),\\ h(m-1,1)&(m>0,\ n=0),\\ h\bigl(m-1,\ h(m,n-1)\bigr)&(m>0,\ n>0)\end{cases} $$
とおき、それ以外の $h$ では $\mathbf{G}=0$ とする。右辺で使う $(m-1,1)$、$(m,n-1)$、$(m-1,k)$($k\in\mathbb{N}$ は任意)はどれも $(m,n)$ より辞書式に小さいので、値は $h$ から決まる。thm-wfr-recursion により
$$ \mathrm{A}(0,n)=n+1,\quad\mathrm{A}(m+1,0)=\mathrm{A}(m,1),\quad\mathrm{A}(m+1,n+1)=\mathrm{A}\bigl(m,\mathrm{A}(m+1,n)\bigr) $$
を満たす $\mathrm{A}\colon\mathbb{N}\times\mathbb{N}\to\mathbb{N}$ がただ一つ存在する。

詳細

再帰定理の $F$ の値がすべて $\mathbb{N}$ に入ることを整礎帰納法で確かめる。$F|_{\operatorname{pred}((m,n))}$ の値が $\mathbb{N}$ に入れば、$\mathbf{G}$ の場合分けのどれかが当たり、値はまた $\mathbb{N}$ に入る。したがって $F$ は場合分けの式をそのまま満たす。


内側の値 $\mathrm{A}(m+1,n)$ がどれほど大きくても、外側の引数 $(m,\cdot)$ は辞書式に小さいので、自然数の上の単純な帰納法では扱いにくいこの定義も整礎再帰で正当化される(停止性の議論は Gal15 §2.1.10, Example 2.1.1, pp. 11–12)。

階数

整礎関係は、順序数への「真に増える」写像で特徴づけられる。

階数関数

$R$ を $A$ 上の整礎関係とする。thm-wfr-recursion で定まる関数
$$ \rho_R(x)=\sup\{\rho_R(y)+1\mid y\,R\,x\} $$
を $R$ の 階数関数 といい、$\rho_R(x)$ を $x$ の 階数 という。$\operatorname{pred}_R(x)=\emptyset$ なら $\rho_R(x)=0$ である。

形式的には $\mathbf{G}(x,h):=\bigcup\{h(y)\cup\{h(y)\}\mid y\in\operatorname{dom}h\}$ とおく。$h$ の値が順序数なら、これは $\sup\{h(y)+1\}$ に等しい。$\rho_R$ の値がすべて順序数であることは、整礎帰納法で示される(順序数の集合の合併は順序数である)。

順序数への写像による特徴づけ

$A$ 上の関係 $R$ について、次は同値である。
(a) $R$ は整礎である。
(b) 関数 $f$ で、各 $x\in A$ に順序数 $f(x)$ を対応させ、$y\,R\,x$ なら $f(y)< f(x)$ となるものが存在する。
さらに (a) のとき、階数関数 $\rho_R$ は (b) の $f$ の一つであり、(b) の任意の $f$ について各点で $\rho_R(x)\leq f(x)$ を満たす。像 $\rho_R[A]$ は順序数である。

(b) $\Rightarrow$ (a):空でない $S\subset A$ について、順序数の空でない集合 $f[S]$ の最小元を $f(m)$($m\in S$)とする。$y\in S$ が $y\,R\,m$ を満たせば $f(y)< f(m)$ となり最小性に反するので、$m$ は $S$ の $R$-極小元である。
(a) $\Rightarrow$ (b):$y\,R\,x$ なら $\rho_R(y)+1$ は $\rho_R(x)$ を定める上限の中の一つなので、$\rho_R(y)<\rho_R(y)+1\leq\rho_R(x)$ である。よって $f=\rho_R$ が (b) を満たす。
最小性:(b) の $f$ について、$\rho_R(x)\leq f(x)$ を整礎帰納法で示す。$y\,R\,x$ となるすべての $y$ で $\rho_R(y)\leq f(y)$ なら、$\rho_R(y)+1\leq f(y)+1\leq f(x)$ なので、上限をとって $\rho_R(x)\leq f(x)$ である。
像:$\rho_R[A]$ が下に閉じていること、すなわち $\beta<\rho_R(x)$ なら $\beta\in\rho_R[A]$ を、$x$ についての整礎帰納法で示す。$\beta<\sup\{\rho_R(y)+1\mid y\,R\,x\}$ なら $\beta<\rho_R(y)+1$、すなわち $\beta\leq\rho_R(y)$ となる $y\,R\,x$ がある。$\beta=\rho_R(y)$ ならよく、$\beta<\rho_R(y)$ なら帰納法の仮定による。下に閉じた順序数の集合は順序数である(推移的集合の命題「順序数の集合が順序数になる条件」)。$\square$

順序数 $\rho_R[A]$ を $R$ の 高さ という。階数は「$x$ から下へたどる道の長さの上限」を順序数で測ったものである。

階数の計算
  1. $\mathbb{N}$ 上の $<$ と後者の関係では、どちらも $\rho(n)=n$ であり、高さは $\omega$ である。
  2. 有限部分集合の $\subsetneq$ では $\rho(T)=\lvert T\rvert$(元の個数)である。
  3. 正の整数の真の約数の関係 $\prec$ では、$\rho(n)$ は $n$ の素因数の重複を込めた個数 $\Omega(n)$ に等しい。
  4. $\mathbb{N}\times\mathbb{N}$ の辞書式順序では $\rho(m,n)=\omega\cdot m+n$ であり、高さは $\omega\cdot\omega$ である。
  5. 正則性公理のもとで推移的集合上の $\in$ を考えると、$\rho$ は集合の階数(正則性公理の定義「階数」)と一致する(Kun80 Ch. III, Lemma 5.8, p. 104)。
    2〜4 の確かめを開く

    いずれも、右辺が再帰式 $\rho(x)=\sup\{\rho(y)+1\mid y\,R\,x\}$ を満たすことを見れば、thm-wfr-recursion の一意性から等しい。

    2.$T$ の真部分集合の元の個数は $\lvert T\rvert-1$ 以下で、$T$ から元を一つ除けば $\lvert T\rvert-1$ になる。よって上限は $\lvert T\rvert$。

    3.$d\prec n$ なら $\Omega(d)\leq\Omega(n)-1$ で、素数 $p\mid n$ について $d=n/p$ とすれば等号が成り立つ。$n=1$ では前者がなく $0=\Omega(1)$。

    4.$(m,n)$ の前者は $(m',k)$($m'< m$、$k\in\mathbb{N}$ は任意)と $(m,n')$($n'< n$)である。1 つ目の形の前者から来る値 $\omega\cdot m'+k+1$ の上限は、$m>0$ なら $\omega\cdot m$ であり、2 つ目の形の前者から来る値 $\omega\cdot m+n'+1$ の上限は $n>0$ なら $\omega\cdot m+n$ である。合わせて上限は $\omega\cdot m+n$ になる。

整礎性を保つ構成

逆像・推移閉包・辞書式の積

$R$ を $A$ 上の整礎関係とする。

  1. 逆像:写像 $g\colon B\to A$ について、$B$ 上の関係 $y\,S\,x\iff g(y)\,R\,g(x)$ は整礎である。
  2. 推移閉包:$R$ の推移閉包 $R^+$($y=z_0\,R\,z_1\,R\,\cdots\,R\,z_k=x$ となる $k\geq1$ と $z_i$ があるとき $y\,R^+\,x$)は整礎である。
  3. 辞書式の積:$S$ を $B$ 上の整礎関係とするとき、$A\times B$ 上の関係「$(a',b')\mathrel{T}(a,b)\iff a'\,R\,a$、または $a'=a$ かつ $b'\,S\,b$」は整礎である。

1.$f:=\rho_R\circ g$ は $y\,S\,x$ なら $f(y)< f(x)$ を満たすので、thm-wfr-rank により $S$ は整礎である。
2.$y\,R^+\,x$ なら、$\rho_R(z_0)<\rho_R(z_1)<\cdots<\rho_R(z_k)$ から $\rho_R(y)<\rho_R(x)$ である。thm-wfr-rank により $R^+$ は整礎である。
3.空でない $X\subset A\times B$ をとる。第 1 成分の集合 $\{a\mid(a,b)\in X\}$ の $R$-極小元 $a_0$ をとり、$\{b\mid(a_0,b)\in X\}$ の $S$-極小元 $b_0$ をとる。$(a',b')\in X$ が $(a',b')\mathrel{T}(a_0,b_0)$ を満たすとすると、$a_0$ の極小性から $a'\,R\,a_0$ ではないので $a'=a_0$ かつ $b'\,S\,b_0$ となり、$b_0$ の極小性に反する。よって $(a_0,b_0)$ は $T$-極小元である。$\square$

1 は停止性の証明でよく使う形である。状態から自然数(あるいは順序数)への「量」$g$ を見つけ、操作のたびに $g$ が真に減ることを示せば、整礎性が従う。3 で第 1 成分も第 2 成分も「下がるか等しい」としてどちらかが真に下がる関係(成分ごとの順序)は $T$ に含まれるので、prop-wfr-basic の 3 によりやはり整礎である。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
整礎性(帰納法)$\mathbb{Z}$ 上の $<$ と $P=\emptyset$整礎帰納法の結論 $P=A$
整礎性(再帰)$\mathbb{Z}$ 上の関係 $(n-1)\,R\,n$ と規則 $F(n)=F(n-1)+1$再帰の解の存在(値を $\mathbb{N}$ にとる)と一意性(値を $\mathbb{Z}$ にとる)
辞書式の積の成分が有限個$\{0,1\}$ の無限列の辞書式順序整礎性
有限部分集合に限る$\mathbb{N}$ の部分集合全体の $\subsetneq$整礎性

2 行目:$R$ は無限下降列 $0,-1,-2,\dots$($-(k+1)\,R\,-k$)をもち整礎でない。$F(n)=F(n-1)+1$ を満たす $F\colon\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ は $F(n)=n+c$ の形で、$c\in\mathbb{Z}$ ごとに一つずつあるので一意でない。値が $\mathbb{N}$ に入る解は、$F(-c-1)=-1$ となるので存在しない。3 行目は 辞書式順序の反例「0 と 1 の無限列」による。各成分の順序 $0<1$ は整礎だが、$(1,0,0,\dots)$、$(0,1,0,\dots)$、$(0,0,1,\dots)$、… は辞書式に真に減る無限列である。

補足

クラス上の関係。 $A$ がクラス(すべての集合、すべての順序数など)の場合も、各 $x$ の前者 $\{y\mid y\,R\,x\}$ が集合である(set-like)なら、極小元の存在・整礎帰納法・整礎再帰が同じ形で成り立つ(Kun80 Ch. III, §5, Theorem 5.5, Theorem 5.6, pp. 102–104)。正則性公理のもとでのすべての集合の上の $\in$ がその代表例で、その上の帰納法が正則性公理の定理「$\in$-帰納法」である。
整礎で外延的な関係。 整礎関係 $R$ がさらに外延的(同じ前者の集合をもつ元は等しい)なら、$(A,R)$ はある推移的集合の上の $(M,\in)$ と同型になる(Mostowskiの崩壊定理)。整礎関係は「所属関係を抽象化したもの」と見ることができる。
代数での例。 可換環のイデアルの集合の上の $\supsetneq$ が整礎であることは、Noether環の極大条件(空でないイデアルの族に極大元がある)そのものである。昇鎖条件は ⊋ に沿った無限下降列がないことにあたるので、極大条件から昇鎖条件は直ちに従う。逆向きは従属選択公理の定理「整礎性の下降列による判定」の 2 を ⊋ に当てはめたもので、従属選択公理を使う。
構文の上の帰納法。 論理式・項・木のように規則で組み立てた対象の上では、「直接の構成要素である」という関係が整礎であり、その上の整礎帰納法が構造的帰納法である。
整礎関係の定義・整礎帰納法・再帰・階数は Kun80 Ch. III, §3, Definition 3.1(p. 98)、§5, Definition 5.1–5.7(pp. 102–104)にあり、半順序の場合の帰納法と辞書式の積は Gal15 §2.1.10, Lemma 2.1.1–2.1.3(pp. 8–11)にある。thm-wfr-rank の同値と prop-wfr-descending-wo は、この記事で示した。

関連項目

参考文献

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