体

同義語:field可換体体(代数)

概要

体(field)とは、$1\neq0$ で、$0$ でない元がすべて逆元をもつ可換環である。加減乗除が $0$ による除法を除いて自由に行える数の体系を公理化したもので、有理数 $\mathbb{Q}$、実数 $\mathbb{R}$、複素数 $\mathbb{C}$、素数 $p$ を法とする剰余類の集合 $\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$、体上の有理関数体がその例である。体は整域であり、有限な整域は体になる。体のイデアルは零イデアルと全体だけで、体からの環準同型は常に単射である。体上の $n$ 次多項式の根は高々 $n$ 個であり、体の標数は $0$ か素数である。ベクトル空間・多項式環・Galois理論の土台となる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 環, 可換環, 整域, 群
体は、四則演算(加減乗除)が $0$ による除法を除いて自由に行える数の体系を公理化したものである。有理数全体 $\mathbb{Q}$、実数全体 $\mathbb{R}$、複素数全体 $\mathbb{C}$ がその典型であり、素数 $p$ を法とする剰余類の集合 $\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ のような有限個の元からなる体もある。ベクトル空間の係数、多項式環の係数、Galois理論の舞台はいずれも体であり、代数学の多くの理論は体を土台にして組み立てられる。

定義

体

可換環 $K$(乗法の単位元 $1$ をもつ)が次の 2 条件を満たすとき、$K$ を 体(field)または 可換体という。

  1. $1\neq 0$($K$ は零環ではない)。
  2. $0$ でない任意の元 $a\in K$ は単元である。すなわち $ab=ba=1$ を満たす $b\in K$ が存在する。
    条件 2 の $b$ は $a$ から一意に定まり、$a^{-1}$ または $1/a$ と書く。体 $K$ の $0$ でない元全体 $K^{\times}=K\setminus\{0\}$ を $K$ の 乗法群という。

条件 2 の逆元 $b$ が一意であることは環の一般論から従う($b,b'$ が共に $a$ の逆元なら $b=b(ab')=(ba)b'=b'$)。可換性を仮定しない場合、すなわち「$1\neq0$ で、$0$ でない元がすべて単元である環」は 斜体(skew field)または可除環(division ring)とよぶ。日本語の文献では斜体まで含めて「体」とよぶ流儀もあるが、この記事では体は常に可換なものを指す。
体の定義は、加法群と乗法群の 2 つの群構造が分配法則で結び付いたもの、と述べることもできる。

体の同値な定義

集合 $K$ と 2 つの二項演算 $+$、$\cdot$ について、次の 2 条件は同値である。

  1. $(K,+,\cdot)$ は体である。
  2. $(K,+)$ は単位元 $0$ をもつアーベル群、$K\setminus\{0\}$ は $\cdot$ について単位元 $1$ をもつアーベル群であり、任意の $a,b,c\in K$ について分配法則 $a(b+c)=ab+ac$ と $(a+b)c=ac+bc$ が成り立つ。
2 条件の同値性

1 から 2 を導く。体は可換環なので $(K,+)$ はアーベル群であり、乗法は結合的かつ可換で分配法則を満たす。$1\neq0$ だから $1\in K\setminus\{0\}$ である。$a,b\in K\setminus\{0\}$ に対し $ab\neq0$ を示す。もし $ab=0$ なら、$a$ の逆元 $a^{-1}$ を両辺に掛けて $b=a^{-1}ab=a^{-1}0=0$ となり $b\neq0$ に反する。よって $K\setminus\{0\}$ は乗法で閉じ、結合律・可換律・単位元 $1$ をもち、条件 2 により各元が逆元をもつ。ゆえに $K\setminus\{0\}$ は乗法についてアーベル群である。
2 から 1 を導く。まず、$K\setminus\{0\}$ 上で定義された乗法の結合律・可換律を $0$ を含めた $K$ 全体に拡げる必要がある。分配法則 $(a+b)c=ac+bc$ から $0\cdot a=(0+0)a=0\cdot a+0\cdot a$ なので、両辺から $0\cdot a$ を引いて $0\cdot a=0$、同様に $a\cdot0=0$ を得る(ここで $a\cdot 0$ については分配法則 $a(b+c)=ab+ac$ から $a(0+0)=a\cdot0+a\cdot0$ を用いる)。したがって $0$ を含む積はすべて $0$ であり、結合律 $(ab)c=a(bc)$ と可換律 $ab=ba$ は、$a,b,c$ のいずれかが $0$ のとき両辺とも $0$ となって成り立つ。また $1\cdot 0=0=0\cdot 1$ より $1$ は $K$ 全体の乗法単位元である。両側の分配法則は仮定に含まれている。以上で $K$ は可換環であり、$1\in K\setminus\{0\}$ から $1\neq0$、$K\setminus\{0\}$ が群であることから $0$ でない元はすべて単元である。ゆえに $K$ は体である。

部分体と拡大体

体 $K$ の部分集合 $F$ が、$K$ の加法と乗法について部分環であり($0,1\in F$、加法・乗法・加法逆元で閉じる)、さらに $0$ でない元の逆元について閉じているとき、$F$ を $K$ の 部分体(subfield)といい、$K$ を $F$ の 拡大体(extension field)という。この状況を $K/F$ と書き、体の拡大という。

部分体はそれ自身、$K$ から制限した演算によって体になる。$\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}\subset\mathbb{C}$ はいずれも部分体の例である。体の間の環準同型($1$ を $1$ に送る写像)を 体の準同型という。後の prop-field-homomorphism-injective で見るように、体の準同型は常に単射であり、その像は部分体である。

直感

体は、割り算が「$0$ で割る」以外の制約なしに行える世界である。環では方程式 $ax=b$ が解をもつとは限らない(整数の範囲では $2x=1$ に解がない)が、体では $a\neq0$ である限り $x=a^{-1}b$ が唯一の解になる。このため体の上では、連立一次方程式の掃き出し法、多項式の割り算、分数の通分など、有理数で慣れ親しんだ計算がそのまま通用する。体の理論の中心的な問題は「与えられた体にどのような元を付け加えると、どのような体ができるか」であり、これが体の拡大とGalois理論の出発点である。

例と反例

有理数体・実数体・複素数体

$\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ は通常の加法と乗法について体である。$\mathbb{Q}$ では $a/b\neq0$ の逆元は $b/a$ である。$\mathbb{R}$ が体であることは実数の構成(Dedekind切断やCauchy列による)に含まれる基本性質である。$\mathbb{C}$ では $z=a+bi\neq0$($a,b\in\mathbb{R}$)に対し $a^2+b^2>0$ であり、
$$ z^{-1}=\frac{a-bi}{a^2+b^2} $$
が逆元である。実際 $(a+bi)(a-bi)=a^2-(bi)^2=a^2+b^2$ である。

素数を法とする剰余類の体

素数 $p$ に対し、剰余環 $\mathbb{F}_p:=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は $p$ 個の元からなる体である。これは後の prop-field-z-mod-n で証明する。たとえば $\mathbb{F}_7$ では $3\cdot5=15\equiv1$ なので $3^{-1}=5$、$2\cdot4=8\equiv1$ なので $2^{-1}=4$、$6\cdot6=36\equiv1$ なので $6^{-1}=6$ である。

4 個の元からなる体

元の個数が素数でない有限な体も存在する。$\mathbb{F}_2=\{0,1\}$ 上の多項式 $x^2+x+1$ は $x=0,1$ を代入すると値がそれぞれ $1,1$ で $0$ にならないから、$\mathbb{F}_2$ に根をもたず、2 次なので既約多項式である。剰余環
$$ \mathbb{F}_4:=\mathbb{F}_2[x]/(x^2+x+1) $$
は $x$ の剰余類を $\alpha$ と書けば $\{0,1,\alpha,\alpha+1\}$ の 4 元からなり、$\alpha^2=\alpha+1$ が成り立つ。$0$ でない 3 元の逆元は $1^{-1}=1$ および
$$ \alpha(\alpha+1)=\alpha^2+\alpha=(\alpha+1)+\alpha=1 $$
から $\alpha^{-1}=\alpha+1$、$(\alpha+1)^{-1}=\alpha$ である。よって $\mathbb{F}_4$ は体である。一般に任意の素数冪 $q=p^n$ に対して $q$ 個の元からなる体が同型を除いてただ 1 つ存在し、有限体の元の個数は必ず素数冪である(DF04 §14.3)。

有理数に $\sqrt2$ を添加した体

$\mathbb{Q}(\sqrt2):=\{a+b\sqrt2\mid a,b\in\mathbb{Q}\}\subset\mathbb{R}$ は $\mathbb{R}$ の部分体である。加法・減法・乗法で閉じることは
$$ (a+b\sqrt2)(c+d\sqrt2)=(ac+2bd)+(ad+bc)\sqrt2 $$
から分かる。$a+b\sqrt2\neq0$ のとき $a^2-2b^2\neq0$ である。実際、$a^2-2b^2=0$ かつ $b\neq0$ なら $(a/b)^2=2$ となり $\sqrt2$ が有理数でないことに反し、$b=0$ なら $a=0$ となって $a+b\sqrt2=0$ に反する。したがって
$$ (a+b\sqrt2)^{-1}=\frac{a-b\sqrt2}{a^2-2b^2}=\frac{a}{a^2-2b^2}+\frac{-b}{a^2-2b^2}\sqrt2\in\mathbb{Q}(\sqrt2) $$
であり、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ は逆元についても閉じている。これは $\mathbb{Q}$ の 2 次の体の拡大である。

有理関数体

体 $k$ 上の一変数多項式環 $k[t]$ は整域だが体ではない($t$ の逆元は存在しない。次の反例を参照)。$k[t]$ の元を分母・分子とする分数
$$ \frac{f(t)}{g(t)}\qquad(f,g\in k[t],\ g\neq0) $$
の全体を、$f/g=f'/g'$ を $fg'=f'g$ で定めて同一視し、通常の分数の演算
$$ \frac{f}{g}+\frac{f'}{g'}=\frac{fg'+f'g}{gg'},\qquad \frac{f}{g}\cdot\frac{f'}{g'}=\frac{ff'}{gg'} $$
を入れたものを $k(t)$ と書き、$k$ 上の 有理関数体という。$f/g\neq0$、すなわち $f\neq0$ のとき $(f/g)^{-1}=g/f$ であるから $k(t)$ は体である。この構成は整域からその商体(分数体)を作る一般的な構成の特別な場合で、$\mathbb{Z}$ から $\mathbb{Q}$ を作る手続きと同じである。演算が代表元の取り方によらないことなど構成の細部は DF04 §7.5 を参照。

反例:整数環と多項式環

整数環 $\mathbb{Z}$ は整域($1\neq0$ で $0$ 以外の零因子をもたない可換環)だが体ではない。$2x=1$ を満たす整数 $x$ は存在しないから、$2$ は単元でない。同様に、体 $k$ 上の多項式環 $k[t]$ も整域だが体ではない。$t\cdot g(t)=1$ となる $g\in k[t]$ があれば、左辺の次数は $1+\deg g\geq1$ であるのに右辺の次数は $0$ となり矛盾する。
この反例が満たす性質は「整域である」、満たさない性質は「体である」であり、破る含意は「整域ならば体」である。後の thm-field-finite-domain は、有限という条件を加えればこの含意が成り立つことを示す。

反例:合成数を法とする剰余環

$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ は $6$ 個の元をもつ有限な可換環だが体ではない。$[2]\cdot[3]=[6]=[0]$ であるのに $[2]\neq[0]$、$[3]\neq[0]$ だから、$[2]$ は零因子であり単元ではない($[2]$ が単元なら $[3]=[2]^{-1}[2][3]=[0]$ となって矛盾)。
この反例が満たす性質は「有限な可換環で $1\neq0$」、満たさない性質は「整域である」および「体である」であり、破る含意は「有限な可換環ならば体」である。有限性だけでは足りず、$0$ 以外の零因子がないことが必要である。

反例:Hamilton の四元数

Hamilton の四元数環
$$ \mathbb{H}=\{a+bi+cj+dk\mid a,b,c,d\in\mathbb{R}\},\qquad i^2=j^2=k^2=ijk=-1 $$
は環であり、$q=a+bi+cj+dk\neq0$ に対して $\bar q=a-bi-cj-dk$ とおくと $q\bar q=\bar qq=a^2+b^2+c^2+d^2>0$ なので $q^{-1}=\bar q/(a^2+b^2+c^2+d^2)$ が逆元になる。しかし $ij=k$、$ji=-k$ で $ij\neq ji$ だから乗法は可換でない。
この反例が満たす性質は「$1\neq0$ で、$0$ でない元がすべて単元である」、満たさない性質は「乗法が可換である」であり、この記事の定義では $\mathbb{H}$ は体ではなく斜体である。破る含意は「$0$ でない元がすべて単元ならば体」である。

性質

整域との関係

体は整域である

体は整域である。すなわち、体 $K$ において $a,b\in K$ が $ab=0$ を満たせば $a=0$ または $b=0$ である。

逆元を掛ける

$ab=0$ かつ $a\neq0$ とする。$a$ は単元だから逆元 $a^{-1}$ が存在し、$b=1\cdot b=(a^{-1}a)b=a^{-1}(ab)=a^{-1}\cdot0=0$ である。$1\neq0$ は体の定義に含まれるので、$K$ は整域である。

体では $0$ 以外の零因子が存在しないから、$a\neq0$ のとき $ax=ay$ ならば $x=y$ という簡約律が成り立つ。逆向きの「整域ならば体」は ex-field-counterexample-z のとおり一般には成り立たないが、有限な整域については成り立つ。

有限な整域は体である

有限個の元からなる整域は体である。

乗法写像の単射性から全射性を導く

$R$ を有限な整域とし、$a\in R$、$a\neq0$ とする。写像
$$ \lambda_a\colon R\to R,\qquad x\longmapsto ax $$
を考える。$\lambda_a(x)=\lambda_a(y)$ とすると $a(x-y)=ax-ay=0$ であり、$R$ は整域で $a\neq0$ だから $x-y=0$、すなわち $x=y$ である。よって $\lambda_a$ は単射である。$R$ は有限集合なので、有限集合からそれ自身への単射は全射である(鳩の巣原理)。したがって $\lambda_a(b)=1$ を満たす $b\in R$ が存在し、$ab=1$ である。$R$ は可換だから $ba=1$ でもあり、$a$ は単元である。$1\neq0$ は整域の定義に含まれるので、$R$ は体である。

非可換の場合

可換性を仮定せず、有限で $1\neq0$ かつ $0$ 以外の零因子をもたない環を考えると、上の証明を左からの乗法 $x\mapsto ax$ と右からの乗法 $x\mapsto xa$ の両方について行えば、$ab=1$ と $ca=1$ を満たす $b,c$ が得られ、$c=c(ab)=(ca)b=b$ からそれが斜体であることまでは分かる。実際にはさらに強く、有限な斜体は必ず可換であり体になる。これは Wedderburn の小定理(Wedderburn's little theorem)とよばれ、証明は DF04 §13.6 の演習問題(円分多項式を用いる証明)に譲る。

剰余環が体になる条件

整数 $n\geq1$ に対し、剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ が体であることと $n$ が素数であることは同値である。

素数のときは有限整域

$n=1$ のとき $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は零環で $1=0$ だから体でなく、$1$ は素数でもないので同値は成り立つ。以下 $n\geq2$ とする。
$n$ が素数 $p$ であるとする。$[a][b]=[0]$ とすると $p\mid ab$ であり、$p$ が素数だから $p\mid a$ または $p\mid b$、すなわち $[a]=[0]$ または $[b]=[0]$ である(素数の基本性質 $p\mid ab\Rightarrow p\mid a$ または $p\mid b$ はBézoutの等式から従う。DF04 §0.2)。また $p\geq2$ より $[1]\neq[0]$ である。よって $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は $p$ 個の元からなる有限な整域であり、thm-field-finite-domain により体である。
$n$ が素数でないとする。$n\geq2$ だから $n=ab$、$1< a,b< n$ と分解でき、$[a]\neq[0]$、$[b]\neq[0]$ であるのに $[a][b]=[n]=[0]$ である。したがって $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は整域でなく、prop-field-is-domain により体でもない。

イデアルと準同型

体のイデアル

$1\neq0$ である可換環 $A$ について、$A$ が体であることと、$A$ のイデアルが $\{0\}$ と $A$ の 2 つだけであることは同値である。

単元を含むイデアルは全体

$A$ を体とし、$I\subset A$ をイデアルで $I\neq\{0\}$ とする。$0$ でない元 $u\in I$ をとると $u$ は単元であり、$1=u^{-1}u\in I$ である。イデアルは $A$ の元倍で閉じているから、任意の $a\in A$ について $a=a\cdot1\in I$、すなわち $I=A$ である。
逆に、$A$ のイデアルが $\{0\}$ と $A$ だけであるとする。$a\in A$、$a\neq0$ をとり、$a$ が生成する単項イデアル $(a)=\{ab\mid b\in A\}$ を考える。$a=a\cdot1\in(a)$ だから $(a)\neq\{0\}$ であり、仮定から $(a)=A$ である。とくに $1\in(a)$ なので $ab=1$ を満たす $b\in A$ が存在し、$A$ は可換だから $a$ は単元である。$1\neq0$ と合わせて $A$ は体である。

体の準同型は単射である

$K$ を体、$A$ を零環でない環($1\neq0$)とし、$\varphi\colon K\to A$ を環準同型($\varphi(1)=1$ を満たすもの)とする。このとき $\varphi$ は単射である。とくに、体の間の環準同型はすべて単射である。さらに $A=L$ が体であるとき、像 $\varphi(K)$ は $L$ の部分体である。

単射性の証明の所在

証明は 環準同型 の命題「核と像の基本性質」の 5 にある。要点だけ述べると、環準同型の核 $\ker\varphi$ は $K$ のイデアルで、$\varphi(1)=1\neq0$ より $\ker\varphi\neq K$ だから、prop-field-ideals により $\ker\varphi=\{0\}$ となり、$\varphi$ は単射である。像 $\varphi(K)$ が $L$ の部分環であることは 環準同型 の命題「核と像の基本性質」の 2 による。$a\in K\setminus\{0\}$ に対し $\varphi(a)^{-1}=\varphi(a^{-1})$ となるので $\varphi(K)$ は逆元でも閉じており、$\varphi(K)$ は $L$ の部分体である。

この命題により、体 $K$ から体 $L$ への準同型 $\varphi$ があれば、$K$ はその像 $\varphi(K)$(これは $L$ の部分体である)と同型になる。すなわち体の準同型は常に「$K$ を $L$ の中に埋め込む」ものであり、$L$ は $K$ の拡大体とみなせる。また prop-field-ideals から、体を剰余環で割って得られる環は零環か体自身しかなく、逆に可換環 $A$ とそのイデアル $\mathfrak{m}$ について $A/\mathfrak{m}$ が体であることは $\mathfrak{m}$ が極大イデアルであることと同値である(証明は 可換環論 の命題「極大イデアルと体」を参照)。$\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ や $\mathbb{F}_4=\mathbb{F}_2[x]/(x^2+x+1)$ は、この見方では極大イデアルによる剰余環として得られる体である。

多項式の根

体上の多項式の根の個数

$K$ を体とし、$f\in K[x]$ を $0$ でない $n$ 次多項式とする。$f$ の $K$ における根($f(a)=0$ となる $a\in K$)は高々 $n$ 個である。

根の個数の証明の所在

証明は 多項式環 の定理「根の個数」にある(零点の重複度を込めた形で示されている)。要点は、$f(a)=0$ なら多項式環の因数定理により $f=(x-a)g$、$\deg g=n-1$ と書け、$b\neq a$ が $f$ の根なら $(b-a)g(b)=0$ と $b-a\neq0$ から $g(b)=0$ となること、すなわち体が整域であること(prop-field-is-domain)を使って次数についての帰納法を回すことである。

この命題の仮定「体」を外すと結論は崩れる。$\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$ 上の 2 次多項式 $x^2-1$ は $[1],[3],[5],[7]$ の 4 個の根をもつ($3^2=9\equiv1$、$5^2=25\equiv1$、$7^2=49\equiv1$)。上の要点のうち「$(b-a)g(b)=0$ と $b-a\neq0$ から $g(b)=0$ を導く」段階で $0$ 以外の零因子がないことを使っており、$\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$ ではそこが破れる。たとえば $a=[1]$、$b=[3]$ では $b-a=[2]$ は $0$ でない零因子である。

標数と素体

体 $K$ において、$1$ を $m$ 回加えた元 $m\cdot1=1+1+\cdots+1$ が $0$ になる正の整数 $m$ が存在するとき、その最小値を $K$ の 標数(characteristic)といい、存在しないときは標数を $0$ と定める。体は整域だから(prop-field-is-domain)、体の標数は $0$ か素数のいずれかである(整域の標数についてのこの事実の証明は 標数 がもつ)。$\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$、$\mathbb{Q}(t)$ の標数は $0$、$\mathbb{F}_p$、$\mathbb{F}_p(t)$ の標数は $p$、$\mathbb{F}_4$ の標数は $2$ である。体 $K$ のすべての部分体の共通部分は $K$ の最小の部分体であり、これを $K$ の 素体という。素体は、標数が $0$ なら $\mathbb{Q}$ と、標数が $p$ なら $\mathbb{F}_p$ と同型である。標数の一般の環に対する定義、整域の標数についての証明、素体の決定、標数 $p$ の体における Frobenius 写像 $x\mapsto x^p$ が準同型であることの証明は 標数 にまとめる(DF04 §13.1)。

体の上の構造

体 $K$ の上の加群はベクトル空間にほかならず、体の上では任意の加群が基底をもつという、一般の環にはない強い性質が成り立つ(Lan02 Chapter III §5)。この事実により、拡大体 $L/K$ は $K$ 上のベクトル空間とみなすことができ、その次元 $[L:K]$ を拡大次数という。$[\mathbb{C}:\mathbb{R}]=2$、$[\mathbb{Q}(\sqrt2):\mathbb{Q}]=2$、$[\mathbb{F}_4:\mathbb{F}_2]=2$ である。
体の乗法群 $K^{\times}$ はアーベル群であり、その有限部分群は常に巡回群である(DF04 §9.5 Proposition 18)。とくに有限体の乗法群は巡回群である(有限体の乗法群)。$\mathbb{F}_7^{\times}$ では $3$ が生成元で、$3^1,3^2,\ldots,3^6$ は $3,2,6,4,5,1$ と $0$ でない元をすべて尽くす。

補足

  • 「体」という語の範囲は文献によって異なる。英語の field は可換なものを指し、非可換のものは division ring または skew field とよぶ(Lan02 Chapter II §1)。日本語では「体」を斜体を含む意味で使い、可換なものを「可換体」とよぶ流儀もある。他の記事や文献を読むときは、まずどちらの流儀かを確認する。
  • 体の公理から、$-a=(-1)a$、$(-a)^{-1}=-(a^{-1})$、$(ab)^{-1}=b^{-1}a^{-1}$ など、有理数で知っている計算規則がすべて導ける。これらは環と群の一般論の帰結であり、環・群を参照。
  • 部分体の族の共通部分は再び部分体である。したがって体 $K$ とその部分集合 $S$ に対し、$S$ を含む最小の部分体($S$ を含む部分体すべての共通部分)が存在する。ex-field-q-sqrt2 の $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ は $\{\sqrt2\}$ を含む $\mathbb{R}$ の最小の部分体であり、この考え方が体の拡大における「元の添加」の基礎になる。
  • 任意の体は、その代数閉体である拡大体(代数閉包)をもつ。$\mathbb{C}$ は代数閉体だが、$\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、有限体は代数閉体ではない。
    定義と基本性質は DF04 §7.1、§13.1 および Lan02 Chapter II §1 を参照した。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §0.2(整数の性質、Bézout の等式)、§7.1(環と体の定義、有限整域は体)、§7.5(整域の商体の構成)、§9.5 Proposition 18(体の乗法群の有限部分群は巡回群)、§13.1(標数と素体)、§13.6 演習(Wedderburn の小定理)、§14.3(有限体)
[2]
Serge Lang, Algebra, Revised 3rd ed.(Graduate Texts in Mathematics 211), Springer, 2002, Chapter II §1(Rings and homomorphisms:体と division ring の定義)、Chapter III §5(Vector spaces:基底の存在)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する