一般線形群

同義語:一般線型群general linear group

概要

一般線形群(general linear group)とは、環 $R$ 上の可逆な $n$ 次正方行列全体が行列の積についてなす群 $\mathrm{GL}_n(R)=M_n(R)^\times$ のことである。体 $k$ 上では行列式が $0$ でない行列の全体であり、$n$ 次元ベクトル空間の線形自己同型の群と同型になる。可換環 $R$ 上では、行列が可逆であることは行列式が $R$ の単元であることと同値で、行列式は全射準同型 $\mathrm{GL}_n(R)\to R^\times$ を与え、その核が特殊線形群 $\mathrm{SL}_n(R)$ である。中心はスカラー行列 $aI$($a\in R^\times$)からなり、$n\geq2$ では可換でない。$q$ 元の有限体上では位数が $(q^n-1)(q^n-q)\cdots(q^n-q^{n-1})$ となる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群, 行列, 行列式, 可換環
一般線形群は、可逆な $n$ 次正方行列全体が行列の積についてなす群である。体 $k$ 上では、行列式が $0$ でない行列の全体であり、$n$ 次元のベクトル空間の線形写像のうち逆写像をもつもの(線形自己同型)の全体と、基底を選ぶことで同型になる。成分を可換環 $R$ に広げると、可逆であることの判定は「行列式が $R$ の単元であること」に変わる。一般線形群は、行列式を通じて乗法群 $R^\times$ に写り、その核として特殊線形群を含む。$n\geq2$ では可換でない群の最も基本的な例であり、有限体上では位数が明示的に計算できる有限群を与える。

定義

$R$ を環、$n\geq1$ とする。$R$ の元を成分とする $n$ 次正方行列全体 $M_n(R)$ は、行列の和と積について単位行列 $I$ を単位元とする環になる(行列環)。

一般線形群

環 $R$ と $n\geq1$ に対し、行列環 $M_n(R)$ の単元全体
$$ \mathrm{GL}_n(R):=M_n(R)^\times=\{A\in M_n(R)\mid AB=BA=I\text{ となる }B\in M_n(R)\text{ が存在する}\} $$
を行列の積により群とみなしたものを、$R$ 上の $n$ 次 一般線形群(general linear group)という。$\mathrm{GL}_n(R)$ の元を $R$ 上の 可逆行列(正則行列)という。$\mathrm{GL}(n,R)$ とも書く。
体 $k$ 上の有限次元ベクトル空間 $V$ に対しては、$k$ 線形な全単射 $V\to V$ の全体が写像の合成について群をなす。これを $\mathrm{GL}(V)$ と書き、$V$ の一般線形群という。

$\mathrm{GL}_n(R)$ が群であることは、環の単元全体が乗法について群をなすこと(単元の記事、および環の記事の命題「単元群」)の特別な場合である。単位元は単位行列 $I$、$A$ の逆元は逆行列 $A^{-1}$ であり、$(AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}$ が成り立つ。体上の一般線形群を行列の群の最初の例として導入する教科書として DF04 §1.4 がある。
以下、とくに断らない限り $R$ は可換環とする。可換環上では行列式 $\det\colon M_n(R)\to R$ が定義され、Leibniz の公式による定義、積の公式 $\det(AB)=\det A\det B$、余因子行列による公式 $A\,\operatorname{adj}A=\operatorname{adj}A\,A=(\det A)I$ が、体上と同じ証明で成り立つ(行列式の記事の注意「可換環上の行列式」、Lan02 Chapter XIII)。ここで $\operatorname{adj}A$ は $A$ の余因子行列($(i,j)$ 成分が $(j,i)$ 余因子である行列)である。

特殊線形群

可換環 $R$ と $n\geq1$ に対し、行列式が $1$ の $n$ 次正方行列の全体
$$ \mathrm{SL}_n(R):=\{A\in M_n(R)\mid \det A=1\} $$
を $R$ 上の $n$ 次 特殊線形群(special linear group)という。

$\mathrm{SL}_n(R)$ が $\mathrm{GL}_n(R)$ の正規部分群であることは、下の prop-general-linear-group-det と cor-general-linear-group-det-hom で確かめる。

直感

体 $k$ 上で、行列 $A\in M_n(k)$ は列ベクトルに掛ける写像 $x\mapsto Ax$ として $k^n$ の線形変換を表す。$A$ が可逆であることは、この変換が情報を失わず、逆向きの変換で元に戻せることを意味する。したがって $\mathrm{GL}_n(k)$ は「$k^n$ の線形な対称性の全体」であり、座標の取り替え(基底の変換)はすべてこの群の元で表される。行列式は変換による「体積の倍率」を表し、倍率が $0$ でなければ潰れていないので戻せる。
成分が整数のような可換環になると事情が変わる。$\begin{pmatrix}2&0\\0&1\end{pmatrix}$ は行列式が $2\neq0$ で有理数の範囲では逆行列をもつが、逆行列の成分 $\tfrac12$ は整数でない。成分を $R$ に制限したまま逆行列が存在するためには、行列式で割ることが $R$ の中でできる、すなわち行列式が $R$ の単元である必要がある。これが prop-general-linear-group-det の内容である。

例と反例

1次の場合と整数行列

$n=1$ のとき $M_1(R)=R$ であり、$\mathrm{GL}_1(R)=R^\times$ は $R$ の単元群そのものである。たとえば $\mathrm{GL}_1(\mathbb{R})=\mathbb{R}\setminus\{0\}$、$\mathrm{GL}_1(\mathbb{Z})=\{\pm1\}$ である。
整数環 $\mathbb{Z}$ の単元は $\pm1$ だけなので、prop-general-linear-group-det により
$$ \mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})=\{A\in M_n(\mathbb{Z})\mid \det A=\pm1\} $$
である。たとえば $A=\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}$ は $\det A=1$ なので $\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$ に属し、実際 $A^{-1}=\begin{pmatrix}1&-1\\-1&2\end{pmatrix}$ は整数行列である(積を計算すると $I$ になる)。

反例:行列式が0でない整数行列

$D=\begin{pmatrix}2&0\\0&1\end{pmatrix}\in M_2(\mathbb{Z})$ を考える。$\det D=2\neq0$ であり、有理数体 $\mathbb{Q}$ 上では $D^{-1}=\begin{pmatrix}1/2&0\\0&1\end{pmatrix}$ だから $D\in\mathrm{GL}_2(\mathbb{Q})$ である。しかし $2$ は $\mathbb{Z}$ の単元でないので、prop-general-linear-group-det により $D\notin\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})$ である(直接にも、逆行列は $\mathbb{Q}$ の中で一意なので、整数行列の逆行列は存在しない)。
この例は、体上の判定「$\det A\neq0$ ならば $A$ は可逆」が可換環上では破れることを示す。満たす性質は「行列式が $0$ でない」、満たさない性質は「行列式が係数環の単元である」である。また、$\mathbb{Z}$ が $\mathbb{Q}$ の部分環であっても $\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})\neq\mathrm{GL}_2(\mathbb{Q})\cap M_2(\mathbb{Z})$ である。

最小の非可換な例

2 元体 $\mathbb{F}_2=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 上の $\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)$ を考える。$\mathbb{F}_2^\times=\{1\}$ なので、$\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)=\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_2)$ は行列式が $1$ の行列全体であり、
$$ \begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix},\ \begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix},\ \begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix},\ \begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix},\ \begin{pmatrix}0&1\\1&1\end{pmatrix},\ \begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix} $$
の 6 個である(成分の選び方 $2^4=16$ 通りのうち、$ad-bc=1$ となるものを数える。prop-general-linear-group-order の $(2^2-1)(2^2-2)=6$ と一致する)。
この群は 3 次対称群 $S_3$ と同型である。実際、$\mathbb{F}_2^2$ の $0$ でないベクトルは $e_1=(1,0)^\top$、$e_2=(0,1)^\top$、$e_1+e_2$ の 3 個であり、可逆行列 $A$ は $0$ でないベクトルを $0$ でないベクトルに写すので、この 3 元集合の置換 $\sigma_A$ を引き起こす。$A\mapsto\sigma_A$ は群準同型であり、$\sigma_A$ が恒等置換なら $Ae_1=e_1$、$Ae_2=e_2$ から $A=I$ なので単射である。両辺の位数はともに $6$ なので、これは同型である。とくに $\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)$ は可換でない(cor-general-linear-group-noncommutative)。

ベクトル空間の自己同型群

$V$ を体 $k$ 上の $n$ 次元ベクトル空間とし、基底と次元の意味での基底 $v_1,\dots,v_n$ を 1 つ固定する。線形写像 $T\colon V\to V$ に、$Tv_j=\sum_ia_{ij}v_i$ で定まる行列 $(a_{ij})$ を対応させると、合成は行列の積に、恒等写像は $I$ に対応する(行列の記事の定理「行列と線形写像の対応」)。したがってこの対応は群の同型 $\mathrm{GL}(V)\cong\mathrm{GL}_n(k)$ を与える。別の基底を選ぶと、同型は基底の変換行列 $P\in\mathrm{GL}_n(k)$ による共役 $A\mapsto P^{-1}AP$ だけずれる。

反例:和について閉じない

$I$ と $-I$ はともに $\mathrm{GL}_n(R)$ の元だが、和 $I+(-I)$ は零行列で可逆でない($R$ が零環でないとき)。したがって $\mathrm{GL}_n(R)$ は $M_n(R)$ の加法について閉じておらず、$M_n(R)$ の部分環でもなく、$R=k$ が体のときの $M_n(k)$ の部分空間でもない。この例は「可逆な行列の和は可逆である」という含意を破る。$\mathrm{GL}_n(R)$ はあくまで乗法だけについての群である。

反例:全射な環準同型が一般線形群の全射を引き起こさない例

環準同型 $f\colon R\to S$ は、成分ごとに $f$ を施すことで群準同型 $\mathrm{GL}_n(R)\to\mathrm{GL}_n(S)$ を引き起こす($f$ は行列の積と単位行列を保つので、$AB=BA=I$ は $f(A)f(B)=f(B)f(A)=I$ に写る)。行列式は多項式で書けるので $\det f(A)=f(\det A)$ である。
$f\colon\mathbb{Z}\to\mathbb{F}_5$ を 5 で割った余りをとる全射とする。$\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})$ の元の行列式は $\pm1$ なので、その像の行列式は $\pm1\in\mathbb{F}_5$ である。一方 $\begin{pmatrix}2&0\\0&1\end{pmatrix}\in\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_5)$ の行列式は $2\neq\pm1$ である。よって $\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})\to\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_5)$ は全射でない。この例は「$f$ が全射なら $\mathrm{GL}_n(f)$ も全射」という含意を破る。

性質

行列式による特徴づけ

行列式による可逆性の判定

$R$ を可換環、$A\in M_n(R)$ とする。次は同値である。

  1. $A\in\mathrm{GL}_n(R)$。
  2. $AB=I$ となる $B\in M_n(R)$ が存在する。
  3. $BA=I$ となる $B\in M_n(R)$ が存在する。
  4. $\det A$ は $R$ の単元である。
    このとき $A^{-1}=(\det A)^{-1}\operatorname{adj}A$ である。とくに体 $k$ 上では $\mathrm{GL}_n(k)=\{A\in M_n(k)\mid\det A\neq0\}$ である。
積の公式と余因子行列

1 ならば 2 と 3 は定義から明らかである。
2 ならば 4。$AB=I$ の両辺の行列式をとると、積の公式により $\det A\cdot\det B=\det I=1$ である。$R$ は可換なので、これは $\det A$ が単元で $(\det A)^{-1}=\det B$ であることを意味する。3 ならば 4 も $\det B\cdot\det A=1$ から同様である。
4 ならば 1。$u:=\det A\in R^\times$ とし、$B:=u^{-1}\operatorname{adj}A$ とおく。$R$ が可換なので、スカラー $u^{-1}$ は行列の積と交換できる。余因子行列の公式 $A\,\operatorname{adj}A=\operatorname{adj}A\,A=uI$ から
$$ AB=u^{-1}(A\,\operatorname{adj}A)=u^{-1}uI=I,\qquad BA=u^{-1}(\operatorname{adj}A\,A)=I $$
であり、$A\in\mathrm{GL}_n(R)$、$A^{-1}=B$ である($n=1$ のときは $\operatorname{adj}A=(1)$ と約束する。$A=(a)$ なら $B=(a^{-1})$ である)。
体 $k$ では $k^\times=k\setminus\{0\}$ なので、最後の主張は 1 と 4 の同値の言い換えである。

2 と 3 は、可換環上の正方行列では片側の逆行列があれば両側の逆行列になることを述べている。係数環が可換でなければこれは成り立たない。たとえば $n=1$ で、係数環を $k[t]$ の線形変換全体の環 $\operatorname{End}_k(k[t])$ にとると、左逆元だけをもつ元がある(単元の記事の例「反例:片側だけの逆元」)。

行列式と特殊線形群

$R$ を可換環とする。行列式は全射な群準同型
$$ \det\colon\mathrm{GL}_n(R)\to R^\times $$
を与え、その核は $\mathrm{SL}_n(R)$ である。したがって $\mathrm{SL}_n(R)$ は $\mathrm{GL}_n(R)$ の正規部分群であり、$\mathrm{GL}_n(R)/\mathrm{SL}_n(R)\cong R^\times$ である。

対角行列による全射性

prop-general-linear-group-det により $A\in\mathrm{GL}_n(R)$ なら $\det A\in R^\times$ であり、積の公式 $\det(AB)=\det A\det B$ により $\det$ は群準同型である。$u\in R^\times$ に対し、対角行列 $\operatorname{diag}(u,1,\dots,1)$ の行列式は対角成分の積 $u$ であり(行列式の記事の命題「三角行列と区分三角行列の行列式」)、prop-general-linear-group-det によりこの行列は $\mathrm{GL}_n(R)$ に属する。よって $\det$ は全射である。
核は $\det A=1$ となる $A\in\mathrm{GL}_n(R)$ の全体である。$\det A=1$ を満たす $A\in M_n(R)$ は prop-general-linear-group-det により自動的に $\mathrm{GL}_n(R)$ に属するので、核は $\mathrm{SL}_n(R)$ に等しい。準同型の核は正規部分群であり(群準同型の記事の命題「核は正規部分群で像は部分群」)、最後の同型は群の第1同型定理(同じ記事の定理「群の第1同型定理」)による。

体 $k$ については $\mathrm{GL}_n(k)/\mathrm{SL}_n(k)\cong k^\times$ であり、$\mathbb{Z}$ については $\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})/\mathrm{SL}_n(\mathbb{Z})\cong\{\pm1\}$ である。

有限体上の位数

$q$ 個の元からなる有限体を $\mathbb{F}_q$ と書く。

有限体上の一般線形群の位数

$n\geq1$ とする。
$$ |\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)|=\prod_{i=0}^{n-1}(q^n-q^i)=(q^n-1)(q^n-q)\cdots(q^n-q^{n-1}),\qquad |\mathrm{SL}_n(\mathbb{F}_q)|=\frac{|\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)|}{q-1} $$
である。

列ベクトルを順に選ぶ

体上の正方行列が可逆であることは、その列ベクトルが線形独立であることと同値である(行列式の記事の定理「正則性の判定」の 1 と 3)。したがって、$\mathbb{F}_q^n$ のベクトルの列 $(a_1,\dots,a_n)$ で線形独立なものの個数を数えればよい。
$0\leq j\leq n-1$ とし、線形独立な $a_1,\dots,a_j$ が選ばれているとする($j=0$ なら何も選ばれていない)。$W_j$ をそれらが張る部分空間とする($W_0=\{0\}$)。$a_1,\dots,a_j,a_{j+1}$ が線形独立であることは $a_{j+1}\notin W_j$ と同値である。実際、$a_{j+1}\in W_j$ なら $a_{j+1}=\sum_{i\leq j}c_ia_i$ は自明でない線形関係を与える。逆に $\sum_{i\leq j+1}c_ia_i=0$ が自明でない関係なら、$c_{j+1}=0$ とすると $a_1,\dots,a_j$ の線形独立性からすべての $c_i$ が $0$ となって矛盾するので $c_{j+1}\neq0$ であり、$a_{j+1}=-c_{j+1}^{-1}\sum_{i\leq j}c_ia_i\in W_j$ である。
$W_j$ はちょうど $q^j$ 個の元をもつ。写像 $\mathbb{F}_q^j\to W_j$、$(c_1,\dots,c_j)\mapsto\sum_ic_ia_i$ は $W_j$ の定義から全射であり、線形独立性から単射だからである。よって $a_{j+1}$ の選び方は $q^n-q^j$ 通りであり、これを $j=0,1,\dots,n-1$ について掛け合わせたものが $|\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)|$ である。
$\mathrm{SL}_n$ について。cor-general-linear-group-det-hom により $\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)/\mathrm{SL}_n(\mathbb{F}_q)\cong\mathbb{F}_q^\times$ であり、$|\mathbb{F}_q^\times|=q-1$ である。Lagrangeの定理により $|\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)|=|\mathrm{SL}_n(\mathbb{F}_q)|\cdot(q-1)$ である。

たとえば $|\mathrm{GL}_1(\mathbb{F}_q)|=q-1$、$|\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)|=3\cdot2=6$、$|\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_3)|=8\cdot6=48$、$|\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)|=24$、$|\mathrm{GL}_3(\mathbb{F}_2)|=7\cdot6\cdot4=168$ である。

上三角な単位三角行列とSylow部分群

$q=p^r$($p$ は素数)とする。$q^n-q^i=q^i(q^{n-i}-1)$ と書き直すと
$$ |\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)|=q^{n(n-1)/2}\prod_{m=1}^{n}(q^m-1) $$
であり、各 $q^m-1$ は $p$ で割り切れないので、位数の $p$ 部分は $q^{n(n-1)/2}$ である。一方、対角成分がすべて $1$ で対角より下が $0$ の行列(上三角な単位三角行列)の全体 $U_n$ は、$I$ を含み積について閉じた有限部分集合なので部分群であり、対角より上の $n(n-1)/2$ 個の成分を自由に選べるから $|U_n|=q^{n(n-1)/2}$ である。したがって $U_n$ は $\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)$ の Sylow $p$ 部分群である(Sylowの定理)。$n=2$、$q=2$ では $U_2=\left\{I,\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}\right\}$ であり、位数 $6$ の $2$ 部分 $2$ と一致する。

中心と非可換性

ここでは $\mathrm{GL}_n(R)$ の群の中心(すべての元と交換する元の全体)を求める。以下、$(i,j)$ 成分だけが $1$ で他の成分が $0$ の行列を $E_{ij}$ と書く。行列の積の定義から $E_{ij}E_{kl}=\delta_{jk}E_{il}$($\delta$ は Kroneckerのデルタ)である。$i\neq j$ なら $I+E_{ij}$ は対角成分がすべて $1$ の三角行列なので行列式が $1$ であり、$\mathrm{SL}_n(R)$ に属する。

スカラー行列からなる中心

$R$ を可換環、$n\geq1$ とする。

  1. $\mathrm{GL}_n(R)$ の中心は $\{aI\mid a\in R^\times\}$ である。
  2. $\mathrm{SL}_n(R)$ の中心は $\{aI\mid a\in R,\ a^n=1\}$ である。
    とくに体 $k$ について、$\mathrm{GL}_n(k)$ の中心は $k^\times$ と同型である。
行列単位との交換

$a\in R^\times$ なら $aI$ は逆元 $a^{-1}I$ をもち、$R$ が可換なので任意の $B\in M_n(R)$ について $(aI)B=aB=B(aI)$ である。よって $aI$ は $\mathrm{GL}_n(R)$ の中心に属する。$\det(aI)=a^n$ なので、$aI\in\mathrm{SL}_n(R)$ であることは $a^n=1$ と同値であり(このとき $a\cdot a^{n-1}=1$ から $a$ は単元)、そのような $aI$ は $\mathrm{SL}_n(R)$ の中心に属する。
逆を示す。$n=1$ なら $M_1(R)=R$ のすべての元がスカラーなので示すことはない。$n\geq2$ とし、$A=(a_{kl})$ が $\mathrm{SL}_n(R)$ のすべての元と交換するとする($\mathrm{GL}_n(R)$ の中心の元は、とくに $\mathrm{SL}_n(R)$ の元と交換する)。$i\neq j$ について $A(I+E_{ij})=(I+E_{ij})A$ から $AE_{ij}=E_{ij}A$ である。両辺の $(k,l)$ 成分は
$$ (AE_{ij})_{kl}=a_{ki}\,\delta_{jl},\qquad (E_{ij}A)_{kl}=\delta_{ik}\,a_{jl} $$
である。$l=j$、$k\neq i$ とおくと $a_{ki}=0$ を得る。$k=i$、$l=j$ とおくと $a_{ii}=a_{jj}$ を得る。$n\geq2$ なので各 $i$ に対し $j\neq i$ がとれ、$A$ の非対角成分はすべて $0$、対角成分はすべて等しい。よって $A=aI$($a\in R$)である。$A\in\mathrm{GL}_n(R)$ なら $\det A=a^n$ が単元なので $a$ は単元であり、$A\in\mathrm{SL}_n(R)$ なら $a^n=1$ である。以上で 1 と 2 が示された。体 $k$ については $a\mapsto aI$ が $k^\times$ から中心への同型を与える。

非可換性

$R$ を零環でない可換環、$n\geq2$ とする。このとき $\mathrm{GL}_n(R)$ も $\mathrm{SL}_n(R)$ も可換群(アーベル群)でない。

2つの基本行列の交換子

$I+E_{12}$ と $I+E_{21}$ はともに $\mathrm{SL}_n(R)$ に属する。$E_{12}E_{21}=E_{11}$、$E_{21}E_{12}=E_{22}$ だから
$$ (I+E_{12})(I+E_{21})-(I+E_{21})(I+E_{12})=E_{12}E_{21}-E_{21}E_{12}=E_{11}-E_{22} $$
であり、$R$ は零環でないので $1\neq0$、よって $E_{11}-E_{22}\neq0$ である。したがってこの 2 元は交換しない。

prop-general-linear-group-center は、$n\geq2$ で可換性がどれほど失われるかを定量的に示している。中心はスカラー行列だけからなる。たとえば $\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)$ の中心は $\mathbb{F}_2^\times=\{1\}$ に対応して自明であり、これは $S_3$ の中心が自明であること(群の中心の記事の例「$3$ 次対称群の中心は自明」)と整合する。$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)$ の中心は $a^2=1$ となる $a=\pm1$ に対応する $\{\pm I\}$、$\mathrm{SL}_2(\mathbb{R})$ の中心も $\{\pm I\}$、$\mathrm{SL}_3(\mathbb{R})$ の中心は $a^3=1$ となる実数が $1$ だけなので自明である。

交換子群と単純性

$A,B\in\mathrm{GL}_n(R)$ について $\det(ABA^{-1}B^{-1})=\det A\det B(\det A)^{-1}(\det B)^{-1}=1$ だから、$\mathrm{GL}_n(R)$ の交換子群は $\mathrm{SL}_n(R)$ に含まれる。体 $k$ 上では、$\mathrm{SL}_n(k)$ はすべての体 $k$ で $I+aE_{ij}$($i\neq j$、$a\in k$)の形の行列で生成される。また $(n,|k|)\neq(2,2)$ なら交換子群は $\mathrm{SL}_n(k)$ に等しい。さらに中心 $Z(\mathrm{SL}_n(k))$ で割った射影特殊線形群 $\mathrm{PSL}_n(k)=\mathrm{SL}_n(k)/Z(\mathrm{SL}_n(k))$ は、$n\geq2$ かつ $(n,|k|)\neq(2,2),(2,3)$ のとき単純群である。証明は Lan02 Chapter XIII に譲る。$(n,|k|)=(2,2)$ が除外されるのは、$\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)\cong S_3$(ex-general-linear-group-gl2-f2)の交換子群が位数 $3$ の交代群 $A_3$ であって、位数 $6$ の $\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_2)=\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)$ に一致しないからである。

位相群・群スキームとしての一般線形群

$\mathbb{R}$ 上では、行列式 $\det\colon M_n(\mathbb{R})=\mathbb{R}^{n^2}\to\mathbb{R}$ は成分の多項式なので連続であり、$\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})=\det^{-1}(\mathbb{R}\setminus\{0\})$ は $\mathbb{R}^{n^2}$ の開集合である。積は成分の多項式、逆元は prop-general-linear-group-det の公式 $(\det A)^{-1}\operatorname{adj}A$ により成分の有理式で与えられるので、$\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})$ は位相群であり、さらにLie群の基本例になる。$\det$ の値域 $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ が連結でなく、$\det$ が全射なので、$\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})$ は連結空間でない(連結空間の連続像は連結)。
代数幾何学では、可換環 $R$ に $\mathrm{GL}_n(R)$ を対応させる規則を 1 つの対象として扱う。prop-general-linear-group-det により、$A=(a_{ij})\in\mathrm{GL}_n(R)$ を与えることは、環準同型
$$ \mathbb{Z}[x_{ij}\ (1\leq i,j\leq n),\ t]/(t\cdot\det(x_{ij})-1)\longrightarrow R,\qquad x_{ij}\mapsto a_{ij},\quad t\mapsto(\det A)^{-1} $$
を与えることと同じである。この環のアフィンスキームを $\mathrm{GL}_n$ と書き、群スキームとしての一般線形群という。ex-general-linear-group-reduction の群準同型 $\mathrm{GL}_n(R)\to\mathrm{GL}_n(S)$ は、この見方では環準同型 $R\to S$ との合成にあたる。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, Wiley, 2004, §1.4(Matrix Groups:体上の一般線形群の導入)
[2]
Serge Lang, Algebra, Springer, 2002, Chapter XIII(Matrices and Linear Maps:可換環上の行列式、SL_n の生成元と PSL_n の単純性)

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