Cauchy–Kovalevskayaの定理

同義語:Cauchy-Kovalevskayaの定理コーシー・コワレフスカヤの定理Cauchy–Kovalevskaya theoremCauchy–Kowalevski theorem

概要

Cauchy–Kovalevskayaの定理(Cauchy–Kovalevskaya theorem)とは、偏微分方程式がある変数 $t$ についての最高階の微分を残りの量で表した形(Kovalevskaya の形)に書け、係数と初期値が解析的なら、$t=0$ の上の初期値問題(Cauchy 問題)は原点の近くに解析的な解をもち、原点を含む連結な領域では解析的な解が一意であるという定理である。線形の方程式では、初期面が非特性であることがこの形に書ける条件である。解の冪級数の係数は方程式から一通りに決まり、その収束は、明示的に解ける比較の方程式の解で係数を押さえる優級数の方法で示される。非特性でない熱方程式や解析的でないデータでは解が存在しないことがあり、解の存在はデータへの連続な依存を意味しない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多変数の正則関数, 冪級数, 偏微分方程式

常微分方程式の初期値問題は、右辺が滑らかならいつでも局所的に解ける。偏微分方程式では事情が違い、初期条件の与え方を誤ると解がまったく存在しないこともある。Cauchy–Kovalevskaya の定理 は、方程式が「ある変数 $t$ についての最高階の微分を、残りの量で表した形」(Kovalevskaya の形)に書け、係数と初期値が解析的(冪級数で表せる)なら、初期値問題には原点の近くで解析的な解がただ 1 つあることを述べる。偏微分方程式の最初の一般的な存在定理であり、解を冪級数として作る。
この記事では、Cauchy 問題と非特性の超平面を定義し、1 階の準線形の系について定理を 優級数の方法 で証明する。証明は 2 段に分かれる。方程式と初期条件から冪級数の係数がすべて決まることを示し、次に、明示的に解ける比較の方程式の解の係数でそれらを押さえて、級数の収束を示す。最後に、非特性であること・データが解析的であることを外すと結論が崩れる例と、解の存在が適切性を意味しないことを確かめる。

Cauchy 問題と非特性の超平面

変数を $(t,x)=(t,x_1,\dots,x_n)\in\mathbb{C}^{1+n}$ と書き、$\partial_t=\partial/\partial t$、$\partial_j=\partial/\partial x_j$、多重指数 $\alpha$ について $\partial_x^\alpha=\partial_1^{\alpha_1}\cdots\partial_n^{\alpha_n}$ とする。関数はすべて 多変数の正則関数 の意味で正則なものを考える。実の変数の実解析的な関数(Taylor級数 の定義「実解析的な関数」)は局所的に収束冪級数で表されるので、変数を複素数に延ばせば正則関数になる。この記事の結果は、係数とデータが実解析的で実数値なら、解の冪級数の係数も実数になり、実の変数の実解析的な解を与える。

Cauchy 問題と Kovalevskaya の形

$m\ge1$ 階の線形の偏微分作用素 $P=\sum_{k+\lvert\alpha\rvert\le m}a_{k,\alpha}(t,x)\,\partial_t^k\partial_x^\alpha$ について、方程式 $Pu=f$ と初期条件
$$ \partial_t^iu(0,x)=g_i(x)\qquad(0\le i\le m-1) $$
を合わせたものを、超平面 $\{t=0\}$ の上の Cauchy 問題 といい、$(g_0,\dots,g_{m-1})$ を Cauchy データ という。$a_{m,0}(0,x^0)\ne0$ のとき、$\{t=0\}$ は点 $(0,x^0)$ で 非特性 であるといい、そうでないとき 特性的 であるという。より一般に、方程式が
$$ \partial_t^mu=F\bigl(t,x,(\partial_t^k\partial_x^\alpha u)_{k\le m-1,\;k+\lvert\alpha\rvert\le m}\bigr) $$
の形に書けるとき、Kovalevskaya の形 であるという。

$\{t=0\}$ が $(0,x^0)$ で非特性なら、その近くで $a_{m,0}\ne0$ なので、$Pu=f$ を $a_{m,0}$ で割って $\partial_t^mu$ について解くと Kovalevskaya の形になる。主要部 $p_m(t,x;\tau,\xi):=\sum_{k+\lvert\alpha\rvert=m}a_{k,\alpha}(t,x)\tau^k\xi^\alpha$ を使うと、非特性の条件は $p_m(0,x^0;1,0,\dots,0)\ne0$ であり、超平面の法線の方向 $(1,0,\dots,0)$ で主要部が消えないことを意味する。曲がった超曲面 $\{\psi=0\}$ についても、$p_m(y;\nabla\psi(y))\ne0$ で非特性を定める。
非特性の条件が要る理由は、解の冪級数の係数の計算の仕方にある。Cauchy データは $t=0$ での $u$ の $t$ についての $m-1$ 階までの微分を与え、そこから $x$ について微分すれば、$\partial_t^k\partial_x^\alpha u(0,x)$($k\le m-1$)がすべて分かる。$\partial_t^mu(0,x)$ を知るには、方程式を $\partial_t^mu$ について解く必要がある。さらに方程式を $t$ について微分すれば $\partial_t^{m+1}u(0,x)$ が求まり、これを繰り返して、すべての係数が決まる。$\partial_t^m$ の係数が $0$ だと、方程式は $t=0$ の上のデータの間の条件になってしまい、データを自由に選べなくなる。

  • 波動方程式 $\partial_t^2u-\Delta_xu=0$ では $a_{2,0}=1$ で、$\{t=0\}$ は非特性である。
  • Laplace 方程式 $\partial_t^2u+\Delta_xu=0$ では、主要部は $\tau^2+\lvert\xi\rvert^2$ で、実の 0 でないベクトルの上で消えないので、どの実の超平面も非特性である。
  • 熱方程式 $\partial_tu-\partial_x^2u=0$ は 2 階で $a_{2,0}=0$ なので、$\{t=0\}$ は特性的である。
冪級数で解を組み立てる

$\partial_tu=\partial_xu$($n=1$)、$u(0,x)=g(x)$($g$ は $0$ の近くで正則)を考える。正則な解 $u$ があれば、方程式を繰り返し微分して $\partial_t^ku=\partial_x^ku$ なので、$\partial_t^ku(0,x)=g^{(k)}(x)$ であり、$t$ についての Taylor 展開は
$$ u(t,x)=\sum_{k=0}^\infty\frac{g^{(k)}(x)}{k!}t^k=g(x+t) $$
となる。逆に $g(x+t)$ は解である。たとえば $g(x)=1/(1-x)$ なら解は $1/(1-x-t)$ で、$x+t=1$ では定義されない。解の存在する範囲はデータ $g$ の収束半径に左右される。

この例のように、初期条件と方程式は解の冪級数の係数をすべて決める。問題は、こうして決まる級数が収束するかどうかである。

優級数

優級数

$d$ 変数の冪級数 $f=\sum_\alpha f_\alpha z^\alpha$($f_\alpha\in\mathbb{C}$)と $F=\sum_\alpha F_\alpha z^\alpha$($F_\alpha\ge0$)について、すべての $\alpha$ で $\lvert f_\alpha\rvert\le F_\alpha$ のとき、$F$ を $f$ の 優級数 といい、$f\ll F$ と書く。ベクトルや行列に値をとる級数では、成分ごとに考える。

$0$ の近くの正則関数 $f$ は Taylor 級数 $\sum_\alpha\frac{\partial^\alpha f(0)}{\alpha!}z^\alpha$ で表される(多変数の正則関数 の定理「正則性の言い換え」)ので、正則関数の間の $f\ll F$ は「すべての $\alpha$ で $\lvert\partial^\alpha f(0)\rvert\le\partial^\alpha F(0)$」と同じである。

優級数の存在と比較
  1. $f$ が閉多重円板 $\{\lvert z_i\rvert\le s\ (1\le i\le d)\}$ の近傍で正則なら、定数 $C\ge0$ があって
    $$ f\ll\frac{Cs}{s-(z_1+\cdots+z_d)} $$
    である。右辺の冪級数は $\lvert z_1\rvert+\cdots+\lvert z_d\rvert< s$ で絶対収束する。
  2. $f\ll F$ で、$\rho_i>0$ について $\sum_\alpha F_\alpha\rho^\alpha<\infty$ なら、$f$ の冪級数は多重円板 $\{\lvert z_i\rvert\le\rho_i\}$ の上で正規収束する。
多項定理で等比級数を展開する

1:Taylor 級数は閉多重円板の上で正規収束するので、$C:=\sum_\alpha\lvert f_\alpha\rvert s^{\lvert\alpha\rvert}<\infty$ であり、$\lvert f_\alpha\rvert\le Cs^{-\lvert\alpha\rvert}$ である。一方、$\lvert z_1\rvert+\cdots+\lvert z_d\rvert< s$ なら、等比級数と多項定理から
$$ \frac{Cs}{s-(z_1+\cdots+z_d)}=C\sum_{k=0}^\infty\frac{(z_1+\cdots+z_d)^k}{s^k}=C\sum_\alpha\frac{\lvert\alpha\rvert!}{\alpha!}\,\frac{z^\alpha}{s^{\lvert\alpha\rvert}} $$
であり、右辺は絶対収束する。$\lvert\alpha\rvert!/\alpha!\ge1$ なので係数は $Cs^{-\lvert\alpha\rvert}\ge\lvert f_\alpha\rvert$ である。2:多重円板の上で $\lvert f_\alpha z^\alpha\rvert\le F_\alpha\rho^\alpha$ である。$\square$

主定理:1 階の準線形の系

Cauchy–Kovalevskaya の定理

$g$ を $x=0\in\mathbb{C}^n$ の近傍で正則な $\mathbb{C}^m$ 値の写像とし、$m$ 次正方行列に値をとる $A_1,\dots,A_n$ と $\mathbb{C}^m$ に値をとる $b$ を、$(t,x,u)=(0,0,g(0))\in\mathbb{C}\times\mathbb{C}^n\times\mathbb{C}^m$ の近傍で正則な写像とする。Cauchy 問題
$$ \partial_tu=\sum_{j=1}^nA_j(t,x,u)\,\partial_ju+b(t,x,u),\qquad u(0,x)=g(x) $$
について、次が成り立つ。

  1. 存在:$(0,0)$ の近傍 $\Omega\subset\mathbb{C}^{1+n}$ と、$\Omega$ の上の正則な解 $u\colon\Omega\to\mathbb{C}^m$ がある。
  2. 一意性:$D\ni(0,0)$ を連結な開集合とし、$u,\tilde u\colon D\to\mathbb{C}^m$ がともに $D$ の上の正則な解なら、$u=\tilde u$ である。

方程式の右辺は、$u$ の $x$ についての 1 階の微分について 1 次式(準線形)で、$t$ についての微分は左辺の $\partial_tu$ だけである。これは 1 階の系の Kovalevskaya の形である。証明は 4 段からなる。

係数の漸化式と、明示的に解ける優級数の方程式

要点:(i) $u-g$ と $t$ を新しい未知関数にして、初期値が $0$ で係数が $t$ によらない形に直す。(ii) 解の Taylor 係数は、係数の Taylor 係数とそれまでの解の係数の、正の整数係数の多項式で決まる。(iii) 係数をすべて優級数 $\frac{Cr}{r-\sum x_j-\sum u_q}$ に替えた方程式は、変数を 1 つにまとめて明示的に解ける。(iv) その解の係数がもとの係数を押さえるので、級数は収束して解になる。

詳しい証明を開く

(i) 簡約。$W=(w,s)\in\mathbb{C}^m\times\mathbb{C}$ を未知関数とし、

$$\partial_tw=\sum_jA_j(s,x,w+g(x))\bigl(\partial_jw+\partial_jg(x)\bigr)+b(s,x,w+g(x)),\qquad\partial_ts=1,\qquad W(0,x)=0$$

を考える。これは $M:=m+1$ について $\partial_tW=\sum_jB_j(x,W)\partial_jW+c(x,W)$、$W(0,x)=0$ の形で、$B_j$ と $c$ は $(x,W)=(0,0)$ の近傍で正則で、$t$ を含まない。この問題の解では、各 $x$ で $\partial_ts=1$、$s(0,x)=0$ から($t$ の範囲が円板なら)$s=t$ であり、$u:=w+g$ はもとの問題の解である。逆にもとの問題の解 $u$ から $W:=(u-g,t)$ はこの問題の解になる。そこで以下、簡約した問題を考える。

(ii) 係数の漸化式。$R(W):=\sum_jB_j(x,W)\partial_jW+c(x,W)$ とおく。$W(0,0)=0$ を満たす正則な $W$ について、$\partial_t^k\partial_x^\alpha R(W)$ を Leibniz の公式と連鎖律 $\partial_{y}[G(x,W)]=(\partial_yG)(x,W)+\sum_q(\partial_{W_q}G)(x,W)\,\partial_yW_q$ で展開して $(0,0)$ で値をとると、

$$\partial_t^k\partial_x^\alpha R(W)(0,0)=\Pi_{k,\alpha}\Bigl(\bigl(\partial_x^\beta\partial_W^\gamma B_j\bigr)(0,0),\ \bigl(\partial_x^\beta\partial_W^\gamma c\bigr)(0,0),\ \bigl(\partial_t^l\partial_x^\delta W\bigr)(0,0)\ (l\le k)\Bigr)$$

と書ける。ここで $\Pi_{k,\alpha}$ は有限個の変数の多項式で、係数は $0$ 以上の整数であり、$B_j$、$c$、$W$ によらない。展開は和と積だけを使い、$t$ による微分は合わせて $k$ 回しか $W$ に掛からないからである($B_j$ と $c$ は $t$ を含まない)。$W$ が解なら $\partial_t^{k+1}\partial_x^\alpha W(0,0)=\Pi_{k,\alpha}(\cdots)$ であり、$W(0,x)=0$ から $\partial_x^\alpha W(0,0)=0$ である。よって、解の $(0,0)$ でのすべての微分は、$t$ の階数についての帰納法で $B_j$ と $c$ から決まる。この値を $w_{k,\alpha}\in\mathbb{C}^M$ と書く($w_{0,\alpha}=0$、$w_{k+1,\alpha}=\Pi_{k,\alpha}(\cdots,w_{l,\delta}\ (l\le k))$)。

(iii) 優級数の方程式。lem-ck-majorant の 1 を $d=n+M$ 変数に使い、$B_j$ のすべての成分と $c$ のすべての成分に共通の $C,r>0$ をとって、それらがすべて $\Phi:=\frac{Cr}{r-\sigma-\sum_qW_q}$($\sigma:=x_1+\cdots+x_n$)に押さえられるようにする。$B_j^*$ をすべての成分が $\Phi$ の行列、$c^*$ をすべての成分が $n\Phi$ のベクトルとすると $B_j\ll B_j^*$、$c\ll c^*$ である。$K:=nMCr$ とおき、

$$v(t,x):=\frac{(r-\sigma)-\sqrt{(r-\sigma)^2-4Kt}}{2M},\qquad W^*:=(v,\dots,v)$$

とおく。$\lvert x_j\rvert< r/(4n)$、$\lvert t\rvert< r^2/(64K)$ では $\lvert\sigma\rvert< r/4$ で、$\lvert(r-\sigma)^2-4Kt-r^2\rvert\le\lvert\sigma\rvert\lvert2r-\sigma\rvert+4K\lvert t\rvert<\frac{10}{16}r^2$ なので、根号の中は実部が正で、主枝の平方根は正則であり(実部も正)、$v(0,x)=0$ である。$\phi:=\sigma+Mv$、$\rho:=r-\sigma$、$S:=\sqrt{\rho^2-4Kt}$ とおくと $r-\phi=\frac{\rho+S}2$(実部が正なので $0$ でない)、$\partial_t\phi=\frac KS$、$\partial_j\phi=\frac{\rho+S}{2S}$ なので $\partial_t\phi=K\partial_j\phi/(r-\phi)$ である。$\partial_jv=(\partial_j\phi-1)/M$ を代入すると、$W^*$ の各成分について

$$\partial_tv=\frac{Cr}{r-\phi}\bigl(nM\partial_1v+n\bigr)=\sum_j\sum_q(B_j^*)_{pq}(x,W^*)\,\partial_jW_q^*+c^*_p(x,W^*)$$

となり、$W^*$ は $B_j^*$、$c^*$ についての簡約した問題の正則な解である。

(iv) 比較と収束。$W^*$ の $(0,0)$ での微分も (ii) の漸化式を満たす。$\Pi_{k,\alpha}$ の係数は $0$ 以上で、$B_j$、$c$ の微分の絶対値は $B_j^*$、$c^*$ の微分以下なので、$t$ の階数についての帰納法で $\lvert w_{k,\alpha}\rvert\le\partial_t^k\partial_x^\alpha W^*(0,0)$(成分ごと)である。$W^*$ は多重円板 $\Delta:=\{\lvert t\rvert< r^2/(64K),\ \lvert x_j\rvert< r/(4n)\}$ の上で正則なので、その Taylor 級数は $\Delta$ のコンパクト部分集合の上で正規収束し、lem-ck-majorant の 2 により $W(t,x):=\sum_{k,\alpha}\frac{w_{k,\alpha}}{k!\,\alpha!}t^kx^\alpha$ も同様に収束する。よって $W$ は $\Delta$ の上で正則で、$\partial_t^k\partial_x^\alpha W(0,0)=w_{k,\alpha}$、$W(0,x)=0$ である。$(x,W(t,x))$ が $B_j$ と $c$ の定義域に入る小さな多重円板 $\Delta'\subset\Delta$ の上で、$\partial_tW$ と $R(W)$ はともに正則であり(多変数の正則関数 の命題「四則と合成」)、(ii) により $(0,0)$ でのすべての微分が一致する。正則関数は多重円板の上で Taylor 級数に等しいので、$\Delta'$ の上で $\partial_tW=R(W)$ である。これで存在が示された。

一意性。$u$、$\tilde u$ から (i) で作った $W$、$\tilde W$ はどちらも簡約した問題の解なので、(ii) により $(0,0)$ でのすべての微分が等しく、$(0,0)$ の近傍で一致する。$D$ は連結なので、多変数の正則関数 の定理「多変数の一致の定理」により $D$ 全体で $u=\tilde u$ である。$\square$

実解析的な係数とデータ

thm-ck-main で、$A_j$、$b$、$g$ の Taylor 級数の係数がすべて実数であるとする(実の変数の実解析的な関数で、実数値をとるものを複素数の変数に延ばした場合)。このとき解 $u$ の $(0,0)$ での Taylor 級数の係数もすべて実数であり、$u$ を実の点 $(t,x)\in\mathbb{R}^{1+n}$ に制限したものは、原点の近くで実数値の実解析的な解である。原点の近くの実数値の実解析的な解は、原点の近くでこれと一致する。

漸化式の多項式の係数は整数

prf-ck-main の (i) の $B_j$、$c$ の Taylor 係数も実数である($g$ と $A_j$、$b$ の Taylor 係数の、整数係数の多項式で表される)。(ii) の $\Pi_{k,\alpha}$ は整数係数の多項式なので、帰納法で $w_{k,\alpha}$ はすべて実数である。原点の近くの実の点では、実係数の冪級数の和として $u$ は実数値であり、$u$ は正則なので各点のまわりで収束冪級数に展開でき、実の点に制限すると実解析的である。実数値の実解析的な解 $\tilde u$ は、原点での Taylor 級数を複素数の変数に延ばすと原点の近くで正則になり、方程式の両辺は正則で実の点で一致するので($(0,0)$ での微分は実の方向の微分で計算できる)、正則な解になる。一意性によりその Taylor 係数は $u$ のものと等しく、原点の近くで $\tilde u=u$ である。$\square$

証明で作った解の存在の範囲は、係数とデータで決まる原点のまわりの小さな多重円板である。比較に使った $v$ は、根号の中が $0$ になる $t=(r-\sigma)^2/(4K)$ で特異になる。データや係数が $\mathbb{C}^n$ 全体で正則でも、解が全体に延びるとは限らず、存在は局所的にしか保証されない(ex-ck-burgers)。
Kna16a Theorem 7.1(p. 278)は、準線形とは限らない 1 階の系 $\partial_tu=F(u,\partial_1u,\dots,\partial_nu)$ について、同じ存在と一意性を述べている(この記事では準線形の場合だけを証明する)。高い階数の方程式は、微分を新しい未知関数にして 1 階の系に直せる(ex-ck-wave)。

高い階数の方程式の Cauchy–Kovalevskaya の定理

$g_0,\dots,g_{m-1}$ を $x=0$ の近傍で正則な関数とし、$F$ を、$(t,x)=(0,0)$ と Cauchy データから決まる $\partial_t^k\partial_x^\alpha u(0,0)$($k\le m-1$、$k+\lvert\alpha\rvert\le m$)の値の組の近傍で正則な関数とする。このとき、Kovalevskaya の形の Cauchy 問題
$$ \partial_t^mu=F\bigl(t,x,(\partial_t^k\partial_x^\alpha u)_{k\le m-1,\;k+\lvert\alpha\rvert\le m}\bigr),\qquad\partial_t^iu(0,x)=g_i(x)\ (0\le i\le m-1) $$
は $(0,0)$ の近傍で正則な解をもち、$(0,0)$ を含む連結な開集合の上の正則な解は一意である。

証明の所在

この定理は Kna16a Theorem 7.3(p. 281)にある。この記事では一般の場合は証明しない。2 階の方程式を 1 階の系に直す手続きは Kna16a pp. 280–281 にあり、線形の場合は次の例の形の計算になる。

とくに、$\{t=0\}$ が非特性な線形の方程式 $Pu=f$(係数と $f$、Cauchy データが正則)の Cauchy 問題は、局所的に正則な解をただ 1 つもつ。

波動方程式を 1 階の系に直す

$\partial_t^2u=\Delta_xu$、$u(0,x)=g_0(x)$、$\partial_tu(0,x)=g_1(x)$ とする($g_0,g_1$ は正則)。未知関数 $U=(u,p,q_1,\dots,q_n)$ についての 1 階の系
$$ \partial_tu=p,\qquad\partial_tp=\sum_{j=1}^n\partial_jq_j,\qquad\partial_tq_j=\partial_jp, $$
$U(0,x)=(g_0,g_1,\partial_1g_0,\dots,\partial_ng_0)$ は thm-ck-main の形(定数係数)である。この系の解では $\partial_t(q_j-\partial_ju)=\partial_jp-\partial_jp=0$ で、$t=0$ で $q_j-\partial_ju=0$ なので、$q_j=\partial_ju$ である。よって $\partial_t^2u=\partial_tp=\sum_j\partial_jq_j=\Delta_xu$ となり、$u$ はもとの Cauchy 問題の解である。逆にもとの問題の解からは $(u,\partial_tu,\partial_1u,\dots,\partial_nu)$ が系の解になる。

係数が定数の線形の系で、右辺の非斉次項とデータが $\mathbb{C}^n$ 全体で正則(整関数)なら、解は $\mathbb{C}^{1+n}$ 全体で正則にとれる(Kna16a Theorem 7.2、p. 279。この記事では証明しない)。単独の方程式についての同じ大域的な形が Kna16a Theorem 7.4(p. 282)で、Corollary 7.15(p. 302)はそれを使って係数が定数の楕円型の作用素の基本解を作っている(基本解。いずれもこの記事では証明しない)。

例と反例

非線形の方程式の解は全体に延びない

$\partial_tu=u\,\partial_xu$、$u(0,x)=x$($n=m=1$)は thm-ck-main の形で、$A_1(t,x,u)=u$、$b=0$、データは整関数である。$u(t,x):=x/(1-t)$ は $\partial_tu=x/(1-t)^2=u\,\partial_xu$ と $u(0,x)=x$ を満たすので、一意性によりこれが解である。解は $t=1$ で($x\ne0$ なら)発散し、$\mathbb{C}^2$ 全体の正則な解には延びない。係数が定数の線形の系なら全体に延びること(Kna16a Theorem 7.2)と対照的である。

外す条件反例成り立たなくなること
$\{t=0\}$ が非特性であること(Kovalevskaya の形)熱方程式 $\partial_tu=\partial_x^2u$、$u(0,x)=\frac1{1-x}$原点の近くの正則な解の存在
データが解析的であること実の系 $\partial_ta=-\partial_xb$、$\partial_tb=\partial_xa$、$a(0,x)=e^{-1/x^2}$($a(0,0)=0$)、$b(0,x)=0$原点の近くの $C^1$ 級の解の存在
係数が定数で線形であること(大域的な存在)ex-ck-burgers解が全空間で正則であること
表の反例の確かめ
確かめを開く

1 行目:データ $\frac1{1-x}$ は $\lvert x\rvert< 1$ で正則で、方程式の係数は定数だが、熱方程式は 2 階で $\partial_t^2$ を含まないので、$\{t=0\}$ は特性的である。原点の近くで正則な解 $u$ があったとする。正則関数の偏微分は順序によらないので、帰納法で $\partial_t^ku=\partial_t^{k-1}\partial_x^2u=\partial_x^2\partial_t^{k-1}u=\partial_x^{2k}u$ であり、$\partial_t^ku(0,0)=\frac{d^{2k}}{dx^{2k}}\frac1{1-x}\Big|_{x=0}=(2k)!$ である。$t\mapsto u(t,0)$ は $0$ の近くで正則なので、その Taylor 級数 $\sum_k\frac{(2k)!}{k!}t^k$ は $0$ の近くで収束するはずだが、隣り合う係数の比 $\frac{(2k+2)(2k+1)}{k+1}$ は $\infty$ に発散するので、収束半径は $0$ である。矛盾するので、正則な解(実の変数の実解析的な解も)は存在しない。冪級数の係数は方程式から一通りに決まるが、級数が収束しない。

2 行目:$\varphi(x):=e^{-1/x^2}$($x\ne0$)、$\varphi(0):=0$ は $C^\infty$ 級で、$0$ でのすべての微分係数が $0$ だが、$x\ne0$ で $\varphi(x)>0$ である(Taylor級数)。係数は定数で、形は thm-ck-main のとおりであり、データの解析性だけが崩れている。$(0,0)$ を含む開集合 $D\subset\mathbb{R}^2$ の上に $C^1$ 級の実数値の解 $(a,b)$ があったとし、$z:=x+it$、$w:=a+ib$ とおく。方程式は $\partial_xa=\partial_tb$、$\partial_ta=-\partial_xb$ と同じで、これは $w$ が $z$ について Cauchy–Riemann の方程式を満たすことなので、正則関数 の定理「Cauchy–Riemann の方程式」により $w$ は $D$ で $z$ について正則である。実軸の上では $w(x)=\varphi(x)$ で、正則関数の導関数は実軸の方向の微分で計算できるので $w^{(k)}(0)=\varphi^{(k)}(0)=0$ がすべての $k$ で成り立つ。よって $w$ は $0$ の近くで恒等的に $0$ になり、$\varphi(x)>0$($x\ne0$)に反する。

3 行目:ex-ck-burgers のとおりである。

熱方程式の初期値問題では $u(0,x)$ だけを与える(熱方程式 ではこれも Cauchy 問題と呼ぶ)。$\{t=0\}$ が特性的なので、def-ck-cauchy の意味の Cauchy データ $(u,\partial_tu)$ は自由に選べず、$\partial_tu(0,x)=\partial_x^2u(0,x)$ が方程式から決まってしまう。それでも係数はすべて一通りに決まるのに、1 行目のように級数が収束しないことがある。
1 行目の熱方程式は、$t$ と $x$ の役割を入れ替えて $x$ を時間とみると $\partial_x^2u=\partial_tu$ という Kovalevskaya の形になり、$\{x=0\}$ の上の Cauchy 問題($u$ と $\partial_xu$ を与える)なら定理が使える。どの超平面を初期面に選ぶかが、解の存在を左右する。

解の存在と適切性

Cauchy–Kovalevskaya の定理は解の存在と一意性を与えるが、解がデータに連続に依存すること(Hadamard の意味の適切性)は与えない。Laplace 方程式 $\partial_y^2u+\partial_x^2u=0$ では $\{y=0\}$ は非特性で、解析的なデータ $u(x,0)=0$、$\partial_yu(x,0)=\frac{\sin kx}k$ に対して定理は解析的な解 $u_k=k^{-2}\sin(kx)\sinh(ky)$ を与える。データは $k\to\infty$ で一様に $0$ に近づくのに、$y>0$ を固定すると $u_k$ は有界でない(偏微分方程式 の例「Laplace 方程式の Cauchy 問題」)。存在が言えても、それが物理的に意味のある問題であるとは限らない。波動方程式などの双曲型の方程式では、エネルギー評価により、解析的でないデータについても解の一意性とデータへの連続な依存が示される(双曲型偏微分方程式)。
解析的でない係数・データについては、存在の主張そのものが崩れうる。H. Lewy は 1957 年に、1 次の多項式を係数とする $\mathbb{R}^3$ の上の 1 階の線形の作用素 $P$ と、$C^\infty$ 級だがどこでも実解析的でない関数 $f$ で、$Pu=f$ がどの空でない開集合の上でも解をもたないものを与えた(Kna16a p. 286。この記事では証明しない)。$f$ が解析的なら、Cauchy–Kovalevskaya の定理により局所的な解がある。

関連項目

参考文献

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