次元解析(dimensional analysis)とは、物理量の次元と、単位を取り替えても法則が変わらないという要請だけから、量の間の関係式の形を絞る方法である。中心は Buckingham の $\Pi$ 定理で、次元的に同次な $n$ 個の量の関係は、次元の行列の階数を $r$ とすると、無次元量 $n-r$ 個の関数 $\Pi_0=F(\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r})$ に書き直せる。証明は対数をとって単位の取り替えを平行移動に直す線形代数による。振り子の周期が $\sqrt{l/g}$ と振れ角の関数の積になることの導出、模型実験の相似則、方程式の無次元化によるパラメータの削減に使う。
振り子の周期は、糸の長さ $l$、重力加速度 $g$、おもりの質量 $m$、振れ始めの角度 $\theta_0$ で決まるはずである。運動方程式を解かなくても、周期がこれらの量のどんな組み合わせで書けるかを、かなりの程度まで決めることができる。周期は時間の次元をもち、$l$ は長さ、$g$ は長さを時間の 2 乗で割った次元、$m$ は質量の次元をもつ。時間の次元をもつ組み合わせは $\sqrt{l/g}$ の定数倍しかなく、質量を打ち消す量は他にないので、$m$ は周期に入れない。こうして周期は $\sqrt{l/g}$ に、$\theta_0$ だけの関数を掛けた形に限られる。
このように、物理量の次元だけを手がかりに関係式の形を絞る方法を次元解析という。単位の取り方を変えても物理法則は変わらない、という要請を数学の言葉に直すと、量の対数についての線形代数の問題になる。その中心の結果が Buckingham の $\Pi$ 定理で、関係に現れる量の数 $n$ と次元の行列の階数 $r$ から、関係を無次元の量 $n-r$ 個の関数に書き直せることを主張する。この記事では、次元と単位の取り替えを定義し、$\Pi$ 定理を完全に証明したうえで、模型実験の相似則と、方程式の無次元化への使い方を数値の例とともに述べる。
基本次元として、質量 $\mathsf M$、長さ $\mathsf L$、時間 $\mathsf T$ のような $k$ 個を選ぶ。温度や電流を扱うときは基本次元を増やす。単位系を取り替えて、$i$ 番目の基本次元の量の数値が $\lambda_i>0$ 倍になるとする。例えば長さの単位をメートルからセンチメートルに替えると、長さの数値は $100$ 倍になるので $\lambda_{\mathsf L}=100$ である。$\lambda=(\lambda_1,\dots,\lambda_k)\in(0,\infty)^k$ と $d\in\mathbb R^k$ に対し $\lambda^d=\lambda_1^{d_1}\cdots\lambda_k^{d_k}$ と書く。
正の値をとる物理量 $q$ が次元 $d\in\mathbb R^k$ をもつとは、任意の単位の取り替え $\lambda\in(0,\infty)^k$ によって、$q$ の数値が $\lambda^dq$ に変わることをいう。このとき $q$ の次元を $\mathsf M^{d_1}\mathsf L^{d_2}\mathsf T^{d_3}$ のように書く。次元が $0$ の量を無次元量という。
速さは $\mathsf{LT}^{-1}$、力は $\mathsf{MLT}^{-2}$、角度は弧の長さを半径で割った比なので無次元である。次元をもつ量の積 $q_1^{e_1}\cdots q_n^{e_n}$ の次元は $e_1d_1+\dots+e_nd_n$ になる。$\lambda^{d}\lambda^{d'}=\lambda^{d+d'}$ だからである。
次元 $d_0,d_1,\dots,d_n$ をもつ正の量 $q_0,q_1,\dots,q_n$ の間の関係 $q_0=f(q_1,\dots,q_n)$($f\colon(0,\infty)^n\to(0,\infty)$)が次元的に同次であるとは、どの単位系でも同じ関数 $f$ で関係が成り立つこと、つまり任意の $\lambda\in(0,\infty)^k$ と $q\in(0,\infty)^n$ について
$$
f\bigl(\lambda^{d_1}q_1,\dots,\lambda^{d_n}q_n\bigr)=\lambda^{d_0}f(q_1,\dots,q_n)
$$
が成り立つことをいう。$d_1,\dots,d_n$ を列に並べた $k\times n$ 行列 $D$ を次元の行列という。
この定義を使える条件を整理しておく。(i) 量は正の値をとる。速度のように符号をもつ量は、大きさと向きを分けて扱う。(ii) 単位の取り替えは数値に正の定数を掛ける操作である。摂氏温度のように原点もずれる量は対象にならない。(iii) 関係に影響する量を、$q_1,\dots,q_n$ にすべて含めている。(iv) 次元は単位系に共通に決まっていて、関係が成り立つ範囲の量はどれも同じ物理法則に従う。なお、$f$ の定義域は $(0,\infty)^n$ 全体でなく単位の取り替えで閉じた部分集合でもよく、求める量が無次元なら $f$ は実数値でもよい(prop-da-pi-ext)。
条件 (iii) は数学からは保証されない。どの量を含めるかは現象についての判断であり、含め忘れると結論が誤る。これは後の「使える条件と反例」で具体例を示す。
よく使う物理量の次元と、代表的な無次元数を表にまとめる。
| 量 | 記号 | 次元 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 速さ | $v$ | $\mathsf{LT}^{-1}$ | 計算(距離 ÷ 時間) |
| 加速度・重力加速度 | $a,\ g$ | $\mathsf{LT}^{-2}$ | 計算 |
| 力 | $F$ | $\mathsf{MLT}^{-2}$ | 計算(質量 × 加速度) |
| エネルギー | $E$ | $\mathsf{ML}^2\mathsf T^{-2}$ | 計算(力 × 距離) |
| 圧力 | $p$ | $\mathsf{ML}^{-1}\mathsf T^{-2}$ | 計算(力 ÷ 面積) |
| 密度 | $\rho$ | $\mathsf{ML}^{-3}$ | 計算 |
| 粘性係数 | $\mu$ | $\mathsf{ML}^{-1}\mathsf T^{-1}$ | 計算(応力 ÷ 速度勾配) |
| 動粘性係数 | $\nu=\mu/\rho$ | $\mathsf L^2\mathsf T^{-1}$ | 計算 |
| ばね定数 | $k$ | $\mathsf{MT}^{-2}$ | 計算(力 ÷ 長さ) |
| 無次元数 | 式 | 意味 | 根拠 |
| :-- | :-- | :-- | :-- |
| Reynolds 数 | $\mathrm{Re}=\rho vL/\mu$ | 慣性力と粘性力の比 | ex-da-drag |
| Froude 数 | $\mathrm{Fr}=v/\sqrt{gL}$ | 慣性力と重力の比 | ex-da-ship |
| Mach 数 | $v/c$($c$ は音速) | 流れの速さと音速の比 | 計算(同じ次元の比) |
| 減衰比 | $\zeta=c/(2\sqrt{mk})$ | 減衰の強さ | prop-da-spring |
$\Pi$ 定理を証明するために、まず無次元になる積の全体を線形代数で記述する。
次元の行列を $D$、その階数を $r$ とする。$e\in\mathbb R^n$ について、積 $q_1^{e_1}\cdots q_n^{e_n}$ が無次元であることと $De=0$ は同値である。$D$ の核 $\ker D$ の次元は $n-r$ で、その基底 $b_1,\dots,b_{n-r}$ をとり $\Pi_i=\prod_jq_j^{(b_i)_j}$ とおくと、無次元の積はどれも $\Pi_1^{\mu_1}\cdots\Pi_{n-r}^{\mu_{n-r}}$ の形にただ一通りに書ける。$D$ の成分が有理数なら、基底 $b_i$ の成分も有理数にとれる。
積の次元は $\sum_je_jd_j=De$ なので、無次元であることは $De=0$ と同値である。ベクトル空間の次元 の定理「階数と退化次数の公式」により $\dim\ker D=n-r$。$De=0$ なら $e=\sum_i\mu_ib_i$ と一通りに書け、
$$
\prod_jq_j^{e_j}=\prod_j q_j^{\sum_i\mu_i(b_i)_j}=\prod_i\Pi_i^{\mu_i}
$$
となる。表し方の一意性は、基底の 1 次独立性と、正の数の積の指数が対数をとれば 1 次式で決まることから従う。成分が有理数のときは、有理数の範囲で掃き出しを行えば $Dx=0$ の解空間の基底が有理数の成分で得られ、その基底は実数の範囲でも $\ker D$ の基底である(階数は係数の体を広げても変わらない。行列の階数 の系「係数の体を広げても階数は変わらない」)。$\square$
関係 $q_0=f(q_1,\dots,q_n)$ が次元的に同次であるとし、次元の行列 $D$ の階数を $r$ とする。
(i) $d_0$ は $D$ の列の 1 次結合である。つまり $Da=d_0$ を満たす $a\in\mathbb R^n$ があり、$\Pi_0=q_0\prod_jq_j^{-a_j}$ は無次元である。
(ii) $\ker D$ の基底 $b_1,\dots,b_{n-r}$ から prop-da-kernel のように $\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r}$ を作ると、ある関数 $F\colon(0,\infty)^{n-r}\to(0,\infty)$ があって、すべての $q\in(0,\infty)^n$ で
$$
\Pi_0=F(\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r}),\qquad\text{つまり}\qquad q_0=q_1^{a_1}\cdots q_n^{a_n}\,F(\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r}).
$$
$f$ が連続なら $F$ も連続にとれる。$n=r$ のときは $F$ は正の定数である。
(iii) 逆に、$Da=d_0$ と任意の関数 $F$ に対し、(ii) の形の関係は次元的に同次である。
対数をとって線形の問題に直す。$x_j=\log q_j$、$s_i=\log\lambda_i$ とおき、$g(x)=\log f(e^{x_1},\dots,e^{x_n})$ と定める。単位の取り替えで $\log(\lambda^{d_j}q_j)=x_j+d_j\cdot s$ となるので、ベクトルで書けば $x$ は $x+D^{\mathsf T}s$ に移る。同次性の式の対数をとると、任意の $x\in\mathbb R^n$、$s\in\mathbb R^k$ について
$$
g\bigl(x+D^{\mathsf T}s\bigr)=g(x)+d_0\cdot s
$$
が成り立つ。これを平行移動の式と呼ぶ。
(i) $s\in\ker D^{\mathsf T}$ を平行移動の式に代入すると左辺は $g(x)$ なので、$d_0\cdot s=0$。よって $d_0$ は $\ker D^{\mathsf T}$ の直交補空間に入る。標準内積に関して $\ker D^{\mathsf T}=(\operatorname{im}D)^\perp$ であり(直交補空間 の定理「随伴写像の核と像」)、有限次元では直交補空間を 2 回とると元に戻る(同じ記事の系「有限次元の内積空間での直交補空間」)。よって $d_0\in\operatorname{im}D$、つまり $Da=d_0$ となる $a$ がある。$\Pi_0$ の次元は $d_0-Da=0$ である。
(ii) $h(x)=g(x)-a\cdot x$ とおく。平行移動の式から
$$
h\bigl(x+D^{\mathsf T}s\bigr)=g(x)+d_0\cdot s-a\cdot x-a\cdot D^{\mathsf T}s=h(x)+(d_0-Da)\cdot s=h(x)
$$
なので、$h$ は部分空間 $W=\operatorname{im}D^{\mathsf T}$ の方向の平行移動で変わらない。再び 直交補空間 の定理「随伴写像の核と像」により $W^\perp=\ker D$ であり、同じ記事の定理「有限次元の部分空間の直交分解」により $\mathbb R^n=W\oplus\ker D$ と直交分解できる。$x$ の $\ker D$ への直交射影を $Px$ とすると $x-Px\in W$ なので $h(x)=h(Px)$ である。
次に、$Px$ は $c_i=b_i\cdot x$($i=1,\dots,n-r$)だけで決まることを示す。$Px=\sum_i\gamma_ib_i$ と書くと、$x-Px$ は $\ker D$ に直交するので $b_i\cdot x=b_i\cdot Px=\sum_lG_{il}\gamma_l$ である。ここで $G=(b_i\cdot b_l)$ は 1 次独立なベクトルの Gram 行列なので正則であり、$\gamma=G^{-1}c$。したがって
$$
H(c)=h\Bigl(\sum_i(G^{-1}c)_ib_i\Bigr)
$$
とおけば $h(x)=H(c)$ となる。$c_i=\sum_j(b_i)_jx_j=\log\Pi_i$ であり、$\log\Pi_0=\log q_0-a\cdot x=g(x)-a\cdot x=h(x)$。よって $F(\pi)=\exp H(\log\pi_1,\dots,\log\pi_{n-r})$ と定めれば $\Pi_0=F(\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r})$ を得る。$f$ が連続なら $g,h,H,F$ は連続関数の合成なので連続である。$n=r$ なら $\ker D=0$ で $Px=0$ だから $h$ は定数 $h(0)$ であり、$F=e^{h(0)}$。
(iii) 単位を取り替えると、各 $\Pi_i$ は無次元なので数値が変わらず、$\prod_jq_j^{a_j}$ は $\lambda^{\sum_ja_jd_j}=\lambda^{Da}=\lambda^{d_0}$ 倍になる。よって (ii) の右辺は $\lambda^{d_0}$ 倍になり、同次性の式が成り立つ。$\square$
定理は $f$ が $(0,\infty)^n$ 全体で定義された正の値の関数であると仮定したが、証明を見直すと、次の二つの場合にも (ii) がそのまま成り立つ。
次のどちらの場合(両方が同時に起きる場合を含む)にも、thm-da-pi の (ii) の結論が成り立つ。
(a) $f$ の定義域が、単位の取り替えで閉じた部分集合 $U\subset(0,\infty)^n$ である。つまり $q\in U$ なら任意の $\lambda$ について $(\lambda^{d_1}q_1,\dots,\lambda^{d_n}q_n)\in U$ であり、同次性の式は $q\in U$ について成り立つ。このとき $F$ は、$q$ が $U$ を動くときの $(\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r})$ の値の集合の上で定義される。
(b) $q_0$ が無次元($d_0=0$)で、$f$ は実数値(負や $0$ の値も許す)であり、任意の $\lambda$ について $f(\lambda^{d_1}q_1,\dots,\lambda^{d_n}q_n)=f(q_1,\dots,q_n)$ が成り立つ。このとき $\Pi_0=q_0$ ととれ、$F$ は実数値の関数である。
(a) $\log U=\{x\in\mathbb R^n:(e^{x_1},\dots,e^{x_n})\in U\}$ は、$W=\operatorname{im}D^{\mathsf T}$ の方向の平行移動で閉じている。定理の証明で平行移動の式を使うのは、$x$ と $x+D^{\mathsf T}s$ がともに $\log U$ にある場合だけである。$x\in\log U$ なら $x-Px\in W$ から $Px\in\log U$ なので、$h(x)=h(Px)$ は $\log U$ の中で成り立ち、$H$ を集合 $\{(b_i\cdot x)_i:x\in\log U\}$ の上で同じ式で定めればよい(その集合の $c$ について $\sum_i(G^{-1}c)_ib_i=Px\in\log U$ である)。
(b) $d_0=0$ なので $a=0$ ととれる。$\tilde h(x)=f(e^{x_1},\dots,e^{x_n})$ とおくと、仮定の式は対数をとらずに $\tilde h(x+D^{\mathsf T}s)=\tilde h(x)$ と書ける。定理の証明の (ii) で $h$ の代わりに $\tilde h$ を使うと、そこから先は値が正であることを使っていないので、$\tilde h(x)=H(c)$ となる実数値の関数 $H$ が得られる。$F(\pi)=H(\log\pi_1,\dots,\log\pi_{n-r})$ とおけば $q_0=F(\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r})$ である。(a) と同時に起きる場合も、(a) の議論をそのまま $\tilde h$ に当てればよい。$\square$
定理の (ii) は、$n$ 個の量の関係が、$n-r$ 個の無次元量の関係に縮むことを述べている。例えば $n=4$、$r=3$ なら、4 変数の関数を調べる代わりに 1 変数の関数 $F$ を調べればよい。実験で $F$ を決めるときの手間は、変数 1 つにつき測定点が 10 個要るとすれば、$10^4$ 回から $10$ 回に減る。
一方で、定理は $F$ がどんな関数かについては何も言わない。$F$ を決めるのは、運動方程式を解くか、実験で測るかである。次元解析が教えるのは関係の「形」であって、数値の係数ではない。また、無次元量の組 $\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r}$ の選び方は一つではない。$\ker D$ の基底を取り替えれば別の組になるが、prop-da-kernel によりどの組も互いの積と冪で書けるので、同じ情報をもつ。実際には、物理的な意味のある組(Reynolds 数など)を選ぶ。
$\Pi$ 定理の (ii) から、ただちに次のことが分かる。二つの状況で量の値が違っていても、無次元量 $\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r}$ の値がすべて等しければ、$\Pi_0$ の値も等しい。このとき二つの状況は相似であるという。これが模型実験の原理である。実物の船の抵抗を知りたいとき、小さな模型で $\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r}$ を実物と同じ値にそろえて $\Pi_0$ を測れば、実物の $\Pi_0$ が分かり、そこから実物の抵抗が求まる。
同じ考え方は、方程式が分かっているときにも使える。方程式の変数を、その問題に固有の尺度で割って無次元にすると、パラメータの数が減る。どの尺度を選ぶかが無次元化の要点で、選び方によって残るパラメータの意味が変わる。
$m,k,c>0$ とし、$x$ を $mx''+cx'+kx=0$ の解とする。$\omega_0=\sqrt{k/m}$、長さの尺度 $\ell>0$ を選び、$\tau=\omega_0t$、$X(\tau)=x(\tau/\omega_0)/\ell$ とおくと、$X$ は
$$
\frac{d^2X}{d\tau^2}+2\zeta\frac{dX}{d\tau}+X=0,\qquad \zeta=\frac{c}{2\sqrt{mk}}
$$
を満たす。逆に、この方程式の解 $X$ から $x(t)=\ell X(\omega_0t)$ とおけば元の方程式の解になる。$\zeta$ は無次元である。
合成関数の微分により $\frac{dX}{d\tau}=\frac1{\ell\omega_0}x'(t)$、$\frac{d^2X}{d\tau^2}=\frac1{\ell\omega_0^2}x''(t)$($t=\tau/\omega_0$)。元の方程式を $m\ell\omega_0^2=k\ell$ で割ると
$$
\frac{x''}{\ell\omega_0^2}+\frac c{m\omega_0}\cdot\frac{x'}{\ell\omega_0}+\frac x\ell=0
$$
となり、$\frac c{m\omega_0}=\frac c{\sqrt{mk}}=2\zeta$ だから主張の式を得る。各段は可逆な変形なので逆も成り立つ。$c$ の次元は $\mathsf{MT}^{-1}$、$\sqrt{mk}$ の次元は $\sqrt{\mathsf M\cdot\mathsf{MT}^{-2}}=\mathsf{MT}^{-1}$ なので、$\zeta$ は無次元である。$\square$
元の方程式には 3 つのパラメータ $m,c,k$ があったが、無次元化した方程式のパラメータは $\zeta$ だけである。振る舞いの型は $\zeta$ だけで決まり、$\zeta<1$ なら振動しながら減衰し、$\zeta\ge1$ なら振動しない。$m,c,k$ の値は、時間の尺度 $1/\omega_0$ と、振る舞いの型 $\zeta$ を通してしか解に効かない。これは $\Pi$ 定理と同じ結論を、方程式から具体的に得たものである。実際、初速が $0$ の解について、ある時刻での変位の比 $x(t)/x(0)$ は無次元で、関係する量 $t,m,c,k$ の次元の行列の階数は $2$ である。この比は $\zeta<1$ では負や $0$ にもなるが、無次元の量なので prop-da-pi-ext の (b) により実数値の関係にも $\Pi$ 定理の (ii) が使え、$x(t)/x(0)$ は 2 つの無次元量 $\omega_0t$ と $\zeta$ の関数になる。
次元解析で関係の形を求める手順を、番号付きで述べる。
| 場合 | 結果 | 意味 |
|---|---|---|
| $n=r$ | $\Pi_0$ は定数 | 関係は定数倍を除いて決まる |
| $n-r=1$ | $\Pi_0=F(\Pi_1)$ | 1 変数の関数を実験で決める |
| $n-r\ge2$ | $\Pi_0=F(\Pi_1,\dots,\Pi_{n-r})$ | 相似にするには複数の無次元量をそろえる |
| $Da=d_0$ に解がない | 関係は同次でない | 関係する量が足りない |
周期 $t_p$ が、長さ $l$、重力加速度 $g$、質量 $m$、振れ始めの角度 $\theta_0$ で決まるとする。関係の形を求め、$l=1$ m、$g=9.80665$ m/s² で小さな振れの周期を計算する。
使う公式:thm-da-pi。$n=4$、$r=3$。
答え:$t_p=\sqrt{l/g}\,\Phi(\theta_0)$($0<\theta_0<\pi$)。小さな振れの極限 $\theta_0\to0$ では $\Phi(\theta_0)\to2\pi$ で、$t_p\approx2.006409$ 秒。$\Phi$ は $\theta_0$ とともに増え、$\Phi(\pi/6)\approx6.392568$、$\Phi(\pi/3)\approx6.743001$、$\Phi(\pi/2)\approx7.416299$。
手順 2:基本次元 $(\mathsf M,\mathsf L,\mathsf T)$ で、$l$ は $(0,1,0)$、$g$ は $(0,1,-2)$、$m$ は $(1,0,0)$、$\theta_0$ は $(0,0,0)$、$t_p$ は $(0,0,1)$。手順 3:$D$ の階数は $3$。手順 4:$Da=(0,0,1)$ から $a=(1/2,-1/2,0,a_4)$、$a_4=0$ をとる。手順 5:$\ker D$ は $(0,0,0,1)$ で張られ、$\Pi_1=\theta_0$。定義域 $\theta_0\in(0,\pi)$ は単位の取り替えで閉じているので、prop-da-pi-ext の (a) により定理が使える。$\Phi$ そのものは次元解析では決まらない。エネルギー保存から得られる周期の積分 $t_p=4\sqrt{l/(2g)}\int_0^{\theta_0}(\cos\theta-\cos\theta_0)^{-1/2}\,d\theta$(この記事では証明しない。LebDQ26 §8.3、pp. 366–367)を数値積分した値を上に記した。この積分は、$k=\sin(\theta_0/2)$ とおき $\sin(\theta/2)=k\sin\varphi$($\varphi\in[0,\pi/2)$ と $\theta\in[0,\theta_0)$ が単調に対応する)と置換すると、$\cos\theta-\cos\theta_0=2\bigl(k^2-\sin^2(\theta/2)\bigr)=2k^2\cos^2\varphi$、$d\theta=\dfrac{2k\cos\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}\,d\varphi$ から $\int_0^{\theta_0}(\cos\theta-\cos\theta_0)^{-1/2}\,d\theta=\sqrt2\int_0^{\pi/2}\dfrac{d\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}=\sqrt2\,K(k)$ となる($K(k)$ は第 1 種完全楕円積分)。よって $\Phi(\theta_0)=4K(\sin(\theta_0/2))$ で、この式で計算しても上の値と一致する。$K$ は $k$ について連続で $K(0)=\pi/2$ なので、$\theta_0\to0$ で $\Phi(\theta_0)\to2\pi$ である。
図: 振り子の周期の無次元の関数
図は、無次元の周期 $\Phi(\theta_0)=t_p/\sqrt{l/g}$ を振れ角の関数として描いたものである。振れ角が小さい範囲では $2\pi$ にほぼ等しく、$90^\circ$ では約 $18\%$ 長い。次元解析は $\Phi$ が $\theta_0$ だけの関数であることを教え、その形は運動方程式が教える。
流体中を速さ $v$ で動く直径 $d$ の球が受ける抗力 $F$ が、流体の密度 $\rho$ と粘性係数 $\mu$、$v$、$d$ で決まるとする。
使う公式:thm-da-pi。$n=4$、$r=3$。
答え:$F=\rho v^2d^2\,C(\mathrm{Re})$、$\mathrm{Re}=\rho vd/\mu$。水中($\rho=10^3$ kg/m³、$\mu=10^{-3}$ Pa·s)を $v=1$ m/s で動く $d=1$ cm の球では $\mathrm{Re}=10^4$。
手順 2:$\rho$ は $(1,-3,0)$、$v$ は $(0,1,-1)$、$d$ は $(0,1,0)$、$\mu$ は $(1,-1,-1)$、$F$ は $(1,1,-2)$。手順 3:階数 $3$。手順 4:$Da=(1,1,-2)$ の解の一つは $a=(1,2,2,0)$。手順 5:$\ker D$ は $(-1,-1,-1,1)$ で張られ、$\mu/(\rho vd)=\mathrm{Re}^{-1}$。逆数をとって $\mathrm{Re}$ を使う。
関数 $C$ の形は次元解析では決まらない。例えば抗力が粘性係数に比例する $F=\kappa\mu dv$($\kappa$ は無次元の定数)という形の関係を考えると、両辺の次元はともに $\mathsf{MLT}^{-2}$ で、次元的に同次である。これを上の形に直すと $C(\mathrm{Re})=\kappa/\mathrm{Re}$ であり、次元解析の結論と矛盾しない。例えば $\kappa=3\pi$ なら、$\mathrm{Re}=1$ では $C\approx9.42478$、$\mathrm{Re}=0.1$ では $C\approx94.2478$ で、$C$ は $\mathrm{Re}$ とともに大きく変わる。
長さ $100$ m の船が速さ $10$ m/s で進むときの造波抵抗を、$1/25$ の模型で調べる。重力による波が主な場合、Froude 数 $v/\sqrt{gL}$ をそろえる。模型の速さを求め、Reynolds 数がそろうかを調べる(水の動粘性係数 $\nu=10^{-6}$ m²/s)。
使う公式:thm-da-pi の相似、$\mathrm{Fr}=v/\sqrt{gL}$、$\mathrm{Re}=vL/\nu$。
答え:模型の速さは $10\sqrt{1/25}=2$ m/s。このとき実物の $\mathrm{Re}=10^9$、模型の $\mathrm{Re}=8\times10^6$ で、比は $(1/25)^{3/2}=0.008$。同じ水を使う限り二つの無次元数は同時にはそろわない。
Froude 数を等しくすると $v_m/\sqrt{L_m}=v/\sqrt L$ なので $v_m=v\sqrt{L_m/L}$。Reynolds 数は $vL$ に比例するので、比は $\sqrt{L_m/L}\cdot(L_m/L)=(L_m/L)^{3/2}$。
瞬間に放出されたエネルギー $E$ による球状の衝撃波の半径 $R$ が、$E$、経過時間 $t$、周りの空気の密度 $\rho$ だけで決まるとする。
使う公式:thm-da-pi。$n=3$、$r=3$ なので $F$ は定数。
答え:$R=C\left(\dfrac{Et^2}\rho\right)^{1/5}$($C$ は無次元の定数)。$E$ を $32$ 倍にすると同じ時刻の $R$ は $2$ 倍、$t$ を $2$ 倍にすると $R$ は $2^{2/5}\approx1.31951$ 倍。
$E$ は $(1,2,-2)$、$t$ は $(0,0,1)$、$\rho$ は $(1,-3,0)$。$D$ は正則で、$Da=(0,1,0)$ の解は $a=(1/5,2/5,-1/5)$。
この例では、測定した $R$ と $t$ の組から、$C$ を 1 程度と見積もれば $E$ の大きさの目安が得られる。逆に言えば、$E$ を知るには、$C$ の値を別の方法で決める必要がある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 関係が単位によらない | 落下距離 $s=4.9t^2$($s$ はメートル、$t$ は秒) | 単位を替えると同じ式が誤った値を出し、$\Pi$ 定理の形に書けない |
| 関係する量をすべて含める | 球の抗力から粘性係数 $\mu$ を除く | $F/(\rho v^2d^2)$ が定数という結論になり、$\mu$ に比例する抗力の関係を表せない |
| 量が比の尺度である | 摂氏温度の比 | 単位の取り替えが掛け算でなく、比が単位によって変わる |
| 無次元量の関数 $F$ を調べる | 振り子で $\theta_0$ の影響を無視する | 周期が $\sqrt{l/g}$ の定数倍という結論は大きな振れで誤る |
| 無次元量をすべてそろえる | 船の模型で Froude 数だけをそろえる | Reynolds 数が $0.008$ 倍になり、完全な相似にならない |
1 行目の反例を確かめる。$s=4.9t^2$ は、メートルと秒を使うときだけ正しい。時間は秒のまま長さをセンチメートルにすると、$t=2$ 秒の落下距離は本当は $1960$ cm だが、同じ式は $19.6$ を返す。関係する量を $s$ と $t$ だけとすると、$t$ の次元 $(0,0,1)$ の 1 次結合で $s$ の次元 $(0,1,0)$ を作れないので、thm-da-pi の (i) により、$s$ と $t$ の間の次元的に同次な関係は存在しない。係数 $4.9$ に重力加速度 $g$ の次元が隠れている。$g$ を加えれば $s=\frac12gt^2$ という同次な関係になる。
2 行目では、量を $\rho,v,d$ の 3 つにすると次元の行列は正則で、$n=r=3$ となり、$F=C\rho v^2d^2$($C$ は定数)が結論になる。しかし ex-da-drag の後で見た $F=\kappa\mu dv$ の形の関係では $F/(\rho v^2d^2)=\kappa/\mathrm{Re}$ は定数でなく、この関係は $\rho,v,d$ だけの関数としては書けない。抗力が実際に粘性に依存する状況で関係する量を除くと、定理は形式的には正しい手順で誤った結論を出す。定理の仮定「$q_0=f(q_1,\dots,q_n)$」が、除いた後の量については成り立っていないからである。
3 行目では、摂氏 $20$ 度と $10$ 度の比は $2$ だが、華氏で表すと $68$ 度と $50$ 度で比は $1.36$ になる。華氏への換算は $x\mapsto1.8x+32$ で、原点がずれているからである。def-da-dimension の単位の取り替えは数値に正の定数を掛ける操作なので、摂氏の値はこの意味の次元をもたない。温度を次元解析で扱うときは、絶対温度か温度の差を使う。
4 行目は ex-da-pendulum で見た。$\Phi(\pi/2)\approx7.4163$ は $2\pi\approx6.2832$ より約 $18\%$ 大きい。「周期は $\sqrt{l/g}$ に比例する」は、$\theta_0$ を固定した比較でだけ正しい。無次元量が残る限り、次元解析の結論には未知の関数が残る。
5 行目は ex-da-ship で見た。$n-r\ge2$ のとき、模型で相似を実現するには複数の無次元量を同時にそろえる必要があるが、同じ流体と同じ重力のもとでは一般に不可能である。実際の模型実験では、主な効果の無次元数をそろえ、残りの効果は別の推定で補正する。これを部分相似という。
| 誤り | 正しくは | なぜ |
|---|---|---|
| 次元解析で係数まで決まる | 無次元の関数 $F$ や定数は決まらない | thm-da-pi の (ii) |
| 次元の合う式は正しい式 | 次元が合うことは必要条件にすぎない | 係数と $F$ は別に決める |
| 角度は次元をもつ | 弧の長さ ÷ 半径で無次元 | $\theta_0$ は $\Pi_1$ に入る |
| 量は多く含めると誤る | 含め忘れが誤りの原因 | 2 行目の反例 |
| 無次元量の組は一つに決まる | 基底の取り替えで別の組になる | prop-da-kernel |
次元の行列の成分は、ふつうは整数である。このとき prop-da-kernel により、無次元量の指数は有理数にとれ、さらに分母を払えば整数にとれる。基本次元の選び方を変えても、量の間の関係は変わらない。基本次元を増やすと次元の行列の行が増え、階数が上がることがあるので、無次元量の数 $n-r$ は基本次元の選び方に依存しうる。例えば熱の量を力学的なエネルギーとは別の基本次元で測るかどうかで、熱の問題の無次元量の数は変わる。
方程式が分かっているときの無次元化(prop-da-spring)は、摂動法の出発点でもある。無次元化した方程式の中で小さなパラメータを見つければ、そのパラメータについての展開で近似解を作れる。どの尺度で無次元化するかによって、どの項が小さく見えるかが変わるので、尺度の選び方には現象についての判断が入る。制御工学の教科書でも、無次元の変数を導入してパラメータの数を減らす手続きが扱われている(AMF20 §3.3「Normalization and Scaling」、Example 3.9、pp. 3-28–3-29)。
この記事の $\Pi$ 定理の証明は、単位の取り替えを対数で平行移動に直し、平行移動で変わらない関数が直交補空間の座標だけで決まることを使うもので、線形代数の言葉で完結している。
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